説明

ポリカーボネートの製造方法、ポリカーボネートペレットおよび透明フィルム

【課題】フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を用いたポリカーボネートの製造にあたり、以上のような複数の問題を解決し、着色が少なく、光学特性および機械物性などの優れた特性を持つポリカーボネートを、安定した品質で、かつ高い歩留まりで製造することができるポリカーボネートの製造方法を提供する。
【解決手段】フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと、重合触媒とを連続的に反応器に供給し、重縮合してポリカーボネートを製造するポリカーボネートの方法であって、前記反応器は少なくとも直列に複数器接続されるものであり、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温が200℃以上225℃未満であり、かつ最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度が20Pa・s以上、1000Pa・s以下であることを特徴とするポリカーボネートの製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性、色相及び熱安定性に優れ、かつ異物の少ないポリカーボネートを、効率的かつ安定的に製造する方法、およびそれより得られる透明フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性または機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、光学記録媒体またはレンズ等の光学分野等でいわゆるエンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。
【0003】
近年、フルオレン構造を側鎖に有するジヒドロキシ化合物から誘導された共重合ポリカーボネートが報告されており、特に脂肪族ジヒドロキシ化合物との共重合ポリカーボネートは光弾性係数が小さいなど、優れた光学特性を有することが示されている(特許文献1〜3)。
【0004】
また、特許文献4には、このフルオレン構造を含有するポリカーボネートからなる位相差フィルムは、光弾性係数が低い上、位相差が短波長になるほど小さくなる逆波長分散性を示すことから、位相差フィルムなどの光学用途に有用であることが開示されている。
【0005】
上記のフルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を用いた共重合ポリカーボネートを製造する際には、様々なジヒドロキシ化合物を原料として用いることが可能なエステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。
【0006】
前記方法では、ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルを重合触媒の存在下、200℃以上の高温でエステル交換し、副生するフェノールを系外に取り除くことにより重合を進行させてポリカーボネートを得ていた。
【0007】
ところが、フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物と、前記の脂肪族ジヒドロキシ化合物との共重合反応を行う場合、脂肪族ジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール類に比べると熱安定性が低く、高温下で行う重縮合反応中の熱分解により樹脂が着色する問題があった。
【0008】
この問題を解決する方法の一つとして、横型攪拌反応器を用いて反応液の表面積をかせいで、反応効率を高めることによって、より少ない熱履歴で重合反応を行い、得られるポリマーの色調を改善する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開平10−101786号公報
【特許文献2】日本国特開2004−67990号公報
【特許文献3】国際公開第2006/41190号
【特許文献4】日本国特開2008−111047号公報
【特許文献5】日本国特開2009−161745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの検討により、フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を用いてポリカーボネートをエステル交換法で製造するにあたり、樹脂に十分な成形加工性および機械強度を備えるには、反応工程において、ある程度の分子量まで上げる必要があるが、一方で、樹脂の着色を低減するためには反応温度を極力低下させることが重要であり、それらを両立させようとすると、反応工程の終盤において、溶融樹脂が非常に高い粘度になってしまう問題が顕在化した。
【0011】
また、溶融樹脂の粘度が高くなりすぎると、反応器において攪拌軸に溶融樹脂が巻きついて垂れ落ちてこなくなってしまうために、反応器から溶融樹脂を一定の流量で抜き出すことが難しくなり、ペレット化工程が途中で途切れてしまい、製造の歩留まりが悪化する課題が見出された。
【0012】
さらに、このようにペレット化が停止すると、再びペレット化を復旧するための作業を行う際に、ペレット化工程をクリーンルームで隔離していても、作業後は一時的に樹脂に含有される異物量が増加する問題も見出された。
【0013】
特に光学材料に用いられる場合は、異物は製品の致命的な欠陥になり得るため、特に得られた樹脂が光学フィルムの用途に用いられる場合は、フィルムの製膜時、または部材の組み立ての段階での製品歩留まりも悪化することにつながる。
【0014】
そこで本発明は、フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を用いたポリカーボネートの製造にあたり、以上のような複数の問題を解決し、着色が少なく、光学特性および機械物性などの優れた特性を持つポリカーボネートを、安定した品質で、かつ高い歩留まりで製造することを目的とし、特に、ビスフェノール類に比べて熱安定性が低い脂肪族ジヒドロキシ化合物を併用した場合でも上記の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと、重合触媒とを連続的に反応器に供給し、重縮合してポリカーボネートを製造するポリカーボネートの方法であって、前記反応器は少なくとも直列に複数器接続されるものであり、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温が200℃以上225℃未満であり、かつ最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度が20Pa・s以上、1000Pa・s以下であることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【0016】
2.前記最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の還元粘度をP、前記最終重合反応器の出口における反応液の還元粘度をQとした場合に下記式(2)を満たすことを特徴とする前項1に記載のポリカーボネートの製造方法。
1.5 ≦ Q/P ≦ 3.0 (2)
【0017】
3.前記最終重合反応器が、内部に複数の水平回転軸を有する横型攪拌反応器であって、反応条件が下記式(3)を満たすことを特徴とする前項1又は2に記載のポリカーボネートの製造方法。
500 ≦ ωμ ≦ 20000 (3)
[ω:攪拌翼回転数(rpm)、μ:横型反応器出口における反応液の溶融粘度(Pa・s)]
【0018】
4.前記横型攪拌反応器の反応条件が下記式(4)を満たすことを特徴とする前項3に記載のポリカーボネートの製造方法。
2 ≦ V/A ≦ 13 (4)
[V:横型反応器容積(L)、A:反応液処理量(kg/hr)]
【0019】
5.前記最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度が1800Pa・s以上5000Pa・s以下である前項1乃至4のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0020】
6.前記最終重合反応器の加熱媒体の温度が220℃以上、260℃以下である前項1乃至5のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0021】
7.最初の前記反応器に投入する際の反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの仕込みのモル比が0.990以上1.030以下である前項1乃至6のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0022】
8.前記最終重合反応器の出口における反応液中の全ヒドロキシ末端基の量が50ppm以上1000ppm以下である前項1乃至7のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0023】
9.前記最終重合反応器の入口における反応液中のモノヒドロキシ化合物の量が10ppm以上3wt%以下であり、かつ前記最終重合反応器の出口における反応液中のモノヒドロキシ化合物の量が1ppm以上1500ppm以下である前項1乃至8のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0024】
10.前記最終重合反応器の圧力が10Pa以上2kPa以下であることを特徴とする前項1乃至9のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0025】
11.前記重合触媒が、長周期型周期表第2族の金属からなる群及びリチウムより選ばれる少なくとも1種の金属化合物である前項1乃至10のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0026】
12.前記のフルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(1)で表される化合物である前項1乃至11のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0027】
【化1】

【0028】
[一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。]
【0029】
13.前記式(1)で表されるフルオレン部位を有するジヒドロキシ化合物以外に、構造の一部に下記式(5)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物を反応に用いる前項1乃至12のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0030】
【化2】

【0031】
[但し、式(5)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合、および前記フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物の一部を構成する部位である場合を除く。]
【0032】
14.前記式(5)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物が、環状構造を有し、かつエーテル構造を有する化合物である前項1乃至13のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0033】
15.前記式(5)の結合構造を有する特定ジヒドロキシ化合物が、下記構造式(6)で表される複素環基を有する化合物である前項14に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0034】
【化3】

