説明

ポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法

【課題】優れた剛性(曲げ強度)および耐衝撃強度を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法を開示する。
【解決手段】本発明の一側面によれば、25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂(A)、5〜30mmの長さの長繊維充填剤(B)、25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂(C)、並びにゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂(C')のいずれか一つの合計100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含むポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法を提供する。本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性および衝撃強度を示すので、このような特性が要求されるモバイル製品、電子部品などの多様な成形品の製造に有用に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、優れた剛性(曲げ強度)および耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関するもので、より具体的には、長繊維の補強によって、優れた剛性および耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
ポリカーボネート樹脂は、他の樹脂に比べて優れた耐衝撃性、自己消火性、寸法安定性および高い耐熱性などの特性を有し、エンジニアリングプラスチックとして広範囲に使用されている。しかしながら、その非結晶質の構造(amorphous structure)により剛性(曲げ強度)が非常に低いので、薄膜射出製品(thin−film injection products)に使用するには多くの制約を受けてきた。
【0003】
このような問題は、ガラス繊維などの充填剤物質をポリカーボネート樹脂に混入することによって改善される。すなわち、重合で得られる樹脂製品に補強繊維を導入することによって、剛性と共に、伸張強度、耐クリープおよび耐疲労強度、並びに熱膨張に対する耐性を向上させることができる。しかしながら、前記物性の向上と共に、ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性の深刻な低下が発生するという問題がある。
【0004】
前記問題を解決するために、粉砕されたガラス繊維を多量または少量適用する方法がある。しかしながら、この解決策は、ガラス繊維の所定含有量に伴って衝撃強度のわずかな改善を示すが、剛性の改善効果の低下を伴うという問題がある。
【0005】
他の解決方法として、樹脂内に短繊維充填剤(staple filler)を導入するのでなく、長繊維充填剤(filament filler)で樹脂を補強する方法がある。しかしながら、非結晶質樹脂であるポリカーボネート組成物の高い粘性のために、長繊維充填剤の効率的な充填は非常に困難である。
【0006】
本発明者らは、前記のような問題を解決するために鋭意努力した結果、25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する高流動性ポリカーボネート樹脂に長繊維充填剤を添加してマスターバッチを形成した後、当該マスターバッチを、25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する高分子量ポリカーボネート樹脂、またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂のマスターバッチと混合することで、高い剛性を維持して、優れた耐衝撃性を示す樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0007】
(開示)
(技術的課題)
本発明の目的は、耐衝撃性の低下を引き起こさずに、剛性を向上させることができるポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明は、上述した形態に制限されるものでなく、他の形態は、下記の記載を通して当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(課題の解決)
本発明の一形態によれば、樹脂組成物は、25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂、5〜30mmの長さの長繊維充填剤、並びに下記の(1)および(2)のいずれか一つの樹脂の合計100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含む:
(1)25,000g/molより大きいの重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂;並びに
(2)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂。
【0010】
また、本発明の他の一形態によれば、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は:
i)25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂に長繊維充填剤を添加してマスターバッチを形成し;および
