説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具

【課題】滅菌のために電離放射線を照射しても、成形片の黄色味が目立たず、医療用部品内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易で、かつ機械的強度の低下が小さく、放射線滅菌処理される医療用器具に好適なポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、青〜紫系の着色剤(B)0.0012〜0.005重量部を配合した組成物であって、該組成物から樹脂温度270℃、金型温度80℃で射出成形された厚さ3mmの成形片に電離放射線としてコバルト60のγ線を25kGy照射し、照射後7日目に測定した成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であり、かつL値が80以上となるポリカーボネート樹組成物及びそれからなる医療用器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具に関する。更に詳しくは、電離放射線の照射処理を行っても色調の変化や衝撃強度等の機械的強度の低下が小さく、かつ内部の薬液や血液等の内容物の液面及び色の識別が容易な医療用器具の材料として好適な樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、透明性、衛生性、機械的強度等に優れているため注射器、外科用具、手術用器具やこれらを収容、包装する容器状包装具や、人工肺、人工腎臓、麻酔吸収装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離装置等各種の医療用器具に使用されている。これらの医療用器具は、通常、完全滅菌が行われる。具体的な滅菌法としては、エチレンオキサイドによる接触処理、オートクレーブ中での加熱処理、γ線や電子線等の電離放射線による処理等がある。このうち、エチレンオキサイドを使用することは、エチレンオキサイド自体の毒性、不安定性、廃棄処理に関する環境問題等があり、好ましくない。また、オートクレーブを使用する場合には、高温処理の際に樹脂の劣化を招くこと、エネルギーコストが高いこと、及び処理後の器具に湿気が残るために使用前に乾燥する必要があること等の欠点を有する。従って、低温で処理でき、しかも比較的安価である電離放射線による滅菌処理がこれらの方法に代わって使用されている。
しかしながら、本来、無色透明で機械的強度に優れた芳香族ポリカーボネートは、電離放射線を照射されると黄変して外観が悪化するばかりではなく、医療用器具内部の薬液や血液等の内容物の液面や色の識別が困難になるという欠点がある。
【0003】
放射線照射によるポリカーボネート樹脂の黄変防止に関しては、従来より、種々の検討がなされており、特に放射線照射による黄変防止を目的に添加物(黄変防止剤)を配合することが試みられている。例えば、芳香族ポリカーボネートにポリエーテルポリオール又はそのアルキルエーテルを配合した樹脂組成物(特許文献1)、ベンジルオキシ又はベンジルチオ骨格を有する化合物を配合した樹脂組成物(特許文献2)、ハロゲン原子を含有しない構造単位からなる主鎖に、末端基としてハロゲン原子を含有しないヒドロキシベンゾフェノンを導入した特定のポリカーボネート樹脂(特許文献3)、ポリカーボネート樹脂に特定のトリアジン系化合物を配合したポリカーボネート樹脂組成物(特許文献4)、末端にγ線照射により開裂し得る炭素−炭素不飽和結合を実質的に持たないポリカーボネート及びジベンジルエーテルまたはp−(α、α’−ジベンジロキシ)キシリレンとからなるポリカーボネート樹脂組成物(特許文献5)等多数提案されている。
しかしながら、これらの樹脂組成物は黄変防止効果が不充分であるか、または効果を発現するに充分な量の黄変防止剤を配合すると、樹脂組成物の機械的強度が著しく損なわれるという欠点があり、実用性の低いものであった。また、これらの明細書には、黄変防止剤の配合により、放射線照射による黄変が低減したことを示すデータは記載されているものの、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別に重要な影響を及ぼす透明性に関しては具体的に記載されておらず、また照射後の、組成物の機械的強度についての具体的な記載もなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−135556号公報
【特許文献2】特開平08−225732号公報
【特許文献3】特開平08−238309号公報
【特許文献4】特開2001−72851号公報
【特許文献5】特開2002−60616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、その目的は、滅菌のために電離放射線を照射しても、黄色味が目立たず、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易な透明性を有し、かつ機械的強度の低下が小さいポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる医療用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂、あるいはポリアルキレングリコール類を配合した芳香族ポリカーボネートに特定の着色剤を配合して電離放射線を照射した後の成形片の黄色味を表すb値を2以下としたポリカーボネート樹脂組成物は、放射線照射による黄色味が目立たず、更に、透明性を表すL値を80以上とすると、医療用器具内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易になり、かつ機械的強度の低下が小さいことを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、青〜紫系の着色剤(B)0.0012〜0.005重量部を配合した組成物であって、該組成物から樹脂温度270℃、金型温度80℃で射出成形された厚さ3mmの成形片に電離放射線としてコバルト60のγ線を25kGy照射し、照射後7日目に測定した成