説明

ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体

【課題】バイオマス度(植物化度)が高く、二酸化炭素排出量削減や化石原料低減など環境性能に優れるとともに、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性に優れ、耐熱性及び耐衝撃性が高く、高流動化が可能であり、熱安定性の改良による色調変化やシルバー等の外観不良を低減し、透明感と光沢のある成形体が得られるポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形体を提供する。
【解決手段】(A)ポリカーボネート樹脂99〜60重量%及び(B)下記一般式で表される構造を有するリグノフェノール1〜40重量%からなる樹脂混合物100重量部に対して、(C)コアシェルタイプゴム状弾性体1〜30重量部を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、並びにそれを成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形体に関する。さらに詳しくは、バイオマス材料を用いることにより環境性能に優れ、高い流動性及び高い耐衝撃性を有し、耐熱性及び難燃性に優れ、また成形外観も良好なポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は耐熱性、耐衝撃性等の機械特性に優れることから電気・電子分野、自動車分野等で各種部品の材料として使用されている。このようなポリカーボネート樹脂を含む組成物を難燃化させるために、ハロゲン系難燃剤を配合する場合があった。
これに対し、近年、環境保護の観点から、ハロゲン系難燃剤を用いずに、ポリカーボネート樹脂に生分解性ポリエステル系樹脂や天然由来のリグノフェノールを配合した組成物が用いられる場合がある。
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂にリグノフェノールを配合し、流動性や難燃性などを向上させることの記載があるが、熱安定性が十分ではなく、着色が大きかったり、成形条件によってはシルバー等の不良が発生したりする場合があった。また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂及びポリ乳酸にリグノフェノールを配合し、成形外観を向上させることの記載があるが、コアシェルタイプゴム状弾性体を配合すること及びその効果については記載されていない。また、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸の相溶性の低さから、物性が低下したり、リグノフェノールの分散性の低下より、成形体の光沢が低下してしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−150424号公報
【特許文献2】特開2010−202712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を含む組成物について、バイオマス度(植物化度)が高く、二酸化炭素排出量削減や化石原料低減など環境性能に優れるとともに、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性に優れ、耐熱性及び耐衝撃性が高く、高流動化が可能であり、熱安定性の改良による色調変化やシルバー等の外観不良を低減し、透明感と光沢のある成形体が得られるポリカーボネート樹脂組成物及びそれを用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)リグノフェノール、及び(C)コアシェルタイプゴム状弾性体を特定の割合で配合することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記のポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【0006】
1.(A)ポリカーボネート樹脂99〜60重量%及び
(B)下記一般式(I)で表される構造を有するリグノフェノール1〜40重量%
からなる、樹脂混合物100重量部に対して、
(C)コアシェルタイプゴム状弾性体1〜30重量部
を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
〔式中、R1及びR4はアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はフェノキシ基を示し、R2はヒドロキシアリール基又はアルキル置換ヒドロキシアリール基を示し、R3はヒドロキシアルキル基、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基又は−OR5(R5は水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)を示し、水素原子以外のR1〜R5はそれぞれ置換基を有していてもよく、p及びqは0〜4の整数を示す。ただし、pが2以上である場合、複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、qが2以上である場合、複数のR4はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。〕
