説明

ポリカーボネート樹脂の回転成形方法及び回転成形品

【課題】成形物表面の平滑性に優れ、成形物内に発生する気泡が少ない成形物を成形することができる回転成形方法を得る。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂を回転成形する方法であって、粘度平均分子量が20000〜30000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を0.05〜5.0質量部含むポリカーボネート樹脂組成物を上記ポリカーボネート樹脂として用い、ポリカーボネート樹脂組成物を金型内に投入した後、金型を加熱し、金型内面温度の温度上昇率及び金型内部空気温度の温度上昇率がそれぞれ1℃/分以下になった時点を温度上昇飽和時点とし、温度上昇飽和時点に到達してから少なくとも300秒加熱を維持することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を回転成形する方法及び該方法によって得られる回転成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性に優れ、耐熱性が高く、電気的特性も優れていることから、多くの分野で広く利用されている。
【0003】
回転成形法により、ポリカーボネート樹脂の成形品を製造する場合、成形物内に気泡が発生しやすいという問題がある。また、一般に回転成形法では、空気と接した状態で樹脂が加熱されるため、黄変しやすいという問題もある。このような気泡の発生や樹脂の黄変は、加熱成形する時間が長くなるほど生じやすくなる。従って、従来のポリカーボネート樹脂の回転成形においては、このような気泡の発生や黄変が生じる前に加熱を終了させて金型を冷却し、金型内から成形体を取り出していた。
【0004】
粘度平均分子量が20000未満のポリカーボネート樹脂を用いる場合には、気泡の発生や黄変が生じる前に加熱を終了することにより、気泡の発生や黄変が少なく、かつ成形体表面の平滑性に優れた成形品を製造することができる。しかしながら、粘度平均分子量が20000未満であるため、機械的強度が低く、エンジニアリングプラスチックスとしての高い強度特性が得られないという問題があった。
【0005】
粘度平均分子量が20000以上であるポリカーボネート樹脂を用いる場合には、高い機械的強度を得ることができるが、気泡の発生及び黄変が生じる前に加熱を終了すると、金型内の成形物の内側の表面すなわち金型と接していない側の表面に大きな凹凸が形成され、成形物表面の平滑性に劣るという問題があった。加熱時間を長くすると、成形物表面の平滑性は良好な状態になるが、成形物内に多数の気泡及び黄変が発生し、ポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれるという問題を生じる。ポリカーボネート樹脂の回転成形における気泡を低減する方法として、樹脂粉砕品の粒度分布を狭くすることが提案されている(特許文献1及び2)。
【0006】
しかしながら、このような方法によっても、気泡の発生を十分に低減することはできなかった。
【0007】
本発明は、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤などの融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を含むポリカーボネート樹脂組成物を用いるものであるが、特許文献3〜5において、紫外線吸収剤としてベンゾオキサジンを用いることは提案されているが、これらの紫外線吸収剤が、回転成形法における気泡の発生を改善することについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−26815号公報
【特許文献2】特開2004−124062号公報
【特許文献3】特公昭62−31027号公報
【特許文献4】特表2003−534430号公報
【特許文献5】特開2005−325320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形物表面の平滑性に優れ、成形物内に発生する気泡が少ない成形物を成形することができるポリカーボネート樹脂の回転成形方法及び該方法により得られる回転成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を回転成形する方法であって、粘度平均分子量が20000〜30000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を0.05〜5.0質量部含むポリカーボネート樹脂組成物を上記ポリカーボネート樹脂として用い、ポリカーボネート樹脂組成物を金型内に投入した後、金型を加熱し、金型内面温度の温度上昇率及び金型内部空気温度の温度上昇率がそれぞれ1℃/分以下になった時点を温度上昇飽和時点とし、温度上昇飽和時点に到達してから少なくとも300秒加熱を維持することを特徴としている。
【0011】
本発明においては、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を含むポリカーボネート樹脂組成物を用いている。従来、一般にポリカーボネート樹脂に添加する紫外線吸収剤としては、ポリカーボネート樹脂を加熱溶融する温度より低い温度に融点を有するものが用いられている。これは、紫外線吸収剤を樹脂中で溶融することにより、均一に分散させ、紫外線吸収の効果が樹脂全体において均一に発揮されるようにするためである。また、樹脂の溶融混練中に紫外線吸収剤が溶融することにより、樹脂中にブツなどが発生するのを防止するためである。
【0012】
従って、本発明においては、ポリカーボネート樹脂に従来より用いられている紫外線吸収剤よりも高い融点を有する紫外線吸収剤を用いている。融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を用いることにより、回転成形の際の気泡の発生を低減することができる。
【0013】
また、本発明においては、ポリカーボネート樹脂組成物を金型内に投入した後、金型内面温度の温度上昇率及び金型内部空気温度の温度上昇率がそれぞれ、1℃/分以下になった時点を温度上昇飽和時点とし、この温度上昇飽和時点に到達してから少なくとも300秒加熱を維持している。従来においては、上述のように、気泡の発生及び黄変を抑制するため、上記の温度上昇飽和時点に到達する前に加熱を終了していた。
【0014】
本発明においては、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を用いることにより、回転成形の際の気泡の発生を低減することができるので、温度上昇飽和時点に到達してから、300秒以上加熱を維持しても、成形物内に発生する気泡を少なくすることができる。
【0015】
本発明においては、温度上昇飽和時点に到達してから少なくとも300秒加熱を維持しているので、成形物表面の平滑性に優れ、かつ成形物内に発生する気泡が少ない成形物を回転成形により成形することができる。
【0016】
本発明においては、温度上昇飽和時点からの加熱維持時間が300秒〜1800秒の範囲であることが好ましい。加熱維持時間が1800秒を超えても、加熱維持時間が長くなることによる成形物表面の平滑性の向上が得られず、経済的に不利なものとなる。