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であり、かつL値が80以上となることを特徴とするポリカーボネート樹組成物、及び、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、青〜紫系の着色剤(B)0.0012〜0.005重量部、及びポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテル、ポリアルキレングリコールのエステルから選ばれた少なくとも1種のポリアルキレングリコール類(C)を0.05重量部以上5重量部以下配合した組成物であって、該組成物から樹脂温度270℃、金型温度80℃で射出成形された厚さ3mmの成形片に電離放射線としてコバルト60のγ線を25kGy照射し、照射後7日目に測定した成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であり、かつL値が80以上となることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、並びに、かかる樹脂組成物から成形された医療用器具に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物から形成された成形品は、電離放射線を照射しても、黄色味が目立たず、医療用器具として用いた場合、内部の薬液及び血液等の内容物の液面や色の識別が容易で、かつ機械的強度の低下が小さい。それ故、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、注射器、外科用具、手術用器具やこれらを収容、包装する容器状包装具や、人工肺、人工腎臓、麻酔吸収装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離装置等各種の医療用器具の材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物、またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物とを、ホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)または溶融法(エステル交換法)などの公知の方法を採用することができる。溶融法で製造され、かつ末端OH基含有率が50〜1000ppmに調整された芳香族ポリカーボネート樹脂は、薬液や血液との濡れ性に優れているので、該芳香族ポリカーボネート樹脂製医療器具も薬液や血液との濡れ性が良く、薬液や血液との界面に気泡が発生せず、医療用器具中の薬液や血液の流動がスムーズになるという利点があり好ましい。
【0009】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基であり、X及びYは、炭素数1〜6の炭化水素基であり、p及びqは、0又は1の整数である。なお、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。)。
【0012】
一般式(1)で示される代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5'−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」とも言う。)が好ましい。
分岐を有する芳香族ポリカーボネートを製造する場合は、フロログルシン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物(分岐化剤)を、芳香族ジヒドロキシ化合物の1部として使用すればよい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を溶融法で製造する場合の原料の一つである炭酸ジエステルは、下記式(2)で示される化合物である。
【0014】
【化2】

【0015】
(式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基であり、2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。)。
一般式(2)で示される代表的な炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0016】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0017】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、好ましくは1.01〜1.2の範囲内のモル比で用いられる。モル比が1.001より小さくなると、溶融法芳香族ポリカーボネート樹脂の末端OH基が増加し、特に末端OH基が1000ppmを越えると熱安定性、耐加水分解性が悪化する。また、モル比が1.3より大きくなると、溶融法芳香族ポリカーボネート樹脂の末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造が困難となる傾向があり、さらに末端OH基含有率が50ppm未満では薬液や血液との濡れ性が劣り好ましくない。
【0018】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を溶融法により製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.05〜5μモル、好ましくは0.08〜4μモル、さらに好ましくは0.1〜2μモルの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成形時の流動性が低下する傾向がある。
【0019】
溶融法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製法は、特に限定されるものではなく、公知の種々の方法が採用できるが、例えば、以下のような方法で製造できる。すなわち、通常、原料混合槽等で芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを均一に攪拌混合した後、触媒を添加して溶融状態で重合(エステル交換反応)を行い、ポリマーが生産される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの何れの形式でも良いが、一般的には2以上の重合槽での反応、すなわち2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。
