説明

ポリカーボネート樹脂フィルム並びに透明フィルム及びその製造方法

【課題】 特定のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含み、機械的強度及び厚みの均一性に優れたポリカーボネート樹脂フィルム及び透明フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂フィルムであって、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度で引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(2)を満足するポリカーボネート樹脂フィルム。


(但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。)
0.9 ≦ 引張下降伏応力/引張上降伏応力 ≦ 1 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂からなるポリカーボネート樹脂フィルムであって、耐熱性、機械的性質に優れ、しかも延伸したフィルムの厚みのばらつきが少ない延伸フィルム成形用のポリカーボネート樹脂フィルム、並びに該ポリカーボネート樹脂フィルムを延伸してなる透明フィルム(すなわち、延伸フィルム)及び該透明フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の光学補償フィルムとして利用されている位相差フィルムに代表される光学フィルムに用いられる透明フィルムは、透明性とともに厚みの均一性が求められており、例えば光学補償フィルムにおいては、厚みのばらつきが大きいと、複屈折と厚みの積である位相差のばらつきが大きくなり、表示画面内が均一に光学補償されなくなり、視野角等の表示品質に優れる表示装置を得ることができないという課題があった。また、近年、液晶ディスプレイの大型化に伴い位相差フィルムも広面積化しており、厚みのばらつきを低減することは、歩留まりの向上にも有効である。特に、延伸工程を経てフィルムを製造する場合、部分的な延伸が発生し、中央部分が薄く端部部分が厚くなることにより中央部分と端部での厚みの差が大きくなる場合があり、より均一なフィルムが望まれていた。
【0003】
ポリカーボネート樹脂は、透明であることから光学フィルムとしての産業上の利用の可能性があるが、ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使
用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、得られたポリカーボネートは、褐色であり、光学フィルムとして満足できるものではない。また、イソソルビドと直鎖脂肪族ジオールとを共重合することにより、光学物性を損なうことなくイソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献2及び3参照)。また、イソソルビドと脂環式ジオールを共重合することにより、耐熱性、機械的強度を改善することが知られている。
【0004】
しかし、植物由来モノマーとして知られるイソソルビドなどの、特定の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂について、延伸時の厚みのばらつきを抑制する方法に関して、何ら知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1,079,686号明細書
【特許文献2】特開2006―028441号公報
【特許文献3】国際公開第2008/020636号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を使用したポリカーボネート樹脂フィルムについて、上記従来の問題点を解消し、機械的強度に優れ、耐熱性があり、延伸したフィルムの厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルム、並びに厚みばらつきが少ない透明フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂のフィルムであって、且つ特定の機械的物性を有するようにすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含む、延伸フィルム成形用のポリカーボネート樹脂フィルムであって、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度で引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(2)を満足するポリカーボネート樹脂フィルムに存する。
【0008】
【化1】

【0009】
(但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。)
0.9 ≦ 引張下降伏応力/引張上降伏応力 ≦ 1 (2)
そして、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度において引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(3)を満足することが好ましく、前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0010】
引張破壊応力/引張上降伏応力 ≧ 1 (3)
【0011】
【化2】

【0012】
また、前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂の40℃における貯蔵弾性率が2.7GPa以下であることがより好ましく、前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂が、前記式(4)で表される化合物に由来する構成単位と、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位とを含む共重合体であることが更に好ましい。
【0013】
そして、本発明の別の要旨は、下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂からなるフィルムを、下記式(5)を満足する条件で、少なくとも一方向に延伸する、透明フィルムの製造方法にある。
【0014】
【化3】

【0015】
(但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。)
200%/分 ≦ 延伸速度(ひずみ速度) ≦ 1200%/分 (5)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性、色調、耐熱性、成形性、及び機械的強度に優れ、かつフィルムの厚みのばらつきが小さい、優れた光学特性を有する透明フィルム(延伸フィルム)を成形可能なポリカーボネート樹脂フィルムを提供することが可能となる。また、本発明の製造方法によれば、厚みのばらつきが小さい透明フィルムを安定的に製造できる。
なお、厚みばらつきの小さい透明フィルムを得るためには、上述した特殊な引張試験による特性を備えた本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを素材として延伸フィルムを作製するか、あるいは、たとえ、上述した特殊な引張試験による特性を備えていないポリカーボネート樹脂フィルムを素材としたとしても、上述した特定の延伸条件を限定した本発明の製造方法によって透明フィルムを作製することにより達成可能である。最も好ましくは、両方の条件を具備し、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを用いて本発明の製造方法を実施することであり、この場合に、より確実に透明フィルムの厚みばらつきを小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(すなわち、代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
本発明に係るポリカーボネート樹脂フィルムは、下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂からなるフィルムであって、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度で引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(2)を満足するものである。但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。
【0018】
【化4】

