説明

ポリカーボネートポリオールポリアクリレートの製造方法

【課題】副生アルコールの留去操作を必要としない簡便なポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を製造する方法の提供。
【解決手段】ポリカーボネートポリオールと、アクリル酸ビニル化合物とを、エステル交換能を有する触媒の存在下で反応させることにより、副生物として生成するビニルアルコールは、即座にケト型であるカルボニル化合物へと異性化し、反応系からアルコールは除去され、副反応は抑制され、アクリレートへの高い変換率が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物(ポリカーボネートポリオールの水酸基がアクリル酸エステル化合物でアクリレート化された化合物)の製造方法に関する。より詳しくは、ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ビニル化合物から、触媒存在下ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物は、インキ、塗料、コーティング材料、接着剤、光硬化性樹脂、架橋剤、電解質材料、その他の樹脂などの原料として有用な化合物である。例えば、特許文献1には、ポリカーボネートポリオールポリアクリレートを用いたフィルム状光導波路が開示されている。
【0003】
ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を製造する方法としては、ポリカーボネートポリオールとアクリル酸をp−トルエンスルホン酸等のプロトン酸触媒の存在下で反応させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、この方法では、得られるポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物が茶色に着色するという製品の品質に係る大きな問題があった。更に、この方法では、原料のアクリル酸を過剰に用いるため、合成後、それらを中和して水洗することにより除去しても、得られる生成物中に、酸触媒、原料に起因する硫黄分、不純物が残存し、品質の悪化(悪臭、金属腐食)が起こりやすいという課題がある。
【0004】
また、ポリカーボネートポリオールとアクリル酸アルキルエステル化合物を、有機金属触媒存在下、生成するアルコールを抜き出しながら反応させることによるポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。しかし、この方法では、副生アルコールを留去する際に原料アクリル酸アルキルエステルが共沸し、反応系外に出てしまうことがあるという問題があり、これを回避するために煩雑な操作が求められることが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−157125号公報
【特許文献2】特開2002−25335号公報
【特許文献3】特開2001−151730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決した方法を提供することにある。具体的には、副生アルコールの留去操作を必要としない簡便なポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、触媒の存在下、ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ビニル化合物とのエステル交換反応により、反応中の煩雑な副生物留去操作を必要とせず、ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を得る新規な工業的製造プロセスを見出し本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明の課題は、直鎖状又は分岐状ポリカーボネートポリオールと、アクリル酸ビニル化合物を触媒存在下、反応させることを特徴とするポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、煩雑な副生物の留去操作を必要としないポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を製造する方法が提供できる。
【0010】
なお、アクリル酸ビニルエステルの分子構造を有する化合物を、ポリカーボネートポリオールとの反応に用いることによって、副生物としてビニルアルコールが生成する。この化合物は、即座にケト型であるカルボニル化合物へと異性化するため、該反応の平衡を生成系にシフトする効果があると考えられる。また、副生物であるアルコールによる副反応が抑制されるという効果もある。これによって、アクリレートへの高い変換率が達成される。さらに、副生アルコールが即座に異性化することで、反応系からアルコールが除去される。したがって、反応原料であるアクリレートを共沸させず、かつアルコールを系外に除去しながら反応を行うという、煩雑な操作を行うことなく、ポリカーボネートポリオールの変換反応を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ポリオール範囲)
本発明で使用されるポリカーボネートポリオールは、分子構造中に炭酸エステル構造を有し、末端に2個以上の複数の水酸基を有するものをいい、直鎖状であっても、枝分かれ構造を有していてもよい。例えば、ポリカーボネートポリオールは、式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、
は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)で表されるものを使用することができる。
【0014】
直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基からなる2価基、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基、環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレンからなる2価基が挙げられる。
【0015】
直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜25個であり、より好ましくは、2〜10個であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、デセン基等が挙げられ、好ましくはブチレン基、ヘキセン基である。
【0016】
環状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3〜25個であり、より好ましくは5〜10個である。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3〜12のシクロアルキレンが好ましく、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等が挙げられ、好ましくはシクロへキシレン基である。
【0017】
上記の2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は末端以外の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基)、2価のヘテロ環式基(例えば、ピリダニル基)、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよい(例えば、ベンゼン−1,4−ジメチレン基)。
【0018】