ii)前記マスターバッチと25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂とを混合する、
ことを含む。
【0011】
また、本発明のさらに他の一形態によれば、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は:
i)25,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂に長繊維充填剤を添加して第1のマスターバッチを形成し;
ii)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂を含む第2のマスターバッチを形成し;並びに
iii)前記第1のマスターバッチおよび第2のマスターバッチを混合する、
ことを含む。
【0012】
また、本発明のさらに他の一形態によれば、前記ポリカーボネート樹脂組成物から製造されるプラスチック成形品が提供される。
【0013】
さらに、本発明のさらに他の一形態によれば、25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂、5〜30mmの長さの長繊維充填剤、並びに下記の(1)および(2)のいずれか一つの樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、前記長繊維充填剤の表面に第1のポリカーボネート樹脂がコーティングされ、これが前記長繊維充填剤と、下記の(1)および(2)のいずれか一つの樹脂とを混合して形成される形態を有するポリカーボネート樹脂組成物が提供される:
(1)25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂;並びに
(2)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明の樹脂組成物の構成成分を説明する。
【0015】
(A)高流動性ポリカーボネート樹脂(第1のポリカーボネート樹脂)
本発明の樹脂組成物の一構成成分である芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記の化学式1で表されるジフェノール類をホスゲン、ハロゲン化ギ酸(halogen formate)または二炭酸(dicarbonate)と反応させることによって得られる。
【0016】
【化1】

【0017】
(前記式において、Aは、単結合、C1−C5のアルキレン、C1−C5のアルキリデン、C5および−C6のシクロアルキリデン、−S−またはSO2を表す。)
前記化学式1で表されるジフェノールの例としては、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチル−ブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンなどが挙げられる。これらのうち、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、および1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンが好ましく、ビスフェノール−Aと呼ばれる2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンであることがより好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、まず、重量平均分子量が25,000g/mol以下の高流動性ポリカーボネート樹脂(第1のポリカーボネート樹脂)(A)と長繊維充填剤(B)のマスターバッチを形成し、続いて前記マスターバッチを、高分子量ポリカーボネート樹脂(第2のポリカーボネート樹脂)(C)またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体および前記スチレン系共重合体(C')のマスターバッチと混合することにより得られる。
【0019】
前記25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する高流動性ポリカーボネートを採択することによって、長繊維の添加作業が容易になり、最終的な樹脂組成物における物性の低下が少ない。特に、前記高流動性ポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量が10,000〜25,000g/molであるとき、耐衝撃性および剛性の面でより望ましい。
【0020】
(B)長繊維充填剤(Filament Filler)
本発明に係る樹脂組成物の剛性を改善するための充填剤として使用される長繊維には、ガラス長繊維(continuous filament glass fiber)、炭素長繊維(continuous carbon filament fiber)、玄武岩長繊維(continuous basalt filament fiber)、金属長繊維(continuous metal filament fiber)、ボロン長繊維(continuous boron filament fiber)、アラミド長繊維(continuous filament aramid fiber)、天然長繊維(continuous filament natural fiber)などが適用可能であり、最終製品の物性によって、これらを単独でまたは混合して使用することが可能である。
