説明

ポリカーボネイト樹脂を基材とするめっき物

【課題】
本発明は、ポリカーボネイト樹脂を基材とし、その基材上に密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物であって、ポリカーボネイト樹脂基材の耐衝撃性を損なわず、しかも煩雑なエッチング処理等行うことなく、簡易な無電解めっき法により製造することができるめっき物の提供を課題とする。
【構成】
本発明は、ポリカーボネイト樹脂基材上に、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層を設け、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネイト樹脂を基材とするめっき物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ABS樹脂に代表される合成樹脂基材へ、無電解めっき法を用いて、銅、ニッケル等の金属膜を被覆する技術(特許文献1)はよく知られている。ところが、無電解めっきによって得られた金属めっき膜は、合成樹脂基材との密着強度が十分でないといった問題があるため、無電解めっきを施す前の前処理として、化学的な薬品による合成樹脂基材表面のエッチング処理(表面粗化)を行う必要があった。このエッチング処理に使用される薬品は、クロム酸、過マンガン酸、硫酸、有機溶剤等が使用されていた。
【0003】
一方、ポリカーボネイト樹脂を基材として用いる場合、上述のクロム酸、過マンガン酸、硫酸、有機溶剤等を用いてエッチング処理を行っても基材表面が粗化しない問題があった。そこで、例えばポリカーボネイト樹脂基材の表面を粗化させるために、予めポリカーボネイト樹脂基材中に有機溶剤を接触させることで膨潤する物質を添加させておき、エッチング処理を行う前にポリカーボネイト樹脂基材を有機溶剤に浸漬させ、基材表面を膨潤させる。続いて、表面が膨潤した状態のポリカーボネイト樹脂基材を、クロム酸、過マンガン酸、硫酸、有機溶剤等の薬品を用いてエッチング処理を行う。そうすると、ポリカーボネイト樹脂基材表面が粗化するので、その後、無電解めっきによって得られた金属被膜は、密着性に優れているという方法が提言されている。
【0004】
ところが、ポリカーボネイト樹脂基材中に有機溶剤を接触させることで膨潤する物質が添加されていると、ポリカーボネイト樹脂基材の耐衝撃性が低下する問題があった。また、膨潤状態のポリカーボネイト樹脂基材をエッチング処理した場合、この基材表面の全面が粗化するため、全面めっきは出来るが、部分めっきは出来ない問題があった。また、有機溶剤にポリカーボネイト樹脂基材を浸漬させて表面を膨潤させるので、その後の処理液へ有機溶剤を持ち込ませないようにするために洗浄を十分に行う必要があり、生産効率が悪い問題があった。
【特許文献1】特開2007−100174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリカーボネイト樹脂を基材とし、その基材上に密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物であって、ポリカーボネイト樹脂基材の耐衝撃性を損なわず、しかも煩雑なエッチング処理等行うことなく、簡易な無電解めっき法により製造することができるめっき物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(1)ポリカーボネイト樹脂基材上に、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層を設け、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物である。また、(2)前記塗膜層の厚みが0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1記載のめっき物である。また、(3)前記バインダーは、アルコール可溶性であり、かつ熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載のめっき物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリカーボネイト樹脂基材の耐衝撃性を損なわず、しかも煩雑なエッチング処理等行うことなく、密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明は、ポリカーボネイト樹脂基材上に、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層を設け、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物に関する。
【0009】
本発明に使用する基材は、ポリカーボネイト樹脂(以下、「PC」ともいう)である。また、ポリカーボネイト樹脂としては、PC/ABS樹脂アロイ、PC/AS樹脂アロイ、PC/ASA樹脂アロイ、PC/PET樹脂アロイ、PC/PBT樹脂アロイ等を用いてもよく、このようなポリマーアロイの場合、ポリマーアロイにおけるPCを30重量%以上とすることが耐衝撃性の観点から好ましい。基材の形態は特に限定されず、例えば、成形品、シート、フィルム等の何れの形態も含まれる。また、本発明に使用する基材は、コロナ処理、プラズマ処理等の公知の処理を行ってもよい。
【0010】
本発明の塗膜層におけるバインダーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0011】
また、バインダーとしては、アルコール可溶のものが好ましく使用される。その理由は、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成する際、後述する下地塗料中に芳香族系やケトン系の有機溶媒が含有されていると、ポリカーボネイト樹脂基材にクラックが入り易いので下地塗料の溶媒としてはアルコール系有機溶媒が好ましく使用されるためである。また、めっき工程において酸やアルカリ溶液に塗膜層を形成させたポリカーボネイト樹脂基材を浸漬させると、塗膜層が脱落する虞があるのでその脱落を防止するために、バインダーとして熱硬化性樹脂や塩酢ビ樹脂、オレフィン樹脂が好ましく使用される。すなわち、バインダーとしては、アルコール可溶であり、かつ熱硬化性樹脂が好ましく使用される。
