説明

ポリカルボナートの製造方法、および鉄錯体を含む触媒システム

【課題】鉄錯体を用いたポリカルボナートの製造方法を提供する。
【解決手段】式(I−a):


またはその他の配位子が配位した鉄錯体と助触媒の存在下で、エポキシドと二酸化炭素とを共重合させて、ポリカルボナートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシドと二酸化炭素とを共重合させる、ポリカルボナートの製造方法に関する。また、本発明は、エポキシドと二酸化炭素からポリカルボナートを製造するのに有用な、鉄錯体を含む触媒システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化は、大気中の二酸化炭素、フロンやメタンといった温室効果ガスが増加したことが原因とされることから、地球温暖化への寄与率の高い二酸化炭素の大気中濃度を減少させることは極めて重要であり、この排出規制や固定化などの様々な研究が世界規模で行われている。
【0003】
中でも、井上らによって見出された二酸化炭素とエポキシドとの共重合によるポリカルボナートの製造は、地球温暖化問題の解決を担うものとして期待されており、化学的な二酸化炭素の固定といった観点だけでなく、炭素資源としての二酸化炭素の利用といった観点からも盛んに研究されている(非特許文献1)。
【0004】
エポキシドと二酸化炭素の共重合に使用される触媒として、例えば、特許文献1には、ジエチル亜鉛と水の反応物が、非特許文献2には、ジエチル亜鉛とエチレングリコールの反応物が、それぞれ記載されている。
【0005】
非亜鉛系触媒としては、例えば、非特許文献3には、トリエチルアルミニウム−水系触媒が、非特許文献4には、ジエチルアルミニウムクロリドとカリックスアレーン誘導体から調製されるアルミニウム錯体が、非特許文献5には、トリスピラゾリルボレートを配位子に持つアルミニウム錯体が、それぞれ記載されている。
【0006】
特許文献2には、特定の構造式を有するコバルト系触媒を、好ましくは塩の形態の助触媒と組み合わせた触媒システムが記載されている。
【0007】
特許文献3には、スカンジウムのアルコキシド、ハロゲン化物およびトリフラート化合物から選ばれる一種または二種以上のスカンジウム化合物と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびセリウムの金属アルコキシド、金属ハロゲン化物および金属ハロゲン化物アルコキシドから選ばれる一種または二種以上の金属化合物との混合触媒系が記載されている。
【0008】
非特許文献6には、4価スズを用いて環状カーボナートの開環重合を行うことが記載され、非特許文献7には、4価スズを用いてエポキシドと二酸化炭素から環状カーボナートを合成することが記載されている。
【0009】
ポリカルボナートの製造に近年よく用いられている触媒は、コバルトやクロム、イットリウムといったレアメタルを含有するものである。レアメタルは産出地域が偏在しており、それらの供給が量、コストともにしばしば問題となる。
【0010】
たとえばコバルトは、リチウムイオン電池の材料としての需要が拡大しているが、銅やニッケルの副産物として生産されているため、その生産に自立性は乏しい。また、近年の資源ナショナリズムの活発化を受けて、国際価格は不安定であり、ここ10年間でも何度か価格が数倍に高騰するといったことが起こった。
【0011】
そのため、将来のコストを意識した場合、レアメタルを含まない触媒の方が好ましい。そのような触媒として、例えば、特許文献4には鉄を含有する複金属シアニド触媒が、非特許文献8には二核鉄錯体が報告されているが、それらは、反応に5メガパスカル以上の高圧を必要とする、もしくは最も良く使われるモノマーであるプロピレンオキシドには重合活性を示さないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第3585168号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0089252号明細書
【特許文献3】特開2009−242794号明細書
【特許文献4】米国特許第4500704号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S. Inoue, H. Koinuma, M. Kobayashi, and T. Tsuruta, Macromolecular Syntheses, 7, 87 (1969)
【非特許文献2】M. Acemoglu, F. Nimmerfall, S. Bantle and G. H. Stoll, J. Controlled Release, 49, 263 (1997)
【非特許文献3】H. Koinuma and H. Hirai, Makromol. Chem., 178, 1283(1977)
【非特許文献4】W. Kuran, T. Listos, M. Abramczyk and A. Dawidek, J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35, 427(1998)
【非特許文献5】D. J. Darensbourg, E. L. Maynard, M. W. Holtcamp, K. K. Klausmeyer and J. H. Reibenspies, Inorg. Chem., 35, 2682(1996)
【非特許文献6】L. Vogdanis and W. Heitz, Makromol. Chem., Rapid Commun. 7, 543, (1986)
【非特許文献7】J. Choi, K. Kohno, Y. Ohshima, H. Yasuda and T. Sakakura, Catal. Commun., 9, 1630(2008)
【非特許文献8】A. Buchard, M. R. Kember, K. G. Sandeman and C. K. Williams, Chem. Commun., 47, 212 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、鉄錯体を用いたポリカルボナートの製造方法を提供することにある。また、本発明は、エポキシド化合物と二酸化炭素からポリカルボナートを製造するのに有用な、コモンメタルである鉄錯体を含む触媒システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するための鋭意検討した結果、特定の構造を有する鉄錯体と特定の助触媒を組み合わせることにより、エポキシド化合物と二酸化炭素からポリカルボナートを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の製造方法を提供する。
【0016】
項1.
ポリカルボナートの製造方法であって、
式(I−a):
【0017】
【化1】

