説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具

【課題】 滅菌のために電離放射線を照射しても、成形片の黄色味が目立たず、医療用部品内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易で、かつ機械的強度の低下の小さいポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる医療用部品を提供する。
【解決手段】 芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部とアリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部および着色剤を配合し、電離放射線照射後7日目の3mm厚成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であるポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具に関する。更に詳しくは、電離放射線の照射処理を行っても色調の変化や衝撃強度等の機械的強度の低下が小さく、かつ医療用器具内部の薬液や血液等の内容物の液面及び色の識別が容易な樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、透明性、衛生性、機械的強度等に優れているため注射器、外科用具、手術用器具やこれらを収容、包装する容器状包装具や、人工肺、人工腎臓、麻酔吸収装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離装置等各種の医療用器具に使用されている。これらの医療用器具は、通常、完全滅菌が必要とされる。具体的な滅菌法としては、エチレンオキサイドによる接触処理、オートクレーブ中での加熱処理、γ線や電子線等の電離放射線による処理等がある。このうち、エチレンオキサイドを使用することは、エチレンオキサイド自体の毒性、不安定性、廃棄処理に関する環境問題等があり、好ましくない。また、オートクレーブを使用する場合には、高温処理の際に樹脂の劣化を招くこと、エネルギーコストが高いこと、及び処理後の部品に湿気が残るために使用前に乾燥する必要があること等の欠点を有する。従って、低温で処理でき、しかも比較的安価である電離放射線による滅菌処理がこれらの方法に代わって使用されている。
しかしながら、本来、無色透明で機械的強度に優れた芳香族ポリカーボネートは、電離放射線を照射されると黄変して外観が悪化するばかりではなく、医療用器具内部の薬液や血液等の内容物の液面や色の識別が困難になるという欠点がある。さらに、電離放射線の照射された医療用器具は機械的強度が低下し、医療用器具を落とした時やネジで締め付けた時に破壊するといった問題がある。
【0003】
放射線照射によるポリカーボネートの黄変防止に関しては従来より種々の検討がなされており、主として、ポリカーボネートに添加物(「黄変防止剤」と称す)を配合したり、ポリカーボネートに特定の基を導入して変性する方法等が多数提案されている。例えば、黄変防止剤としては、ポリエーテルポリオール又はそのアルキルエーテル(特許文献1)、ベンジルオキシ又はベンジルチオ骨格を有する化合物(特許文献2)、特定のトリアジン系化合物(特許文献3)、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂とアリールオキキシ基、アリールカルボニル基などを有する化合物の組み合わせ(特許文献4)等、変性ポリカーボネートに関するものとしては、ハロゲン原子を含有しない構造単位からなる主鎖に、末端基としてハロゲン原子を含有しないヒドロキシベンゾフェノンを導入した特定のポリカーボネート樹脂(特許文献5)、ポリカーボネート樹脂に末端にγ線照射により開裂し得る炭素−炭素不飽和結合を実質的に持たないポリカーボネート及びジベンジルエーテルまたはp−(α、α’−ジベンジロキシ)キシリレンとからなるポリカーボネート樹脂組成物(特許文献6)等が提案されている。
しかしながら、従来から提案されているこれらの黄変防止剤或いはポリカーボネートの変性物を配合したポリカーボネート組成物は、黄変防止効果が不充分であるか、または効果を発現するに充分な量の黄変防止剤を配合すると、機械的強度等の他の性能が著しく損なわれるという欠点があり、実用性の低いものであった。また、上述の公知文献には、放射線照射により黄変が低減したことを示すデータは記載されているものの、機械的強度についての具体的な記載はなかった。さらに、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別に重要な影響を及ぼす透明性の具体的な記載がなく、その重要性に関しては全く認識されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−135556号公報
【特許文献2】特開平08−225732号公報
【特許文献3】特開2001−72851号公報
【特許文献4】特開平09−25404号公報
【特許文献5】特開平08−238309号公報
【特許文献6】特開2002−60616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、滅菌のために電離放射線を照射しても、成形片の黄色味が目立たず、透明性に優れ、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易な透明性を有し、かつ、機械的強度の低下の小さいポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる医療用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、放射線照射後の試験片の色調がハンターのLab法のb値で2以下であれば黄色味が目立たず、黄変による問題がないこと、そして適量の着色剤を併用することにより、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂及びアリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物からなる黄変防止剤の量を低減しても電離放射線照射後のb値が2以下の組成物を得ることが出来、その結果、黄変防止剤の配合による機械的強度の低下を抑制した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が得られること、更にポリアルキレングリコール類を配合すると効果を向上させ得ること、また、L値が80以上の樹脂組成物から成形された医療用器具は、透明性に優れ、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部、および着色剤(D)を配合した組成物であって、該組成物から形成された厚さ3mmの成形片に、電離放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下となる量の着色剤(D)を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物、及び、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部、ポリアルキレングリコール類(E)5重量部以下、および着色剤(D)を配合した組成物であって、該組成物から形成された厚さ3mmの成形片に、電離放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下となる量の着色剤(D)を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物、並びにかかる樹脂組成物から形成された医療用器具に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明組成物は着色剤を併用することにより、所謂黄変防止剤のみを用いる場合に比し、少量の黄変防止剤を用い、しかも黄変防止効果を向上させることが出来るので、黄変防止剤による機械的物性低下を防止することが出来る。