説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体

【課題】耐衝撃性、曲げ強度、流動性及び耐薬品性などに優れ、成形後に層状剥離を呈することがなく、低グロス化が可能なポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】(A)粘度平均分子量16000〜26000である芳香族ポリカーボネート樹脂50〜94質量%、(B)エポキシ基又はグリシジル基を3〜30質量%含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー1〜15質量%、及び(C)スラリー重合法により製造されたポリプロピレン系樹脂5〜40質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種0.001〜1質量部を含み、かつ溶融混練してなるポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関する。より詳しくは、成形後に層状剥離を呈することがなく、耐衝撃性、曲げ強度、流動性及び耐薬品性などに優れた、自動車部品、電子機器や情報機器などのハウジングとして有用なポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品としてフィラー充填ポリポロピレンが多く使用されているが、耐傷付き白化性、シボ転写性、ウエルド外観が劣るなどの課題を有している。一方、ポリカーボネート(PC)は衝撃強度を初めとした機械的物性に優れるという長所を有しているものの、流動性、耐薬品性に劣るなどの欠点が存在する。
この改良手法として、流動性に関してはPC/ABSアロイが、また耐薬品性に関してはPC/ポリエステル(PBT,PET)アロイが提案されている。ただし、PC/ABSアロイは耐薬品性や耐候性に劣り、またグロス(光沢)が高すぎ、そのままでは内装材として使用できず、塗装を必要としコストアップとなるため使用が制限されている。また、PC/ポリエステル(PBT,PET)は流動性の改良効果が小さく、かつ耐加水分解性に劣る、光沢が高く低グロス化が困難であるなどの問題があった。PC/ABSアロイ、PC/ポリエステル(PBT,PET)アロイは何れも軋み音が高いという欠点も存在していた。
そこで、これらの課題を克服する材料の組み合わせとして、PCとポリオレフィン樹脂のアロイ、特にポリプロピレン(PP)とPCのアロイが期待されるが、相容化が困難で、そのため面衝撃が弱い、射出成形品に層剥離が生じるなどの大きな課題があり、実際実用化が困難であった。
【0003】
例えば、特許文献1は、エポキシ変性SEBSをPPとPCの相容化剤として用いることを提案したものだが、PP及びPCは官能基が無く、この方法では引張伸びの向上や層剥離防止が困難である。
特許文献2は、PPとPCの相容化剤として、末端脂肪族OH基を有するPCとエポキシ基含有PPを溶融混練時に用いることを提案したものであるが、エポキシ基含有PPの分子量が小さく、伸びや衝撃強度の改良効果に限界があると共に、成形時に配向を助長し、厳しい折り曲げなどでは剥離が生じる。
特許文献3は、PPとPCの相容化剤として、末端カルボキシル基を有するPCとエポキシ基含有PPを溶融混練時に用いることを提案したものであるが、その反応効果は十分ではなく、伸びの改良や層剥離防止効果は小さい。
特許文献4は、PPとPCの相容化剤として、SEBSを用いることを提案したものだが、SEBSもPCとの相容性が低く、この方法では、引張伸びの向上や層剥離防止が困難である。
特許文献5は、OH末端PCとエチレン−グリシジルメタクリレート(GMA)の共重合体を溶融混練することにより、低温衝撃性を改善することを提案したものだが、この方法では流動性の改善は殆んど期待できない。また、PPとの組み合わせに関しては、全く考慮されていない。
特許文献6は、酸無水物変性ポリオレフィン(PO)とOH末端PCを反応させた樹脂改質剤が開示されており、そして、本改質剤はPPとPCの相容化剤としても活用できることを提案している。しかし、実際PCとPPの改質剤としての効果は示されておらず、酸無水物変性POとOHの反応は十分ではなく、伸びの改良や層剥離防止効果は小さい。
【0004】
【特許文献1】特開平7−207078号公報
【特許文献2】特開昭63−215749号公報
【特許文献3】特公平8−19297号公報
【特許文献4】特開2000−17120号公報
【特許文献5】特開平3−7758号公報
【特許文献6】特開平3−294333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性や耐薬品性に劣る欠点を補い、耐衝撃性、曲げ強度、流動性及び耐薬品性などに優れ、成形後に層状剥離を呈することがなく、低グロス化が可能なポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、(A)所定の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)特定のポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、(C)スラリー重合法によるポリプロピレン系樹脂、及び(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種を特定の割合で配合し、溶融混練してなるポリカーボネート樹脂組成物により上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記のポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供するものである。
