説明

ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法

【課題】使用するポリオレフィンの製造方法に制限されることなく、例えば気相重合法で製造されたポリオレフィンを用いても、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】工程(1):(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、並びに(C)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を押出機で溶融混練して反応させ、相溶化成分を含む中間生成物を製造する工程、及び工程(2):前記押出機から前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、工程(1)で得られた中間生成物に、(D)ポリオレフィン系樹脂[ただし、前記(B)成分のポリオレフィン系樹脂を除く]及び(E)リン含有酸化防止剤を投入して溶融混練する工程を含む、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関し、詳しくは、自動車部品、電子機器や情報機器等のハウジングとして有用なポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(PC)は、耐熱性、耐衝撃性などの機械的強度、透明性などに優れたものであることから、電子・情報・電気部品や機械部品など重要な素材として用いられているが、流動性、耐薬品性等に劣るという欠点が存在する。これを改善するために、ポリカーボネートとポリオレフィン樹脂とのポリマーアロイ、特にポリカーボネートとポリプロピレンとのポリマーアロイが従前から検討されている。しかし、ポリカーボネートとポリオレフィン樹脂との相容化は一般的に困難であり、そのため面衝撃が弱い、射出成形品に層剥離が生じる等の大きな課題があり、実用化が困難であった。
【0003】
特許文献1及び2には、ポリカーボネートとポリプロピレンとの相溶化成分として、末端に脂肪族ヒドロキシル基又はカルボキシル基を有するポリカーボネート及びエポキシ基を有するポリプロピレンを用いた熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、末端に脂肪族ヒドロキシル基又はカルボキシル基を有するポリカーボネートは熱的に不安定で、押出機内でポリカーボネートのカーボネート結合の切断反応が引き起こされ、機械的強度が低いものしか得られない。また、末端にカルボキシル基を有するポリカーボネートは製造が困難であるとともに、得られるポリカーボネート樹脂組成物にもカルボキシル基が残存するため耐久性に劣り実用的な製品が得られない。
【0004】
近年、芳香族ポリカーボネート樹脂と、エポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーと、スラリー重合法により製造されたプロピレン系重合体と配合することで、耐熱性、耐衝撃性等の機械的強度を維持し、流動性及び耐薬品性にも優れるポリカーボネート樹脂組成物が開発されている(例えば特許文献3及び4を参照)。
しかしながら、特許文献3及び4に記載のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるプロピレン系重合体はスラリー重合法により製造されたものに制限されており、気相重合法により製造されたプロピレン系重合体を用いると、ポリカーボネートの分子量が低下し、衝撃強度や伸びの著しく劣るものしか得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−215749号公報
【特許文献2】特開昭63−215750号公報
【特許文献3】特開2009−275131号公報
【特許文献4】特開2009−298993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、使用するポリオレフィンの製造方法に制限されることなく、例えば気相重合法で製造されたポリオレフィンを用いても、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のとおり、従来法においては、ポリマーアロイに用いられるプロピレン系重合体は、スラリー重合法により製造されたものに制限されており、気相重合法により製造されたプロピレン系重合体を用いると、ポリカーボネートの分子量が低下し、衝撃強度や伸びの著しく劣るものしか得られない。
この点に関して、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、気相重合法は一般的に洗浄工程を有していないため、従来の気相重合法により製造されたプロピレン系重合体には、残触媒や中和剤等の不純物が多く残存していたことがわかった。そして、本発明者らは、これら不純物がポリカーボネートを分解してポリカーボネートの分子量を低下させること、特に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアンモニウム塩やアミン塩の存在下ではポリカーボネートの分解がポリオレフィンとの相溶化に必要な量以上に進行してしまうことを見出した。
また、本発明者らが更に鋭意検討を重ねた結果、気相重合法等により製造されたポリオレフィン系樹脂に残存する不純物を無害化するために、酸化防止剤等の安定剤を、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びTMAH等と共に投入して溶融混練した場合には、酸化防止剤がTMAH等を不活性化してしまい、TMAH等が相溶化成分の生成を促進する機能を発揮することができなくなり、相溶化成分の生成量が少なくなり成形後の層状剥離や、衝撃強度の低下を招くことを見出した。
本発明は、このような知見に基づき、完成に至ったものである。
【0008】
本発明の課題は、下記の手段によって解決される。
[1]工程(1):(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、並びに(C)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を押出機で溶融混練して反応させ、相溶化成分を含む中間生成物を製造する工程、及び
