説明

ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】各種レンズ、プリズム、光ディスク基板などのプラスチック光学材料用として好適に利用可能な、色調の極めて優れたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】全ジヒドロキシ成分の5〜100モル%が、一般式(1)で表される化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルとエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造するにあたり全硫黄元素が式(2)を満たす含有量である一般式(1)で表される化合物を使用する。


M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)の化合物のモル%、yは一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、且つきわめて色調良好なポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、その透明性の高さや優れた耐熱性および力学特性から様々な光学材料に利用されている。その中でも、光学フィルム、光学ディスク、光学プリズム、ピックアップレンズといった光学材料は、複屈折が大きいと、材料内部を透過した光線の結像点がぼやけ、情報の読み取りエラー等の様々な問題を生じることが知られている。そのため、複屈折の小さい樹脂の開発が行なわれてきた。
【0003】
上記式(1)で表される構造を有する化合物から合成されたポリカーボネート樹脂は、優れた低複屈折性、耐熱性を有することから、広く光学材料として用いることが可能であり、開示されている(特許文献1、2、3および4参照)。上記式(1)で表されるジオールは、一般に、タールの蒸留から得られるフルオレンを酸化したフルオレノンと下式(4)および/または式(5)で表されるアルコールを酸触媒存在下、縮合することにより製造される(特許文献5、6および7参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
しかし、タールに含まれる硫黄化合物が精製、合成経路において除去しきれない、また、縮合に使われる酸触媒として硫酸が好適に用いられていることによる硫酸由来の含硫黄化合物の副製などにより、上記式(1)で表されるジオールには含硫黄化合物がわずかに混入する。含硫黄化合物を比較的多く含む上記一般式(1)で表されるジオールを用いて溶融重縮合を行うには、含硫黄化合物の触媒失活能により重合触媒を多量に添加しなければ重合が進行せず、該ポリカーボネート樹脂が溶融重縮合中に着色しやすく、色調の優れた製品を得るのが困難であるという問題点を有していた。
【特許文献1】特開平10−101786号公報
【特許文献2】特開平10−101787号公報
【特許文献3】特開2002−309015号公報
【特許文献4】特開2004−67990号公報
【特許文献5】特許2559332号公報
【特許文献6】特開平10−017517号公報
【特許文献7】特開平11−158106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、色調に優れたポリカーボネート樹脂をエステル交換法により製造する方法を提供することを目的としている
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、光学材料として使用されうるきわめて色調良好なポリカーボネート樹脂をエステル交換反応により製造する方法を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、溶融エステル交換反応により製造する際、一般式(1)の構造を有する化合物中の全硫黄元素の含有量が下記式(2)を満たすことにより上記目的が達成されることを見いだした。
M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)
(式(2)中、Mは式(1)の化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)の化合物のモル%、yは一般式(1)の化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)
【0009】
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂の製造方法、該製造方法により得られたポリカーボネート樹脂及びそれを用いた光学材料を提供するものである。
1.全ジヒドロキシ成分の5〜100モル%が、一般式(1)で表される化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルとエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造するにあたり全硫黄元素が式(2)を満たす含有量である一般式(1)で表される化合物を使用することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【0010】
【化3】


(一般式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。Xは分岐していても良い炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基を表す。nおよびmはそれぞれ独立に1〜5の数値を示す。)
M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)の化合物のモル%、yは一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)

2.一般式(1)で表される化合物中に含まれる−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量が、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
M×(x/100)×(z/32.07)<30 (3)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、zは一般式(1)で表される化合物中の−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)

3.R、Rが水素原子、nおよびmが1、Xが炭素数2のアルキレン基である請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。

