説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品

【課題】優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を1mol%以上かつ70mol%未満含有するポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物である。ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)の全光線透過率が60%以上である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂と衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを成形してなるポリカーボネート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。
【0003】
従来、植物由来モノマーを原料とした種々のポリカーボネートが開発されている。
例えば、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物との共重合ポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており(例えば、特許文献2参照)、更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合したポリカーボネート(例えば、特許文献4、5参照)や、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにゴム質重合体を添加したポリカーボネート(例えば、特許文献6参照)も提案されている。
さらには、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにスチレン系樹脂を添加したポリカーボネートが提案されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】GB1079686号公報
【特許文献2】特開昭56−55425号公報
【特許文献3】WO2004/111106公報
【特許文献4】特開平6−145336号公報
【特許文献5】特公昭63−12896号公報
【特許文献6】WO2008/146719公報
【特許文献7】特開2007−70438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られる前述のポリカーボネートは、褐色であり、透明性という観点において満足できるものではない。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物である1,4−シクロヘキサンジメタノールを重合した前述のポリカーボネートは、その分子量が高々4000程度と低く、ガラス転移温度が低いものが多い。
【0007】
また、イソソルビドと炭酸ジフェニルとのエステル交換により得られたポリカーボネートにゴム質重合体を添加したポリカーボネートは、ノッチ付シャルピー衝撃強度が高々40kJ/m2程度と低く、スチレン系樹脂を添加したポリカーボネートは、全光線透過率の点で満足できるものではない。
【0008】
このように、従来より、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂が種々提案されてきたが、透明性及び強度を併せ持つことが要求される建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において満足に用いることができるものはなかった。
【0009】
特にスイッチ保護用透明カバー、消し忘れ防止のための点灯式スイッチ、樹脂製盾、二輪車前面のスクリーン、採光用透明建材、カーポート屋根等の用途においては、透明性及び強度を併せ持つことが要求される。しかし、バイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂において、これらの用途に充分に適したものは得られていない。
【0010】
本発明の目的は、前記従来の課題を解消し、優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、及び光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが検討を行った結果、特定の部位を有するジヒドロキシ化合物由来の構造単位を所定量含有するポリカーボネート樹脂と衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、所定の物性を満たしたものであれば、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができる、透明性及び強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[11]に存する。
[1] 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を1mol%以上かつ70mol%未満含有するポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)の全光線透過率が60%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
[2] 前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることを特徴とする[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3] 前記衝撃強度改質剤がブタジエンを含有する共重合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4] 構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5] 複素環基を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする[4]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

[6] 前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7] 前記脂肪族ジヒドロキシ化合物が、脂環式ジヒドロキシ化合物であることを特徴とする[6]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8] 前記ポリカーボネート樹脂において、ビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量は0mol%以上かつ1mol%未満であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
[10] 前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものであることを特徴とする[9]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた透明性及び強度を併せ持ち、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0015】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
ポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「本発明のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を所定の割合で含むポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含み、厚さ3mmの成形体の全光線透過率が60%以上である。
【0016】
【化3】

