説明

ポリカーボネート樹脂及びそれよりなる透明フィルム

【課題】溶融製膜時の熱による異物や気泡の発生による欠陥や、フィルムの着色が起こり難く、高温条件下での長期使用によっても位相差の変動が小さい、温度安定性に優れた透明フィルムを製膜することができるポリカーボネート樹脂を提供する。
【解決手段】フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、イソソルビド構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、式(3)〜(6)のいずれかで表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含み、式(3)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量がポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.1重量%以上4.5重量%未満であるポリカーボネート樹脂。HO−R−OH(3)HO−CH−R−CH−OH(4)H−(O−R−OH(5)HO−R−OH(6)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂及びそれよりなる透明フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネート樹脂の開発が求められている。
【0003】
このようなことから、例えば、植物由来モノマーとして、イソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換反応により、ポリカーボネート樹脂を得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、イソソルビドを原料として含むポリカーボネート樹脂は、透明性が高く、光弾性係数が低くかつ耐熱性を有するため、液晶表示装置の位相差板、基板などの光学用途に使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンとイソソルビドを原料とする、光弾性係数が低く、耐熱性、成形性に優れ、光学用途に適したポリカーボネート樹脂が提案されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、イソソルビドとビスクレゾールフルオレン及び脂肪族ジオール、脂環族ジオール、スピログリコール等を原料とする3元共重合ポリカーボネート樹脂からなるフィルムも開示されており、このポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムは、光弾性係数が低い上、位相差が短波長になるほど小さくなる逆波長分散性を示すことが開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、イソソルビドとビスクレゾールフルオレン又は9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを原料とする2元共重合ポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムが開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1,079,686号明細書
【特許文献2】特開2006−28441号公報
【特許文献3】特開2004−67990号公報
【特許文献4】国際公開第2006/41190号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2010/64721号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶用ディスプレイ機器やモバイル機器等に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムを含む透明フィルムの分野では、コスト低減のため、従来の溶媒を用いた溶液キャスト製膜法から、溶媒を用いずに樹脂を熱溶融して成形する溶融製膜法でフィルム化されることが望まれている。
しかしながら、従来のイソソルビドとフルオレン化合物を原料とするポリカーボネート樹脂を溶融製膜法によって製膜すると、製膜時の熱による異物や気泡の発生により欠陥が増加したり、フィルムが着色したりするという問題があった。
【0007】
また、このような分野で用いられる透明フィルムは、通常の用途とは異なり様々な温度や湿度条件で利用される場合があり、使用時の環境変化によってもその特性変化が少ないことが求められており、特に温度変化による位相差の変動が小さいという、温度に対する安定性が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、上記従来の課題を解消し、溶融製膜法による製膜であっても、製膜時の熱による異物や気泡の発生により欠陥が増加したり、フィルムが着色したりすることが起こり難く、しかも高温条件下での長期使用によっても位相差の変動が小さい、温度に対する安定性に優れた透明フィルムを製膜することができるポリカーボネート樹脂、及び当該ポリカーボネート樹脂からなる透明フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を特定の割合で含むポリカーボネート樹脂が、上記従来の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[9]である。
【0011】
[1] 下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂であって、下記式(3)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、該ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.1重量%以上4.5重量%未満であるポリカーボネート樹脂。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキル基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリール基を表し、X,Xはそれぞれ独立に、炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。)
【0014】
【化2】

【0015】
HO−R−OH (3)
(上記式(3)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
【0016】
HO−CH−R−CH−OH (4)
(上記式(4)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
【0017】
H−(O−R−OH (5)
(上記式(5)中、Rは炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、pは2〜50の整数である。)
【0018】
HO−R−OH (6)
(上記式(6)中、Rは炭素数2〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基を表す。)
【0019】
[2] ガラス転移温度が125℃以上150℃以下である前記[1]に記載のポリカーボネート樹脂。
【0020】
[3] 温度240℃、せん断速度91.2sec−1での溶融粘度が500Pa・sec以上2500Pa・sec以下である前記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
【0021】
[4] 還元粘度が0.30dL/g以上1.2dL/g以下である前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【0022】
[5] 前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂から成形された透明フィルム。
【0023】
[6] 前記ポリカーボネート樹脂を成形温度265℃以下で溶融製膜法により成形して得られる前記[5]に記載の透明フィルム。
【0024】
[7] 少なくとも一方向に延伸されている前記[6]に記載の透明フィルム。
【0025】
[8] 波長450nmで測定した位相差R450と波長550nmで測定した位相差R550の比が下記式(I)を満足する前記[5]〜[7]のいずれか1項に記載の透明フィルム。
0.5<R450/R550<1.0 (I)
【0026】
[9] 前記位相差R450と前記位相差R550の比R450/R550において、初期のR450/R550を(R450/R550)とし、90℃で48時間保持した後のR450/R550を(R450/R550)48としたときに、下記式(II)を満足する前記[8]に記載の透明フィルム。
0<|(R450/R550)48−(R450/R550)|<0.015
(II)
【発明の効果】
【0027】
本発明のポリカーボネート樹脂は、溶融製膜法による製膜であっても製膜時の熱による異物や気泡の発生による欠陥の増加や、フィルムの着色が小さく、溶融製膜適合性に優れる。
しかも、本発明のポリカーボネート樹脂を製膜して得られた透明フィルムは、高温条件下での長期使用によっても位相差の変動が小さく、温度に対する安定性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0029】
[1]ポリカーボネート樹脂