工程(2):前記押出機から前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、工程(1)で得られた中間生成物に、(D)ポリオレフィン系樹脂[ただし、前記(B)成分のポリオレフィン系樹脂を除く]及び(E)リン含有酸化防止剤を投入して溶融混練する工程
を含む、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[2]前記押出機が、供給口を2個以上有するベント付き押出機であり、ベントの上流側の供給口から前記(A)〜(C)成分を投入して溶融混練し、ベントから前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、ベントの下流側の供給口から前記(D)及び(E)成分を投入して溶融混練する、上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[3]前記(D)及び(E)成分と共に(F)リン系難燃剤を投入して溶融混練する、上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【0009】
[4]前記(A)成分50〜94質量%、前記(B)成分1〜30質量%、及び前記(D)成分3〜40質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(C)成分0.001〜1質量部を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[5]前記(A)、(B)及び(D)成分からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(E)成分0.005〜1質量部を含む、上記[4]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[6]前記(A)、(B)及び(D)成分からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(F)成分1〜25質量部を含む、上記[5]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[7]前記(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が15000〜35000である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[8]前記(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーにおけるエポキシ基又はグリシジル基の含有量が1〜18質量%である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法により得られるポリカーボネート樹脂組成物。
[10]上記[9]に記載のポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、気相重合法で製造されたポリオレフィンを用いても、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に用いることができるベント付き押出機の好ましい一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、下記工程(1)及び(2)を含む。
工程(1):(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、並びに(C)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を押出機で溶融混練して反応させ、相溶化成分を含む中間生成物を製造する工程。
工程(2):前記押出機から前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、工程(1)で得られた中間生成物に、(D)ポリオレフィン系樹脂[ただし、前記(B)成分のポリオレフィン系樹脂を除く]及び(E)リン含有酸化防止剤を投入して溶融混練する工程。
【0013】
<工程(1)>
工程(1)は、(A)〜(C)成分を押出機で溶融混練して反応させ、相溶化成分を含む中間生成物を製造する工程である。
具体的には、(A)〜(C)成分を押出機で溶融混練して反応させることで、まず、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂が、(C)成分である脂肪族アミン塩等によって分解され、末端にヒドロキシル基を有するポリカーボネート(以下、「PC−OH」ともいう)が製造される。ここで、(C)成分はポリカーボネートの分解剤として作用する。次いで、このPC−OHに対して、(C)成分によって反応性が高められた(B)成分であるエポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーが反応し、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーとの相溶化成分が形成された芳香族ポリカーボネート樹脂(中間生成物)が製造される。
【0014】
<工程(2)>
工程(2)は、前記押出機から前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、工程(1)で得られた相溶化成分を含む中間生成物に、(D)ポリオレフィン系樹脂及び(E)リン含有酸化防止剤を投入して溶融混練する工程である。また、必要により、(D)及び(E)成分と共に(F)リン系難燃剤を投入してもよい。
【0015】
工程(1)において反応に寄与した(C)成分は、反応後、分解されて揮発成分となる。該揮発成分は、また(D)成分中の不純物との相互作用によるポリカーボネートの不必要な分解を抑制するため、また(E)成分の分解を防止する観点から、押出機から除去される。
【0016】
本発明では、(D)及び(E)成分を当初から配合せずに、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーとの相溶化成分が形成された芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した後に投入することを特徴とする。すなわち、本発明では、(D)及び(E)成分を工程(1)では投入しない。