【0019】
0.9 ≦ 引張下降伏応力/引張上降伏応力 ≦ 1 (2)
<ポリカーボネート樹脂フィルム>
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムは、特定の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも有するポリカーボネート樹脂を原料とするものであって、しかも特定の物性を有するものである。
【0020】
・引張上降伏応力と引張下降伏応力
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムは、引張上降伏応力と引張下降伏応力との関係が下記式(2)で表される特定の範囲にあるものであり、当該特定の範囲を満たすことにより、機械的強特性や透明性に優れ、しかも延伸後の厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルムを得ることができる。引張上降伏応力と引張下降伏応力の測定方法は、実施例の項において後述する。
【0021】
0.9 ≦ 引張下降伏応力/引張上降伏応力 ≦ 1 (2)
本発明の規定する引張上降伏応力と引張下降伏応力との関係を有するポリカーボネート樹脂フィルムを得るためには、本発明で規定する特定の構造を有するポリカーボネート樹脂を採用した上で、その分子量を適宜調整することや、その構成単位を適宜選択することや、その構成単位の比率を調節することや、ポリカーボネート樹脂中に可塑剤を加えることなどを適宜組み合わせたり、適度な製膜条件や延伸条件を選択することにより達成することができる。
【0022】
・引張破壊応力と引張上降伏応力
また、より延伸後の厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルムを得るために、引張上降伏応力と引張破壊応力との関係が下記式(3)で表される特定の範囲にあることが好ましく、当該特定の範囲を満たすことにより、更に厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルムを得ることができる。引張破壊応力の測定方法は、実施例の項において後述する。
【0023】
引張破壊応力/引張上降伏応力 ≧ 1 (3)
本発明の規定する引張上降伏応力と引張破壊応力との関係を有するポリカーボネート樹脂フィルムを得るためには、本発明で規定する特定の構造を有するポリカーボネート樹脂を採用した上で、その分子量を適宜調整することや、その構成単位を適宜選択することや、その構成単位の比率を調節することや、ポリカーボネート樹脂中に可塑剤を加えることなどを適宜組み合わせたり、適度な製膜条件や延伸条件を選択することにより達成することができる。
【0024】
・貯蔵弾性率
更に、より延伸後の厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルムを得るために、本発明で規定する特定の構造を有するポリカーボネート樹脂の40℃における貯蔵弾性率が2.7GPa以下であることが好ましく、当該特定の範囲を満たすことにより、更に厚みのばらつきが少ないポリカーボネート樹脂フィルムを得ることができる。貯蔵弾性率の測定方法は、実施例の項において後述する。
【0025】
本発明の規定する特定範囲の貯蔵弾性率を有するポリカーボネート樹脂フィルムを得るためには、本発明で規定する特定の構造を有するポリカーボネート樹脂を採用した上で、その溶融粘度を適宜調整することや、その構成単位を適宜選択することや、その構成単位の比率を調節することや、ポリカーボネート樹脂中に可塑剤を加えることなどを適宜組み合わせたり、適度な製膜条件や延伸条件を選択することにより達成することができる。
【0026】
・ポリカーボネート樹脂フィルムの製造方法
後述する<ポリカーボネート樹脂>の項において説明するようなポリカーボネート樹脂を原料として、当該ポリカーボネート樹脂の溶融粘度を適宜調整することや、その構成単位を適宜選択することや、その構成単位の比率を調節することや、ポリカーボネート樹脂フィルムを製膜する際に特定の延伸速度により延伸することや、製膜の際に特定の温度において延伸することや、ポリカーボネート樹脂中に可塑剤を加えることなどを適宜組み合わせてポリカーボネート樹脂をフィルム状に製膜することにより、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを製造することができる。
【0027】
この場合の製膜方法としては、特に限定されるものではなく、それ自体公知の成形方法を用いることができる。例えば、溶融押出法、Tダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、溶液キャスト法、流延法、熱プレス法等を挙げることができるが、好ましくは、Tダイ成形法、インフレーション成形法及び流延法が挙げられる。このようにして得られたフィルム又はシートを、更に製膜後に延伸することにより製造することもできる。
【0028】
なお、本発明の目的にかなえば、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムの原料は、後述する本発明に係るポリカーボネート樹脂と、ビスフェノールAやビスフェノールZ等の他のポリカーボネート樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどにより変性されたポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンシクロヘキサンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂などの樹脂の1種又は2種以上、との組成物であってもよい。
【0029】
製膜されたポリカーボネート樹脂フィルムの厚みは、通常、20μmから200μmであり、好ましくは50μmから150μmである。例えば、位相差フィルムとして使用する場合、製膜されたフィルム厚みは、通常10μm〜200μmであり、好ましくは30μm〜150μmである。また、製膜されたポリカーボネート樹脂フィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値がこれ以上大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内バラツキが大きくなる虞がある。
【0030】
・ポリカーボネート樹脂フィルムの延伸方法
本発明に係るポリカーボネート樹脂フィルムを延伸する方法としては、公知の縦、横どちらか一方の一軸延伸、縦横にそれぞれ延伸する二軸延伸等の延伸方法を用いることができる。また、特開平5−157911号公報に示されるような特殊な二軸延伸を施し、フィルムの三次元での屈折率を制御することも可能である。
【0031】
本発明の透明フィルムを製造する際に採用することのできる延伸条件としては、フィルム原料のガラス転移温度の−20℃から+40℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、フィルム原料のガラス転移温度の−10℃から+20℃の範囲である。
そして、透明フィルム厚みのばらつきを小さくするために、延伸速度は、延伸方向の長さで、延伸前のフィルムに対して200%/分以上1200%/分以下であることが好ましく、より好ましくは300%以上、更に好ましくは400%以上であって、好ましくは1100%以下、更に好ましくは1000%以下である。
【0032】
フィルムの延伸倍率は、目的の機械的物性を達成するためや、例えば位相差フィルムとして用いる場合には、目的とする位相差値を得るために決められるが、縦一軸延伸の場合、通常1.05〜4倍、好ましくは1.1〜3倍である。延伸したポリカーボネート樹脂フィルムはそのまま室温で冷却してもよいが、ガラス転移温度の−20℃〜+40℃の温度雰囲気に少なくとも10秒間以上、好ましくは1分以上、更に好ましくは10分〜60分保持してヒートセットし、その後室温まで冷却することが好ましく、これにより安定した各種物性を有した上で、厚みのばらつきが小さい透明フィルムを得ることができる。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを成形してなる透明フィルムにおいては、複屈折が、0.001以上であることが好ましい。透明フィルムの厚みを非常に薄く設計するためには、複屈折が高い方が好ましい。したがって、複屈折は0.002以上であることが更に好ましい。複屈折が0.001未満の場合には、フィルムの厚みを過度に大きくする必要があるため、材料の使用量が増え、厚み・透明性・位相差の点から均質性の制御が困難となる。そのため、複屈折が0.001未満の場合には、前記透明フィルムを精密性・薄型・均質性を求められる機器に適合できない可能性がある
なお、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムの特性を評価するに当たっては、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度+5℃の条件下で自由端2.0倍延伸して得られたフィルムの複屈折(Δn2)によって評価することが好ましい。上記条件下での複屈折(Δn2)を評価することにより、延伸配向性が高い状態で複屈折を測定することができるため、本来の材料が持つ配向性を損なうことなく、特性を評価できるというメリットがある。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを成形してなる透明フィルムにおいては、ナトリウムd線(589nm)における屈折率が1.57〜1.62であることが好ましい。この屈折率が1.57未満の場合には、複屈折が小さくなりすぎるおそれがある。一方、前記屈折率が1.62を超える場合には、反射率が大きくなり、光透過性が低下するおそれがある。
【0035】
前記透明フィルムは、波長450nmで測定した位相差R450と、波長550nmで測定した位相差R550に対する比率(R450/R550)は0.75以上1.1以下であることが好ましい。前記比率がこの範囲内にあれば、理想的な位相差特性を得ることができる。例えば、前記透明フィルムを1/4λ板に用いた円偏光板を作製する場合において、可視領域における理想的な1/4λ板の提供を実現できると共に、波長依存性が少なくニュートラルな色相をもつ偏光板および表示装置の実現が可能である。この効果をさらに安定的に得るためには、前記比率(R450/R550)は0.76以上0.98以下であることがより好ましく、0.77以上0.95以下が特に好ましい。
【0036】
また、前記透明フィルムは、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましい。光弾性係数が40×10−12Pa−1より大きいと、前記透明フィルムを位相差フィルムとして偏光板に貼り合わせ、更にこの偏光板を表示装置に搭載させたときに、貼り合わせ時の応力により、視認環境やバックライトの熱で位相差フィルムに部分的応力がかかり、不均一な位相差変化が生じ、著しい画像品質の低下が起きるという問題が生じる。したがって、本発明における透明フィルムは、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、35×10−12Pa−1以下であることが更に好ましい。
【0037】
また、前記透明フィルムは、厚みが150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であるとなお好ましい。厚みが150μmよりも大きいと、材料の使用量が増え、均一性の制御が困難となり、精密性・薄型・均質性を求められる機器に適合できない。
【0038】
また、前記透明フィルムの平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nzの関係が、下記式(7)〜(9)のいずれかを満足することが好ましい。
nx>ny=nz (7)
nx>ny>nz (8)
nx>nz>ny (9)
屈折率の関係が、nx>ny=nzであれば、λ板やλ/2板、λ/4板などの一軸性の位相差フィルムが得られ、液晶ディスプレイの視野角補償板や、反射・半透過型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの、反射色相補正に使用することができる。
屈折率の関係がnx>ny>nzであれば、液晶ディスプレイの視野角補償板として、特にVAモードにおける視野角補償板として、1枚で補償を行うタイプや2枚で補償を行うタイプに使用することができる。また、上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることもできる。
屈折率の関係がnx>nz>nyであれば、偏光板の視野角補正フィルムや円偏光板の視野角補正フィルムとして用いることができ、また上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることができる。更に、正面だけでなく視野角の補償も行うことができる。
【0039】
また、前記透明フィルムの平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nz、厚みdの関係が下記式(10)及び(11)を満足することが好ましい。
NZ係数=(nx-nz)/(nx−ny)=0.2〜8 (10)
Δnd=(nx−ny)・d=30〜400nm (11)
NZ係数を前記範囲とすることにより、様々なディスプレイの視野角補償用位相差フィルムや色相補正用位相差フィルムを作製することができるという効果が得られる。
一方、NZ係数が0.2未満の場合には、非常に特殊な作製方法が必要となるため、NZ係数の精度が悪く生産性が低くなるという不具合が生じるおそれがある。
NZ係数が8を超える場合には、式:Rth=(nx-nz)・dにより算出される層の厚み方向の位相差値が非常に大きくなるため、材料の厚みを厚くする必要がある。そのため、材料コストが高くなったり、位相差信頼性が低下するおそれがある。
【0040】
また、Δndを前記範囲とすることにより、λ/2板やλ/4板を容易に作ることができる。
一方、Δndが30nm未満の場合には、いわゆる負の一軸性位相差フイルムであるC−plateの領域になる。C−plateは単独では、ディスプレイの視野角補償に用いることはできず、別の位相差フイルムを必要となる。そのため、位相差フイルムの総数が増え、薄層化や低コスト化が困難になるおそれがある。
Δndが400nmを超える場合には、高い位相差を出すために、厚みを厚くする必要があり、生産性や信頼性を下げる要因になるおそれがある。
【0041】
また、前記透明フィルムは、吸水率が0.5質量%〜2.0質量%であることが好ましい。吸水率がこの範囲であれば、本透明フィルムを他のフィルムと貼りあわせる時、容易に接着性を確保することができる。例えば、偏光板と貼りあわせる時、透明フィルムが親水性であるため、水の接触角も低く、接着剤を自由に設計し易く、高い接着設計ができる。一方、吸水率がこの範囲の下限外の場合は、疎水性となり、水の接触角も高く、接着性の設計が困難になる。また、フィルムが帯電し易くなり、異物の巻き込み等、偏光板、表示装置に組み込んだ際、外観欠点が多くなるという問題が生じる。また、吸水率が2.0質量%より大きくなると湿度環境下での光学特性の耐久性が悪くなるためにあまり好ましくない。それ故、本発明における透明フィルムは、吸水率が0.5質量%〜2.0質量%であることが好ましく、更に好ましくは0.6質量%〜1.4質量%である。
【0042】
また、前記透明フィルムを偏光子と積層することによって偏光板を構成することができる。
前記偏光子としては、公知の様々な構成のものを採用することができる。例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。
【0043】
・用途
本発明の透明フィルムを、例えばSTN(Super Twisted Nematic)液晶表示装置の色補償用に用いる場合は、その位相差値は、一般的には、400nm〜2000nmまでの範囲で選択される。また、本発明のポリカーボネート樹脂フィルムを、例えば1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nm〜400nmの範囲で選択される。
【0044】
本発明の透明フィルムを、例えば1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nm〜200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nm〜180nmまでである。
例えば、VAモード用液晶ディスプレイの視野角補償用に本発明の透明フィルムを用いる場合は、位相差値が、30〜70nm、NZ係数=2〜8の範囲の二軸位相差板が選択される。また、IPS(In-Plane Switching)モード用液晶ディスプレイの視野角補償用に本発明の透明フィルムを用いる場合は、位相差値が、100〜160nm、NZ係数=0.9〜1.6の一軸位相差板や、位相差値が200〜300nm、NZ係数=0.3〜0.8の三次元屈折率制御位相差板として選択される。
前記位相差板として用いる場合は、本発明の透明フィルム(すなわち、ポリカーボネート樹脂フィルムを延伸してなる延伸フィルム)を単独で用いることもできるし、2枚以上を組合せて用いることもでき、他のフィルム等と組合せて用いることもできる。
【0045】
本発明の透明フィルム(ポリカーボネート樹脂フィルム)は、上述したごとく、公知のヨウ素系あるいは染料系の偏光板(偏光子)と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸と透明フィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。
本発明の透明フィルム(ポリカーボネート樹脂フィルム)を、例えば1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸と透明フィルム(ポリカーボネート樹脂フィルム)の遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。
【0046】
また、本発明の透明フィルム(ポリカーボネート樹脂フィルム)を、例えば偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。更に、本発明の透明フィルムを、例えばSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
上記のとおり、本発明の透明フィルムは、各種液晶表示装置用の位相差板用に用いることができる。例えば位相差フィルムは、液晶やプラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置に好適に用いることができる。これら表示装置の製造は、それ自体既知の方法で行うことができる。
【0047】
本発明の透明フィルム(ポリカーボネート樹脂フィルム)を適用できる光学用フィルムとしては、例えば、液晶ディスプレイに代表されるような位相差フィルム、視野角拡大フィルム、偏光子保護フィルム、プリズムシート、拡散シート、反射シート、表面反射防止フィルム等の部材用フィルム・シートや製造工程内で使用される剥離フィルムや保護フィルム等を挙げることができる。
<ポリカーボネート樹脂>
本発明に係るポリカーボネート樹脂は、前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むものであるが、分子内に少なくとも一つの結合構造 −CH−O− を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下反応させることにより製造される。
【0048】
ここで、構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物としては、2個のアルコール性水酸基をもち、分子内に連結基−CH−O−を有する構造を含み、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応してポリカーボネートを生成し得る化合物であれば如何なる構造の化合物であっても使用することが可能であり、複数種併用しても構わない。また、本発明に係るポリカーボネート樹脂に用いるジヒドロキシ化合物として、構造式(1)で表される結合構造を有さないジヒドロキシ化合物を併用しても構わない。以下、構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物をジヒドロキシ化合物(A)、構造式(1)で表される結合構造を有さないジヒドロキシ化合物をジヒドロキシ化合物(B)と略記することがある。
【0049】
・ジヒドロキシ化合物(A)
ジヒドロキシ化合物(A)における「連結基−CH−O−」とは、水素原子以外の原子と互いに結合して分子を構成する構造を意味する。この連結基において、少なくとも酸素原子が結合し得る原子又は炭素原子と酸素原子が同時に結合し得る原子としては、炭素原子が最も好ましい。ジヒドロキシ化合物(A)中の「連結基−CH−O−」の数は、1以上、好ましくは2〜4である。
【0050】
さらに具体的には、ジヒドロキシ化合物(A)としては、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等で例示されるような、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]ジフェニルメタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−1−フェニルエタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,4−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,3−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]プロパン、2,2−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−tert−ブチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−4−メチルペンタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]オクタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]デカン、2,2−ビス[3−ブロモ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−シクロヘキシル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等で例示されるような、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)アルカン類、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1−ビス[3−シクロヘキシル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロペンタン等で例示されるような、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル等で例示されるような、ジヒドロキシアルコキシジアリールエーテル類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルフィド、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルフィド等で例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルフィド類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルホキシド、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルホキシド等で例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホキシド類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルホン、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルホン等で例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホン類、1,4−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,2−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3−ビス[2−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、1,4−ビス[2−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、1,3−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−5,7−ジメチルアダマンタン、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、および下記一般式(6)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられ、これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0051】
【化5】