【0017】
但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。
すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に前記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0018】
前記ポリカーボネート樹脂組成物において、前記全光線透過率が60%未満の場合には、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることが困難になるおそれがある。前記全光線透過率は好ましくは70%以上がよく、より好ましくは80%以上がよい。
また、実現の困難性という観点から、全光線透過率の上限は94%である。
【0019】
前記全光線透過率は、前記ポリカーボネート樹脂組成物におけるジヒドロキシ化合物のモル比率、衝撃強度改質剤の種類または含有量等を調整することにより制御することができる。
【0020】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の詳細について説明する。
<ジヒドロキシ化合物>
前記ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも有する。
前記ポリカーボネート樹脂において、前記構造単位の含有量は1mol%以上かつ70mol%未満である。1モル%未満の場合には、耐熱性が不足し、熱により成形部材が変形するおそれがある。一方、70mol%を超える場合には、耐衝撃性が不足し、成形部材使用時に破断するおそれがある。前記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は30mol%以上がより好ましく、50mol%以上がさらにより好ましい。また、前記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は65mol%以下がより好ましく、60mol%以下がさらにより好ましい。
【0021】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(本発明のジヒドロキシ化合物)としては、分子構造の一部に前記一般式(1)で表されるものを含んでいれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。又下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられるが、複素環基の一部が前記一般式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が好ましい。下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ジオキサングルコールなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能であるという観点から、複素環基を有する化合物がより好ましく(請求項4)、下記一般式(2)の化合物が特に好ましく(請求項5)、種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
前記一般式(3)中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数3のアルキル基である。
【0025】
尚、イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられる。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒となる場合があるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
【0026】
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や、分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、必要に応じて、イソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。蒸留は、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で、減圧蒸留を実施する。このようなイソソルビドの蒸留を行うことにより、蟻酸含有量が20ppm以下、特に5ppm以下である高純度のイソソルビドを用いることができる。
【0027】
尚、イソソルビド中の蟻酸含有量の測定方法は、イオンクロマトグラフを使用し、以下の手順に従い行われる。
イソソルビド約0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料として蟻酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークを蟻酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いた。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/分、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−HSO水溶液を用いる。
【0028】
前記ポリカーボネート樹脂は構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外に、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことが好ましく(請求項6)、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことが好ましい(請求項7)。この場合には、柔軟性を付与することができる。
【0029】
<脂肪族ジヒドロキシ化合物>
脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール、後述の脂環式ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0030】
<脂環式ジヒドロキシ化合物>
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性が高くなる可能性がある。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が過度に大きいと、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価になる傾向がある。炭素数が小さいほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
【0031】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH−R−CHOH (I)
HO−R−OH (II)
(但し、式(I),式(II)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のシクロアルキル構造を含む二価の基を表す。)
【0032】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ia)(式中、Rは水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0033】
【化6】

【0034】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ib)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0035】
【化7】

【0036】
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ic)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
【0037】
【化8】

【0038】
また、前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Id)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
【0039】
【化9】

【0040】
一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(I)において、Rが下記一般式(Ie)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
【0041】
【化10】

【0042】
また、前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIa)(式中、Rは水素原子、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0043】
【化11】

【0044】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0045】
【化12】

【0046】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が用いられる。
【0047】
【化13】

【0048】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が用いられる。
【0049】
【化14】

【0050】
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(II)において、Rが下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が用いられる。
【0051】
【化15】

【0052】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
【0053】
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0054】
前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、撃強度が向上する可能性があり、更にポリカーボネート樹脂の所望のガラス転移温度を得ることが可能である。
【0055】
前記ポリカーボネート樹脂において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、80:20〜30:70であることが好ましく、70:30〜40:60であるのが更に好ましい。前記範囲よりも構造の一部に前記一般式(1)で表わされる部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の割合が多いと着色しやすくなり、逆に構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の割合が少ないと高分子量とすることが困難となり、衝撃強度を向上させることが困難になり、又、ガラス転移温度が低下する傾向がある。
【0056】
前記ポリカーボネート樹脂においては構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいても良い。その他のジヒドロキシ化合物としては、芳香族系ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0057】
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノール化合物(本発明においては置換、非置換を含む)が挙げられ、具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(sec−ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等が挙げられるが、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略記することがある。)が挙げられる。
【0058】
上述のビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量は、0mol%以上かつ1mol%未満が好ましく(請求項8)、0mol%以上かつ0.8mol%未満がより好ましく、0mol%以上かつ0.5mol%未満がさらにより好ましい。ビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎる場合には、着色が顕著になってしまうおそれがある。
【0059】
上述のその他のヒドロキシ化合物は1種を単独で用いられていてもよく、2種以上を混合して用いられていてもよい。
【0060】
(炭酸ジエステル)
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた界面重合法、炭酸ジエステルとエステル交換反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、重合触媒の存在下に、ジヒドロキシ化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
前記ポリカーボネート樹脂は、上述した本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させる溶融重合法により得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
【化16】

