説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法

【課題】透明性が高く、剛性や耐傷つき性が向上したポリカーボネート(PC)樹脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子と(B)PC樹脂とが、(C)下記一般式(1)又は(2)で表されるカップリング剤を介して化学結合してなるPC樹脂組成物、及び末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液中に、上記(A)成分及び上記(C)成分を酸性条件下で添加して、混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させるPC樹脂組成物の製造方法である。一般式(1)において、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
また、一般式(2)において、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。
HS−(CH2n−M2(R1y(OR23-y (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、エクステリア、電気、電子分野などの分野において好適に使用できるポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(以下、PCと略記することがある。)樹脂等の透明性樹脂は、高い透明性、耐熱性を有し、耐衝撃性、軽量ゆえに無機硝子の代替として多くの分野で用いられている。一方で無機硝子との比較においては、耐傷つき性に劣る、線膨張係数が大きいなどの欠点があり、改良が求められている。
無機物の持つ特性を樹脂に持たせようとする試みは、多くなされている。しかし透明性を有する樹脂にナノレベルの無機物を混合し、透明性を維持することは困難である。その理由として、ナノ粒子の持つ高い表面エネルギーのためにナノ粒子が凝集し、光の波長を散乱させてしまうことが考えられる。そのため、屈折率がマトリックス樹脂とナノ粒子との間で近いポリメチルメタクリレート(PMMA)とシリカとの組み合わせや、シリカと、シリカの間に強い相互作用を持つ樹脂との組み合わせでは良好な透明性等が得られているものの、PC樹脂に無機酸化物ナノ粒子を配合した場合、透明性を有すると共に、熱可塑性を有する成形可能な実用的な樹脂組成物は得られていない。
【0003】
例えば、特許文献1には、PC樹脂の製造後に、表面処理した無機酸化物粒子を加え、溶媒中に分散させ、混合攪拌後、樹脂成分を取り出す方法が開示されている。この方法では取り出し時に無機物が凝集するため、透明性は充分ではない。樹脂と無機物との間に強い相互作用がないため、記載されているように溶剤中にも無機物が残る。
特許文献2には、PC樹脂の製造工程に無機酸化物微粒子を加える方法として、ビスフェノールAのアルカリ溶液に表面処理した無機酸化物微粒子の不活性溶媒分散混合液を加え、その後ホスゲンを吹き込んで重合を行い、メタノールにて沈殿し樹脂を取り出す方法が開示されている。この方法においても樹脂と無機酸化物との間に強い相互作用がないため、やはりポリマーの取り出し時に無機物の凝集が起こり、透明性の高いPC樹脂は得られない。
特許文献3には、疎水基と極性基を表面に有する酸化化合物を樹脂中に含む樹脂組成物として、コロイダルシリカ粉末の表面に疎水性基と極性基(OH基、アミノ基など)を含むPC樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物の製造方法によれば、溶媒中ではコロイダルシリカが分散していてもポリカーボネート樹脂の取り出し時にコロイダルシリカ粒子が凝集するため、透明なポリカーボネート成形体は得られない。また、実施例に記載のようなアミノ基で処理したシリカ微粒子をそのまま樹脂に混合すると、PC樹脂が分解劣化するため、実用に値する成形品は得られない。
【0004】
特許文献4及び5には、樹脂との界面強化のために化学結合を利用した方法として、ビスフェノールAに脂肪族エーテル型の連結基により酸化無機酸化物粒子を結合させる方法が開示されている。特許文献4や5に開示された方法では、表面処理条件、樹脂との反応条件下において粒子凝集や副反応を抑制することが極めて重要である。特許文献4に記載の方法では、ポリカーボネート末端の水酸基がエポキシ基を求核攻撃してエーテル結合を得る際に生じる脂肪族OHと、ポリカーボネートのカーボネートとの反応が起こる。このため、分解、架橋反応により得られるPC樹脂組成物は赤味を帯び、機械特性も著しく低い。
また、特許文献5に記載の組成物における結合は、一見理想的な結合のように見えるが、酸化化合物の表面に塩素化プロピル基を付加させる工程に続くビスフェノールAとの反応が殆ど起こらず、強塩基性化合物の存在下で反応を行うため、コロイダルシリカの加水分解、凝集が起きてしまう。また、ビスフェノールAは塩化メチレンに殆ど溶解しないため、この溶解工程に続くホスゲンの吹き込みによる重合工程で得られる重合体は極めて微量であり、工業的製造方法に適したものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−023226号公報
【特許文献2】特開2004−256693号公報
【特許文献3】特開2004−269773号公報
【特許文献4】特開2006−16538号公報
【特許文献5】特開2004−285192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、透明性が高く、剛性や耐傷つき性が向上したPC樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定のカップリング剤を介して無機酸化物ナノ粒子とPC樹脂とを化学結合させることにより、上記無機酸化物ナノ粒子がPC樹脂中に高分散化させることができ、このためPC樹脂組成物の透明性を維持させることができると共に、無機酸化物の持つ硬度や剛性を併せ持つPC樹脂組成物を得ることができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物、その製造方法及び成形体を提供するものである。
1.(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子と(B)ポリカーボネート樹脂とが、(C)下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されるカップリング剤を介して化学結合してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
(式中、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。)
