説明

ポリカーボネート樹脂用硬化性塗料

【課題】良好な透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下における優れた密着性を有し、さらに応力が加えられた際のクラックの発生が良好に抑制された硬化被膜をポリカーボネート樹脂基板の表面に形成しうる硬化性塗料を提供すること。
【解決手段】分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、導電性微粒子(B)及び有機溶媒(C)を含有するポリカーボネート樹脂用硬化性塗料であって、前記化合物(A)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つ下記式(1)


で示される構造を有する化合物(A−1)を少なくとも含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂用硬化性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂用硬化性塗料に関する。また、本発明は、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる多層樹脂板や、該多層樹脂板から構成される携帯型情報端末の表示窓保護板に関係している。
【背景技術】
【0002】
近時、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)等の携帯型電話類が、インターネットの普及とともに、単なる音声伝達機能に加えて、文字情報や画像情報を表示する機能を持った携帯型情報端末として広く普及している。また、このような携帯型電話類とは別に、住所録等の機能にインターネット機能や電子メール機能を併せ持つPDA(Personal Digital Assistant)等も幅広く使用されている。
【0003】
これらの携帯型情報端末では、液晶やEL(エレクトロルミネッセンス)等の方式により、文字情報や画像情報を表示するようになっているが、その表示窓にはメタクリル樹脂のような透明樹脂製の保護板が用いられている(特許文献1、2参照)。そして、この保護板には、表面の傷付きを防止するため硬化性塗料により耐擦傷性(ハードコート性)を有する硬化被膜を設けることが提案されており、この硬化性塗料としては、3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートと、導電性微粒子と、有機溶媒とを含むものが検討されている(同特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−143365号公報
【特許文献2】特開2002−6764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した保護板には透明性、耐擦傷性、帯電防止性だけでなく、高温高湿下での充分な耐久性が求められている。しかしながら、樹脂基板としてポリカーボネート樹脂基板を使用し、該樹脂基板の表面に前記従来の硬化性塗料により硬化被膜を形成した多層樹脂板では、高温高湿下において該硬化被膜が該樹脂基板から剥がれ易かった。さらに、前述した保護板には外部から加えられる応力への耐性も必要であるが、前記多層樹脂板では、応力が加えられた際に硬化被膜にクラックが発生してしまうことがあった。そこで、本発明の目的は、良好な透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下における優れた密着性を有し、さらに応力が加えられた際のクラックの発生が良好に抑制された硬化被膜をポリカーボネート樹脂基板の表面に形成しうる硬化性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定の硬化性化合物を硬化性塗料に含有させることにより、前記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、導電性微粒子(B)及び有機溶媒(C)を含有するポリカーボネート樹脂用硬化性塗料であって、前記化合物(A)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つ下記式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、X及びXはそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表し、X及びXはそれぞれハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表す。nは0〜4の整数を表し、mは0〜4の整数を表す。)
【0010】
で示される構造を有する化合物(A−1)を少なくとも含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂用硬化性塗料を提供するものである。
【0011】