【0017】
(D)成分として気相重合法により製造されたポリオレフィン系樹脂を用いる場合、気相重合法は一般的に洗浄工程を有していないため、該ポリオレフィン系樹脂には、残触媒や、触媒中和のための添加剤等種々の不純物を比較的多く含んでいる。そのため、(D)成分を工程(1)で投入すると、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂が必要以上に分解されてしまい分子量の低下を招く。特にこの分解反応は、(C)成分である脂肪族アミン塩等の存在下で促進される。
また、(E)成分であるリン含有酸化防止剤を工程(1)で投入すると、(C)成分である脂肪族アミン塩等を失活してしまい、(C)成分が相溶化生成の促進剤としての機能を発揮することができなくなる。
そのため、本発明では、工程(1)において(A)〜(C)成分を押出機で溶融混練して反応させて、ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーとの相溶化成分が形成された芳香族ポリカーボネート樹脂(中間生成物)を製造した後に、(D)及び(E)成分を投入して溶融混練する。これにより、(D)成分に含まれる残触媒などの不純物によって相溶化成分の製造が阻害されることがなく、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。
【0018】
(D)成分に含まれる不純物としては、残触媒として周期表第3族〜第11族の遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、鉄、ニッケル、鉛、白金、イットリウム、サマリウム等)の化合物があり、代表的なものとしては、チタン含有固体状遷移金属成分と有機金属成分からなるチーグラー・ナッタ触媒、少なくとも一個のシクロペンタジエニル骨格を有する周期表第4族〜第6族の遷移金属化合物と助触媒成分からなるメタロセン触媒が挙げられ、触媒中和のための添加剤としてステアリン酸金属塩、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩基性塩及びアルカリ土類金属の塩基性複塩等が挙げられ、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸カルシウム、マグネシウムとアルミニウムの含水塩基性炭酸塩鉱物であるハイドロタルサイト類などが挙げられる。
【0019】
また、(E)リン含有酸化防止剤を、工程(1)では添加せずに工程(2)において添加することで、前記不純物を無害化することでき、さらに耐衝撃性に優れ、層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0020】
本発明の方法は、供給口を2個以上有するベント付き押出機を用いて行うことが好ましい。本発明に用いることができるベント付き押出機の好ましい一実施形態の模式図を図1に示す。
図1に示される押出機1はベント式押出機であり、2個の供給口(ホッパー)A及びBを備えている。シリンダー2の中間部にベント3が設けられており、ベント3の上流側に供給口A、ベントの下流側に供給口Bが形成されている。シリンダー2の内部にはスクリュー(図示せず)が収容されており、スクリューは駆動装置(図示せず)により回転し、供給口から投入された材料を混練押出する。スクリューの本数は特に限定されず、単軸押出機でも二軸押出機でもよい。シリンダー2の末端には出口が設けられており、出口にはダイが取り付けられていてもよい。
【0021】
本発明では、まず、押出機1内に、ベント3の上流側の供給口Aから(A)〜(C)成分を投入し、押出機1のスクリューを回転させて溶融混練を行う(工程(1))。(C)成分反応後に生じた揮発分は、ベント3から除去される。次いで、ベント3の下流側の供給口Bから(D)及び(E)成分を投入して溶融混練を行う(工程(2))。また、必要により、(D)及び(E)成分と共に(F)リン系難燃剤を投入してもよい。
スクリューの回転数は、特に限定されないが、通常50〜500rpmが適当である。また、溶融混練時の温度は、通常220〜320℃が適当である。
【0022】
以下に、本発明に用いられる各成分について説明する。
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明における(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂としては、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される種々の芳香族ポリカーボネートを用いることができる。
【0023】
2価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。これらの2価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
特に、好ましい2価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールA又はビスフェノールAを主原料としたものである。
【0024】
カーボネート前駆体としては、例えばカルボニルハライド、カルボニルエステル及びハロホルメートなど、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0025】
また、芳香族ポリカーボネートは、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)などが挙げられる。
【0026】
本発明における(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、衝撃強度、引張強度及び成形性の観点、並びに剥離を防止する観点から、好ましくは15000〜35000、より好ましくは17000〜30000である。
【0027】
なお、本発明における(A)成分の粘度平均分子量は、塩化メチレン100cm3に芳香族ポリカーボネート樹脂約0.7gを20℃で溶解した溶液を、ウベローデ粘度計を用いて測定した比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
(ηsp)/C=[η]+0.45×[η]2
[η]=1.23×10-50.83