(式中、R〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、置換または非置換のシクロアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のヘテロアリール基、置換または非置換のアミノ基を表し、隣り合う炭素原子上のR、R、R、R1011は互いに結合して置換または非置換の脂肪族環あるいは芳香族環を形成しても良く、XはF、Cl、Br、I、N、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、およびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子を表す。)で表される鉄錯体、式(I−b):
【0018】
【化2】

(式中、R〜R11は、式(I−a)に同じ、Aは脂肪族エーテル、ピリジン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルおよびNOからなる群から選択される中性配位子を表す。nは1または2を表す。)で表される鉄錯体、または式(I−c):
【0019】
【化3】

(式中、R〜R11は、式(I−a)に同じ)で表される鉄錯体;ならびに
[R12N]、[R12P]、[R12P=N=PR12(式中、R12は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。)および式(II):
【0020】
【化4】

(式中、R13はそれぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、R14はイミダゾリウム環の炭素上の0から3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。)で表されるイミダゾール誘導体からなる群から選択されるリンおよび/または窒素を含むカチオンとF、Cl、Br、I、N、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、およびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒;
の存在下でエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることを特徴とする、ポリカルボナートの製造方法。
【0021】
項2.
前記鉄錯体が、式(III):
【0022】
【化5】

で表されるClが配位した鉄錯体、式(IV):
【0023】
【化6】

で表されるジエチルエーテルが配位した鉄錯体、式(V):
【0024】
【化7】

で表されるClが配位した鉄錯体、または式(VI):
【0025】
【化8】

で表される二つの鉄原子が酸素で架橋された鉄錯体である、項1記載のポリカルボナートの製造方法。
【0026】
項3.
前記助触媒が[R12P=N=PR12(式中、R12は、前記に同じ)とF、Clまたはペンタフルオロベンゾエートからなる塩である項1記載のポリカルボナートの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、供給が安定して安価な鉄原子を核として有する特定の鉄錯体と助触媒とを用いて、エポキシドと二酸化炭素とを共重合させることにより、副反応の生成が抑制され、ポリカルボナートが優先的に得られる製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の代表的な実施様態を例示するために詳細に説明するが、本発明はこれらの実施様態に限定されない。
【0029】
本発明のポリカルボナートの製造方法は、コロール骨格を有する四座配位子が鉄原子に平面四座配位した鉄錯体並びにリンおよび/または窒素を含むカチオンと対アニオンとからなる塩の存在下でエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることを特徴とする。このような鉄錯体は、
式(I−a):
【0030】
【化9】

