説明

ポリカルボン酸アミド誘導体およびキレート剤

【課題】金属イオンキレート剤として有用な、新規ポリカルボン酸アミド誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるポリカルボン酸アミド誘導体、及びそれからなることを特徴とするキレート剤。


[式中、nは1、2又は3を表す。M、M及びMは、それぞれ水素原子又はカチオンを表す。Rは、水酸基及び−COOM基等からなる群から選ばれる一つ以上の置換基により置換されていてもよい炭素数1〜5アルキル基等を表す。Mは、水素原子又はカチオンを表す。]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオン隠蔽剤、特に医療用、化粧品製剤、石鹸、洗剤、材料分析、金属材料への被覆、メッキ、触媒、コロイド化学、写真、液晶、環境浄化等の分野での金属イオンキレート剤として有用な新規ポリカルボン酸アミド誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリカルボン酸アミド類は、キレート剤として、医療用、化粧品製剤、石鹸、洗剤、材料分析、金属材料への被覆、メッキ、触媒、コロイド化学、写真、液晶、環境浄化等の用途に用いられている。これまで上記用途のキレート剤として、ポリアクリル酸やポリマレイン酸等の電解質ポリマー、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなアミノカルボン酸塩、又はトリポリリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩が使用されてきた。しかしながらこれら従来のキレート剤はいずれも生分解性が低く、近年、環境に対する悪影響が懸念されるようになってきた。このため、生分解性を有する種々のキレート剤が望まれている。生分解性キレート剤として、ニトリロトリ酢酸(NTA)等が知られているが、配位力が弱いため用途によっては実用に供し得ない。配位力を向上させる目的で発明された生分解性キレート剤は、主にアミノ基やカルボキシル基の数を増加させることに主眼を置いて開発がなされたものであり、例えばアスパラギン酸−N,N−ジ酢酸、グルタミン酸−N,N−ジ酢酸、イミノジコハク酸、S,S−エチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸などが上市または検討されている。しかしながら、従来提案されてきた生分解性を有するキレート剤は、EDTAと比較してキレート能力が低いという問題がある。(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】生分解性ケミカルスの市場展望(シーエムシー出版、57頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、金属キレート剤として、金属隠蔽能に優れたEDTAに迫る、さらに金属種によってはEDTAを凌ぐ金属隠蔽能を示す生分解可能な新規ポリカルボン酸アミド誘導体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする、ポリカルボン酸アミド誘導体である。
【0006】
【化1】

[式中、nは1、2又は3を表す。
、M及びMは、それぞれ水素原子又はカチオンを表す。
Rは、
・(水酸基、−COOM基、(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいフェニル基、(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいナフチル基、及び(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいヘテロアリール基)からなる群から選ばれる一つ以上の置換基により置換されていてもよい炭素数1〜5アルキル基、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいフェニル基、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいナフチル基、
又は、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいヘテロアリール基
を表す。
、M、及びMは、それぞれ水素原子又はカチオンを表す。]。
【0007】
また本発明は、一般式(I)で表されるポリカルボン酸アミド誘導体からなることを特徴とするキレート剤である。以下に本発明を更に詳細に説明する。
【0008】
一般式(I)において、nは1、2、又は3であり、好ましくは1又は2であり、更に好ましくは1である。
【0009】
、M、及びM、並びにM、M、及びMは、それぞれ水素原子またはカチオンを表す。カチオンが分子内に2個以上存在する場合には、それぞれ異なるカチオンであってもよい。カチオンとしては例えば、アンモニウム、アルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例えばカルシウム、マグネシウム、バリウム)等を挙げることができる。M、M、及びM、並びにM、M、及びMとしては、好ましくは水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、より好ましくは水素原子またはアルカリ金属である。
【0010】
Rは上述のとおりであるが、好ましくは、一つ以上のフェニル基または−COOM基により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは、−COOM基により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。
【0011】
また本願明細書において、低級アルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基等や、それらの異性体基等である。
【0012】
ヘテロアリール基とは、環形成原子として酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を1〜3個有する芳香族性を示す単環または二環式のヘテロ環であり、例えばピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、トリアジン、フラン、チオフェン、チアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、インダゾール、インドール、キノリン、プリン、プテリジン環等が挙げられる。
【0013】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子である。
【0014】
一般式(I)で表される化合物の具体例を表1に示す。表中、Bnはベンジル基を示す。
【0015】
【表1】