2.(A)ポリカーボネート樹脂が芳香族ポリカーボネート樹脂である上記1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.(C)コアシェルタイプゴム状弾性体が反応基を有するコアシェルタイプゴム状弾性体である、上記1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.上記1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を含む組成物について、バイオマス度(植物化度)が高く、二酸化炭素排出量削減や化石原料低減など環境性能に優れるとともに、ハロゲン系難燃剤を用いずに難燃性に優れ、耐熱性及び耐衝撃性が高く、高流動化が可能であり、熱安定性の改良による色調変化やシルバー等の外観不良を低減し、透明感と光沢のある成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)リグノフェノール、及び(C)コアシェルタイプゴム状弾性体を含むポリカーボネート樹脂組成物である。以下、各成分及びその他添加し得る成分について説明する。
【0011】
[(A)ポリカーボネート樹脂]
本発明において(A)ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であっても脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることが耐衝撃性、耐熱性がより優れることから好ましい。
(芳香族ポリカーボネート樹脂)
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて、耐熱性、難燃性及び耐衝撃性が良好であるため樹脂組成物の主成分とすることができる。
【0012】
二価フェノールとしては、様々なものを挙げることができるが、4,4’−ジヒドロキシジフェニル;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAが好ましい。二価フェノールとしては、これらの二価フェノールの一種を用いたホモポリマーでも、二種以上を用いたコポリマーであってもよい。さらに、多官能性芳香族化合物を二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、ハロホーメート、炭酸エステル等が挙げられ、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0013】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造においては、必要に応じて末端停止剤を用いることができ、例えば、下記一般式(II)で表される一価フェノール化合物が挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R10は炭素数1〜35のアルキル基を示し、aは0〜5の整数を示す。)
一般式(II)で表される一価フェノール化合物としてはパラ置換体が好ましい。一価フェノール化合物の具体例としては、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、及びp−tert−アミルフェノール等を挙げることができる。これらの一価フェノールはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよい。分岐構造を導入するためには分岐剤を用いればよく、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドキシフェニル)エタン;α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン;1−〔α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン;フロログルシン、トリメリット酸、及びイサチンビス(o−クレゾール)等の官能基を三個以上有する化合物等を用いることができる。
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、樹脂組成物の物性面から、10,000〜40,000であることが好ましく、13,000〜30,000であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であるか又は芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含むものを用いることにより、難燃性及び低温における耐衝撃性をさらに向上することができる。該共重合体を構成するポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサンであることが難燃性の点からより好ましい。
【0018】
[(B)リグノフェノール]
本発明において(B)リグノフェノールは、下記一般式(I)で表される構造を有する。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(I)中、R1及びR4はアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等)、アリール基(好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、具体的にはフェニル基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基であり、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アラルキル基(好ましくは炭素数12〜20のアラルキル基であり、具体的にはベンジル基等)又はフェノキシ基を示す。
【0021】