式(I−b):
【0031】
【化10】

または式(I−c):
【0032】
【化11】

で表すことができる。
【0033】
式(I−a)、(I−b)および(I−c)中、R〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、置換または非置換のシクロアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のヘテロアリール基、置換または非置換のアミノ基を表し、隣り合う炭素原子上のRおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11は互いに結合して置換または非置換の脂肪族環あるいは芳香族環を形成してもよい。
【0034】
〜R11の置換または非置換のアルキル基としては、炭素数1から10の直鎖または分岐状のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。アルキル基は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基、アリール基などから選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
〜R11の置換または非置換のアルケニル基としては、炭素数2から10の直鎖または分岐状のアルケニル基が好ましく、例えばビニル基、アリル基などが挙げられる。アルケニル基は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基、アリール基などから選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0036】
〜R11の置換または非置換のシクロアルキル基としては、炭素数3から10のシクロアルキル基が好ましく、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。シクロアルキル基は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基、アリール基などから選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0037】
〜R11の置換または非置換のアリール基としては、炭素数6から20のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。アリール基は、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基などから選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0038】
〜R11の置換または非置換のヘテロアリール基としては、炭素数4から20のヘテロアリール基が好ましく、例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、キノリル基などが挙げられる。ヘテロアリール基は、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基などから選択される1または2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0039】
〜R11の置換または非置換のアミノ基としては、非置換のアミノ基、または炭素数1から10のアルキル基、炭素数3から10のシクロアルキル基、および炭素数6から20のアリール基からなる群から選択された、1個もしくは2個の置換基で置換されたアミノ基などが挙げられ、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。置換アミノ基の窒素原子上の置換基は、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基、アリール基などから選択される1または2以上の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0040】
隣り合う炭素原子上のRおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11は、互いに結合して置換または非置換の脂肪族環または芳香族環を形成してもよく、この場合、炭素数4から10の置換もしくは非置換の脂肪族環、または炭素数6から10の置換もしくは非置換の芳香族環を形成することが好ましい。このように形成された環は、四座配位子のピロール環部分と縮環構造を形成する。このように形成された環は、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン基、シリル基などから選択される1または2以上の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0041】
式(I−a)中、Xは、ハロゲン、アジド、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシドおよびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。Xの具体例として、F、Cl、Br、I、N、アセテート、トリフルオロアセテート、トリクロロアセテート、プロピオナートなどの脂肪族カルボキシラート、ベンゾエート、p−メチルベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、4−ジメチルアミノベンゾエート、ペンタフルオロベンゾエートなどの芳香族カルボキシラート、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなどのアルコキシド、フェノキシド、p−ニトロフェノキシド、2,4−ジクロロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、1−ナフトキシドなどのアリールオキシドなどが挙げられる。XはF、Cl、Br、Iであることが好ましい。
【0042】
式(I−b)中、Aは、脂肪族エーテル、ピリジン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルおよびNOからなる群から選択される中性配位子を表す。nは1または2を表す。Aの具体例として、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどの脂肪族エーテル、ピリジン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが挙げられる。Aはジエチルエーテル、ピリジンまたはNOであることが好ましい。
【0043】
上記した鉄錯体の中でも、式(III):
【0044】
【化12】

で表されるClが配位した鉄錯体、式(IV):
【0045】
【化13】

で表されるジエチルエーテルが配位した鉄錯体、式(V):
【0046】
【化14】

で表されるClが配位した鉄錯体、または式(VI):
【0047】
【化15】

で表される二つの鉄原子が酸素で架橋された鉄錯体が好ましく用いられる。
【0048】
本発明においては、上記鉄錯体と助触媒を組み合わせた触媒システムを用いることによって、エポキシドと二酸化炭素の共重合を行う。
【0049】
助触媒としては、リンおよび/または窒素を含むカチオンと対アニオンとからなる塩を使用することができる。そのような助触媒の例としては、[R12N]、[R12P]、[R12P=N=PR12および式(II):
【0050】
【化16】

