説明

ポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法

【課題】ポリカーボネートオリゴマーを連続的に製造するにおいて、異常時においても、安全に停止方法を提供する。
【解決手段】塩素及び一酸化炭素からホスゲンガスを連続的に製造する工程、並びに該ホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒をオリゴマー反応器に連続的に供給して、ポリカーボネートオリゴマーを連続的に製造する工程を含むポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法であって、下記の条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合に、塩素及び一酸化炭素の供給、並びに、オリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給を停止させ、かつ、ホスゲンガスを除害手段に移送して無害化する方法。条件(i):オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力及びオリゴマー反応器内の入口圧力の圧力差が、0.1MPa以下となった場合。条件(ii):オリゴマー反応器内の入口圧力が0.13MPa以下となった場合。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリカーボネートの製造方法としては、二価フェノール類(ビスフェノール類)とホスゲンとを直接反応させる界面法、ビスフェノール類とジフェニルカーボネートとを無溶媒条件下で反応させるエステル交換法が知られているが、品質が良好なポリカーボネートが得られる点から、界面法が主流となっている(例えば特許文献1を参照)。
界面法では、ポリカーボネートの原料としては、ビスフェノール類、水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物及びホスゲンが用いられ、必要に応じて末端停止剤(分子量調節剤)等が添加される。また、ポリカーボネートの工業的製造プラントでは、一般に、ビスフェノール類のアルカリ水溶液にホスゲンを吹き込んで反応性のクロロフォーメート基を有するポリカーボネートオリゴマーを生成させ、この生成と同時にあるいは逐次的に、さらにポリカーボネートオリゴマーとビスフェノール類のアルカリ水溶液とを反応させることにより、ポリカーボネートが製造されている。
【0003】
特許文献2には、ホスゲンを蒸留精製して得られる液化ホスゲンを貯蔵し、該液化ホスゲンを用いてポリカーボネートを製造する方法が開示されている。
しかしながら、ホスゲンは毒性が高いため、貯蔵しておくことは安全性の観点から望ましくなく、例えば液化ホスゲン貯槽が腐食等により破損した場合にはホスゲンが漏洩するというリスクが存在する。そのようなリスクは、ホスゲン除害設備を設置することで低減することができるが、ホスゲンの保有量が多いためにホスゲンを除害するのに時間がかかる一方、短時間で除害するためには大規模の設備が必要となりコストがかかる。
【0004】
特許文献3には、塩素及び一酸化炭素を反応させて得られるホスゲンガスを液化することなく、そのままポリカーボネートオリゴマーの製造に用いるポリカーボネートオリゴマーの連続製造方法が開示されている。この方法によれば、液化ホスゲンを用いる方法に比べて、系内のホスゲンの保有量が少なく済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331916号公報
【特許文献2】特開2001−261321号公報
【特許文献3】国際公開第2007/083721号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献のいずれにも、反応異常やオリゴマー反応器への有機溶媒供給トラブルによってオリゴマーが析出し、反応器内が閉塞する等のオリゴマー反応器内の圧力が異常をきたす事故が起きた場合については想定されておらず、有害なホスゲンを系外に漏洩することなく除害しつつポリカーボネートを製造する方法については開示されていない。
【0007】
本発明の課題は、ポリカーボネートを製造する際のポリカーボネートオリゴマーを連続的に製造する方法において、異常時においても、自動的に装置を停止し、かつ、有害なホスゲンを系外に漏洩することなく除害する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、下記のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法によって解決される。
塩素及び一酸化炭素をホスゲン反応器に供給し未反応の一酸化炭素を含有するホスゲンガスを連続的に製造する工程(1)、並びに前記工程(1)で連続的に製造されたホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒をオリゴマー反応器に連続的に供給して、ポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物を連続的に製造する工程(2)を含むポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法であって、
下記の条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合に、前記工程(1)における塩素及び一酸化炭素の供給を停止すると共に、オリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給を停止させ、かつ、ホスゲンガスを含む有毒ガスを除害手段に移送して無害化する、ポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法。
条件(i):オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が、0.1MPa以下となった場合。