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂であって、前記式(3)〜(6)より選ばれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、該ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.1重量%以上4.5重量%未満である。
【0030】
なお、以下において、各種の基の炭素数は、当該基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数をも含めた合計の炭素数を意味する。
【0031】
[式(1)で表されるジヒドロキシ化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【0032】
【化3】

【0033】
上記式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキル基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリール基を表し、X,Xはそれぞれ独立に、炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。
【0034】
ここで、R〜R及びX,Xの有していてもよい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0035】
〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6〜炭素数15の置換若しくは無置換のアリール基が好ましく、R〜Rのうち、RおよびRが無置換のアルキル基であるか、R〜Rが全て水素原子であることがより好ましい。R〜Rが水素原子以外の置換基である場合、ベンゼン環のフルオレン環への結合位置に対して3位又は5位に結合していることが好ましく、無置換のアルキル基としては、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0036】
,Xはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数4のアルキレン基が好ましく、中でも無置換のメチレン基、無置換のエチレン基、無置換のプロピレン基が好ましく、XとXとは同じであることがより好ましい。また、mとnも同じ整数であることが好ましい。
【0037】
特に、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、フルオレン環の対称軸を対称軸として左右対称構造であることが好ましい。
【0038】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−プロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−プロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が例示され、好ましくは、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレンが挙げられるが、何らこれらのジヒドロキシ化合物に限定されるものではない。前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、特に好ましくは、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンである。
【0039】
本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0040】
[式(2)で表されるジヒドロキシ化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【0041】
【化4】

【0042】
上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にあるイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0043】
[式(3)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【0044】
HO−R−OH (3)
(上記式(3)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
【0045】
HO−CH−R−CH−OH (4)
(上記式(4)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
【0046】
H−(O−R−OH (5)
(上記式(5)中、Rは炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、pは2〜50の整数である。)
【0047】
HO−R−OH (6)
(上記式(6)中、Rは炭素数2〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基を表す。)
【0048】
<式(3)で表されるジヒドロキシ化合物>
前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物は、Rに炭素数4〜炭素数20、好ましくは炭素数4〜炭素数18の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を有する脂環式ジヒドロキシ化合物である。ここで、Rが置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1〜炭素数12の置換若しくは無置換のアルキル基が挙げられ、該アルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0049】
このジヒドロキシ化合物は、環構造を有することにより、得られるポリカーボネート樹脂を成形したときの成形品の靭性を高めることが可能となり、なかでもフィルムに成形したときの靭性を高めることができる。
【0050】
のシクロアルキレン基としては、環構造を有する炭化水素基であれば特に制限は無く、橋頭炭素原子を有するような橋かけ構造であっても構わない。ジヒドロキシ化合物の製造が容易で不純物量を少なくすることができるという観点から、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物は、5員環構造又は6員環構造を含む化合物、即ち、Rが置換若しくは無置換のシクロペンチレン基又は置換若しくは無置換のシクロへキシレン基であるジヒドロキシ化合物が好ましい。このようなジヒドロキシ化合物であれば、5員環構造又は6員環構造を含むことにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高くすることができる。該6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。
【0051】
なかでも、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物は、Rが下記式(7)で示される種々の異性体であることが好ましい。ここで、式(7)中、R11は水素原子、又は、炭素数1〜炭素数12の置換若しくは無置換のアルキル基を表す。R11が置換基を有する炭素数1〜炭素数12のアルキル基である場合、当該置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0052】
【化5】

【0053】
前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物として、より具体的には、テトラメチルシクロブタンジオール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジオール類、ペンタシクロジオール類等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
<式(4)で表されるジヒドロキシ化合物>
前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物は、Rに炭素数4〜炭素数20、好ましくは炭素数3〜炭素数18の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を有する脂環式ジヒドロキシ化合物である。ここで、Rが置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1〜炭素数12の置換若しくは無置換のアルキル基が挙げられ、該アルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。
【0055】
このジヒドロキシ化合物は、環構造を有することにより、得られるポリカーボネート樹脂を成形したときの成形品の靭性を高めることが可能となり、なかでもフィルムに成形したときの靭性を高めることができる。
【0056】