で表されるイミダゾール誘導体からなる群から選択されるリンおよび/または窒素を含むカチオンと、F、Cl、Br、I、N、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、およびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩を使用できる。
【0051】
上記式中、R12はそれぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。R12の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖または分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基などの置換または非置換のアリール基が挙げられる。
【0052】
式(II)中、R13はそれぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、R14はイミダゾリウム環の炭素上の0から3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。R13およびR14の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖または分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基などの置換または非置換のアリール基が挙げられる。
【0053】
四級アンモニウム[R12N]の具体例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウムなどが挙げられる。
【0054】
四級ホスホニウム[R12P]の具体例としては、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムなどが挙げられる。
【0055】
ビス(ホスホラニリデン)アンモニウム[R12P=N=PR12の具体例としては、ビス(トリブチルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(ジブチルフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムなどが挙げられる。
【0056】
式(II)のイミダゾリウムの具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウムなどが挙げられる。
【0057】
上記塩を構成するカチオンの中では、[R12N]、[R12P=N=PR12、および式(II)のイミダゾリウムが好ましく、[R12P=N=PR12がより好ましい。
【0058】
上記塩を構成するアニオンとしては、F、Cl、Br、I、N、アセテート、トリフルオロアセテート、トリクロロアセテート、プロピオナートなどの脂肪族カルボキシラート、ベンゾエート、p−メチルベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、4−ジメチルアミノベンゾエート、ペンタフルオロベンゾエートなどの芳香族カルボキシラート、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなどのアルコキシド、フェノキシド、p−ニトロフェノキシド、2,4−ジクロロフェノキシド、ペンタフルオロフェノキシド、1−ナフトキシドなどのアリールオキシドなどが挙げられる。これらの中でも、F、Cl、Br、I、アセテート、トリフルオロアセテート、トリクロロアセテート、ベンゾエート、ペンタフルオロベンゾエートなどが好ましく、F、Cl、ペンタフルオロベンゾエートがより好ましい。
【0059】
したがって、上記カチオンおよびアニオンからなる塩としては、[R12P=N=PR12とF、Clまたはペンタフルオロベンゾエートからなる塩が好ましい。
【0060】
上記カチオンおよびアニオンからなる塩として、例えばテトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド(nBu4NCl)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(nBu4NBr)、テトラ−n−ブチルアンモニウムアイオダイド(nBu4NI)、テトラ−n−ブチルアンモニウムアセテート(nBu4NOAc)、テトラ−n−ブチルアンモニウムナイトレート(nBuNO)、テトラブチルホスホニウムクロライド(nBuPCl)、テトラフェニルホスホニウムクロライド(PhPCl)、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾエート(PPNOBzF5)、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられ、PPNCl、PPNF、PPNOBzF5およびnBu4NClが好ましく、PPNClPPNFおよびPPNOBzF5が特に好ましい。
【0061】
上記鉄錯体と助触媒の組み合わせとしては、式(III)の鉄錯体とPPNCl、式(IV)の鉄錯体とPPNCl、式(V)の鉄錯体とPPNCl、式(VI)の鉄錯体とPPNClが特に好ましい。
【0062】
脂肪族ポリカルボナートの合成に使用するエポキシド化合物として、式(VII):
【0063】
【化17】

