説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法

【課題】高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有するポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し且つ末端がヒドロキシル基であるポリカーボネート樹脂を含み、かつ末端ヒドロキシル基の濃度が1000ppm以上であるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂を含み、高透明性、高耐熱性、高屈折率、低複屈折を有する光学材料に好適なポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)をホスゲンあるいは炭酸ジエステルと反応させて得られるポリカーボネート樹脂は、耐熱性・透明性に優れ、しかも耐衝撃性等の機械的特性に優れていることから、構造材料はもとより光学材料として各種レンズ、プリズム、光ディスク基板、光ファイバーなどのプラスチック光学製品および光学フィルムに幅広く利用されている。
【0003】
しかし、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高光弾性率及び低流動性の材料であるために成形時の分子配向や残留応力に伴う複屈折が大きいという問題点を有している。そのため、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる光学材料を成形する場合には、流動性を向上させるために分子量の比較的低い樹脂を用い、かつ高温で成形することにより製品の複屈折を低減する方法が行われている。しかし、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂では、上記のような方法を用いても複屈折の低減に限界があるため、近年の光学材料用途の広がりに伴い、一部光学材料分野ではさらに低い光弾性係数および高い流動性を有する材料の開発が強く求められている。こうして複屈折のさらに小さい樹脂の開発が行われてきた。
【0004】
一方、光学材料の屈折率が高いとレンズエレメントの面についてより小さい曲率を実現できるため、この面に発生する収差量を小さくでき、レンズの枚数の低減、レンズの偏心感度の低減、レンズ厚の低減によるレンズ系の小型軽量化ができる。まためがねレンズでは同じ度数のレンズの薄肉化ができるため外観が非常に良くなる利点がある。
【0005】
従って、高屈折率且つ低複屈折の光学樹脂の開発が進められており、このような高屈折率且つ低複屈折の光学樹脂として、フルオレン構造を有するビスフェノール類を用いた全芳香族ポリカーボネート樹脂共重合体が検討されている(特許文献1,2)。
【0006】
また、フルオレン構造と、フェノール骨格とを有するエーテルジオール類のホモポリカーボネート樹脂、あるいはそれらとビスフェノール類との共重合体が示されている(特許文献3,4)。
【0007】
更に、フルオレン構造を有するビスフェノール類とトリシクロデカン[5.2.1.02,6]ジメタノールとの共重合体も提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−25398号公報
【特許文献2】特開平7−109342号公報
【特許文献3】特開平10−101787号公報
【特許文献4】特開平10−101786号公報
【特許文献5】特開2000−169573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1〜5に記載のポリカーボネート樹脂は、未だ透明性、耐熱性、屈折率および複屈折の全ての点で満足のいくものとは言えず、改善の余地を有していた。
【0010】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有するポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、まず末端にヒドロキシル基を有するポリカーボネート樹脂に着目した。このポリカーボネート樹脂は、加水分解安定性が低いという欠点を有するため、例えば特許文献3,4に示されるように、一般には末端封止剤を用いて濃度をゼロにすることが求められるものである。しかし、本発明者らは、この末端ヒドロキシル基が、水素結合を形成し高Tg化に寄与し、その他物性にも良い影響を与えるものという考えのもとに鋭意研究を重ねた。その結果、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し且つ末端がヒドロキシル基であるポリカーボネート樹脂を含み、かつ、末端ヒドロキシル基の濃度が所定範囲にあるポリカーボネート樹脂組成物により高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【化1】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【0012】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂を含み、かつ、末端ヒドロキシル基の濃度が1000ppm以上であるポリカーボネート樹脂組成物である。
【化2】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【0013】
上記ポリカーボネート樹脂組成物においては、上記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量が6000〜100,000であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、塩基性化合物触媒及びエステル交換触媒またはこれらのいずれか一方の存在下、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物と炭酸エステル化合物とを溶融縮重合する際、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸エステル化合物の仕込みモル比が1.02未満であるポリカーボネート樹脂組成物の製造方法である。
【化3】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有するポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し且つ末端がヒドロキシル基であるポリカーボネート樹脂を含み、かつ、全部または大部分のポリカーボネート樹脂の末端にヒドロキシル基を有することを特徴とするものである。即ち、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、末端ヒドロキシル基の濃度が1000ppm以上である。
【化4】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【0017】
このようなポリカーボネート樹脂の製造方法では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とを塩基性化合物触媒もしくはエステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下に反応させる公知の溶融重縮合法が好適に用いられる。
【0018】
具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、炭酸ジエステル化合物と下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物とを溶融重合させる際に、炭酸エステル化合物の反応モル比を上記のジヒドロキシ化合物よりも小さくすることにより得ることが出来る。
【化5】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【0019】
上記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンが例示される。その中で特に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好適に使用される。
【0020】