【0052】
これらジヒドロキシ化合物(A)は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明において、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
なお、式(4)で表されるジヒドロキシ化合物と、他のジヒドロキシ化合物との使用割合は、本発明に係るポリカーボネート樹脂を構成する各ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の割合として前述した通りである。
これらのジヒドロキシ化合物(A)のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0054】
イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。また、水分が混入しないようにすることも必要である。
イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートに着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともある。
【0055】
さらに、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネートに着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられ、このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライドなどが挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等が挙げられるが、このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒ともなるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなることもある。
【0056】
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や、分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、これらを除去するため、必要に応じて、イソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。雰囲気はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気にした後、減圧下で蒸留を実施する。
【0057】
例えばイソソルビドについて、このような蒸留を行うことにより、蟻酸含有量が20ppm未満、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、特に好ましくは蟻酸を全く含まないような高純度とすることができる。同時に、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量が、イソソルビド1モルに対して、金属換算量として10μモル以下、好ましくは5μモル以下、より好ましくは3μモル以下、さらに好ましくは1μモル以下、特に好ましくはアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を全く含まないような高純度とすることができる。
【0058】
本発明では、蟻酸含有量が20ppm未満のジヒドロキシ化合物(A)、例えば一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。さらに、蟻酸含有量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、特に好ましくはジヒドロキシ化合物(A)の分解等により発生する蟻酸を全く含まないものである。かかる高純度のジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物を原料として用いることにより、後述する重合反応における問題点が解決され、より着色等が少ない高品質のポリカーボネートを安定的かつ効率的に製造することができる。
【0059】
このように、蟻酸やアルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物の含有量の少ないジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物を、炭酸ジエステルとの反応に供するための具体的な手段としては、特に限定されないが、例えば、次のような方法を採用することができる。
高純度のジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物を炭酸ジエステルとの反応直前まで、好ましくは不活性ガス雰囲気又は減圧ないし真空雰囲気といった、酸素の存在しない雰囲気下に保管する。この保管状態から取り出した後、40℃、80%RHの環境の保管の場合、通常2週間以内に、より好ましくは1週間以内に、炭酸ジエステルとの反応系に供給することが好ましい。40℃、80%RHの環境の保管であれば、通常2週間以内、好ましくは1週間以内の間、上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物を、大気中に放置しておいても重合を阻害することがない。40℃、80%RHより温度、湿度が低い場合には、保管期間をより長くすることができる。
【0060】
ここで、不活性ガス雰囲気下とは、窒素、アルゴン等の一種又は二種以上の酸素含有量が1000ppm以下、特に全く酸素を含まない雰囲気下が挙げられ、また減圧雰囲気下とは、13.3kPa以下で酸素含有量100ppm以下の雰囲気下が挙げられる。この保管系内には必要に応じて鉄の粉を主成分とした脱酸素剤、例えばエージレス(三菱瓦斯化学株式会社製)、オキシータ(上野製薬株式会社製)等の脱酸素剤や、シリカゲル、モレキュラーシーブ、酸化アルミニウム等の乾燥剤を共存させてもよい。
【0061】
また、ジヒドロキシ化合物(A)、例えばイソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生するので、発生させないよう、低温で保管することも有効である。
保管温度は40℃以下なら、脱酸素剤を共存させ、不活性ガス雰囲気下で酸素濃度1000ppm以下の環境を保つと、1ヶ月は重合に供することができる。保管温度は40℃以下、好ましくは、25℃以下、さらに好ましくは、10℃以下、特に好ましくは5℃以下である。
【0062】
粉体や、フレーク状のイソソルビドは、湿度は80%RHといった高湿度下でも保管は可能であるが、吸湿による質量変化があるので、水分を吸湿しないよう、アルミ防湿袋などでの密封保管や、不活性ガス雰囲気下での保管が好ましい。
さらに、これら条件は、適宜組合せて用いることができる。
なお、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物を、後述する炭酸ジエステルとの反応に供する場合、その形態は特に限定されず、粉末状、フレーク状であっても、溶融状態や水溶液などの液状であってもよい。
【0063】
・ジヒドロキシ化合物(B)
本発明においては、ジヒドロキシ化合物としてジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物である、ジヒドロキシ化合物(B)を用いてもよい。ジヒドロキシ化合物(B)としては、例えば、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類等を、ポリカーボネートの構成単位となるジヒドロキシ化合物として、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とともに用いることができる。
【0064】
本発明に使用できる、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、好ましくは、通常5員環構造又は6員環構造を含む化合物を用いる。また、6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。この値が大きくなるほど、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価だったりする。炭素原子数が小さくなるほど、精製しやすく、入手しやすくなる。
【0065】
本発明で使用できる5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(II)又は(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH−R−CHOH (II)
HO−R−OH (III)
(式(II)、(III)中、R、Rはそれぞれ、炭素数4〜20のシクロアルキレン基を示す。)
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIa)(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0066】
【化6】