置換基としては、炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、炭素原子数3〜12のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、炭素原子数7〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基)、炭素原子数6〜12のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基)、炭素原子数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)、水酸基などが挙げられる。
【0019】
は、架橋炭素環の2価の基であってもよい。ここで、「架橋炭素環」とは、隣り合わない2つの炭素が架橋基又は直接結合によって架橋された炭素環を指す。架橋炭素環の2価基としては、炭素原子数6〜10の架橋炭素環の2価基が好ましく、例えば、ビシクロ−[2.1.1]−ヘキサン−ジイル、ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン−ジイル、ビシクロ−[2.2.2]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[3.3.0]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[4.3.0]−ノナン−ジイル、ビシクロ−[4.4.0]−オクタン−ジイル、アダマンタン−ジイルが挙げられる。
【0020】
は、好ましくは、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、3−メチルペンテン基、1,4−シクロヘキセン基、1,4−シクロヘキサンジメチレン基、1,4−ベンゼンジメチレン基である。
【0021】
式(I)において、nは、平均重合度を表し、1〜50の数であり、好ましくは3〜20である。平均重合度は、平均重合度は、H−NMRによる末端基定量によって測定することができる。
【0022】
このポリカーボネートポリオールとしては、公知の方法であればどのような方法で製造されたものでも使用することができる。例えば、式(I)のRに相当する炭素原子数4〜25(好ましくは炭素原子数4〜15)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコール(HO−R−OH)と炭酸エステル(例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジフェニル等)とのエステル交換反応、炭素原子数2〜25(好ましくは炭素原子数2〜15)のアルキレン基を有する環状炭酸エステルの開環重合、或いは前記脂肪族2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応などにより製造されたものを使用することができる。これらの製造方法の中では、前記の炭素原子数4〜25(好ましくは炭素原子数4〜15)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応が好ましい。
【0023】
前記2価アルコールの非限定例としては、例えば、次のような化合物を挙げることができる。即ち、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等のトリメチレン部分を有するものや、1,4−ブタンジオール等のテトラメチレン部分を有するものや、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール等のペンタメチレン部分を有するものや、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール等のヘキサメチレン部分を有するものや、1,7−ヘプタンジオール等のヘプタメチレン部分を有するものや1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールのオクタメチレン部分を有するものや、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,20−エイコサンジオール等が挙げられる。また、Rが炭素原子数4〜15のシクロアルキレン基に相当する2価アルコールが挙げられ、具体的には、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジエタノールである。また、Rがシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレンに相当する2価アルコールである2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等も使用することができる。また、Rがシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレンに相当する2価アルコールである2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等も使用することができる。
【0024】
ただし、上記以外の2価アルコールも使用することができ、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のRが酸素原子で置き換えられているアルキレン基であるものや、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等のRが酸素原子で置き換えられている、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものや、2,5−テトラヒドロフランジメタノール等の、Rが直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−酸素原子で置き換えられているシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものも使用することができる。加えて、架橋炭素環の2価アルコールである2,7−ノルボルナンジオール等も使用することができる。
【0025】
また、枝分かれ構造を有するポリカーボネートポリオールを製造する目的で、1,1,1−トリメチロールエタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等の、R上の1つ以上の水素原子が水酸基によって置換された、3つ以上の水酸基を有する多価アルコールも使用することができる。
【0026】
更に、p−キシリレンジオール、p−テトラクロロキシリレンジオール等の、Rが非置換か又はハロゲン原子で置換されている、2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。また、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス[(4−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等の、Rが1つ以上の酸素原子及び1つ以上の2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。Rが2価の芳香族基を有する2価アルコールは、2価アルコール全体に対して25重量%以下であることが好ましく、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。
【0027】
本発明で使用されるポリカーボネートポリオールにおいて、各々のRは異なる単位構造間で同一であっても異なっていてもよい。即ち、ポリカーボネートポリオールを、2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応や、2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応で得る場合、2価アルコールは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。また、ポリカーボネートポリオールを環状炭酸エステルの開環重合で得る場合、環状炭酸エステルは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
