説明

ポリオール脱水素酵素の製造方法

【課題】熱安定性および保存安定性に優れるPQQ依存性PDHを簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を2価性架橋試薬で架橋反応させる工程(1)と、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で架橋反応を停止して酵素溶液を得る工程(2)と、前記酵素溶液を凍結乾燥して粉末酵素を得る工程(3)と、を含む、ポリオール脱水素酵素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(以下、PQQ依存性PDHとも称する。)の製造方法、該PQQ依存性PDHを含むポリオール測定試薬、および該PQQ依存性PDHを用いたポリオールの定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、グリセロールに関しては、下記式(1)および式(2)で示すような、グリセロールキナーゼ(GK)とグリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)とを用いることによる定量方法が知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
しかしながら、この方法は二種類の酵素を用いるため反応が煩雑であった。さらに、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを用いた場合は溶存酸素の影響を受けるという問題点があり、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNAD+を添加する必要がある。溶存酸素の影響を受けず、一種類の酵素を用いる方法としては、下記式(3)で示すように、NAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼを用いる方法が知られている。
【0005】
【化2】

【0006】
しかしながら、NAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼは、補酵素結合型酵素ではないため、高価なNAD+を添加しなければならない。より安価で簡便なグリセロールの定量法として、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グリセロールデヒドロゲナーゼが知られている。PQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼを用いるグリセロールの定量方法は、下記式(4)の反応によって行われる。
【0007】
【化3】

【0008】
従来から、PQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼとして酢酸菌由来のものが報告されているが(非特許文献1)、該酵素は細胞膜結合型酵素であり、疎水性が高いために水溶媒系では不安定であり、また、熱安定性も低い。特許文献1において、可溶化および安定化に界面活性剤やグリセロールを必要としない、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)TE3493由来のPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼが報告されているが、50℃、10分間の熱処理で残存活性は40%程度であり、熱安定性が十分であるとはいえない。熱安定性が低い酵素を用いた場合、溶液中に含まれる酵素が熱によって容易に失活するため、測定対象物質を正確に定量できなくなる可能性がある。
【0009】
したがって、測定用試薬に使用される酵素は、熱安定性が高いことが求められる。例えば、特許文献2では、グルコノバクター属から得られるPQQ依存性PDHに対して界面活性剤の存在下、2価性架橋試薬で化学修飾することによって、熱安定性に優れるポリオール脱水素酵素が提案されている。
【0010】
また、測定用試薬が粉末状である場合には、凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性が優れていることが求められている。このような改良を目的として、酵素を2価性架橋試薬で化学修飾することにより、凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性を向上させる技術も開発されている(特許文献3)。
【特許文献1】特許第3041840号明細書
【特許文献2】特開2006−271257号公報
【特許文献3】特開平1−309687号公報
【非特許文献1】Ameyama et. al.Agric.Biol.Chem.,49,1001−1010(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
測定用試薬に不安定な酵素を用いると、反応液中および保存中に失活が起こり、結果として測定結果の精度に悪影響を与える。そのため、用いる酵素は特に、熱安定性に優れ、凍結乾燥した場合には、凍結乾燥の工程によっても失活せず、かつ、凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性が優れていることが要求される。