また、本発明によれば、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に前記硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる多層樹脂板が提供され、さらに、該多層樹脂板から構成される携帯型情報端末の表示窓保護板が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の硬化性塗料によれば、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に、良好な透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下における優れた密着性を有し、さらに応力が加えられた際のクラックの発生が良好に抑制された硬化被膜を形成することができる。また、この硬化被膜を有する多層樹脂板を携帯型情報端末の表示窓保護板として使用することにより、効果的に表示窓を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の硬化性塗料は、ポリカーボネート樹脂用硬化性塗料であり、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、導電性微粒子(B)及び有機溶媒(C)を含有するものである。ここでポリカーボネート樹脂としては、例えば、二価フェノールとカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られるものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法などで重合させることにより得られるもの、環状カーボネート化合物を開環重合法で重合させることにより得られるものなどが挙げられる。
【0014】
二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステルなどが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0015】
なかでも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンから選ばれる二価フェノールを単独で又は2種以上用いるのが好ましく、特に、ビスフェノールAの単独使用や、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンから選ばれる1種以上の二価フェノールとの併用が好ましい。
【0016】
カルボニル化剤としては、例えば、ホスゲンの如きカルボニルハライド、ジフェニルカーボネートの如きカーボネートエステル、二価フェノールのジハロホルメートの如きハロホルメートなどが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0017】
本発明の硬化性塗料は、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つ下記式(1)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、X及びXはそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表し、X及びXはそれぞれハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表す。nは0〜4の整数を表し、mは0〜4の整数を表す。)
【0020】
で示される構造を有する化合物(A−1)を少なくとも含有することを特徴とする。このように所定の構造を有する化合物(A−1)を含有する硬化性塗料により、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に、良好な透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下における優れた密着性を有し、さらに応力が加えられた際のクラックの発生が良好に抑制された硬化被膜をポリカーボネート樹脂基板の表面に形成することができる。なお、ここでいう(メタ)アクリロイルオキシ基とは、アクリロイルオキシ基又はメタクロイルオキシ基をいう。その他、本明細書において、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などというときの「(メタ)」も同様の意味である。
【0021】
式(1)中、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられる。式(1)中、炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0022】
前記化合物(A−1)としては、例えば、ビスフェノールAEO変性ジアクリレートが挙げられる。前記ビスフェノールAEO変性ジアクリレートとしては、新中村化学工業(株)から販売されている商品名「NKエステル A−BPE−300(平均EO付加モル数3)」、「NKエステル A−BPE−4(平均EO付加モル数4)」、「NKエステル A−BPE−6(平均EO付加モル数6)」、「NKエステル A−BPE−10(平均EO付加モル数10)」、「NKエステル A−BPE−20(平均EO付加モル数17)」、「NKエステル A−BPE−30(平均EO付加モル数30)」等が好適に使用可能である。
【0023】
本発明では、前記化合物(A)として、少なくとも前述した化合物(A−1)を硬化性塗料中に含有させる。ここで化合物(A)として化合物(A−1)のみを使用してもよいが、化合物(A)の一部として化合物(A−1)を使用し、残りの分として化合物(A−1)以外のものを使用してもよい。化合物(A−1)以外のものとしては、例えば、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つイソシアヌル環を有する化合物(A−2)や、前記化合物(A−1)及び前記化合物(A−2)以外の汎用の化合物(A−0)などが挙げられる。
【0024】