【0035】
16.重縮合により得られたポリカーボネートを、固化させることなく溶融状態のままフィルターに供給して濾過する工程を含む前項1乃至15のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0036】
17.重縮合により得られたポリカーボネート、又は、それを上記フィルターで濾過した樹脂を、ダイスヘッドからストランドの形態で吐出し、冷却後、カッターを用いてペレット化する工程を含む前項1乃至16のいずれか1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【0037】
18.前項17に記載の製造方法により製造されたポリカーボネートペレット。
【0038】
19.厚さ30μm±5μmのフィルムとしたときに含まれる、最大長が20μm以上の異物が1000個/m以下である前項18に記載のポリカーボネートペレット。
【0039】
20.前項1乃至17のいずれか1に記載の製造方法で得られたポリカーボネートを製膜して得られることを特徴とする透明フィルム。
【0040】
21.前項20に記載の透明フィルムを、少なくとも一方向に延伸して得られることを特徴とする透明フィルム。
【0041】
22.波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比が下記式(7)を満足することを特徴とする前項20又は21に記載の透明フィルム。
0.5 ≦ Re450/Re550 ≦ 1.0 (7)
【発明の効果】
【0042】
本発明のポリカーボネートの製造方法により、光学特性、色相、耐熱性、熱安定性および機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造することができる。特に、本発明のポリカーボネートの製造方法によれば、異物が少なく、光学用途に好適に用いられるポリカーボネートを高い歩留まりで生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明にかかるポリカーボネートの製造方法の例を示す全体工程図である。
【図2】図2は、2軸メガネ型攪拌翼の斜視図である。
【図3】図3は、横型攪拌反応器の例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において、「〜」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いることとする。
【0045】
本発明のポリカーボネートの製造方法は、フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと、重合触媒とを連続的に反応器に供給し、重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、前記反応器は少なくとも直列に複数器接続されるものであり、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温が200℃以上225℃未満であり、かつ最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度が20Pa・s以上、1000Pa・s以下であることを特徴とする。以下、本発明のポリカーボネートの製造方法を「本発明の製造方法」と称することがある。
【0046】
<ポリカーボネートの製造工程概要>
本発明の製造方法においては、少なくとも2器の反応器を用いる2段階以上の多段工程で、上記特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下で反応させる(溶融重縮合)ことによりポリカーボネートが製造される。
【0047】
なお、以下において、1器目の反応器を第1反応器、2器目の反応器を第2反応器、3器目の反応器を第3反応器、……と称する。
【0048】
また、本明細書において「反応器」とは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを混合した後の工程で、後述する反応温度まで加熱する加熱装置を有し、意図的なエステル交換反応を起こすための装置をいい、原料を事前に混合したり溶解させたりすることを主な目的とする溶解槽、または反応液を移送するための配管は、たとえそこでわずかながら反応が進行していたとしても、前記の反応器に含まれない。
【0049】
なお、本明細書において、「最終重合反応器」とは、最も下流に備えられた反応器であって、その反応器の出口における反応液の還元粘度が、その反応器の1つ前の反応器における反応液の還元粘度の1.5倍以上となるものをいう。ただし、還元粘度が上記の条件を満たすものであれば、押し出し機等であっても、最終重合反応器とみなされる。
【0050】
重合工程は前段反応と後段反応の2段階に分けられる。前段反応は好ましくは130〜225℃、より好ましくは150〜220℃の温度で、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5〜3時間実施され、副生するモノヒドロキシ化合物を留出させ、オリゴマーを生成させる。
【0051】
後段反応は、反応系の圧力を前段反応から徐々に下げ、反応温度も徐々に上げていき、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力を好ましくは2kPa以下とし、好ましくは200〜260℃、より好ましくは210〜250℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行い、ポリカーボネートを生成させる。
【0052】
なお、本明細書における圧力とは、真空を基準に表した、いわゆる絶対圧力を指す。
【0053】
この重合工程で用いる反応器は、上記のとおり、少なくとも2器が直列に連結されたものであり、第1反応器の出口から出た反応物は第2反応器に入るものが用いられる。連結する反応器の数は特に限定されないが、2〜7器が好ましく、3〜5器がより好ましく、3〜4器が更に好ましい。
【0054】
反応器の種類も特に限定されないが、前段反応の反応器は竪型攪拌反応器が1器以上であることが好ましく、後段反応の反応器は横型攪拌反応器が1器以上であることが好ましい。
【0055】
本発明の製造方法においては、最終段の横型攪拌反応器の反応条件が、得られる樹脂の品質だけでなく、製造の歩留まりまたは樹脂中の異物量など様々な観点から重要な影響を与え得る。また、前段と後段との関係だけでなく、前段の反応器同士、後段の反応器同士の間でも、後の反応器になるほど、段階的に温度を上昇させ、段階的に圧力を減少させた設定とすることが好ましい。
【0056】
前記の反応器と次の反応器との連結は、直接配管のみで連結してもよいし、必要に応じて、予熱器等を介して行ってもよい。配管は二重管式等で反応液を冷却固化させることなく移送ができ、ポリマー側に気相がなく、かつデッドスペースを生じないものが好ましい。
【0057】
前記のそれぞれの反応器を加熱する加熱媒体の温度は、260℃以上であることが好ましく、より好ましくは255℃以上、中でも250℃以上が好ましい。加熱媒の温度が高すぎると、反応器壁面での熱劣化が促進され、異種構造若しくは分解生成物の増加、または色調の悪化等の不具合を招くことがある。
【0058】
特に未反応のジヒドロキシ化合物が熱分解によって着色物を生成しやすいため、最終重合反応器より前の反応器の加熱媒体の温度は230℃未満であることが好ましい。加熱媒体の温度の下限は、上記反応温度が維持可能な温度であれば特に制限されない。
【0059】
本発明で使用する反応器は公知のいかなるものでもよい。例えば、熱油またはスチームを加熱媒体とした、ジャケット形式の反応器および内部にコイル状の伝熱管を有する反応器等が挙げられる。
【0060】
本発明にかかる製造方法の反応方式は、連続式であることが好ましい。反応器は、複数器の竪型攪拌反応器、及びこれに続く少なくとも1器の横型攪拌反応器が用いられる。これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
【0061】
重縮合工程後、得られたポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成される。また、ポリカーボネート中の未反応原料若しくは反応副生物であるモノヒドロキシ化合物を脱揮除去する工程、または熱安定剤若しくは離型剤等を添加する工程等を適宜追加してもよい。
【0062】
前記の反応器で発生するフェノール等のモノヒドロキシ化合物は、タンクに収集しておき、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行って回収した後、DPCまたはビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。本発明の製造方法において、副生モノヒドロキシ化合物の精製方法に特に制限はないが、蒸留法を用いることが好ましい。
【0063】
次に、本発明の製造方法にかかる製造方法の各工程について説明する。本発明の製造方法は、原料モノマーとして、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)などのフルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物(フルオレン系ジヒドロキシ化合物)を含むジヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート(DPC)等の炭酸ジエステルをそれぞれ溶融状態にて、原料混合溶融液を調製し(原料調製工程)、これらの化合物を、重合触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。
【0064】
前記反応ではモノヒドロキシ化合物が副生するため、このモノヒドロキシ化合物を反応系から除去することにより、反応を進行させ、ポリカーボネートを生成させる。炭酸ジエステルとしてDPCを用いた場合、前記モノヒドロキシ化合物はフェノールとなり、減圧下でこのフェノールを除去して反応を進行させる。
【0065】
<原料調製工程>
ポリカーボネートの原料として使用する上記フルオレン系ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物、及び炭酸ジエステルは、窒素またはアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の攪拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製するか、又は、反応槽にこれらを独立に投下する。
【0066】
溶融混合の温度は、例えば、上記フルオレン系ジヒドロキシ化合物としてBHEPFを用いるとともに、後述するISBのような環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物を用い、炭酸ジエステルとしてDPCを用いる場合は、80℃〜180℃が好ましく、より好ましくは90℃〜130℃の範囲から選択される。
【0067】
また、前記原料混合溶融液に酸化防止剤を添加してもよい。通常知られるヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはリン系酸化防止剤を添加することで、原料調製工程での原料の保存安定性を向上するとともに、重合中での着色を抑制することにより、得られる樹脂の色相を改善することができる。
【0068】
使用する重合触媒は、通常、予め水溶液として準備することが好ましい。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエンまたはフェノール等の他の溶媒を選択することもできる。
【0069】
なお、重合触媒の具体例については、後記する。この重合触媒の溶解に使用する水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水または脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0070】
前記反応器での反応について説明する。
<前段反応工程>
先ず、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合物を、溶融下に、竪型反応器に供給して、温度130℃〜230℃で重縮合反応を行う。
【0071】
前記反応は、好ましくは1槽以上、より好ましくは2槽〜6槽の多槽方式で連続的に行われ、副生するモノヒドロキシ化合物の理論量の40%から95%を留出させることが好ましい。反応温度は、130℃〜225℃であることが好ましく、より好ましくは150℃〜220℃であり、圧力は40kPa〜1kPaであることが好ましい。
【0072】
多槽方式の連続反応の場合、各槽の温度を、上記範囲内で順次上げ、各槽の圧力を、上記範囲内で順次下げることが好ましい。平均滞留時間は、0.1〜10時間が好ましく、より好ましくは0.5〜5時間、さらに好ましくは0.5〜3時間である。
【0073】
温度が高すぎると熱分解が促進され、異種構造または着色成分の生成が増加し、樹脂の品質の悪化を招くことがある。一方、温度が低すぎると反応速度が低下するために生産性が低下するおそれがある。
【0074】
本発明で用いる溶融重縮合反応は平衡反応であるため、副生するモノヒドロキシ化合物を反応系外に除去することで反応が促進されるので、減圧状態にすることが好ましい。圧力は1kPa以上、40kPa以下であることが好ましく、より好ましくは5kPa以上、30kPa以下である。
【0075】
圧力が高すぎるとモノヒドロキシ化合物が留出しないために反応性が低下し、低すぎると未反応のジヒドロキシ化合物および/または炭酸ジエステルなどの原料が留出するため、原料モル比がずれて所望の分子量まで到達しないなど、反応の制御が難しくなり、また、原料原単位が悪化してしまうおそれがある。
【0076】
<後段反応工程>
次に、前段の重縮合工程で得られたオリゴマーを横型攪拌反応器に供給して、反応器の内温200℃〜250℃で重縮合反応を行い、ポリカーボネートを得る。この反応は好ましくは1器以上、より好ましくは1〜3器の横型攪拌反応器で連続的に行われる。
【0077】
反応温度は、好ましくは210〜260℃、より好ましくは220〜250℃である。圧力は、13.3kPa〜10Paが好ましく、より好ましくは1kPa〜20Paである。特に最終重合反応器においては、圧力は2kPa〜10Paが好ましく、より好ましくは1kPa〜20Paである。平均滞留時間は、0.1〜10時間が好ましくは、より好ましくは0.5〜5時間、さらに好ましくは0.5〜2時間である。
【0078】
<反応器>
少なくとも2器の反応器により重縮合工程を多槽方式で行う本発明では、竪型攪拌反応器を含む複数器の反応器を設けて、ポリカーボネートの平均分子量(還元粘度)を増大させる。
【0079】