のシクロアルキレン基としては、環構造を有する炭化水素基であれば特に制限は無く、橋頭炭素原子を有するような橋かけ構造であっても構わない。ジヒドロキシ化合物の製造が容易で不純物量を少なくすることができるという観点から、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物は、5員環構造又は6員環構造を含む化合物、即ち、Rが置換若しくは無置換のシクロペンチレン基又は置換若しくは無置換のシクロへキシレン基であるジヒドロキシ化合物が好ましい。このようなジヒドロキシ化合物であれば、5員環構造又は6員環構造を含むことにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高くすることができる。該6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物は、なかでも、Rが前記式(7)で示される種々の異性体であることが好ましい。
【0057】
前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物として、より具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、3,9−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、4,9−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、8−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、9−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、8−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、9−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン等が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0058】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。即ち、これらのジヒドロキシ化合物は、製造上の理由から異性体の混合物として得られる場合があるが、その際にはそのまま異性体混合物として使用することもできる。例えば、3,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、3,9−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、及び4,9−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02.6]デカンの混合物を使用することができる。
【0059】
前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0060】
<式(5)で表されるジヒドロキシ化合物>
前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物は、Rに炭素数2〜炭素数10、好ましくは炭素数2〜炭素数5の置換若しくは無置換のアルキレン基を有する化合物である。pは2〜50の整数、好ましくは2〜30の整数、より好ましくは5〜28の整数、更に好ましくは10〜25の整数、特に好ましくは10〜15の整数である。
【0061】
前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的にはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量150〜4000)などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物としては、分子量300〜2000のポリエチレングリコールが好ましく、中でも分子数600〜1500のポリエチレングリコールが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
<式(6)で表されるジヒドロキシ化合物>
前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物は、Rに炭素数2〜炭素数20、好ましくは炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基を有するジヒドロキシ化合物である。Rのアルキレン基が置換基を有する場合、当該置換基としては炭素数1〜炭素数5のアルキル基が挙げられる。また、Rのアセタール環を有する基が置換基を有する場合、当該置換基としては炭素数1〜炭素数3のアルキル基が挙げられる。
【0063】
前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物のうち、Rが炭素数2〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキレン基であるジヒドロキシ化合物としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられるが何らこれらに限定されるものではない。
【0064】
一方、Rが置換若しくは無置換のアセタール環を有する基であるジヒドロキシ化合物としては、特に限定されるものではないが、中でも、下記式(8)、(9)で表されるようなスピロ構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特には下記式(8)で表されるような複数の環構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0065】
【化6】

【0066】
これらのジヒドロキシ化合物のなかでも、入手のし易さ、取扱いの容易さ、重合時の反応性の高さ、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点からは、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また耐熱性の観点からは、アセタール環を有する基を有するジヒドロキシ化合物類が好ましく、特には上記式(8)に代表されるような複数の環構造を有するものが好ましい。これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
[その他のジヒドロキシ化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(1)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0068】
その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類等が挙げられる。
ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、前記式(1)で表されるもの以外の、構造内に芳香族環を有するジヒドロキシ化合物は光学特性に悪影響を及ぼす虞があるため、このようなジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して50モル%以下で用いることが好ましく、より好ましくは20モル%以下であって、更には5モル%以下で用いることが好ましく、特に本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるもの以外の、構造内に芳香族環を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含まないことが好ましい。
【0069】
[ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合]
本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を、ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.1重量%以上4.5重量%未満、好ましくは0.1重量%以上4.0重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以上3.0重量%以下含むことを特徴とする。前記式(3)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を、ポリカーボネート樹脂中に上記下限値以上含むことにより、該ポリカーボネート樹脂を溶融し成形する際に、熱による異物や気泡の発生を防止したり、ポリカーボネート樹脂の着色を防止したりすることができるからである。ただし、該構造単位が過度に多いと、フィルムとしたときの位相差の安定性が低下するため、この割合は上記上限値未満とする。
【0070】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(3)〜(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、いずれか1種の式で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のみを含有していてもよく、また、2種以上の式で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有していてもよい。いずれのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むかは、ポリカーボネート樹脂の用途に応じた要求特性を満たすように適宜決定されるが、特に、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、好ましくは分子量300〜2000のポリエチレングリコール、特に好ましくは分子量600〜1500のポリエチレングリコールを、ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.5重量%以上4重量%以下、特に1重量%以上3重量%以下含むことが好ましい。