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
2.4価の金属元素M1又はM2が、珪素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム及びすずから選ばれる一種である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
3.4価の金属元素M1又はM2が珪素である上記2に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
4.(A)成分の無機酸化物粒子の含有量が、ポリカーボネート樹脂組成物基準で0.5〜50質量%である上記1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
5.(A)成分の無機酸化物粒子がシリカ粒子である上記1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
6.(C)成分が上記一般式(1)で表されるカップリング剤であり、(B)成分のポリカーボネート樹脂と(C)成分のカップリング剤との化学結合がウレタン結合である上記1〜5記載のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
7.(C)成分のカップリング剤が、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン又は3−アミノプロピルトリメトキシシランである上記1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
8.(C)成分が上記一般式(2)で表されるカップリング剤であり、(B)成分のポリカーボネート樹脂と(C)成分のカップリング剤との結合がチオ炭酸エステルである上記1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
9.(C)成分のカップリング剤が、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン又は3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである上記1〜5及び8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
10.末端クロロホーメート基含有ポリカーボネートオリゴマーの有機溶媒溶液中に、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−1)下記一般式(1)で表されるカップリング剤を酸性条件下で添加して、混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法、
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
(式中、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。)
11.末端クロロホーメート基含有ポリカーボネートオリゴマーの有機溶媒溶液、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−2)下記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法、
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
12.二価フェノールを加える前に、更にアルキルクロロシランを添加する上記11に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法、
13.(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子を有機溶媒中に分散させてなる有機溶媒分散無機酸化物ゾルに、下記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、ジアリールカーボネート、二価フェノールを加え、エステル交換反応を行うことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法、及び
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
14.上記10〜13のいずれかに記載の製造方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物、
【発明の効果】
【0008】
本発明のPC樹脂組成物は、透明性に優れると共に、硬度、剛性及び熱安定性にも優れるものであり、射出成形が可能である。また、本発明のPC樹脂組成物の製造方法によれば、特殊な無機酸化物を使用したり複雑な工程を経ることなく、一段階の反応で無機酸化物をPC樹脂に結合させることができ、界面重縮合反応後の分離、精製も容易に行うことができる。また、エステル交換反応を用いることにより、容易に本発明のPC樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のPC樹脂組成物において、(A)成分の無機酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化亜鉛及びジルコニアなどが挙げられ、本発明においては、シリカ粒子が好ましい。シリカ粒子としては、カップリング剤との結合性の観点から、その表面にシラノール基を有するものが好ましい。無機酸化物粒子は、粉末状であっても水や有機溶剤に分散したコロイド状のものでもよいが、PC樹脂中での無機酸化物粒子の凝集を防止する観点からは有機溶媒分散ゾルが望ましい。
シリカ粒子の分散ゾルとしては、分散媒中にシリカナノ粒子が10〜50質量%程度分散したものが挙げられる。分散媒としては、水や有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、IPA(イソプロパノール)、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)などのケトン系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)などが挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0010】
(A)成分の無機酸化物粒子は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を混合して用いてもよい。また、無機酸化物粒子の表面を他の無機酸化物で処理したものも用いることができる。(A)成分の無機酸化物粒子は、平均一次粒子径が100nm以下であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。この平均一次粒子径が100nm以下であると、PC樹脂組成物の透明性が維持される。