従って、本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、電離放射線を照射しても、b値が2以下と黄色味が目立たず、かつ機械的強度の低下が小さい。更にL値を制御することにより、透明性に優れ、医療用器具として用いた場合、内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易で有る。それ故、本発明組成物は、電離放射線で滅菌処理される各種の医療用器具の材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき詳細に説明する。本発明における芳香族ポリカーボネート(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物、またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物とを、ホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネートの製造方法は、ホスゲン法(界面重合法)または溶融法(エステル交換法)などの従来法の何れであっても良い。溶融法で製造され、かつ末端OH基含有率が50〜1000ppmに調整された芳香族ポリカーボネートは、薬液や血液との濡れ性に優れているので、該芳香族ポリカーボネート製医療器具も薬液や血液との濡れ性が良く、薬液や血液との界面に気泡が発生せず、医療用器具 中の薬液や血液の流動がスムーズになるという利点がある。
【0009】
本発明における芳香族ポリカーボネート(A)の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」とも言う。)が好ましい。
分岐を有する芳香族ポリカーボネートを製造する場合はフロログルシン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物(分岐化剤)を、芳香族ジヒドロキシ化合物の1部として使用すればよい。
【0010】
芳香族ポリカーボネートを溶融法で製造する場合の原料の一つである炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0011】
上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0012】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対してモル比で1.001〜1.3倍、好ましくは1.01〜1.2倍の範囲内で用いられる。モル比が1.001倍より小さくなると、溶融法芳香族ポリカーボネートの末端OH基が増加して、特に1000ppmを越えると熱安定性、耐加水分解性が悪化し、また、モル比が1.3倍より大きくなると、溶融法芳香族ポリカーボネートの末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネートの製造が困難となる傾向があり、さらに末端OH基含有率が50ppm未満では薬液や血液との濡れ性が劣り好ましくない。従って、本発明においては、末端OH基含有率が50〜1000ppmの範囲内に調整した溶融法芳香族ポリカーボネートの使用が好ましい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート(A)を溶融法により製造する際には、通常、触媒が使用される。本発明で使用される芳香族ポリカーボネート(A)の製造方法においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。 触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.05〜5μモル、好ましくは0.08〜4μモル、さらに好ましくは0.1〜2μモルの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量の芳香族ポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0014】
芳香族ポリカーボネート(A)を溶融法で製造する方法は、特に限定されるものではなく、公知の種々の方法が採用できるが、例えば、以下のような方法で製造できる。すなわち、通常、原料混合槽等で芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを均一に攪拌混合した後、触媒を添加して溶融状態で重合(エステル交換反応)を行い、ポリマーが生産される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの何れの形式でも良いが、一般的には2以上の重合槽での反応、すなわち2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。
芳香族ポリカーボネートの溶融法による重合反応の具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られる芳香族ポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、できるだけ短い滞留時間の設定が好ましい。
【0015】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、15,000〜40,000であルことが好ましく、より好ましくは20,000〜30,000である。粘度平均分子量が15,000未満では機械的強度に劣り、40,000を越えると成形性が悪くなる。
【0016】