【0071】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂に含まれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が、40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは45重量%以上であり、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは55重量%以上、とりわけ好ましくは60重量%以上である。該構造単位の含有割合が過度に少ないと、本発明のポリカーボネート樹脂を光学フィルムとして利用する際の波長分散特性が好ましいものとならない場合がある。また、該構造単位の含有割合が過度に多いと、本発明のポリカーボネート樹脂を光学フィルムとして利用する際の、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差との比が、過度に大きくなり光学特性が好ましいものとならない場合があるので、95重量%以下、中でも90重量%以下、特に85重量%以下、とりわけ80重量%以下であることが好ましい。
【0072】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂に含まれるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは25重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。該構造単位の含有割合が過度に少ないと、光学フィルムとして利用する際にフィルムの位相差が過度に小さくなる虞がある。ただし、該構造単位の含有割合が過度に多いと、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が過度に高くなりフィルム成形が困難になるので50重量%以下、特に45重量%以下であることが好ましい。
【0073】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物と、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物とを、重合触媒の存在下に、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
【0074】
この溶融重合法で用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(10)で表されるものが挙げられる。
【0075】
【化7】

【0076】
(式(10)において、A及びAは、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数18の置換若しくは無置換の脂肪族基、又は、炭素数6〜炭素数18の置換若しくは無置換の芳香族基である。)
【0077】
前記式(10)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネートなどに代表されるジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどに代表されるジアルキルカーボネート類が挙げられる。なかでも、好ましくはジアリールカーボネート類が用いられ、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
炭酸ジエステルは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.10のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.96〜1.04のモル比率である。このモル比率が0.90より小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化したり、所望する高分子量体が得られなかったりする。また、このモル比率が1.10より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となったりするばかりか、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、又は成形品の臭気の原因となり好ましくない。
【0079】
また、溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0080】
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0081】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。尚、本明細書において「アルカリ金属」及び「アルカリ土類金属」という用語を、それぞれ、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における「第1族元素」及び「第2族元素」と同義として用いる。
【0082】
これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0083】
またアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0084】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0085】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0086】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0087】
これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0088】
上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1μモル〜100μモルの範囲内で用い、好ましくは0.5μモル〜50μモルの範囲内であり、さらに好ましくは1μモル〜25μモルの範囲内である。重合触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる場合がある。
【0089】
このような本発明のポリカーボネート樹脂の製造に当たり、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、固体として供給してもよいし、加熱して溶融状態として供給してもよいし、水溶液として供給してもよい。
更に、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物や、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物それぞれも、固体として供給してもよいし、加熱して溶融状態として供給してもよいし、水に可溶なものであれば、水溶液として供給してもよい。その他のジヒドロキシ化合物についても同様である。
【0090】
本発明において、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物と、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び前記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物とを重合触媒の存在下で炭酸ジエステルと反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目の反応は140℃〜220℃、好ましくは150℃〜200℃の温度で0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノール等のモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210℃〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
【0091】
この重縮合反応における減圧において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要である。特に、温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが反応系外に留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が変化し、重合度が低下することがある。例えば、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としてイソソルビドと、前記式(4)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物として1,4−シクロヘキサンジメタノールとを用いる場合は、全ジヒドロキシ化合物に対し、1,4−シクロヘキサンジメタノールがモノマーのまま反応系外に留出しやすくなるので、反応系内の圧力が13kPa程度の減圧下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させながら反応させ、さらに、6.67kPa程度までの圧力下で、温度を1時間あたり40℃以下の昇温速度で上昇させ、最終的に200Pa以下の圧力で、200℃から250℃の温度で重縮合反応を行うと、十分に重合度が上昇したポリカーボネート樹脂が得られるため、好ましい。