【0067】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0068】
【化7】

【0069】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノールなどが挙げられる。
【0070】
【化8】

【0071】
また、上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノールなどが挙げられる。
【0072】
【化9】

【0073】
一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノールなどが挙げられる。
【0074】
【化10】

【0075】
また、上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(III)において、Rが下記一般式(IIIa)(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0076】
【化11】

【0077】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(III)において、Rが下記一般式(IIIb)(式中、nは0又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0078】
【化12】

【0079】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又はトリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(III)において、Rが下記一般式(IIIc)(式中、mは0、又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオールなどが用いられる。
【0080】
【化13】

【0081】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(III)において、Rが下記一般式(IIId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオールなどが用いられる。
【0082】
【化14】

【0083】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(III)において、Rが下記一般式(IIIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオールなどが用いられる。
【0084】
【化15】

【0085】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0086】
本発明に使用できる脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
本発明に使用できるオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0087】
本発明に使用できる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0088】
本発明に使用できる環状エーテル構造を有するジオール類としては、例えば、スピログリコール類、ジオキサングルコール類が挙げられる。
なお、上記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種又は2種以上を式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とともに用いることができる。
【0089】
これらのジヒドロキシ化合物(B)を用いることにより、用途に応じた柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることができる。本発明に係るポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物の割合は特に限定されないが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有割合が多過ぎると、光学特性等の性能を低下させたりすることがある。
【0090】
上記他のジヒドロキシ化合物の中で、脂環式ジヒドロキシ化合物を用いる場合、ポリカーボネートを構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の合計の割合は特に限定されないが、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
【0091】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂における、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合については、任意の割合で選択できるが、式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位:脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位=1:99〜99:1(モル%)が好ましく、特に式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位:脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位=10:90〜90:10(モル%)であることが好ましい。上記範囲よりも式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多く脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少ないと着色しやすくなり、逆に式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少なく脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多いと分子量が上がりにくくなる傾向がある。
【0092】
さらに、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類を用いる場合、ポリカーボネートを構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とこれらの各ジヒドロキシ化合物の合計の割合は特に限定されず、任意の割合で選択できる。また、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とこれらの各ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合も特に限定されず、任意の割合で選択できる。
【0093】
ここで、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有する、本発明に係るポリカーボネート樹脂(以下これを「ポリカーボネート共重合体」と称することがある)の重合度は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの質量比1:1の混合溶液を用い、ポリカーボネート濃度を1.00g/dlに精密に調製し、温度30.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「ポリカーボネートの還元粘度」と称す。)として、好ましくは0.40dl/g以上、より好ましくは0.43dl/g以上であり、また、通常2.00dl/g以下、好ましくは1.60dl/g以下のような重合度であることが好ましい。このポリカーボネート還元粘度が極端に低いものでは成形した時の機械的強度が弱い。また、ポリカーボネートの還元粘度が大きくなると、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形サイクルが長くなり、また得られる成形品の複屈折が大きくなり易い傾向がある。
【0094】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂のアッベ数は好ましくは20以上、より好ましくは50以上、特に好ましくは55以上である。この値が大きくなるほど、屈折率の波長分散が小さくなり、収差が小さくなり、光学用フィルムとして好適となる。アッベ数が小さくなるほど屈折率の波長分散が大きくなり、色収差が大きくなる。従って、アッベ数の値が大きいほど好ましく、その上限は特に限定されない。
【0095】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂の5%熱減量温度は、好ましくは340℃以上、より好ましくは345℃以上である。5%熱減量温度が高いほど、熱安定性が高くなり、より高温での使用に耐えるものとなる。また、製造温度も高くでき、より製造時の制御幅が広くできるので、製造し易くなる。低くなるほど、熱安定性が低くなり、高温での使用がしにくくなる。また、製造時の制御許容幅が狭くなり作りにくくなる。従って、5%熱減量温度の上限は特に限定されず、高ければ高いほど良く、共重合体の分解温度が上限となる。
【0096】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂の光弾性係数は、好ましくは−20×10−12Pa−1以上、より好ましくは−10×10−12Pa−1以上であり、また、好ましくは40×10−12Pa−1以下、より好ましくは30×10−12Pa−1以下である。例えば光学フィルムを製造する際、光弾性係数の値が高いと、溶融押出や溶液キャスト法等で製膜したフィルムの位相差の値が大きくなり、これを延伸した場合、張力のわずかな振れにより、フィルム面内の位相差のばらつきがさらに大きくなる。またこのような位相差フィルムを貼合する場合、貼合時の張力により所望する位相差がずれてしまうばかりでなく、貼合後の偏光板の収縮等により、位相差値が変化しやすい。光弾性係数が小さいほど位相差のばらつきが小さくなる。
【0097】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂のアイゾット衝撃強度は、好ましくは30J/m以上である。アイゾット衝撃強度が大きい程、成形体の強度が高くなり、こわれにくくなるので、上限は特に限定されない。
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂は、110℃での単位面積あたりのフェノール成分以外の発生ガス量(以下、単に「発生ガス量」と称す場合がある。)が5ng/cm以下であることが好ましく、また、式(4)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物由来の発生ガス量は0.5ng/cm以下であることがより好ましい。この発生ガス量が少ない程、発生ガスの影響を嫌う用途、例えば、半導体などの電子部品を保管する用途、建物の内装材用途、家電製品などの筐体などに適用することができる。
【0098】
なお、本発明に係るポリカーボネート樹脂の光弾性係数、ガラス転移温度の測定方法は、具体的には後述の実施例の項で示す通りである。
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂は、示差走査熱量測定(DSC)を行ったとき、単一のガラス転移温度を与えるが、式(4)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の種類や配合比を調整することで、そのガラス転移温度を、用途に応じて、例えば45℃程度から155℃程度まで任意のガラス転移温度を持つ重合体として得ることができる。
【0099】
フィルム用途では通常柔軟性が必要とされるため、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が45℃以上、例えば45〜130℃に調整することが好ましい。
本発明に係るポリカーボネート樹脂において、上記物性は、少なくとも二つを同時に有するものが好ましく、さらに他の物性を併せもつものがより好ましい。
【0100】
本発明に係るポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物(A)を含むジヒドロキシ化合物を、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法により製造することができる。
・炭酸ジエステル
本発明のポリカーボネートの製造方法で用いられる炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートに代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、特に好ましくはジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートがあげられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0101】
炭酸ジエステルは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.10のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは0.96〜1.04のモル比率である。このモル比が0.90より小さくなると、製造されたポリカーボネートの末端OH基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化したり、所望する高分子量体が得られなかったりする。また、このモル比が1.10より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となったりするばかりか、製造されたポリカーボネート共重合体中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、又は成形品の臭気の原因となることもある。
【0102】
・重合触媒
本発明に係るポリカーボネート樹脂の製造に用いる重合触媒としては、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。
重合触媒としてアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、その使用量は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、通常0.1μモル〜25μモル、好ましくは0.5μモル〜20μモル、さらに好ましくは0.5μモル〜15μモルの範囲内であって、好ましくは10μモル以下、より好ましくは5μモル以下である。これにより、重合反応を確実に制御することができ、安定的かつ効率的に高品質のポリカーボネートを製造することができる。重合触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネートの色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネートの製造が困難になる。
【0103】
また、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0104】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。なお、本明細書において、「アルカリ金属」及び「アルカリ土類金属」という用語を、それぞれ、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における「第1族金属」及び「第2族金属」と同義として用いる。
【0105】
これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
またアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0106】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0107】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0108】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明において、前記ジヒドロキシ化合物(A)、例えば前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物は、固体として供給しても良いし、加熱して溶融状態として供給しても良いし、水溶液として供給しても良い。
一方、前記ジヒドロキシ化合物(B)、例えば脂環式ジヒドロキシ化合物や他のジヒドロキシ化合物も、固体として供給しても良いし、加熱して溶融状態として供給しても良いし、水に可溶なものであれば、水溶液として供給しても良い。
【0109】