【0007】
1.(A)粘度平均分子量16000〜26000である芳香族ポリカーボネート樹脂50〜94質量%、(B)エポキシ基又はグリシジル基を3〜30質量%含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー1〜15質量%、及び(C)スラリー重合法により製造されたポリプロピレン系樹脂5〜40質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種0.001〜1質量部を含み、かつ溶融混練してなるポリカーボネート樹脂組成物。
2.(C)成分のメルトインデックスが2〜40g/10分である上記1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.上記1又は2記載のポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
4.自動車部品用である上記3記載の成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂を配合しても流動性及び耐薬品性に優れ、耐衝撃性及び曲げ強度にも優れるポリカーボネート樹脂組成物を提供することができ、これを用いることにより成形後に層状剥離を呈することがなく、低グロス化が可能な成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(A)所定の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)特定のポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー、(C)スラリー重合法によるポリプロピレン系樹脂、及び(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種を含むものである。
【0010】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明における(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量16000〜26000であれば特に制限はない。通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される種々の芳香族ポリカーボネートを用いることができる。
【0011】
2価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。これらの2価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
特に、好ましい2価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールA又はビスフェノールAを主原料としたものである。
【0012】
カーボネート前駆体としては、例えばカルボニルハライド、カルボニルエステル及びハロホルメートなど、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0013】
また、芳香族ポリカーボネートは、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)などが挙げられる。
【0014】
本発明における(A)成分は、粘度平均分子量が16000〜26000である。粘度平均分子量が16000未満であると引張伸び率や耐衝撃性が不十分となり、高速落錘試験などで脆性破壊となる。また、26000超であると成形体の層剥離が発生し、引張伸び率が低下する。粘度平均分子量は好ましくは17000〜25000であり、より好ましくは18000〜24000である。
【0015】
なお、本発明における(A)成分の粘度平均分子量は、塩化メチレン100cm3に芳香族ポリカーボネート樹脂約0.7gを20℃で溶解した溶液をウベローデ粘度計を用いて測定した比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
(ηsp)/C=[η]+0.45×[η]2
[η]=1.23×10-50.83
(但し、[η]は極限粘度、Cはポリマー濃度である。)
【0016】
本発明における(A)成分の配合量は、(A)〜(C)成分の合計量中、50〜94質量%である。50質量%未満では引張強度及び弾性率などが低下し、94質量%超では流動性及び耐薬品性などの改良効果が不十分となる。好ましくは55〜92質量%であり、より好ましくは60〜88質量%である。
【0017】
[(B)ポリオレフィン系樹脂又はポリオレフィン系エラストマー]
本発明における(B)ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマーは、エポキシ基又はグリシジル基を3〜30質量%含有するものである。
【0018】
(B)成分におけるポリオレフィン系樹脂は、例えばエポキシ基又はグリシジル基を有するオレフィンの単独重合体、あるいはオレフィンとエポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体との共重合体であっても、オレフィン重合体に対してエポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体を共重合したものであってもよく、共重合体はグラフト共重合体、ランダム共重合体、あるいはブロック共重合体であってもよい。