(式中、R15およびR16は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基であるか、またはR15とR16が互いに結合して置換もしくは非置換の環を形成してもよい。)で表されるものが使用できる。
【0064】
15およびR16のアルキル基として、炭素数1〜10の直鎖または分岐の置換または非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などが挙げられる。アルキル基は、例えば、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0065】
15およびR16の置換または非置換のアリール基として、置換または非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などが挙げられる。アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などの別のアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0066】
15とR16は、互いに結合して置換または非置換の環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の、置換または非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R15とR16が−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子などから選択される1または複数の置換基で置換されていてもよい。
【0067】
そのようなエポキシド化合物として、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、リモネンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、エピクロロヒドリンなどが挙げられ、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、またはそれらの組み合わせが好ましい。
【0068】
エポキシド化合物と二酸化炭素の共重合は、加圧可能な公知の重合反応装置、例えばオートクレーブを用いて行うことができる。共重合の反応温度は、副生成物である環状カルボナートの生成反応を抑制する観点、および反応時間を短縮する観点から、0℃〜100℃であることが好ましく、10℃〜90℃であることがより好ましく、20℃〜60℃であることが特に好ましい。反応時間は、反応条件により異なるが、通常、1〜100時間である。
【0069】
共重合時の二酸化炭素の分圧は、一般に約0.1MPa以上、約10MPa以下とすることができ、約5MPa以下であることが好ましく、約2MPa以下であることが特に好ましい。共重合は、酸素などの影響を排除するために不活性雰囲気下で実施することが好ましい。
【0070】
エポキシド化合物と触媒である鉄錯体のモル比は、エポキシド1モルに対して、0.05モル以下であることが好ましく、0.01モル以下であることがより好ましい。また、反応時間が長くなることから、0.00001モル以上であることが好ましく、0.00002モル以上であることがより好ましい。
【0071】
使用される助触媒の量は、鉄錯体1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.3〜5モルであることがより好ましく、0.5〜1.0モルであることが特に好ましい。
【0072】
共重合は無溶媒で行ってもよく、必要に応じて溶媒を使用して行ってもよい。用いられる溶媒としては、使用されるエポキシド、二酸化炭素、触媒および助触媒と反応しないものであれば特に制限はなく、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。具体的には、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどが挙げられる。中でも、溶解性が高いことからエーテル類およびハロゲン化炭化水素類が好ましく、特に、1,2−ジメトキシエタンおよび塩化メチレンが好ましい。これら溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
溶媒を使用する場合の使用量としては、前記エポキシド100質量部に対して50〜10000質量部であることが好ましく、100〜5000質量部であることがより好ましい。
【0074】
かくして得られるポリカルボナートは、前記反応終了後、常法により濃縮、乾燥して単離することができる。また、カラムクロマトグラフィーなどの周知の手段を用いて、前記ポリカルボナートをさらに精製してもよい。
【0075】
前記重合により得られるポリカルボナートの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;ポリスチレン換算)によって測定した数平均分子量(Mn)で、好ましくは1000〜2,000,000、より好ましくは2,000〜1,000,000、さらに好ましくは3,000〜100,000である。
【0076】
また、前記重合により得られるポリカルボナートは、比較的狭い分子量分布(Mw/Mn)を有し得る。具体的には、好ましくは4以下であり、より好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは、1.0〜1.6である。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本実施例で得られた化合物のH−NMRスペクトルの測定は、JEOL社製JNM−ECP500を用いて行った。ポリカルボナートの分子量測定は、GLサイエンス社製高速液体クロマトグラフィーシステム(DG660B・PU713・UV702・RI704・CO631A)とSHODEX社製KF−804Lカラム2本を用いて、テトラヒドロフランを溶出液として(40℃,1.0mL/分)、ポリスチレン標準を基準に換算して測定し、解析ソフトウェア(Scientific Software社製EZChrom Elite)で処理して決定した。
【0078】
[鉄錯体の調製]
(製造例1)鉄錯体2(式(III))の合成
1L容ナスフラスコに、ベンズアルデヒド(0.76mL,7.5mmol)、ピロール(1.04mL,15mmol)、メタノール(300mL)、水(300mL)を仕込み、濃塩酸(36%,6.38mL)を加え、室温で3時間撹拌した。生じた反応溶液をクロロホルムで抽出し、有機層を水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。硫酸ナトリウムをろ別し、ろ液にクロロホルムを加え、溶液量が450mLになるようにした。そこに、p−クロラニル(1.85g,7.5mmol)を加え、溶液を1時間加熱還流した。この溶液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:塩化メチレン)に通し、化合物1を含む粗成生物を得た。これを再びシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:塩化メチレン/ヘキサン=1/1)によって精製し、ついで塩化メチレン/ヘキサンから再結晶を行い、化合物1を得た。
【0079】
化合物1;収量:299mg。収率:23%。H−NMR(CDCl):δ=8.93(d,2H,J=4Hz),8.86(d,2H,J=4Hz),8.58(d,2H,J=4Hz),8.53(d,2H,J=4Hz),8.39(d,4H,J=7Hz),8.16(d,2H,J=5Hz),7.82−7.72(m,9H),−2.91(s,3H)ppm.
【0080】
次に、アルゴン雰囲気下、遮光した20mL容シュレンク反応管に化合物1(53mg,0.10mmol)、無水塩化鉄(II)(254mg,2.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(12mL)を入れ、17時間加熱還流した。生じた反応溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ジエチルエーテル)によって精製した。得られた化合物をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、7%塩酸(10mL×2)および水(15mL)で洗浄した後、有機層を減圧下で濃縮して、鉄錯体2を得た。
【0081】
鉄錯体2;収量:14mg。収率:23%。H−NMR(CDCl):δ=25.16(s,2H),23.95(s,2H),23.09(s,2H),19.61(s,2H),17.27(s,1H),5.96(s,2H),−2.58(s,2H),−2.76(s,2H),−3.72(s,1H),−3.85(s,1H),−5.82(s,2H),−6.99(s,2H),−41.08(s,2H)ppm.
【0082】
【化18】