2は、ヒドロキシアリール基(好ましくは炭素数6〜14のヒドロキシアリール基であり、具体的には2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基等)又はアルキル置換ヒドロキシアリール基(好ましくは炭素数7〜18のヒドロキシアリール基であり、具体的には2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基、3−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基、4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基等)を示し、R3はヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基であり、具体的にはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等)、アリール基(好ましくは炭素数6〜10のアリール基であり、具体的にはフェニル基等)、アルキル置換アリール基(好ましくは炭素数1〜10のアルキル基で置換されたアリール基であり、具体的にはトルイル基、キシリル基等)又は−OR5(R5は水素原子、アルキル基、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜10のアリール基を示す)を示す。
【0022】
水素原子以外のR1〜R5はそれぞれ置換基を有していてもよく、p及びqは0〜4の整数を示す。
ただし、pが2以上である場合、複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、qが2以上である場合、複数のR4はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
本発明において上記一般式(I)で表される構造は、天然由来の構造が好ましい。
天然由来構造の場合、上記一般式(I)中のR1及びR4は樹種によって決まり、R1及びR4で示される置換基はメトキシ基であって、p及びqがそれぞれ1又は2の構造、あるいはR1及びR4で示される置換基の一方又は両方を有さない構造のみが存在する。
例えば、一般に針葉樹はメトキシ基が1つの3−置換体であり、広葉樹・草本類はメトキシ基が1つの3−置換体と、メトキシ基が2つの3,5−置換体とが1:1で存在する。また、いずれの樹種も幼樹の場合、メトキシ基である上記置換基を一部有さない構造が含まれることがある。
【0024】
3は、天然由来構造においてヒドロキシメチル基である。
2は、天然由来構造であっても上述と同じく、ヒドロキシアリール基(好ましくは炭素数6〜14のヒドロキシアリール基であり、具体的には2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基等)又はアルキル置換ヒドロキシアリール基(好ましくは炭素数7〜18のヒドロキシアリール基であり、具体的には2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基、3−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基、4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル基等)等を示す。
本発明において、天然由来構造のR2を自在に制御することにより、(C)リグノフェノールとしてのバリエーションを増やすことができる。
【0025】
上記一般式(I)で示されるリグノフェノールの重量平均分子量は、ポリスチレン換算で1,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜100,000である。そして、上記一般式(I)で示されるリグノフェノールの両末端基はフェノール性水酸基であることが望ましく、すなわち、一方が水酸基であり、もう一方は水素原子であることが望ましい。
また、本発明において用いることができる(B)成分の上記一般式(I)で表される具体的な構造としては、例えば下記式(III)で表すリグノクレゾール構造が挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
(リグノフェノール)
リグノフェノールとは、材木や紙等に含まれるリグニンから誘導される化合物であり、リグニンは、例えば木の細胞骨格を形成する炭水化物の隙間に充填されている、細胞間の接着物質として働くものである。リグニンの構造は非常に複雑であり、そのまま使用することは困難であるため、リグノフェノールに変換して用いることが有用である。
【0028】
((B)リグノフェノールの製造方法)
本発明の(B)成分は、木材や紙等のリグノセルロース系物質にフェノール誘導体を添加した後、酸で加水分解してリグノフェノールと炭水化物とに分離することにより得ることができる。また、(B)成分は上記リグノフェノールのアルカリ処理誘導体、あるいは上記リグノフェノール又は上記リグノフェノールのアルカリ処理誘導体における水酸基を保護した誘導体を含むものである。
【0029】
リグノセルロース系物質としては、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップ、廃材、及び端材等を挙げることができる。また用いる木材としては、針葉樹や広葉樹等任意の種類のものを使用するこができる。さらに、各種草本植物、それに関連する試料、例えば、農産廃棄物等も使用できる。
これらの材料を用いてリグノフェノールを分離する際、分離過程において加熱及び加圧しないで得られたものが好ましく用いられる。
【0030】
フェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体又は3価のフェノール誘導体等を用いることができる。1価のフェノール誘導体の具体例としては、フェノール、ナフトール、アントロール、アントロキノンオール等が挙げられ、それぞれ1以上の置換基を有していてもよい。2価のフェノール誘導体の具体例としては、レゾルシノール、ヒドロキノン等が挙げられ、それぞれ1以上の置換基を有していてもよい。3価のフェノール誘導体の具体例としては、ピロガロール等が挙げられ、1以上の置換基を有していてもよい。