【0012】
また、バインダーは、固形分比において前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部が好ましい。バインダーが0.1質量部未満であると、基材と塗膜層間で剥離が起きやすい。また、バインダーが60質量部を超えると、無電解めっき法により金属めっき膜を形成させる際、その金属めっき膜の析出性が悪くなる傾向にある。
【0013】
次に、本発明の塗膜層における導電性高分子微粒子について説明する。本発明のめっき物は、基材の表面上に還元性高分子微粒子とバインダーを含む層を形成し、この層上に金属めっき膜を無電解めっき法により形成するものであるが、この層中の還元性高分子微粒子は、無電解めっき法により最終的に導電性高分子微粒子となる。その理由としては、例えば基材上に形成された還元性高分子微粒子とバインダーを含む層上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成する際、先ず、この還元性高分子微粒子を含む層上にパラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された層上に金属めっき膜を形成するが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

すなわち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、即ち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。したがって、本発明の塗膜層における高分子微粒子も導電性となる。
【0014】
尚、本発明のめっき物は、還元性高分子微粒子だけでなく、導電性高分子微粒子を用いても同様に製造することができる。すなわち、基材上に導電性高分子微粒子を含む層を形成した場合、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性にしておけばよい。したがって、本発明のめっき物を製造する際、少なくとも還元性高分子微粒子とバインダーとを含む下地塗料を基材上に塗布して層を形成してもよいし、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む下地塗料を基材上に塗布して層を形成し、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性としてから無電解めっき法により金属めっき膜を形成することができる。
【0015】
本発明に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。 還元性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該還元性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0016】
本発明に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。導電性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該導電性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。導電性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒と同様のものを用いることができる。
【0017】
本発明の塗膜層は、上記導電性または還元性高分子微粒子と、バインダーとを含む下地塗料を基材に塗工し、乾燥させることで形成するものである。また、この下地塗料は、上記成分に加えて溶媒を含み得る。溶媒としては、特に限定されるものではないが、具体的には、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。また、メチルセルソルブ等の多価アルコール誘導体溶媒、ミネラルスピリット等の炭化水素溶媒、ジヒドロターピネオール、D−リモネン等のテルペン類に分類される溶媒を用いることもできる。
【0018】
更に、前記下地塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、無機系フィラー、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0019】
ポリカーボネイト樹脂基材への前記下地塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。加熱を行う場合の温度は、基材のTgより低い温度で行うことが好ましい。
【0020】
形成される塗膜層の厚さは、0.1μmないし10μmの範囲とするのが好ましい。塗膜層の厚さを薄くし過ぎると、塗膜層を均一に形成することが困難となる場合があるため、塗膜層の厚さは0.1μm以上とするのが好ましい。また、塗膜層の膜厚を厚くしても、例えば、10μmを超えても塗膜強度を維持することは可能であるものの、塗膜層を厚くし過ぎると、バインダーの種類や配合割合等によっては、塗膜強度が低下する場合があるため、塗膜層の厚さは10μm以下とするのが好ましい。
【0021】
導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層は、微粒子を還元性とするために脱ドープ処理が行われる。脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0022】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。導電性高分子微粒子を用いて形成された層は、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。例えば、0.1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。上記の脱ドープ処理により、導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層中の高分子微粒子は還元されて、還元性高分子微粒子となる。
【0023】