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1記載のグルコノバクター属由来のPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼおよび特許文献1記載のPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼは熱安定性が十分でない。また、該特許文献1記載のPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼは、特定の微生物から得られる酵素であり、入手が困難であるなどの問題がある。また、特許文献3で対象とする酵素は、水溶性の酵素を対象としたものであり、非特許文献1に記載される細胞膜結合型酵素、すなわち疎水性が高い酵素に対する効果は不明である。さらに、特許文献2では、溶液中では比較的安定であるが、凍結乾燥して得られた粉末酵素の場合の保存安定性は不明である。
【0013】
このような状況のもと、本発明は、酵素の熱安定性に優れ、凍結乾燥の工程を経ても酵素が失活せず、凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性に優れる、PQQ依存性PDHの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記問題点に鑑み鋭意研究した結果、酵素を2価性架橋試薬により架橋し、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で反応を停止することにより、酵素の保存安定性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を2価性架橋試薬で架橋反応させる工程(1)と、ストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシンで架橋反応を停止して酵素溶液を得る工程(2)と、前記酵素溶液を凍結乾燥して粉末酵素を得る工程(3)と、を含む、ポリオール脱水素酵素の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、安価かつ簡便にPQQ依存性PDHの保存安定性を向上させることが可能である。また、保存安定性に優れたポリオール測定試薬を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の第一は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を2価性架橋試薬で架橋反応させる工程(1)と、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で架橋反応を停止して酵素溶液を得る工程(2)と、前記酵素溶液を凍結乾燥して粉末酵素を得る工程(3)と、を含む、ポリオール脱水素酵素の製造方法である。
【0018】
従来から、熱安定性を向上させることを目的として、架橋試薬で酵素を架橋させる方法が用いられてきた。該架橋反応を停止させる停止剤として、従来は、グリシン溶液(グリシン−NaOH緩衝液)、トリス溶液(トリス−塩酸緩衝液)または、エタノールアミン溶液のようなアミノ基を有する停止剤が用いられてきた。本発明者らは、架橋反応を停止する停止剤について鋭意研究した結果、従来から一般的に使用されている停止剤よりも、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で架橋反応を停止することにより、凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性が格段に向上することを見出した。また、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で架橋反応を停止しても、反応停止剤としてトリス溶液等を用いた場合と同様、熱安定性が向上することも見出した。
【0019】
工程(1)において、架橋試薬によって架橋される、PQQ依存性PDHは、従来公知の酵素をいずれも好ましく使用することができる。該酵素は、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属、アシネトバクター属など様々な細菌が産生することが知られており、これらPQQ依存性PDH生産菌が産生するいずれのPQQ依存性PDHも好適に使用することができる。さらに、入手の容易さから、グルコノバクター属、特には、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3130、3171、3172、3189、3244、3250、3253、3255、3256、3257、3258、3285、3287、3289、3290、3291、3292、3293、3294、3462、3990、12467、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii) NBRC 3251、3254、3260、3264、3265、3268、3270、3271、3272、3273、3274、3286、16669;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus) NBRC 3262、3263、3266、3267、3269、3275、3276等を使用することができる。また、PQQ依存性PDHを産生することができれば、これらの自然突然変異株または、人為突然変異株を使用してもよい。人為突然変異処理方法は、当業者に周知の方法によって同様にしてあるいは適宜修飾して、あるいはこれらの方法を適宜組み合わせて適用することができる。このような微生物の代表菌株として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291がある。
【0020】