反応器としては、例えば、竪型攪拌反応器および横型撹拌反応器が挙げられる。具体例としては、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、およびワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が挙げられる。上記の通り、前段反応工程では竪型攪拌反応器を用いるのが好ましく、後段反応工程では横型攪拌反応器を用いることが好ましい。
【0080】
本発明における反応器においては前段と後段とに関わらず、ポリカーボネートの色調の観点から、反応装置を構成する機器、配管などの構成部品の原料モノマーまたは重合液に接する部分(以下「接液部」と称する)の表面材料は、接液部の全表面積の少なくとも90%以上を占める割合で、ニッケル含有量10重量%以上のステンレス、ガラス、ニッケル、タンタル、クロムおよびテフロン(登録商標)のうち1種または2種以上から構成されていることが好ましい。
【0081】
本発明においては、接液部の表面材料が上記物質から構成されていればよく、上記物質と他の物質とからなる張り合わせ材料、または前記物質を他の物質にメッキした材料などを表面材料として用いることができる。
【0082】
前記の竪型攪拌反応器とは、垂直回転軸と、該垂直回転軸に取り付けられた攪拌翼とを具備した反応器である。攪拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼[神鋼パンテック(株)製]、サンメラー翼[三菱重工業(株)製]、マックスブレンド翼[住友重機械工業(株)製]、ヘリカルリボン翼およびねじり格子翼[(株)日立製作所製]等が挙げられる。
【0083】
また、前記の横型攪拌反応器とは、内部に複数本設けられた攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)で、当該回転軸に対してほぼ垂直に延びる複数枚の攪拌翼を有しており、それぞれの水平回転軸に設けられた攪拌翼は、互いに水平方向の位置をずらして、衝突しないように配されたものである。
【0084】
攪拌翼の形式としては、例えば、円板型およびパドル型等の一軸タイプの攪拌翼、並びにHVR、SCR、N−SCR[三菱重工業(株)製]、バイボラック[住友重機械工業(株)製]、メガネ翼および格子翼[(株)日立製作所製]等の二軸タイプの攪拌翼が挙げられる。その他、例えば、車輪型、櫂型、棒型および窓枠型などの攪拌翼が挙げられる。
【0085】
このような攪拌翼が、回転軸あたり少なくとも2段以上設置されており、該攪拌翼により反応溶液をかき上げ、又は押し広げて反応溶液の表面更新を行う。また、横型反応器の水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15であることが好ましく、より好ましくは2〜14である。
【0086】
本発明の製造方法においては、最終重合反応器の反応条件がポリカーボネートの品質だけでなく、製造の歩留まりにも影響を及ぼすため、上記の条件を踏まえた上で、品質と歩留まりとの両方を考慮した反応条件に設定することが好ましい。
【0087】
本発明で製造するポリカーボネートも、通常のポリカーボネートと同様に、反応の進行とともに反応液の粘度が上昇してくるため、多槽方式の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するモノヒドロキシ化合物(DPCを用いた場合はフェノールとなる。)をより効果的に系外に除去し、また、反応液の流動性を確保するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定することが好ましい。
【0088】
得られるポリカーボネートの色調等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温および短滞留時間の設定が好ましい。しかし、反応温度を低下させると、溶融粘度が高くなって反応液の流動性が低下し、特に横型攪拌反応器の場合、攪拌軸に反応液がからみついて垂れ落ちなくなる場合がある。
【0089】
反応液が反応器出口に定量的に流れなくなると、反応液中に気泡をかみこんで、ペレット化工程において、気泡を含有するストランドが切れて、ペレット化が停止する事態を招く。さらには、ペレット化を復旧するためにストランドをカッターにつなぐ作業が発生するため、衣服の繊維または砂埃などに起因する異物が製品中に混入するおそれがある。このため、単純に反応温度を下げればよいわけではない。
【0090】
一方で、得られるポリカーボネートの色調の観点からは、反応温度が最も高温となる最終重合反応器での滞留時間を必要最低限とする必要があるため、最終重合反応器に投入される反応液が極力低温、かつ高分子量(高粘度)であることが好ましい。
【0091】
このため最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応器の内温は225℃未満であり、好ましくは220℃以下、より好ましくは215℃以下である。一方で、温度が低すぎると十分に反応が進行せず、粘度も上がりすぎてしまうため、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温は200℃以上であり、210℃以上が好ましい。
【0092】
また、最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度は20Pa・s以上であり、好ましくは50Pa・s以上、より好ましくは100Pa・s以上である。一方、1000Pa・s以下であり、好ましくは800Pa・s以下である。
【0093】
ポリマー中に残存するモノヒドロキシ化合物などの低分子成分を除去するため、最終重合反応器の真空度は極力高い方が好ましいが、反応液の粘度が低すぎると、反応液が激しく発泡し、理想的なプラグフロー性が得られず、分子量の制御ができなくなってしまうおそれがある。また、粘度が高すぎると、最終重合反応器での流動性が低下してしまい、滞留時間が過剰になってしまい、得られるポリカーボネートの色調などの品質が悪化する。
【0094】
最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度は、前段反応の温度若しくは圧力、または触媒量などを適宜調節することで、所望の粘度に制御にすることができる。なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメーター[東洋精機(株)製]を用いて反応液の温度と同じ温度で測定された、剪断速度91.2s−1における溶融粘度を示す。
【0095】
最終重合反応器の加熱媒体の温度は260℃以下であることが好ましく、より好ましくは255℃以下、さらに好ましいのは250℃以下である。一方で、低すぎると粘度が上がりすぎてしまうので、加熱媒体の温度は220℃以上が好ましく、230℃以上がより好ましい。
【0096】
また、前記最終重合反応器において、反応液から効率的に低分子成分を除去するためには、最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液に含有されるフェノールなどのモノヒドロキシ化合物の量は3wt%以下が好ましく、より2wt%以下が好ましく、特に1.5wt%以下が好ましい。
【0097】
モノヒドロキシ化合物の含有量を低減するには、最終重合反応器の前段の反応器において、圧力を低下させる方法、滞留時間を長くするなどの方法があるが、反応液の粘度が上昇しすぎないように、反応条件を調節することが好ましい。
【0098】
なお、含まれるモノヒドロキシ化合物の量は少ないほど好ましく、実際には不可能であるが、0wt%であるのが理想である。しかし、実際には不可能であり、通常は500ppm以上であることが好ましい。
【0099】
一方、前記最終重合反応器では得られる樹脂が十分な機械的特性を有する程度に分子量を向上させる必要があるため、前記最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度は1800Pa・s以上であることが好ましく、さらに好ましくは2000Pa・s以上、特に好ましくは2200Pa・s以上である。
【0100】
一方で、溶融粘度を上げすぎると、反応液の流動性が損なわれ、また、攪拌機モーターの負荷が増大することから、溶融粘度は5000Pa・s以下であることが好ましく、4000Pa・s以下であることがより好ましい。
【0101】
最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度は、最終重合反応器の温度、圧力若しくは滞留時間などの反応条件または触媒量を調節したり、末端基バランスを調節したりすることにより制御することができる。末端基バランスは、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との仕込みモル比、または前段反応での未反応モノマーの留出量を制御することにより調節される。
【0102】
前記の反応条件において、最終重合反応器における分子量の上昇の度合いを還元粘度で表すと、下記(2)式の範囲が好ましい。Q/Pは1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上であり、一方、3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.9以下、さらに好ましくは2.8以下である。
【0103】
1.5 ≦ Q/P ≦ 3.0 (2)
(P:最終重合反応器の一つ前の反応器の出口における反応液の還元粘度、Q:最終重合反応器の出口における反応液の還元粘度)
【0104】
Q/Pを前記上限値以下とすることにより、前記最終重合反応器において熱履歴が過大となるのを抑制し、得られる樹脂の色調が悪化するのを防ぐことができる。また、Q/Pを前記下限値以上とすることにより、前記最終重合反応器以前の熱履歴が過大となるのを抑制し、同様に得られる樹脂の色調が悪化するのを防ぐ。また、前記最終重合反応器で分子量が目標よりも上昇しすぎてしまうことがなく、反応を制御し易くなる。
【0105】
QとPは前述のとおり、温度、圧力、滞留時間、触媒量または末端基バランスなどを調節することにより、それぞれ調整することが可能であり、これらの条件を適宜組み合わせることによってQ/Pを制御することができる。
【0106】
例えば、最終反応器の一つ前の反応器までにおいて、温度を低下させたり、圧力を上げたり、滞留時間を短くしたりしてPを低下させ、そのままではQも同時に低下するので、最終重合反応器の圧力を低下させてQを一定に保持することで、Q/Pを大きくすることができる。
【0107】
通常のポリカーボネートの重合においては、竪型攪拌反応器の場合は、反応液の処理量(樹脂の生産量)に応じて反応器内の液量を増減することによって、適切な滞留時間に制御する。しかし、最終重合反応器は反応液の溶融粘度が非常に高くなるために、反応器内の液量を制御することは困難であるので、最終重合反応器は反応液の処理量に対して適切な容量に設定することが好ましい。
【0108】
本発明で用いるフルオレン系ジヒドロキシ化合物を用いたポリカーボネートの場合は、通常のポリカーボネートに用いるビスフェノール類よりも分解しやすいため、前記液量の調整はより厳しい条件が課せられる。
【0109】
このため、本発明における前記最終重合反応器は下記式(4)を満たすことが好ましい。V/Aは2以上であること好ましく、より好ましくは3以上であり、一方、13以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。
【0110】
2 ≦ V/A ≦ 13 (4)
[V:横型反応器容積(L)、A:反応液処理量(kg/hr)]
【0111】
V/Aを前記上限値以下とすることにより、反応液量に対して反応器の容量が過大となるのを防ぎ、滞留時間を短くしようとする場合に、反応器内の液量の減少が抑えられ、反応器の出口に反応液が流れ込まなくなるのを抑制し、ペレット化の歩留まりを向上させることができる。また、液量を適切な量を超えて増やすと、滞留時間が長くなりすぎて、得られる樹脂の色調が悪化し、また、分子量が目標よりも上がりすぎてしまうなど、反応の制御が困難となる傾向にある。
【0112】
一方、V/Aを前記下限値以上とすることにより、滞留時間が短くなりすぎることがなく、所望の分子量まで向上させることができる。また、反応液の表面更新性が向上し、モノヒドロキシ化合物(例えばフェノール)などの残存低分子成分を低減させることができ、得られる樹脂の品質を向上させることができる。
【0113】
V/Aを調節するには、例えば、使用する横型反応器容器Vを決めた上では、反応液処理量Aを増やすことでV/Aは小さくなり、反応液処理量Aを減らすことでV/Aは大きくなる。
【0114】
ところで、前記炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネートまたはジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネートを製造する場合は、モノヒドロキシ化合物であるフェノールまたは置換フェノールが副生し、ポリカーボネート中に残存することは避けられない。
【0115】
しかし、これらのフェノール、置換フェノールといったモノヒドロキシ化合物は成形加工時の臭気の原因となる場合がある。本発明のような連続式ではなく、通常のバッチ反応で得られるポリカーボネート中には、1500ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有するモノヒドロキシ化合物が含まれている。なお、これらモノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0116】
このようなモノヒドロキシ化合物をはじめとする、樹脂中の残存低分子成分を低減するには、前記最終重合反応器の圧力を極力低くして、留去することが効果的である。しかし、上記フルオレン系ジヒドロキシ化合物または環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物をモノマーに用いた脂肪族ポリカーボネートは、従来のビスフェノールAをモノマーに用いた芳香族ポリカーボネートと比べて、反応の平衡定数が大きいために、後段反応における分子量上昇速度が速い。そのため、圧力を低下させ過ぎると反応が促進されすぎるために反応の制御が難しくなる傾向にある。
【0117】
本発明の製造方法においては、通常、ヒドロキシ末端の量と、下記構造式(8)で表されるフェニルカーボネート末端の量とが等量の時に反応速度は最大となるが、あえてヒドロキシ末端の量を減らし、フェニルカーボネート末端の量を増やすことで、粘度上昇速度を緩やかにして、最終重合反応器の圧力を低下させることが可能となる。さらに、ヒドロキシ末端が少ないほど、樹脂を溶融滞留させた時の着色が低減するなど、得られるポリカーボネートの熱安定性が向上する効果もある。
【0118】
【化4】