4.請求項1又は2記載の方法で得られた、全光線透過率87%以上、ガラス転移温度(Tg)95〜165℃、3mm厚のディスク試験片のYI(黄色度)値3.0以下である光学用途ポリカーボネート樹脂。
5.請求項4記載の光学用途ポリカーボネート樹脂からなる光学フィルム、光学ディスク、光学プリズム又は光学レンズ
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性、耐熱性、かつきわめて色調良好なポリカーボネート樹脂が製造でき、各種レンズ、プリズム、光ディスク基板、光学フィルムなどのプラスチック光学材料用として好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
一般式(1)で表される化合物は、不純物として含まれる化合物由来の硫黄元素の含有量が式(2)を満たすことによって、添加する触媒量が多量にならず、色調の優れたポリカーボネートを得ることができる。式(2)の左辺は、全ヒドロキシ成分合計1モル中の一般式(1)で表される化合物に含まれる全硫黄元素の10-6倍のモル数を示している。すなわち、式(2)は、全ヒドロキシ成分合計1モル中の一般式(1)で表される化合物に含まれる全硫黄元素のモル数が100μモルより少ないことを示しており、このとき、色調の優れたポリカーボネートを得ることができる。
【0013】
更に、一般式(1)で表される化合物中に含まれる−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
M×(x/100)×(z/32.07)<30 (3)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、zは一般式(1)で表される化合物中の−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)
【0014】
ここで、一般式(1)で表される化合物に不純物として含まれる硫黄元素の含有量は、酸化分解・紫外蛍光法硫黄検出器により定量できる。また、−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量は、一般式(1)で表される化合物をアルカリ加水分解後、イオンクロマトグラフィにより定量できる。
【0015】
一般式(1)で表される化合物の精製方法の一例としては、脂肪族アルコール溶媒中でのアルカリ加溶媒分解反応が有効である。脂肪族アルコールとして、具体的には炭素数4〜8の脂肪族アルコールを用い、例えば、n−ヘキサノール、n−ブタノール等を挙げることができ、アルカリとしては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物等を用い、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができ、アルカリ加溶媒分解反応は、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、1000〜5000ml、好ましくは1500〜3500mlとなる量の脂肪族アルコールに加温して溶解させ、1〜10wt%、好ましくは3〜5wt%となる量のアルカリを加えた後、加熱しながら撹拌する。反応液からの一般式(1)で表される化合物を回収する方法については、特に限定はないが、反応液を水で中性になるまで洗浄した後、反応液を撹拌しながら室温,もしくは,冷水で容器の回りを冷却しながら固体を析出させ,次いで、得られた固形物を濾過し、乾燥させるのが好ましい。上記精製方法により、所望の硫黄含有量の一般式(1)で表される化合物を得ることが出来る。
【0016】
本発明に使用される一般式(1)で表される化合物は、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(6−ヒドロキシ−3−オキサペンチルオキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(9−ヒドロキシ−3,6−ジオキサオクチルオキシ)フェニル)フルオレン、等が例示される。
【0017】
また、前記一般式(1)で示されるジヒドロキシ成分以外のジヒドロキシ成分としては、通常ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂のジヒドロキシ成分として使用されているものであればよく、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン)、トリシクロデカン[5.2.1.02,6 ]ジメタノール(TCDDM)、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、デカリン−1,5−ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、スピログリコール、1,4,3,6−ソルビドが例示される。
【0018】
これらのうちで、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、トリシクロ(5.2.1.02.6)デカンジメタノール(TCDDM)が好ましい。
【0019】
本発明におけるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は95℃以上165℃以下であることが好ましく、より好ましくは105℃以上165℃以下である。ガラス転移温度が95℃より低いと耐熱性が悪くなり、使用環境が限定されるため好ましくない。また、ガラス転移温度が165℃より高いと、流動性が悪くなり、成形条件が厳しくなるため好ましくなく、また、流動性を確保するために低分子量に抑えると脆くなるため好ましくない。
全光線透過率は、87%以上が好ましく、より好ましくは89%以上である。また、3mm厚のディスク試験片のYI値(黄色度)は3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下である。
上記物性を満たすポリカーボネート樹脂は、光学フィルム、光学ディスク、光学プリズム及び光学レンズ等の光学用途の成形材料として特に好適である。
【0020】
本発明におけるポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は20,000〜200,000であることが好ましく、更に好ましくは35,000〜100,000である。ポリスチレン換算重量平均分子量が20,000以下では耐衝撃性が低くなり、200,000以上では流動性が悪くなり成形条件が厳しくなるため好ましくない。
【0021】
以下に本発明に関わるポリカーボネート樹脂の製造方法について述べる。ジオール類と炭酸ジエステルとを塩基性化合物触媒もしくはエステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下反応させる公知の溶融重縮合法が好適に用いられる。
【0022】
本発明で用いる炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が用いられる。これらの中でも特にジフェニルカーボネートが好ましい。また、着色原因ともなるジフェニルカーボネート中の塩素含有量は、20ppm以下であることが好ましい。より好ましくは、10ppm以下である。ジフェニルカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物と脂肪族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して0.97〜1.2モルの量で用いられることが好ましく、特に好ましくは0.99〜1.10モルの量である。
【0023】
本発明の製造方法では、触媒として、公知の塩基性化合物およびエステル交換触媒等が用いられる。このような化合物としては、特にアルカリ金属および/またはアルカリ土類化合物、含窒素化合物、スズ等の金属化合物等があげられる。
【0024】
アルカリ金属およびアルカリ土類化合物等の有機酸、無機塩類、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0025】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0026】
また、アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0027】
