説明

ポリカーボネート共重合体、その製造方法、及びその用途

【課題】高成形性、高屈折率、及び低複屈折性を示すポリカーボネート共重合体の提供。
【解決手段】(A)下記式(1)と、(B)下記式(2)で表される構成単位とのモル比が(A):(B)=99:1〜60:40であるポリカーボネート共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するポリカーボネート共重合体及びその製造方法に関する。また、本発明は、当該ポリカーボネート共重合体の用途にも関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)をホスゲンあるいは炭酸ジエステルと反応させて得られるポリカーボネート樹脂は、耐熱性及び透明性に優れ、しかも耐衝撃性等の機械的特性にも優れていることから、構造材料はもとより光学材料として各種レンズ、プリズム、光ディスク基板、光ファイバーなどのプラスチック光学製品及び光学フィルムに幅広く利用されている。
【0003】
しかし従来の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高光弾性率を示す低流動性材料であるために、成形時の分子配向や残留応力に伴う複屈折が大きいという問題点がある。そのため、従来、芳香族ポリカーボネート樹脂から光学製品を製造する場合は、複屈折の低減のために、分子量の比較的低い樹脂を用いて流動性を向上させるとともに、高温で成形することがしばしば行われている。しかし、この方法を利用しても、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂を用いると、複屈折の低減には限界がある。近年の光学材料用途の広がりに伴い、一部の光学材料分野では、さらに低光弾性係数を示す高流動性材料の開発が強く求められている。
【0004】
一方、屈折率が高い光学材料を用いると、レンズエレメントをより曲率の小さい面で実現できるので、この面に発生する収差量を小さくでき、レンズ枚数の低減、レンズ偏心感度の低減、及びレンズ厚みの低減によって、レンズ系の小型軽量化ができる。また、屈折率が高い光学材料を用いると、同じ度数のめがねレンズをより薄肉化ができるので、格段に外観が改善されるという利点がある。市販の熱可塑性プラスチックレンズ材料でD線における屈折率が1.65を超えるものはない。
【0005】
高屈折率低複屈折率の光学樹脂として、側鎖方向に分極率の大きいフルオレン構造を有するビスフェノール類を用いたポリカーボネート樹脂共重合体が提案されている(特許文献1及び2)。
【0006】
また、側鎖方向に分極率の大きいフルオレン構造を有し、直鎖方向にフェノール骨格を有するエーテルジオール類のホモポリカーボネート樹脂、又はそれらとビスフェノール類との共重合体が提案されている(特許文献3及び4)。
【0007】
更に、側鎖方向に分極率の大きいフルオレン構造を有するビスフェノール類と、トリシクロデカン[5.2.1.02,6]ジメタノールとの共重合体も提案されている(特許文献5)。
【0008】
上記の通り、種々のポリカーボネート樹脂が提案されているが、光学材料(特にレンズの材料)として用いるには、屈折率が低かったり、また成形性及び耐熱性の点でも十分ではなく、所望の成形物が得られなかったり、着色するなどの問題点があった。
【特許文献1】特開平6−25398号公報
【特許文献2】特開平7−109342号公報
【特許文献3】特開平10−101787号公報
【特許文献4】特開平10−101786号公報
【特許文献5】特開平2000−169573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点を解決することを課題とし、具体的には、高透明性、高耐熱性、高成形性、高屈折率、及び低複屈折性を示すポリカーボネート共重合体及びその製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、前記ポリカーボネート共重合体を利用して作製される光学用成形材料及び光学用レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、(A)下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子であり;Xはそれぞれ、分岐していてもよい炭素原子数2〜6のアルキレン基、炭素原子数6〜10のシクロアルキレン基、又は炭素原子数6〜10のアリーレン基を表し;n及びmはそれぞれに独立に、1〜5の整数を示す。)で表される構成単位と、
(B)下記式(2)
【化2】

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子を表す。)で表される構成単位とを含み、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比が(A):(B)=99:1〜60:40であるポリカーボネート共重合体、並びに該共重合体を少なくとも含有する組成物からなる光学用成形材料及び光学用レンズが提供される。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するため、式(1)及び式(2)で表される構成単位をそれぞれ与える化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させることを含む前記ポリカーボネート共重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高透明性、高耐熱性、高成形性、高屈折率、及び低複屈折性を示すポリカーボネート共重合体、及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記ポリカーボネート共重合体を利用することにより、良好な性能の光学用成形材料及び光学用レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下に詳細を説明する。本発明は、(A)下記式(1)で表される構成単位と、(B)下記式(2)で表される構成単位とを含むポリカーボネート共重合体に関する。
【0014】
【化3】

【0015】
式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子であり;Xはそれぞれ、分岐していてもよい炭素原子数2〜6のアルキレン基、炭素原子数6〜10のシクロアルキレン基、又は炭素原子数6〜10のアリーレン基を表し;n及びmはそれぞれに独立に、1〜5の整数を示す。
【0016】
【化4】