本発明に使用される芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)は、芳香族炭化水素と、アルデヒドとを酸触媒の存在下に反応させて得られる樹脂である。芳香族炭化水素の具体例としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メチルエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、クメン等の単環芳香族炭化水素化合物、ナフタレン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン、アセナフテン、アントラセン等の多環芳香族炭化水素化合物が挙げられる。該芳香族炭化水素化合物は単独で或いは二種以上混合して使用しても良い。これらの中で、特にトルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン、ナフタレン等が好んで用いられる。
【0017】
芳香族炭化水素と反応させるアルデヒドの具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ラウリンアルデヒド、ステアリンアルデヒド等で例示される飽和脂肪族アルデヒド類;グリオキサール、スクシンジアルデヒド等で例示される脂肪族多価アルデヒド類;アクロレイン、クロトンアルデヒド、プロピオールアルデヒド等で例示される不飽和脂肪族アルデヒド類;ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、ナフトアルデヒド等で例示される芳香族アルデヒド類;フルフラール等で例示される複素環式アルデヒド類;メチラール、ジオキソラン、トリオキサン、テトラオキサン、パラホルムアルデヒド、パラアルデヒド、メタアルデヒド等で例示されるアルデヒド誘導体等が挙げられる。該アルデヒドは単独で或いは二種以上混合して使用しても良い。これらの中で、特にホルムアルデヒド、トリオキサン、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒドが好んで用いられる。
【0018】
本発明で使用される芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)としては、実質的にアセタール基を含有せず、主として芳香環がアルキレン基、アルキレンエーテル基で結合された芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂が好ましい。ここで、アセタール基を含有しないとは、一分子中の平均アセタール基数が0.1モル以下であることを意味する。
【0019】
このようなアセタール基を含有しない芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)は、市販品として容易に入手することが可能である。具体的には、三菱ガス化学株式会社からニカノ−ルDS、ニカノールS、ニカノールKなどの商品名で市販されるものが挙げられる。また、例えば、特開昭60−51133号、特開昭61−223016号、特開昭61−213216号、特開昭63−196616号、特開平4−224825号、特開平4−335014号、特開平5−186544号、特開平6−136081号等の各公報に記載された方法によって製造することもできる。
さらに、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)としては、酸素含有量が少なくとも8重量%のものが好ましい。このような芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)は、市販品として容易に入手することが可能である。具体的には、三菱ガス化学株式会社からニカノールH、ニカノールL、ニカノールG、ニカノールYの商品名で市販されるもの、ゼネラル石油化学株式会社からゼネライト6010、ゼネライト5100の商品名で市販されるものが挙げられる。
【0020】
本発明においては、これらの芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)は、一種類で、または二種類以上を混合して使用しても良い。本発明組成物中の芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂0.01〜5重量部、好ましくは、0.1〜2重量部である。配合量が0.01重量部未満では、目的とする電離放射線照射による黄変度の改良効果が不十分であり、5重量部を超えると、機械物性、耐熱性等が低下するので好ましくない。
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)と共に、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)を含有する。このようなアリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)としては、下記一般式(1)または(2)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
式(1)及び式(2)中、R1、R6及びR7は、それぞれ、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子である。R2、R3、R4、R5、R8及びR9は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基またはアリールアルキルアルコキシ基であり、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基及びアリールアルキルアルコキシ基の核には置換基として、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子を有することができる。h、i及びmは、それぞれ、0〜5の整数であり、j、k及びnは、それぞれ、1〜5の整数である。X1は、−O−、−O−(R10−O)−、又は−CO−である。Xは、−O−(R11−O)q−R12、−CO−R13、−CO−O−R14又は−O−CO−R15である。R10及びR11は、それぞれ、炭素数1〜15のアルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基であり、アリーレン基の核には置換基として、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子を有することができる。R12は、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。R13は、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。R14及びR15は、それぞれ、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアリールアルキル基である。p及びqは、それぞれ、1以上の整数であり、好ましくは1〜100の整数である。該アリールアルキルオキシ基あるいはアリールアルキルカルボニル基を有する化合物は、1種類で、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