【0119】
このような末端基のバランスは、反応に用いられる全ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの、最初の第1反応器へ投下する際の仕込みのモル比により制御することが可能であり、全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比が0.990以上1.030以下であることが好ましい。全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの仕込みのモル比は、より好ましくは0.995以上であり、一方、より好ましくは1.25以下である。
【0120】
炭酸ジエステルのモル比を0.990以上とすることにより、後段反応においてヒドロキシ末端が消失するのを抑制し、所望の分子量まで到達させることができる。炭酸ジエステルのモル比を1.030以下とすることにより、ヒドロキシ末端が増加するのを抑制し、得られる樹脂の熱安定性が向上する。
【0121】
このように末端バランスを制御することで、前記最終重合反応器における粘度上昇速度を制御することが可能となり、前記最終重合反応器の圧力を低下できる。前記最終重合反応器の圧力は2kPa以下が好ましく、より好ましくは1.5kPa以下、さらに好ましくは1.0kPa以下である。なお、低いほど好ましいが、実質的には10Paで減圧の限界となることが多い。
【0122】
このようにして、本発明で重縮合して得られるポリカーボネート樹脂のヒドロキシ末端基の量は、前記最終重合反応器の出口における反応液中において全ヒドロキシ末端基の量が1000ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは900ppm以下、特に好ましくは800ppm以下である。
【0123】
得られるポリカーボネート樹脂が有するヒドロキシ末端基の量は少ないほど熱安定性の観点からは好ましいが、ヒドロキシ末端が完全に消失すると、反応が頭打ちとなって所望の分子量に到達しないおそれもあるため、前記最終重合反応器の出口における反応液中における全ヒドロキシ末端基の量は50ppm以上であることが好ましい。
【0124】
また、本発明で重縮合して得られるポリカーボネート樹脂中に含まれるモノヒドロキシ化合物の量は、前記最終重合反応器の一つ前の反応器出口において、1500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下である。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1ppmである。
【0125】
更に、ポリカーボネート樹脂中に含まれるモノヒドロキシ化合物の量は、前記最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液中において10ppm以上3wt%以下であることが好ましい。また、前記最終重合反応器の出口において、1500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下である。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1ppmである。
【0126】
これらの反応器の出口におけるモノヒドロキシ化合物は、反応器の圧力を可能な限り低圧にすることによって除去される。さらに、重合反応後に反応液を押出機に供給し、真空脱揮を行うことで、樹脂中のモノヒドロキシ化合物をさらに低減することができる。
【0127】
上記のとおり、本発明にかかる前記フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物を重縮合して得られるポリカーボネートは、従来の芳香族ポリカーボネートよりも熱安定性が低いことから、反応温度を極力低く設定する必要があるが、そのために従来のポリカーボネートよりも反応液の粘度が高くなる。
【0128】
反応液の粘度が高くなると、反応液が攪拌軸に巻きついて垂れ落ちなくなる場合がある。最終重合反応器内部に複数の水平回転軸を有する横型反応器を用いた場合に、反応器から安定的に反応液を抜き出すには、反応液の溶融粘度に応じて、攪拌翼の回転数を適切に設定する必要があり、下記式(3)の範囲に設定することが好ましい。
【0129】
500≦ωμ≦20000 (3)
[ω:攪拌翼回転数(rpm)、μ:横型反応器出口における反応液の溶融粘度(Pa・s)]
【0130】
なお、前記条件は攪拌翼の軸径に依存しないため、反応スケールに関わらない。ωμは好ましくは500以上であり、一方、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下である。
【0131】
ωμを前記上限値以下とすることにより、攪拌軸に反応液が巻きつくのを抑制し、ペレット化工程において歩留まりを向上させることができるとともに、樹脂中の異物が増加するのを防ぐことができる。ωμを500以上とすることにより、攪拌効率が十分となり、反応液中の残存低分子成分の量が増大するのを抑制し、反応液が反応器壁面に滞留して色調が悪化するのを防ぐことができる。
【0132】
ωμを制御する方法としては、例えば、横型反応器の温度を一定のまま、圧力を低下させて、反応液の分子量を大きくする場合は、反応液の溶融粘度μが上昇し、ωμが大きくなるため、分子量の上昇に伴って攪拌翼回転数ωを低下させることで、ωμを好ましい範囲に収めることができる。
【0133】
分子量の高いポリカーボネート樹脂を色調等の品質を悪化させることなく安定的に製造するためには、攪拌翼回転数ωは、5rpm未満であることが好ましく、より好ましくは4rpm未満、特に好ましくは3.5rpm未満、中でも3rpm未満が最適である。攪拌翼回転数が過度に高いと、攪拌による局所剪断発熱が台頭し、ポリカーボネート樹脂の品質を悪化させるだけでなく、ポリカーボネート樹脂の攪拌翼へのからみつきが強くなり、横型反応器からのポリカーボネート樹脂の排出が安定しなくなって、分子量の安定化を阻害したり、ペレット化の際のストランドが途中で切れたりするトラブルの原因となる可能性がある。
【0134】
一方、攪拌翼回転数ωが小さすぎると、界面更新性が悪化し、分子量の上昇が阻害され、延伸フィルムに適した分子量のポリカーボネート樹脂が得られなくなる可能性があるため、好ましくは0.2rpm以上、更に好ましくは0.5rpm以上、特に好ましくは0.8rpm以上である。
【0135】
本発明で重縮合して得られるポリカーボネートは、上述の重縮合反応を行った後、溶融状態のまま、フィルターに通して異物を濾過するとよい。特に、樹脂中に含まれる低分子量成分の除去、または熱安定剤等の添加混練を実施するため、重縮合で得られた樹脂を押出機に導入し、次いで押出機から排出された樹脂を、フィルターを用いて濾過することが好ましい。
【0136】
<重縮合反応以降の工程>
本発明の製造方法において、重縮合して得られるポリカーボネート樹脂を、フィルターを用いて濾過する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。濾過に必要な圧力を発生させるために、前記最終重合反応器からギアポンプまたはスクリュー等を用いて溶融状態で抜き出し、フィルターで濾過する方法、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出した後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、一旦ストランドの形態で冷却固化させてペレット化し、該ペレットを再度押出機に導入してフィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、ペレット化する方法、および最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、押出機を通さずにストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、一軸または二軸の押出機にペレットを供給し、溶融押出しした後、フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法等である。
【0137】
中でも、熱履歴を最小限に抑え、色相の悪化若しくは分子量の低下等、または熱劣化を抑制するためには、前記最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、直接フィルターで濾過し、ストランドの形態で冷却固化させて、回転式カッター等でペレット化する方法が好ましい。以下、具体的に説明する。
【0138】
本発明において押出機の形態は限定されるものではないが、通常一軸または二軸の押出機が用いられることが好ましい。中でも後述の脱揮性能の向上または添加剤の均一な混練のためには二軸の押出機が好ましい。この場合、軸の回転方向は異方向であっても同方向であってもよいが、混練性能の観点からは同方向が好ましい。押出機の使用によりフィルターへのポリカーボネート樹脂の供給を安定させることができる。
【0139】
また、上記の通り重縮合させて得られたポリカーボネート中には、通常、色相または熱安定性、さらにはブリードアウト等により製品に悪影響を与える可能性のある、原料モノマー、エステル交換反応で副生するモノヒドロキシ化合物、またはポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存しているが、ベント口を有する押出機を用い、好ましくはベント口から真空ポンプ等を用いて減圧にすることにより、これらを脱揮除去することも可能である。また、押出機内に水等の揮発性液体を導入して、脱揮を促進することもできる。ベント口は1つであっても複数であってもよいが、好ましくは2つ以上である。
【0140】
さらに、前記の押出機中で、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤または難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0141】
本発明においては、重縮合して得られたポリカーボネート樹脂中のヤケまたはゲル等の異物を除去するためフィルターで濾過するとよい。中でも、残存モノマーまたは副生フェノール等を減圧脱揮により除去し、熱安定剤または離型剤等の添加剤を混合するために、ポリカーボネート樹脂を前記の押出機で押出した後、フィルターで濾過することが好ましい。
【0142】
前記フィルターの形態としては、例えば、キャンドル型、プリーツ型またはリーフディスク型等公知のものが挙げられる。中でもフィルターの格納容器に対する濾過面積が大きく取れるリーフディスク型が好ましく、また、濾過面積が大きく取れるように複数組み合わせて用いるのが好ましい。
【0143】
本発明において用いるフィルターは、保持部材(リテイナーとも言う)に、濾過部材(以下、メディアと言うことがある)を組合せて構成されており、それらフィルターが(場合によっては複数枚・複数個)格納容器に格納されたユニット(フィルターユニットと言うこともある)の形式で用いられる。
【0144】
本発明においては、前記フィルターの差圧(圧力損失)が小さくなるように、複数の目開きのメディアを重ね合わせ、樹脂の侵入方向から順に目開きが細かくなっているタイプが好ましく、フィルター表面にゲルを破砕する目的で金属製のパウダーを焼結したタイプのものを使用することもできる。
【0145】
前記のフィルターのメディアの材質としては、得られるポリカーボネート樹脂の濾過に必要な強度と耐熱性を有している限り制限はないが、中でも鉄の含有量が少ないSUS316またはSUS316L等のステンレス系が好ましい。
【0146】
織りの種類としては、平織、綾織、平畳織または綾畳織等、異物の捕集部分が規則正しい織り状になっているものの他、不織布タイプも用いることができる。本発明においては、ゲルの捕集能力の高い不織布タイプ、中でも不織布を構成する鋼線どうしを焼結させて固定したタイプが好ましい。
【0147】
本発明において前記のフィルターの目開きは、99%の濾過精度として、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは20μm以下、異物を特に低減させたい場合には10μm以下が好ましい。
【0148】
また、目開きが小さくなるとフィルターでの圧力損失が増大して、フィルターの破損を招いたり、剪断発熱によりポリカーボネート樹脂が劣化したりする可能性があるため、99%の濾過精度として、1μm以上であることが好ましい。
【0149】
尚、ここで99%の濾過精度として定義される目開きとは、ISO16889(2008年)に準拠して決定された下記式(9)で表されるβχ値が1000の場合のχの値を言う。
βχ=(χμmより大きい1次側の粒子数)/(χμmより大きい2次側の粒子数)……(9)
(ここで、「1次側」とはフィルターでの濾過前、「2次側」とは濾過後を示す。)
【0150】
なお、前記したフィルターのうち、ステンレス等の鉄製分を含むフィルターは、200℃を超える高温での濾過の際に樹脂を劣化させる傾向があるため、使用前に不動態化処理しておくことが好ましい。不動態化処理としては、例えば、フィルターを硝酸等の酸に浸漬させたり、フィルターに酸を通液させたりして表面に不動態を形成させる方法、および水蒸気または酸素存在下で焙焼(加熱)処理する方法、並びにこれらを併用する方法等が挙げられる。中でも硝酸処理と焙焼の両方を実施することが好ましい。
【0151】
前記焙焼の温度は350℃〜500℃が好ましく、より好ましくは350℃〜450℃であり、焙焼時間は3時間〜200時間が好ましく、より好ましくは5時間〜100時間である。焙焼の温度が低すぎたり、時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、濾過時にポリカーボネート樹脂を劣化させる傾向がある。一方、焙焼の温度が高すぎたり、時間が長すぎたりすると、フィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
【0152】
また、前記の硝酸で処理する際の硝酸の濃度は、5重量%〜50重量%が好ましく、より好ましくは10重量%〜30重量%、処理時の温度は、5℃〜100℃が好ましく、より好ましくは50℃〜90℃、処理時間は、5分〜120分が好ましく、より好ましくは10分〜60分である。
【0153】
硝酸の濃度が低すぎたり、処理温度が低すぎたり、処理時間が短すぎたりすると不動態の形成が不充分になり、硝酸の濃度が高すぎたり、処理温度が高すぎたり、処理時間が長すぎたりするとフィルターメディアの損傷が激しくなり、必要な濾過精度が出なくなる可能性がある。
【0154】
尚、本発明の製造方法で使用される前記フィルターの格納容器の材質は、樹脂の濾過に耐えられる強度と耐熱性を有している限り制限はないが、好ましくは鉄の含有量が少ないSUS316またはSUS316L等のステンレス系である。
【0155】
また、前記のフィルターの格納容器は、ポリカーボネート樹脂の供給口と排出口が実質的に水平に配置されていても、実質的に垂直に配置されていても、斜めに配置されていてもよいが、フィルター格納容器内でのガスおよびポリカーボネートの滞留を抑制し、ポリカーボネートの劣化を防ぐためには、ポリカーボネートの供給口がフィルター格納容器の下部、排出口が上部に配置されていることが好ましい。
【0156】
更には、本発明の製造方法においては、前記フィルターへのポリカーボネート樹脂の供給量を安定化させるために、前記押出機と前記フィルターの間にギアポンプを配置するのが好ましい。ギアポンプの種類についての制限はないが、中でもシール部にグランドパッキンを用いない自己循環型が異物低減の観点から好ましい。
【0157】
本発明において、ポリカーボネート樹脂が直接外気と触れるストランド化、ペレット化の際には、外気からの異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
【0158】
前記フィルターで濾過されたポリカーボネート樹脂は、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化されるが、そのペレット化の際、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、へパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。
【0159】
水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらに水用フィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いる水用フィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
【0160】
<重縮合反応より前の工程>
一方、本発明の製造方法においては、異物をより低減させるために、原料モノマーを、重縮合前にフィルターで濾過するのも有効である。以下、該フィルターを原料フィルターとする。
【0161】
尚、その際の前記原料フィルターの形状としては、バスケットタイプ、ディスクタイプ、リーフディスクタイプ、チューブタイプ、フラット型円筒タイプまたはプリーツ型円筒タイプ等のいずれの型式であってもよいが、中でもコンパクトで濾過面積が大きく取れるプリーツタイプのものが好ましい。
【0162】
また、前記原料フィルターを構成する濾材としては、金属ワインド、積層金属メッシュ、金属不織布または多孔質金属板等のいずれでもよい。濾過精度の観点から積層金属メッシュまたは金属不織布が好ましく、中でも金属不織布を焼結して固定したタイプのものが好ましい。
【0163】