【0017】
式中、R3及びR4はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子を表す。
【0018】
本明細書中、「炭化水素基」の用語は、直鎖状、分岐鎖状及び環状の、アルキル基、アルケニル基並びにアルキニル基に対して用いるものとする。また、これらの炭化水素基が「芳香族基を含んでいてもよい」とは、これらの基中、炭素原子に結合した水素原子が芳香族基に置換されていることを意味するものとする。また、本明細書中、「芳香族基」の用語は、単環及び縮合多環の、芳香族炭化水素環基及び芳香族へテロ環基に対して用いるものとする。
【0019】
前記式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4がそれぞれ表す炭素原子数1〜9の炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、2−プロペニル基、エチニル基、及びプロパルギル基が含まれる。また、これらの基は芳香族基で置換されていてもよく、芳香族基で置換された炭素原子数1〜9の炭化水素基の例には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、フェニルプロピル基、4−t−プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、フェニルビニル基、エチニルフェニル基、及びフェニルプロパルギル基等が含まれる。R1、R2、R3及びR4がそれぞれ表すハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が含まれる。
なお、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ、ベンゼン環を構成している4つの炭素原子に結合する水素原子又は所定の置換基であり、複数の置換基が存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。R1〜R4は水素原子であるか、又はR1〜R4が置換基である場合は、該置換基は、フルオレン環が置換している炭素原子(1位)に対して、3位及び/又は5位の炭素原子に置換しているのが好ましい。
【0020】
前記式(1)中、Xの好ましい例には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、イソプロピレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、フェニレン基、及びナフチレン基が含まれる。
また、前記式(1)中、n及びmはそれぞれ1〜2であるのが好ましい。
【0021】
前記式(1)で表される構成単位(A)を与える化合物の好ましい例には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンが含まれる。中でも、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが特に好ましい。
【0022】
前記式(2)で表される構成単位(B)を与える化合物の好ましい例には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレンなどが含まれる。中でも、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。
【0023】
本発明のポリカーボネート共重合体は、式(1)で表される構成単位(A)及び/又は式(2)で表される構成単位(B)を二種類以上含んでいてもよい。また、本発明のポリカーボネート共重合体は、式(1)で表される構成単位(A)及び式(2)で表される構成単位(B)のみを含んでいてもよく、また、構成単位(A)及び(B)とともに、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位は、全構成単位中、15モル%以下であるのが好ましく、10モル%以下であるのがより好ましい。他の構成単位の例には、トリシクロ(5.2.1.02,6)デカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、イソソルビド等の脂肪族ジオール類、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオール類と、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸又はそのエステル類とを共重合することにより形成される構成単位が含まれる。
【0024】
また、本発明のポリカーボネート共重合体は、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比が、(A):(B)=99:1〜60:40が好ましく、(A):(B)=90:10〜60:40がより好ましく、(A):(B)=85:15〜65:35がさらに好ましい。構成単位(A)のモル比が60モル%未満であると、流動性が低下して成形性が悪化し、その結果、複屈折が大きくなり、光学材料として適さない。また成形体の機械強度が低下する。一方、構成単位(B)が存在せず、構成単位(A)のみからなるポリカーボネートでは、屈折率が低下し、及びガラス転移温度(Tg)が低下し、即ち、耐熱性が低下してしまい、同様に、光学材料として適さない。本発明のポリカーボネート共重合体は、構成単位(A)及び(B)を前記割合で含んでいるので、光学用成形品の材料として適する。特に、比較的高温に曝されるとともに、溶融時に低粘性が求められる射出成形品の材料として優れている。また、得られる成形品は、高屈折率((例えば1.65程度)を示すので、光学用成形品の中でも、光学用レンズの材料として特に適している。
【0025】
また、本発明のポリカーボネート共重合体は、塩化メチレンを溶媒とし濃度0.5g/dlの溶液を温度20℃において測定した極限粘度が、0.3〜0.6の範囲のものが好ましく、0.35〜0.55の範囲のものがより好ましい。極限粘度0.3未満の材料を用いると、成形後の光学用成形品としての強度に問題が生じ、一方、極限粘度が0.6を超える材料を用いると、成形時の溶融流動性が悪く、光学用成形品に好ましくない光学歪が増大する。前記範囲の極限粘度を有するポリカーボネート共重合体は、光学用成形材料として十分な強度を示すとともに、成形時の溶融流動性も良好であり、成形歪が発生せず好ましい。
【0026】
次に、本発明のポリカーボネート共重合体の製造方法について説明する。
本発明のポリカーボネート共重合体の製造方法の好ましい例は、構成単位(A)及び(B)をそれぞれ与えるジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、塩基性化合物触媒、エステル交換触媒又はその双方からなる混合触媒の存在下反応させる溶融重縮合法である。
炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも特にジフェニルカーボネートが好ましい。ジフェニルカーボネートは、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して0.9999〜0.9000モルの比率で用いられることが好ましく、より好ましくは0.9990〜0.9200、さらにより好ましくは0.9900〜0.9400である。
【0027】
塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等が挙げられる。より具体的には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物及びアルコキシド;4級アンモニウムヒドロキシド及びそれらの塩;並びにアミン類;等が好ましい。これらの化合物は単独で、もしくは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
塩基性化合物触媒として使用可能なアルカリ金属化合物の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、及びリチウム塩等が含まれる。
【0029】