【0024】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、ジベンジルエーテル、ジフェネチルエーテル、ジ(1−フェニルエチル)エーテル、ジベンジルケトン、ジフェネチルケトン、ベンジル(1−フェニルエチル)ケトン、1、2−ジベンジロキシエタン、ジベンジロキシポリエチレングリコール、ジベンジロキシポリテトラメチレングリコール、ジベンジロキシポリプロピレングリコール等が挙げられる。一般式(2)で示される化合物の具体例としては、ベンジルメチルケトン、ベンジルフェニルケトン、ベンジロキシポリエチレングリコール、ベンジロキシポリテトラメチレングリコール、ベンジロキシポリプロピレングリコール、安息香酸ベンジル、フェニル酢酸ベンジル等が挙げられる。
【0025】
本発明組成物中のアリールアルキルオキシ基あるいはアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部である。配合量が0.01重量部未満では、目的とする電離放射線照射による黄変度の改良効果が不十分であり、5重量部を超えると、機械物性が低下するので好ましくない。黄変度の改良及び機械物性の低下防止の点から、好ましい配合量は、3重量部以下である。
なお、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)及び一般式(1)又は(2)で示される化合物の一部を併用すると、放射線照射に対してポリカーボネートの黄変防止効果が有ることは特許文献4等に報告されているが、これらのみを用いた場合は、必ずしも黄変防止効果が充分ではなかったり、黄変防止効果を上げるため多量に用いると樹脂組成物の機械的物性が大幅に低下したりする場合があった。
【0026】
本発明に使用される着色剤(D)としては、アゾ系着色剤、アントラキノン系着色剤、インジゴ系着色剤、トリフェニルメタン系着色剤、キサンテン系着色剤が挙げられ、具体的には、例えば三菱化学社製のD−BLUE−G、バイエル社製M−BLUE−2R、M−Violet−3Rなどが挙げられる。本発明組成物中の着色剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基或いはアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)及び着色剤を配合した組成物から形成される厚さ3mmの成形片に電離製放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調がハンターのLab法におけるb値で2以下となる量であり、照射される放射線の線種や線量、化合物(B)及び(C)の種類や配合量、着色剤の種類によっても異なるが、予め実験により最適な使用量を定めることが出来る。例えば、コバルト60のγ線を25kGy照射する場合の着色剤の使用量の目安としては、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対し0.0001〜0.005重量部が好ましく、青色の着色剤を用いる場合であれば、樹脂組成物が青色を呈する量である。着色剤の配合量が0.0001重量部未満ではb値が2より大きくなり、黄色味が目立ち、或いは、b値を2以下にするため、(B)及び(C)を多量に使用する必要があり、機械的物性が低下する惧れがある。
【0027】
逆に、着色剤(D)の量が多すぎると青味が強すぎてL値が80未満となり透明性が低下する可能性が有る。本発明の樹脂組成物から形成された厚さ3mmの成形片の電離放射線照射後7日目に測定された色調はハンターのLab法におけるL値が80以上であることが好ましい。L値が80以上の透明性を有することにより、医療器具として用いた場合、内部の薬液や血液等の液面及び色の識別が容易となる。
なお、上記に例示した着色剤は、所謂、ブルーイング剤として、黄変防止を目的に樹脂に添加されることが知られているものもある。しかして、ブルーイング剤として添加される着色剤の量は0.数ppm〜1ppm程度で、添加された樹脂がアイス色を呈する量であるが、この程度の着色剤の使用では、電離放射線照射に夜芳香族ポリカーボネートの黄変防止には不十分である。
【0028】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部、着色剤(D)に、さらにポリアルキレングリコール類(E)を5重量部以下配合することにより、電離放射線照射後の黄変防止効果を一段と向上させ、透明性と機械的強度の低下を抑制することができる
【0029】
本発明に使用されるポリアルキレングリコール類(E)としては、下記一般式(3)で示されるポリアルキレングリコール(E−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(E−2)及び下記一般式(4)で示されるポリアルキレングリコールのエステル(E−3)から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
式(3)、(4)中、R16、R18、R19及びR21は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基又はアリールアルケニル基であり、これらの基の芳香環には更に、炭素数1〜10のアルキル基又はハロゲン原子が置換されていても良い。R17及びR20は、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。uは1以上の整数、wは2以上の整数であり、t及びvは、それぞれ、1〜10の整数である。
【0033】
一般式(3)又は(4)において、好ましくはR16、R18は水素原子、アルキル基、アリールアルキル基であり、R19、R21はアルキル基、アリール基であり、R17、R20は水素原子又はメチル基である。uは好ましくは1〜3000、より好ましくは1〜500の整数であり、wは2〜3000、より好ましくは2〜500の整数である。t、vは1〜7の整数であり、より好ましくは1〜5の整数である。ポリアルキレングリコール(E−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(E−2)又はポリアルキレングリコールのエステル(E−3)は、1種類又は2種類以上を混合して使用しても良い。
【0034】
一般式(3)で示される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテル、ポリエチレングリコール−4−ノニルフェニルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールドデシルエーテル、ポリプロピレングリコールベンジルエーテル、ポリプロピレングリコールジベンジルエーテル、ポリプロピレングリコール−4−ノニルフェニルエーテル、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0035】