また、例えばオレフィン重合体の末端、あるいはオレフィンと他の不飽和単量体などとの共重合体及びこれらの複合物中に存在する不飽和結合を、過酸化水素あるいは有機過酸など、例えば過安息香酸、過ギ酸及び過酢酸などにより酸化することでエポキシ基を導入したものであってもよい。すなわち、オレフィン系重合体にエポキシ基又はグリシジル基を導入したものであればいずれを用いてもよい。
(B)成分におけるポリオレフィン系エラストマーとは、エポキシ基又はグリシジル基を含有し、X線回折法により測定される結晶化度が50%以下の低結晶性ないし非晶性のオレフィン系共重合体である。
【0019】
オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、2−ブテン、シクロブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1−デセン、及び1−ドデセンなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
エポキシ基又はグリシジル基を有する不飽和単量体としては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、グリシジルシンナメート、イタコン酸グリシジルエステル、及びN−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジルメタクリルアミドなどが挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(B)成分中におけるエポキシ基又はグリシジル基の含有量は3〜30質量%である。3質量%未満であると(A)成分と(C)成分との相溶性の改善効果が発揮されず、引張伸び率及び耐衝撃性が低下し、さらに成形体の層剥離が発生する。また、30質量%超であると自己架橋が起こるおそれがあり、引張伸び率及び耐衝撃性が低下し、さらに成形体の層剥離が発生する。好ましくは4〜25質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。
【0021】
(B)成分の重量平均分子量は、5万〜50万程度であることが好ましい。この範囲内であれば、層剥離を防止できると共に、良好な引張伸びや高い面衝撃性を得ることができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法を用いることにより求めることができる。
【0022】
本発明においては、(B)成分として、エポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系樹脂を1種以上用いてもよいし、エポキシ基又はグリシジル基を有するポリオレフィン系エラストマーを1種以上用いてもよく、また上記ポリオレフィン系樹脂1種以上とポリオレフィン系エラストマー1種以上とを併用してもよい。
本発明における(B)成分の配合量は、(A)〜(C)成分の合計量中、1〜15質量%である。1質量%未満では(A)成分と(C)成分との相溶性の改善が充分とはいえず、引張伸び率及び耐衝撃性が低下し、さらに成形体の層剥離が発生する。15質量%超では自己架橋が起こりやすく、引張強度及び弾性率が大幅に低下し、流動性が悪くなる。好ましくは2〜13質量%であり、より好ましくは3〜10質量%である。
【0023】
[(C)ポリプロピレン系樹脂]
本発明における(C)ポリプロピレン系樹脂は、スラリー重合法により製造されたものである。
(C)成分としては、プロピレンを単独で重合したものであってもよく、プロピレンを主体として共重合したものであってもよい。例えば、アイソタクチックプロピレン単独重合体、あるいはシンジオタクチックプロピレン単独重合体であってもよい。また、共重合体は、例えばプロピレンとエチレンの共重合体などが挙げられ、グラフト共重合体、ランダム共重合体あるいはブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0024】
本発明において(C)成分の重合法としてはスラリー重合法が採用される。スラリー重合法以外、例えば気相重合法により重合した(C)成分を用いた場合、PCの分子量が低下し、引張伸び率及び耐衝撃性が低くなる。
スラリー重合法の条件については、触媒として通常チーグラー触媒が用いられ、重合温度は30〜90℃程度であり、重合時間は30分〜10時間程度、反応圧力は常圧0.1〜1MPa程度である。
重合溶媒を用いる場合、例えば芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族炭化水素及びハロゲン化炭化水素などを用いることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上のものを組み合わせてもよい。
【0025】
本発明において(C)成分はメルトインデックス(MI)が、測定条件樹脂温230℃、荷重21.18Nにおいて、2〜40g/10分程度であることが好ましい。MIが2g/10分以上であれば流動性の改善効果を充分に発揮でき、40g/10分以下であれば成形体の層剥離が発生しにくくなる。より好ましくは3〜30g/10分である。なお、MIはASTM D 1238に準拠した測定法により求めたものである。
【0026】