架橋構造を導入するPQQ依存性PDHを調製するには、具体的には、上記PQQ依存性PDH生産菌を栄養培地に培養し、該培養物からPQQ依存性PDHを採取すればよい。PQQ依存性PDH生産菌の培養にあたって使用する培地としては、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地、天然培地いずれも使用できる。炭素源としては、例えばグルコース、グリセロール、ソルビトール等が使用される。窒素源としては、例えばペプトン類、肉エキス、酵母エキス等の窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の無機窒素含有化合物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が使用される。また、PQQ依存性PDHの生産誘導物質として、ポリオールを培地に添加しておくことが望ましい。培地は通常、振とう培養、あるいは通気撹はん培養で行う。培養温度は20〜50℃、好ましくは20〜40℃、培養pHは5〜10の範囲で、好ましくは6〜9に制御するのが良い。これら以外の条件下でも使用する菌株が生育すれば実施できる。培養期間は通常1〜5日が好ましい。なお、これらのPQQ依存性PDHは、上記培養によって得られた酵素でも、PQQ依存性PDH遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であっても良い。
【0021】
次いで、得られたPQQ依存性PDHを抽出する。抽出法は一般に使用される抽出法を用いることができ、例えば、超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法等が例示される。抽出したPQQ依存性PDHの精製法は、硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、さらにはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などにより精製することができる。
【0022】
本発明で使用する2価性架橋試薬は、PQQ依存性PDHに含まれるアミノ基などと反応して架橋構造を導入できるものであれば特に制限はなく、固定化酵素の分野で酵素の架橋試薬として使用できるジアルデヒド化合物、ジカルボン酸化合物、ジイソシアネート系化合物、イミデート化合物などを好適に使用することができる。ジアルデヒド化合物としては、グルタルアルデヒド、スクシンジアルデヒド、アジピンアルデヒド等があり、ジカルボン酸化合物としては、アジピン酸、ジメチルアジピン酸等があり、ジイソシアネート系化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなどがあり、イミデート化合物としては、ジメチルスベルイミデート、ジメチルピメルイミデートなどがある。本発明では、上記2価性架橋試薬の中でも、反応性の点から、ジアルデヒド化合物が好ましく、グルタルアルデヒドがより好ましい。
【0023】
本発明では、2価性架橋試薬による架橋を行うが、得られるPQQ依存性PDHは酵素同士を相互に架橋するものではなく、酵素の立体構造を強固にすることで熱安定性を向上させるものである。したがって、酵素同士の架橋を防止するため、一般には架橋反応溶液中、上記酵素濃度を0.1〜50mg/ml、好ましくは0.1〜30mg/mlとすることが好ましい。なお、架橋反応溶液とは、酵素および2価性架橋試薬を、緩衝液に溶解した溶液を指す。架橋反応溶液のpHは、好ましくは6.0〜10、より好ましくは7.0〜9.5、特に好ましくは7.5〜9.0である。緩衝液としては、上記pH範囲となるような緩衝液を使用すればよく、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、及びMOPS、HEPESのようなGOOD緩衝液を用いることができる。ただし、該緩衝液として、トリス−塩酸緩衝液やグリシン−NaOH緩衝液のようにアミノ基を有する緩衝液は、使用することができない。
【0024】
また、架橋反応溶液に対して、上記2価性架橋試薬を0.05〜0.9g/100mL、好ましくは、0.1〜0.7g/100mL、特に好ましくは0.1〜0.5g/100mL添加して、架橋させることが好ましい。かような濃度で架橋試薬を添加すれば、反応に要する時間が適切で、また架橋後の酵素活性の回収率および熱処理における残存活性の結果の再現性が良好となる。
【0025】
さらに、架橋反応溶液には、界面活性剤が含まれていることが好ましい。界面活性剤が存在することにより、2価性架橋試薬により酵素を凝集させることなく架橋でき、酵素の立体構造が安定に保持され、熱安定性が向上するとともに、2価性架橋試薬が溶媒中に均一に分散するため、酵素活性を低下させることなく架橋することが可能となる。このような界面活性剤としては、一般的に膜タンパク質の可溶化に用いられているものであれば特に限定されず、トライトンX−100、オクチルグルコシド、コール酸ナトリウムなどがある。界面活性剤の濃度は、架橋反応溶液に対して、0.01〜10g/100mLであることが好ましく、より好ましくは0.02〜5g/100mL、特に好ましくは0.05〜2g/100mLである。0.01g/100mL未満では、界面活性剤濃度が薄すぎるために、酵素の失活を招く可能性がある。
【0026】
上記架橋反応溶液中または、下記停止反応中および停止反応後に、酵素の安定性を向上させることを目的として、2価の金属イオン、PQQ、または還元剤を加えてもよい。2価の金属イオンとしては、特に限定されるものではないが、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが好ましい。2価の金属イオンの濃度は、酵素の失活および変性が起こらない程度であれば特に限定されないが、反応溶液に対して、終濃度で0.1〜100mMであることが好ましく、より好ましくは0.5〜50mMである。還元剤としては、特に限定されるものではないが、2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールが挙げられる。還元剤の濃度は、酵素の失活および変性が起こらない程度であれば特に限定されないが、反応溶液に対して、終濃度で0.1〜20mMであることが好ましい。