([η]は極限粘度、Cはポリマー濃度、Mは粘度平均分子量を示す。)
【0028】
本発明における(A)成分の配合量は、引張強度及び弾性率と流動性及び耐薬品性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量中、好ましくは50〜94質量%、より好ましくは65〜92質量%、更に好ましくは70〜90質量%である。
【0029】
[(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー]
(B)成分におけるポリオレフィン系樹脂は、例えばエポキシ基又はグリシジル基を有するオレフィンの単独重合体、あるいはオレフィンとエポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体との共重合体、オレフィン重合体に対してエポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体を共重合したものであってもよく、このような共重合体はグラフト共重合体、ランダム共重合体、あるいはブロック共重合体であってもよい。
【0030】
また、例えばオレフィン重合体の末端、あるいはオレフィンと他の不飽和単量体などとの共重合体及びこれらの複合物中に存在する不飽和結合を、過酸化水素あるいは有機過酸など、例えば過安息香酸、過ギ酸及び過酢酸などにより酸化することでエポキシ基を導入したものであってもよい。すなわち、オレフィン系重合体にエポキシ基又はグリシジル基を導入したものであればいずれを用いてもよい。
【0031】
また、(B)成分におけるポリオレフィン系エラストマーとは、エポキシ基又はグリシジル基を含有し、X線回折法により測定される結晶化度が50%以下の低結晶性ないし非晶性のオレフィン系共重合体のことである。
【0032】
オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、2−ブテン、シクロブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1−デセン、及び1−ドデセンなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
エポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体としては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、2−メチルプロペニルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、グリシジルシンナメート、イタコン酸グリシジルエステル、及びN−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル]メタクリルアミドなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、さらに、これらのエポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体とともに、例えば、アルキルアクリレートやアルキルメタクリレートなどのようなエポキシ基又はグリシジル基を有さない不飽和単量体を用いて、これらを共重合したような、グリシジル基に加えアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルなどの基が含まれているものであってもよい。
【0034】
本発明における(B)成分であるポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーに含まれるエポキシ基又はグリシジル基の含有量は、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂と(D)成分であるポリオレフィン系樹脂との相溶性の観点から、好ましくは1〜18質量%、より好ましくは5〜15質量%である。前記グリシジル基の含有量は、例えば、樹脂等に含まれるグリシジルメタクリレート基の含有量として求めることができる。
【0035】
また、(B)成分の重量平均分子量は、5万〜50万程度であることが好ましい。この範囲内であれば、層剥離を防止できると共に、良好な引張伸びや高い耐撃性を得ることができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法を用いることにより求めることができる。
【0036】
本発明においては、(B)成分として、エポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂を1種以上用いてもよいし、エポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系エラストマーを1種以上用いてもよく、また上記ポリオレフィン系樹脂1種以上とポリオレフィン系エラストマー1種以上とを併用してもよい。
【0037】
本発明における(B)成分の配合量は、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂と(D)成分であるポリオレフィン系樹脂との相溶性の観点、並びに引張強度及び弾性率と流動性及び耐薬品性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量中、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは3〜10質量%である。
【0038】
[(C)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩]
本発明における(C)成分は、脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である。この(C)成分は、(A)成分である芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を促進し、(B)成分であるエポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーの反応性を高め、ポリカーボネート分解物と(B)成分とからなる相溶化成分の生成量を増加することにより、(A)、(B)及び(D)成分の樹脂の相溶性を高め、機械的強度や剥離強度などを向上させるという機能を奏する。