前記化合物(A−2)としては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。前記エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレートとしては、新中村化学工業(株)から販売されている商品名「NKエステル A−9300」が、前記ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレートとしては、新中村化学工業(株)から販売されている商品名「NKエステル A−9300−1CL」がそれぞれ好適に使用可能である。これらは混合して用いてもよい。
【0025】
前記化合物(A−0)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートのような2価アルコールのジアクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートのような3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート;分子内にイソシアナート基を少なくとも2個有する化合物に、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーを、イソシアナート基に対して水酸基が等モル以上となる割合で反応させて得られ、1分子中の(メタ)アクリロイルオキシ基の数が3個以上となったウレタン(メタ)アクリレート〔例えば、ジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートの反応により、3〜6官能のウレタン(メタ)アクリレートが得られる〕などを挙げることができる。ここには単量体を例示したが、これら単量体のままで用いてもよいし、例えば2量体、3量体などのオリゴマーの形になったものを用いてもよい。また、単量体とオリゴマーを併用してもよい。これらの(メタ)アクリレート化合物はそれぞれ単独又は2種以上を混合して用いられる。
【0026】
化合物(A)には、市販されているものもあるので、このような市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、“NKオリゴ U−6HA”〔新中村化学工業(株)製品、ウレタンアクリレート系〕、“NKエステル A−TMM−3L”〔新中村化学工業(株)製品、ペンタエリスリトールトリアクリレート〕、“NKエステル A−TMMT”〔新中村化学工業(株)製品、ペンタエリスリトールテトラアクリレート〕、“NKエステル A−9530”〔新中村化学工業(株)製品、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート〕、“NKエステル A−DPH”〔新中村化学工業(株)製品、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〕、“KAYARAD DPCA”〔日本化薬(株)製品、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〕、“ノプコキュア 200”シリーズ〔サンノプコ(株)製品〕、“ユニディック”シリーズ〔大日本インキ化学工業(株)製品〕などが挙げられる。
【0027】
本発明では、化合物(A)として、化合物(A−1)及び化合物(A−0)を硬化性塗料に含有させるのが好ましく、化合物(A−1)、化合物(A−2)及び化合物(A−0)を硬化性塗料に含有させるのがより好ましい。
【0028】
化合物(A−1)及び化合物(A−0)を併用する場合、化合物(A−1)の使用量は、化合物(A−1)及び化合物(A−0)の合計100重量部に対し、5〜50重量部であるのが好ましく、10〜30重量部であるのがより好ましい。
【0029】
化合物(A−1)、化合物(A−2)及び化合物(A−0)を併用する場合、化合物(A−1)の使用量は、化合物(A−1)、化合物(A−2)及び化合物(A−0)の合計100重量部に対し、5〜40重量部が好ましく、10〜30重量部がより好ましい。また、化合物(A−1)、化合物(A−2)及び化合物(A−0)を併用する場合、化合物(A−2)の使用量は、化合物(A−1)、化合物(A−2)及び化合物(A−0)の合計100重量部に対し、5〜10重量部が好ましい。
【0030】
本発明の硬化性塗料には、帯電防止性を付与するために導電性微粒子(B)が含有される。この導電性微粒子(B)としては、例えば、アンチモン−スズ複合酸化物、リンを含有する酸化錫、酸化アンチモン、アンチモン−亜鉛複合酸化物、酸化チタン、インジウム−錫複合酸化物(ITO)などが挙げられる。
【0031】
導電性微粒子(B)の粒子径は、粒子の種類によって適宜選択することが可能であり、通常は0.5μm以下のものが使用されるが、得られる硬化被膜の帯電防止性や透明性の観点からは、平均粒子径で0.001μm以上0.1μm以下のものが好ましく、0.001μm以上0.05μm以下のものがより好ましい。導電性微粒子(B)の平均粒子径があまり大きいと、得られる多層樹脂板のヘイズが大きくなり、透明性が低下することがある。また、導電性微粒子(B)の含有量は、化合物(A)100重量部に対して、通常2〜50重量部、好ましくは3〜20重量部である。その量があまり少ないと、帯電防止性向上効果が乏しくなる。またその量があまり多いと、硬化被膜の透明性を低下させるおそれがある。
【0032】
導電性微粒子(B)は、例えば、気相分解法、プラズマ蒸発法、アルコキシド分解法、共沈法、水熱法などにより製造することができる。また、導電性微粒子(B)の表面は、例えば、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、シリコン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などで表面処理されていてもよい。
【0033】