【0020】
重合反応の具体的な条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られる芳香族ポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、できるだけ短い滞留時間の設定が好ましい。
【0021】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、15,000〜40,000が好ましく、より好ましくは20,000〜30,000である。粘度平均分子量が15,000未満では機械的強度に劣り、40,000を越えると成形性が悪くなる。
【0022】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に配合される着色剤(B)としては、アゾ系着色剤、アントラキノン系着色剤、インジゴ系着色剤、トリフェニルメタン系着色剤およびキサンテン系着色剤が挙げられる。これらの着色剤は、例えば三菱化学社製のD−BLUE−G、バイエル社製M−BLUE−2R、M−Violet−3Rなどの青〜紫系の着色剤を例示できる、着色剤(B)の量は、これを配合した樹脂組成物から成形された厚さ3mmの試験片に、放射線を照射し、照射後7日目に測定した色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下となる量であり、照射される放射線の線種や照射量、使用される着色剤により異なるが、何れの場合も上述したb値が2以下となる量であり、予め、実験により最適な使用量を定めることが出来る。例えば、コバルト60のγ線を25kGy照射する場合の着色剤の使用量の目安としては、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.0001〜0.005重量部が好ましく、青色の着色剤を用いる場合であれば、樹脂組成物が青色を呈する量である。着色剤(B)の配合量が少なすぎると電離放射線照射後のb値が2より大きくなり、黄色味が目立ち好ましくない。
【0023】
逆に、着色剤の量が多すぎると青みが強すぎてL値が80未満となり、透明性が低下する可能性が有る。本発明の樹脂組成物から成形された厚さ3mmの試験片の電離放射線照射後7日目に測定された色調は、ハンターのLab法におけるL値が80以上であることが好ましい。L値が80以上の透明性を有することにより、医療器具として用いた場合、内部の薬液や血液などの液面及び色の識別が容易となる。
なお、上記に例示した着色剤には、所謂、ブルーイング剤として、黄変防止を目的として樹脂に添加することが知られているものもある。しかしてブルーイング剤として添加される着色剤の量は0.数ppm〜1ppm程度で、添加された樹脂がアイス色を呈する量であるが、この程度の着色剤の使用では、電離放射線照射による芳香族ポリカーボネート樹脂の黄変を防止できない(例えば、前記特許文献3の実施例等参照)。
【0024】
本発明の樹脂組成物は芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と着色剤(B)を必須成分として含有するが、更に、ポリアルキレングリコール類(C)を芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、5重量部以下配合することにより、さらに電離放射線照射時の黄変防止効果を向上させ、透明性と機械的強度の低下を抑制することができる。本発明に使用されるポリアルキレングリコール類(C)としては、下記一般式(3)で示されるポリアルキレングリコール(C−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(C−2)、及び、下記一般式(4)で示されるポリアルキレングリコールのエステル(C−3)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
(式(3)、(4)中、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基又はアリールアルケニル基を示し、これらの基の芳香環には更に、炭素数1〜10のアルキル基又はハロゲン原子が置換されていても良い。R及びRは、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。uは1以上の整数、wは2以上の整数であり、t及びvは、それぞれ、1〜10の整数である。)。
【0028】
一般式(3)又は(4)において、好ましくはR、Rは水素原子、アルキル基、アリールアルキル基であり、R,Rはアルキル基、アリール基であり、R、Rは水素原子又はメチル基である。uは好ましくは1〜3000、より好ましくは1〜500の整数であり、wは2〜3000、より好ましくは2〜500の整数である。t、vは1〜7の整数であり、より好ましくは1〜5の整数である。ポリアルキレングリコール(C−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(C−2)又はポリアルキレングリコールのエステル(C−3)は、1種類又は2種類以上を混合して使用しても良い。
【0029】
一般式(3)で示される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテル、ポリエチレングリコール−4−ノニルフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールドデシルエーテル、ポリプロピレングリコールベンジルエーテル、ポリプロピレングリコールジベンジルエーテル、ポリプロピレングリコール−4−ノニルフェニルエーテル等のポリアルキレングリコールのエーテル類が挙げられる。
【0030】