【0039】
(脂肪族アミン塩及び芳香族アミン塩)
脂肪族アミン塩及び芳香族アミン塩としては、特に限定されないが、例えば一般式R123N・1/nA1で表される化合物を用いることができる。式中、R1〜R3は、各々独立して水素原子、脂肪族基又は芳香族基を示す(ただし、R1〜R3すべてが同時に水素原子を示すことはない。)。具体的には、脂肪族アミン塩の場合、R1〜R3は、各々独立して水素原子又は脂肪族基を示す(ただし、R1〜R3すべてが同時に水素原子を示すことはない。)。芳香族アミン塩の場合、R1〜R3は、各々独立して水素原子、脂肪族基又は芳香族基を示す(ただし、R1〜R3の少なくとも1つは芳香族基を示す。)。A1は酸を表し、例えば塩酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、酢酸、モノアルキル硫酸、スルホン酸化合物などである。nは、酸A1のアニオンの価数であり、例えば塩酸の場合はn=1、硫酸の場合はn=2である。
【0040】
(アンモニウムヒドロキシド)
アンモニウムヒドロキシドとしては、特に限定されないが、例えば一般式R4567+・OH-で表される化合物を用いることができる。式中、R4〜R7は、各々独立して水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示す(ただし、R4〜R7すべてが同時に水素原子を示すことはない。)。
アンモニウムヒドロキシドの具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。
【0041】
(ヒドロキシルアミン塩)
ヒドロキシルアミン塩としては、特に限定されないが、例えば一般式R89NOH・1/mA2で表される化合物を用いることができる。式中、R8及びR9は、各々独立して水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を示す(ただし、R8及びR9が同時に水素原子を示すことはない。)。A2は酸を示し、mは酸A2のアニオンの価数である。
ヒドロキシルアミン塩の具体例としては、塩酸メチルヒドロキシルアミン、塩酸エチルヒドロキシルアミン、塩酸n−プロピルヒドロキシルアミン、塩酸イソプロピルヒドロキシルアミン、塩酸ジメチルヒドロキシルアミン、塩酸ジエチルヒドロキシルアミン等を挙げることができる。また、これらのヒドロキシルアミン塩における塩酸を他の酸、例えば硫酸、硝酸、酢酸、モノアルキル硫酸、スルホン酸化合物等に置換したヒドロキシルアミン塩等を挙げることができる。
【0042】
(4級ホスホニウム塩)
4級ホスホニウム塩としては、特に限定されないが、例えば下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物を用いることができる。
(PR4+・(X2- ・・・(I)
(PR4+2・(Y22- ・・・(II)
〔(PR4+-n−P(=O)R”3-n ・・・(III)
上記一般式(I)〜(III)中、Rは有機基を示し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアリールアルキル基等を示す。ただし、リン原子に結合する4つのRのうち少なくとも一つはアリール基である。4つのRは互いに同一でも異なっていてもよく、2つのRが結合して環構造を形成していてもよい。
【0043】
上記一般式(I)中、X2はハロゲン原子、水酸基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、HCO3又はBR’4等の1価の対アニオンを示す。ここで、R’は水素原子又はアルキル基やアリール基などの炭化水素基を示し、4つのR’は互いに同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(II)中、Y2はCO3等の2価の対アニオンを示す(2個の1価の対アニオンの場合を含む)。
上記一般式(III)中、R”は炭化水素基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基又は水酸基を示し、R”が複数の場合、互いに同一でも異なっていてもよい。nは1〜3の整数を示す。
【0044】
上記一般式(I)で表される4級ホスホニウム化合物の具体例としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムフェノキシド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド又はナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、シクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(II)で表されるような2価の対アニオンを有する4級ホスホニウム化合物の具体例としては、例えば、ビス(テトラフェニルホスホニウム)カーボネート、ビス(ビフェニルトリフェニルホスホニウム)カーボネート、ビス(ナフチルトリフェニルホスホニウム)カーボネートなどの4級ホスホニウム塩や、さらに、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのビス−テトラフェニルホスホニウム塩、エチレンビス(トリフェニルホスホニウム)ジブロミド、トリメチレンビス(トリフェニルホスホニウム)−ビス(テトラフェニルボレート)等が挙げられる。
【0046】
上記一般式(III)で表されるようなリン酸塩を有する4級ホスホニウム化合物の具体例としては、例えば、リン酸テトラフェニルホスホニウム、フェニルリン酸テトラフェニルホスホニウム、ジフェニルリン酸テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。
【0047】
ポリカーボネートとポリオレフィンとの相溶性を向上させ、剥離を改善する観点からは、これらの4級ホスホニウム塩のうち、上記一般式(I)で表され、リン原子に結合するアリール基を1個以上有するものが好ましく、3個以上有するものがより好ましい。4級ホスホニウム塩は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