硬化性塗料には、粘度や硬化被膜の厚さなどを調整するために有機溶媒(C)を含有させる。この有機溶媒(C)としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブチルアルコール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)のようなアルコール類、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールのようなアルコキシアルコール類、ジアセトンアルコールのようなケトール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類などが挙げられる。
【0034】
硬化性塗料における有機溶媒(C)の含有量は、基板の材質、形状、塗布方法、目的とする硬化被膜の厚さなどに応じて適宜調整されるが、化合物(A)100重量部に対し、通常20〜10000重量部である。
【0035】
硬化性塗料には、必要に応じて、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤などの添加剤が含まれていてもよい。レベリング剤が含まれることにより、硬化被膜の平滑性や耐擦傷性を高めることができる。
【0036】
レベリング剤としては、シリコーンオイルが好ましく用いられ、その例としては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、フェノール基含有シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが挙げられる。これらシリコーンオイルは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
これらのレベリング剤には市販されているものもあるので、このような市販品を用いることができる。市販のレベリング剤としては、例えば、“SH200−100cs”、“SH28PA”、“SH29PA”、“SH30PA”、“ST83PA”、“ST80PA”、“ST97PA”、“ST86PA”〔以上いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)で販売〕などを挙げることができる。これらのレベリング剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0038】
レベリング剤の使用量は、適宜選択されるが、通常化合物(A)100重量部に対し、0.01〜5重量部程度である。
【0039】
以上説明した硬化性塗料により、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に、透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下においても該樹脂基板に対し優れた密着性を有する硬化被膜を形成することができ、例えば、携帯型情報端末の表示窓保護板として好適な多層樹脂板を得ることができる。
【0040】
ポリカーボネート樹脂基板は、通常の板(シート)やフィルムのように、表面が平面のものであってもよいし、凸レンズや凹レンズなどのように、表面が曲面になっているものであってもよい。また、表面に細かな凹凸などの微細な構造が設けられていてもよい。
【0041】
ポリカーボネート樹脂基板は、必要に応じて、染料や顔料などにより着色されていてもよいし、酸化防止剤や紫外線吸収剤などを含有していてもよい。ポリカーボネート樹脂基板の厚さは、好ましくは0.1mm以上であり、また3.0mm以下である。
【0042】
本発明の硬化性塗料により、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に硬化被膜を形成することが可能であるが、ポリカーボネート樹脂基板の片面に硬化被膜を形成した場合、該樹脂基板における該硬化被膜と反対側の面にポリカーボネート樹脂以外の透明樹脂層を形成することも可能である。かかる透明樹脂層として、例えば、アクリル樹脂、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、ポリスチレン、各種シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、透明性、ポリカーボネート樹脂との加工成形性からアクリル樹脂が好ましい。
【0043】
アクリル樹脂として、通常メタクリル樹脂が挙げられる。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位を主成分とするもの、具体的にはメタクリル酸メチル単位を通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上含むメタクリル酸メチル樹脂であるのが好ましく、メタクリル酸メチル単位100重量%のメタクリル酸メチル単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0044】
メタクリル酸メチルと共重合しうる他の単量体の例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの如きメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルの如きアクリル酸エステル類が挙げられる。また、スチレンや置換スチレン類、例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンの如きハロゲン化スチレン類や、ビニルトルエン、α−メチルスチレンの如きアルキルスチレン類なども挙げられる。さらに、メタクリル酸、アクリル酸の如き不飽和酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなども挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合しうる他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