【0017】
本発明に使用する紫外線吸収剤としては、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0018】
本発明の回転成形品は、上記本発明の方法で回転成形したことを特徴としている。
【0019】
本発明の回転成形品は、上記本発明の方法により回転成形されるものであるので、成形物表面の平滑性に優れ、成形物内に発生する気泡が少ない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成形物表面の平滑性に優れ、成形物内に発生する気泡が少ない成形物を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従う実施形態において用いた回転成形装置を示す模式図。
【図2】図1に示す回転成形装置に用いる金型内部を示す断面図。
【図3】金型内部空気温度を測定する測定位置を説明するための断面図。
【図4】本発明に従う実施例における金型内面温度及び金型内部空気温度の金型予備加熱完了後の経時変化を示す図。
【図5】本発明に従う実施例における金型内面温度及び金型内部空気温度の金型予備加熱工程から金型冷却工程までの経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0023】
(芳香族ポリカーボネート樹脂)
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体と反応させることによって得られる分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。
【0024】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独で、または2種以上を混合して使用することもできる。
【0025】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、使用量は、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0026】
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、または2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法については、特に限定されるものではなく、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた界面重合法あるいは、炭酸ジエステルを用いてエステル交換を行う溶融法(エステル交換法)等公知の方法を用いて製造することができる。
【0027】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、粘度平均分子量(Mv)が、20000〜30000のものが使用される。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は回転成形時の樹脂の溶融粘度に対して大きな影響を与える因子である。回転成形時に樹脂が金型壁面から均一に溶融すること、および樹脂粉粒体がかかる溶融液面を流れながら溶融していくことの2点を満足することにより、均一で欠陥のない肉厚の成形品が形成されると考えられるが、樹脂の溶融粘度が高い場合は、かかる溶融液面を流れる際の抵抗が高くなり均一な溶融層の形成が困難となる。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20000より小さいと、回転成形品の耐衝撃性が低下し、割れが発生する虞があるので好ましくなく、30000より大きいと、溶融粘度が高く、流動性が悪くなり、成形性に問題がある。好ましい粘度平均分子量は20000〜28000であり、より好ましくは20000〜26000である。なお、粘度平均分子量(Mv)は、塩化メチレンを溶媒とする、芳香族ポリカーボネート樹脂溶液の25℃における溶液粘度を測定し、その値から求めた極限粘度[η]から下記(i)式により算出することが出来る。
【0028】
【数1】

【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として一価芳香族ヒドロキシ化合物を用いる。一価芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及p−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0030】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂として、分子量の異なる2種以上の樹脂を混合して分子量を調節してもよい。
【0031】
本発明に使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端水酸基濃度が、300ppm以上であることが好ましい。末端水酸基濃度は300〜2,000ppmの範囲が好ましく、さらに好ましくは350〜1000ppm、特に好ましくは400〜800ppmの範囲である。
【0032】
芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(ppm)は、Macromol.Chem.88 215(1965)に記載されている、四塩化チタンと酢酸を用いる比色定量法により測定することができ、ビスフェノールAを基準物質として次式(ii)により算出することができる。
【0033】
【数2】

【0034】
さらに、本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、樹脂中に含まれる残存モノマーが、合計して500ppm以下であることが好ましい。残存モノマーとは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物類、炭酸ジエステル類、これらの重縮合反応時の副生物および末端停止剤であるモノヒドロキシ化合物類である。これら残存モノマーの合計量が500ppmを超えると、回転成形体内部に気泡が発生したり、成形体表面があばた状となって表面の平滑性が低下する場合がある。本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂中の残存モノマー量は、より好ましくは300ppm以下である。さらに、各残存モノマーの量としては、モノヒドロキシ化合物類が100ppm以下、芳香族ジヒドロキシ化合物類が100ppm以下、炭酸ジエステル類が300ppm以下であることが好ましい。
【0035】
この様な特性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂製造時の条件を選択する方法がある。例えば、エステル交換法により、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物類1モルに対し、炭酸ジエステル類を1.01〜1.30モル、好ましくは1.01〜1.20モルの比率で使用し、140〜320℃の温度範囲、常圧または減圧下、副生物を除去しながら、溶融重縮合反応を行う。また、反応終了後、生成物をペレット化する際に、ベント式押出機を用いて、樹脂中に残存するモノマーや副生物等の低分子量成分を除去しても良い。