条件(ii):オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、界面法によるポリカーボネートオリゴマーの連続製造において、反応異常やオリゴマー反応器への有機溶媒供給トラブルによってオリゴマーが析出し、反応器内が閉塞する等の事故が起きた場合でも、ホスゲン原料である塩素及び一酸化炭素の供給並びにオリゴマー反応器へのホスゲンの供給を自動停止すると共に、系内のホスゲンを除害手段に移送するように自動制御して、ホスゲンを系外に漏洩することなく安全にポリカーボネートオリゴマーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法の好ましい一実施態様の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法は、界面法によるポリカーボネートオリゴマーの連続製造において、オリゴマー反応器に供給されるホスゲンガスの圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を常時監視し、後述する条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合に、ホスゲン原料である塩素及び一酸化炭素の供給並びにオリゴマー反応器へのホスゲンの供給を自動停止すると共に、系内のホスゲンを除害手段に移送するように自動制御する方法である。
【0012】
[ポリカーボネートの製造]
本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法は、二価フェノール類とホスゲンとを直接反応させる界面法に適用され、連続反応方式において適用される。
本発明におけるポリカーボネートオリゴマーを連続的に製造する方法は、塩素及び一酸化炭素をホスゲン反応器に供給し未反応の一酸化炭素を含有するホスゲンガスを連続的に製造する工程(1)、並びに前記工程(1)で連続的に製造されたホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒をオリゴマー反応器に連続的に供給して、ポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物を連続的に製造する工程(2)を含む方法である。
【0013】
<工程(1)>
工程(1)は、塩素及び一酸化炭素をホスゲン反応器に供給し未反応の一酸化炭素を含有するホスゲンガスを連続的に製造する工程である。
ポリカーボネートオリゴマーの品質の観点から、一酸化炭素は、コークス、石油、天然ガス、アルコール等と酸素とを反応させて製造し、純度95容量%以上に精製したものが好ましい。特に、硫黄成分の含有量が50ppm以下のものが好ましい。また、塩素:一酸化炭素の比率(モル比)は、好ましくは1:1.01〜1:1.3、より好ましくは1:1.02〜1:1.2である。
なお、反応は、例えば特公昭55−14044号公報等に記載の公知の方法によって行うことができる。触媒として、活性炭を主成分とする触媒を用いることができる。また、反応は発熱反応であるため、ホスゲン反応器を冷却し、反応器内部温度を350℃以下に保つことが好ましい。
【0014】
工程(1)で得られるホスゲンガスは、通常、未反応の一酸化炭素を含有する。ホスゲンガス中の一酸化炭素の含有量は、コスト及びポリカーボネートオリゴマーの品質の観点から、好ましくは1〜30容量%、より好ましくは2〜20容量%である。すなわち、純度99〜70容量%のホスゲンガスが好ましい。
【0015】
<工程(2)>
工程(2)は、前記工程(1)で連続的に製造されたホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒をオリゴマー反応器に連続的に供給して、ポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物を連続的に製造する工程である。
【0016】
ポリカーボネートの製造における原料としては、ホスゲンガス、二価フェノール類(ビスフェノール類)、二価フェノール類を溶解するために使用するアルカリ化合物、有機溶媒が挙げられ、必要に応じて、分子量調節剤としての一価フェノールや、その他の添加剤を使用してもよい。
ホスゲンガスとしては、前記工程(1)で連続的に製造されたホスゲンガスが用いられる。
【0017】
二価フェノール類としては、ポリカーボネートの物性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA;BPA)が好ましい。ビスフェノールA以外の二価フェノール類としては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン;1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン等のビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ハイドロキノン等が挙げられる。これらの二価フェノール類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
二価フェノール類を溶解するために使用するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウムが好適である。
【0018】
有機溶媒としては、ポリカーボネートオリゴマーが溶解するものであればよく、例えば、塩化メチレン,ジクロロエタン,クロロホルム,クロロベンゼン,四塩化炭素等の塩素系溶媒、ジオキサン等の環状オキシ化合物等が挙げられる。本発明においては、塩素系溶媒が好ましく、ポリカーボネートオリゴマーの溶解性等の点から塩化メチレンが特に好ましく使用される。上記で挙げた有機溶媒以外にも、ポリカーボネートオリゴマーの溶解性を低下させない範囲であれば、貧溶媒と呼ばれるアルカン類等の溶媒を使用してもよい。
有機溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
分子量調節剤として用いる一価フェノールとしては、例えばフェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。中でも、コストや入手の容易性等の観点から、p−tert−ブチルフェノール及びフェノールが好ましい。