例えば、ヒドロキシアントラセン、メトキシフェノール(モノ・ジ・トリ)、メチルカテコール、ビフェニル、ジメチルヒドロキシアリール、トリメチルヒドロキシアリール等の上記に挙げた以外を含むものもフェノール誘導体として用いることができる。
【0031】
フェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは電子吸引性の基(ハロゲン原子等)以外の基であり、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、及びアリール基(フェニル基等)等が挙げられる。また、フェノール誘導体上のフェノール性水酸基の2つあるオルト位のうちの少なくとも片方は無置換であることが好ましい。フェノール誘導体の特に好ましい例は、クレゾール、特にm−クレゾール又はp−クレゾールである。
【0032】
酸としては、セルロースに対する膨潤性を有する酸が好ましい。酸の具体例としては、例えば濃度65質量%以上の硫酸(例えば、72質量%の硫酸)、85質量%以上のリン酸、38質量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、及びギ酸等を挙げることができる。
【0033】
上記のようにして得られたリグノフェノールの抽出分離方法としては、例えば、次の2種類の方法が挙げられる。
第1の方法は、特許第2895087号公報に記載されている方法である。具体的には、木粉等のリグノセルロース系物質に液状のフェノール誘導体を浸透させることによりリグニンをフェノール誘導体に溶媒和させ、次に濃酸を添加してリグノセルロース系材料を溶解させる。このとき、リグニン基本構成単位の側鎖α位のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃され、ベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノールがフェノール誘導体相に生成される。そして、フェノール誘導体相からリグノフェノールを抽出する方法である。
フェノール誘導体相からのリグノフェノールの抽出は、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒を留去した後、乾燥処理し、乾燥物としてリグノフェノールを得る。なお、粗リグノフェノールは、フェノール誘導体相を単に減圧蒸留により除去することで得られる。また、アセトン可溶部を、そのままリグノフェノール溶液として、誘導体化処理(アルカリ処理)に用いることもできる。
【0034】
第2の方法は、特開2001−64494号公報に記載されている方法である。具体的には、リグノセルロース系物質に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体を溶解した溶媒を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール誘導体の収着工程)。次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解させ、第1の方法と同様リグノフェノールがフェノール誘導体相に生成され、リグノフェノールを抽出する方法である。
リグノフェノールの抽出は、第1の方法と同様にして行うことができる。あるいは、他の抽出方法として、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノールを抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノールを不溶区分として得る方法である。
【0035】
これら第1又は第2の2種類の方法においては、第2の方法が、なかでも特に後者の抽出方法、すなわち、リグノフェノールをアセトンあるいはアルコールにて抽出分離する方法が、フェノール誘導体の使用量が少なくてすむため経済的である。また、この方法が、少量のフェノール誘導体で、多くのリグノセルロース系材料を処理できるため、リグノフェノールの大量合成に適している。
【0036】
上記方法で得られた本発明の(B)成分は、一般的には以下のような特徴を有する。ただし、本発明で用いる(B)成分の特徴は以下のものに限定されることはない。
(1)重量平均分子量は約1,000〜200,000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さず、その色調は極めて淡色である。
(3)針葉樹由来のもので約170℃、広葉樹由来のもので約130℃に融点を有する。
(4)側鎖α位へのフェノール誘導体の選択的グラフティングの結果、フェノール性水酸基量が非常に多く、高いフェノール特性が付与されたリグニン誘導体である。
(5)リグニン構成単位の芳香核と側鎖α位にグラフティングされたフェノール誘導体の芳香核とでジフェニルメタン型構造を形成し、自己縮合は抑制されている。
(6)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)等各種溶媒に容易に溶解する。
【0037】
また、上記方法で得られた(B)成分は、さらにアルカリ処理することにより誘導体化してから用いることができる。
天然リグニンより相分離プロセスにより得られたリグノフェノールは、その活性炭素のα位がフェノール誘導体でブロックされているので、総体として安定である。しかし、アルカリ性条件下ではそのフェノール性水酸基は容易に解離し、生じたフェノキシドイオンは立体的に可能な場合には隣接炭素のβ位を攻撃する。これによりβ位のアリールエーテル結合は開裂し、リグノフェノールは低分子化され、さらに導入フェノール核にあったフェノール性水酸基がリグニン母体へと移動する。したがって、アルカリ処理された誘導体はアルカリ処理する前のリグノフェノールよりも疎水性が向上することが期待される。