【0036】
(紫外線吸収剤)
本発明において用いる紫外線吸収剤は、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤である。このような紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0037】
ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤としては、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2−(1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチルーp−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。中でも、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適である。これらの紫外線吸収剤は、サイテック社より、「CYASORBUV−3638」として市販されている。
【0038】
上記紫外線吸収剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部、好ましくは0.07〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部含有される。上記紫外線吸収剤の含有量が少ないと、上述のように、耐候性が不十分となり、また含有量が多すぎると、成形品の透明性不良の原因となる。
【0039】
本発明においては、300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を用いるが、本発明の効果が損なわれない範囲において、その他の紫外線吸収剤を併用してもよい。その他の紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤が挙げられる。また、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤であっても、本発明の融点の範囲外のものが、その他の紫外線吸収剤として含有されていてもよい。その他の紫外線吸収剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して。0.5質量部以下であることが一般に好ましい。
【0040】
本発明において、紫外線吸収剤の融点は、示差走査熱量測定装置、例えばPERKIN−ELMER社製の「DSC−II」を使用して、窒素気流下、流量60ml/sec、昇温速度20℃/minで測定することができる。
【0041】
(添加剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、上記紫外線吸収剤以外に、必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、光拡散剤、蛍光増白剤、強化剤、着色剤、流動性改良剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0042】
(熱安定剤および酸化防止剤)
本発明の回転成形用ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0043】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としては中でもリン系化合物が、そして酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。リン系化合物は一般的に、芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形体使用時の耐熱安定性向上に有効であり、フェノール化合物は一般的に、耐熱老化性等の、ポリカーボネート樹脂成形体使用時の耐熱安定性に効果が高い。またリン系化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が一段と向上する。
【0044】
本発明に用いるリン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0045】
ホスファイトとしては、具体的には例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0046】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0047】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0048】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0049】
酸化防止剤としては特定構造を分子内に有するフェノール化合物が好ましく、具体的には例えば2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0050】
中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂と混練される際に黄変抑制が必要なことから、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0051】
本発明に用いる熱安定剤、および酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.0001〜0.5質量部であり、0.0003〜0.3質量部が好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。熱安定剤や酸化防止剤の含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の分子量低下や、色相低下が生ずる場合がある。
【0052】
(難燃剤)
本発明の回転成形用ポリカーボネート樹脂組成物は難燃剤を含有することができる。難燃剤の種類としてはリン酸エステル系化合物、金属塩化合物やシリコーン化合物が好適に用いられる。上記化合物を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
【0053】
[リン酸エステル系化合物]
リン酸エステル系化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。これらの中では、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
【0054】
リン酸エステル系化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、通常1〜30質量部、好ましくは3〜25質量部、更に好ましくは5〜20質量部である。1質量部未満では難燃性が十分でない場合があり、また30質量部を超えると耐熱性が低下する場合がある。
【0055】
[金属塩化合物]