【0062】
一般式(4)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。
前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0063】
炭酸ジエステルは、溶融重合に使用した全ジヒドロキシ化合物に対して、0.96〜1.10のモル比率で用いられているのが好ましく、特に好ましくは、0.98〜1.04のモル比率である。このモル比率が0.96より小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシル基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、又、モル比率が1.10より大きくなると、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となるばかりか、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時、或いは成形品の臭気の原因となり好ましくない。
【0064】
<エステル交換反応触媒>
前記ポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造することができる。より詳細には、エステル交換反応させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により溶融重合を行う。
【0065】
前記ポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、「触媒」と称する場合がある)としては、例えば長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0066】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
【0067】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
【0068】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0069】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0070】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0071】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0072】
前記触媒の使用量は、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の場合、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1μモル〜100μモルの範囲内であり、好ましくは0.5μモル〜50μモルの範囲内であり、更に好ましくは1μモル〜25μモルの範囲内である。触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、充分な破壊エネルギーが得られない可能性がある。一方、触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化するだけでなく、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、脆性破壊の起因となる場合があり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる可能性がある。
【0073】
前記ポリカーボネート樹脂は、本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により溶融重合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0074】
前記ポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で溶融重合させて製造することが好ましいが、溶融重合を複数の反応器で実施する理由は、溶融重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、溶融重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。前記反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。
前記ポリカーボネート樹脂の製造にあたっては、前記反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0075】
前記ポリカーボネート樹脂の製造において、触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、反応器に直接添加することもできるが、供給の安定性、溶融重合の制御の観点からは、反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
エステル交換反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
【0076】
前記ポリカーボネート樹脂の製造において、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目のエステル交換反応温度(以下、「内温」と称する場合がある)は通常140℃〜220℃、好ましくは150℃〜200℃であり、滞留時間は通常0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間で実施される。第2段目以降はエステル交換反応温度を上げていき、通常、210℃〜270℃の温度で行い、同時に発生するフェノールを反応系外へ除きながら、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら最終的には反応系の圧力が200Pa以下、のもとで重縮合反応が行われる。エステル交換反応温度が過度に高いと、成形品としたときに色相が悪化し、脆性破壊しやすい可能性がある。エステル交換反応温度が過度に低いと、目標とする分子量が上がらず、又分子量分布が広くなり、衝撃強度が劣る場合がある。又、エステル交換反応の滞留時間が過度に長いと、脆性破壊しやすい場合がある。滞留時間が過度に短いと、目標とする分子量が上がらず衝撃強度が劣る場合がある。
【0077】
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化あるいはヤケを抑制し、衝撃強度が高い良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が255℃未満、特に225℃〜250℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴によるポリカーボネート樹脂の熱劣化を最小限に抑えるために、反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0078】
また、衝撃強度の高いポリカーボネート樹脂を企図し、分子量の高いポリカーボネート樹脂を得るため、出来るだけ重合温度を高め、重合時間を長くする場合があるが、ポリカーボネート樹脂中の異物やヤケが発生し、脆性破壊しやすくなる傾向にある。よって、衝撃強度が高くすることと脆性破壊をしにくくすることの双方を満足させるためには、重合温度を低く抑え、重合時間短縮のために高活性の触媒の使用、適正な反応系の圧力の設定等が好ましい。更に、反応の中途あるいは反応の最終において、フィルター等により反応系で発生した異物やヤケ等を除去することも脆性破壊をしにくくするために好ましい。
【0079】
前記ポリカーボネート樹脂は、上述の通り溶融重合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0080】
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、異物やヤケの発生を招く。前記異物やヤケの除去のためのフィルターは該押出機中あるいは押出機出に設置することが好ましい。
【0081】
前記フィルターの目開きは、通常400μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。フィルターの目開きが過度に大きいと、異物やヤケの除去に漏れが生じる場合があり、ポリカーボネート樹脂を成形した場合、脆性破壊を起こす可能性がある。
更に、前記フィルターは複数個を直列に設置して使用してもよく、又リーフディスク型ポリマーフィルターを複数枚積層した濾過装置を使用してもよい。
【0082】
又、押出成形されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、HEPAフィルター(JIS Z8112で規定されるフィルターが好ましい。)等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、更にフィルターにて水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは種々あるが、10〜0.45μmのフィルターのものが好ましい。
【0083】