一般式(I)で表されるポリカルボン酸アミド誘導体は、例えば下記反応工程式で表される方法により合成することができる。
【0016】
【化2】

(式中、R及びRは低級アルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Lはハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、p−トルエンスルフォニルオキシ基等の脱離基を表し、R、n、M、MおよびMは前記と同じ意味を表す。)
(工程1)一般式(II)で表されるS−置換システイン誘導体と一般式(III)で表される酸ハロゲン誘導体を、適当な溶媒中にて塩基存在下で反応させて、一般式(IV)で表されるアルキルアミド誘導体を製造することができる。
【0017】
ここで使用される塩基は、この種の反応に一般的に用いられるものが特に制限なく使用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ炭酸塩類、更にはトリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、N−メチルピペリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等の有機塩基等が挙げられる。
【0018】
反応に用いられる溶媒は反応を阻害しないものであればよく、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、n−プロパノール等の1級アルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、水、またはこれらの任意の混合溶媒等が挙げられる。
【0019】
反応温度は通常−80〜150℃であり、好ましくは−15〜50℃である。
【0020】
反応時間は、反応温度、反応基質及び反応試薬により異なるが、通常30分から3日間で完結する。
【0021】
反応目的物である一般式(IV)で表される化合物は、反応混合物から通常の後処理により採取される。例えば、溶媒にて抽出後、溶媒を留去することにより得られる。得られた目的混合物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィーや再結晶等の操作によって精製することもできる。
【0022】
(工程2)一般式(IV)で表されるアルキルアミド誘導体に、一般式(V)で表されるイミノジ酢酸エステル誘導体を適当な溶媒中にて塩基存在下で反応させ、一般式(VI)で表される化合物を製造することができる。
【0023】
工程2で使用される塩基は、この種の反応に一般的に用いられるものが特に制限なく使用でき、例えば工程1に例示した塩基等があげられる。反応に用いられる溶媒は、反応を阻害しないものであればよく、例えば工程1に例示した溶媒等があげられる。
【0024】
反応温度は使用する塩基によって異なるが通常−80〜200℃であり、好ましくは−15〜150℃である。
【0025】
反応時間は、反応温度、反応基質及び反応試薬により異なるが、通常30分から1週間で完結する。
【0026】
反応目的物である一般式(VI)で表される化合物は、反応混合物から通常の後処理により採取される。例えば、溶媒にて抽出後、溶媒を留去することにより得られる。得られた目的混合物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィーや再結晶等の操作によって精製することもできる。
【0027】
(工程3)一般式(VI)で表されるエステル誘導体を、適当な溶媒中、酸触媒または塩基性条件下で加水分解を行い、塩基性条件下で加水分解を行った場合には必要に応じて酸によるプロトン化を行うことによって、一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0028】
ここで使用される酸触媒としては、この種の反応に一般的に用いられるものが特に制限なく使用できる。例えば塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸類、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化チタン、塩化セリウム、イッテルビウムトリフレート、三フッ化ホウ素−エーテル錯体等のルイス酸等が挙げられる。
【0029】
ここで使用される塩基は、この種の反応に一般的に用いられるものが特に制限なく使用でき、工程1と同様のものが例示される。反応に用いられる溶媒は、反応を阻害しないものであればよく、工程1と同様のものが例示される。反応温度、反応時間とも工程1と同様の条件が例示される。
【0030】
プロトン化を行う場合に使用される酸としては、この種の反応に一般的に用いられるものが特に制限なく使用できる。例えば塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、強陽イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0031】
反応目的物である一般式(I)で表される化合物は、反応混合物から通常の後処理により採取される。例えば、溶媒を減圧条件にて留去することにより得られる。得られた目的混合物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィーや再結晶等の操作によって精製することもできる。
【0032】