金属塩化合物が有する金属の種類としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の炭化層形成を促進し、難燃性をより高めることができると共に、ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できるからである。したがって、金属塩化合物としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩化合物が好ましく、中でもアルカリ金属塩がより好ましい。
【0056】
また、金属塩化合物としては、例えば、有機金属塩化合物、無機金属塩化合物などが挙げられるが、ポリカーボネート樹脂への分散性が良いという点から有機金属塩化合物が好ましい。
【0057】
有機金属塩化合物としては、例えば、有機スルホン酸金属塩化合物、有機カルボン酸金属塩化合物、有機ホウ酸金属塩化合物、有機リン酸金属塩化合物等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂と混合した場合の熱安定性の点から、有機スルホン酸金属塩が好ましい。
【0058】
有機スルホン酸金属塩化合物の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム(Li)塩化合物、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸ルビジウム(Rb)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物、有機スルホン酸マグネシウム(Mg)塩化合物、有機スルホン酸カルシウム(Ca)塩化合物、有機スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩化合物、有機スルホン酸バリウム(Ba)塩化合物等が挙げられる。この中でも特に、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0059】
金属塩化合物のうち、好ましいものの例としては、含フッ素アルキルスルホン酸又は芳香族スルホン酸の金属塩が挙げられる。その中でも好ましいものの具体例を挙げると、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩;パーフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素アルキルスルホン酸のアルカリ土類金属塩;などの、含フッ素アルキルスルホン酸金属塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;などの、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。
【0060】
上述した例示物の中でも、含フッ素アルキルスルホン酸金属塩としては含フッ素アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩が好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。また、芳香族スルホン酸金属塩としては芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、及びパラトルエンスルホン酸カリウム等が特に好ましい。
【0061】
なお、金属塩化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における金属塩化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、3質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。金属塩化合物の含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる可能性がある。
【0063】
(シリコーン系難燃剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含有することができる難燃剤の種類としては、上記リン酸エステル系化合物や金属塩化合物の他に、シリコーン系化合物が挙げられる。シリコーン系化合物としては、ハンドリング性に優れ、且つ樹脂への分散性、混合性の観点から、シリカ粉末の表面にポリオルガノシロキサンを担持させた粉末状シリコーン、または、主鎖が分岐構造を有し、かつ珪素に結合する芳香族基を有する分岐シリコーン化合物が好ましい。
【0064】
シリコーン化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜7.5質量部である。含有量が少ないと樹脂組成物の難燃性が不十分となる。逆に含有量を多くすると樹脂組成物から得られる成形品の外観不良が起こり易くなり、かつ機械的強度や熱安定性も低下することがある。シリコーン化合物の含有量は0.3〜7.0質量部、特に0.5〜6.0質量部が好ましい。
【0065】
(帯電防止剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含有することができる帯電防止剤は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(1)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩である。
【0066】
【化1】

【0067】
(一般式(1)中、R1は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良く、R2〜R5は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
【0068】
前記一般式(1)中のR1は、炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、ポリカーボネート樹脂への相溶性の観点からアリール基の方が好ましく、炭素数1〜34、好ましくは5〜20、特に、10〜15のアルキル基で置換されたアルキルベンゼン又はアルキルナフタリン環から誘導される基が好ましい。また、一般式(1)中のR2〜R5は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキルであり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、特に、ブチル基が好ましい。
【0069】
本発明のスルホン酸ホスホニウム塩の具体例としては、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルオクチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム、ジブチルベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム、ジブチルナフチルスルホン酸トリフェニルホスホニウム、ジイソプロピルナフチルスルホン酸トリオクチルメチルホスホニウム等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートとの相溶性及び入手が容易な点で、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが好ましい。