(アクリル酸ビニル範囲)
本発明で使用されるアクリル酸ビニル化合物としては、式(II):
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、
は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、
は、水素原子又は炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基である)で表される化合物を用いることができる。
【0031】
式(II)において、Rの非限定的例としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基等であり、Rの非限定的例としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0032】
は、好ましくは、水素原子又はメチル基である。Rは、好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0033】
式(II)のアクリル酸ビニル化合物の非限定例としては、例えば、次のような化合物を挙げることができる。即ち、アクリル酸ビニルや、アクリル酸イソプロペニル等のアクリル酸アルケニルエステルや、メタクリル酸ビニルや、メタクリル酸イソプロペニル等のメタクリル酸アルケニルエステルなどが挙げられる。この中では、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニルが好ましい。
【0034】
式(II)のアクリル酸ビニル化合物は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0035】
アクリル酸ビニル化合物の使用量は、水酸基のアクリレート化率を調整する点から、ポリカーボネートポリオール中の遊離水酸基1モルに対して0.5〜60モル、更には1.2〜10モルであることが好ましい。なお、ポリカーボネートポリオールのモル数は、H−NMR(末端水酸基価)より求めた平均分子量より計算される(例えば、高分子実験学 18巻(高分子の磁気共鳴)283頁、共立出版(1975年刊)参照)。
【0036】
(触媒範囲)
本発明で使用される触媒はエステル交換触媒であれば特に制限されない。エステル交換触媒としては、例えば、チタン、スズ、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケル、鉄等の金属の化合物や、塩酸、硫酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、カチオン性イオン交換樹脂等のプロトン酸や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の有機塩基などを挙げることができる。
【0037】
前記金属の化合物の非限定例としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラフェノキシチタン等の炭素原子数4〜40のアルコキシ基又はアリールオキシ基を有する有機チタン化合物や、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、ジブチルスズアセテート、ジブチルスズラウレート、2−エチルヘキサン酸スズ等の炭素原子数2〜40のアルキル基、アリール基、又はアシルオキシ基を有する有機スズ化合物や、トリイソプロポキシアルミニウム等の炭素原子数3〜30のアルコキシ基を有する有機アルミニウム化合物や、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛の無機酸塩又は有機酸塩や、塩化第二銅、酢酸銅等の銅の無機酸塩又は有機酸塩や、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等のニッケルの無機酸塩又は有機酸塩や、塩化第二鉄等の鉄の無機酸塩などが挙げられる。
【0038】
これら触媒の中では、前記の有機チタン化合物、有機スズ化合物、有機アルミニウム化合物が好ましいが、前記有機チタン化合物が更に好ましい。有機チタン化合物の例としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラフェノキシチタン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
触媒の使用量は触媒種や反応条件等により異なるが、ポリカーボネートポリオール1モルに対して、触媒が0.00001〜0.3モル、更には0.0001〜0.2モル、特に0.001〜0.1モルの割合であることが好ましい。なお、触媒は単独でも複数でも使用できる。
【0040】
(反応温度)
反応温度は反応が進行し原料や生成物が分解しない範囲であればよく、通常は40〜250℃、好ましくは50〜200℃、更に好ましくは60〜180℃ である。反応圧力は反応が進行する条件であれば特に制限されず、常圧、加圧、減圧、いずれの条件でもよい。反応雰囲気は大気下であってもよいが、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下又は気流下であることが好ましい。なお、反応時間は反応条件等により異なるが、通常は0.1〜100時間の範囲である。
【0041】
(重合防止剤)
アクリレート部位の重合を防ぐため、前記反応は重合防止剤を共存させて行うことが好ましい。重合防止剤は通常に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、フェノール、クレゾール、ヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール(メトキノン)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジンなどが使用できる。重合防止剤の使用量は、ポリカーボネートポリオール1モルに対して0.000001〜0.05モル、更には0.000002〜0.03モルであることが好ましい。
【0042】
(溶媒)
また、前記反応は必要に応じて溶媒を使用して行うことが好ましい。溶媒は前記反応温度を達成し、反応物を溶解し、反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されない。溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素や、ジクロロエタン、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン化炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素や、クロロベンゼン、クロロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素などが使用される。これら溶媒では、芳香族炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素が好ましく、中でもトルエン、キシレンが更に好ましい。
溶媒の使用量は、ポリカーボネートポリオール1gに対して50g以下、更には0.01〜40g、特に0.05〜30gであることが好ましい。
【0043】
(触媒失活)
反応終了後、本発明では、触媒を失活させることが好ましい。この触媒失活は、塩基、水、リン酸エステル(リン酸ジブチル等)、リン酸等の少なくとも一種の失活剤を反応液に添加することにより行われる。触媒として、前記の有機チタン化合物、有機スズ化合物、又は有機アルミニウム化合物を使用した場合、水、リン酸エステル、リン酸のうち少なくとも一種の失活剤で失活させることが好ましいが、中でも水で失活させることが特に好ましい。失活剤のうち、塩基は、前記プロトン酸を失活させる場合に使用することが好ましい。