【0027】
架橋反応時の温度は、0〜30℃が好ましく、より好ましくは4〜25℃である。反応時間は、好ましくは10〜180分、より好ましくは10〜120分、特に好ましくは30〜90分、最も好ましくは60〜90分である。反応時間がかような範囲であれば、反応が適度に進行し、保存安定性の再現性が良好である。
【0028】
本発明では、工程(2)において、ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方によって、架橋反応を停止させる。ストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシンは1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
【0029】
ストレプトマイシン、ジヒドロストレプトマイシンの濃度は架橋反応が停止される限り、特に限定されるものではないが、架橋反応溶液に対して、ストレプトマイシン、ジヒドロストレプトマイシンの合計で好ましくは終濃度で0.01〜3M、より好ましくは0.02〜2M、特に好ましくは0.02〜1Mで、添加される。ストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシンの添加方法は、特に限定されるものではないが、水溶液の形態で添加されることが好ましい。以下、ストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシンを添加後の溶液を反応停止溶液とも称する。なお、逆反応を起こさせないため、上記架橋反応溶液中または、停止反応中および停止反応後に水素化シアノホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤を加えてもよい。このような還元剤を添加する場合の、還元剤の添加量は、逆反応を抑制・防止できる量であれば、特に制限されない。
【0030】
反応停止溶液のpHは、好ましくは6〜10.5、より好ましくは7〜10.0、特に好ましくは7.5〜9.5である。かような範囲であれば、酵素の失活を招く虞が少ない。
【0031】
停止反応温度は、好ましくは4〜50℃、より好ましくは4〜40℃、特に好ましくは4〜30℃である。かような範囲であれば、停止反応が進行しやすく、また、酵素の失活が起こる可能性が低い。停止反応時間は、停止反応温度によるが、一般的には5〜180分である。5分未満では反応時間が短すぎるため、架橋反応が完全に停止しない場合があり、一方180分以上では、酵素の失活を招く場合がある。
【0032】
停止反応終了後、過剰量のストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシン、未反応のグルタルアルデヒド、及び低分子量のものを取り除くため、透析、クロマトグラフィー、限外ろ過等を単独または組み合わせて行うことが望ましい。
【0033】
上記操作後、酵素溶液を凍結し、凍結乾燥を行うことにより、粉末酵素を得ることができる。凍結乾燥は、通常公知の方法により行うことができる。
【0034】
上記方法で得られた、PQQ依存性PDHは、熱安定性に優れ、凍結乾燥の工程によっても失活せず、かつ凍結乾燥後の粉末酵素の保存安定性に非常に優れたPQQ依存性PDHである。
【0035】
本発明の第一のポリオール脱水素酵素の基質は、2つ以上のヒドロキシ基(OH)を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に制限されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトールなどの二糖由来アルコール、グリセロールなどのトリオール、エリスリトールなどのテトリトール、アラビトール、キシリトール、リビトールなどのペンチトール、マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトール、イノシトールなどのシクリトールなどが挙げられる。中でも好ましくは、グリセロール(ピロロキノリンキノン依存性グリセロール脱水素酵素)、ソルビトール(ピロロキノリンキノン依存性ソルビトール脱水素酵素)、アラビトール(ピロロキノリンキノン依存性アラビトール脱水素酵素)、及びマンニトール(ピロロキノリンキノン依存性マンニトール脱水素酵素)を基質とし、より好ましくはグリセロールを基質とする。
【0036】
本発明の第二は、上記方法によって得られるPQQ依存性PDHを含むポリオール測定試薬である。本発明の第二のポリオール測定試薬は、本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHを含み、ポリオールを測定するために使用する試薬である。ポリオール脱水素酵素として本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHを使用する点に特徴があり、例えば特許公報第3041840号、特許公報第3450911号、特許公報第3494398号などに記載されるポリオール測定で使用するポリオール脱水素酵素として本発明の第一の発明によって得られるPQQ依存性PDHを使用することができる。
【0037】