【0070】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における帯電防止剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部であり、好ましくは0.2〜3.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部、特に好ましくは0.5〜1.8質量部である。0.1質量部未満では、帯電防止の効果は得られず、5.0質量部を越えると透明性や機械的強度が低下し、成形品表面にシルバーや剥離が生じて外観不良を引き起こし易い。
【0071】
(光拡散剤)
本発明においては光拡散剤を含有することができる。光拡散剤として用いる重合体微粒子としては、所定の屈折率、粒径を有するものであれば良いが、具体的には、例えばアクリル−スチレン系共重合体微粒子が挙げられる。アクリル−スチレン系共重合体微粒子は、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとを共重合して得られる微粒子であって、例えば、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとを懸濁重合法等で重合した微粒子であり、架橋剤を用いて架橋しているものが好ましい。アクリル系モノマーとしては、たとえば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアクリレート系モノマーやアクリルアミド等をその代表例として例示でき、スチレン系モノマーとしてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等をその代表例として例示できる。またこれらモノマーの共重合にあたっては、これらを主成分として、必要に応じて他のモノマーを共重合したものであっても良い。また、架橋剤としては、一般に使用されるものが挙げられるが、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、1,6−ヘキサンジオール、トリメチルプロパントリメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート等の多官能性モノマーを用いることが出来る。
【0072】
本発明で使用するアクリル−スチレン系共重合体微粒子の重量平均粒子径は5〜20μm、好ましくは10〜15μmである。粒子径が5μm未満では、微粒子の添加量が少量となるため、目標とするヘイズのばらつきが大きくなり、20μmを越えると、微粒子の添加量が多量となり成形部材の強度が低下してしまう。
【0073】
また、微粒子の粒度分布は5μm以下の粒径のものが5質量%以下、20μmを越える粒径のものが10質量%以下であることが望ましい。
【0074】
また、該アクリル−スチレン系共重合体微粒子はポリカーボネート樹脂組成物との屈折率差が0.01〜0.08が好ましい。該アクリル−スチレン系共重合体微粒子の屈折率は、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとの共重合比を99:1〜1:99の範囲で変化させることによって調整できる。ただし、スチレン系モノマーの共重合比が高くなりすぎると、耐光性が低下して黄色味を帯びてしまい、逆にアクリル系モノマーの共重合比が高くなりすぎると、微粒子とポリカーボネートとの屈折率の差が開きすぎて、LED光源のぎらつきが目立ち、視認性が低い。本発明では、アクリル−スチレン系共重合体微粒子の屈折率は1.52〜1.57であり、好ましくは1.53〜1.56、さらに好ましくは1.54〜1.56のものを使用する。このような屈折率の微粒子を得るために、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーの共重合比を調整する必要がある。調整比率は、使用モノマーにより異なるが、アクリル系モノマーを多く使用すると屈折率は低い方になり、スチレン系モノマーを多く使用すると屈折率が高い方になる。例えば、アクリル系モノマーとしてメチルメタクリレートを使用し、スチレン系モノマーとしてスチレンを使用した場合、屈折率を約1.52に調整する場合はアクリル系モノマーとスチレン系モノマーの比を約7:3、屈折率を約1.56に調整する場合は約3:7であり、通常はこの前後で調整すれば良い。
【0075】
本発明で使用するアクリル−スチレン系共重合体微粒子の構造は特に限定されないが、中空のものは、ポリカーボネート樹脂に混合する際や、樹脂組成物の成形時に、変形しやすく、成形品の外観が不良となることが多く、また、光拡散性と光透過性のバランスがあまり良くないことが多いため、好ましくない。また、多孔質のものは、少量で光拡散性が優れるが、透過率が低下しやすいため、好ましくない。また、コア部とシェル部の2層構造の微粒子の場合、シェル部がアクリルースチレン系共重合体微粒子であるものであり、粒子径と屈折率が本発明の範囲を満足するものであれば、使用可能である。その場合、コアは、ポリメチルメタクリレートやシリコーン系等の、シェル部より屈折率の低いものが良い。ただし、このような多層構造微粒子の場合、コストが高くなることがあるので、本発明では、アクリル−スチレン系架橋共重合体の中実微粒子であるのが良い。
【0076】
本発明において使用可能なアクリル−スチレン系共重合体微粒子は、市場より入手可能なものを用いても良い。このような市販品の例としては、例えば、ガンツ化成(株)より、ガンツパール、又はスタフィロイドの商品名で市販されている、GBSシリーズ、あるいはGSMシリーズから、本発明で規定する物性に適合するものが挙げられる。
【0077】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における光拡散剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部であり、好ましくは0.2〜3.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部、特に好ましくは0.5〜1.5質量部である。0.1質量部未満では、光拡散性が劣り、5.0質量部を越えると透明性や機械的強度、耐熱性が低下することがある。
【0078】
(蛍光増白剤)
本発明においては、本発明の効果を損ねない範囲で、従来公知の任意の蛍光増白剤を用いてもよい。この様な蛍光増白剤には、種々のものがあるが、具体的にはクマリン誘導体、ナフトトリアゾリルスチルベン誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体及びジアミノスチルベン−ジスルホネート誘導体等が挙げられる。また、市販品としては、ハコール産業からハッコールPSR(3−フェニル−7−(2H−ナフト(1.2−d)−トリアゾール−2−イル)クマリン)、ヘキストAGからHOSTALUX KCB(ベンズオキサゾール誘導体)、住友化学からWHITEFLOUR PSN CONC(オキサゾール系化合物)として、入手することができる。
【0079】