一般式(4)で示される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール酢酸エステル、ポリエチレングリコール酢酸プロピオン酸エステル、ポリエチレングリコールジ酪酸エステル、ポリエチレングリコールジステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ−2,6−ジメチル安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ−p−tert−ブチル安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジカプリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酢酸エステル、ポリプロピレングリコール酢酸プロピオン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酪酸エステル、ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、ポリプロピレングリコール−ジ−2,6−ジメチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ−p−tert−ブチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジカプリン酸エステル等が挙げられる。
【0036】
本発明組成物中のポリアルキレングリコール類(E)の量は、芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対し、0.05〜5重量部、好ましくは3重量部以下である。なお、ポリアルキレングリコール類(E)の量が5重量部を越えると機械物性が低下するので好ましくない。
また、ポリアルキレングリコール類(E)を配合する場合、着色剤(D)の量は、(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)を配合した組成物から形成された厚さ3mmの成形片に放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下となる量であり、照射される放射線の線種、照射量、(B)(C)(E)の成分の種類や量、着色剤(D)の種類により異なるが、予め実験により最適な使用量を定めることが出来る。また、かかる組成物から成形された厚さ3mmの成形片の放射線照射後7日目に測定されたL値は80以上であることが好ましい。
【0037】
上記(A)、(B)、(C)、(D)、更に要すれば(E)成分を配合した本発明組成物は、滅菌のために放射線照射される医療器具の材料として好適である.本発明組成物から医療用器具を製造する場合は、更に、離型剤(F)を配合することが好ましい。離型剤の配合により、成形時の離型抵抗を低減することが出来、特に、薄肉の成形物を良好に製造することができる。
【0038】
本発明組成物に使用できる離型剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂用として用いられる公知の離型剤で、オレフィン性炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に実質的に含有しないものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸などの飽和高級脂肪酸とブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ヘベニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、エリトリット、ペンタエリトリットなどの飽和アルコールとのエステル又は部分エステル;パラフィン、低分子量ポリオレフィン、その他のワックス類などが例示される。
【0039】
本発明組成物中の離型剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、3重量部以下であり、好ましくは1重量部以下である。3重量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
更に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、リン系熱安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤等の添加剤を添加しても良い。
【0040】
本発明組成物の製造法は特に限定されるものではなく、芳香族ポリカーボネート(A)に、前記(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び必要に応じて(E)成分、さらに必要に応じて離型剤(F)その他の添加剤を配合すればよく、配合方法も、当業者に周知の種々の方法によって行うことができる。例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合する方法や、フィーダーにより定量的に押出機ホッパーに供給して混合する方法等がある。
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、回転成形等、公知の成形方法に従って所望の成形品とすることができ、電離放射線の照射処理を行っても色調の変化や衝撃強度等の機械的強度の低下が小さく、かつ医療用器具内部の薬液や血液等の内容物の液面及び色の識別が容易である。また、離型剤が配合されたポリカーボネート樹脂組成物は、成形時の離型性に優れるので、生産性が向上し、また割れ等の破損が起こりにくい。さらに、芳香族ポリカーボネート(A)として、溶融法で製造され、かつ末端OH基含有量が50〜1000ppmである芳香族ポリカーボネートを用いた本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、薬液や血液との濡れ性に優れているので、薬液や血液との界面に気泡が発生せず、医療用器具中の薬液や血液の流動がスムーズになるという利点がある。
【0042】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から成形できる医療用器具としては、具体的には、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離器ボウル、外科用具、手術室用具やこれらを包装する容器状包装具、酸素を血液に供給するチューブ、チューブの接続具、心臓プローブ並びに注射器、静脈注射液等を入れる容器等が挙げられる。本発明の医療用器具は、γ線、電子線その他の医療用器具の滅菌のために用いられる放射線の線種及び照射量による黄変防止に有効であり、また放射線滅菌が、実質的に酸素を含有しない雰囲気下である場合にも、また、放射線滅菌が、酸素雰囲気下である場合にも有効である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において使用した原材料は下記の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂:「ユーピロンS−3000」、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、粘度平均分子量22、000。
(2)アリールアルキルオキシ基有する化合物:ジベンジルエーテル。
(3)アリールアルキルカルボニル基を有する化合物:ジベンジルケトン。