前記原料フィルターの材質についての制限は特になく、金属製または樹脂製セラミック製等を使用することができるが、耐熱性または着色低減の観点からは、鉄含有量80%以下である金属製フィルターが好ましく、中でもSUS304、SUS316、SUS316LまたはSUS310S等のステンレス鋼製が好ましい。
【0164】
前記原料モノマーの濾過の際には、濾過性能を確保しながら前記原料フィルターの寿命を延ばすためには、複数のフィルターユニットを用いることが好ましく、中でも上流側のユニット中のフィルターの目開きをCμm、下流側のユニット中のフィルターの目開きをDμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、CはDより大きい(C>D)ことが好ましい。当該条件を満たした場合は、フィルターがより閉塞しにくくなり、前記原料フィルターの交換頻度の低減を図ることができる。
【0165】
前記原料フィルターの目開きは特に制限はないが、少なくとも1つのフィルターにおいては、99%の濾過精度として10μm以下であることが好ましく、フィルターが複数配置されている場合には、最上流側において好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、その最下流側において好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。尚、ここで言う前記原料フィルターの目開きも、上述したISO16889(2008年)に準拠して決定されるものである。
【0166】
また、本発明において、原料を前記原料フィルターに通過させる際の原料流体の温度に制限はないが、低すぎると原料が固化し、高すぎると熱分解等の不具合があるため、通常100℃〜200℃であることが好ましく、より好ましくは100℃〜150℃である。
【0167】
さらに、本発明においては、複数種用いる原料のうち、いずれの原料を濾過してもよいし、全てを濾過してもよく、その方法は、限定されるものではなく、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの原料混合物を濾過してもよいし、別々に濾過した後に混合してもよい。また、本発明の製造法においては、重縮合反応の途中の反応液をフィルターで濾過することもできる。
【0168】
<製造装置の一例>
次に、図1を用いて、本実施の形態が適用される本発明の製造方法の一例を具体的に説明する。以下に説明する製造装置、原料または触媒は本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下に説明する例に限定されるものではない。
【0169】
図1は、本発明の製造方法で用いる製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、本発明のポリカーボネートは、原料の前記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原料調製工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程を経て製造される。重縮合工程で生成した留出液は凝縮器12a、12b、12c、12dにて液化して留出液回収タンク14aに回収される。
【0170】
重縮合工程後、重合反応液中の未反応原料若しくは反応副生物を脱揮除去する工程、熱安定剤、離型剤若しくは色剤等を添加する工程、またはポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程を経て、ポリカーボネートのペレットが成形される。
【0171】
尚、以下は、原料のジヒドロキシ化合物としてBHEPF(9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン)とISB(特定ジヒドロキシ化合物)とポリエチレングリコール1000(PEG1000)を、原料の炭酸ジエステルとしてDPCをそれぞれ用い、また、触媒として酢酸マグネシウムを用いた場合を例示して説明する。
【0172】
まず、原料調製工程において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPCの溶融液が、原料供給口1aから原料混合槽2aに供給される。そこに粉体のBHEPFが原料供給口1bから供給され、続いて、窒素ガス雰囲気下で計量されたISBの溶融液、PEG1000の溶融液が、それぞれ原料供給口1c、1dから、原料混合槽2aに連続的に供給される。そして、原料混合槽2a内でこれらは混合され、原料混合溶融液が得られる。
【0173】
次に、得られた原料混合溶融液は、原料供給ポンプ4a、原料フィルター5aを経由して第1竪型攪拌反応器6aに連続的に供給される。また、原料触媒として、酢酸マグネシウム水溶液が、原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口1eから連続的に供給される。
【0174】
図1の製造装置の重縮合工程においては、第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6dが直列に設けられる。各反応器では液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われ、第1竪型攪拌反応器6aの槽底より排出された重合反応液は第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて、第3竪型攪拌反応器6cへ、第4横型攪拌反応器6dへと順次連続供給され、重縮合反応が進行する。
【0175】
各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定することが好ましい。図1の装置を用いた場合、第4横型攪拌反応器6dが本発明における最終重合反応器に相当し、第3竪型攪拌反応器6cが最終重合反応器の一つ前の反応器に相当する。
【0176】
第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b及び第3竪型攪拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a、7b、7cがそれぞれ設けられる。また、第4横型攪拌反応器6dには、2軸メガネ型攪拌翼7dが設けられる。第3竪型攪拌反応槽6cの後には移送する反応液が高粘度になるため、ギアポンプ4bが設けられる。
【0177】
第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、加熱媒体の温度が過剰に高温にならないように、それぞれ内部熱交換器8a、8bが設けられる。
【0178】
なお、これらの4器の反応器には、それぞれ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管11a、11b、11c、11dが取り付けられる。第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bについては留出液の一部を反応系に戻すために、還流冷却器9a、9bと還流管10a、10bがそれぞれ設けられる。還流比は反応器の圧力と、還流冷却器の加熱媒体の温度とをそれぞれ適宜調整することにより制御可能である。
【0179】
前記の留出管11a、11b、11c、11dは、それぞれ凝縮器12a、12b、12c、12dに接続し、また、各反応器は、減圧装置13a、13b、13c、13dにより、所定の減圧状態に保たれる。
【0180】
尚、本実施の形態においては、各反応器にそれぞれ取り付けられた凝縮器12a、12b、12c、12dから、フェノール(モノヒドロキシ化合物)等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型攪拌反応器6cと第4横型竪型攪拌反応器6dにそれぞれ取り付けられた凝縮器12c、12dの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
【0181】
所定の分子量まで上昇させた反応液は第4横型攪拌反応器6dから抜き出され、ギアポンプ4cにより二軸押出機15aに移送される。二軸押出機には真空ベントが具備されており、ポリカーボネート中の残存低分子成分を除去する。また、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、着色剤または離型剤などが添加される。
【0182】
二軸押出機15aからギアポンプ4dによりポリマーフィルター15bに樹脂が供給され、異物が濾過される。フィルターを通った樹脂はダイスヘッドからストランド状に抜き出され、ストランド冷却槽16aで水により樹脂を冷却した後、ストランドカッター16bでペレットにされる。ペレットは空送ブロワー16cにより、気力輸送されて、製品ホッパー16dに送られる。計量器16eで所定量の製品が製品袋に梱包される。
【0183】
<連続製造装置における溶融重縮合の開始>
本実施の形態では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく重縮合は、以下の手順に従い開始される。
【0184】
先ず、図1に示す連続製造装置において、直列に接続された4器の反応器(第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d)を、予め、所定の内温と圧力とにそれぞれ設定する。ここで、各反応器の内温、加熱媒体の温度と圧力とは、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
【0185】
(第1竪型攪拌反応器6a)
内温:130℃〜230℃、圧力:40kPa〜10kPa、加熱媒体の温度140℃〜240℃ 、還流比0.01〜10
(第2竪型攪拌反応器6b)
内温:150℃〜230℃、圧力:40kPa〜8kPa、加熱媒体の温度160℃〜240℃、還流比0.01〜5
(第3竪型攪拌反応器6c)
内温:170℃〜230℃、圧力:10kPa〜1kPa、加熱媒体の温度180℃〜240℃
(第4横型攪拌反応器6d)
内温:210℃〜260℃、圧力:2kPa〜10Pa、加熱媒体の温度210〜260℃
【0186】
次に、別途、原料混合槽2aにて窒素ガス雰囲気下、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、所定のモル比で混合し、原料混合溶融液を得る。
【0187】
続いて、前述した4器の反応器の内温と圧力が、それぞれの設定値の±5%の範囲内に達した後に、別途、原料混合槽2aで調製した原料混合溶融液を、第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給する。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒を連続供給し、エステル交換反応を開始する。
【0188】
エステル交換反応が行われる第1竪型攪拌反応器6aでは、重合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型攪拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、液面計等で液レベルを検知しながら槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
【0189】
続いて、重合反応液は、第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出され、第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて第2竪型攪拌反応器6bの槽底から排出され、第3竪型攪拌反応器6cへ逐次連続供給される。この前段反応工程において、副生するフェノールの理論量に対して50%から95%が留出され、オリゴマーが生成する。
【0190】
次に、前記前段反応工程で得られたオリゴマーをギアポンプ4bにより移送し、横型攪拌反応器6dに供給して、後述するような後段反応を行なうのに適した温度・圧力条件下で、副生するフェノールおよび一部未反応モノマーを、留出管11dを介して系外に除去してポリカーボネートを生成させる。本発明では、前記横型攪拌反応器6dの一つ前の反応器である第3竪型攪拌反応器6cの内温を、200℃以上225℃未満とすることが必要となる。
【0191】
前記横型攪拌反応器6dは、1本または2本以上の水平な回転軸を有し、該水平回転軸から垂直方向に延びる円板型、車輪型、櫂型、棒型または窓枠型などの攪拌翼を1種または2種以上組合わせて、回転軸あたり少なくとも水平方向に2段以上設置されている。
【0192】
水平回転軸が2本以上ある場合、それぞれの水平回転軸に設けられた攪拌翼は、互いに衝突しないように、水平位置をずらして配してある。このような攪拌翼により反応溶液をかき上げ、または押し広げて反応溶液の表面更新を行なう。
【0193】
その形状は、それら水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15である。なお、本明細書中、上記「反応溶液の表面更新」という語は、液表面の反応溶液が液表面下部の反応溶液と入れ替わることを意味する。
【0194】
前記横型攪拌反応器6dとして、2軸メガネ型攪拌翼7dを有する攪拌機の例を図2及び図3に示す。図2は2軸メガネ型攪拌翼7dの斜視図であり、図3はそれを収めた横型攪拌反応器6dを上から見た模式図である。
【0195】
攪拌翼21A、21Bは互いに90度の位相差の関係にあり、それぞれの軸22A、22Bは逆回転している。これにより、それぞれの攪拌翼21A、21Bの先端部分が、相手方の攪拌翼21B、21Aに密着した樹脂をこそげ落としながら回転していく。このような攪拌翼21A、21Bが、軸方向に複数枚連ねられている。
【0196】
前記後段反応工程における反応温度は、通常200〜260℃であることが好ましく、より好ましくは210〜250℃の範囲であり、反応圧力は、通常13.3kPa〜10Paであることが好ましく、より好ましくは2kPa〜30Pa、さらに好ましくは1kPa〜50Paである。
【0197】
本発明の製造方法において、横型攪拌反応器6dを、装置構造上、2軸ベント式押出機と比較してホールドアップが大きいものを用いることにより、反応液の滞留時間を適切に設定でき、かつ剪断発熱を抑制されることによって温度を下げることができ、より色調の改良された、機械的性質の優れたポリカーボネートを得ることが可能となる。
【0198】
なお、横型攪拌反応器は、水平軸と、該水平軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有する装置であり、押出機と異なりスクリュー部分を有していない。本発明の製造方法においては、このような横型攪拌反応器を少なくとも1器用いることが好ましい。
【0199】
本実施の形態では、図1に示す連続製造装置において、4器の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが予熱器を介して連続供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。
【0200】
これにより、各反応器における重合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。その結果、重合反応液は必要以上の熱履歴を受けることがなく、得られるポリカーボネート中に生じるゲルまたはヤケ等の異物が低減する。また色調も良好となる。
【0201】
このようにして重縮合して得られる本発明のポリカーボネートの分子量は、還元粘度で表すことができ、0.20dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがより好ましく、一方、1.20dL/g以下であることが好ましく、1.00dL/g以下であることがより好ましく、0.80dL/g以下であることがさらに好ましい。
【0202】
ポリカーボネートの還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が低くなる可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性または成形性を低下する傾向がある。尚、前記の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値である。
【0203】
本発明の製造方法により、上記式(1)の構造を有するポリカーボネートでありながら、着色が少なく、異物の少ない樹脂が得られる。具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂から成形された厚さ30μm±5μmのフィルムに含まれる最大長が20μm以上の異物が、好ましくは1000個/m以下、より好ましくは500個/m以下、最も好ましくは200個/m以下とすることができる。
【0204】
<原料と触媒>
以下、本発明のポリカーボネートに使用可能な原料、触媒について説明する。
【0205】
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネートの製造に用いられるジヒドロキシ化合物は、フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物(フルオレン系ジヒドロキシ化合物)を含む。得られるポリカーボネートの耐熱性若しくは機械強度、光学特性または重合反応性の観点から9,9−ジフェニルフルオレンの構造を有する下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0206】
【化5】