ここで、上記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物を二種類以上使用してもよい。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、式(1)を主たる繰り返し単位として有するポリカーボネート樹脂を含むことを特徴としているが、ポリカーボネート樹脂は、20モル%以下、好ましくは15モル%以下の割合で他の繰り返し単位を1種類以上含有してもよい。このような繰り返し単位をポリカーボネート樹脂に導入するためには、例えばトリシクロ(5.2.1.02,6)デカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、イソソルビドのような脂肪族ジオール類あるいは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのような芳香族ジオール類やテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステル類を、上記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物と共重合させればよい。
【0021】
炭酸ジエステル化合物としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも特にジフェニルカーボネートが好ましい。ジフェニルカーボネートは、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して0.9999〜0.9000モルの比率で用いられることが好ましい。より好ましくは0.9990〜0.9200、さらにより好ましくは0.9900〜0.9400の比率で用いられることが好ましい。
【0022】
塩基性化合物触媒としては、特にアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等が挙げられ、これらの化合物は単独でもしくは組み合わせて用いることができる。
【0023】
アルカリ金属化合物としては、例えばアルカリ金属の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシドが用いられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0024】
アルカリ土類金属化合物としては、例えばアルカリ土類金属化合物の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシドが用いられる。具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0025】
含窒素化合物としては、4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられる。具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0026】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0027】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0028】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10−9〜10−3モルの比率で、好ましくは10−7〜10−4モルの比率で用いられる。
【0029】
炭酸ジエステル化合物と上記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物とを溶融重合させる際には、上述したように、炭酸エステル化合物の反応モル比は、上記のジヒドロキシ化合物よりも小さければよい。そのためには、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸エステル化合物の仕込みモル比は、反応の際、系外にモノオール(例えばフェノール)とともに留出する量を考慮して1.02未満であればよい。炭酸エステル化合物の仕込みモル比は、好ましくは0.90〜1.01であり、より好ましくは0.94〜1.00である。炭酸エステル化合物の仕込みモル比が0.90未満では、反応速度が低下し所望の分子量が得られない傾向があり、1.00を超えると、OH末端が減少すると同時に反応モル比が1.0に近づくと溶融粘度が高くなりすぎ成形が困難になる。
【0030】
本発明にかかわる溶融重縮合法は、前記の原料、および触媒を用いて、加熱下で且つ常圧または減圧下にエステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行うものである。反応は、一般には二段以上の多段工程で実施される。
【0031】
具体的には、第一段目の反応を120〜220℃、好ましくは160〜200℃の温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間、常圧〜26664.5Paの圧力で反応させる。次いで、1〜3時間かけて温度を最終温度である230〜260℃まで徐々に上昇させると共に圧力を徐々に最終圧力である133.3Pa以下まで減圧し、反応を継続する。最後に133.3Pa以下の減圧下、230〜260℃の温度で重縮合反応を進め、所定の粘度に達したところで窒素で復圧し、反応を終了する。133.3Pa以下の反応時間は0.1〜2時間であり、全体の反応時間は1〜6時間、通常2〜5時間である。
【0032】
このような反応は、連続式で行っても良く、またバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0033】
重合反応終了後、熱安定性および加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、公知の熱安定化剤及び加水分解安定剤の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、一般には酸性物質が用いられ、具体的には、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類、ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。
【0034】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を13.3〜133.3Paの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を行っても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0035】
さらに、得られるポリカーボネート樹脂に対しては、上記熱安定化剤、加水分解安定剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、抗菌剤等が添加されてもよい。
【0036】
以上のようにして得られるポリカーボネート樹脂組成物においては、末端ヒドロキシル基の濃度が1000ppm以上であるが、末端ヒドロキシル基の濃度は5000ppm以下であることが好ましい。末端ヒドロキシル基の濃度は5000ppmを超えても、透明性、耐熱性、屈折率、複屈折の点では優れているが、分子量が低くなりその結果強度が低下する傾向がある。また末端ヒドロキシル基の濃度は1000〜4000ppmであることがより好ましい。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の好ましいポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は6,000〜100,000であり、より好ましくは8,000〜80,000である。さらにより好ましくは10,000〜40,000である。Mwが6,000より小さいと脆くなるため好ましくない。Mwが100,000より大きいと、溶融粘度が高くなり樹脂組成物の射出成形条件が厳しくなり成形体にシルバーが生じるため好ましくない。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン21.15kg(48.23モル)、ジフェニルカーボネート9.763kg(45.58モル)、および炭酸水素ナトリウム0.0475g(5.65×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気で101325Paの条件下、1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。その後、15分かけて減圧度を19998.3Paに調整し、215℃、19998.3Paの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、19998.3Paで10分間保持した。その後、10分かけて15998.7Paに調整し、240℃、15998.7Paで70分間保持した。その後、10分かけて13332.2Paに調整し、240℃、13332.2Paで10分間保持した。更に40分かけて133.3Pa以下とし、240℃、133.3Pa以下の条件下で10分間撹拌しながら重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込んで反応器内の空間を加圧し、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。