【0020】
ポリカーボネートオリゴマーの製造には、必要に応じて、三級アミン、四級アミンなどの重合触媒を使用することもできる。重合触媒としては、TEA(トリエチルアミン)が好ましい。
オリゴマー反応器としては、連続反応方式の反応器が用いられ、反応原料を混合する混合部を有する管型構造をした反応器が好ましく用いられる。
なお、オリゴマー反応器は建物内に設置されており、外部と隔離されている。建物内は常時空気の入れ替えを行っており、内部の換気空気はブロア等で除害手段へ送られる。
【0021】
工程(2)におけるオリゴマー反応器への原料の供給量や反応条件は、装置の規模や生産量等によって適宜決定される。
例として、1時間当たり約200kgのポリカーボネートオリゴマーを製造する場合における好ましい条件を以下に記載するが、これに限定されるものではない。工程(1)により得られるホスゲンガスの好ましい流量は3.7〜4.1kg/hである。ホスゲンガスの温度は、ホスゲンの沸点(7.8℃)〜90℃の範囲が好ましい。二価フェノールのアルカリ水溶液としては、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液が好ましく、予め所定濃度になるように調整され供給される。ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液において、好ましいビスフェノールA濃度は12.5〜14.0質量%であり、好ましい水酸化ナトリウム濃度は5.1〜6.1質量%である。ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液の好ましい流量は42〜46kg/hである。塩化メチレン等の有機溶媒の流量は、好ましくは20〜24kg/hである。
【0022】
工程(2)では、クロロフォーメート基を有するポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物が得られる。上記ポリカーボネートオリゴマーの性状は特に制限されるものではなく、適宜最適な性状となるように反応条件を設定すればよいが、VPO(蒸気圧浸透圧計)で測定した分子量が約600〜5000程度であるものが好ましい。
【0023】
なお、ポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物は、ポリカーボネートオリゴマーが前記有機溶媒に溶解した有機相と、アルカリ水溶液を含有する水相の混合物である。この反応混合物を縮合反応器に導入し、縮合反応させることでポリカーボネートを製造することができる。
また、縮合反応が終了した後、反応溶液を公知の方法で洗浄し、濃縮し、粉末化等を行うことにより粉末状のポリカーボネートを得ることができ、さらに押出機等で処理することによりペレット化することができる。
【0024】
[ポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法]
オリゴマー反応器には所定量のホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒が連続的に供給される。ホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)は、ホスゲン反応器やオリゴマー反応器の大きさ、形状等によって適宜設定されるが、通常、ホスゲンガスの供給圧力(P1)が0.4〜0.5MPaG、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.15〜0.35MPaG、両者の圧力差(P1−P2)の値が0.105MPa〜0.35MPaの差圧となるように連続運転される。
本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法では、オリゴマー反応器に供給されるホスゲンガスの圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)について、下記の条件(i)及び/又は(ii)を満たしているかどうか常時監視し、該条件を満たした場合に、自動システムにより、ホスゲンの製造及び供給を停止すると共に、系内のホスゲンガスを含む有毒ガスを除害手段に移送して無害化する。
条件(i):オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が、0.1MPa以下となった場合。
条件(ii):オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合。
【0025】
<条件(i)>
条件(i)は、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が、0.1MPa以下となった場合である。
例えば何らかのトラブルにより有機溶媒を供給するポンプで有機溶媒を供給できなくなったり、その供給量が低下した場合に、オリゴマー反応器内において、ポリカーボネートオリゴマー濃度が高くなり、生成したポリカーボネートオリゴマーが析出してオリゴマー反応器の出口を閉塞すると、オリゴマー反応器内の圧力が上昇する。その結果、ホスゲン反応器に溶媒やオリゴマー原料が逆流し、溶媒の蒸発等により運転圧が設計圧以上に上昇して、系外にホスゲンが漏洩する危険がある。
そのため、本発明では、安全上の観点から、ホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が0.1MPa以下となった場合に自動システムを起動させる。ただし、一過性のトラブル等により頻繁に自動システムが起動してしまうと、効率よく操業することが難しくなってしまうため、安全性を確保した上で効率よく操業するという観点からは、自動システムが起動する条件は、前記圧力差(P1−P2)の値が0.09MPa以下の場合に設定してもよく、更に0.049MPa以下の場合に設定してもよい。
【0026】
<条件(ii)>
条件(ii)は、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合である。