【0207】
前記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。
【0208】
〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数1〜6のアルキル基であるのが好ましく、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であるのがより好ましい。Xは無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、無置換若しくはエステル基、エーテル基、カルボン酸、アミド基、ハロゲンが置換した炭素数6〜炭素数20のアリーレン基が好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基であるのがより好ましい。又、m及びnはそれぞれ独立に0〜2の整数であるのが好ましく、中でも0又は1が好ましい。
【0209】
具体的には、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル]フルオレンおよび9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0210】
本発明のポリカーボネートは、所望の光学物性に調節するために、上記のフルオレン系ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。適度な複屈折若しくは低光弾性係数などの光学特性、耐熱性または機械強度などの観点から、構造の一部に前記式(5)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(特定ジヒドロキシ化合物)が好ましい。
【0211】
具体的には、例えば、オキシアルキレングリコール類、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物および環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0212】
構造の一部に前記式(5)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、例えば、オキシアルキレングリコール類、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物および環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0213】
前記のオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0214】
前記の主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニルおよびビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。
【0215】
前記の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物、および下記式(11)または下記式(12)で表されるスピログリコール等が挙げられる。
【0216】
なお、前記の「環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。
【0217】
【化6】

【0218】
【化7】

【0219】
【化8】

【0220】
ただし、前記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニドおよびイソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0221】
これらのジヒドロキシ化合物の中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性および得られるポリカーボネートの色相の観点から、式(10)、(11)または(12)で表されるヒドロキシ化合物に代表される、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、上記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物または下記式(11)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物がさらに好ましく、下記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物等の、糖由来の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物である無水糖アルコールが特に好ましい。
【0222】
これらの特定ジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネートの光学特性の観点から好ましい。中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる上記式(10)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性およびカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0223】
これらの特定ジヒドロキシ化合物は、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0224】
上記式(2)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤または熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に酸性下で本発明の特定ジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
【0225】
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩および脂肪酸塩、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。安定剤の中でも安定化の効果からはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾールまたはヒンダードアミン系安定剤が好ましい。
【0226】
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、本発明で用いる前記式(2)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7以上となるように安定剤を添加することが好ましい。
【0227】
少なすぎると本発明のフルオレン系ジヒドロキシ化合物または上記特定ジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎてもフルオレン系ジヒドロキシ化合物または上記特定ジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明で用いるそれぞれのジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0228】
また、前記式(2)で表される構造を有する特定ジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管または製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
【0229】
イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートの着色を招いたり、物性を著しく劣化させたりするだけでなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。
【0230】
本発明のポリカーボネートは、上記のフルオレン系ジヒドロキシ化合物及び特定ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0231】
前記その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物および芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
【0232】
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオールおよび1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
【0233】
前記の直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、およびネオペンチルグリコールおよびヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0234】
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノールおよびリモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0235】
前記の芳香族ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0236】
これらの前記その他のジヒドロキシ化合物も、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよく、2種以上を組み合わせた上で前記フルオレン系ジヒドロキシ化合物または前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよい。
【0237】
中でも、ポリカーボネートの光学特性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、または脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
【0238】
前記したうち、本発明のポリカーボネートに適した脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0239】
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはトリシクロデカンジメタノールが好ましく、より好ましいのは1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサン構造を有するジヒドロキシ化合物である。
【0240】
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネートは、上述したフルオレン系ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
【0241】
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(13)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0242】
【化9】