本発明における当該無機酸化物粒子の平均一次粒子径は、BET法により表面積を測定し、真密度 2.2g/cm3の球状とみなして粒子径を求めた。
【0011】
シリカ粒子の市販品としては、コロイダルシリカMEK分散ゾル(日産化学社製、MEK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)、コロイダルシリカMIBK分散ゾル(日産化学社製、MIBK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)、コロイダルシリカIPA分散ゾル(日産化学社製、IPA−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)、コロイダルシリカトルエン分散ゾル(扶桑化学社製、PL−2L−TOL、平均一次粒子径15−20nm、シリカ含有量40質量%)、同じく扶桑化学製のコロイダルシリカMEK分散ゾルなどのシリカ分散ゾルが挙げられ、又、粉末状のものとしては、シリカ粉体(日本アエロジル社製、AEROSIL R976、RX300、R812、RY300=平均一次粒子径7nm、AEROSIL R972=平均一次粒子径16nm、AEROSIL NAX50=平均一次粒子径30nm、AEROSIL RX50=平均一次粒子径40nm)などが挙げられる。
本発明のPC樹脂組成物において、(A)成分の無機酸化物粒子の含有量は、PC樹脂組成物基準で0.5〜50質量%であることが好ましい。無機酸化物粒子の含有量が0.5質量%以上であると、適度の硬度や剛性、良好な熱安定性が得られる。また、50質量%以下であると、射出成形がし易いという利点がある。
【0012】
本発明のPC樹脂組成物において、(A)成分の無機酸化物粒子は、後述する(C)成分のカップリング剤を介して(B)成分のPC樹脂と化学結合している。化学結合の種類に特に制限はなく、共有結合、配位結合、イオン結合などいずれであってもよい。(B)成分のPC樹脂は、PC前駆体である末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーと、二価フェノールとの縮合反応により得られる。
上記PCオリゴマーは、塩化メチレンなどの溶媒中で公知の酸受容体、分子量調節剤の存在下、一般式(3)で表される二価フェノールとホスゲン等のカーボネート前駆体との反応、あるいは一般式(3)で表される二価フェノールとジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。
【0013】
【化1】

【0014】
上記一般式(3)において、R6及びR7は、それぞれ独立にハロゲン原子及び炭素数1〜8のアルキル基から選ばれる基である。p及びqは、それぞれ0〜4の整数であって、pが2〜4の場合、複数のR6は互いに同一であっても異なるものであってもよいし、qが2〜4の場合、複数のR7は互いに同一であっても異なるものであってもよい。Zは、単結合,炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−SO2−,−SO−,−S−,−O−,−CO−結合又は一般式(4)で表される結合を示す。
【0015】
【化2】

【0016】
上記一般式(3)において、R6及びR7で示されるハロゲン原子としては、塩素、臭素、フッ素及び沃素が挙げられる。炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びオクチル基などが挙げられる。
Zで示される炭素数1〜8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基及びイソペンチレン基などが挙げられる。炭素数2〜8のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基及びイソペンチリデン基などが挙げられる。炭素数5〜15のシクロアルキレン基としては、シクロペンチレン基及びシクロヘキシレン基などが挙げられ、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基としては、シクロペンチリデン基及びシクロヘキシリデン基などが挙げられる。
【0017】
上記一般式(3)で表わされる二価フェノールとしては、様々なものがあるが、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕が好ましい。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の二価フェノールで置換したものであってもよい。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、ビスフェノールA以外のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン,ハイドロキノン;4,4’−ジヒドロキシジフェニル;ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンのような化合物又はビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブロパン;ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブロパン等のハロゲン化ビスフェノール類などが挙げられる。これらの二価フェノールは、一種を単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
このようにして得られたPC前駆体である末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーと、二価フェノールとを反応させることにより、PC樹脂を得ることができる。また、PC前駆体として、末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの替わりに、ビスフェノールAとホスゲンの混合液を用いてもよい。
【0018】
本発明のPC樹脂組成物において、(C)成分のカップリング剤は、一般式(1)又は一般式(2)で表されるものである。
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
上記一般式(1)において、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