蛍光増白剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.005〜1質量部である。含有量が0.005質量部未満であると増白効果が少なく、1質量部を超えると黄味が強くなりやすい。蛍光増白剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.7質量部であり、更に好ましくは0.01〜0.3質量部である。
【0080】
(強化剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に対して、強化剤として従来公知の無機充填剤を添加することができる。強化剤としてはケイ酸塩充填材を例示することができ、該ケイ酸塩充填材の具体例としては、カオリン、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ワラストナイト、天然シリカ、合成シリカ、各種ガラスフィラー、ゼオライトおよびケイソウ土等、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0081】
強化剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して5〜100質量部である。含有量が5質量部未満では補強効果が小さく、逆に100質量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性などの機械的物性が低下するようになる。強化材の好ましい配合量は10〜70質量部、特に15〜50質量部である。
【0082】
(着色剤)
本発明に使用可能な着色剤としては、熱可塑性樹脂成形品に一般的に用いられる、染料、無機顔料、有機顔料が挙げられる。
【0083】
染料としては、アゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、インジゴ染料、ジフェニルメタン染料、アクリジン染料、シアニン染料、ニトロ染料、ニグロシン等が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタン、べんがら、コバルトブルー等の酸化物顔料、アルミナホワイト等の水酸化物顔料、硫化亜鉛、カドミウムイエロー等の硫化物顔料、ホワイトカーボン、タルク等の珪酸塩顔料、カーボンブラック等が挙げられる。有機顔料としては、ニトロ顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等が挙げられる。また、着色剤は、押出時のハンドリング性改良目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0084】
着色剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。着色剤の含有量が5質量部を超える場合は耐衝撃性が十分でない場合がある。
【0085】
(流動性改良剤)
本発明で使用可能な流動性改良剤とは、ポリカーボネート樹脂の流動性を向上させる為に添加される成分であり、低分子、高分子を問わない。流動性改良剤の例としては、芳香族ポリエステルオリゴマー、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、ポリカプロラクトン、低分子量アクリル系共重合体、脂肪族ゴム−ポリエステルブロック共重合体等が挙げられる。
【0086】
流動改質剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜8質量部である。0.01質量部未満では流動性向上には不十分であり、5質量部を超えると耐衝撃性や耐熱性が低下する可能性がある。流動改質剤の含有量は、好ましくは、0.05〜5質量部、更に好ましくは、0.08〜4質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部である。
【0087】
(ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の各成分を混合し溶融混練する方法としては、従来公知の熱可塑性樹脂組成物に適用される方法を適用できる。例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸又は二軸スクリュー押出機、コニーダーなどを使用する方法等が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0088】
(ポリカーボネート樹脂組成物の形態)
本発明において用いるポリカーボネート樹脂組成物は、一般に、パウダーまたはペレットの形態で用いられる。パウダー及びペレットを作製する方法としては、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のパウダーを分級して所定粒径の粒子の所定量を配合する方法、(2)ポリカーボネート樹脂組成物を押出機により押出する際、ダイス径および引き取り速度などによりスレッド径およびそのカット長をペレタイザーにより調整する方法、(3)通常の大きさのポリカーボネート樹脂組成物ペレット、または各種成形品を粉砕してパウダーを得る方法、(4)ポリカーボネート樹脂パウダーと他の添加剤などのパウダーを各種メカノケミカル装置により処理する方法、(5)ポリカーボネート樹脂の溶液中に各種添加剤を配合し、かかる溶液から溶媒を除去する方法などをあげることができる。なお、(2)〜(4)の場合も、必要に応じ、更に分級して粒径分布を調整する。このうち、上記(2)や(3)の方法が本発明では好適に用いられる。
【0089】
(回転成形方法)
図1は、本発明に従う一実施形態における回転成形装置を示す模式図である。金型1は、半割りの金型2と、半割りの金型3を組み合わせることにより構成されている。金型1は、支持台6に支持されており、第1の回転駆動手段7及び第2の回転駆動手段8により回転するように支持されている。第1の回転駆動手段7と第2の回転駆動手段8は、互いに略垂直方向に回転させるための手段である。金型1には、加熱用オイルが供給され、加熱用オイルによって金型1内が加熱される。加熱用オイルは、供給口4から供給され、排出口5から排出される。
【0090】
図2は、金型内を示す断面図である。図2においては、金型1の内面を示しており、加熱用オイルが通る部分を図示省略している。図2に示す金型1の内面の周囲を加熱用オイルが通ることにより、金型1の内面が加熱される。
【0091】
金型1内には、金型内面温度を測定するため温度測定器10及び温度測定器11が取り付けられている。温度測定器10は、図1に示す供給口4の近傍に取り付けられている。温度測定器11は、図1に示す加熱用オイルの排出口5の近傍に取り付けられている。従って、温度測定器10は、金型1内で最も高い金型内面温度を示す部分に設けられており、温度測定器11は、金型1内で金型内面温度が最も低い部分に取り付けられている。本実施形態では、温度測定器10で測定した温度と、温度測定器11で測定した温度の平均値を金型内面温度としている。
【0092】
金型1内の中心部には、温度測定器12が設けられている。温度測定器12は、金属などからなる線材13により支持されている。本実施形態では、金型1の中心の温度を金型内部空気温度としている。
【0093】