【0243】
前記式(13)において、AおよびAは、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基または置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。AおよびAの好ましいものは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましいのは無置換の芳香族炭化水素基である。
【0244】
前記式(13)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が挙げられる。中でも、好ましくはジフェニルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0245】
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0246】
(エステル交換反応触媒)
本発明のポリカーボネートは、上述のように特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(13)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。
【0247】
前記エステル交換反応の際には、エステル交換反応触媒存在下で重縮合を行うが、本発明のポリカーボネートの製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、反応速度または重縮合して得られるポリカーボネートの色調に非常に大きな影響を与え得る。
【0248】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネートの透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。例えば、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物およびアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0249】
前記の1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩および2セシウム塩等が挙げられる。中でも重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、リチウム化合物が好ましい。
【0250】
前記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
【0251】
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0252】
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンおよび四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0253】
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0254】
前記のアミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンおよびグアニジン等が挙げられる。
【0255】
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmolが好ましく、より好ましくは0.5μmol〜100μmolである。
【0256】
中でも長周期型周期表における2族からなる群及びリチウムより選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、より好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上とする。また上限としては、通常40μmolが好ましく、より好ましくは30μmol、さらに好ましくは20μmolである。
【0257】
ただし、本発明で用いるフルオレン部位を有する特定ジヒドロキシ化合物は、合成する際に用いられる触媒に由来する硫黄不純物が含有されている場合があり、前記重合触媒を失活させる作用があるため、実際に添加する重合触媒は、失活される分だけ前記の範囲よりも余分に使用することが好ましい。
【0258】
反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たりの全硫黄元素含有量をAμmol、重合触媒の金属元素量をBμmolとした時に、下記式(14)の範囲になることが好ましい。
【0259】
0.1 ≦ B/A ≦ 2 (14)
【0260】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネートを得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。そのために、得られるポリカーボネートの色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。
【0261】
一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネートの色相の悪化または成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
【0262】
1族金属の中でもナトリウム、カリウムおよびセシウムは、ポリカーボネート中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合がある。
【0263】
出所にかかわらず、ポリカーボネート中の前記金属の化合物の合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、2μmol以下が好ましく、より好ましくは1μmol以下、さらに好ましくは0.5μmol以下である。
【0264】
<ポリカーボネートの物性および用途>
このようにして得られた本発明のポリカーボネートの分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、0.20dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがより好ましく、一方、1.00dL/g以下であることが好ましく、0.80dL/g以下であることがより好ましく、0.70dL/g以下であることがさらに好ましい。
【0265】
ポリカーボネートの還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が小さくなる可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性または成形性が低下する傾向がある。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0266】
本発明におけるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は100℃以上160℃以下であることが好ましく、より好ましくは110℃以上150℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。
【0267】
また、ポリカーボネート樹脂を位相差フィルムとし、偏光板と張り合わせた場合には画像品質を下げる場合がある。一方、ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時にフィルム厚みのムラが生じたり、フィルムが脆くなるなど、成形安定性が悪化する場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。
【0268】
本発明のポリカーボネート樹脂は、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤または相溶化剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサーまたは押出機などで混合することもできる。
【0269】
本発明のポリカーボネート樹脂を用いたフィルムの製造法としては、溶融押出法が生産性の点から好ましい。溶融押出法においては、Tダイを用いて樹脂を押し出し、冷却ロールに送る方法が好ましく用いられる。この時の溶融温度はポリカーボネートの分子量、Tg、溶融流動特性などから決められるが、150℃〜300℃の範囲であることが好ましく、170℃〜280℃の範囲がより好ましい。
【0270】
前記温度が高すぎると熱劣化による着色、異物若しくはシルバーの発生による外観不良、またはTダイからのダイラインなどの問題が起きやすくなる。前記温度が低すぎると粘度が高くなり、ポリマーの配向または応力歪みが残りやすい。
【0271】
製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値がこれ以上大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内のばらつきが大きくなるので好ましくない。
【0272】
前記のフィルムの製造法としては溶液キャスト法を用いることもできる。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジオキソラン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエンまたはメチルエチルケトンなどが好ましい。
【0273】
溶液キャスト法で得られるフィルム中の残留溶媒量は2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。2重量%以下とすることにより、残留溶媒量が多いことによるフィルムのガラス転移温度の低下を防ぐことができ、耐熱性の点で好ましい。
【0274】
前記のフィルムの厚みとしては、20μm〜400μmの範囲が好ましく、より好ましくは30μm〜300μmの範囲である。かかるフィルムをさらに延伸して位相差フィルムとする場合には、該位相差フィルムの所望の位相差値および厚みを勘案して前記範囲内で適宜決めればよい。
【0275】
かくして得られた未延伸フィルムを延伸配向させることにより、位相差フィルムを得ることができる。延伸方法としては、例えば、縦一軸延伸およびテンター等を用いる横一軸延伸、並びにそれらを組み合わせた同時二軸延伸および逐次二軸延伸など公知の方法が挙げられる。
【0276】
延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。さらにバッチ式に比べて、連続の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる。延伸温度はポリカーボネート樹脂のガラス転移温度に対して、(Tg−20℃)〜(Tg+30℃)の範囲内であることが好ましく、より好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+20℃)の範囲内である。
【0277】
延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、1.05倍〜4倍であることが好ましく、より好ましくは1.1倍〜3倍である。
【0278】
本発明におけるポリカーボネート樹脂を成形してなる透明フィルムは複屈折が0.001以上であることが好ましく、更には0.0014以上であることが好ましい。複屈折が過度に小さいと位相差フィルムとした場合、同じ位相差を発現させるためには、フィルム厚みを厚くしなければならず、薄型の機器には適合できない可能性がある。尚、上記複屈折は本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度+15℃の延伸温度で固定一軸延伸した透明フィルムを測定した値である。
【0279】
本発明にかかる前記位相差フィルムは、公知のヨウ素系または染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することにより、各種液晶表示装置、または有機EL表示装置用などの位相差板として用いることができる。
【0280】
本発明にかかる前記透明フィルムは、波長450nmで測定した位相差(Re450)の、波長550nmで測定した位相差(Re550)に対する比は0.5以上1.0以下が好ましく、0.70以上1.0以下がより好ましく、0.80以上0.95以下が更に好ましい。
【0281】
前記比率が前記範囲であれば、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる。例えば、1/4波長板としてこのような波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができ、色相の波長依存性が少ない偏光板および表示装置の実現が可能である。
【0282】
一方、前記比率が前記範囲外の場合には、色相の波長依存性が大きくなる傾向にあり、可視領域のすべての波長において光学補償がなされなくなったり、偏光板または表示装置に光が通り抜けることによる着色またはコントラストの低下などの問題が生じうる。
【0283】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄く平らな製品をいい、通常はロールの形で供給されるものであり、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかしながら、「シート」と「フィルム」との間の境界は定かではなく、本発明において文言上両者を区別する必要はないので、本明細書において「フィルム」と称する場合であっても、「シート」をも含む概念として用いることとする。
【0284】
本発明にかかる前記透明フィルムは、光弾性係数が50×10−12Pa−1以下であることが好ましく、40×10−12Pa−1以下であることが更に好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、位相差フィルムとした場合、偏光板と張り合わせると、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置に用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる傾向にある。
【0285】
本発明の位相差フィルムは各種ディスプレイ(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用または直線偏光の円偏光への変換用などに用いることができる。
【0286】
前記液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。偏光フィルム、1/4波長板、及び透明電極を有する2枚の基板間に液晶層を含む液晶セルをこの順で具備する反射型液晶表示装置であって、かかる1/4波長板として、液晶表示装置、特に偏光フィルム1枚型反射型液晶表示装置に用いることにより、画質に優れた表示装置を得ることが出来る。
【0287】
前記反射型液晶表示装置としては、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層および散乱反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光フィルム、散乱板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層および鏡面反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、透明電極付基板および反射層の順に構成されているもの等である。
【0288】
さらに、前記1/4波長板は透過型と反射型の両方を兼ね備えた液晶表示装置においても使用し得る。該液晶表示装置の構成としては例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、反射透過兼用電極付基板、位相差フィルム、偏光フィルムおよびバックライトシステム等が挙げられる。
【0289】
さらに、例えば、コレステリック液晶よりなる左右どちらかの円偏光のみ反射する反射型偏光フィルムにおいて、円偏光を直線偏光に変換する素子として使用すれば、広帯域で良好な直線偏光が得られる。
【0290】
本発明にかかるポリカーボネート樹脂は複屈折が小さく、耐熱性および成形性にも優れ、さらに着色が少なく高い透明性を兼ね備えているため、その他の光学フィルム、光ディスク、光学プリズムまたはピックアップレンズ等にも用いることもできる。
【実施例】
【0291】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
・BHEPF:9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン [大阪ガスケミカル(株)製]……硫黄元素含有量は5ppmから7ppmのものを用いた。
・ISB:イソソルビド [ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB]
・PEG#1000:ポリエチレングリコール 数平均分子量1000 [三洋化成工業(株)製]
・DEG:ジエチレングリコール [三菱化学(株)製]
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール [新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM]
・DPC:ジフェニルカーボネート [三菱化学(株)製]
ポリカーボネートの組成分析と物性の評価は次の1)〜8)の方法により行った。
【0292】
1)反応液中のモノヒドロキシ化合物(フェノール)含有量
試料約0.5gを精秤し、塩化メチレン5mlに溶解した後、総量が25mlになるようにアセトンを添加した。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにてフェノールの定量を行った後、含有量を算出した。用いた装置または条件は、次のとおりである。
・装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmΦ×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:260nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=40/60(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで
10分間でグラジエント
・流量:1mL/min
・試料注入量:10μL
【0293】
2)ポリカーボネート中の全ヒドロキシ末端基量の測定
ポリカーボネート30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、H NMRスペクトルを測定した。ポリカーボネートを構成する各ジヒドロキシ化合物に由来するヒドロキシ末端基、および各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナルの強度比より全ヒドロキシ末端基の量を定量した。用いた装置または条件は、次のとおりである。
・装置:日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)
・測定温度:常温
・緩和時間:6秒
・積算回数:512回
また、計算方法は次の通りである。
【0294】
本発明で例示するBHEPFとISBとPEG1000の共重合ポリカーボネートの場合のH NMRの解析は以下のとおり行う。次のピークの積分値を算出する。
(α):8.0−7.6ppm:全BHEPF構造単位由来(プロトン数:2、分子量:464.51)
(β):5.6−4.8ppm:全ISB構造単位由来(プロトン数:3、分子量:172.14)
(γ):3.7−3.5ppm:全PEG1000構造単位由来(プロトン数:82.3、分子量:1025.99)
(δ):2.8−1.0ppm:ヒドロキシ末端基由来(プロトン数:1、分子量:17.01)
【0295】
ヒドロキシ末端基量[ppm]=(δ)積分値×17.01/{(α}積分値/2×464.51+(β)/3×172.14+(γ)/82.3×1025.99}×1000000
【0296】
3)還元粘度
溶媒として塩化メチレンを用い、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度C(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/Cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0297】
4)ポリカーボネートのペレットYI値
ポリカーボネートの色相は、ASTM D1925に準拠して、ペレットの反射光におけるYI値(イエローインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM−5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。
【0298】
白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。YI値が小さいほど樹脂の黄色味が少なく、色調に優れることを意味する。
【0299】
5)ポリカーボネート樹脂中の異物の定量
Tダイを具備した20mm径の一軸押出機のバレル設定温度を、ペレットの供給側から220℃、230℃、240℃、240℃、230℃とし、冷却ロールを用いて厚さ30μm±5μmのフィルムを成形し、Optical Control System社製、Film Quality Testing System(型式FSA100)を使用し、1m当たりの25μm以上の異物数を測定した。24時間運転中に3時間おきにポリカーボネートペレットをサンプリングし、8回測定した平均値を用いた。
【0300】
6)ポリカーボネート樹脂中の硫黄元素量の測定
ポリカーボネート樹脂試料を白金製ボートに採取し、石英管管状炉(三菱化学(株)製AQF−100型)で加熱し、燃焼ガス中の硫黄分を0.03%の過酸化水素水溶液で吸収した。吸収液中のSO2−をイオンクロマトグラフ(Dionex社製ICS−1000型)で測定した。
【0301】
7)位相差及び位相差の波長分散性
80℃で5時間真空乾燥したポリカーボネート樹脂サンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却しフィルムを作製し、幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。
【0302】
前記試料を、バッチ式二軸延伸装置[東洋精機産業(株)製]で、延伸温度をポリカーボネート樹脂のガラス転移温度+15℃、延伸速度を720mm/分(ひずみ速度1200%/min)で、延伸倍率2.0倍の一軸延伸を行った。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
【0303】
延伸された試料より幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置[王子計測機器(株)製KOBRA−WPR]を用いて測定波長450,500,550,590,630nmで位相差を測定し、波長分散性を測定した。波長分散性は、450nmと550nmで測定した位相差Re450とRe550の比(Re450/Re550)を計算した。位相差比が1より大きいと波長分散は正であり、1未満では負となる。それぞれの位相差の比が、1未満で小さい程、負の波長分散性が強いことを示している。
【0304】
8)溶融粘度の測定
80℃で5時間、真空乾燥した試料を用いて、キャピラリーレオメーター〔東洋精機(株)製〕で測定を行った。反応温度と同じ温度に加熱して、剪断速度9.12〜1824sec−1間で溶融粘度を測定し、91.2sec−1における溶融粘度の値を用いた。第3竪型攪拌反応器出口の試料はダイス径1mmφ×40mmLのオリフィスを使用し、第4横型攪拌反応器出口の試料はダイス径1mmφ×10mmLのオリフィスを使用した。
【0305】
[実施例1]
前述した図1に示すように、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネートを製造した。
【0306】
先ず、各反応器を表−1のとおり、予め反応条件に応じた内温・圧力に設定した。
次に別途、原料調製工程にて窒素ガス雰囲気下、BHEPFとISBとPEG#1000とDPCとを一定のモル比(BHEPF/ISB/PEG#1000/DPC=0.432/0.556/0.0120/1.010)で混合し、120℃に加熱して、原料混合溶融液を得た。
【0307】
【表1】