アクリル樹脂は、ゴム状重合体をブレンドして用いてもよい。ゴム状重合体の例としては、アクリル系多層構造重合体や、5〜80重量部のゴム状重合体にアクリル系不飽和単量体の如きエチレン性不飽和単量体20〜95重量部をグラフト重合させてなるグラフト共重合体などが挙げられる。アクリル系多層構造重合体は、ゴム弾性の層又はエラストマーの層を20〜60重量%程度内在させるものであるのがよく、最外には硬質層を有するものであるのがよく、さらに最内層として硬質層を含む構造のものでもよい。
【0046】
ゴム弾性の層又はエラストマーの層は、ガラス転移点(Tg)が25℃未満のアクリル系重合体の層であるのがよく、具体的には、低級アルキルアクリレート、低級アルキルメタクリレート、低級アルコキシアルキルアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシ低級アルキルアクリレート、ヒドロキシ低級アルキルメタクリレート、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる単官能単量体の1種以上を、アリルメタクリレートの如き多官能単量体で架橋させてなる重合体の層であるのがよい。
【0047】
硬質層は、Tgが25℃以上のアクリル系重合体の層であるのがよく、具体的には、炭素数1〜4個のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを単独で又は主成分として重合させたものであるのがよい。アルキルメタクリレートを主成分として共重合体とする場合、共重合成分としては、他のアルキルメタクリレートやアルキルアクリレート、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルの如き単官能単量体を用いてもよいし、さらに多官能単量体を加えて架橋重合体としてもよい。
【0048】
アクリル系多層構造重合体は、例えば、特公昭55−27576号公報、特開平6−80739号公報、特開昭49−232922号公報などに記載されている。
【0049】
5〜80重量部のゴム状重合体にエチレン性不飽和単量体20〜95重量部をグラフト重合させてなるグラフト共重合体において、ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体ゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴムの如きジエン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレートの如きアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン/非共役ジエン系ゴムなどが用いられる。また、このゴム状重合体にグラフト共重合させるのに用いられるエチレン性単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのグラフト共重合体は、例えば、特開昭55−147514号公報、特公昭47−9740号公報などに記載されている。
【0050】
アクリル樹脂にゴム状重合体を分散させる場合の分散割合は、アクリル樹脂100重量部に対して、通常3〜150重量部、好ましくは5〜50重量部である。ゴム状重合体の量があまり多いと、表面硬度が低下して好ましくない。
【0051】
なお、アクリル樹脂層には、必要に応じて、例えば、光拡散剤、艶消剤、染料、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を1種又は2種以上、添加してもよい。
【0052】
ポリカーボネート樹脂基板の片面に前述したアクリル樹脂層を形成させる場合、(1)ポリカーボネート樹脂基板の一方の面に硬化被膜を形成した後、その反対側の面にアクリル樹脂層を形成してもよく、(2)ポリカーボネート樹脂基板の一方の面にアクリル樹脂層を形成した後、その反対側の面に硬化被膜を形成してもよい。操作性の観点からは、(2)の方法が好ましい。この場合、ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層を共押出成形により積層一体化させるのが好ましい。この共押出成形は、2基又は3基の一軸又は二軸の押出機を用いて、ポリカーボネート樹脂層の材料とアクリル樹脂層の材料とをそれぞれ溶融混練した後、フィードブロックダイやマルチマニホールドダイなどを介して積層することにより行うことができ、積層一体化された溶融積層樹脂体は、例えば、ロールユニットを用いて冷却固化し、積層樹脂体とすればよい。
【0053】
ポリカーボネート樹脂基板の片面に前述したアクリル樹脂層を形成させる場合、該基板全体の厚みは、通常0.3〜3mm、好ましくは0.3〜2mm、さらに好ましくは0.4〜1.5mmである。さらに、アクリル樹脂層の厚みは、50〜120μm、好ましくは60〜110μm以上、より好ましくは70〜100μmである。このように、アクリル樹脂層の厚みを設定することにより、基材がより割れにくく、かつ十分な表面硬度を得ることができる。
【0054】
なお、本発明では表示窓保護板に要求される耐擦傷性の観点から、前記アクリル樹脂層の表面にもハードコート処理するのが好ましい。かかるアクリル樹脂層へのハードコート処理は、従来公知の方法を採用することができ、例えば、特許文献1(特開2004−143365号公報)等に記載の方法を採用することができる。