一般式(I)で表される化合物は、キレート剤として使用することができる。特に一般式(I)で表される化合物は、分子内にチオエーテル構造を有するため、NTAの有するアミノ基、カルボキシル基のような電気陰性度が大きく分極率が小さい、いわゆる硬い塩基の性質のみならず、チオールエーテル構造に由来する電気陰性度が小さく分極率の大きい、いわゆる軟らかい塩基の性質を併せ持つ。そのため一般式(I)で表される化合物は、R.Pearson(R.ピアソン)のルイス酸の分類における硬い酸(Li、Na、K、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Al3+、Ga3+、La3+、Cr3+、Co3+、Fe3+、As3+、Si4+、Ti4+、Zr4+、Sn4+)、中間に属する酸(Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pb2+、Sn2+、Sb3+、Bi3+、Rh3+、Ir3+、Ru2+、Os2+)、軟らかい酸(Cu、Ag、Au、Hg、Pd2+、Cd2+、Hg2+、Tl3+、Pt2+)のいずれに対しても配位力を示し、キレート剤として使用することができる。中でも、軟らかい酸に対してより強力な配位力を示すため、それらに対するキレート剤として好ましいものであり、とりわけPb2+、Agに対するキレート剤として好ましいものである。
【0033】
また一般式(I)で表される化合物は、分子を構成する単位として生分解性であるシステイン誘導体及びニトリロトリカルボン酸構造を含み、それらを生分解性の高いアミド結合により結合させていることに特徴がある。このため、一般式(I)で表される化合物は生分解性を有するものであり、生分解性を有するキレート剤としても有用な化合物である。
【発明の効果】
【0034】
一般式(I)で表される化合物は、分子内に分解を受けやすいアミド結合を有することにより生分解性を有し、カルシウムのようなアルカリ土類金属から鉛のような重金属にまで高いキレート能を有する。特に銀に対しては、極めて高いキレート能を有する化合物である。
【実施例】
【0035】
次に本発明を具体的に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例中、核磁気共鳴(NMR)スペクトルは「BRUKER DPX−250」社装置で測定した。化学シフト値については、測定溶媒がCDClのときにはTetramethylsilane(TMS)を内部標準物質に、またDOを用いたときは溶媒のケミカルシフト値を基準値とし、ppmで示した。カラムクロマトグラフィーの吸着剤は商品名 「Kanto Chemical Silica Gel 60N」(spherical,neutral,40−50μm)を用いた。反応に用いた無水溶媒は市販品を用いた。
【0037】
(実施例1)
N−(2−クロロアセチル)−S−メチル−L−システイン メチルエステルの合成:
50mlのメタノール中に氷冷下、塩化チオニル26.4gを徐々に滴下した。S−メチルシステイン10.0g(73.98mmol)を溶液中に加えた。反応溶液を室温で2日間攪拌した後に溶媒を減圧下留去して、S−メチル−L−システイン メチルエステル塩酸塩を無色固体として得た。続いて、生成物と炭酸水素ナトリウム12.43g(148.0mmol)の50ml水溶液中にクロルアセチルクロライド8.36g(73.98mmol)のジクロロメタン50ml溶液を氷冷下徐々に滴下した。反応溶液を室温で40分攪拌した後に、水を加えて酢酸エチルで抽出した。集めた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去して淡黄色油状の目的物16.1g(71.34mmol:96%)を得た。
【0038】
H−NMR(250MHz,CDCl)δ:7.34(brs,1H),4.87−4.80(m,1H),4.10(s,2H),3.80(s,3H),3.03−2.99(m,2H),2.13(s,3H)。
【0039】
N−[N’,N’−(ビスエトキシカルボニルメチル)グリシル]−S−メチル−L−システイン メチルエステルの合成:
N−(2−クロロアセチル)−S−メチル−L−システイン メチルエステル4.0g(17.72mmol)、イミノジ酢酸ジエチル3.35g(17.72mmol)及びトリエチルアミン1.79g(17.72mmol)のトルエン50ml溶液を攪拌下、3日間加熱還流を行った。反応溶媒に水を加えて酢酸エチルで抽出した後、集めた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30%酢酸エチル:ヘキサン)にて精製し、淡黄色油状の目的物を4.1g(10.83mmol:61%)得た。
【0040】
H−NMR(250MHz,CDCl)δ:8.33(brd,J=3Hz,1H),4.88−4.78(m,1H),3.76(s,3H),3.59(s,4H),3.48(s,2H),3.08−2.84(m,2H),2.13(s,3H),1.29(t,J=3Hz,6H)。
【0041】
N−[N’,N’−(ビスカルボキシメチル)グリシル]−S−メチル−L−システイン(化合物番号1)の合成:
N−[N’,N’−(ビスエトキシカルボニルメチル)グリシル]−S−メチル−L−システイン メチルエステル4.1g(10.83mmol)をテトラヒドロフラン:メタノール:水の4:1:1の混合溶媒90mlに溶解した溶液に水酸化リチウム一水和物1.59g(37.91mmol)を加えた。室温にて一晩攪拌した後、溶媒を減圧下留去した。残渣に水を加え、pHが4になるまでAmberlite IR−120(H)を加えた。イオン交換樹脂をろ別し、洗浄液が中性になるまで水で洗浄した。集めた水層を減圧下留去することによって、無色粉状の目的物2.70g(8.76mmol:81%)を得た。
【0042】
H−NMR(250MHz,DO)δ:4.77−4.58(m,1H),4.13(s,2H),3.90(s,4H),2.08(s,3H)。
【0043】
(実施例2,3)
実施例1と同様な方法により、但しS−メチルシステインの代わりに実施例2ではS−ベンジルシステインを、実施例3ではS−カルボキシメチルシステインをそれぞれ用いて、化合物番号2及び3で表される化合物を得た。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