これらの原料ジヒドロキシ化合物を溶融状態や、水溶液で供給すると、工業的に製造する際、計量や搬送がしやすいという利点がある。
本発明において、前記ジヒドロキシ化合物(A)、例えば前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物と必要に応じて用いられる他のジヒドロキシ化合物とを重合触媒の存在下で炭酸ジエステルと反応させる方法は、1段階の工程により行っても構わないが、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目の反応は140〜220℃、好ましくは150〜200℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノールを反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
【0110】
この重縮合反応における減圧において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要である。特に、温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合度が低下することがある。例えば、ジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いる場合は、全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%以上の場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールがモノマーのまま留出しやすくなるので、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させ、最終的に200Pa以下の圧力で、200℃〜250℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネートが得られるため、好ましい。
【0111】
また、全ジヒドロキシ化合物に対し、例えば1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%より少なくなった場合、特に、モル比が30モル%以下となった場合は、1,4−シクロヘキサンジメタノールのモル比が50モル%以上の場合と比べて、急激な粘度上昇が起こるので、例えば、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下までは、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以上の昇温速度、好ましくは1時間あたり50℃以上の昇温速度で上昇させながら反応させ、最終的に200Pa以下の減圧下、220℃〜290℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネートが得られるため、好ましい。
【0112】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
本発明の方法において、ポリカーボネートを溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物又はこれらの金属塩を重合時に添加することができる。
【0113】
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。リン化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0114】
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0115】
リン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩の総量で、先に記載した、全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下とすることがより好ましい。この添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0116】
なお、リン酸化合物、亜リン酸化合物の金属塩としては、これらのアルカリ金属塩や亜鉛塩が好ましく、特に好ましくは亜鉛塩である。また、このリン酸亜鉛塩の中でも、長鎖アルキルリン酸亜鉛塩が好ましい。
また、このようにして製造されたポリカーボネートには、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
【0117】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチル等が好ましく使用される。
【0118】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネートを得た後に、後に記載する配合方法で、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
【0119】
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.0001〜1質量部が好ましく、0.0005〜0.5質量部がより好ましく、0.001〜0.2質量部が更に好ましい。
<添加剤>
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。
【0120】
かかる酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジ
メチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0121】
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.0001〜0.5質量部が好ましい。
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、光安定剤を配合することができる。
【0122】
かかる光安定剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。
【0123】
これらの光安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
かかる光安定剤の配合量は、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.01〜2質量部が好ましい。
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂には、重合体や紫外線吸収剤に基づく黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0124】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]及び一般名Solvent Blue45[CA.No61110]が代表例として挙げられる。
【0125】
これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
これらブルーイング剤は、通常、ポリカーボネートを100質量部とした場合、0.1×10−4〜2×10−4質量部の割合で配合される。
本発明に係るポリカーボネート樹脂と上述のような各種の添加剤との配合は、例えば、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法、あるいは上記各成分を、例えば塩化メチレンなどの共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法などがあるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるポリマーブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
【0126】
こうして得られるポリカーボネート或いは、これに各種添加剤や他の樹脂を配合してなるポリカーボネートの組成物は、そのまま、又は溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、押出成形法等の通常知られている方法で、フィルム状やシート状に成形することができ、液晶表示装置やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどの光学用フィルムなどの光学部品とすることができる。
【0127】
ポリカーボネートの混和性を高めて安定した物性を得るためには、溶融押出において単軸押出機、二軸押出機を使用するのが好ましい。単軸押出機、二軸押出機を用いる方法は、溶剤等を用いることがなく、環境への負荷が小さく、生産性の点からも好適に用いることができる。
押出機の溶融混練温度は、ポリカーボネートのガラス転移温度に依存する。ポリカーボネートのガラス転移温度が90℃より低い場合は、押出機の溶融混練温度は通常130℃〜250℃、好ましくは150℃〜240℃である。溶融混練温度が130℃より低い温度であると、ポリカーボネートの溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。250℃より高いと、ポリカーボネートの溶融粘度が低くなり、ペレットを得にくくなり、生産性が低下する。
【0128】
また、ポリカーボネートのガラス転移温度が90℃以上の場合は、押出機の溶融混練温度は通常200℃〜300℃、好ましくは220℃〜260℃である。溶融混練温度が200℃より低い温度であると、ポリカーボネートの溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの劣化が起こりやすくなり、ポリカーボネートの色が黄変したり、分子量が低下するため強度が劣化したりする。
【0129】
押出機を使用する場合、押出時にポリカーボネートの焼け、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、求められる光学的な精度に依存するが、100μm以下が好ましい。特に、異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには20μm以下、さらに異物をきらう場合は10μm以下が好ましい。
【0130】
ポリカーボネートの押出は、押出後の異物混入を防止するために、クリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネートを冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの大きさ(目開き)は種々あるが、目開き10μm〜0.45μmのものが好ましい。
【0131】
上記ポリカーボネートから光学材料、光学部品を成形する場合には、原料の投入工程を始め、重合工程、得られた共重合体を冷媒中に押し出してペレット状又はシート状にする工程では、塵埃等が入り込まないように留意して行う事が望まれる。このクリーン度は、通常コンパクトディスク用の場合にはクラス1000以下であり、更に高度な情報記録用の場合にはクラス100以下である。
【実施例】
【0132】
以下、製造例及び実験例により本発明を更に詳細に説明する。以下において、ポリカーボネート樹脂の特性評価は次の方法により行った。
(延伸基準温度)
後述の押出機にて溶融押出ししたフィルムを、幅5mm、長さ25mmに切り出し、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、Rheogel-E4000)を用いて、周波数100Hz、昇温速度3℃/分で40℃から200℃まで貯蔵弾性率E’を測定し、温度に対する貯蔵弾性率E’のグラフより接線の交点の温度を延伸基準温度として、求めた。
【0133】
(屈折率及びアッベ数)
アッベ屈折計(株式会社アタゴ製「DR−M4」)を用いると共に、波長656nm(C線)、589nm(D線)、546nm(e線)、486nm(F線)の干渉フィルターを用いて、各波長の屈折率、nC、nD、ne、nFを測定した。
測定試料としては、ポリカーボネート樹脂を160〜200℃でプレス成形して厚み80μmから500μmのフィルムを作製し、得られたフィルムを幅約8mm、長さ10から40mmの短冊状に切り出した測定試験片を用いた。
測定は、界面液として1−ブロモナフタレンを用い、20℃で行った。
アッベ数νdは次の式で計算した。
νd=(1−nD)/(nC−nF)
アッベ数が大きいほど、屈折率の波長依存性が小さくなり、例えば単レンズにした際の波長による焦点のずれが小さくなる。
【0134】
(ガラス転移温度)
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「DSC220」)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを10℃/分の昇温速度で加熱して測定した。JIS−K7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0135】
(貯蔵弾性率)
ガラス転移温度の測定方法と同様にして、前記動的粘弾性測定装置を用いて、40℃における貯蔵弾性率E’を求めた。
(引張試験)
ポリカーボネート樹脂を、単軸押出機(いすず化工機株式会社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを製造し、当該フィルムを、幅20mm、長さ150mmの短冊状に安全かみそりを用いて切り出し、恒温槽つきの引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、テンシロン)を用いて、恒温槽の温度をガラス転移温度に設定し、応力−ひずみ線図を求めた。
【0136】
応力は、引張試験機より得られる荷重を試験片の初期断面積で除して求めた。ひずみは、引張試験機のチャック間の移動量を初期のチャック間距離で除して求めた。初期のチャック環距離は50mmとし、チャック間の移動速度(引張速度)は500mm/分とした。
用いたパラメーターの説明は、下記の通りである。
(1)引張上降伏応力:引張試験開始後、応力の増加を伴わずにひずみの増加する最初の応力
(2)引張下降伏応力:引張試験過程において、上降伏点後応力が急激に減少し、応力が殆ど増加することなしにひずみが増す際の応力
明瞭な降伏現象が見られない場合、応力−ひずみ線図の接線の交点を引張上降伏応力として求める。その際、式(2)の引張下降伏応力と引張上降伏応力の比は、1として取り扱う。
(3)引張破壊応力:試験片破壊時の引張応力
【0137】
(光弾性係数)
<サンプル作製>
80℃で5時間真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂サンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度200〜250℃で、予熱1〜3分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスにて圧力20MPaで3分間加圧冷却してシートを作製した。このシートから幅5mm、長さ20mmのサンプルを切り出した。
【0138】
<測定>
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、及び光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製「DVE−3」)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19、p93−97(1991)を参照。)
【0139】
切り出したサンプルを粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E'を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数0'を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
光弾性係数は、貯蔵弾性率E'とひずみ光学係数0'を用いて次式より求めた。
光弾性係数=0'/E'
【0140】
(透明フィルムの複屈折*1)
<サンプル作製>
80℃で5時間真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂を、単軸押出機(株式会社いすず化工機製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを作製した。このフィルムから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度をポリカーボネート樹脂の延伸基準温度+5℃で、延伸速度720mm/分(ひずみ速度1200%/分)で、1×2.0倍の一軸延伸を行い、透明フィルムを得た。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
【0141】
<測定>