【0092】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0093】
本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物又はこれらの金属塩を重合時に添加することができる。
【0094】
該リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。リン酸化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さくなる場合があり、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする場合がある。
【0095】
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。亜リン酸化合物の添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さくなる場合があり、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0096】
リン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物又はこれらの金属塩の総量で、先に記載した、全ジヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が上記下限より少ないと、着色防止効果が小さくなる場合があり、上記上限より多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0097】
なお、リン酸化合物、亜リン酸化合物の金属塩としては、これらのアルカリ金属塩や亜鉛塩が好ましく、特に好ましくは亜鉛塩である。また、このリン酸亜鉛塩の中でも、長鎖アルキルリン酸亜鉛塩が好ましい。
【0098】
また、このようにして製造された本発明のポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
【0099】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0100】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
【0101】
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部〜1重量部が好ましく、0.0005重量部〜0.5重量部がより好ましく、0.001重量部〜0.2重量部が更に好ましい。
【0102】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。
【0103】
かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0104】
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネートを100重量部とした場合、0.0001重量部〜0.5重量部が好ましい。
【0105】
[ポリカーボネート樹脂の物性]
<ガラス転移温度>
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は125℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは130℃以上145℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性があり、また、位相差フィルムとして、偏光板と張り合わせた場合にも画像品質を下げる場合がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の溶融成形安定性が悪くなる場合があり、またフィルムの透明性を損なう場合がある。
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0106】
<還元粘度>
本発明のポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができる。本発明のポリカーボネート樹脂の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載されるように、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定される。本発明のポリカーボネート樹脂の還元粘度に特に制限は無いが、好ましくは0.30dL/g以上であり、より好ましくは0.35dL/g以上である。還元粘度の上限は、好ましくは1.20dL/g以下、より好ましくは1.00dL/g以下、更に好ましくは0.80dL/g以下である。
【0107】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が上記下限値より小さいと成形品の機械的強度が小さくなるという問題が生じる可能性がある。一方、還元粘度が上記上限値より大きいと、成形する際の流動性が低下し、生産性が低下するという問題が生じたり、ポリカーボネート樹脂中の異物などを濾過で除去することが困難になり異物低減が難しくなったり、成形の際に気泡が混在したりして成形品の品質が低下する可能性がある。
【0108】
<溶融粘度>
本発明のポリカーボネート樹脂は、温度240℃、せん断速度91.2sec−1での溶融粘度が、好ましくは500Pa・sec以上2500Pa・sec以下であり、より好ましくは800Pa・sec以上2300Pa・sec以下、特に好ましくは900Pa・sec以上2000Pa・sec以下である。
【0109】
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が上記下限値より小さいと成形品の機械的強度が小さくなるという問題が生じる可能性がある。一方、溶融粘度が上記上限値より大きいと、成形する際の流動性が低下し、生産性が低下するという問題が生じたり、成形の際に成形品に気泡が混入して成形品の外観が低下したり、ポリカーボネート樹脂中の異物を濾過などにより除去することが困難になったりするという問題が生じる可能性がある。ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0110】
<光弾性係数>
ポリカーボネート樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法でプレス成形して得られたシートについて、後述の方法で測定された光弾性係数が60×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは55×10−12Pa−1以下であり、更に好ましくは45×10−12Pa−1以下であり、特には35×10−12Pa−1以下であることが好ましい。光弾性係数が60×10−12Pa−1より大きいと、このポリカーボネート樹脂を成形して得られた透明フィルムを位相差フィルムとして偏光板に貼り合わせ、更にこの偏光板を表示装置に搭載させたときに、貼り合わせ時の応力により、視認環境やバックライトの熱で位相差フィルムに部分的応力がかかり、不均一な位相差変化が生じ、著しい画像品質の低下が起きるという問題が生じる。また、光弾性係数は、製造上の容易性という点で、通常−10×10−12Pa−1以上、好ましくは0×10−12Pa−1以上である。
【0111】
[2] 透明フィルム
本発明の透明フィルムは、本発明のポリカーボネート樹脂を成形して得られるものである。
【0112】
[透明フィルムの作製方法]
本発明において、ポリカーボネート樹脂を用いて透明フィルムを作製する方法としては、Tダイ成形法、インフレーション成形法、キャスト塗工法等の溶融押出し法(溶融製膜法)、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出し法、共溶融法、多層押出し法等、様々な製膜方法を用いることができ、特に限定されない。好ましくは、溶融製膜法であり、特に、Tダイ成形法、インフレーション成形法が好ましい。
【0113】
本発明の透明フィルムは、少なくとも一方向に延伸されていることで位相差板として用いることができる。延伸の方法としては、例えば、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮又は固定端収縮等、様々な延伸方法が挙げられ、これらの方法は単独で用いてもよく、同時もしくは逐次で用いてもよい。
また、延伸方向に関しても、水平方向、垂直方向、厚さ方向又は対角方向等、様々な方向や次元に行なうことが可能であり、特に限定されない。
延伸の温度も当該ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度±20℃の範囲において、延伸の方法、フィルムの厚み、目的の位相差に応じて適宜設定することができる。
【0114】
<透明フィルムの製膜方法>
本発明の透明フィルムを溶融製膜法で成形する場合、より具体的には例えば、その成形温度は好ましくは265℃以下であって、より好ましくは260℃以下、特には258℃以下とすることが好ましい。成形温度が高過ぎると、透明フィルム中の異物や気泡の発生による欠陥が増加したり、透明フィルムが着色したりする虞がある。ただし、成形温度が低過ぎると透明フィルムの成形が困難となり、厚みの均一な透明フィルムを製造することが困難になる虞があるので、成形温度の下限は通常200℃以上であって、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上である。