オリゴマー反応器内の入口圧力低下は、有機溶媒又は二価フェノールのアルカリ水溶液の供給不良、反応不良等が原因と予想され、これにより一部のホスゲンが、オリゴマー反応器内で消費されず未反応のまま下流の工程に流れて、系外にホスゲンが漏洩する危険や生成したポリカーボネートオリゴマーが析出してオリゴマー反応器の出口を閉塞してホスゲン反応器に有機溶媒やオリゴマー原料が逆流し、溶媒の蒸発等により運転圧が設計圧以上に上昇して、系外にホスゲンが漏洩するという危険があることを示している。
そのため、本発明では、安全上の観点から、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合に自動システムを起動させる。ただし、一過性のトラブル等により頻繁に自動システムが起動してしまうと、効率よく操業することが難しくなってしまうため、安全性を確保した上で効率よく操業するという観点からは、自動システムが起動する条件は、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.12MPaG以下の場合に設定してもよく、更に0.049MPaG以下の場合に設定してもよい。
【0027】
本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法では、上記の条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合に、下記(a)、(b)及び(c)の操作が自動的に行われ、有毒なホスゲンの漏洩を防止すると共に無害化する。
(a)ホスゲンガスを連続的に製造する工程(1)における塩素及び一酸化炭素の供給を停止する。これは、系内におけるホスゲンガスの量を増加させないことを目的として、ホスゲンガスの製造を中止する操作である。
(b)オリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給を停止する。これは、一部のホスゲンがオリゴマー反応器内で消費されずに未反応のまま下流の工程に流れるおそれがあるため、ホスゲンの漏洩を防止するための操作である。
(c)系内のホスゲンガスを含む有毒ガスを除害手段に移送して無害化する。これは、上記(a)及び(b)の操作によりホスゲンの増加及び漏洩を防止して系内に封じ込めることに加えて、より高い安全性の観点から系内のホスゲンガスを無害化する操作である。
【0028】
<除害手段>
除害手段は、ホスゲンガスを含む有毒ガスを除害剤により無害化するための設備であり、公知のものを用いることができる。具体例としては、除害剤の散布設備、有毒ガスと除害剤とを接触させる吸収塔等が挙げられる。また、特開平6−319946号公報や特開2005−305414号公報等に記載された塔型の除害設備を用いることもできる。
【0029】
ホスゲンや塩素等の酸性ガスに対しては、除害剤としてアルカリ性物質が用いられる。除害剤として用いられるアルカリ性物質は、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが一般的に用いられる。また、通常これらは水溶液として用いられる。
【0030】
除害手段が除害塔の場合、除害塔の構造は特に限定されないが、代表的な例として、除害剤を塔の上部からスプレー等でシャワー状に噴射し、下部から供給された有害ガスと接触させて除害するものが挙げられる。除害剤とガスとの接触効率を高めるために、除害剤の噴射口とガスの流入口との間にラシヒリング等の充填剤を充填してもよい。また、除害塔の本数は特に限定されず、除害処理ガス中の有毒ガス濃度が、環境基準等で規定された所定濃度以下となるように、好ましくは検出されないレベルにまで低減されるように設計される。
【0031】
除害手段は、有毒ガスの漏洩がなくても不測の事態に備え常時運転する。なお、オリゴマー反応器が設置された建物内の換気空気は、ブロア等で除害手段に送られて無害化した上で外部に放出される。
【0032】
本発明の好ましい一実施態様について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法の好ましい一実施態様の概略を示す工程図である。
通常運転時は、ホスゲン製造原料の塩素及び一酸化炭素は調節弁を通してホスゲン反応器に供給され、ホスゲン反応器においてホスゲンガスが製造される。反応は発熱反応であるため、ホスゲン反応器は冷却水によって冷却される。
未反応の一酸化炭素を含有するホスゲンガス(反応生成物)は、調節弁を通してオリゴマー反応器に導入される。オリゴマー反応器には、ホスゲンガスに加えて、二価フェノールのアルカリ水溶液(具体的には、例えばビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液)及び有機溶媒(具体的には、例えば塩化メチレン)も導入され、これらの反応により、ポリカーボネートオリゴマーを含有するエマルション溶液が製造される。
なお、塩素及び一酸化炭素の供給路に設けられた調節弁は、これらの流量を自動制御しており、ホスゲンガスのオリゴマー反応器への供給路に設けられた調節弁は、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力を制御している。
【0033】
オリゴマー反応器に供給されるホスゲンガスの圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)は、圧力計を用いて常時監視されており、その値は自動制御装置に送られている(図中の点線の矢印)。
異常事態が発生した場合、すなわち、前記圧力(P1)及び(P2)について、上記の条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合には、自動制御装置から、塩素及び一酸化炭素の供給路に設けられた調節弁、ホスゲンガスのオリゴマー反応器への供給路に設けられた調節弁、並びに除害装置への流路に設けられた調節弁に一斉に信号が送られる(図中の太い実線の矢印)。
自動制御装置からの信号により、塩素及び一酸化炭素の供給路に設けられた調節弁が閉じられ、塩素及び一酸化炭素の供給が停止される。また、ホスゲンガスのオリゴマー反応器への供給路に設けられた調節弁が閉じられ、オリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止される。