塩基性化合物触媒として使用可能なアルカリ土類金属化合物の例には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が含まれる。
【0030】
塩基性化合物触媒として使用可能な含窒素化合物の例には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が含まれる。
【0031】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられる。これらは単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
エステル交換触媒の具体例には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が含まれる。
【0032】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10-9〜10-3モルの比率で用いるのが好ましく、より好ましくは10-7〜10-4モルの比率である。
【0033】
溶融重縮合法では、前記触媒の存在下、前記原料のエステル交換反応を、加熱下、常圧又は減圧下の条件で進行させるとともに、副生成物を除去しながら、溶融重縮合を行う。反応は、一般には二段以上の多段工程で実施される。
具体的には、第一段目の反応は、120〜220℃程度、好ましくは160〜200℃程度、の温度で、常圧〜200Torr程度の圧力で、0.1〜5時間程度、好ましくは0.5〜3時間程度、反応させる。次いで、1〜3時間かけて温度を最終温度である230〜260℃まで徐々に上昇させると共に、圧力を徐々に最終圧力である1Torr以下まで減圧し、反応を継続する。最後に1Torr以下の減圧下、230〜260℃程度の温度で重縮合反応を進め、所定の粘度に達したところで、窒素で復圧し、反応を終了する。1Torr以下の反応時間は、0.1〜2時間程度であり、全体の反応時間は通常1〜6時間程度、好ましくは2〜5時間程度である。
【0034】
前記反応は、連続式で行ってもよく、またバッチ式で行ってもよい。前記反応を行う際に用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であっても、及びスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0035】
重合反応終了後、熱安定性及び加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、酸性物質の添加によって触媒の失活を行う方法が実施される。使用可能な酸性物質の例には、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類;p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類;ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類;ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物;ジメチル硫酸等のアルキル硫酸;塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物;等が含まれる。
【0036】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.1〜1mmHgの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を行ってもよい。この工程には、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0037】
本発明のポリカーボネート共重合体には、上記熱安定化剤及び加水分解安定剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、抗菌剤等を、用途等に応じて添加して用いることができる。
【0038】
本発明のポリカーボネート共重合体は、種々の成形法により、所望の形状に成形され、種々の用途に利用される。上記した通り、本発明のポリカーボネート共重合体は、耐熱性に優れ、溶融時の粘度が低いので、種々の成形法に適する。特に、射出成形法に適している。また、低複屈折であるとともに、高屈折率(1.65程度)を示すので、光学用成形品、特に光学用レンズの材料として適している。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、測定値は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
1)ガラス転移温度(Tg):SEIKOSSC5200示差熱走査熱量分析計(DSC)により10℃/minで測定した。
2)屈折率:ポリカーボネート樹脂を3mm厚×8mm×8mmの直方体にプレス成形し、ATAGO(株)製屈折率計により測定した。
3)全光線透過率:樹脂を3mm厚×8mm×8mmの直方体にプレス成形し、全光線透過率計(日本電色工業(株)製MODEL1001DP)により測定した。
4)複屈折:下記の通り作製した両凸レンズの複屈折を、日本分光(株)製エリプソメーターにより測定した。
5)極限粘度[η]:塩化メチレンを溶媒とし濃度0.5g/dlの溶液を温度20℃において測定した。
【0040】
[実施例1]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン 4.15kg(9.45モル)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 6.22kg(14.18モル)、ジフェニルカーボネート 5.24kg(24.46モル)、及び炭酸水素ナトリウム 0.030g(3.70×10-4モル)を、攪拌機及び留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下、1時間かけて温度215℃に加熱し、撹拌した。その後、15分間かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で250℃まで昇温し、250℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分間かけて120Torrに調整し、250℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分間かけて100Torrに調整し、250℃、100Torrで10分間保持した。更に40分間かけて1Torr以下とし、250℃、1Torr以下の条件下で10分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加して、押出し機により260℃で混練して、ペレタイズしペレットを得た。このペレットの極限粘度は0.41であった。得られたペレットの物性の測定結果を表1にまとめた。
このペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度265℃及び金型温度120℃で射出成形し、直径が7.9mmの両凸レンズを得た。該凸レンズの複屈折を測定したところ109nmであり、複屈折が小さいレンズであることが確かめられた。
【0041】
[実施例2]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン 2.68kg(7.09モル)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 7.25kg(16.54モル)、ジフェニルカーボネート 5.24kg(24.46モル)、及び炭酸水素ナトリウム 0.030g(3.70×10-4モル)を仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合を行った。
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加して、押出し機により260℃で混練して、ペレタイズしペレットを得た。このペレットの極限粘度は0.45であった。得られたペレットの物性の測定結果を表1にまとめた。
このペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度255℃及び金型温度115℃で射出成形し、直径が7.9mmの両凸レンズを得た。該凸レンズの複屈折を測定したところ56nmであり、複屈折の極めて小さいレンズであることが確かめられた。
【0042】
[実施例3]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン 1.37kg(3.62モル)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 9.00kg(20.52モル)、ジフェニルカーボネート 5.35kg(24.91モル)、及び炭酸水素ナトリウム 0.030g(3.70×10-4モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に重合を行った。
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加して、押出し機により260℃で混練して、ペレタイズしペレットを得た。このペレットの極限粘度は0.49であった。得られたペレットの物性の測定結果を表1にまとめた。
このペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃及び金型温度105℃で射出成形し、直径が7.9mmの両凸レンズを得た。該凸レンズの複屈折を測定したところ32nmであり、複屈折の極めて小さいレンズであることが確かめられた。
【0043】
[比較例1]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン 1.37kg(3.62モル)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 9.00kg(20.52モル)、及びジフェニルカーボネート 5.35kg(24.91モル)を仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合を行った。
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加して、押出し機により260℃で混練して、ペレタイズしペレットを得た。このペレットの極限粘度は0.36であった。得られたペレットの物性の測定値を表1に示した。このペレットは、屈折率が1.657と高屈折率であった。
このペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度270℃及び金型温度125℃で射出成形を行ったが、溶融粘度が高く、十分な形状のレンズを得ることはできなかった。
【0044】
[比較例2]
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン 1.37kg(3.62モル)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 9.00kg(20.52モル)、及びジフェニルカーボネート 5.35kg(24.91モル)を仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合を行った。
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加して、押出し機により260℃で混練して、ペレタイズしペレットを得た。このペレットの極限粘度は0.51であった。得られたペレットの物性の測定値を表1に示した。このペレットは、屈折率が1.644であり、1.65を下回った。
このペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃及び金型温度105℃で射出成形し、直径が7.9mmの両凸レンズを得た。該凸レンズの複屈折を測定したところ28nmであり、複屈折の極めて小さいレンズであることが確かめられた。
【0045】
[比較例3]
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂として、ユーピロンH−4000(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を用いた。このペレットの物性の測定値を表1に示した。このペレットは、屈折率が1.583であり、低かった。
このペレットを、温度100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度255℃及び金型温度95℃で射出成形して、直径が6.4mmの凸面レンズを得た。該凸レンズの複屈折を測定したところ1280nmであり、複屈折が大きく、光学ひずみが大きなレンズであることがわかった。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表に示す結果から、本発明の実施例のポリカーボネート共重合体を用いることにより、高屈折率(1.65程度)、高耐熱性、低複屈折の成形体を、射出成形により得ることができること、及び得られた成形体は光学用成形体として良好な特性を示すことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子であり;Xはそれぞれ、分岐していてもよい炭素原子数2〜6のアルキレン基、炭素原子数6〜10のシクロアルキレン基、又は炭素原子数6〜10のアリーレン基を表し;n及びmはそれぞれに独立に、1〜5の整数を示す。)で表される構成単位と、
(B)下記式(2)
【化2】

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立して、水素原子、芳香族基を含んでもよい炭素原子数1〜9の炭化水素基、又はハロゲン原子を表す。)で表される構成単位とを含み、構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比が(A):(B)=99:1〜60:40であるポリカーボネート共重合体。
【請求項2】
構成単位(A)と構成単位(B)とのモル比が、(A):(B)=85:15〜65:35である請求項1に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項3】
構成単位(A)が9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンから誘導される構成単位であり、構成単位(B)が9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンから誘導される構成単位である請求項1又は2に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項4】
濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の20℃で測定される極限粘度が、0.3〜0.6である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項5】
屈折率が1.64以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体。
【請求項6】
式(1)及び式(2)で表される構成単位をそれぞれ与える化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性化合物触媒の存在下に溶融重縮合させることを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体を少なくとも含む組成物からなる光学用成形材料。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート共重合体を少なくとも含む組成物からなる光学用レンズ。

【公開番号】特開2010−132782(P2010−132782A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310478(P2008−310478)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】