本発明の第二で測定するポリオールは、2つ以上のヒドロキシ基(OH)を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に制限されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトールなどの二糖由来アルコール、グリセロールなどのトリオール、エリスリトールなどのテトリトール、アラビトール、キシリトール、リビトールなどのペンチトール、マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトール、イノシトールなどのシクリトールなどが挙げられる。中でも好ましくは、グリセロール、ソルビトール、アラビトール、及びマンニトールであり、より好ましくはグリセロールである。
【0038】
本発明の第三は、本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHをポリオールと反応させることを特徴とする、ポリオールの定量方法である。
【0039】
本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHは、下記式(1)のようにポリオールがグリセロールである場合、グリセロールと酸化型電子受容体とを、対応する脱水素物と還元型電子受容体とに変換することができる。
【0040】
【化4】

【0041】
式(1)において酸化型電子受容体の減少、還元型電子受容体の増加、ジヒドロキシアセトンの量を測定することによって簡便にグリセロールが定量できる。なお、本発明のPQQ依存性PDHはアポ化しないため、あえてPQQを反応系に添加することなく、ポリオールを定量することができる。
【0042】
本発明において好適に使用できる電子受容体としては、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)、Wurster’s blue、ニトロテトラゾリウムブルー等がある。
【0043】
本発明の定量法において、ポリオールを含む試料としては、食品、血清、血漿や全血等がある。また本発明のPQQ依存性PDHは血清や血漿、全血等の中性脂肪測定にも使用することができる。すなわちこれらの試料に含まれる中性脂肪は、例えばリポプロテインリパーゼにより遊離脂肪酸とグリセロールに分解されるが、ここで生じたグリセロールを本発明のPQQ依存性PDHを使用して、定量することができる。中性脂肪測定時には精神病治療患者、透析患者では遊離グリセロールが問題になるが、本発明のPQQ依存性PDHを用いてグリセロールを予め消去するか、もしくはその量を測定しておくことで真の中性脂肪値を求めることが可能である。なお、本発明のPQQ依存性PDHは溶液中に界面活性剤を含んでいてもポリオールを正確に定量することができる。
【実施例】
【0044】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。なお、本発明において、PQQ依存性PDHの酵素活性は、下記方法により測定した。
【0045】
(酵素活性)
PQQ依存性PDHの酵素活性は、50μM DCIP、0.2mM PMS(フェナジンメトサルフェート)、450mM グリセロールを含んだ0.1g/100mL トライトンX−100を含む10mM リン酸緩衝液pH 7.0中に、酵素溶液を加え、酵素と基質の反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.0におけるミリモル吸光係数は16.3 mM−1とした。
【0046】
(実施例1)
ソルビトール 2g/100mL、酵母エキス 0.3g/100mL、肉エキス 0.3g/100mL、コーンスティープリカー 0.3g/100mL、ポリペプトン 1g/100mL、尿素 0.1g/100mL、KHPO 0.1g/100mL、MgSO・7HO 0.02g/100mL、CaCl・2HO 0.1g/100mL、pH7.0からなる培地100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0047】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。
【0048】
次に上記と同じ組成で調製した培地5Lを8L容ジャーファーメンターに移し、121℃で50分間オートクレーブを行い、放冷後、種培養液240mLを移した。これを、400rpm、通気量5L/min、30℃で26時間培養した。
【0049】
所定時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、緩衝液で懸濁後、フレンチプレスにより菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)し、得られた上清を超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)して、膜画分を沈殿物として得た。
【0050】
この膜画分を10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し、終濃度が1g/100mLとなるようにトライトンX−100を加え、4℃で2時間撹拌した。超遠心分離(40,000rpm、90分、4℃)し、上清を0.1g/100mLトライトンX−100を含む10mM MOPS緩衝液(pH7.5)で一晩透析し、これを可溶化膜画分とした。
【0051】
この可溶化膜画分をFPLCにてResourceQ 6mLで夾雑するグルコース脱水素酵素を除き、ポリオール脱水素酵素活性画分を得た。この画分を0.1g/100mLトライトンX−100、5mM MgSO・7HOおよび5mM CaCl・2HOを含む10mM MOPS緩衝液(pH7.5)で一晩透析することにより、比活性17U/mg蛋白の酵素標品を得た。これをグルコノバクター・オキシダンス由来PDHと称する。