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記高流動性ポリカーボネート樹脂(第1のポリカーボネート樹脂)、前記長繊維充填剤、および高分子量ポリカーボネート樹脂(第2のポリカーボネート樹脂)またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂および前記スチレン系共重合体樹脂を含む組成物100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含むことが好ましい。前記含有量範囲では、成形性が良く、剛性補強の効果も優れている。前記長繊維充填剤の含有量は、要求される製品の剛性および衝撃強度によって多様な比率で調節することができ、15〜60重量部であることがより好ましい。また、前記長繊維充填剤は、5〜30mmの長さを有することが好ましく、使用目的によって長さを多様に調節することができる。前記長繊維充填剤が10〜15mmの長さを有するとき、耐衝撃性、剛性および加工性のバランスの点からより好ましい。
【0022】
上述したように、前記長繊維充填剤(B)は、高流動性ポリカーボネート樹脂(A)とともに5〜30mmの長さを有するマスターバッチを形成し、前記マスターバッチと、高分子量ポリカーボネート樹脂(C)またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体およびスチレン系共重合体からなるマスターバッチ(C')と混合するといった本発明の樹脂組成物の製造に用いられる。
【0023】
(C)高分子量ポリカーボネート樹脂(第2のポリカーボネート樹脂)
本発明の他の構成成分である高分子量ポリカーボネート樹脂は、(A)で既に説明したポリカーボネート樹脂のうち、重量平均分子量が25,000g/molより大きければ特に制限されないが、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンから製造されるビスフェノール−A型が含まれることが好ましい。これは、工業的に最も多く使用される芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0024】
前記25,000g/molより大きい重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、高粘度による作業の難しさを減少させることができ、最終製品の物性が低下しない。特に、前記高分子量ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性および剛性の観点から、重量平均分子量が27,000〜45,000g/molであるのが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物の製造において、高分子量ポリカーボネート樹脂は、分子鎖(molecular chain)を有し、重合に使用されるジフェノール類の全量に対して0.05〜2モル%の3価またはそれ以上の多官能化合物、例えば、3価またはそれ以上のフェノール基を有する化合物の添加により得られる。
【0026】
また、高分子量ポリカーボネート樹脂は、ホモ−ポリカーボネート若しくはコ−ポリカーボネートを単独で、またはコ−ポリカーボネートとホモ―ポリカーボネートとの混合形態で使用することも可能である。
【0027】
(C')ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂
(C'−1)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂
本発明の樹脂組成物の製造に使用されるスチレン系グラフト共重合体樹脂(C'−1)は、単量体混合物(C'−1−1)5〜95重量部と、重合体(C'−1−2)5〜95重量部とのグラフト重合により得られる。ここで、単量体混合物(C'−1−1)は、(C'−1−1.1)スチレン、α―メチルスチレン、ハロゲン若しくはアルキル置換スチレンまたはこれらの混合物50〜95重量部と、(C'−1−1.2)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、C1―C4アルキル若しくはフェニルN−置換マレイミドまたはこれらの混合物5〜50重量部とからなる。また、重合体(C'−1−2)は、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンの三元共重合体(EPDM)、ポリオルガノシロキサン/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム、およびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0028】
前記スチレン系グラフト共重合体樹脂は、例えば、スチレンとアクリロニトリルの単量体の混合物と、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはスチレン/ブタジエンゴムと、のグラフト共重合により得られることが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル(ASA)、PC(ポリカーボネート)/ABSおよびPC/ASAからなる群より選択することができる。
【0029】
前記ゴム(C'−1−2)の粒径は、衝撃強度および成形品の表面特性を改善するために、0.05〜4μmであることが好ましい。
【0030】
前記グラフト共重合体樹脂は、当業者に公知の方法を用いて製造することができ、乳化重合、懸濁重合、溶液重合または塊状重合法から選択されうる。好ましくは、ゴム重合体(rubber polymer)の存在下で、上述した芳香族ビニル系単量体と重合開始剤を用いた乳化重合または塊状重合である。
【0031】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高流動性ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(C'−1)およびスチレン系共重合体樹脂(C'−2)を含む樹脂成分100重量部を基準として、ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(C'−1)を5〜50重量部含むことができる。前記含量範囲では、優れた機械的強度および流動性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