【0044】
前記失活剤の添加量は、触媒1モルに対して1〜5000モル、更には2〜2000モルであることが好ましい。また、触媒を失活させる際の温度は20〜130℃、更には30〜120℃、特に50〜110℃であることが好ましい。その際の時間は他の条件により異なるが、通常0.01〜20時間程度である。
【0045】
触媒失活の後、不溶物は濾過又は遠心分離等により除去することが好ましい。その後、生成したポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物(ポリカーボネートポリオールの水酸基がアクリル酸エステル化合物でアクリレート化された化合物)は、反応液中の低沸点成分(アクリル酸エステル化合物や溶媒等)を常圧又は減圧蒸留により除去して得ることができる。なお、低沸点成分の除去は触媒失活の前であってもよい。
【0046】
低沸点成分を蒸留で除去する際の温度はアクリル酸エステル化合物や溶媒等により異なるが、通常、バス温が20〜120℃であればよい。必要であれば、微量の残存低沸点成分や、ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の低分子量成分を除去するため、減圧下、120〜250℃、好ましくは120〜200℃の高温で蒸留を行ってよい。回収された溶媒やアクリル酸エステル化合物は、必要に応じて精製して再使用することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、ポリカーボネートポリオール及びポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の平均分子量及び平均重合度はH−NMRより求めた。
【0048】
実施例1
還流装置を取り付けた内容積200mlのガラス製フラスコに、ポリカーボネートジオール(UH−100:平均分子量1000、平均重合度7.0:宇部興産製:1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)10.0g(0.01モル)、メタクリル酸ビニル5.6g(0.05モル) 、p−メトキシフェノール0.02g 、テトラブトキシチタン0.034g(0.10ミリモル)、及びトルエン50mlを入れ、常圧下、窒素気流中、バス温120℃で9時間加熱攪拌した。この間、還流装置には10℃の冷却水を流し、全還流した。
反応後、反応液に水0.6gを添加してバス温90℃で2時間攪拌した。次いで、不溶物を吸引濾過で除去し、濾液をロータリーエバポレーターにて、溶媒を減圧溜去後、残渣を60℃デシケーター中、2時間減圧乾燥し、透明のポリカーボネートジオールアクリレート化合物13.09gを得た。このものは、H−NMRより、末端アクリレート化率(原料ポリカーボネートジオールの末端水酸基がアクリレート化された割合)が89.7%で、平均重合度が7.2であった。
【0049】
比較例1
還流装置を取り付けた内容積200mlのガラス製フラスコに、ポリカーボネートジオール(UH−100:平均分子量1000、平均重合度7.0:宇部興産製:1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)10 .0g(0.01モル)、メタクリル酸メチル5.0g(0.05モル)、p−メトキシフェノール0.02g、テトラブトキシチタン0.034g(0.10ミリモル)、及びトルエン50mlを入れ、常圧下、窒素気流中、バス温120℃で9時間加熱攪拌した。この間、還流装置には10℃の冷却水を流し、全還流した。
反応後、反応液に水0.6gを添加してバス温90℃で2時間攪拌した。次いで、不溶物を吸引濾過で除去し、濾液をロータリーエバポレーターにて、溶媒を減圧溜去後、残渣を60℃デシケーター中、2時間減圧乾燥し、色透明のポリカーボネートジオールアクリレート化合物13.50gを得た。このものは、H−NMRより、末端アクリレート化率(原料ポリカーボネートジオールの末端水酸基がアクリレート化された割合)が31.2%で、平均重合度が7.0であった。
【0050】
以上の結果から明らかなように、メタクリル酸ビニルを用いたアクリレート化反応は、メタクリル酸メチルを用いたアクリレート化反応と較べて、ポリカーボネートポリオールの水酸基のアクリレート化率が高い。更に、反応は副生アルコールの留去を必要としない還流条件のみでよく、濾過と減圧乾燥のみで十分な精製が達成される点でも、ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の簡便な合成方法として優れている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、煩雑な副生物の留去操作を必要としないポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物(ポリカーボネートポリオールの水酸基がアクリレート化された化合物)を製造する方法を提供できる。即ち、本発明により、入手しやすい原料を使用して、高品質のポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物を簡便な操作で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートポリオールと、式(II):
【化3】


(式中、
は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
は、水素原子又は炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基である)
で表されるアクリル酸ビニル化合物とを、エステル交換能を有する金属触媒の存在下で反応させることを特徴とする、ポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法。
【請求項2】
ポリカーボネートポリオールが、式(I):
【化4】


(式中、
は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、
nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)
で表されるポリカーボネートポリオール化合物である、請求項1記載のポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法。
【請求項3】
ポリカーボネートポリオールが、3つ以上の水酸基を有するポリオール及び炭酸エステルから得られる枝分かれ構造を有するポリカーボネートポリオールである、請求項1記載のポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法。
【請求項4】
触媒が、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を有する有機チタン化合物、アルキル基、アリール基、若しくはアシルオキシ基を有する有機スズ化合物、又はアルコキシ基を有する有機アルミニウム化合物から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか一項記載のポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法。
【請求項5】
反応終了後に触媒を失活剤で失活させる、請求項1〜4のいずれか一項記載のポリカーボネートポリオールポリアクリレート化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−207795(P2011−207795A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75883(P2010−75883)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】