また、含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、アルアリール基などを有するアンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基性塩等が用いられる。
【0028】
また、アルカリ金属化合物として、周期律表第14族の元素のアート錯体のアルカリ金属塩あるいは周期律表第14族の元素のオキソ酸のアルカリ塩を用いることができる。ここで周期律表第14族の元素とは珪素、ゲルマニウム、錫のことをいう。
【0029】
具体的には周期律表第14族の元素のアート錯体のアルカリ金属塩としてNaGe(OMe)5、NaGe(OEt)3などのゲルマニウム化合物、NaSn(OMe)3、NaSn(Ome)2(OEt)、などの錫化合物があげられる。また周期律表第14族の元素のオキソ酸のアルカリ塩としてオルトケイ酸モノナトリウム、モノ錫酸ジナトリウム塩、ゲルマニウム酸モノナトリウム塩などがあげられる。
【0030】
これらの触媒は、全ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10-9〜10-4モルの量で、好ましくは10-7〜10-5モルの量で用いられる。
【0031】
本発明にかかわる溶融重縮合法は、前記の原料、および触媒を用いて、加熱下に常圧または減圧下にエステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行うものである。反応は、一般には二段以上の多段工程で実施される。
【0032】
具体的には、第一段目の反応を120〜220℃、好ましくは160〜200℃の温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間、常圧〜200Torrの圧力で反応させる。次いで、1〜3時間かけて温度を最終温度である230〜260℃まで徐々に上昇させると共に圧力を徐々に最終圧力である1Torr以下まで減圧し、反応を継続する。最後に1Torr以下の減圧下、230〜260℃の温度で重縮合反応を進め、所定の粘度に達したところで窒素で復圧し、反応を終了する。1Torr以下の反応時間は0.1〜2時間であり、全体の反応時間は1〜6時間、通常2〜5時間である。
【0033】
このような反応は、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0034】
本発明にかかわるポリカーボネート樹脂は、重合反応終了後、熱安定性および加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的には、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類、ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0035】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.1〜1mmHgの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0036】
さらに本発明において、上記熱安定化剤、加水分解安定剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、抗菌剤等を添加することが好適に実施される。
【0037】
これらの添加剤は、従来から公知の方法で各成分をポリカーボネート樹脂に混合することができる。重合終了後の溶融樹脂に縦型もしくは横型の槽型反応器、押出機中において直接これらの添加剤を混合し、冷却後ペレット化する方法が好適に用いられる。また、重合終了後の溶融樹脂を一度冷却ペレット化した後に各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合後、押し出し機、バンバリーミキサー、ロールなどで溶融混練する方法が適宜選択される。
【実施例】
【0038】
以下、実施により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何らの制限を受けるものではない。
【0039】
一般式(1)で表される化合物の評価は、以下の方法で行った。
(1)全S元素含有量:微量硫黄分析装置(三菱化学株式会社製 TS−100)により測定した。
(2)−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量:一般式(1)で表される化合物をアルカリ加水分解後、IC(日本ダイオネクス株式会社製 イオンクロマトグラフィー DX−320J;溶離液ジェネレーター EG40;カラム Ionpak AS−11)により測定した。
【0040】
得られたポリカーボネート樹脂組成物の評価は、以下の方法で行った。
(1)分子量:GPC(Shodex GPC system 11)を用い、ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。展開溶媒にはクロロホルムを用いた。
(2)色相:得られたペレットを射出成形して50mmφ、3mm厚のディスク試験片を作成し、色差計(東京電色 TC−1800MK2)によりYI(黄色度:YI=〔100(1.28X−1.06Z)/Y〕)値を測定した。
(3)全光線透過率:得られたペレットを射出成形して50mmφ、3mm厚のディスク試験片を作成し、全光線透過率計(日本電色工業(株)MODEL1001LP)により測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg):示差熱走査熱量分析計(DSC)により測定した。
【0041】
〈実施例1〉
全硫黄元素含有量2.50ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量0.51ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム7.5×10−5g(8.9×10−7モル、0.1%水溶液として添加)を攪拌機および留出装置付きの300ml四ッ口フラスコに入れ、窒素雰囲気760mmHgの下180℃に加熱し30分間攪拌した。その後、減圧度を150mmHgに調整すると同時に、60℃/hrの速度で200℃まで昇温を行い、20分間その温度に保持しエステル交換反応を行った。さらに、75℃/hrの速度で225℃まで昇温し、昇温終了の10分後、その温度で保持しながら、1時間かけて減圧度を1mmHg以下とした。その後、60℃/hrの速度で240℃まで昇温し、さらに1.5時間攪拌下で反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み常圧に戻し、生成したポリカーボネート樹脂を取り出した。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=67000、YI=1.5、全光線透過率90%、Tg145℃であった。
【0042】
〈実施例2〉
実施例1において、全硫黄元素含有量2.50ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量0.51ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)45.50g(0.104モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール(TCDDM)20.37g(0.104モル)、ジフェニルカーボネート45.57g(0.213モル)、および炭酸水素ナトリウム1.0×10−4g(1.2×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=48500、YI=1.0、全光線透過率90%、Tg121℃であった。
【0043】
〈実施例3〉
実施例1において、全硫黄元素含有量2.50ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量0.51ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)48.02g(0.110モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)25.00g(0.110モル)、ジフェニルカーボネート48.09g(0.225モル)、および炭酸水素ナトリウム1.1×10−4g(1.3×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=51000、YI=1.0、全光線透過率91%、Tg150℃であった。
【0044】
〈実施例4〉