上記一般式(1)及び(2)において、M1又はM2で示される4価の金属元素としては、珪素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム及びすずなどが挙げられ、本発明においては珪素が好ましい。また、R1〜R5で示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びt−ブチル基が挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)又は一般式(2)で表されるカップリング剤は、(A)成分の無機酸化物表面上のOH基との反応が可能な基(アルコキシ基など)と、上述したポリカーボネート前駆体と反応可能な基(一級又は二級のアミノ基、もしくはメルカプト基)を有するものであり、シランカップリング剤として知られているものが安価に入手でき、好適である。
上記一般式(1)で表されるカップリング剤としては3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。本発明においては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルメチルジエトキシシランが好ましい。
上記一般式(2)で表されるカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシランなどが挙げられ、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン又は3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0020】
本発明においては、上記一般式(1)又は(2)で表されるカップリング剤に他のカップリング剤を併用することができる。他のカップリング剤としては、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシシラン及び3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシシランなどが挙げられる。
【0021】
本発明のPC樹脂組成物を製造する方法としては、上記性状を有するPC樹脂組成物が得られる方法であればよく、特に制限はないが、以下に示す本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法によれば、効率良く所望のPC樹脂組成物を製造することができる。
本発明の第一のPC樹脂組成物の製造方法は、末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液中に、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−1)下記一般式(1)で表されるカップリング剤を酸性条件下で添加して、混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とする。
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
(式中、M1、R1、R2、R3、m及びxは上記と同じである。)
本発明の第一のPC樹脂組成物の製造方法においては、末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液に、(A)成分の無機酸化物粒子を添加した後、(C−1)成分のカップリング剤を添加して混合し、次いで二価フェノールを加えて縮合反応させることが好ましい。
【0022】
以下に、本発明の第一のPC樹脂組成物の製造方法の一態様を示す。まず、上記のようにして得られた末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液に、(A)成分の無機酸化物粒子と、(C−1)成分のカップリング剤とを加え、反応させる。無機酸化物粒子はゾル状の分散液の状態でカップリング剤と反応させることが好ましい。その際、無機酸化物粒子のOHとカップリング剤中の反応基(上記一般式(1)におけるOR2、下記一般式(2)におけるOR5)とのモル比は、通常0.1〜3程度、好ましくは0.2〜2、より好ましくは0.3〜1である。このモル比が0.1以上であると、充分に反応し得る量の反応性基を無機酸化物粒子の表面に導入することができる。また、このモル比が3以下であると、分散ゾルの凝集やゲル化が抑制されるため、PC前駆体との反応が容易に進行する。
【0023】
本発明の第一のPC樹脂組成物の製造方法における無機酸化物粒子とカップリング剤との反応は、最初は酸性下で行う。カップリング剤が分散ゾルである場合、酸性下でない場合にはカップリング剤同士の凝集やゲル化が発生し、また、引き続き行われるPC前駆体との反応も容易に進行しない。このような無機酸化物粒子とカップリング剤との反応により、無機酸化物粒子に官能基が導入される。
次いで、二価フェノールを溶解したアルカリ溶液を添加して重合反応を行う。この反応は、溶液重合、界面重縮合などの方法により行うことができ、このうち界面重縮合が好ましい。
この反応により、有機層中に無機成分が効果的に移行し、縮合液の水層と有機層の分離も容易となる。この重合反応により、(A)成分の無機酸化物粒子と(B)成分のPC樹脂とが、(C−1)成分のカップリング剤を介して化学結合してなるPC樹脂組成物を得ることができる。
【0024】
本発明の第二のPC樹脂組成物の製造方法は、末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−2)下記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とする。
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2、R4、R5、n及びyは上記と同じである。)
本発明の第二のPC樹脂組成物の製造方法は、まず、カップリング剤として上記一般式(2)で表されるものを用い、末端クロロホーメート基含有PCオリゴマーの有機溶媒溶液と上述の無機酸化物粒子との三つを混合させ、混合物を製造する。この混合物を製造するに当たって、三つを混合する順序に制限はなく、また、酸性条件下又は中性条件下で行うことができる。この混合を行うことによって、PCオリゴマーと無機酸化物粒子をカップリング剤を介して結合させることができる。次いで、その混合物に、二価フェノールを加えて縮合反応させることにより、一般式(2)で表されるカップリング剤を用いた本発明のPC樹脂組成物を得ることができる。
【0025】
また、本発明の第二のPC樹脂組成物の製造方法においては、二価フェノールを添加する前に更にトリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、ジメチル・エチルクロロシラン等のアルキルクロロシランを添加して反応させると、無機酸化物表面をより疎水化でき、続いての重合反応でアルカリ溶液との接触が抑えられ、無機酸化物の加水分解を抑制できるという理由から好ましい。
【0026】