前記透明フィルムを幅4cm、長さ4cmに切り出したサンプルを、位相差測定装置(王子計測機器社製「KOBRA−WPR」)により測定波長590nmの位相差(R590)を測定した。この位相差(R590)を前記サンプルの厚み(t)で除し、下記式に従い、複屈折*1を求めた。
複屈折*1=R590/t
【0142】
<イソソルビドの蒸留>
ここで、製造例1〜4のポリカーボネート樹脂の製造に用いたイソソルビドの蒸留方法は次の通りである。
【0143】
イソソルビドを蒸留容器に投入した後、徐々に減圧を開始後、加温を行い、内温約100℃で溶解した。その後、内温160℃にて溜出を開始した。このときの圧力は133〜266Paであった。初溜を取った後、内温160〜170℃、塔頂温度150〜157℃、133Paで蒸留を実施した。蒸留終了後、アルゴンを入れ、常圧に戻した。得られた蒸留品をアルゴン気流下で冷却粉砕し、蒸留精製したイソソルビドを得た。これを、アルミラミネート袋に窒素気流下で、エージレス(三菱瓦斯化学株式会社製)を同封して室温にてシール保管した。
【0144】
(製造例1)ポリカーボネート樹脂A
イソソルビド(以下「ISB」と略記することがある)89.44質量部に対して、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と略記することがある)37.83質量部、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記することがある)191.02質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液1.068質量部を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。
【0145】
次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネート共重合体のペレットを得た。
【0146】
得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は1.007dl/gであった。このポリカーボネート樹脂の延伸基準温度、ガラス転移温度、屈折率、複屈折*1、光弾性係数、貯蔵弾性率E’、引張上降伏応力、引張下降伏応力、引張破壊応力、および本発明規定の数値範囲との関係を表1に示す。
【0147】
(製造例2)ポリカーボネート樹脂B
イソソルビド81.98質量部に対して、トリシクロデカンジメタノール(以下「TCDDM」と略記することがある)47.19質量部、DPC175.1質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.979質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネートの製造を行い、ポリカーボネート樹脂Bを得た。得られたポリカーボネート樹脂Bの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0148】
(製造例3)ポリカーボネート樹脂C
イソソルビド86.61質量部に対して、TCDDM16.66質量部、CHDM24.47質量部、DPC185.42質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液1.037質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネートの製造を行い、ポリカーボネート樹脂Cを得た。得られたポリカーボネート樹脂Cの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0149】
(製造例4)ポリカーボネート樹脂D
イソソルビド36.02質量部に対して、9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下「BHEPF」と略記することがある)71.8質量部、CHDM24.47質量部、DPC129.46質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液1.037質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネートの製造を行い、ポリカーボネート樹脂Dを得た。得られたポリカーボネート樹脂Bの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0150】
(製造例5)ポリカーボネート樹脂E
イソソルビド41.8質量部に対して、BHEPF87.9質量部、ジエチレングリコール6.2質量部、DPC118.4質量部、及び触媒として炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.887質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネートの製造を行い、ポリカーボネート樹脂Eを得た。得られたポリカーボネート樹脂Eの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0151】
(製造例6)ポリカーボネート樹脂F
イソソルビド37.5質量部に対して、BHEPF91.7質量部、分子量400のポリエチレングリコール(以下「PEG#400」と略記することがある。)8.2質量部、DPC105.7質量部及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.792質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネートの製造を行い、ポリカーボネート樹脂Fを得た。得られたポリカーボネート樹脂Fの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0152】
(製造例7)ポリカーボネート樹脂G
イソソルビド44.6質量部に対して、BHEPF85.8質量部、PEG#400 6.2質量部、DPC112.3質量部及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液%0.841質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネート樹脂の製造を行い、ポリカーボネート樹脂Gを得た。得られたポリカーボネート樹脂Gの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0153】
(製造例8)ポリカーボネート樹脂H
イソソルビド31.9質量部に対して、BHEPF71.8質量部、TCDDM32.1質量部、DPC119.2質量部及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.667質量部に変えた以外は、製造例1と同様にポリカーボネート樹脂の製造を行い、ポリカーボネート樹脂Hを得た。得られたポリカーボネート樹脂Hの各種物性をポリカーボネート樹脂Aと同様に測定して表1に示す。
【0154】
(実験例1)
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂Aを、単軸押出機(いすず化工機株式会社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムより60mm×60mmの正方形の試験片を安全かみそりで切り出し、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度134℃、延伸速度240mm/分(ひずみ速度400%/分)で、1×2.2倍の一軸延伸を行った。得られた延伸フィルムを中心から延伸方向に10mm間隔で各方向に5箇所の合計11箇所の厚みを測定し、厚みの平均値及び厚みのばらつき(11点の最大値と最小値の差)を求めた。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例1で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0155】
(実験例2)
延伸速度600mm/分(ひずみ速度1000%/分)で行った以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例2で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0156】
(実験例3)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例2で製造したポリカーボネート樹脂Bを用い、延伸温度138℃に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例2で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たしていないものの、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0157】
(実験例4)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例3で製造したポリカーボネート樹脂Cを用い、延伸温度133℃に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例4で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0158】
(実験例5)
延伸速度600mm/分(ひずみ速度1000%/分)で行った以外は、実験例4と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例5で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0159】
(実験例6)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例4で製造したポリカーボネート樹脂Dを用い、延伸温度142℃、延伸速度600mm/分に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例6で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0160】
(実験例7)
延伸速度1200mm/分(ひずみ速度2000%/分)で行った以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例4で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たす一方、延伸条件が式(5)を満たしていないことにより、厚みばらつきが比較的大きくなった。
【0161】
(実験例8)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例5で製造したポリカーボネート樹脂Eを用い、延伸温度135℃、延伸速度240mm/分(ひずみ速度400%/分)に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例8で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0162】
(実験例9)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例6で製造したポリカーボネート樹脂Fを用い、延伸温度139℃、延伸速度600mm/分(ひずみ速度1000%/分)に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例9で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0163】
(実験例10)
延伸速度を240mm/分(ひずみ速度400%/分)に代えた以外は、実験例9と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例10で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0164】
(実験例11)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例7で製造したポリカーボネート樹脂Fを用い、延伸温度143℃、延伸速度240mm/分(ひずみ速度400%/分)に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例11で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たし、かつ、延伸条件が式(5)を満たすことにより、厚みばらつきが小さい優れた特性を有する。
【0165】
(実験例12)
延伸速度60mm/分(ひずみ速度100%/分)で行った以外は、実験例3と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表2に示す。
表1及び表2から知られるように、本実験例C1で得られた延伸フィルム(透明フィルム)は、素材であるポリカーボネート樹脂フィルムが式(2)(3)を満たさず、かつ、延伸条件が式(5)を満たさないことにより、厚みばらつきがこれまでの実験の中で最も大きいものとなった。
【0166】
次に、実験例13〜16は、得られた延伸フィルム(透明フィルム)について、他の特性についても測定した。他の特性については、以下のように測定した。
・フィルム厚み:尾崎製作所(株)製 製品名「PEACOCK」の接触式厚み測定機を使用して測定した。
・透過率:23℃で波長550nmを基準として、分光光度計(村上色彩技術研究所(株)製、製品名「DOT−3」)を用いて測定したY値を用いた。
・吸水率:厚さ130±50μmの延伸フィルムをJIS K 7209記載の「プラスティックの吸水率及び沸騰吸水率試験方法」に準拠して測定した。
・位相差フィルムの複屈折および位相差特性:位相差フィルムの位相差特性はミュラーマトリクス・ポラリメーター(AXOMETRICS社製、AXO Scan)を用いて3次元方向の屈折率、位相差値および複屈折*2を測定した(590nm、23℃)。
・屈折率:アタゴ(株)製 アッベ屈折率計「DR−M4」を用いて20℃で測定した。
・光弾性係数:日本分光製 「エリプソ」を用いて測定した。
【0167】
(実験例13)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例8で製造したポリカーボネート樹脂Hを用い、延伸温度137℃、自由端2倍延伸、に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
【0168】
(実験例14)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例6で製造したポリカーボネート樹脂Fを用い、延伸温度131℃、自由端2倍延伸、に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
【0169】
(実験例15)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例7で製造したポリカーボネート樹脂Gを用い、延伸温度135℃、自由端2倍延伸、に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
【0170】
(実験例16)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aを用い、延伸温度125℃、自由端2倍延伸、に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、着色があり、著しく品位が低下した。
【0171】
(実験例17)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例7で製造したポリカーボネート樹脂Gを用い、実施例1と同様に樹脂を押出し、フイルム厚み130μmを得た。このフイルムと、収縮性フイルム(PPの二軸性延伸フイルム)を粘着剤で積層し、延伸温度を135℃で、20%の収縮、さらに1.2倍の固定端一軸延伸に代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フイルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
【0172】
(実験例18)
実験例1のポリカーボネート樹脂Aに代えて、製造例7で製造したポリカーボネート樹脂Gを用い、実施例1と同様に樹脂を押出し、フイルム厚み170μmを得た。131℃で、1.5倍の自由端縦延伸を行い、さらに、136℃で1.6倍の固定端一軸延伸に、代えた以外は、実験例1と同様にして延伸フィルムを製造し、厚みの測定を行った。結果を表3に示す。また、この位相差フイルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
【表3】