【0115】
ここで、透明フィルムの成形温度とは、溶融製膜法における成形時の温度であって、通常、溶融樹脂を押出すダイス出口の温度を測定した値である。
【0116】
<延伸方法>
本発明の透明フィルムは、前述の如く、少なくとも一方向に延伸されたものであることが好ましい。この透明フィルムの延伸する方法は、目的に応じて、任意の適切な延伸方法が採用され、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮又は固定端収縮等、様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることができる。好ましくは、横一軸延伸方法、縦横同時二軸延伸方法、縦横逐次二軸延伸方法等が挙げられる。延伸する手段としては、テンター延伸機、二軸延伸機等々の、任意の適切な延伸機が用いられ得る。透明フィルムの延伸温度は、目的に応じて、適宜、適切な値が選択され得る。好ましくは、延伸は、高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg−20℃〜Tg+30℃の範囲で行なう。このような条件を選択することによって、位相差値が均一になり易く、かつ、フィルムが結晶化(白濁)しにくくなる。具体的には、上記延伸温度は90℃〜210℃であり、さらに好ましくは100℃〜200℃であり、特に好ましくは100℃〜180℃である。透明フィルムの延伸倍率は、目的に応じて、適宜、選択され得る。上記延伸倍率は、好ましくは1を超え6倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍を超え4倍以下であり、特に好ましくは2.0倍を超え3倍以下である。
【0117】
[透明フィルムの厚み]
本発明の透明フィルムの厚みは、用途により異なるが、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましい。厚みが大きいと、材料の使用量が増え、均一性の制御が困難となり、精密性、薄型及び均質性を求められる機器に適合できない。
本発明の透明フィルムの厚みの下限としては、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上である。厚みが過度に薄いとフィルムの取り扱いが困難になり、製造中にしわが発生したり、保護フィルムなどの他のフィルムやシートなどと貼合わせることが困難になったりすることがあり、厚みが過度に厚いと同じ面積のフィルムを製造するのにより多くの樹脂が必要になり非効率であったり、当該フィルムを使用する製品の厚みが厚くなる可能性がある。
【0118】
[透明フィルムの物性]
<複屈折>
本発明のポリカーボネート樹脂を成形して得られる透明フィルムにおいては、複屈折が、0.001以上であることが好ましい。前記ポリカーボネート樹脂を用いて成形するフィルムの厚みを非常に薄く設計するためには、複屈折が高い方が好ましい。従って、複屈折は0.002以上であることが更に好ましい。複屈折が0.001未満の場合には、フィルムの厚みを過度に大きくする必要があるため、材料の使用量が増え、厚み、透明性及び位相差の点から均質性の制御が困難となる。そのため、複屈折が0.001未満の場合には、前記ポリカーボネート樹脂を用いて作製した透明フィルムを、精密性、薄型及び均質性を求められる機器に適合できない可能性がある。
【0119】
<屈折率>
本発明のポリカーボネート樹脂を成形して得られる透明フィルムにおいては、ナトリウムd線(589nm)における屈折率が1.57〜1.62であることが好ましい。この屈折率が1.57未満の場合には、複屈折が小さくなりすぎるおそれがある。一方、前記屈折率が1.62を超える場合には、反射率が大きくなり、光透過性が低下するおそれがある。
【0120】
また、本発明の透明フィルムは、平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nzの関係が、下記式(i)〜(iii)のいずれかを満足することが好ましい。
nx>ny=nz (i)
nx>ny>nz (ii)
nx>nz>ny (iii)
【0121】
屈折率の関係が、nx>ny=nzであれば、λ板やλ/2板、λ/4板などの一軸性の位相差フィルムが得られ、液晶ディスプレイの視野角補償板や、反射型ディスプレイや半透過型ディスプレイ、あるいは有機ELディスプレイなどの、反射色相補正に使用することができる。
屈折率の関係が、nx>ny>nzであれば、液晶ディスプレイの視野角補償板として特に、VAモードにおける視野角補償板として、1枚で補償を行うタイプや2枚で補償を行うタイプに使用することができる。また、上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることもできる。
屈折率の関係が、nx>nz>nyであれば、偏光板の視野角補正フィルムや円偏光板の視野角補正フィルムとして用いることができ、また上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることができる。そして、正面だけでなく視野角の補償も行うことができる。
【0122】
また、本発明の透明フィルムは、平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nz、並びに厚みdの関係が下記式(iv)及び(v)を満足することが好ましい。
NZ係数=(nx−nz)/(nx−ny)=0.2〜8 (iv)
Δnd=(nx−ny)・d=30〜400nm (v)
NZ係数を前記範囲とすることにより、様々なディスプレイの視野角補償用位相差フィルムや色相補正用位相差フィルムを作製することができる。
一方、NZ係数が0.2未満の場合には、非常に特殊な製造方法が必要とされるため、NZ係数の精度が悪く生産性が低くなるという不具合が生じるおそれがある。
また、NZ係数が8を超える場合には、式:Rth=(nx−nz)・dにより算出される層の厚み方向の位相差値が非常に大きくなり、材料の厚みを厚くする必要がある。そのため、材料コストが高くなったり、位相差信頼性が低下したりするという不具合が生じるおそれがある。
【0123】
また、Δndを前記範囲とすることにより、λ/2板やλ/4板を容易に作ることができる。
一方、Δndが30nm未満の場合には、いわゆる負の一軸性位相差フィルムであるC−plateの領域になる。C−plateは単独では、ディスプレイの視野角補償に用いることはできず、別の位相差フィルムを必要とするため、位相差フィルム総数が増えることになり、薄層化や低コスト化が困難になるという不具合が生じるおそれがある。
また、Δndが400nmを超える場合には、高い位相差を出すために、厚みを厚くする必要があり、生産性や信頼性を下げる要因になるおそれがある。
【0124】
<位相差>
本発明の透明フィルムは、波長450nmで測定した位相差R450と波長550nmで測定した位相差R550の比(R450/R550)が下記式(I)を満足することが好ましく、R450/R550は、0.7以上1.0未満が更に好ましく、0.75以上0.97未満が特に好ましい。
0.5<R450/R550<1.0 (I)
【0125】
前記R450/R550がこの範囲であれば、短波長ほど位相差が発現し、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる。例えば1/4λ板としてこのような波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができ、色相の波長依存性が少ない、ニュートラルな偏光板及び表示装置の実現が可能である。一方、前記比率がこの範囲外の場合には、色相の波長依存性が大きくなり、偏光板や表示装置に着色の問題が生じる。
【0126】
また、本発明の透明フィルムは、位相差R450と位相差R550の比R450/R550において、初期の(即ち、成形直後の)R450/R550(「(R450/R550)」と記す。)と、90℃で48時間保持した後のR450/R550(「(R450/R550)48」と記す。)が、下記式(II)を満足することが好ましく、この|(R450/R550)48−(R450/R550)|は、より好ましくは0より大きく0.012以下、更に好ましくは0より大きく0.10以下である。
0<|(R450/R550)48−(R450/R550)|<0.015
(II)
【0127】
|(R450/R550)48−(R450/R550)|が上記上限よりも小さいものは、高温条件下での長期使用によっても位相差の変動が小さく、温度に対する安定性に優れたものであり、好ましい。この値は0に近い程好ましい。
【0128】
<吸水率>
本発明の透明フィルムは、吸水率が1.0重量%より大きいことが好ましい。吸水率が1.0重量%より大きければ、前記透明フィルムを他のフィルムなどと貼りあわせる際、容易に接着性を確保することができる。例えば、偏光板と貼りあわせる際、透明フィルムが親水性であるため、水の接触角も低く、接着剤を自由に設計し易く、高い接着設計ができる。吸水率が1.0重量%以下の場合は、疎水性となり、水の接触角も高く、接着性の設計が困難になる。また、フィルムが帯電し易くなり、異物の巻き込み等、偏光板、表示装置に組み込んだ際、外観欠点が多くなるという問題が生じる。
一方、吸水率が2.0重量%より大きくなると湿度環境下での光学特性の耐久性が悪くなるため好ましくない。