上記のようにして製造された、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成されたポリカーボネイト樹脂基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。即ち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0024】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0025】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電
解めっき膜が形成される。めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。得られためっき物は、使用した基材のTgより低い温度において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を製造することができる。なお、無電解めっき膜上に電気めっきを行って金属膜を厚膜させてもよい。
【0026】
また、本発明の下地塗料に使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法は、特開2008−190026号公報に記載されている方法にて製造することが出来る。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるもの
ではない。
製造例1:下地塗料1の調製
アニオン性界面活性剤ペレックスOT‐P(花王株式会社製)1.5mmol、トルエン50mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間攪拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン分散した平均粒径50nmの導電性高分子分散液を得た。続いて、得られた導電性高分子分散液を固形分1%に調整し、バインダーとしてアロンマイティFS‐175SV10(東亞合成(株)、ナイロン):固形分10%を導電性高分子分散液3質量部に対して1質量部の配合比で加えて下地塗料1を得た。
【0028】
製造例2:下地塗料2の調製
アニオン性界面活性剤ペレックスOT‐P(花王株式会社製)1.5mmol、トルエン50mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間攪拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン分散した平均粒径50nmの導電性高分子分散液を得た。続いて、得られた導電性高分子分散液を固形分1%に調整し、バインダーとしてソルバインMFK(日信化学工業(株)、塩酢ビ)を固形分10%にそれぞれ調整した。続いて、それぞれの固形分に調整した導電性高分子分散液とバインダーとを、導電性高分子分散液:バインダー=3質量部:1質量部で配合させて下地塗料2を得た。
【0029】
製造例3:下地塗料3の調製
アニオン性界面活性剤ペレックスOT‐P(花王株式会社製)1.5mmol、トルエン50mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間攪拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン分散した平均粒径50nmの導電性高分子分散液を得た。続いて、得られた導電性高分子分散液を固形分1%に調整し、バインダーとしてスーパークロン892L(日本製紙(株)、変性ポリオレフィン):固形分20%を導電性高分子分散液3質量部に対して0.5質量部の配合比で加えて下地塗料3を得た。
【0030】
実施例1
<塗膜層の形成>
製造例1で調製した下地塗料を、小型ハンドスプレーガンW−101‐102P(アネスト岩田(株)製、口径:1.0mm)を用いて、空気圧力0.2MPaでポリカーボネイト樹脂基材(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)へ5μmの厚みでスプレー塗工し、70℃で10分間乾燥後、120℃で20分間乾燥して、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成した。
【0031】
<無電解めっき法によるめっき物の製造>
塗膜層が形成されたポリカーボネイト樹脂基材を、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液に40℃で10分間浸漬し、洗浄水で水洗する。その後、アクチベーターAS(奥野製薬工業(株)製)に40℃で3分間浸漬し、洗浄水で水洗する。その後、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬する。これにより表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成しためっき物を得た。
【0032】
実施例2
製造例1で調製した下地塗料を、ポリカーボネイト樹脂基材(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)へ0.5μmの厚みでディッピング塗工し、70℃で10分間乾燥後、120℃で20分間乾燥して、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成した以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0033】
実施例3
製造例1で調製した下地塗料を、自動スプレーガンWRA−200‐122P(アネスト岩田(株)製、口径:1.2mm)を用いて、空気圧力0.15MPaでポリカーボネイト樹脂基材(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)へ5μmの厚みでスピンドル塗工し、70℃で10分間乾燥後、120℃で20分間乾燥して、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成した以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0034】
実施例4