本発明の第三のPC樹脂組成物の製造方法は、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子を有機溶媒中に分散させてなる有機溶媒分散無機酸化物ゾルに、上記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、ジアリールカーボネート、二価フェノールを加え、エステル交換反応を行うことを特徴とする。
(A)成分の無機酸化物粒子を分散させる有機溶媒としては、上述のシリカ粒子の分散ゾルに用いられる有機溶媒と同様のものが用いられる。
また、ジアリールカーボネートとしては、ジフェニルカーボネートが好適に用いられる。
本発明の第三のPC樹脂組成物の製造方法は、有機溶媒分散無機酸化物ゾルと上記一般式(2)で表されるカップリング剤を加熱混合後、ジアリールカーボネート、続いて二価フェノールを加え、公知のエステル交換触媒の存在下、減圧下で混合加熱し溶剤さらにはエステル交換反応により副生する一価フェノールを留去して行うことができる。温度、真空度を段階的に上げ、250℃〜350℃、圧力を数Pa〜数10Paにすることで、(A)成分の無機酸化物粒子と(B)成分のPC樹脂とが、(C)成分のカップリング剤を介して化学結合してなるPC樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
本発明のPC樹脂組成物において、(B)成分のPC樹脂と(C)成分の前記一般式(1)で表されるカップリング剤との化学結合は、ウレタン結合である。(B)成分と(C)成分とが化学結合していることは、IRスペクトルにおける1710cm-1付近の吸収により確認することができる。
また、本発明のPC樹脂組成物において、(B)成分のPC樹脂と前記一般式(2)で表される(C)成分のカップリング剤との化学結合は、チオ炭酸エステル構造(−SCO−O−)である。(B)成分と(C)成分とが化学結合していることは、IRスペクトルにおける1726cm-1付近の吸収により確認することができる。またSH基の反応は、1HNMRにおけるSが結合した炭素上のHのピーク2.48ppmの減少と、新たに2.96ppmにピークがあらわれることからも認められる。
また、(A)成分の無機酸化物粒子と(C)成分のカップリング剤との化学結合の存在は、無機酸化物粒子とカップリング剤を混合した反応液よりカップリング剤が消失すること、重合後シリカが有機層に移行すること、Si MAS NMRにより観察されるSiの結合状態と併せて確認することができる。
【0028】
また、本発明は、上記PC樹脂組成物を成形してなる成形体であって、厚み2mmの成形片で測定した際の可視光線透過率が85%以上であり、かつヘーズ値が10%以下であることを特徴とする成形体をも提供する。上記PC樹脂組成物の成形は、射出成形、押し出し成形、プレス成形などの方法により行うことができる。射出成形の条件として、バレル温度250−350℃、金型温度40−140℃の範囲で行うことができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1(PCオリゴマーの製造)
5質量%水酸化ナトリウム水溶液400Lに、60kgのビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。次いで、室温に保持したビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を138L/時間の流量で、また塩化メチレンを69L/時間の流量で、内径10mm,管長10mの管型反応器にオリフィス板を通して導入し、これにホスゲンを並流して10.7kg/時間の流量で吹き込み、3時間連続的に反応させた。ここで用いた管型反応器は二重管となっており、ジャケット部分には冷却水を通して反応液の排出温度を25℃に保った。また、排出液のpHは10〜11となるように調整した。このようにして得られた反応液を静置することにより、水相を分離除去し、塩化メチレン相220Lを採取し、これにさらに塩化メチレン170Lを加え、十分に攪拌したものをPCオリゴマー(濃度317g/L)とした。ここで得られたPCオリゴマーの重合度は3〜4であり、クロロホーメート基(COCl)の濃度は0.736mol/Lであった。
【0030】
実施例1
コロイダルシリカMIBK分散ゾル(日産化学社製、MIBK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)33.2g(SiOH量:15mmol)にテトラヒドロフラン(THF)30gを加え、これを製造例1で得られたPCオリゴマーの塩化メチレン溶液250mlに添加し、次に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0g(OMe:16.7mmol)を加え、20分間攪拌した。続いて、トリエチルアミン0.037gを加え、6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解したビスフェノールA 18g及び塩化メチレン100mlを加え、邪魔板付きのフラスコにて混合攪拌を開始した。
1時間後、攪拌を停止し、塩化メチレン200mlを加え、静置した。水層を取り除いた後、0.03mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液500mlを加えて30分間攪拌混合し、静置分離して水層を除いた。続いて0.1mol/Lの塩酸を加え、同様の混合、分離操作を行った。次に水を用いて、同様の混合、分離操作を行い、水層の電気伝導度が5μS/cmになるまで洗浄を繰り返した。
塩化メチレン層を濃縮し、アセトンを加えてフレークとした後、120℃で24時間真空乾燥を行い、PC樹脂組成物を得た。下記の方法により、PC樹脂組成物中の無機成分の含有割合を求めたところ、9.8質量%であった。
また、PC樹脂組成物において、PC樹脂と3−アミノプロピルトリメトキシシランとがウレタン結合していること、シリカと3−アミノプロピルトリメトキシシランとが結合していることを、上述した方法により確認した。
【0031】
乾燥したPCフレークに酸化防止材を混合し、マイクロコンパウンダー(DSM社製)を用い、窒素ガスの存在下、樹脂温300℃で上記ポリカーボネート樹脂組成物を3分間溶融混合した。その後、マイクロインジェクションモルダー(DSM社製)を用いて引張りダンベル(ISO527−2−1B、厚み4mm)及び平板(厚み2mm)を成形した。成形条件は、シリンダー温度280℃、型温度80℃であった。
作製した平板及び引張りダンベルを用い、可視光線透過率、ヘーズ値、鉛筆硬度及び引張り弾性率を測定した。これらの測定方法は下記のとおりである。また、下記の方法によりPC樹脂組成物について測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(1)メルトフローレイト(MFR)
マイクロコンパウンダーから抜き出したストランドをペレット状にカットし、MFRをISO1133に準拠し、280℃,2.18kg荷重にて測定した。