それ故、本発明の透明フィルムは、吸水率が1.0重量%より大きく2.0重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.1重量%以上1.5%重量以下である。
【0129】
<透過率>
本発明の透明フィルムは、厚みによらず、当該透明フィルムそのものの全光線透過率が80%以上であることが好ましく、この透過率は90%以上であることが更に好ましい。透過率が上記下限以上であれば、着色の少ない透明なフィルムが得られ、偏光板と貼り合わせた際、偏光度や透過率の高い偏光板となり、表示装置と組み合わせた際に、高い表示品位を実現することが可能となる。なお、本発明の透明フィルムの透過率の上限は特に制限はないが通常99%以下である。
【0130】
[用途]
本発明の透明フィルムの用途には特に制限はないが、高温条件下での長期使用によっても位相差の変動が小さく、温度に対する安定性に優れるという特長を生かして、各種の液晶用ディスプレイ機器やモバイル機器等に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムに好適である。
例えば、本発明の透明フィルムを偏光子と積層することによって偏光板を構成することができる。
前記偏光子としては、公知の様々な構成のものを採用することができる。例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネート樹脂及び透明フィルムの特性評価は次の方法により行った。なお、特性評価手法は以下の方法に限定されるものではなく、当業者が適宜選択することができる。
【0132】
[ポリカーボネート樹脂の評価]
(1)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて、ポリカーボネート樹脂約10mgを10℃/minの昇温速度で加熱して測定し、JIS−K7121(1987)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、それをガラス転移温度とした。
【0133】
(2)還元粘度
ポリカーボネート樹脂の還元粘度は森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、溶媒として、塩化メチレンを用い、温度20.0℃±0.1℃で測定した。濃度は0.6g/dLになるように、精密に調整した。
溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式:
ηrel=t/t0
より相対粘度ηrelを求め、 相対粘度ηrelから、下記式:
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
より比粘度ηspを求めた。
比粘度ηspを濃度c(g/dL)で割って、下記式:
ηred=ηsp/c
より還元粘度(換算粘度)ηredを求めた。
この数値が高いほど分子量が大きい。
【0134】
(3)溶融粘度
溶融粘度は、温度250℃、せん断速度91.2sec−1において、東洋精機社製、キャピログラフ、形式名 CAPIROGRAPH1Bを用いて、オリフィス長10mm、オリフィス穴径1mmの条件にて測定した。
【0135】
(4)光弾性係数
<サンプル作製>
80℃で5時間真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂サンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度200〜250℃で、予熱1〜3分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスにて圧力20MPaで3分間加圧冷却してシートを作製した。このシートから幅5mm、長さ20mmにサンプルを切り出した。
<測定>
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、及び光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製「DVE−3」)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93−97(1991)を参照。)
切り出したサンプルを粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0136】
[透明フィルムの評価]
(1)フィルム厚み
尾崎製作所(株)製 製品名「PEACOCK」の接触式厚み測定機を使用して測定した。
【0137】
(2)位相差
ポリカーボネート樹脂の溶融製膜、一軸延伸を行って得られた透明フィルムを幅4cm、長さ4cmに切り出したサンプルについて、[Axometrics社製 製品名「AxoScan」]を用いて、23℃の室内で、波長450nmの位相差R450及び550nmの位相差R550を測定した。そして測定した位相差R450と位相差R550の比を計算した。
位相差は、成形直後の透明フィルムについて、位相差R450(以下「(R450)」と記す。)と位相差R550(以下「(R550)」と記す。)を測定すると共に、透明フィルムを90℃で48時間保持した後の位相差R450(以下「(R450)48」と記す。)と位相差R550(以下「(R550)48」と記す。)とを測定し、それぞれ(R450)/(R550)(以下単に「(R450/R550)」と記す。)と、(R450)48/(R550)48(以下「(R450/R550)48」と記す。)とを求め、これらの値から、|(R450/R550)48−(R450/R550)|を求めた。
【0138】
[実施例1]
イソソルビド(以下、「ISB」と略記することがある。)を432.1重量部、9,9−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下、「BHEPF」と略記することがある。)を906.3重量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、「CHDM」と略記することがある。)を26.3重量部、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することがある。)を1137.5重量部、及び触媒として炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)6.4重量部を、それぞれを反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃にし、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。次いで、反応容器内の圧力を常圧から13.3kPaにし、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
【0139】
反応容器内温度を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を200Pa以下に減圧した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出した後に、ペレット化を行い、BHEPF/ISB/CHDM=39.7モル%/56.8モル%/3.5モル%のポリカーボネート樹脂Aを得た。得られたポリカーボネート樹脂Aの物性を測定し、測定値を表1に示した。
【0140】
得られたポリカーボネート樹脂Aを80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを作製した。このフィルムから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度を調節し、位相差(R550)が130±20nmとなるように、延伸速度720mm/分(ひずみ速度1200%/分)で、1×2.0倍の一軸延伸を行い、透明フィルムを得た。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
得られた延伸された透明フィルムの物性を測定し、測定値を表1に示した。
【0141】
[実施例2]
実施例1においてISBを489.7重量部、BHEPFを856重量部、分子量1000のポリエチレングリコール(以下、「PEG#1000」と略記することがある。)を16重量部、DPCを1162.2重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.5重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Bを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Bから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Bの組成は、BHEPF/ISB/PEG#1000=36.7モル%/63.0モル%/0.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0142】
[実施例3]
実施例1においてISBを432.0重量部、BHEPFを906.3重量部、PEG#1000を30.3重量部、DPCを1104.1重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.2重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Cを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Cから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Cの組成は、BHEPF/ISB/PEG#1000=40.9モル%/58.5モル%/0.6モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0143】