前記ポリカーボネート樹脂の重合度は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を用い、ポリカーボネート濃度を1.00g/dlに精密に調整し、温度30.0℃±0.1℃で測定した還元粘度(以下、単に「還元粘度」と記す場合がある。)として、好ましくは0.40dl/g以上、更に好ましくは0.60dl/g以上、特に好ましくは0.85dl/g以上である。又好ましくは2.0dl/g以下、更に好ましくは1.7dl/g以下、特に好ましくは1.4dl/g以下である。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に低いと、機械的強度が弱くなる場合があり、ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形品の歪みが大きくなり熱により変形し易い傾向がある。
【0084】
前記ポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物の1種又は2種以上を重合時に添加することができる。
【0085】
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。リン化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
【0086】
又、亜リン酸化合物としては、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0087】
リン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することができるが、その場合の添加量はリン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、先に記載した、全ヒドロキシ化合物成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が前記下限より少ないと、着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性が低下する原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0088】
又、このようにして製造されたポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
【0089】
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0090】
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、更に亜リン酸化合物を配合すると、重合時の透明性の低下、着色、及び耐熱性の低下を回避して、更に多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
【0091】
これらの熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.0001重量部〜1重量部が好ましく、0.0005重量部〜0.5重量部がより好ましく、0.001重量部〜0.2重量部が更に好ましい。
【0092】
<衝撃強度改質剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤を含有する。
前記ポリカーボネート樹脂においては、前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることが好ましい(請求項2)。
前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部未満の場合には、充分な衝撃強度の改質効果が得られず、成形部材が破断するおそれがある。一方、25重量部を超える場合には、良好な成形性が損なわれ、成形時にヤケが発生するおそれがある。
【0093】
前記衝撃強度改質剤としては、例えばSB(スチレン−ブタジエン)共重合体、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック)共重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)共重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)共重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)共重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)共重合体、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル−シリコーンIPNゴム)共重合体、及び天然ゴム等を用いることができる。
【0094】
好ましくは、前記衝撃強度改質剤はブタジエンを含有する共重合物であることがよい(請求項3)。
この場合には、前記ポリカーボネート樹脂との組み合わせにおいて特に顕著な衝撃強度改質効果を得ることができる。
【0095】
ブタジエンを含有する共重合物としては、具体的には、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック)共重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)共重合体、メチルメタクリレート−アクリル−ブタジエンゴム共重合体等がある。
【0096】
前記ポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂と前記衝撃強度改質剤とを混合することにより製造することができる。
具体的には、例えばペレット状の前記ポリカーボネート樹脂と、前記衝撃強度改質材とを押出機を用いて混合し、ストランド状に押出し、回転式カッター等でペレット状にカットすることによりポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
前記ポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度は、15kJ/m2以上が好ましく、20kJ/m2以上がより好ましく、25kJ/m2以上がさらにより好ましい。また、実現の困難性という観点から、前記ポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度の上限は200kJ/m2である。
前記ポリカーボネート樹脂と前記衝撃強度改質剤との混合時には、必要に応じて適宜下記の酸化防止剤、離型剤等の添加剤を添加することができる。
【0097】
前記ポリカーボネート樹脂組成物には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤の1種又は2種以上を配合することができる。
【0098】
かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0099】
これら酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート100重量部に対して、0.0001重量部〜0.5重量部が好ましい。
【0100】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物には、シート成形時の冷却ロールからのロール離れ、或いは射出成形時の金型からの離型性をより向上させるため等に、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
【0101】
かかる離型剤としては、一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0102】
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールと炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。
【0103】
高級脂肪酸としては、炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。
【0104】
かかる離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.01重量部〜5重量部が好ましい。
【0105】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線による変色は従来のポリカーボネート樹脂に比較して著しく小さいが、更に改良の目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
【0106】
かかる紫外線吸収剤、光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。
【0107】
かかる紫外線吸収剤、光安定剤の含有量は、ポリカーボネート100重量部に対して、0.01重量部〜2重量部が好ましい。