なお、相溶性を向上させ、剥離を改善する観点からは、(C)成分として、脂肪族アミン塩と4級ホスホニウム塩とを併用することが好ましい。このとき、脂肪族アミン塩の配合量が4級ホスホニウム塩の配合量に対して0.1〜50倍量とすることが、仕上がりのポリカーボネートの分子量を制御し、耐薬品性、機械物性を発現する点で好ましい。
【0049】
本発明における(C)成分の配合量は、引張強度及び弾性率と流動性及び耐薬品性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.002〜0.3質量部である。
【0050】
[(D)ポリオレフィン系樹脂]
本発明における(D)成分であるポリオレフィン系樹脂は、前記(B)成分のエポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂であり、ポリオレフィン系の樹脂としては、前述したエチレンやプロピレン、ブテンなどのオレフィン類を単独で重合したものやこれらを共重合した重合体が挙げられる。
【0051】
例えば、ポリエチレン系樹脂としては、エチレンを単独で重合したものであってもよく、エチレンを主体として共重合したものであってもよく、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体などのポリエチレン系樹脂などが挙げられる。また、エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレンとの共重合体などが挙げられ、グラフト共重合体、ランダム共重合体あるいはブロック共重合体のいずれであってもよい。これらの中では耐薬品性の観点から高密度ポリエチレンが特に好ましい。
【0052】
これらのポリエチレン系樹脂のメルトインデックス(MI)は、流動性を向上させつつ、剥離を防止する観点から、好ましくは0.01〜50g/10分程度、より好ましくは0.01〜30g/10分である。なお、このポリエチレン系樹脂のMIは、ASTM D 1238に準拠した測定法により求めたものであり、樹脂温度190℃、荷重21.18Nにおいて測定したものである。
【0053】
また、プロピレン系樹脂としては、プロピレンを単独で重合したものであってもよく、プロピレンを主体として共重合したものであってもよい。例えば、アイソタクチックプロピレン単独重合体、あるいはシンジオタクチックプロピレン単独重合体であってもよい。また、共重合体は、例えばプロピレンとエチレンとの共重合体などが挙げられ、グラフト共重合体、ランダム共重合体あるいはブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0054】
このようなプロピレン系樹脂のメルトインデックス(MI)は、流動性を向上させつつ、剥離を防止する観点から、好ましくは0.1〜60g/10分程度、より好ましくは0.1〜50g/10分である。なお、このプロピレン系樹脂のMIは、ASTM D 1238に準拠した測定法により求めたものであり、樹脂温度230℃、荷重21.18Nにおいて測定したものである。
【0055】
また、上記のポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂の他、メルトインデックス(MI)が0.1〜60/10分(230℃、21.18N)程度のポリオレフィン系樹脂であれば、同様に使用することができる。
【0056】
本発明において、(D)成分であるポリオレフィン系樹脂は、いかなる方法によって製造されたものも使用することができる。従来法では、スラリー重合法により製造されたポリオレフィン系樹脂に制限されており、気相重合法により製造されたプロピレン系重合体を用いると、ポリカーボネートの分子量が低下し、衝撃強度や伸びの著しく劣るものしか得られない。これに対し、本発明では、気相重合法により製造されたポリオレフィン系樹脂を用いても、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。
【0057】
本発明においては、(D)成分として、上記ポリオレフィン系樹脂を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における(D)成分の配合量は、引張強度及び弾性率と流動性及び耐薬品性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量中、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%であり、更に好ましくは7〜30質量%である。
【0058】
[(E)リン含有酸化防止剤]
本発明における(E)成分であるリン含有酸化防止剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、例えばホスファイト系酸化防止剤やホスホナイト系酸化防止剤等が挙げられる。
ホスファイト系酸化防止剤としては、具体的にはトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0059】
ホスホナイト系酸化防止剤としては、具体的には、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−ビフェニレンホスホナイト等が挙げられる。
【0060】
これらのうち、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルホスファイトが好ましい。
また、その他のリン酸エステルとしてトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0061】
本発明における(E)成分の配合量は、引張強度及び弾性率と流動性及び耐薬品性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.005〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部である。
【0062】
[(F)リン系難燃剤]
本発明においては、以上の(A)〜(E)成分の他に、必要に応じて、難燃性の向上のために(F)リン系難燃剤を配合することができる。
(F)成分であるリン系難燃剤としては、赤リンやリン酸エステル系の難燃剤が挙げられ、リン酸エステル系の難燃剤としては、リン酸エステルのモノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物からなるものがあり、具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等又はこれらの置換体、縮合物等が挙げられる。