(4)芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂:「ニカノールY−50」、三菱ガス化学株式会社製、酸素含有量18重量%。
(5)芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂:「ニカノールL」、三菱ガス化学株式会社製、酸素含有量10重量%。
【0044】
(6)着色剤:M−BLUE−2R、バイエル社製。
(7)着色剤:M−Violet−3R、バイエル社製。
(8)ポリアルキレングリコール類化合物:ポリプロピレングリコール、分子量2000、「PPG2000」と記す。
(9)ポリアルキレングリコール類化合物:ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、分子量3000、「PPGST30」と記す。
(10)離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート、「PTS」と記す。
【0045】
各実施例及び比較例にで得られた樹脂組成物の評価方法は以下の通りである。
(11)色調:実施例又は比較例の樹脂組成物から成形された厚さ3mmの成形片を、空気中に保持したもの及び成形片を脱酸素剤(商品名;エージレス、三菱瓦斯化学(株)製)と共に密封したもの(脱酸素)とを用い、それぞれコバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射し、照射前後のハンターLab法におけるL値及びb値を、JIS K7103に従って、スガ試験機(株)製の色差計SM−3−CHにて測定し、ハンターLab法におけるL値及びb値を求めた。
(12)アイゾット衝撃強度:実施例又は比較例の樹脂組成物から成形された厚さ3.2mm、0.25Rノッチ付きの成形片を用い、コバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射し、照射前及び照射後、ASTM D256に準じて測定した。
【0046】
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕
ポリカーボネート樹脂及び各成分を、表−1に記載の比率で秤量し、タンブラーにて混合し、各々φ40mm一軸ベント式押出機を用いて、バレル温度270℃で押出してペレットを得た。このペレットを熱風乾燥器中で、120℃にて5時間以上乾燥した後、射出成形機を用い、樹脂温度270℃、金型温度80℃にて色調試験用の50mmφ×3mm厚みの成形片及びアイゾット衝撃強度試験用の厚さ3.2mm、0.25Rノッチ付き成形片を射出成形し、上記試験方により評価した。結果を表−1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1、2を比較例2と対比すると明らかな様に、所謂黄変防止剤のみを用いた比較例2の組成物は、γ線照射後のb値が8〜11と黄変しているが、同量の黄変防止剤に着色剤を配合した実施例1,2の組成物は、γ線照射後のb値が2以下と黄色味の目立たない色調であり、放射線照射による黄変が充分防止されている。着色剤を併用しても、(B),(C)成分を配合していない比較例1の組成物は、γ線照射前のb値は実施例1より小さいにも係わらず、γ線照射後のb値は3〜12と黄変している。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、放射線照射による滅菌が必要な、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離器ボウル、外科用具、手術室用具やこれらを包装する容器状包装具、酸素を血液に供給するチューブ、チューブの接続具、心臓プローブ並びに注射器、静脈注射液等を入れる容器等の医療部品用の材料として利用し得る

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部、および着色剤(D)を配合した組成物であって、該組成物から形成された厚さ3mmの成形片に、電離放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に、芳香族炭化水素−アルデヒド樹脂(B)0.01〜5重量部、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)0.01〜5重量部、ポリアルキレングリコール類(E)5重量部以下、および着色剤(D)を配合した組成物であって、該組成物から形成された厚さ3mmの成形片に、電離放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルカルボニル基を有する化合物(C)が、下記一般式(1)または(2)で示される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子であり、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基またはアリールアルキルアルコキシ基であり、これらの基に含まれる芳香環は置換基として、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子を有することができる。h、i及びmは、それぞれ、0〜5の整数であり、j、k及びnは、それぞれ、1〜5の整数である。Xは、−O−、−O−(R10−O)−、又は−CO−であり、Xは、−O−(R11−O)−R12、−CO−R13、−CO−O−14、又は−O−CO−R15であり、R10及びR11は、それぞれ、炭素数1〜15のアルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基であり、アリーレン基の核には置換基として、炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲン原子を有することができる。R12は、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、R13は、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、R14及びR15は、それぞれ、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアリールアルキル基であり、p及びqは、それぞれ、1以上の整数である。)。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された厚さ3mmの成形片に電離放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるL値で80以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から成形された医療用器具。


【公開番号】特開2006−199848(P2006−199848A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13832(P2005−13832)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】