図3は、金型内部空気温度を測定する温度測定器12を設置することができる領域15を示す断面図である。領域15は、金型1の中心14を中心とする領域である。中心14は、金型1内の空間の重心に相当する位置に位置している。領域15は、中心14と金型1の内面との間の中間点を結ぶ領域である。従って、図3に示す中心14から金型1の内面までの距離が2aである場合には、中心14から距離aまでの領域であり、金型1の内面までの距離が2bである場合には、中心14から距離bまでの領域である。
【0094】
本発明において、金型内部空気温度は、金型1の中心14を中心とした領域15内で測定すればよい。本実施形態のように、金型1の中心14において、必ずしも測定する必要はない。
【0095】
図2に戻り、温度測定器10、11及び12としては、例えば、熱電対などからなる温度測定器を用いることができる。本実施形態では、金型1の金型内面温度において最も高いと思われる領域の温度を温度測定器10で測定し、最も低いと思われる領域の温度を温度測定器11で測定し、これらの温度測定器10及び11で測定した値の平均値を金型内面温度としている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、金型内面温度の平均温度になると思われる1箇所の領域の温度だけを測定し、金型内面温度としてもよいし、3箇所以上の温度を測定し、それらの平均値を金型内面温度としてもよい。
【0096】
また、金型内部空気温度も、複数の箇所で測定し、それらの値の平均値を金型内部空気温度としてもよい。
【0097】
本実施形態においては、金型1の周りに加熱用オイルを供給し、金型1内を加熱しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、バーナーなどで金型1を加熱してもよい。
【0098】
金型1の金型内面温度は、例えば、最高到達温度が260〜310℃の範囲内となるように設定される。本実施形態では、最高到達温度が300℃となるように設定している。加熱用オイルの温度は、このような金型1の最高到達温度より10〜30℃程度高い温度となるように加熱され、そのような温度に加熱されたオイルが供給口4から供給され、金型1の内壁の周囲を循環した後、排出口5から排出される。排出口5から排出されたオイルは、図示しない加熱手段に送られ、この加熱手段で所定の温度に加熱された後、再び供給口4から金型1の内壁の周囲に供給される。
【0099】
一般に、金型1を予備加熱し、予備加熱した状態で金型1内に樹脂を投入し、樹脂を投入した後、金型1を加熱しながら回転させ、回転成形する。
【0100】
図4は、本実施形態における金型内面温度及び金型内部空気温度の経時変化を示す図である。図4においては、金型1の予備加熱を完了したときからの経過時間を示している。図5は、本実施形態における金型予備加熱工程から金型冷却工程までの金型内面温度及び金型内部空気温度の経時変化を示す図である。図5に示す期間Jにおいては、金型1を予備加熱し、金型1の予備加熱完了後、期間Dの間に樹脂を投入している。期間Fの間金型1内で樹脂を溶融して成形し、期間Kで、金型1を冷却し、金型1内の樹脂を固化して成形品を成形している。図4は、図5における期間D及び期間Fの間の金型内面温度A及び金型内部空気温度Bを示している。金型1は、予備加熱されているが、樹脂を投入する際、金型1を開けるので、図4に示すように、金型内面温度A及び金型内部空気温度Bは一旦温度が低下する。樹脂の投入が完了した後、図4に示すように、金型内面温度A及び金型内部空気温度Bが徐々に上昇する。金型内部空気温度Bは、樹脂を投入する際、金型1内の空気が冷却されるので、金型内面温度Aに比べ、より低い温度まで低下している。従って、樹脂投入後、金型内部空気温度Bは、金型内面温度Aよりも高い温度上昇率で上昇し、金型内面温度Aの温度に近づく。
【0101】
表1は、金型予備加熱完了後からの金型内面温度Aの温度上昇率及び金型内部空気温度Bの温度上昇率を25秒間隔で示している。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示すように、金型予備加熱完了後から800秒経過後に、金型内部空気温度Bの温度上昇率が1℃/秒以下となり、かつ金型内面温度Aの温度上昇率が1℃/秒以下となる。本発明において、金型内面温度Aの温度上昇率及び金型内部空気温度Bの温度上昇率は、表1に示すように、25秒毎に測定し、温度上昇率が1℃/秒以下になったか否かで温度上昇飽和時点Cに到達したか否かを判断する。
【0104】
従って、本実施形態における温度上昇飽和時点Cは、図4に示すように、金型予備加熱完了後から800秒経過した時点である。
【0105】
本発明においては、温度上昇飽和時点Cに到達してから、少なくとも300秒加熱を維持する。従って、800秒+300秒=1100秒となるので、樹脂投入を開始してから、1100秒以上となるように加熱を維持する。
【0106】
融点が300℃未満の紫外線吸収剤を含む従来のポリカーボネート樹脂組成物を用いた場合は、樹脂投入後600秒まで加熱していた。従って、図4に示す期間Eとなるように加熱していた。具体的には、期間Dが126秒であり、期間Eが600秒であるので、金型予備加熱完了後726秒まで加熱を維持していた。従って、温度上昇飽和時点Cに到達する前に加熱を終了していた。
【0107】
本発明によれば、温度上昇飽和時点Cに到達してから少なくとも300秒加熱を維持する。例えば、期間Fとなるように加熱を維持する。具体的には、金型予備加熱完了後から、1800秒となるまで加熱を維持する。
【0108】
本発明に従い、温度上昇飽和時点Cに到達してから少なくとも300秒加熱を維持することにより、成形物表面の平滑性に優れ、成形物内に発生する気泡が少ない成形物を成形することができる。
【0109】
上記実施形態においては、金型1内の回転成形の際の雰囲気ガスを空気にしているが、本発明は空気に限定されるものではなく、アルゴンなどの不活性ガスを金型1内の雰囲気ガスとしてもよい。本発明においては、金型内部空気温度としているが、この金型内部空気温度は、金型内の雰囲気ガスの温度を意味するものであり、アルゴンなどの不活性ガスを用いる場合には、この不活性ガスの温度である。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂として、ユーピロン(登録商標、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量24000)を用いた。
【0112】
紫外線吸収剤としては、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤(商品名:「UV−3638」、サイテック社製、融点330℃)を用いた。
【0113】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、紫外線吸収剤0.5質量部となるように添加し、二軸押出混練機で混練し、押出成形し、押出成形物をペレタイザーを用いて直径3mm、長さ3mmのペレットに加工した。得られたペレットを粉砕し、本発明樹脂Aのパウダーを調製した。
【0114】
図1に示す回転成形装置を用い、上記の樹脂パウダーを用い、回転成形を行った。金型内面は、縦約300mm、横約300mm、高さ約400mmの長方体形状である。