(実施例4)キレート能力の評価
化合物番号1〜3で表される化合物のキレート能力を測定した。即ち、電位差滴定法によりカルシウムイオン、鉛イオン、又は銀イオンの存在下でキレート剤溶液のpHを測定し、酸解離定数を算出後、Schwarzenbachの方法により条件安定度定数を算出した。このとき測定温度25℃、KNOを使用してイオン強度をμ=0.1とした。またカルシウムイオン、鉛イオン、又は銀イオンの濃度10mM、キレート剤濃度1mMの条件で測定を行った。結果を表3に示す。
【0045】
(比較例1)キレート能力の評価
実施例4と同様にして、但し比較化合物a〜dを用いて、そのキレート能力を評価した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

表中のN.D.は、キレート剤のキレート形成能が低いため、本測定条件では条件安定度定数の算出ができなかったことを表す。なお、比較化合物a〜dは以下の通りである。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

表3から明らかなように、本発明による化合物は、カルシウム、鉛、銀の各イオンに対してキレート能を示し、特に銀に対して高い条件安定度定数すなわち高いキレート能を示した。特に化合物番号3で表される化合物は、カルシウム、鉛、銀のすべてのイオンに対して比較化合物a、c、dを上回るキレート能を示し、銀イオンに対する条件安定度定数も実施例及び比較例の中で最大値を示すという、高いキレート能を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されることを特徴とする、ポリカルボン酸アミド誘導体
【化1】

[式中、nは1、2又は3を表す。
、M及びMは、それぞれ水素原子又はカチオンを表す。
Rは、
・(水酸基、−COOM基、(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいフェニル基、(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいナフチル基、及び(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいヘテロアリール基)からなる群から選ばれる一つ以上の置換基により置換されていてもよい炭素数1〜5アルキル基、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいフェニル基、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいナフチル基、
又は、
・(−OM基、−COOM基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、又は低級アルキル基)で置換されていてもよいヘテロアリール基
を表す。
、M、及びMは、それぞれ水素原子又はカチオンを表す。]。
【請求項2】
請求項1に記載のポリカルボン酸アミド誘導体において、nが1、Rが−CHCOOM基であることを特徴とする、ポリカルボン酸アミド誘導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリカルボン酸アミド誘導体からなることを特徴とする、キレート剤。

【公開番号】特開2007−70244(P2007−70244A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256258(P2005−256258)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】