【0176】
以上の結果から、本発明のポリカーボネート樹脂フィルム用いて成形した透明フィルム、及び本発明の製造方法により製造した透明フィルムは、機械的強度が高い上にフィルム厚みのばらつきが小さく優れていることがわかる。特に、上記式(2)(3)を具備したポリカーボネート樹脂フィルムを用い、式(5)を具備する延伸条件により延伸することが最も好ましいことが分かる。
【0177】
なお、製造した際の条件が不明のポリカーボネート樹脂フィルムがあった場合、これが上記式(2)又は(3)を満たしているか否かは、該ポリカーボネート樹脂フィルムを、一旦、再溶融し、製膜するかあるいは溶融キャスト法にて製膜するという条件によってポリカーボネート樹脂フィルムを再生してから、ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度で引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験することにより判断できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸フィルム成形用のポリカーボネート樹脂フィルムであって、
下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂フィルムであって、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度で引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(2)を満足するポリカーボネート樹脂フィルム。
【化1】

(但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。)
0.9 ≦ 引張下降伏応力/引張上降伏応力 ≦ 1 (2)
【請求項2】
前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂フィルムであって、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度において引張速度(ひずみ速度)1000%/分で引張試験した際に、下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂フィルム。
引張破壊応力/引張上降伏応力 ≧ 1 (3)
【請求項3】
前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂フィルム。
【化2】