(2)重合液の分離性
目視にて確認した。
(3)燃焼後の無機成分の割合
TGA(マクロ熱重量測定装置)にて、空気中、800℃で1時間PC樹脂組成物を加熱して燃焼残渣を得、PC樹脂組成物に対する燃焼残渣の割合を求めた。
(4)5%重量減少温度
示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA 6300、セイコーインスツルメント株式会社製)を用いて、空気下、昇温速度10℃/min、測定範囲25〜700℃で測定した。
(5)可視光線透過率
平板(厚み2mm)を用い、スガ試験機製DIGITAL HAZE COMPUTER(HGM−2DP)を用い、測定した。
(6)鉛筆硬度
JISK5600−5−4に準拠し、平板(厚み2mm)に傷をつけることができた鉛筆のうちの最低硬度を鉛筆硬度とした。
(7)引張り弾性率
引張りダンベル(ISO527−2−1B、厚み4mm)を用い、ISO−527−1、2に準拠して測定した
(8)色調
PC樹脂組成物を目視にて観察した。
(9)無機粒子とカップリング剤の反応の確認
日本電子(株)製 JNM−CMXP302NMR装置を用い、CP/MASプローブをとりつけ測定
して得られるD1、及びD2ピークの存在、又はT1、T2、T3ピークの存在、及びQ4ピーク強度のQ2、Q3ピークに対する強度比の増大から推測した。
【0033】
実施例2
実施例1において、MIBK−ST 33.2gの替わりにコロイダルシリカMEK分散ゾル(日産化学社製、MEK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)66.6g(SiOH量:30mmol)を用い、3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0gの替わりに3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン2.9g(OEt:30.3mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にしてPC樹脂組成物及び成形体を得、同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
また、PC樹脂組成物において、PC樹脂と3−アミノプロピルメチルジエトキシシランとがウレタン結合していること、シリカと3−アミノプロピルメチルジエトキシシランとがシロキサン結合していることを、上述した方法により確認した。
【0034】
実施例3
実施例1において、MIBK−STの使用量を100g(SiOH量:45mmol)とし、3−アミノプロピルトリメトキシシランの替わりに3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.3g(OEt:45mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にしてPC樹脂組成物及び成形体を得、同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
また、PC樹脂組成物において、PC樹脂と3−アミノプロピルメチルジエトキシシランとがウレタン結合していること、シリカと3−アミノプロピルメチルジエトキシシランとがシロキサン結合していることを、上述した方法により確認した。
【0035】
実施例4
実施例1においてMIBK−STに替え、コロイダルシリカトルエン分散ゾル(PL−2L−TOL、シリカ含有量40質量%)25gにMIBK42gを加えたものをPCオリゴマーの塩化メチレン溶液に添加する他は同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
MIBK−ST 33.2g(SiOH量:15mmol)にTHF 30gを加えた後、3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0g(OMe:16.7mmol)を加えて攪拌した。徐々に粘調となり、固化したため重合に供せなかった。
本比較例は、無機酸化物粒子のコロイダルシリカに実施例1で使用したアミノプロピルトリメトキシシランをそのまま添加すると固化してしまい、反応が進行しないことを示すものである。
【0037】
比較例2
MEK−ST 33.2g(SiOH量:15mmol)にTHF 30gを加えた後、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン0.72g(OEt:7.5mmol)を加えて攪拌した。ガスクロマトグラフにて3−アミノプロピルメチルジエトキシシランのピークが消失したことを確認した後、これをPCオリゴマーの塩化メチレン溶液250mlに添加し、混合しながらトリエチルアミン0.037gを加えた。続いて6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解したビスフェノールA 18g、塩化メチレン100mlを加え邪魔板付きのフラスコにて混合攪拌を開始した。
1時間後、攪拌を停止し、白濁した液を取り出し、塩化メチレン200mlを加えたが二層に完全には分離しなかった。塩化メチレン層を取り出し、実施例1と同様の洗浄操作、遠心分離を行い、濃縮して、フレークを得、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
本比較例は、コロイダルシリカとカップリング剤(3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン)とを混合した後に、この混合物とPCオリゴマーとの反応を進めたものである。この場合、PC樹脂組成物を製造することはできるが、PCオリゴマー中にコロイダルシリカが取り込まれない。そのため、得られたポリカーボネート樹脂は硬度の低いものとなる。
【0038】
比較例3
MIBK−ST 33.2g(SiOH量:15mmol)に、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン0.72g(OEt:7.5mmol)を加えて攪拌した。ガスクロマトグラフィにて3−アミノプロピルメチルジエトキシシランのピークが消失したことを確認した後、PC樹脂(出光興産社製、タフロンFN1900)90gを溶解した塩化メチレン(1,000ml)溶液に溶解混合し、この塩化メチレン溶液を濃縮してフレークを得た。
本比較例のように、コロイダルシリカとカップリング剤(3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン)との反応物をPC樹脂の塩化メチレン溶液に添加して溶解混合させた場合、アミノ基がPC樹脂を分解劣化させ、黄色の分子量の低いPC樹脂組成物しか得られないため、平板等に成形することはできなかった。