(C'−2)スチレン系共重合体樹脂
本発明の樹脂組成物の製造に使用されるスチレン系共重合体樹脂(C'−2)としては、スチレン系共重合体またはこれらの混合物を含み、この際、スチレン系共重合体は、(C'−2−1)スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン若しくはアルキル置換スチレンまたはこれらの混合物50〜95重量部と、(C'−2−2)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、C1−C4アルキル若しくはフェニル核置換マレイミド(C1−C4 alkyl or phenyl nuclear− substituted maleic imides)またはこれらの混合物5〜50重量部との共重合により得られる。
【0033】
また、前記熱可塑性スチレン系共重合体樹脂(C'−2)は、グラフト共重合体(C'−1)の製造時に副産物として生成され、特に、少量のゴム共重合体に過量の単量体混合物をグラフトする場合や、分子量調節剤として連鎖移動剤を過量使用する場合により多く発生する。本発明の樹脂組成物の製造に使用されるスチレン系共重合体樹脂(C'−2)の含有量は、グラフト共重合体(C'−1)の副産物を含んでいない。スチレン系共重合体樹脂は、熱可塑性樹脂であって、ゴム重合体を含まない。
【0034】
スチレン系共重合体樹脂は、スチレンとアクリロニトリルの単量体混合物、α−メチルスチレンとアクリロニトリルの単量体混合物、またはスチレン、α−メチルスチレンおよびアクリロニトリルの単量体混合物から製造されることが好ましい。
【0035】
前記スチレン系共重合体樹脂は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合または塊状重合法で製造され、スチレン系共重合体樹脂は単独または2種以上の混合物の形態で使用される。
【0036】
一方、スチレン系共重合体樹脂の製造に用いられるスチレン単量体は、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、およびα―メチルスチレンなどの置換されたスチレン系単量体に置き換えることができる。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(C'−1)およびスチレン系共重合体樹脂(C'−2)を含
む樹脂成分100重量部を基準として、スチレン系共重合体(C'−2)を5〜60重量部含むことができる。前記含量範囲では、流動性および機械的強度に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0038】
一方、前記高流動性ポリカーボネート樹脂(A)と高分子量ポリカーボネート樹脂(C)の比率は、特に限定されないが、最終製品の衝撃強度、曲げ強度および射出作業性のバランスの観点から、20,000〜35,000g/molの重量平均分子量を有するように設計することが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の樹脂組成物には、タルク、シリカ、マイカ、アルミナなどの添加剤を含みうる。このような無機充填剤を添加する場合、機械的な強度および熱変形温度(HDT:heat deflection tempreture)などの物性を向上させることができる。また、樹脂組成物は、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、染料および/または顔料などをさらに含むことができる。これら添加剤の使用量や使用法は、当業者には公知である。
【0040】
本発明によれば、長繊維で補強されたポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、樹脂に長繊維充填剤を充填するために、特殊製作された多数の束状の繊維ストランド(bunches of fiber strands)を適用しているガラスロービング装置を用いる。
【0041】
従来の繊維充填方法は、主に、3〜5mmの長さの充填剤を、樹脂混合物と同じ圧出機の投入口に添加したり、樹脂混合物と別途の圧出機の投入口に添加する方法であった。一方、束状の繊維ストランドを適用しているガラスロービング装置では、ロービングされた充填剤を連続的に溶融された樹脂物質に含浸させて充填する方法を使用する。ここで、溶融した樹脂物質の粘度に依存して、充填された繊維は、必要であれば、ロービング長によってほぼ無限に製造可能である。
【0042】
前記ガラスロービング装置を用いて製造されたマスターバッチは、5〜30mm、好ましくは、10〜15mmの繊維長さのペレットに製造することが好ましい。前記5〜30mmの範囲では、樹脂は、剛性、耐衝撃性の補強効果に優れており、複雑な生産ではない。
【0043】
前記マスターバッチは、高分子量ポリカーボネート樹脂またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂の第2のマスターバッチとの乾式混合(dry−blended)によって、耐衝撃性および剛性が向上した本発明の樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
本発明によれば、樹脂組成物は、高流動性ポリカーボネート樹脂(第1のポリカーボネート樹脂)にコーティングされた長繊維充填剤の表面が、高分子量ポリカーボネート樹脂(第2のポリカーボネート樹脂)またはゴム変性スチレン系グラフト共重合体およびスチレン系共重合体と混合された形態(morphology)を有することができる。
【0045】