本発明においては、(C)成分として、上記プロピレン系重合体を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における(C)成分の配合量は、(A)〜(C)成分の合計量中、5〜40質量%である。5質量%未満では流動性及び耐薬品性の改善効果が充分に発揮できず、40質量%超では引張伸び率及び耐衝撃性が低下し、さらに成形体の層剥離が発生し易くなる。好ましくは7〜35質量%であり、より好ましくは10〜30質量%である。
【0027】
[(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩]
本発明における(D)成分は、脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキシルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種である。
脂肪族アミン塩及び芳香族アミン塩は、例えば一般式 R123N・1/nA1 で表すことができ、脂肪族アミン塩のときR1〜R3は、独立して水素原子又は脂肪族基を示す(ただし、全てが同時に水素原子ではない。)。芳香族アミン塩のときR1〜R3は、独立して水素原子又は芳香族基を示す(ただし、全てが同時に水素原子ではない。)。A1は酸を表し、例えば塩酸、硫酸、硝酸、塩素酸、過塩素酸、酢酸、モノアルキル硫酸、スルホン酸化合物などである。nは、酸A1のアニオンの価数であり、例えば塩酸の場合はn=1、硫酸の場合はn=2である。
【0028】
アンモニウムヒドロキシドは、例えば一般式 R4567+OH- で表すことができる。R4〜R7は、例えば独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す(ただし、全てが同時に水素原子ではない。)。
このアンモニウムヒドロキシドの例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシドなどを挙げることができる。
一方、ヒドロキシルアンモニウム塩としては、例えば一般式 R89NOH・1/mA2 で表すことができ、R8及びR9は、例えば独立に水素原子又は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す(ただし、全てが同時に水素原子ではない。)。A2は酸を示し、mは酸A2のアニオンの価数である。
【0029】
このヒドロキシルアンモニウム塩の例としては、塩酸メチルヒドロキシルアミン、塩酸エチルヒドロキシルアミン、塩酸n−プロピルヒドロキシルアミン、塩酸イソプロピルヒドロキシルアミン、塩酸ジメチルヒドロキシルアミン、塩酸ジエチルアミン、及びこれらのヒドリキシルアミン類における塩酸を他の酸、例えば硫酸、硝酸、酢酸、モノアルキル硫酸、スルホン酸化合物などに置換したヒドロキシルアミン類などを挙げることができる。
本発明においては、(D)成分として、前述した窒素含有化合物を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における(D)成分の配合量は、(A)〜(C)成分の合計量100質量部に対して、0.001〜1質量部である。0.001質量部未満では成形体の層剥離が発生し易くなり、1質量部超では引張伸び率及び耐衝撃性が低下するおそれがある。好ましくは0.002〜0.8質量部であり、より好ましくは0.003〜0.5質量部である。
【0030】
[添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、上記(A)〜(D)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、無機添加剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃化剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、離型剤及び滑剤などが挙げられる。
【0031】
[ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分及び各種の添加剤を常法により配合し、溶融混練することにより得ることができる。溶融混練機としては、例えばバンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ及び多軸スクリュー押出機などが挙げられる。溶融混練における加熱温度は、通常220〜300℃が適当である。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、公知の成形方法、例えば中空成形、射出成形、押出成形、真空成形、圧空成形、熱曲げ成形、圧縮成形、カレンダー成形及び回転成形などを適用することにより、成形体とすることができ、特に射出成形による成形法が好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性、曲げ強度、流動性及び耐薬品性に優れるため、射出成形によりこれらの特性が要求される自動車部品、電子機器や情報機器のハウジングなどとして利用可能である。
すなわち、本発明は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いてなる成形体、とりわけ自動車部品用をも提供する。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下において、GMAはグリシジルメタクリレートを示し、MAHは無水マレイン酸を示す。また、MIはメルトインデックスを示す。
【0034】
実施例及び比較例において用いた(A)〜(D)成分を下記に示す。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