【0040】
このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥した。その後、ポリカーボネート樹脂に対してチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010を500ppm、理研ビタミン社製ポエムM300を500ppm添加し、押出し機により260℃で混練してペレタイズし、ポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットを得た。
【0041】
(実施例2)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン21.48kg(49.04モル)、ジフェニルカーボネート11.76kg(54.9モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン1.976kg(8.66モル)および炭酸水素ナトリウム0.0538g(6.40×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れたこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットを得た。
【0042】
(実施例3)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン21.23kg(48.41モル)、ジフェニルカーボネート10.20kg(47.60モル)、および炭酸水素ナトリウム0.0484g(5.761×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れたこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットを得た。
【0043】
(比較例1)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン21.49kg(49.06モル)、ジフェニルカーボネート12.96kg(60.50モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン1.977kg(8.66モル)および炭酸水素ナトリウム0.0567g(6.75×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れたこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットを得た。
【0044】
(比較例2)
ビスフェノールA 17.221kg(79.5モル)、ジフェニルカーボネート17.031kg(75.4モル)、および炭酸水素ナトリウム0.0538g(6.40×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れたこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物からなるペレットを得た。
【0045】
[ポリカーボネート樹脂組成物の物性評価]
上記のようにして得られた実施例1〜3及び比較例1,2のペレットについて、末端OH基濃度、分子量Mw、屈折率、ガラス転移温度(Tg)、複屈折率、全光線透過率、MFR(Melt Flow Rate)を測定した。結果を表1に示す。なお、測定は、以下のようにして行った。
【0046】
1)末端OH基濃度:
まずペレット0.25gを乾燥させ、塩化メチレン10mLに溶解した後、トリエチルアミン40μLを加え、アントラキノンカルボン酸無水物0.04gと室温で浸透し反応させた。その後、反応物を水洗し、過剰なアントラキノンカルボン酸無水物を除去した。次いで、有機層から塩化メチレンを除去し、得られた固体について、UV検出器(UV波長:325nm)を備えたGPCシステム(昭和電工(株)製Shodex GPC system−11)を用いてGPC分析を行った。OH末端濃度が既知のサンプルによる一点検量線法によりピーク面積を求め、そのピーク面積からOH濃度を算出した。
【0047】
2)分子量Mw:
ペレットをTHFに溶解し、GPCシステム(昭和電工(株)製Shodex GPC system−11)によりポリスチレン換算相対分子量を測定した。
【0048】
3)屈折率:
ペレットを3mm厚×8mm×8mmの直方体にプレス成形し、ATAGO(株)製屈折率計により測定した。
【0049】
4)ガラス転移温度(Tg):
示差熱走査熱量分析計(セイコー電子工業(株)製のSSC−5200)により、得られたペレットについて10℃/minでDSC測定を行うことにより算出した。
【0050】
5)複屈折:
ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃、金型温度120℃で射出成形して得られる直径7.9mmの両凸レンズについて、日本分光(株)製エリプソメーターにより測定した。
【0051】
6)全光線透過率:
ペレットを3mm厚×8mm×8mmの直方体にプレス成形し、その成形体について全光線透過率計(日本電色工業(株)製MODEL1001DP)により測定した。
【0052】
7)MFR:
ペレットについてJISK7210に準拠してオリフィス2mm、温度260℃、荷重2160gの条件下で、東洋精機(株)製メルトインデクサーT−111により測定した。
【表1】

【0053】
表1に示す結果より、実施例1〜3のポリカーボネート樹脂組成物は、比較例1,2のポリカーボネート樹脂に比べて、高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有することがわかった。特に、実施例1及び実施例3のポリカーボネート樹脂組成物は、既存の市販小型レンズ樹脂材料では達成しえなかった1.64を超える屈折率を有しており、光学材料、中でも光学レンズの用途に極めて有用であることが分かった。
【0054】
以上より、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高屈折率、高耐熱性、低複屈折および高透明性を有するため、レンズやフィルムなどの光学材料に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し且つ末端がヒドロキシル基であるポリカーボネート樹脂を含み、かつ末端ヒドロキシル基の濃度が1000ppm以上であるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【請求項2】
重量平均分子量が6000〜100,000であることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
塩基性化合物触媒及びエステル交換触媒またはそのいずれか一方の存在下、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とを溶融縮重合する際、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸エステル化合物の仕込みモル比が1.02未満である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【化2】

(上記式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子あるいはメチル基を表す)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリカ−ボネート樹脂組成物からなる光学材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリカ−ボネート樹脂組成物からなるレンズ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリカ−ボネート樹脂組成物からなるフィルムまたはシート。

【公開番号】特開2010−189508(P2010−189508A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33852(P2009−33852)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】