【0108】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物には、黄色味を打ち消すためにブルーイング剤の1種又は2種以が配合されていてもよい。ブルーイング剤としては、従来のポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0109】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No.(カラーインデックスNo.)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No.68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No.60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No.61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No.68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、及び一般名Solvent Blue45[CA.No.61110]等が代表例として挙げられる。
【0110】
これらブルーイング剤の含有量は、通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.1×10−4重量部〜2×10−4重量部が好ましい。
【0111】
又、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、上記の添加剤の他、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤、例えば、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料等を含有した樹脂組成物であってもよい。又、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン等の合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂等が混合された樹脂組成物であってもよい。
【0112】
前述のポリカーボネート樹脂組成物と前述のような各種の添加剤等との配合方法としては、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合・混練する方法、或いは、例えば塩化メチレン等の共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法等があるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
【0113】
こうして得られるポリカーボネート樹脂は、これに各種添加剤等が添加され、直接に、或いは溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法等の通常知られている成形方法で、所望形状に成形することができる。
【0114】
[ポリカーボネート樹脂成形品]
上述のごとく前記ポリカーボート樹脂組成物を成形することにより、ポリカーボネート樹脂成形品を得ることができる。
好ましくは、前記ポリカーボネート樹脂成形品は、射出成形法により成形されたものであることがよい(請求項10)。
この場合には、複雑な形状の前記ポリカーボネート樹脂成形品が作成可能となる。そして、複雑な形状に成形すると応力集中部が発生し易くなるが、前記ポリカーボネート樹脂組成物においては上述のごとく衝撃強度の改質効果が得られるため、応力集中による破断を抑制することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
【0116】
(1)試験片作成方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、80℃で6時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)および機械物性用ISO試験片を成形した。
【0117】
(2)全光線透過率及びヘイズ測定
前記(1)で得られた射出成形板についてJIS K7105に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業社製NDH2000)を使用し、D65光源にて前記試験片の全光線透過率およびヘイズを測定した。
【0118】
(3)ノッチ付シャルピー衝撃
前記(1)で得られた機械物性用ISO試験片についてISO179に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施した。
【0119】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学社製)
【0120】
(衝撃強度改質剤)
メタブレンC−223A:MBS(三菱レイヨン社製)
パラロイドEXL2603:ブタジエン−アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合物(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)
【0121】
(酸化防止剤)
アデカスタブ2112:ホスファイト系酸化防止剤(ADEKA社製)
アデカスタブAO−60:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製)
(離型剤)
S−100A:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン社製)
【0122】
(実施例1)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.50/0.50/1.00/1.3×10−6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005vol%〜0 .001vol%)。
【0123】
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
【0124】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0125】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット(ポリカーボネート樹脂)にした。
【0126】
次に、得られたポリカーボネート樹脂のペレットと、更に下記の表1に示した組成となるように衝撃強度改質剤としてメタブレンC−223A、離型剤としてS−100A、更に酸化防止剤としてアデカスタブAO−60及びアデカスタブ2112とを2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたペレット状のポリカーボネート樹脂組成物の分析結果、および前記方法よる評価結果を後述の表1に示す。
【0127】
(実施例2)
衝撃強度改質剤としてパラロイドEXL2603を5重量部添加した以外は、実施例1と同様に行った。
【0128】
(実施例3)
実施例1のISBとCHDMのモル比率を変え、衝撃強度改質剤としてメタブレンC−223Aを10重量部添加した以外は、実施例1と同様に行った。
【0129】
(比較例1)
実施例1の衝撃強度改質剤を添加しない以外は、実施例1と同様に行った。
【0130】
(比較例2)
実施例3の衝撃強度改質剤を添加しない以外は、実施例3と同様に行った。
【0131】
【表1】

【0132】
表1より知られるごとく、実施例1〜3においては、比較例1及び2に比べて、60%以上という高い全光線透過率を示し、高いノッチ付シャルピー衝撃強度を示した。したがって、実施例1〜3のポリカーボネート樹脂成形品は、優れた透明性と衝撃強度を兼ね備え、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を1mol%以上かつ70mol%未満含有するポリカーボネート樹脂と、衝撃強度改質剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)の全光線透過率が60%以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、前記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂100重量部に対する前記衝撃強度改質剤の含有量が1重量部以上25重量部未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記衝撃強度改質剤がブタジエンを含有する共重合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、複素環基を有するジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
複素環基を有するジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を更に含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物が、脂環式ジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂において、ビスフェノール化合物に由来する構造単位の含有量は0mol%以上かつ1mol%未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものであることを特徴とする請求項9に記載のポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−36271(P2012−36271A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176382(P2010−176382)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】