除害装置への流路に設けられた調節弁は、通常運転時には閉じられているが、自動制御装置からの信号により開けられ、系内のホスゲンガスを含む有毒ガスは除害装置に移送される。除害装置において、ホスゲンガスを含む有毒ガスは無害化される。
【0034】
以上、本発明の好ましい一実施態様について図面を参照しながら説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図1には示されていないが、調節弁の他に各流体供給停止用の遮断弁を設けてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0036】
実施例1−1
(自動制御装置)
図1に示すように、オリゴマー反応器に供給されるホスゲンガスの圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を圧力計により監視し、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が0.1MPa以下となった場合(条件(i))又はオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合(条件(ii))に、塩素及び一酸化炭素の供給路に設けられた調節弁並びにホスゲンガスのオリゴマー反応器への供給路に設けられた調節弁を閉止し、かつ、除害装置への流路に設けられた調節弁を開放するように制御を行う自動制御装置を設計した。
【0037】
(除害装置)
除害装置として、カスケード・ミニ・リング(CMR)(商品名、マツイマシン(株)製)を充填した塔径600mm、充填層高さ10mの除害塔を使用した。除害塔には、除害剤として濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を2m3/hで循環させた。水酸化ナトリウム水溶液は塔の上部から、有毒なガスは下部から供給した。
【0038】
(ホスゲンの製造)
ホスゲン反応器として、チューブ内に市販の粒状活性炭(直径1.2〜1.4mmに粉砕した椰子殻活性炭)を充填したシェルアンドチューブ型反応器を使用した。
ホスゲン反応器に一酸化炭素1.2kg/h、塩素2.8kg/hを供給し、ホスゲンガス3.9kg/hを製造した。ホスゲン反応器のシェル部には、90℃の水を通水して反応熱を除去した。
【0039】
(ポリカーボネートオリゴマーの製造)
オリゴマー反応器として、内径6mm、長さ30mの管型反応器を使用した。オリゴマー反応器は20℃の冷却槽に浸した。ホスゲンガスは、上流のホスゲン製造工程から連続的にオリゴマー反応器に供給し、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)は0.45MPaGに設定した。
オリゴマー反応器に、ホスゲンガス3.9kg/h、濃度6質量%水酸化ナトリウム水溶液にビスフェノールA(BPA)を溶解して得られた濃度13.5質量%のBPA水酸化ナトリウム水溶液44kg/h、塩化メチレン22kg/h、分子量調節用の濃度25質量%のp−tert−ブチルフェノールの塩化メチレン溶液0.46kg/hを供給し、ポリカーボネートオリゴマー溶液を製造した。このとき、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)は0.20MPaGであった。
【0040】
ここで、オリゴマー反応器の出口バルブを絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に上昇させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.35MPaGとし、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値を0.1MPaとした。
その結果、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0041】
実施例1−2
オリゴマー反応器の出口バルブを絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に上昇させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.36MPaGとし、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値を0.09MPaとしたこと以外は、実施例1−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行った。
その結果、実施例1−1と同様に、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0042】
実施例1−3
オリゴマー反応器の出口バルブを絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に上昇させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.41MPaGとし、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値を0.04MPaとしたこと以外は、実施例1−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行った。
その結果、実施例1−1と同様に、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0043】
比較例1−1
自動制御装置を使用しなかったこと、並びにオリゴマー反応器の出口バルブを絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に上昇させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.40MPaGとし、オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値を0.05MPaとしたこと以外は、実施例1−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行おうとした。