【0055】
本発明の硬化性塗料による硬化被膜の形成は、ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に硬化性塗料を塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで、形成された塗膜を硬化させることにより、行うことができる。
【0056】
硬化性塗料の塗布は、例えば、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、フローコート法、スプレーコート法などの方法により行うことができる。
【0057】
塗膜の硬化は、活性化エネルギー線を照射することにより、好適に行われる。活性化エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線などが挙げられ、硬化性化合物の種類に応じて適宜選択される。活性化エネルギー線として紫外線や可視光線を用いる場合には通常、光重合開始剤が用いられる。
【0058】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−tert−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフェノン(BTTB)、2−(ジメチルアミノ)−1−〔4−(モルフォリニル)フェニル〕−2−(フェニルメチル)−1−ブタノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルなどが挙げられる。
【0059】
光重合開始剤は、色素増感剤と組合せて用いてもよい。色素増感剤としては、例えば、キサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリンなどが挙げられる。光重合開始剤と色素増感剤との組合せとしては、例えば、BTTBとキサンテンとの組合せ、BTTBとチオキサンテンとの組合せ、BTTBとクマリンとの組合せ、BTTBとケトクマリンとの組合せなどが挙げられる。
【0060】
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いることができるほか、多くは2種以上混合して用いることもできる。また、これらの各種光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、“IRGACURE 651”、“IRGACURE 184”、“IRGACURE 500”、“IRGACURE 1000”、“IRGACURE 2959”、“DAROCUR 1173”、“IRGACURE 907”、“IRGACURE 369”、“IRGACURE 1700”、“IRGACURE 1800”、“IRGACURE 819”、“IRGACURE 784”〔以上のIRGACURE(イルガキュア)シリーズ及びDAROCUR(ダロキュア)シリーズは、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)で販売〕、“KAYACURE ITX”、“KAYACURE DETX−S”、“KAYACURE BP−100”、“KAYACUREBMS”、“KAYACURE 2−EAQ”〔以上のKAYACURE(カヤキュア)シリーズは、日本化薬(株)で販売〕などを挙げることができる。
【0061】
光重合開始剤の使用量は、化合物(A)100重量部に対し、通常0.1〜5重量部である。
【0062】
また、活性化エネルギー線の強度や照射時間は、化合物(A)の種類やその塗膜の厚さなどに応じて適宜調整される。活性化エネルギー線は、不活性ガス雰囲気中で照射してもよく、この不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスなどが使用できる。
【0063】
こうして形成される硬化被膜の厚さは、1〜10μmであるのが好ましい。この厚さがあまり小さいと、耐擦傷性が不十分となることがあり、あまり大きいと、高温高湿下に曝したときに、クラックが発生し易くなる。硬化被膜の厚さは、ポリカーボネート樹脂基板の表面に塗布する硬化性塗料の面積あたりの量や硬化性塗料に含まれる固形分の濃度を調整することにより、調節することができる。
【0064】
前記硬化被膜の屈折率(n)とポリカーボネート樹脂基板の屈折率(ns)と屈折率差(|n−ns|)が0.01以下であるのが好ましい。
【0065】
かかる屈折率差が0.01を超えると、硬化被膜とポリカーボネート樹脂基板との間の光の干渉により、虹模様が発生してしまう恐れがある。
【0066】
硬化被膜の屈折率は、硬化性塗料中の化合物(A)の種類及び量、並びに、導電性微粒子(B)の種類及び量を適宜選択することにより、調整することができる。
【0067】
かくしてポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に前記硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる多層樹脂板が得られる。この多層樹脂板は、良好な透明性、耐擦傷性、帯電防止性に加え、高温高湿下における優れた密着性を有し、さらに応力が加えられた際のクラックの発生が良好に抑制されたものである。従って、この多層樹脂板は、携帯電話などに代表される携帯型情報端末の表示窓保護板として好適に用いることができる。また、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラなどのファインダー部、携帯型ゲーム機の表示窓保護板などの分野における各種部材としても使用できる。
【0068】