上記フレークについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
比較例4
PC樹脂(出光興産社製、タフロンFN1900)90gを塩化メチレン1000mlに溶解した後、ジメチルシリル化シリカ(日本アエロジル社製、AEROSIL R976(平均一次粒子径7nm))10gを加えて分散させた。この塩化メチレン溶液を濃縮してフレークを得、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
本比較例は、PC樹脂の塩化メチレン溶液に粉末状シリカを添加して均一に分散させてPC樹脂組成物を得たものであるが、濃縮時に凝集が起こり、得られた試験片は白色、不透明となる。また、結合を持たないため、ポリカーボネートの剛性(弾性率)も低いものであることがわかる。
【0040】
比較例5
MIBK−ST 33.2g(SiOH量:15mmol)に、3−グリシドキシプロピルジメチルジエトキシシラン0.98g(3.75mmol)を加え、エタノールを留去しながら80℃で3時間混合加熱して混合物を得た。次にビスフェノールA 71.7g(0.31mol)を攪拌翼付きのニッケル鋼製のオートクレーブにてアルゴン雰囲気下に溶融した溶融液に上記混合物を滴下し、1時間混合して混合物を得た。
この混合物にジフェニルカーボネート73g(0.34mol)を加え、180℃に温度を調整し、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートそれぞれを、ビスフェノールA 1モルあたり2.5×10-4モル及び1×10-5モル加え、180℃で30分間、210℃、13kPaで30分間、240℃で徐々に真空度を1.3kPaまで上げて30分間、270℃、0.3kPaで30分間反応させた後、40Paで30分間混合攪拌し、溶融物を得た。
溶融物は赤味を帯びていた。これを取り出し、実施例1と同様にして成形したが、非常に脆く、割れを生じたため試験片は得られなかった。得られた溶融物について、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
比較例6
PC樹脂(出光興産社製、タフロンFN1900)90gを塩化メチレン1000mlに溶解した後、MIBK分散ゾル(日産化学社製、MIBK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)を加え、混合した。この塩化メチレン溶液を濃縮してフレークを得、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。本比較例は、PC樹脂の塩化メチレン溶液にコロイダルシリカを添加して均一に分散させてPC樹脂組成物を得たものであるが、濃縮時に凝集が起こり、得られた試験片は白色、不透明となる。また、結合を持たないため、ポリカーボネートの剛性(弾性率)も低いものであった。
【0042】
実施例5
製造例1のPCオリゴマー溶液250mlに3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン1.36g(OMe:15mmol)、トリエチルアミン0.56mlを加え、30分間攪拌後、コロイダルシリカのMEK分散ゾル(日産化学社製、MEK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)66.6g(SiOH量:30mmol)、MEK50ml、塩化メチレン100mを加え超音波を照射しながら60分間攪拌した。さらにトリエチルクロロシラン2ml、トリエチルアミン1mlを添加し4hr攪拌した。続いて、6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解したビスフェノールA 18g及び塩化メチレン100mlを加え、邪魔板付きのフラスコにて混合攪拌を開始した。
1時間後、攪拌を停止し、塩化メチレン200mlを加え、静置した。水層を取り除いた後、0.03mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液500mlを加えて30分間攪拌混合し、静置分離して水層を除いた。続いて0.1mol/Lの塩酸を加え、同様の混合、分離操作を行った。次に水を用いて、同様の混合、分離操作を行い、水層の電気伝導度が5μS/cmになるまで洗浄を繰り返した。
塩化メチレン層を濃縮し、アセトンを加えてフレークとした後、120℃で24時間真空乾燥を行い、PC樹脂組成物を得た。下記の方法により、PC樹脂組成物中の無機成分の含有割合を求めたところ、18質量%であった。
また、PC樹脂組成物において、PC樹脂と3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランとがチオ炭酸エステルを介して結合していること、シリカと3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランとがシロキサン結合していることを、上述した方法により確認した。上記フレークについて、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
実施例6
実施例5において、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランに替え、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを0.98g(OMe:15mmol)用いたほかは同様にして実施した。
【0044】
実施例7
MIBK−ST33.3g(SiOH量:15mmol)に3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン0.68g(OMe 7.5mmol)をMIBKに希釈して添加後、90℃で2時間混合したのち冷却し、PCオリゴマー溶液250ml、トリエチルアミン0.56mlを加え、30分間攪拌後、トリエチルクロロシラン1ml、トリエチルアミン0.5mlを添加し4hr攪拌した。以降、6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液に溶解したビスフェノールA 18g及び塩化メチレン100mlを加え、実施例5と同様に実施した。
【0045】
実施例8
実施例5においてMEK−STに替え、コロイダルシリカトルエン分散ゾル(PL−2L−TOL、シリカ含有量40質量%)25gにMIBK42gを加えたものをPCオリゴマーの塩化メチレン溶液に添加する他は同様にして実施した。結果を表2に示す。
【0046】
実施例9