【0063】
リン酸エステル系難燃剤として好適に用いることができる市販のリン酸エステル化合物としては、たとえば、大八化学工業株式会社製のTPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、CR−733S〔レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)〕、CR−741〔ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)〕、PX−200〔1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、PX−201L〔1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、PX−202〔4,4’−ビフェニレン−テスラキス)2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート等を挙げることができる(いずれも商品名)。
上記リン酸エステル系難燃剤は、2価のフェノール類及びAr・OHで表される1価のフェノール類(Arはアリール基を示す)とオキシ塩化リンとの反応によって得られる。
【0064】
これらの(F)成分のリン系難燃剤は単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。(F)成分の含有量は、機械的強度と難燃性とのバランスの観点から、(A)、(B)及び(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜25質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0065】
[添加剤]
また、本発明においては、上記(A)〜(F)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、離型剤及び滑剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の方法により得られるポリカーボネート樹脂組成物は、マトリックス相に(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂が、ドメインに(D)成分のポリオレフィン系樹脂が存在する。そして、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリオレフィン系樹脂との界面には、(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)成分のエポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーとの反応生成物による相溶化成分が存在する。適度な相溶化成分の量の介在によって界面を安定化させ、ポリカーボネートとポリオレフィンとの相溶性が向上し、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、公知の成形方法、例えば中空成形、射出成形、押出成形、真空成形、圧空成形、熱曲げ成形、圧縮成形、カレンダー成形及び回転成形等を適用することにより、成形体とすることができる。特に射出成形による成形法が好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性、曲げ強度、流動性及び耐薬品性に優れるため、射出成形によりこれらの特性が要求される自動車部品、電子機器や情報機器のハウジング等として好適に利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
なお、以下において、GMAはグリシジルメタクリレートを示す。また、MIはメルトインデックス(230℃、21.18N)を示す。
【0069】
実施例及び比較例において用いた(A)〜(F)成分を以下に示す。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
A−1:タフロンFN3000A[商品名、出光興産(株)製、粘度平均分子量(Mv)=29300]
A−2:タフロンFN2600A[商品名、出光興産(株)製、粘度平均分子量(Mv)=25400]
【0070】
(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー
B−1:エチレン−GMA共重合体[住友化学(株)製、商品名:ボンドファーストE、GMA含有量=12質量%]
B−2:ポリプロピレン−GMAグラフト共重合体[ポリプロピレンとGMAと有機過酸化物とをブレンドした後、バッチ式混練にて溶融混練して製造した。GMA含有量=9質量%]
【0071】
(C)アンモニウムヒドロキシド類
C−1:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)[多摩化学(株)製、TMAH2.38%水溶液をTMAHの割合が(A)、(B)及び(D)成分の合計量100質量部に対して、表1の配合量になるよう調製]
【0072】
(D)ポリオレフィン系樹脂
D−1:ポリプロピレンブロック共重合体[気相重合法により製造した。MI=10g/10分]
D−2:ポリプロピレンブロック共重合体[気相重合法により製造した。MI=4g/10分]
D−3:ポリプロピレンブロック共重合体[スラリー重合法により製造した。MI=30g/10分]
【0073】
(E)リン含有酸化防止剤
E−1:ホスファイト系酸化防止剤[(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブPEP−36]
E−2:ホスファイト系酸化防止剤[(株)ADEKA製、商品名:アデカスタブPEC]
【0074】
(F)リン系難燃剤
F−1:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)[大八化学工業(株)製、商品名:CR−741]
【0075】
実施例1〜4、比較例1〜3
押出機として、供給口を2個有するベント付き二軸押出機((株)日本製鋼所製、商品名:TEX−44)を用い、設定温度を250℃とし、スクリュー回転数300rpm、吐出量100kg/時で溶融混練を行い、樹脂組成物のペレットを製造した。