【0083】
(製造例2)鉄錯体4(式(IV))の合成
10mL容試験管にペンタフルオロベンズアルデヒド(0.17mL,1.40mmol)とピロール(0.15mL,2.10mmol)を入れ、激しく攪拌しているところに、トリフルオロ酢酸/塩化メチレン混合溶液=1/10(v/v)を0.014mL加え、常温で5分間攪拌した。生じた粘性溶液に、さらに塩化メチレン(4mL)を加えて常温で5分間攪拌した。2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン(DDQ、0.38g,15.6mmol)をトルエン/テトラヒドロフラン=1/1(v/v)混合溶媒(1mL)に溶解させたものをゆっくり加え、さらに5分間攪拌した。上記の反応を51バッチ行った後、それぞれの反応溶液をシリカゲルでろ過し、すべてのろ液を集めて濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/塩化メチレン=2/1)で精製した後、熱ヘキサンから再結晶して化合物3を得た。
【0084】
化合物3;収量:1.33g。収率:7%。H−NMR(CDCl):δ=9.19(d,2H,J=4.4Hz),8.75(d,2H,J=4.4Hz),8.57(d,4H,J=4.4Hz),−2.25(s,3H)ppm
【0085】
次に、アルゴン雰囲気下、20mL容シュレンク反応管に化合物3(79.6mg,0.1mmol)、無水塩化鉄(II)(254mg,2.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(12mL)を入れ、17時間加熱還流した。生じた反応溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ジエチルエーテル)によって精製し、鉄錯体4を得た。
【0086】
鉄錯体4;収量:31.4mg。収率:31.5%。H−NMR(C):δ=19.71(s,2H),13.37(s,2H),−60.03(s,2H),−126.05(s,2H)ppm.
【0087】
(製造例3)鉄錯体5(式(V))の合成
アルゴン雰囲気下、20mL容シュレンク反応管に化合物3(80mg,0.1mmol)、無水塩化鉄(II)(254mg,2.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(8mL)を入れ、3.5時間加熱還流した。生じた反応溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ジエチルエーテル)によって精製した。得られた化合物をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、7%塩酸(10mL×2)および水(10mL)で洗浄した後、有機層を減圧下で濃縮して、鉄錯体5を得た。
【0088】
鉄錯体5;収量:47mg。収率:53%。
H−NMR(CDCl):δ=−2.54(s,2H),−3.08(s,2H),−12.07(s,2H),−33.58(s,2H)ppm
【0089】
【化19】

【0090】
(製造例4)鉄錯体6(式(VI))の合成
アルゴン雰囲気下、20mL容シュレンク反応管に化合物3(79.6mg,0.1mmol)、無水塩化鉄(II)(254mg,2.0mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(8mL)を入れ、2時間加熱還流した。生じた反応溶液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:ジエチルエーテル/塩化メチレン)によって精製した。得られた化合物をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL×2)で洗浄した後、有機層を減圧下で濃縮して、鉄錯体6を得た。
【0091】
鉄錯体6:収量57mg。収率67%。H−NMR(CDCl):δ=7.09 (d,J=4.58Hz,4H),6.79 (d,J=3.67Hz,4H),6.52 (d,J=4.58Hz,4H),6.46 (d,J=4.58Hz,4H) ppm.
【0092】
【化20】