一般式(4)で示される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール酢酸エステル、ポリエチレングリコール酢酸プロピオン酸エステル、ポリエチレングリコールジ酪酸エステル、ポリエチレングリコールジステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ−2,6−ジメチル安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ−p−tert−ブチル安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジカプリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酢酸エステル、ポリプロピレングリコール酢酸プロピオン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酪酸エステル、ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ−2,6−ジメチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジ−p−tert−ブチル安息香酸エステル、ポリプロピレングリコールジカプリン酸エステル等が挙げられる。
【0031】
本発明組成物中のポリアルキレングリコール(C−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(C−2)、ポリアルキレングリコールのエステル(C−3)から選ばれる1種以上の化合物の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部であり、好ましくは3重量部以下である。配合量が5重量部を越えると機械的強度が低下しやすい。
また、ポリアルキレングリコール類(C)を配合する場合、着色剤(B)の量は、(A)、(B)及び(C)を配合した組成物から形成された厚さ3mmの成形片に放射線を照射し、照射後7日目に測定したハンターのLab法におけるb値で2以下となる量であり、照射される放射線の線種、線量、ポリアルキレングリコール類(C)の種類及び量、着色剤等により異なるが、予め、実験により最適な使用量を定めることができる。また、この場合、照射後7日目に測定したハンターのLab法におけるL値が80以上であることが好ましい。
【0032】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)および着色剤(B)、又は更にポリアルキレングリコール(C−1)、ポリアルキレングリコールのエーテル(C−2)、ポリアルキレングリコールのエステル(C−3)から選ばれた1種以上の化合物からなる本発明組成物は、電離放線照射による黄変を防止し、機械的強度の低下が小さくまた透明性を有しているため、滅菌のため電離放射線照射される医療用器具の材料として好適である。本発明組成物から医療用器具を製造する場合は、さらに離型剤(D)を配合することが好ましい。離型剤の配合により、成形時の離型抵抗を低減することが出来、特に、薄肉の成形物を良好に製造することができる。
【0033】
本発明組成物に使用できる離型剤(D)は、芳香族ポリカーボネート樹脂用として用いられる公知の離型剤で、分子中に、オレフィン性炭素−炭素不飽和二重結合を実質的に含有しないものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸などの飽和高級脂肪酸とブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、エリトリット、ペンタエリトリットなどの飽和アルコールとのエステル又は部分エステル;パラフィン、低分子量ポリオレフィン、その他のワックス類などが例示される。
【0034】
離型剤(D)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、3重量部以下であり、好ましくは1重量部以下である。3重量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。該離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の熱可塑性樹脂、難燃剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、リン系熱安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤等の添加剤を添加しても良い。
【0036】
本発明組成物の製造法は特に限定されるものではなく、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に、着色剤(B)、及び要すれば更に、ポリアルキレングリコール類(C)、離型剤(D)その他の添加剤を配合すればよい。配合方法としては、当業者に周知の種々の方法によって行うことができる。例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合する方法や、フィーダーにより定量的に押出機ホッパーに供給して混合する方法等がある。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、回転成形等、公知の成形方法に従って所望の成形品とすることができ、電離放射線の照射処理を行っても色調の変化や衝撃強度等の機械的強度の低下が小さく、かつ医療用器具内部の薬液や血液等の内容物の液面及び色の識別が容易である。また、離型剤(D)の配合されたポリカーボネート樹脂組成物は、成形時の離型性に優れるので、生産性が向上し、また割れ等の破損が起こりにくい。さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)として、溶融法で製造され、かつ末端OH基含有率が50〜1000ppmである芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、薬液や血液との濡れ性に優れているので、薬液や血液との界面に気泡が発生せず、医療用器具中の薬液や血液の流動がスムーズになるという利点がある。