結論として、本発明によれば、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、長繊維充填剤を樹脂に効果的に充填し、ポリカーボネート樹脂の剛性および耐衝撃性を向上させることができるので、モバイル製品(mobile products)、電子部品(electronic components)などの多様な成形品の製造に有用に使用される。
【0046】
(有利な効果)
上述したように、長繊維で補強されたポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性および衝撃強度を示すので、モバイル製品、電子部品などの多様な成形品の製造に有用に使用される。
【0047】
(最適な形態)
本発明は、以下に、具体的な形態を参照して、より詳細に説明する。ただし、後述する具体的な実施形態は、本発明の例示として提示されたもので、本発明の範囲がこれによって制限されるものではない。ここに記載されていない内容は、当業者にとって技術的に明確であるので、それについての説明は省略する。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例で使用した構成成分の詳細を説明する。
【0049】
(A)高流動性ポリカーボネート樹脂(第1のポリカーボネート樹脂)
本発明の実施例では、高流動性ポリカーボネート樹脂として、重量平均分子量が20,000〜22,000g/molのビスフェノール−A型のポリカーボネートを使用した。
【0050】
(B)長繊維充填剤
本発明の実施例では、長繊維充填剤として、米国のOwens Corning社製のSE−2348(表1)およびSE−2350(表2)を使用した。
【0051】
(C)高分子量ポリカーボネート樹脂(第2のポリカーボネート樹脂)
本発明の実施例では、高分子量ポリカーボネート樹脂として、重量平均分子量が33,000〜35,000g/molであるビスフェノール−A型のポリカーボネートを使用した。
【0052】
(C'−1)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体
単量体全量に対してブタジエン含有量が50重量部になるようにブタジエンゴムラテックスを投入し、スチレン36重量部、アクリロニトリル14重量部および脱イオン水150重量部の混合物に、添加剤であるオレイン酸カリウム1重量部、クメンヒドロペルオキシド0.4重量部、メルカプタン系連鎖移動剤0.3重量部を添加し、75℃5時間反応させて、ABSグラフトラテックスを製造した。当該重合体ラテックスに1%の硫酸溶液を添加し、凝固・乾燥して粉末状のグラフト共重合体樹脂を製造した。
【0053】
(C'−2)スチレン系共重合体
スチレン71重量部、アクリロニトリル29重量部および脱イオン水120重量部の混合物と、添加剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、メルカプタン系連鎖移動剤0.3重量部およびリン酸三カルシウム0.5重量部とを混合し、懸濁重合によってSAN共重合体樹脂を製造した。当該共重合体を洗浄、脱水、および乾燥させ、粉末状態のSAN共重合体樹脂を得た。
【0054】
<実施例1〜3>
上述した各構成成分を用いて表1の実施例に示した組成比(長繊維と高流動性ポリカーボネート樹脂を合計したマスターバッチの含有量を重量%として表す。)で実施例の樹脂組成物を製造し、これらの物性も表1に示した。
【0055】
多数の束状の繊維ストランドが適用されているガラスロービング装置を用いて、高流動性ポリカーボネート樹脂に連続ガラス長繊維を添加し、最終的に繊維長12mmの、連続ガラス長繊維で補強されたポリカーボネート樹脂ペレットを製造した。前記マスターバッチは、乾式混合により、高分子量ポリカーボネート樹脂と均一に混合した。これを10oz射出機で成形温度(molding tempreture)250〜280℃、金型温度(mold tempreture)60〜90℃で射出し、物性評価試片を製造した。得られた試片に対して、ASTM D256によりノッチアイゾット衝撃強度(1/8")、およびASTM D790により曲げ強度を測定した。疲労破壊試験は、引張試片に1秒当たり5回5000psiの応力を試片の長さ方向に反復的に加え、最終的に疲労破壊が発生する応力反復回数を測定した。
【0056】
<実施例4〜6>
上述した各構成成分を用いて表2の実施例に示した組成比(長繊維と高流動性ポリカーボネート樹脂を合計したマスターバッチの含有量を重量%として表す。)と同一の樹脂組成物を製造し、これらの物性も表2に示した。
【0057】
高流動性ポリカーボネート樹脂および長繊維のマスターバッチを含む第1のマスターバッチは、長繊維の充填のために特殊製作された多数の束状の繊維ストランドが適用されているガラスロービング装置を用いて12mmの長さのペレットに製造された。ゴム変性スチレン系グラフト共重合体およびスチレン系共重合体からなる第2のマスターバッチを、L/D=35、Y=45mmである二軸圧出機を用いて、250rpmのスクリュー回転速度、約−600mmHgの第1のベント圧力および60kg/hの自己供給速度で圧出し、これをペレットに切断し、第1のマスターバッチと乾式混合により均一に混合した。得られた各ペレットは、熱風によって80℃で約3時間乾燥させた後、10oz射出機で成形温度230〜300℃、金型温度60〜90℃で射出し、物性評価試片を製造した。得られた試片に対して、ASTM D256によりノッチアイゾット衝撃強度(1/8")、およびASTM D790により曲げ強度を測定した。
【0058】
<比較実施例1〜4>