しかし、オリゴマー反応器の出口バルブを徐々に絞ったところ、オリゴマー反応器内の圧力が急激に上昇していった。そして、これ以上オリゴマー反応器の出口バルブを絞る操作を続けると、オリゴマー反応器内部の反応液がホスゲン反応器に逆流し、塩化メチレンが蒸発してホスゲン反応器内の圧力が上昇してホスゲン反応器が破損してホスゲンが系外に漏洩することが想定されたため、この操作を中止した。
【0044】
実施例2−1
塩化メチレン供給用の調節弁を絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に低下させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.13MPaGとしたこと以外は、実施例1−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行った。
その結果、実施例1−1と同様に、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0045】
実施例2−2
塩化メチレン供給用の調節弁を絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に低下させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.12MPaGとしたこと以外は、実施例2−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行った。
その結果、実施例2−1と同様に、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0046】
実施例2−3
塩化メチレン供給用の調節弁を絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に低下させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.045MPaGとしたこと以外は、実施例2−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行った。
その結果、実施例2−1と同様に、自動制御装置により、ホスゲン反応器への塩素及び一酸化炭素の供給が停止されるとともにオリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給が停止され、また、ホスゲン反応器で生成したホスゲンガスは除害装置へ移送された。除害塔の出口から排出されたガスについて成分測定を行ったところ、ホスゲンは検出されず無害化されていた。
【0047】
比較例2−1
自動制御装置を使用しなかったこと、並びに塩化メチレン供給用の調節弁を絞ることにより、オリゴマー反応器内の圧力を意図的に低下させて、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)を0.13MPaGとしたこと以外は、実施例2−1と同様にしてポリカーボネートオリゴマーの製造を行おうとした。
しかし、塩化メチレン供給用の調節弁を絞ることで、オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaGへ低下したが、その後、オリゴマーが析出したため圧力が上昇し始めた。そして、これ以上塩化メチレン供給用の調節弁を絞る操作を続けると、オリゴマーの析出が進行し、オリゴマー反応器内部の反応液がホスゲン反応器に逆流し、塩化メチレンが蒸発してホスゲン反応器が破損してホスゲンが系外に漏洩することが想定されたため、この操作を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法によれば、安全にポリカーボネートオリゴマーを連続的に製造することができる。特に、オリゴマーの析出によって反応器内が閉塞する等のオリゴマー反応器内の圧力が異常をきたす事故が起きた場合でも、自動制御により、ホスゲンの製造及び供給を緊急停止すると共に、系内のホスゲンガスを含む有毒ガスを無害化し、有毒ガスが系外に漏洩することがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素及び一酸化炭素をホスゲン反応器に供給し未反応の一酸化炭素を含有するホスゲンガスを連続的に製造する工程(1)、並びに前記工程(1)で連続的に製造されたホスゲンガス、二価フェノールのアルカリ水溶液及び有機溶媒をオリゴマー反応器に連続的に供給して、ポリカーボネートオリゴマーを含有する反応混合物を連続的に製造する工程(2)を含むポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法であって、
下記の条件(i)及び/又は(ii)を満たす場合に、前記工程(1)における塩素及び一酸化炭素の供給を停止すると共に、オリゴマー反応器へのホスゲンガスの供給を停止させ、かつ、ホスゲンガスを含む有毒ガスを除害手段に移送して無害化する、ポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法。
条件(i):オリゴマー反応器に供給するホスゲンガスの供給圧力(P1)及びオリゴマー反応器内の入口圧力(P2)の圧力差(P1−P2)の値が、0.1MPa以下となった場合。
条件(ii):オリゴマー反応器内の入口圧力(P2)が0.13MPaG以下となった場合。
【請求項2】
前記除害手段が、ホスゲンガスを含む有毒ガスをアルカリ水溶液と接触させて無害化する手段である、請求項1に記載のポリカーボネートオリゴマー連続製造の制御方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−214631(P2012−214631A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80969(P2011−80969)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】