本発明のポリカーボネート樹脂組成物を適用できる医療用器具としては、具体的には、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離器ボウル、外科用具、手術室用具やこれらを包装する容器状包装具、酸素を血液に供給するチューブ、チューブの接続具、心臓プローブ並びに注射器、静脈注射液等を入れる容器等が挙げられる。本発明の樹脂組成物を用いた医療用器具は、γ線、電子線その他滅菌のために用いられる種々の線種及び放射量の放射線照射に有効であり、またその放射線滅菌が、実質的に酸素を含有しない雰囲気下である場合にも、或いは放射線滅菌が、酸素雰囲気下である場合にも有効である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例において使用した原材料は下記の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂:「ユーピロンS−3000」、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、粘度平均分子量22、000。
(2)着色剤:「M−BLUE−2R」、バイエル社製。
(3)着色剤:「M−Violet−3R」、バイエル社製。
(4)ポリアルキレングリコール:ポリプロピレングリコール、分子量2000、「PPG2000」と表記する。
(5)ポリアルキレングリコールエステル:ポリプロピレングリコールジステアリン酸エステル、分子量3000、「PPGST30」と表記する。
(6)離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート。
【0039】
組成物の評価方法は以下の通りである。
(7)色調(ハンターLab法):厚さ3mmの試験片を空気中及び脱酸素雰囲気で保持したもの(試験片を脱酸素剤(商品名;エージレス、三菱瓦斯化学(株)製)と共に密封)とを用い、それぞれコバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射し、照射前後のハンターLab法におけるL値及びb値を、JIS K7103に従って、スガ試験機(株)製の色差計SM−3−CHにて測定した。
(8)アイゾット衝撃強度:各実施例及び比較例で得られた試験片(3.2mm厚み、0.25Rノッチ付き)に、コバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射し、ASTM D256に準じて測定した。
【0040】
〔実施例1〜3、比較例1〜3及び参考例1〕
ポリカーボネート樹脂、着色剤、ポリアルキレングリコール類及び離型剤を表−1に記載の比率で、タンブラーにて混合し、各々φ40mm一軸ベント式押出機を用いて、バレル温度270℃で押出してペレットを得た。このペレットを熱風乾燥器中で、120℃にて5時間以上乾燥した後、樹脂温度270℃、金型温度80℃にて射出成形して色調試験片(50mmφ×3mm厚み)及び衝撃強度試験片(3.2mm厚み、0.25Rノッチ付き)を成形し、空気中、及び脱酸素条件でコバルト60γ線を25キログレイ(kGy)照射し、上記方法により評価した。結果を表−1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表−1から明らかな様に、着色剤を充分量配合した実施例の組成物は、γ線照射後の色調も黄色味を呈さず(b値2以下)、着色剤の添加によるアイゾット衝撃強度の低下も小さく、放射線照射による滅菌処理に充分耐えることが出来るが、着色剤を無添加または添加量が少ない比較例の組成物では、γ線照射後のb値が大きく、黄変していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、人工透析器、人工肺、麻酔用吸入装置、静脈用コネクター及び付属品、血液遠心分離器ボウル、外科用具、手術室用具やこれらを包装する容器状包装具、酸素を血液に供給するチューブ、チューブの接続具、心臓プローブ並びに注射器、静脈注射液等を入れる容器等の放射線照射により滅菌処理される多くの医療器具の材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、青〜紫系の着色剤(B)0.0012〜0.005重量部を配合した組成物であって、該組成物から樹脂温度270℃、金型温度80℃で射出成形された厚さ3mmの成形片に電離放射線としてコバルト60のγ線を25kGy照射し、照射後7日目に測定した成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であり、かつL値が80以上となることを特徴とするポリカーボネート樹組成物。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に、青〜紫系の着色剤(B)0.0012〜0.005重量部、及びポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテル、ポリアルキレングリコールのエステルから選ばれた少なくとも1種のポリアルキレングリコール類(C)を0.05重量部以上5重量部以下配合した組成物であって、該組成物から樹脂温度270℃、金型温度80℃で射出成形された厚さ3mmの成形片に電離放射線としてコバルト60のγ線を25kGy照射し、照射後7日目に測定した成形片の色調が、ハンターのLab法におけるb値で2以下であり、かつL値が80以上となることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、さらにオレフィン性の炭素−炭素不飽和結合を含有しない離型剤(D)を3重量部以下配合することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物から成形された医療用器具。

【公開番号】特開2012−207230(P2012−207230A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157046(P2012−157046)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2004−373994(P2004−373994)の分割
【原出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】