【0115】
上記実施形態と同様に、320℃に加熱されたオイルを金型内に通して加熱し、図1及び表1に示す加熱条件となるように金型を加熱しながら回転成形を行った。
【0116】
金型を予備加熱し、金型内面温度A及び金型内部空気温度Bが280℃になった時点において、上記樹脂パウダーを2.0kg投入した。上述のように、樹脂パウダーの投入時間は126秒であった。
【0117】
樹脂パウダーを投入した後、金型を回転させ、回転成形した。金型の主軸の回転数及び主軸と共に回転する小軸の回転数はそれぞれ7rpmおよび13rpmとした。
【0118】
表2に示すように、金型予備加熱完了後の経過時間が、726秒、1000秒、1200秒、1500秒、1800秒、2100秒、2400秒、及び2800秒のそれぞれの条件で加熱を終了させた。加熱の終了は、室温のオイルを金型に導入することにより行い、回転させながら徐々に室温まで金型温度下げ、その後成形品を取り出した。
【0119】
〔成形品の評価〕
平均厚み5mmの成形品から50mm×50mmの大きさの成形品を切り出し、以下のようにして物性を評価した。
【0120】
<ヘイズ>
濁度計(日本電色工業社製「NDH−2000型」)を使用し、C光源2度視野を用いて、JIS K−7105に準拠して、ヘイズ値(%)を測定した。
【0121】
<気泡数>
直径10mmの円及び500μmの線を印刷した透明フィルムを用いて、上記成形体の試験片における気泡の数を目視観察によりカウントし、直径10mmの領域における最大直径500μm以上の気泡の数を求めた。
【0122】
<平滑性>
A4サイズの紙に幅10mm、長さ150mmのラインを記入し、上記成形体の試験片をこの紙の上に高さ100mmとなるように配置し、この試験片を介して紙に記入したラインを目視し、ラインの歪み具合を確認した。そして、以下の基準により試験片表面の平滑性(金型と接する面と対向する側の面の平滑性)として評価した。
【0123】
〇:ほぼ歪みがなく一直線に確認
△:部分的に一直線に確認できるが、歪んだ部分がある
×:一直線状に確認できず、湾曲した状態でしか確認できない
評価結果を表2に示す。
【0124】
(比較例1)
上記実施例1において、紫外線吸収剤として、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤の代わりに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名「LA−31」、アデカ社製、融点195℃)を用いる以外は、上記実施例1と同様にして樹脂パウダーを調製した。
【0125】
調製した樹脂パウダーを用いて、上記実施例1と同様にして回転成形品を作製した。
【0126】
なお、本比較例においては、金型予備加熱完了後の経過時間1800秒まで加熱を行った。
【0127】
上記と同様にして、ヘイズ、気泡数、及び平滑性を評価し、表2に評価結果を示した。なお、気泡数において、「多数」は、気泡数が30以上であることを示している。
【0128】
【表2】

【0129】
表2に示すように、実施例1及び比較例1においては、金型予備加熱完了後経過時間800秒が、温度上昇飽和時点となる。表2には、温度上昇飽和時点後の経過時間も併せて示している。
【0130】
表2に示すように、本発明に従い、本発明樹脂Aを用い、かつ温度上昇飽和時点後300秒以上加熱を維持することにより、ヘイズ及び気泡数が少なく、かつ表面の平滑性に優れた成形品が得られている。
【0131】
また、本発明樹脂Aを用いても、温度上昇飽和時点に到達する前あるいは温度上昇飽和時点後300秒に到達する前に加熱を終了した場合においては、良好な平滑性が得られていない。
【0132】
融点が300℃未満の紫外線吸収剤を用いた比較樹脂Xの場合、金型予備加熱完了後726秒で加熱を終了したものは、ヘイズ及び気泡数が少ないが、平滑性において劣っている。比較樹脂Xを用いたものを、温度上昇飽和時点後においても加熱すると、ヘイズ及び気泡数が著しく大きくなり、良好な透明性を有する成形品が得られないことがわかる。
【0133】
表2に示すように、温度上昇飽和時点後、経過時間が1600秒のものと、2000秒のものを比較すると、2000秒になることにより、ヘイズが若干大きくなっている。このことから、温度上昇飽和時点後300秒〜1800秒の範囲において、加熱を維持することが好ましいことがわかる。
【0134】
本発明樹脂Aを用い、温度上昇飽和時点後1000秒加熱を維持したものと、比較樹脂Xを用い、温度上昇飽和時点後1000秒加熱を維持したものの黄変度を測定した。色差計NR−3000(日本電色工業社製)を用い、試験片の5箇所における彩度bを測定した。本発明樹脂Aを用いたものは、bが4.8であったのに対し、比較樹脂Xを用いたものは7.5であった。このことから、本発明に従えば、樹脂の黄変を抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0135】
1…金型
2,3…半割りの金型
4…供給口
5…排出口
6…支持台
7…第1の回転駆動手段
8…第2の回転駆動手段
10,11,12…温度測定器
13…線材
14…金型の中心
15…金型内部空気温度の測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を回転成形する方法であって、
粘度平均分子量が20000〜30000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、融点300℃以上400℃以下の紫外線吸収剤を0.05〜5.0質量部含むポリカーボネート樹脂組成物を前記ポリカーボネート樹脂として用い、
前記ポリカーボネート樹脂組成物を金型内に投入した後、前記金型を加熱し、金型内面温度の温度上昇率及び金型内部空気温度の温度上昇率がそれぞれ1℃/分以下になった時点を温度上昇飽和時点とし、温度上昇飽和時点に到達してから少なくとも300秒加熱を維持することを特徴とするポリカーボネート樹脂の回転成形方法。
【請求項2】
温度上昇飽和時点からの加熱維持時間が、300秒〜1800秒の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂の回転成形方法。
【請求項3】
紫外線吸収剤が、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂の回転成形方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で回転成形したことを特徴とする回転成形品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274571(P2010−274571A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130408(P2009−130408)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【出願人】(506117840)スイコー株式会社 (5)
【出願人】(596132721)財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】