全硫黄元素含有量4.70ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量1.02ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム2.24×10−4g(2.7×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=66200、YI=2.2、全光線透過率90%、Tg145℃であった。
【0045】
〈実施例5〉
全硫黄元素含有量7.20ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量2.10ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム3.7×10−4g(4.4×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=65800、YI=2.8、全光線透過率90%、Tg145℃であった。
【0046】
〈実施例6〉
実施例1において、全硫黄元素含有量10.20ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量3.81ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)45.50g(0.104モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール(TCDDM)20.37g(0.104モル)、ジフェニルカーボネート45.57g(0.213モル)、および炭酸水素ナトリウム5.2×10−4g(6.2×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=49600、YI=2.7、全光線透過率90%、Tg121℃であった。
【0047】
〈比較例1〉
全硫黄元素含有量8.10ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量2.90ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム7.5×10−5g(8.9×10−7モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。しかし、重合反応は殆ど進行せず、ポリカーボネート樹脂は得られなかった。
【0048】
〈比較例2〉
全硫黄元素含有量8.10ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量2.90ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム3.7×10−4g(4.4×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。しかし、重合反応は殆ど進行せず、ポリカーボネート樹脂は得られなかった。
【0049】
〈比較例3〉
全硫黄元素含有量8.10ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量2.90ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)65.00g(0.148モル)、ジフェニルカーボネート32.55g(0.152モル)、および炭酸水素ナトリウム12.4×10−4g(14.8×10−6モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=65500、YI=4.5、全光線透過率86%、Tg145℃であった。
【0050】
〈比較例4〉
実施例1において、全硫黄元素含有量15.40ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量5.53ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)45.50g(0.104モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール(TCDDM)20.37g(0.104モル)、ジフェニルカーボネート45.57g(0.213モル)、および炭酸水素ナトリウム1.0×10−3g(1.2×10−5モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=49200、YI=4.8、全光線透過率86%、Tg121℃であった。
【0051】
〈比較例5〉
実施例1において、全硫黄元素含有量15.40ppm(−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量5.53ppm)の9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(BPEF)48.02g(0.110モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)25.00g(0.110モル)、ジフェニルカーボネート48.09g(0.225モル)、および炭酸水素ナトリウム1.1×10−3g(1.3×10−5モル、0.1%水溶液として添加)を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
生成したポリカーボネート樹脂は、Mw=51300、YI=4.7、全光線透過率84%、Tg150℃であった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ジヒドロキシ成分の5〜100モル%が一般式(1)で表される化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルとエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する方法において、一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素が式(2)を満たす含有量であることを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】


(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。Xは分岐していても良い炭素数2〜6のアルキレン基、炭素数6〜10のシクロアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基を表す。nおよびmはそれぞれ独立に1〜5である。)
M×(x/100)×(y/32.07)<100 (2)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、yは一般式(1)で表される化合物中の全硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物中に含まれる−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量が、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
M×(x/100)×(z/32.07)<30 (3)
(式(2)中、Mは一般式(1)で表される化合物の分子量、xは全ヒドロキシ成分中の一般式(1)で表される化合物のモル%、zは一般式(1)で表される化合物中の−SOH基および−SO3R基由来の硫黄元素の含有量(ppm)を示す。)
【請求項3】
、Rが水素原子、nおよびmが1、Xが炭素数2のアルキレン基である請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の方法で得られた、全光線透過率87%以上、ガラス転移温度(Tg)95〜165℃、3mm厚のディスク試験片のYI(黄色度)値3.0以下である光学用途ポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
請求項4記載の光学用途ポリカーボネート樹脂からなる光学フィルム、光学ディスク、光学プリズム又は光学レンズ

【公開番号】特開2008−111047(P2008−111047A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294923(P2006−294923)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】