攪拌翼付きのニッケル鋼製のオートクレーブを用い、コロイダルシリカのMEK分散ゾル(日産化学社製、MEK−ST、平均一次粒子径10−15nm、シリカ含有量30質量%)66.6g(SiOH量:30mmol)にMEKで希釈した3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン1.36g(OMe:15mmol)を加え、メタノールを留去しながら80℃で3時間攪拌した。続いてジフェニルカーボネート73g(0.34mol)のMEK溶液を、次にビスフェノールA 71.7g(0.31mol)を加え、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートそれぞれを、ビスフェノールA 1モルあたり2.5×10-4モル及び1×10-5モルの存在下で、180℃まで昇温し、30分間、210℃、13kPaで30分間、240℃で徐々に真空度を1.3kPaまで上げて30分間、270℃、0.3kPaで30分間反応させた。さらに、40Paで30分間混合攪拌し、溶融物を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のPC樹脂組成物の製造方法によれば、特殊な無機酸化物を使用したり複雑な工程を経ることなく、一段階の反応で無機酸化物をPC樹脂に結合させることにより、透明性に優れると共に、硬度、剛性及び熱安定性にも優れるPC樹脂組成物を得ることができる。また、界面重縮合反応後の分離、精製も容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子と(B)ポリカーボネート樹脂とが、(C)下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されるカップリング剤を介して化学結合してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
(式中、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。)
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
【請求項2】
4価の金属元素M1又はM2が、珪素、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム及びすずから選ばれる一種である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
4価の金属元素M1又はM2が珪素である請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分の無機酸化物粒子の含有量が、ポリカーボネート樹脂組成物基準で0.5〜50質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分の無機酸化物粒子がシリカ粒子である請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分が上記一般式(1)で表されるカップリング剤であり、(B)成分のポリカーボネート樹脂と(C)成分のカップリング剤との化学結合がウレタン結合である請求項1〜5記載のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(C)成分のカップリング剤が、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン又は3−アミノプロピルトリメトキシシランである請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
(C)成分が上記一般式(2)で表されるカップリング剤であり、(B)成分のポリカーボネート樹脂と(C)成分のカップリング剤との結合がチオ炭酸エステルである請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
(C)成分のカップリング剤が、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン又は3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである請求項1〜5及び8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
末端クロロホーメート基含有ポリカーボネートオリゴマーの有機溶媒溶液中に、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−1)下記一般式(1)で表されるカップリング剤を酸性条件下で添加して、混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
HN(R3)−(CH2m−M1(R1x(OR23-x (1)
(式中、M1は4価の金属元素を示し、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。mは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、xは、0、1又は2である。)
【請求項11】
末端クロロホーメート基含有ポリカーボネートオリゴマーの有機溶媒溶液、(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子及び(C−2)下記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、次いで、二価フェノールを加えて縮合反応させることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
【請求項12】
二価フェノールを加える前に、更にアルキルクロロシランを添加する請求項11に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
(A)平均一次粒子径が100nm以下である無機酸化物粒子を有機溶媒中に分散させてなる有機溶媒分散無機酸化物ゾルに、下記一般式(2)で表されるカップリング剤を混合し、ジアリールカーボネート、二価フェノールを加え、エステル交換反応を行うことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
HS−(CH2n−M2(R4y(OR53-y (2)
(式中、M2は4価の金属元素を示し、R4及びR5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す2〜8の整数であり、yは、0、1又は2である。)
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−84550(P2009−84550A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121488(P2008−121488)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】