本発明の多層樹脂板から、携帯型情報端末の表示窓保護板を作製するには、まず必要に応じ、印刷、穴あけなどの加工を行い、必要な大きさに切断処理すればよい。しかるのちに、携帯型情報端末の表示窓にセットすればよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。また、測定方法ないし評価方法は次のとおりである。
【0070】
(硬化被膜の膜厚)
膜厚測定装置〔Filmetrics社のF−20〕を用いて測定した。
【0071】
(多層樹脂板の全光線透過率、ヘイズ)
JIS K7105に準拠し、「(株)村上色彩技術研究所の“HR−100”」を用いて、全光線透過率(Tt)及びヘイズを測定した。
【0072】
(硬化被膜の耐擦傷性)
スチールウール#0000を500g/cmの荷重で10往復させた。その際、硬化被膜表面と接触するスチールウールの形状は、2cm角の正方形(面積4cm)とし、その辺と平行に繊維が並んだ状態とした。また、往復距離は10cm(片道5cm)とし、1往復1秒の速度で、該繊維方向に往復させた。100往復後、表面の傷つきの様子を目視で観察し、次の4段階で評価した。
A:傷つきなし、B:1〜2本の傷、C:3〜10本の傷、D:10本を超える傷。
【0073】
(表面抵抗)
ASTM−D257に準拠し、三菱化学(株)製の表面抵抗率測定器“Hiresta−UP”を用いて測定した。
【0074】
(密着性)
6.5cm×8.5cmの試験片を切り出し、80℃温水槽の中に1時間浸漬後、取り出して室温まで冷却した。次いで、該試験片におけるポリカーボネート樹脂側の硬化被膜の密着性を評価した。該評価は硬化被膜に1mm間隔でカッターナイフを用いて切り込みを入れて10×10の碁盤状のマス目を作成し、セロハンテープを用いて勢いよく引き剥がす操作を3回連続して行い、剥離せずに残ったマス目の個数を密着数とした。
【0075】
(円筒巻きつけ試験;応力を加えた際のクラック発生の有無)
6.5cm×8.5cmの試験片を切り出し、長さ約30cm、外径24mmのガラス製円筒に沿うようにポリカーボネート樹脂面が外側になるように巻きつけ、約10秒間保持した。巻きつけた状態から平坦な状態に戻して、ポリカーボネート樹脂面のハードコート層にクラックが発生しているかどうか目視で確認した。
【0076】
実施例1
(1)ポリカーボネート樹脂基板へのアクリル樹脂層の形成
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ株式会社製 カリバー 301−10、屈折率1.585)を、40mmφ一軸押出機を用いて溶融混練し、またアクリル樹脂(住友化学株式会社製 スミペックス MH)を、20mmφ一軸押出機を用いて溶融混練し、両者をフィードブロックを介して一方の表層がアクリル樹脂となるように2層化し、次いでT型ダイを介して押し出し、ポリシングロールに両面が完全に接するようにして冷却して、ポリカーボネート樹脂基板の片面にアクリル樹脂層が積層された多層の樹脂基板(a1)を得た。該樹脂基板の全体の厚さは0.5mmであり、アクリル樹脂層の厚さは70μmであった。
【0077】
(2)ポリカーボネート樹脂用硬化性塗料(b1)の調製
ウレタンアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKオリゴ U−6HA”〕4.8部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステル A−TMMT”〕2.0部、ビスフェノールAEO変性ジアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステル A−BPE−4”〕2.4部、εカプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステル A−9300−1CL”〕0.6部、光開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE184〕0.5部、リン含有酸化スズ微粒子〔平均粒子径0.1μm〕10.2部、1−メトキシ−2−プロパノール75部、ジアセトンアルコール5部およびシリコーンオイル〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)の”SH28PA“〕0.01部を混合してポリカーボネート樹脂用硬化性塗料(b1)を調製した。
【0078】
(3)アクリル樹脂層側への硬化性塗料(b2)の組成
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステル A−DPH”〕28部、光重合開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE 184〕1部、5酸化アンチモン微粒子ゾル〔触媒化成工業(株)のELCOM−7514;固形分濃度20%〕8部、1−メトキシ−2−プロパノール32部、イソブチルアルコール32部及び、及びシリコーンオイル〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)の“SH28PA”〕0.045部を混合してアクリル樹脂層用の硬化性塗料(b2)を調製した。
【0079】
(4)多層樹脂板の作製
上記樹脂基板(a1)を10cm×8cmの大きさに切断し、樹脂基板(a1)のポリカーボネート樹脂側の表面に上記硬化性塗料(b1)をNo.20のバーコーターを用いて塗布した後、室温で1分間乾燥し、さらに45℃で10分間乾燥して塗膜を形成した。次いで、この塗膜に、120Wの高圧水銀ランプを用いて、0.5J/cm2の紫外線を照射して硬化させ、樹脂基板(a1)のポリカーボネート樹脂側の表面に硬化被膜を形成した。該硬化被膜の膜厚を上記方法により測定したところ、3.6μmであった。