実施例1〜4では、表1に示した組成及び配合量の(A)〜(C)成分を、ベントの上流側の供給口Aから投入して溶融混練し、次いで、表1に示した組成及び配合量の(D)〜(F)成分をベントの下流側の供給口Bから投入して溶融混練を行った。
比較例1及び2では、表1に示した組成及び配合量の(A)〜(E)成分を、ベントの上流側の供給口Aから投入して溶融混練を行った。比較例3では、表1に示した組成及び配合量の(A)〜(D)成分を、ベントの上流側の供給口Aから投入して溶融混練し、次いで、表1に示した組成及び配合量の(F)成分をベントの下流側の供給口Bから投入して溶融混練を行った。
【0076】
得られたペレットを120℃で6時間以上乾燥した後、射出成形(射出成形温度270℃、金型温度80℃)により試験片を作製し、下記の方法により物性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0077】
<評価方法>
(1)引張強さ・引張弾性率・引張伸び率(試験片厚さ3.0mm)
JIS K 7162に準拠
(2)アイゾット衝撃強度(ノッチ付き)(試験片厚さ3.0mm)
JIS K 7110に準拠
(3)高速落錘衝撃試験(試験片70×70×3mmの平板)
1/2インチRの撃芯、7m/secの衝撃速度で測定した。
破壊面が延性の場合を○とし、破壊面が脆性の場合を×として評価した。
(4)表面剥離
試験片の180度折り曲げを5回実施し、試験片に剥離現象が生じているかどうかを、目視にて観察した。なお、細かなシワも剥離と判断した。
剥離が観察されない場合を○とし、少しでも剥離が観察されたものを×として評価した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果から明らかなように、(A)〜(E)成分をまとめて投入して溶融混練した比較例1及び2、並びに前段で(A)〜(D)成分を投入し、後段で(F)成分を投入して溶融混練した比較例3では、(D)成分のポリオレフィン系樹脂として気相重合法により製造されたものを用いると、得られる樹脂組成物の衝撃強度や伸びが著しく劣り、また、ポリカーボネートとポリプロピレンとの相溶性が悪く、表面剥離が発生した。
これに対し、前段で(A)〜(C)成分を投入し、後段で(D)〜(F)成分を投入して溶融混練した実施例1〜4では、気相重合法で製造されたポリオレフィンを用いても、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくいポリカーボネート樹脂組成物を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法により得られるポリカーボネート樹脂組成物は、衝撃強度に優れ、成形後に層状剥離しにくく、自動車部品、電子機器や情報機器等のハウジング等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、並びに(C)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシアンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を押出機で溶融混練して反応させ、相溶化成分を含む中間生成物を製造する工程、及び
工程(2):前記押出機から前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、工程(1)で得られた中間生成物に、(D)ポリオレフィン系樹脂[ただし、前記(B)成分のポリオレフィン系樹脂を除く]及び(E)リン含有酸化防止剤を投入して溶融混練する工程
を含む、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記押出機が、供給口を2個以上有するベント付き押出機であり、ベントの上流側の供給口から前記(A)〜(C)成分を投入して溶融混練し、ベントから前記(C)成分反応後の揮発分を除去した後、ベントの下流側の供給口から前記(D)及び(E)成分を投入して溶融混練する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記(D)及び(E)成分と共に(F)リン系難燃剤を投入して溶融混練する、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(A)成分50〜94質量%、前記(B)成分1〜30質量%、及び前記(D)成分3〜40質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(C)成分0.001〜1質量部を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記(A)、(B)及び(D)成分からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(E)成分0.005〜1質量部を含む、請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記(A)、(B)及び(D)成分からなる樹脂成分100質量部に対して、前記(F)成分1〜25質量部を含む、請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が15000〜35000である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記(B)エポキシ基又はグリシジル基を含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーにおけるエポキシ基又はグリシジル基の含有量が1〜18質量%である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により得られるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72329(P2012−72329A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219979(P2010−219979)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】