製造例2で調製した下地塗料を、自動スプレーガンWRA−200‐122P(アネスト岩田(株)製、口径:1.2mm)を用いて、空気圧力0.15MPaでポリカーボネイト樹脂基材(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)へ5μmの厚みでスピンドル塗工し、70℃で10分間乾燥後、120℃で20分間乾燥して、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成した以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0035】
実施例5
製造例3で調製した下地塗料を、自動スプレーガンWRA−200‐122P(アネスト岩田(株)製、口径:1.2mm)を用いて、空気圧力0.15MPaでポリカーボネイト樹脂(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)へ5μmの厚みでスピンドル塗工し、70℃で10分間乾燥後、120℃で20分間乾燥して、ポリカーボネイト樹脂基材上に塗膜層を形成した以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0036】
実施例6
基材として、PC/ABS樹脂アロイ(ユーピロンMB2212R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用いた以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0037】
実施例7
基材として、PC/PET樹脂(CR3241、住友ダウ(株)製)を用いた以外は、実施例1同様の操作を行うことによりめっき物を得た。
【0038】
比較例1
ポリカーボネイト樹脂基材(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に、以下の(1)ないし(7)の工程を付すことによりめっき物を得た。
(1)脱脂工程:エースクリーンA‐220(奥野製薬工業(株)製)50g/Lの水溶液(40℃)に、基材を3分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。
(2)整面工程:続いて、98%硫酸100mLとトッププラコン5ml/Lを含む水溶液(40℃)に、基材を2分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。
(3)エッチング工程:続いて、無水クロム酸400g/Lと98%硫酸400g/Lを含む水溶液(70℃)に、基材を10分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。
(4)中和工程:続いて、35%塩酸50mLの水溶液(25℃)に、基材を2分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。
(5)触媒付与工程:続いて、Sn‐Pd系コロイドを含む35%塩酸水溶液(30℃)に、基材を3分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。
(6)活性化工程:続いて、98%硫酸溶液100ml/Lの水溶液(40℃)に、基材を3分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄した。(7)無電解めっき工程:続いて、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)(32℃)に、基材を15分間浸漬させ、その後、洗浄水で洗浄し、基材表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成しためっき物を得た。
【0039】
試験例1
上記で製造した実施例1ないし7、比較例1のめっき物において、各種の評価試験を行いその結果を表1に纏めた。尚、評価項目及びその評価方法・評価基準は以下の通りである。
【0040】
(めっき外観)
目視にてめっき後の表面状態の観察を実施した。評価基準は以下の通りとした。
○:全面にめっきが析出し、さらに写像性の高い光沢がある。
△:全面にめっきが析出し、光沢はあるが写像性が低い。
×:全面にめっきは析出するが、光沢が無く、写像性もない。
【0041】
(テープ試験)
JIS‐H8504テープ試験方法に準じて、カッターで2mm角の切込みを100個入れた後、テープによる引きはがし試験を実施した。評価基準は以下の通りとした。
○:剥離無し
×:剥離あり
【0042】
(密着強度:ピール強度)
JIS‐H8630に定められる90°引きはがし法にて、基材と銅膜間の密着力の評価を実施した。
【0043】
尚、表1中、A1ないしA3、B1ないしB3は以下を意味する。
A1:ポリカーボネイト樹脂(ノバレックス7022R、三菱エンジニアリングプラスチックス)、
A2:PC/ABS樹脂アロイ(ユーピロンMB2212R、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、
A3:PC/PET樹脂(CR3241、住友ダウ(株)製)、
B1:アロンマイティFS‐175SV10(東亞合成(株)、ナイロン)、
B2:ソルバインMFK(日信化学工業(株)、塩酢ビ)、
B3:スーパークロン892L(日本製紙(株)、変性ポリオレフィン)
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネイト樹脂基材上に、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層を設け、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物。
【請求項2】
前記塗膜層の厚みが0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1記載のめっき物。
【請求項3】
前記バインダーは、アルコール可溶性であり、かつ熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載のめっき物。

【公開番号】特開2011−208174(P2011−208174A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74028(P2010−74028)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】