上述した各構成成分を用いて、表1の比較例1〜4に示した組成比(重量%)の樹脂組成物を製造し、これらの物性を表1に示した。比較例1〜3の単純な短繊維充填(staple−filled)ポリカーボネート樹脂は、長繊維の代わりに、長さ3mm、直径12μmの短繊維を、実施例1〜3と同一含有量の高流動性および高分子量ポリカーボネート樹脂に添加して製造し、L/D=35、Y=45mmである二軸圧出機を用いて250℃の固定温度、200rpmのスクリュー回転速度、約−600mmHgの第1のベント圧力、および60kg/hの自己供給速度の条件下で圧出した。圧出されたストランドを水中で冷却した後、回転切断機でペレットに切断した。比較例4は、長繊維充填剤、高流動性ポリカーボネート樹脂および高分子量ポリカーボネート樹脂の含有量を実施例2と同一にし、マスターバッチを製造する工程なしに高流動性ポリカーボネート樹脂および高分子量ポリカーボネート樹脂を混合した後、多数の束状の繊維ストランドが適用されているガラスロービング装置を用いてペレットを製造した。
【0059】
得られた各ペレットは、熱風によって80℃で約3時間乾燥させた後、10oz射出機で成形温度250〜280℃、金型温度60〜90℃の条件で射出し、物性評価試片を製造した。得られた試片に対して、ASTM D256によりノッチアイゾット衝撃強度(1/8")、およびASTM D790により曲げ強度を測定した。疲労破壊試験は、引張試片に1秒当たり5回5000psiの応力を試片の長さ方向に反復的に加え、最終的に疲労破壊が発生する応力反復回数を測定した。
【0060】
<比較例5〜7>
比較例5〜7の成分、組成および物性を表2に示した。比較例は、既存の単純な短繊維充填方法によって製造された。具体的には、実施例に適用された高流動性ポリカーボネート樹脂、ゴム変性スチレン系共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂に、長さ3mm、直径12μmの短繊維を添加し、L/D=35、Y=45mmである二軸圧出機で250rpmのスクリュー回転速度、約−600mmHgの第1のベント圧力、および60kg/hの自己供給速度の条件下で圧出した。圧出されたストランドを水で冷却した後、回転切断機でペレットに切断した。
【0061】
得られた各ペレットは、熱風によって80℃で約3時間乾燥させた後、10oz射出機で成形温度230〜300℃、金型温度60〜90℃の条件で射出し、物性評価試片を製造した。得られた試片に対して、ASTM D256によりノッチアイゾット衝撃強度(1/8")、およびASTM D790により曲げ強度を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1の実施例と比較例の樹脂組成物の組成および物性については、ポリカーボネート樹脂の含有量が同じ場合、短繊維が充填された樹脂組成物(比較例1〜3)に比べて、長繊維が充填された樹脂組成物(実施例1〜3)において、衝撃強度および曲げ強度がいずれも向上したことが分かる。また、長繊維が充填された樹脂組成物において、充填された長繊維の含量が増加するほど(実施例1→実施例3)、衝撃強度および曲げ強度が増加することが分かる。疲労破壊発生時における応力反復回数も、長繊維の含量が増加するほど増加した。一方、実施例2の成分と組成でマスターバッチを製造する過程なしに単純な圧出方法によって製造した比較例4の樹脂組成物においては、長繊維の樹脂含浸性が低下し、短繊維で補強されている樹脂組成物の場合に比べて、物性が低下することが分かる。
【0065】
一方、高分子量ポリカーボネートの代わりに、ゴム変性スチレン系共重合体およびスチレン系共重合体を含む樹脂組成物の場合も、表1と類似した結果を示した。
【0066】
すなわち、表2に示すように、同一量のポリカーボネート樹脂を含有した場合、短繊維が充填された樹脂組成物(比較例5〜7)に比べて、長繊維が充填された樹脂組成物(実施例4〜6)において、衝撃強度および曲げ強度がいずれも向上したことが分かる。よって、充填された長繊維の含量が増加するほど(実施例4→実施例6)衝撃強度および曲げ強度が増加することが分かる。
【0067】
結論として、本発明の方法によって製造されるポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性および衝撃強度を示すので、モバイル製品、電子部品などの多様な成形品の製造に有用に使用可能である。
【0068】
以上、添付の表を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものでなく、多様な形態で具現可能であり、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須な特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることは理解されうる。したがって、本発明は、上述した実施例に限定されるわけではなく、添付の請求項の範囲によって判断される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂、5〜30mmの長さの長繊維充填剤、並びに下記の(1)および(2)のいずれか一つの樹脂の合計100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含むポリカーボネート樹脂組成物:
(1)25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂;並びに
(2)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂。
【請求項2】