【請求項4】
前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であって、40℃における貯蔵弾性率が2.7GPa以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項5】
前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂であって、前記式(4)で表される化合物に由来する構成単位と、1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位とを含む共重合体である、請求項3又は4に記載のポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂フィルムを、該ポリカーボネート樹脂の延伸基準温度+5℃の条件下で自由端2.0倍延伸したときの複屈折(Δn2)が、0.001以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂フィルム。
【請求項7】
下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂からなるフィルムを、下記式(5)を満足する条件で、少なくとも一方向に延伸することを特徴とする透明フィルムの製造方法。
【化3】

(但し、構造式(1)中の酸素原子に水素原子は結合しない。)
200%/分 ≦ 延伸速度(ひずみ速度) ≦ 1200%/分 (5)
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂を少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする透明フィルム。
【請求項9】
ナトリウムd線(589nm)における屈折率が1.57〜1.62であることを特徴とする請求項8に記載の透明フィルム。
【請求項10】
複屈折が0.001以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の透明フィルム。
【請求項11】
波長450nmで測定した位相差R450と波長550nmで測定した位相差R550の比が下記式(6)を満足することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の透明フィルム。
0.75≦R450/R550≦1.1 (6)
【請求項12】
光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項13】
厚みが150μm以下であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項14】
前記透明フィルムの平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nzの関係が、下記式(7)〜(9)のいずれかを満足することを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の透明フィルム。
nx>ny=nz (7)
nx>ny>nz (8)
nx>nz>ny (9)
【請求項15】
前記透明フィルムの平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nz、厚みdの関係が下記式(10)及び(11)を満足することを特徴とする請求項8〜14のいずれか1項に記載の透明フィルム。
NZ係数=(nx−nz)/(nx−ny)=0.2〜8 (10)
Δnd=(nx−ny)・d=30〜400nm (11)
【請求項16】
吸水率が0.5質量%〜2.0質量%であることを特徴とする請求項8〜15のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれか1項に記載の透明フィルムが偏光子と積層されていることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2012−31370(P2012−31370A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257074(P2010−257074)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】