引き続き、前記樹脂基板のアクリル樹脂層側の表面に上記硬化性塗料(b2)をNo.20のバーコーターを用いて塗布した後、室温で1分間乾燥し、さらに45℃で10分間乾燥して塗膜を形成した。次いで、この塗膜に、120Wの高圧水銀ランプを用いて、0.5J/cm2の紫外線を照射して硬化させ、樹脂基板(a1)のアクリル樹脂層側の表面に硬化被膜を形成した。該硬化被膜の膜厚を上記方法により測定したところ、3.5μmであった。
かくして、樹脂基板(a1)におけるポリカーボネート樹脂側の表面及びアクリル樹脂層側の表面にそれぞれ硬化被膜を形成した多層樹脂板(P1)を得た。この多層樹脂板(P1)の全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、耐擦傷性、表面抵抗(Ω/□)、密着性、クラック発生の有無について上記方法により測定した。それらの結果を表1に示す。
【0080】
実施例2
(1)多層樹脂板の作製
ポリカーボネート樹脂用の硬化性塗料(b1)を塗布する際に使用するバーコーダをNo.20からNo.40にかえた以外は実施例1と同様の操作を行い、多層樹脂板(P2)を得た。なお、ポリカーボネート樹脂側の硬化被膜の膜厚は6.8μmであり、アクリル樹脂層側の硬化被膜の膜厚は3.4μmであった。また、この多層樹脂板(P2)の全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、耐擦傷性、表面抵抗(Ω/□)、密着性、クラック発生の有無について上記方法により測定した。それらの結果を表1に示す。
【0081】
比較例1
(1)ポリカーボネート樹脂用硬化性塗料(b3)の調製
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステル A−DPH”〕9部、光重合開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE 184〕0.45部、リン含有酸化スズ微粒子〔平均粒子径0.1μm〕10部、1−メトキシ−2−プロパノール75部、ジアセトンアルコール5部を混合してポリカーボネート樹脂用硬化性塗料(b3)を調製した。
【0082】
(2)多層樹脂板の作製
ポリカーボネート樹脂用の硬化性塗料を(b1)から(b3)にかえた以外は実施例1と同様の操作を行い、多層樹脂板(P3)を得た。なお、ポリカーボネート樹脂側の硬化被膜の膜厚は3.5μmであり、アクリル樹脂層側の硬化被膜の膜厚は3.6μmであった。また、この多層樹脂板(P2)の全光線透過率(%)、ヘイズ(%)、耐擦傷性、表面抵抗(Ω/□)及び密着性について上記方法により測定した。それらの結果を表1に示す。
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)、導電性微粒子(B)及び有機溶媒(C)を含有するポリカーボネート樹脂用硬化性塗料であって、
前記化合物(A)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つ下記式(1)
【化1】

(式中、X及びXはそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表し、X及びXはそれぞれハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜6のシクロアルキル基を表す。nは0〜4の整数を表し、mは0〜4の整数を表す。)
で示される構造を有する化合物(A−1)を少なくとも含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂用硬化性塗料。
【請求項2】
さらに前記化合物(A)として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し且つイソシアヌル環を有する化合物(A−2)を含有する請求項1記載のポリカーボネート樹脂用硬化性塗料。
【請求項3】
前記導電性微粒子(B)が、アンチモン−スズ複合酸化物、アンチモン−亜鉛複合酸化物及びリン含有酸化スズからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物である請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂用硬化性塗料。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂基板の少なくとも一方の面に請求項1〜3のいずれか記載の硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなる多層樹脂板。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂基板の一方の面に請求項1〜3のいずれか記載の硬化性塗料により硬化被膜が形成されてなり、かつ、該硬化被膜が形成される反対側の面にアクリル樹脂層が形成されてなる多層樹脂板。
【請求項6】
前記アクリル樹脂層の上にハードコート処理が施されてなる請求項5記載の多層樹脂板。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか記載の多層樹脂板から構成される携帯型情報端末の表示窓保護板。

【公開番号】特開2011−74227(P2011−74227A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227265(P2009−227265)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】