前記第1のポリカーボネート樹脂が、10,000〜25,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2のポリカーボネート樹脂が、27,000〜45,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物100重量部を基準として、前記25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂30〜80重量部、前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂5〜50重量部、および前記スチレン系共重合体樹脂5〜60重量部を含む、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂が、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル(ASA)、ポリカーボネート(PC)/ABS、およびPC/ASAからなる群より選択される、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系共重合体樹脂が、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン若しくはアルキル置換スチレンまたはこれらの混合物50〜95重量部と、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、C1−C4アルキル若しくはフェニル核置換マレイミドまたはこれらの混合物5〜50重量部との共重合によって得られる、スチレン系共重合体またはこれら共重合体の混合物である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記長繊維充填剤が、ガラス長繊維、炭素長繊維、金属長繊維、アラミド長繊維、ボロン長繊維、玄武岩長繊維および天然長繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
i)25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂に長繊維充填剤を添加してマスターバッチを形成し;および
ii)前記マスターバッチと25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂とを混合する、
ことを含むポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
i)25,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂に長繊維充填剤を添加して第1のマスターバッチを形成し;
ii)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂を含む第2のマスターバッチを形成し;並びに
iii)前記第1のマスターバッチおよび前記第2のマスターバッチを混合する、
ことを含むポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程i)が、ガラスロービング装置を用いて行われる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程i)における前記マスターバッチが、5〜30mmの長さのペレットに形成される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記工程i)における前記第1のポリカーボネート樹脂が、10,000〜25,000g/molの重量平均分子量を有し、前記工程ii)における前記第2のポリカーボネート樹脂が、27,000〜45,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記工程i)における前記ポリカーボネート樹脂が、10,000〜25,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
最終の樹脂組成物が、前記第1のポリカーボネート樹脂、前記長繊維充填剤、および前記第2のポリカーボネート樹脂の合計100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
最終の樹脂組成物が、前記第1のポリカーボネート樹脂、前記長繊維充填剤、前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂、および前記スチレン系共重合体樹脂の合計100重量部を基準として、前記長繊維充填剤を1〜70重量部含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記長繊維充填剤が、ガラス長繊維、炭素長繊維、金属長繊維、アラミド長繊維、ボロン長繊維、玄武岩長繊維および天然長繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維である、請求項8または9に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物から製造される成形品。
【請求項18】
25,000g/mol以下の重量平均分子量を有する第1のポリカーボネート樹脂、長繊維充填剤、並びに下記の(1)および(2)のいずれか一つを含み、前記ポリカーボネート樹脂が、前記第1のポリカーボネート樹脂がコーティングされた前記長繊維充填剤と、下記の(1)および(2)のいずれか一つとを混合して形成される形態を有する、ポリカーボネート樹脂組成物:
(1)25,000g/molより大きい重量平均分子量を有する第2のポリカーボネート樹脂;並びに
(2)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂およびスチレン系共重合体樹脂。

【公開番号】特開2013−40351(P2013−40351A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257202(P2012−257202)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2010−519859(P2010−519859)の分割
【原出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】