【0308】
続いて、この原料混合溶融液を、140℃に加熱した原料導入管を介して、前述した所定温度・圧力の±5%の範囲内に制御した第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が90分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0309】
上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒として酢酸マグネシウム水溶液を、全ジヒドロキシ成分1molに対し、19μmolの割合で連続供給した。
【0310】
第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d(2軸メガネ翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。これらの反応器での実際の運転条件を表−2に記載する。
【0311】
第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d(2軸メガネ翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。重合反応の間、表−1に示した平均滞留時間となるように各反応器の液面レベルを制御した。
【0312】
第4横型攪拌反応器6dの容量は250L、加熱媒体の温度は240℃であり、40kg/hrの処理量で反応液を供給した。第3竪型攪拌反応器が最終重合反応器の一つ前の反応器に対応する。すなわち、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温は220℃である。
【0313】
第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.39から0.41の範囲となるように反応条件を合わせ込んだところ、圧力は0.8kPa、平均滞留時間は100分となった。攪拌軸の回転数は1rpmとなるように設定した。
【0314】
第4横型攪拌反応器6dから抜き出された反応液は、ギアポンプ4cにより押出機15aに移送された。該押出機[(株)日本製鋼所製:2軸押出機LABOTEX30HSS−32:L/D=32]は2つのベント口を有し、真空ポンプを用いてベント口より脱揮を行った。この時のベント部の圧力は絶対圧力で1kPa以下であった。
【0315】
押出機16dの樹脂の排出側にギアポンプ4cを配置し、さらにその下流に、格納容器内部に外径112mm、内径38mm、99%の濾過精度として20μmであるリーフディスクフィルター(日本ポール(株)製)を10枚装着したポリマーフィルター15bを配置した。ポリマーフィルターの排出側には、ストランド化するためのダイを装着した。
【0316】
排出される樹脂はストランドの形態で水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化した。ストランド化からペレット化までの工程はクリーンルーム内で実施された。続いて、ペレットは気力移送によって、製品ホッパー16dに送られた。
【0317】
ポリカーボネートの製造中に、ギアポンプ4bの後に取り付けられたバルブから最終重合反応器の1つ前の反応器の出口に該当する反応液を、ギアポンプ4cの後に取り付けられたバルブから最終重合反応器出口に該当する反応液を、ストランドカッター16bの後でポリカーボネートペレットをそれぞれサンプリングし、前述の分析方法により各種分析を実施した。
【0318】
上記の反応条件にて、24時間運転を実施したところ、24時間中にストランドが切断し、ペレット化が停止した回数は2回であった。これらの結果をまとめて表−2に示す。
【0319】
[実施例2]
第3竪型攪拌反応器6cの圧力を22kPaとし、実施例1よりも第3竪型攪拌反応器6cの出口の分子量および溶融粘度を低下させた。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.39から0.41の範囲となるように第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は0.6kPa、平均滞留時間は120分となった。言及していない項目については実施例1と同様に行った。
【0320】
反応器の中で最も高温となる第4横型攪拌反応器の反応時間が長くなったために、得られたポリカーボネートの色調は実施例1よりも若干悪化したもののペレット化工程における24時間中ペレット化停止回数は1回であり、良好であった。
【0321】
[実施例3]
原料の仕込みモル比をBHEPF/ISB/PEG#1000/DPC=0.432/0.556/0.0120/0.995とした。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器6dの条件を調節したところ、圧力は1.5kPa、平均滞留時間は100分となった。言及していない項目については実施例1と同様に行った。
【0322】
ヒドロキシ末端とフェニルカーボネート末端の量がバランスしたために、第4横型反応器内の分子量上昇速度が速くなり、圧力が高くなったためにポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物含有量が増加した。色調は良好であった。
【0323】
[実施例4]
第4横型反応器6dの攪拌回転数を6rpmとした以外は実施例1と同様に実施した。攪拌軸に反応液がからみついて反応器出口に垂れ落ちにくい状況となり、24時間運転中にペレット化工程が12回停止した。得られたポリカーボネートペレットの異物量は著しく増大した。モノヒドロキシ化合物含有量は実施例1よりも低減し、色調は良好であった。
【0324】
[実施例5]
第4横型攪拌反応器6dの攪拌回転数を0.5rpmとした以外は実施例1と同様に実施した。安定して運転が継続可能であったが、実施例1と比較して、攪拌効率が低下したために、得られたポリカーボネート中のフェノール含有量が増加した。異物量は非常に少なくなった。また、ペレットYIが色調も良好であった。
【0325】
[実施例6]
ジヒドロキシ化合物にBHEPFとISBとDEGを用いた(仕込みモル比:BHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.349/0.495/0.156/1.005/1.50×10−5)。最終重合反応器の処理量が50kg/hrとなるように、反応器に原料を連続的に供給した。第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.41から0.44の範囲となるように反応条件を合わせ込み、各反応器の条件も反応の進行具合に合わせて適宜調節した。特に言及しないことについては実施例1と同様に行った。
ポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物の含有量や異物も非常に少なく、色調も良好なポリカーボネートが得られた。
【0326】
[実施例7]
ジヒドロキシ化合物にBHEPFとCHDMを用いた(仕込みモル比:BHEPF/CHDM/DPC/酢酸マグネシウム=0.355/0.645/1.005/1.50×10−5)。最終重合反応器の処理量が50kg/hrとなるように、反応器に原料を連続的に供給した。第4横型攪拌反応器6dの出口の還元粘度が0.57から0.60の範囲となるように反応条件を合わせ込み、各反応器の条件も反応の進行具合に合わせて適宜調節した。特に言及しないことについては実施例1と同様に行った。
ポリカーボネート中のモノヒドロキシ化合物の含有量や異物も非常に少なく、色調も良好なポリカーボネートが得られた。
【0327】
[比較例1]
第3竪型攪拌反応器6cの内温を230℃まで上昇させた。実施例1と同様に第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は1.1kPa、平均滞留時間は100分となった。言及していない項目については実施例1と同様に行った。実施例1と比較して、得られたポリカーボネートは色調が悪化し、モノヒドロキシ化合物含有量も増加した。
【0328】
[比較例2]
実施例6において、第3竪型攪拌反応器6cの内温を230℃まで上昇させた。実施例6と同様に第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は0.9kPa、平均滞留時間は100分となった。言及していない項目については実施例6と同様に行った。実施例6と比較して、得られたポリカーボネートは色調が悪化し、モノヒドロキシ化合物含有量も増加した。
【0329】
[比較例3]
実施例7において、第3竪型攪拌反応器6cの内温を230℃まで上昇させた。実施例7と同様に第4横型攪拌反応器の条件を調節したところ、圧力は0.8kPa、平均滞留時間は100分となった。言及していない項目については実施例7と同様に行った。実施例7と比較して、得られたポリカーボネートは色調が悪化し、モノヒドロキシ化合物含有量も増加した。
【0330】
以上の実施例1〜7及び比較例1〜3の結果をそれぞれ表−2に示す。
【0331】
【表2】

【0332】
[まとめ]
表−2に示すように、本発明の製造方法に規定するように、最終重合反応器の1つ前の反応器の反応条件を適切に設定することで、ポリカーボネートの品質を向上できるとともに、運転が安定し、歩留まりが向上する利点も得られることがわかった。特に実施例1〜5はいずれも比較例1よりもペレットYIが低く、色調が良好であった。また、実施例6及び7はそれぞれ比較例2及び3に対してペレットYIが低く、色調が良好であり、また、モノヒドロキシ化合物の含有量も少なかった。
【0333】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2011年3月31日付で出願された日本特許出願(特願2011−080053)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0334】
1a 原料(炭酸ジエステル)供給口
1b、1c、1d原料(ジヒドロキシ化合物)供給口
1e 触媒供給口
2a 原料混合槽
3a アンカー型攪拌翼
4a 原料供給ポンプ
4b、4c、4d ギアポンプ
5a 原料フィルター
6a 第1竪型反応槽
6b 第2竪型反応槽
6c 第3竪型反応槽
6d 第4横型反応器
7a、7b、7c マックスブレンド翼
7d 2軸メガネ型攪拌翼
8a、8b 内部熱交換器
9a、9b 還流冷却器
10a、10b 還流管
11a、11b、11c、11d 留出管
12a、12b、12c、12d 凝縮器
13a、13b、13c、13d 減圧装置
14a 留出液回収タンク
15a 二軸押出機
15b ポリマーフィルター
16a ストランド冷却槽
16b ストランドカッター
16c 空送ブロワー
16d 製品ホッパー
16e 計量器
16f 製品袋(紙袋、フレキシブルコンテナーバッグなど)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと、重合触媒とを連続的に反応器に供給し、重縮合してポリカーボネートを製造するポリカーボネートの方法であって、前記反応器は少なくとも直列に複数器接続されるものであり、最終重合反応器の一つ前の反応器の内温が200℃以上225℃未満であり、かつ最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の溶融粘度が20Pa・s以上、1000Pa・s以下であることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液の還元粘度をP、前記最終重合反応器の出口における反応液の還元粘度をQとした場合に下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネートの製造方法。
1.5 ≦ Q/P ≦ 3.0 (2)
【請求項3】
前記最終重合反応器が、内部に複数の水平回転軸を有する横型攪拌反応器であって、反応条件が下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネートの製造方法。
500 ≦ ωμ ≦ 20000 (3)
[ω:攪拌翼回転数(rpm)、μ:横型反応器出口における反応液の溶融粘度(Pa・s)]
【請求項4】
前記横型攪拌反応器の反応条件が下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネートの製造方法。
2 ≦ V/A ≦ 13 (4)
[V:横型反応器容積(L)、A:反応液処理量(kg/hr)]
【請求項5】
前記最終重合反応器の出口における反応液の溶融粘度が1800Pa・s以上5000Pa・s以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
前記最終重合反応器の加熱媒体の温度が220℃以上、260℃以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
最初の前記反応器に投入する際の反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルの仕込みのモル比が0.990以上1.030以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項8】
前記最終重合反応器の出口における反応液中の全ヒドロキシ末端基の量が50ppm以上1000ppm以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項9】
前記最終重合反応器の1つ前の反応器の出口における反応液中のモノヒドロキシ化合物の量が10ppm以上3wt%以下であり、かつ前記最終重合反応器の出口における反応液中のモノヒドロキシ化合物の量が1ppm以上1500ppm以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項10】
前記最終重合反応器の圧力が10Pa以上2kPa以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項11】
前記重合触媒が、長周期型周期表第2族の金属からなる群及びリチウムより選ばれる少なくとも1種の金属化合物である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項12】
前記のフルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1乃至11のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【化1】


[一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。]
【請求項13】
前記式(1)で表されるフルオレン部位を有するジヒドロキシ化合物以外に、構造の一部に下記式(5)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物を反応に用いる請求項1乃至12のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【化2】

[但し、式(5)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合、および前記フルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物の一部を構成する部位である場合を除く。]
【請求項14】
前記式(5)で表される部位を有する特定ジヒドロキシ化合物が、環状構造を有し、かつエーテル構造を有する化合物である請求項1乃至13のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項15】
前記式(5)の結合構造を有する特定ジヒドロキシ化合物が、下記構造式(6)で表される複素環基を有する化合物である請求項14に記載のポリカーボネートの製造方法。
【化3】

【請求項16】
重縮合により得られたポリカーボネートを、固化させることなく溶融状態のままフィルターに供給して濾過する工程を含む請求項1乃至15のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項17】
重縮合により得られたポリカーボネート、又は、それを上記フィルターで濾過した樹脂を、ダイスヘッドからストランドの形態で吐出し、冷却後、カッターを用いてペレット化する工程を含む請求項1乃至16のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の製造方法により製造されたポリカーボネートペレット。
【請求項19】
厚さ30μm±5μmのフィルムとしたときに含まれる、最大長が20μm以上の異物が1000個/m以下である請求項18に記載のポリカーボネートペレット。
【請求項20】
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の製造方法で得られたポリカーボネートを製膜して得られることを特徴とする透明フィルム。
【請求項21】
請求項20に記載の透明フィルムを、少なくとも一方向に延伸して得られることを特徴とする透明フィルム。
【請求項22】
波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比が下記式(7)を満足することを特徴とする請求項20又は21に記載の透明フィルム。
0.5 ≦ Re450/Re550 ≦ 1.0 (7)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214803(P2012−214803A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83323(P2012−83323)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】