【0052】
ついで、該グルコノバクター・オキシダンス由来PDH(比活性17.0U/mg 蛋白、蛋白濃度:0.625mg/mL)40mLに、終濃度0.2g/100mLになるように1g/100mLグルタルアルデヒド水溶液 10mLを加え(架橋反応溶液、pH7.5)、20℃で60分穏やかに撹拌した。
【0053】
ついで0.5M ストレプトマイシン水溶液(pH8.0)を50mL加え、20℃で60分反応させることにより架橋反応を停止した。反応停止終了後、上記溶液に対して0.1g/100mLトライトンX−100を含む10mM MOPS緩衝液(pH7.5)1000倍量で一晩透析後、外液を捨て、再度上記緩衝液1000倍量で一晩透析することにより、未反応のグルタルアルデヒド、過剰量のストレプトマイシン及び低分子量の夾雑物を取り除き、得られたPDHを架橋SMPDHとした(サンプル1)。続いて、架橋SMPDHを−80℃で凍結後、凍結乾燥機により凍結乾燥を行った(サンプル2)。
【0054】
(実施例2)
ストレプトマイシンの代わりに0.5M ジヒドロストレプトマイシン水溶液(pH8.0)を加えて架橋反応を停止後(得られたPDHを架橋DSMPDHとした(サンプル3))、凍結乾燥を行った(サンプル4)こと以外は、実施例1と同様に行った。
【0055】
(評価例1)
実施例1で得た修飾SMPDH及び実施例2で得た修飾DSMPDHの熱安定性を検討するため、サンプル1及び3を50℃で、10分間、ウォ−ターバスによりインキュベートした後、残存する酵素活性を測定した。同様に、ストレプトマイシンの代わりに0.5M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えて架橋反応を停止させた試料(サンプル5)および架橋処理していないグルコノバクター・オキシダンス由来PDHの残存する酵素活性を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
酵素をグルタルアルデヒドで架橋後、ストレプトマイシンまたはジヒドロストレプトマイシンで架橋反応を停止させたものは、トリスで架橋反応を停止させたものと同程度の熱安定性を有していた。
【0058】
(評価例2)
実施例1および2で得た修飾PDHの保存安定性を検討するため、50℃で、1時間保存し、残存する酵素活性を測定した。結果を表2に示す。また、比較としてストレプトマイシンの代わりに0.5M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えて架橋反応を停止後、凍結乾燥させた試料(サンプル6)を用いて同様に残存する酵素活性を測定した結果を併せて表2に示す。さらに、架橋処理していないグルコノバクター・オキシダンス由来PDHを用いて同様に残存する酵素活性を測定した結果(未架橋PDH)を併せて表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
酵素をグルタルアルデヒドで架橋後、ストレプトマイシン及びジヒドロストレプトマイシンで架橋反応を停止させることにより、粉末酵素の保存安定性が格段に向上したことが分かる。
【0061】
(評価例3)
50μM DCIP、0.2mM PMS、実施例1の酵素溶液(0.3U)を含んだ0.1g/100mLトライトンX−100を含む10mMリン酸緩衝液pH7.0中に、終濃度が100、200、300、400、500μMになるようにグリセロールを加え、DCIPの600nmにおける吸光度の減少を測定した。結果を図1に示す。100〜500μMグリセロールまで直線性がよく、定量可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】評価例3の結果であり、本発明の修飾PDHを使用して、ポリオールの検量線が作成できることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素を2価性架橋試薬で架橋反応させる工程(1)と、
ストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの少なくとも一方で架橋反応を停止して酵素溶液を得る工程(2)と、
前記酵素溶液を凍結乾燥して粉末酵素を得る工程(3)と、
を含む、ポリオール脱水素酵素の製造方法。
【請求項2】
前記2価性架橋試薬がグルタルアルデヒドである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオール脱水素酵素は、グリセロールを基質とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)は、界面活性剤の存在下で架橋反応を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造されたポリオール脱水素酵素。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造されたポリオール脱水素酵素を含む、ポリオール測定試薬。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造されたポリオール脱水素酵素を、ポリオールと反応させる、ポリオールの定量方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−245559(P2008−245559A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90013(P2007−90013)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【Fターム(参考)】