[実施例4]
実施例1においてISB444.7重量部、BHEPFを906.8重量部、分子量2000のポリエチレングリコール(以下、「PEG#2000」と略記することがある。)を15.4重量部、DPCを1118.5重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.3重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Dを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Dから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Dの組成は、BHEPF/ISB/PEG#2000=40.4モル%/59.45モル%/0.15モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0144】
[実施例5]
実施例1においてISBを432.4重量部、BHEPFを906.3重量部、PEG#2000を30.2重量部、DPCを1101.4重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.2重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Eを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Eから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Eの組成は、BHEPF/ISB/PEG#2000=41.0モル%/58.7モル%/0.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0145】
[比較例1]
実施例1においてISBを433.4重量部、BHEPFを934.1重量部、DPCを1113.5重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.2重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Fを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Fから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Fの組成は、BHEPF/ISB=41.8モル%/58.2モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0146】
[比較例2]
実施例1においてISBを357.2重量部、BHEPFを896.8重量部、ジエチレングリコール(以下、「DEG」と略記することがある。)を103.9重量部、DPCを1194.8重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を6.7重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Gを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Gから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Gの組成は、BHEPF/ISB/DEG=37.4モル%/44.7モル%/17.9モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0147】
[比較例3]
実施例1においてISBを390.9重量部、BHEPFを920.5重量部、PEG#1000を62.9重量部、DPCを1056.8重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を5.9重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Hを製造すると共に、ポリカーボネート樹脂Hから透明フィルムを成形した。得られたポリカーボネート樹脂Hの組成は、BHEPF/ISB/PEG#1000=43.4モル%/55.3モル%/1.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂と透明フィルムの評価結果を表1に示した。
【0148】
表1において、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物、前記(2)で表されるジヒドロキシ化合物、前記式(3)〜(6)のいずれかで表されるジヒドロキシ化合物は、単に「式(1)の化合物」、「(2)の化合物」「(3)〜(6)の化合物」と記載した。
また、表1における溶融製膜性とは、ポリカーボネート樹脂の溶融製膜時における以下の評価を示す。
○:目視により、フィルム中の異物、気泡の有無を観察した際に欠陥が無いもの。
×:目視により、フィルム中の異物、気泡の有無を観察した際に欠陥があるもの。
【0149】
【表1】

【0150】
表1より、本発明のポリカーボネート樹脂は溶融製膜性に優れ、また、このポリカーボネート樹脂を成形して得られる透明フィルムは、位相差の温度安定性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、
下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂であって、
下記式(3)から(6)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、該ポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計に対して0.1重量%以上4.5重量%未満であるポリカーボネート樹脂。
【化1】

(上記式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキル基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリール基を表し、X,Xはそれぞれ独立に、炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜炭素数20の置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。)
【化2】

HO−R−OH (3)
(上記式(3)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
HO−CH−R−CH−OH (4)
(上記式(4)中、Rは炭素数4〜炭素数20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。)
H−(O−R−OH (5)
(上記式(5)中、Rは炭素数2〜炭素数10の置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、pは2〜50の整数である。)
HO−R−OH (6)
(上記式(6)中、Rは炭素数2〜炭素数20の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基を表す。)
【請求項2】
ガラス転移温度が125℃以上150℃以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
温度240℃、せん断速度91.2sec−1での溶融粘度が500Pa・sec以上2500Pa・sec以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
還元粘度が0.30dL/g以上1.2dL/g以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂を成形して得られる透明フィルム。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂を成形温度265℃以下で溶融製膜法により成形して得られる請求項5に記載の透明フィルム。
【請求項7】
少なくとも一方向に延伸されている請求項6に記載の透明フィルム。
【請求項8】
波長450nmで測定した位相差R450と波長550nmで測定した位相差R550の比が下記式(I)を満足する請求項5〜7のいずれか1項に記載の透明フィルム。
0.5<R450/R550<1.0 (I)
【請求項9】
前記位相差R450と前記位相差R550の比R450/R550において、初期のR450/R550を(R450/R550)とし、90℃で48時間保持した後のR450/R550を(R450/R550)48としたときに、下記式(II)を満足する請求項8に記載の透明フィルム。
0<|(R450/R550)48−(R450/R550)|<0.015
(II)

【公開番号】特開2012−251141(P2012−251141A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107843(P2012−107843)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】