a−1:粘度平均分子量(Mv)22000
a−2(比較):粘度平均分子量(Mv)15000
(B)ポリオレフィン系樹脂又はポリオレフィン系エラストマー
b−1:ポリプロピレン−GMAグラフト共重合体[GMA含有量8.1質量%(グリシジル基として3.68質量%)]
b−2:エチレン−GMA共重合体[GMA含有量12質量%(グリシジル基として5.46質量%)]
b−3(比較):ポリエチレン−GMAグラフト共重合体(GMA含有量1.8質量%)
b−4(比較):ポリプロピレン−MAHグラフト共重合体(MAH含有量5.3質量%)
(C)ポリプロピレン系樹脂
c−1:ポリプロピレンブロック共重合体、MI:10g/10分、スラリー重合法
c−2:ポリプロピレン重合体、MI:4g/10分、スラリー重合法
c−3:ポリプロピレンブロック共重合体、MI:30g/10分、気相重合法
(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキルアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種
d−1:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
(和光純薬工業株式会社製、アンモニウムヒドロキシド系)
d−2:カチオンBB(商品名、日油株式会社製、脂肪族アミン塩系)
【0035】
〈実施例1〜5及び比較例1〜7〉
表1及び表2に示す配合割合により、各成分をドライブレンドした後、二軸混練機(TEX44、日本製鋼所製)を用い、設定温度250℃で、滞留時間を長くするためニーディングブロックを多く設定し、吐出量を抑制しながら溶融混練を行いペレットを得た。
得られたペレットを120℃で6時間以上乾燥した後、射出成形(射出成形温度270℃、金型温度80℃)により試験片を作製し、下記の方法により物性評価を行った。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0036】
〈物性評価〉
(1)引張強さ・引張弾性率・引張伸び率(試験片厚さ3.0mm)
JIS K 7162に準拠
(2)アイゾット衝撃強度(ノッチ付き)(試験片厚さ3.0mm)
JIS K 7110に準拠
(3)高速落錘衝撃試験(試験片70×70×3mmの平板)
1/2インチRの撃芯、7m/secの衝撃速度で測定した。
破壊面が延性の場合を○とし、破壊面が脆性の場合を×として評価した。
(4)表面剥離
試験片の180度折り曲げを5回実施し、試験片に剥離現象が生じているかどうかを、目視にて観察した(細かなシワも剥離とする)。
剥離が観察されない場合を○とし、少しでも剥離が観察されたものを×として評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
〈実施例6及び7〉
実施例1及び7の組成に、さらにカーボンブラック(三菱化学社製)を3000ppm添加することにより黒着色し、実施例1と同様にペレットを得た。このペレットを用い、射出成形により140×140×2mmのシボ付き平板を成形し試験片を作製した。
カトーテック製Scratch Testerを用い、試験片の表面を荷重30N、スクラッチ速度100mm/secで引っ掻き試験を行い、目視により傷付き白化性を評価した。また、目視により色相を評価した。評価結果を表3に示す。
【0040】
〈比較例8及び9〉
比較例2及び4の組成に、さらにカーボンブラック(三菱化学社製)をそれぞれ3000ppm添加し、実施例6と同様に試験片を作製して引っ掻き試験を行い、目視により傷付き白化性を評価した。また、目視により色相を評価した。評価結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、流動性及び耐薬品性に優れ、耐衝撃性及び曲げ強度にも優れるため、自動車部品、電子機器や情報機器のハウジングなどに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粘度平均分子量16000〜26000である芳香族ポリカーボネート樹脂50〜94質量%、(B)エポキシ基又はグリシジル基を3〜30質量%含有するポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系エラストマー1〜15質量%、及び(C)スラリー重合法により製造されたポリプロピレン系樹脂5〜40質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(D)脂肪族アミン塩、芳香族アミン塩、アンモニウムヒドロキシド、ヒドロキルシアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種0.001〜1質量部を含み、かつ溶融混練してなるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
(C)成分のメルトインデックスが2〜40g/10分である請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
【請求項4】
自動車部品用である請求項3記載の成形体。

【公開番号】特開2009−298993(P2009−298993A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158393(P2008−158393)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】