【0093】
鉄錯体7、鉄錯体8はAldrich社から購入したものをそのまま用いた。
【0094】
【化21】

【0095】
各金属錯体の触媒活性は金属1mol当たり、1時間当たりのエポキシドのポリマーへの転化量(mol)(以下TOF)によって評価した。
【0096】
[ポリプロピレンカルボナートの合成]
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、ステンレス製50mL耐圧反応容器に、鉄錯体2(4.4mg,7.2×10−3mmol)とビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)(2mg,3.6×10−3mmol)を入れ、プロピレンオキシド(1.0mL,14mmol)を加えた後、二酸化炭素(2.0MPa)を圧入した。60℃で100時間撹拌した後、二酸化炭素を抜いた。重合生成物をガラス製バイアルに移し、メタノールと1M塩酸の混合液(メタノール/1M塩酸=95/5)を0.1mL加えて攪拌した後、濃縮し、740mgのポリマーを得た。
【0097】
【化22】

【0098】
(実施例2)
実施例1において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体4(7.1mg,7.2×10−3mmol)を用い、反応時間を6時間にした以外は、実施例1と同様にして共重合を実施し、710mgのポリマーを得た。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体5(6.3mg,7.2×10−3mmol)を用い、反応時間を12時間にした以外は、実施例1と同様にして共重合を実施し、690mgのポリマーを得た。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体6(6.1mg,3.6×10−3mmol)を用い、反応時間を7.4時間にした以外は、実施例1と同様に共重合を行い、620mgのポリマーを得た。
【0101】
(比較例1)
実施例1において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体7(5.0mg,7.2×10−3mmol)を用い、反応時間を12時間にした以外は、実施例1と同様にして共重合を実施したところ、プロピレンカルボナートのみが得られた。
【0102】
(比較例2)
実施例1において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体8(7.6mg,7.2×10−3mmol)を用い、反応時間を12時間にした以外は、実施例1と同様にして共重合を実施したところ、プロピレンカルボナートのみが得られた。
【0103】
(比較例3)
実施例1において、PPNClを用いずに、反応時間を15時間にした以外は、実施例1と同様にして共重合を実施したところ、未反応であった。
【0104】
[ポリプロピレンカルボナートの評価]
実施例1〜4および比較例1〜3により得られたポリプロピレンカルボナートについて以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0105】
共重合反応の選択性は、反応溶液の1H−NMRスペクトルの積分値から以下のようにして算出した。
【0106】
PPC(ポリカルボナート+ポリエーテル):PC(環状カルボナート)=([5.0ppmの積分値]+[3.5ppmの積分値]):[4.5ppmの積分値];
ポリカルボナート(m):ポリエーテル(n)=[5.0ppmの積分値]:[3.5ppmの積分値]
【0107】
共重合体の数平均分子量(M,g・mmol−1)および分子量分布(M/M)を高速液体クロマトグラフィーによって算出した。
【0108】
【表1】

【0109】
[ポリシクロヘキセンカルボナートの合成]
(実施例5)
アルゴン雰囲気下、ステンレス製50mL耐圧反応容器に、鉄錯体2(6.1mg,1.0×10−2mmol)とビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)(3mg,5.0×10−3mmol)を入れ、シクロヘキセンオキシド(2.0mL,20mmol)を加えた後、二酸化炭素(2.0MPa)を圧入した。60℃で12時間撹拌し、二酸化炭素を抜いた。重合生成物をガラス製バイアルに移し、メタノールと1M塩酸の混合液(混合比率はメタノール/1M塩酸=95/5)を0.1mL加えて攪拌した後、濃縮し、660mgのポリマーを得た。
【0110】
【化23】

【0111】
(実施例6)
実施例5において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体4(9.8mg,1.0×10−2mmol)を用いた以外は、実施例5と同様に共重合を行い、930mgのポリマーを得た。
【0112】
(実施例7)
実施例5において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体5(8.9mg,1.0×10−2mmol)を用いた以外は、実施例5と同様に共重合を行い、840mgのポリマーを得た。
【0113】
(実施例8)
実施例5において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体6(8.6mg,5.0×10−3mmol)を用いた以外は、実施例5と同様に共重合を行い、510mgのポリマーを得た。
【0114】
(比較例4)
実施例5において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体7(7.0mg,1.0×10−2mmol)を用いた以外は、実施例5と同様にして共重合を実施したところ、何も得られなかった。
【0115】
(比較例5)
実施例5において、鉄錯体2に代えて、鉄錯体8(10.6mg,1.0×10−2mmol)を用いた以外は、実施例5と同様にして共重合を実施したところ、何も得られなかった。
【0116】
[ポリシクロヘキセンカルボナートの評価]
実施例5〜8および比較例4〜8により得られたポリシクロヘキセンカルボナートについて前記と同様の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
[ポリ(フェノキシプロピレンカルボナート)の合成]
(実施例9)
アルゴン雰囲気下、ステンレス製50mL耐圧反応容器に、鉄錯体6(6.3mg,3.7mmol)とビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)(2mg,3.7mmol)を入れ、フェニルグリシジルエーテル(2mL,14.8mmol)を加えた後、二酸化炭素(2.0MPa)を圧入した。60℃で24時間撹拌し、二酸化炭素を抜いた。重合生成物をガラス製バイアルに移し、メタノールと1M塩酸の混合液(混合比率はメタノール/1M塩酸=95/5)を0.1mL加えて攪拌した後、濃縮し、1540mgのポリマーを得た。
【0119】
【化24】

【0120】
[ポリ(フェノキシプロピレンカルボナート)の評価]
実施例9により得られたポリ(フェノキシプロピレンカルボナート)について前記と同様の方法により評価した。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
[結果]
表1〜3から明らかな様に、鉄錯体を用いた共重合では、環状カルボナートの生成が抑制され、ポリカルボナートが優先的に生成していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によるポリカルボナートの製造方法は、レアメタルを核として有する錯体に代えて、供給が安定して安価な鉄原子を核として有する特定の鉄錯体と助触媒とを用いてエポキシドと二酸化炭素とを共重合させるが、副反応の生成が抑制され、ポリカルボナートが優先的に得られるので、生産量およびコストの観点から、非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボナートの製造方法であって、
式(I−a):
【化1】

(式中、R〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、置換または非置換のシクロアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のヘテロアリール基、置換または非置換のアミノ基を表し、隣り合う炭素原子上のR、R、R、R1011は互いに結合して置換または非置換の脂肪族環あるいは芳香族環を形成しても良く、XはF、Cl、Br、I、N、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、およびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子を表す。)で表される鉄錯体、式(I−b):
【化2】

(式中、R〜R11は、式(I−a)に同じ、Aは脂肪族エーテル、ピリジン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルおよびNOからなる群から選択される中性配位子を表す。nは1または2を表す。)で表される鉄錯体、または式(I−c):
【化3】

。)で表される鉄錯体;ならびに
[R12N]、[R12P]、[R12P=N=PR12(式中、R12は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。)および式(II):
【化4】

(式中、R13はそれぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表し、R14はイミダゾリウム環の炭素上の0から3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、または置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基を表す。)で表されるイミダゾール誘導体からなる群から選択されるリンおよび/または窒素を含むカチオンとF、Cl、Br、I、N、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、およびアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩からなる助触媒;
の存在下でエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることを特徴とする、ポリカルボナートの製造方法。
【請求項2】
前記鉄錯体が、式(III):
【化5】

で表されるClが配位した鉄錯体、式(IV):
【化6】

で表されるジエチルエーテルが配位した鉄錯体、式(V):
【化7】

で表されるClが配位した鉄錯体、または式(VI):
【化8】

で表される二つの鉄原子が酸素で架橋された鉄錯体である、請求項1記載のポリカルボナートの製造方法。
【請求項3】
前記助触媒が[R12P=N=PR12(式中、R12は、前記に同じ)とF、Clまたはペンタフルオロベンゾエートからなる塩である請求項1記載のポリカルボナートの製造方法。

【公開番号】特開2013−91764(P2013−91764A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236334(P2011−236334)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】