このときγ位の炭素に存在するアルコキシドイオンあるいはリグニン芳香核のカルバニオンがβ位を攻撃することも期待されるが、これはフェノキシドイオンに比べはるかに高いエネルギーを必要とする。したがって、緩和なアルカリ性条件下では導入フェノール核のフェノール性水酸基の隣接基効果が優先的に発現し、より厳しい条件下ではさらなる反応が起こり、いったんエーテル化されたクレゾール核のフェノール性水酸基が再生し、これによりリグノフェノールはさらに低分子化されるとともに水酸基が増えることにより親水性が上がることが期待される。
【0038】
さらに、リグノフェノール及びそれをアルカリ処理したリグノフェノール誘導体には、フェノール性及びアルコール性水酸基が存在するため多様な特性を示すことになる。この水酸基を保護することにより異なる別の特性を示す誘導体を得ることができる。水酸基を保護する方法としては、例えば、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンジル基等が挙げられ、好ましくはアシル基)等の保護基で水酸基を保護することが挙げられる。また、ハイドロキシメチル化を行うことにより、新たなベンジル構造が生じ、よりバリエーションが広げることができる。
【0039】
[(C)コアシェルタイプゴム状弾性体]
本発明において、(C)コアシェルタイプゴム状弾性体は、コア(芯)とシェル(殻)から構成される2層構造を有しており、コア部分は軟質なゴム状態であって、その表面のシェル部分は硬質な樹脂状態であり、弾性体自体は粉末状(粒子状態)のものである。このゴム状弾性体を、ポリカーボネート樹脂とブレンドした後も、その粒子状態は、大部分が元の形態を保っているため、成形後に表層剥離を起こさない効果が得られる。
【0040】
(C)成分として用いることができるコアシェルタイプゴム状弾性体としては、種々なものを挙げることができる。例えば、アルキルアクリレートやアルキルメタクリレート、ジメチルシロキサンを主体とする単量体から得られるゴム状重合体の存在下に、ビニル系単量体の1種または2種以上を重合させて得られるものが挙げられる。ここで、アルキルアクリレートやアルキルメタクリレートとしては、炭素数2〜10のアルキル基を有するものが好適である。具体的には、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルメタクリレート等が挙げられる。
【0041】
これらのアルキルアクリレート類を主体とする単量体から得られるゴム状重合体としては、アルキルアクリレート類70重量%以上と、これと共重合可能な他のビニル系単量体、例えばメチルメタクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン等30重量%以下とを反応させて得られる重合体が挙げられる。なお、この場合、ジビニルベンゼン、エチレンジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能性単量体を架橋剤として適宜添加して反応させてもよい。
【0042】
ゴム状重合体の存在下に反応させるビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。
これらの単量体は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよいし、また、他のビニル系重合体、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物や、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物等と共重合させてもよい。この重合反応は、例えば塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種方法によって行うことができる。特に、乳化重合法が好適である。
【0043】
このようにして得られるコアシェルタイプゴム状弾性体は、前記ゴム状重合体を20重量%以上含有していることが好ましい。このようなコアシェルタイプゴム状弾性体としては、具体的には60〜80重量%のn−ブチルアクリレートと、スチレン、メタクリル酸メチルとのグラフト共重合体などのMAS樹脂弾性体が挙げられる。市販のMAS樹脂弾性体としては、例えばハイブレンB621(商品名、日本ゼオン(株)製)、KM−330(商品名、ローム&ハース(株)製)、メタブレンW529、メタブレンS2001、メタブレンC223、メタブレンB621(商品名、三菱レイヨン(株)製)、パラロイドEXL−2603(商品名、呉羽化学工業(株)製)等が挙げられる。
コアシェルタイプゴム状弾性体は、特開昭59−93748号公報に開示されており、同公報に開示のアクリレートベースコア−重合アクリレートシェル重合体を、本発明において好適に用いることができる。
【0044】
本発明で用いる(C)コアシェルタイプゴム状弾性体は、反応基を有するものであると好ましい、この反応基としては、エポキシ基、グリシジル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ビニル基等が挙げられ、中でもグリシジル基を有するコアシェルタイプゴム状弾性体は、着色防止に特に有効である。グリシジル基を持ったコアシェルタイプゴム状弾性体としては、三菱レイヨン株式会社製の「メタブレンS2200」などがある。
【0045】
[(A)ポリカーボネート樹脂、(B)リグノフェノール及び(C)コアシェルタイプゴム状弾性体との配合割合]
(A)ポリカーボネート樹脂、(B)リグノフェノール及び(C)コアシェルタイプゴム状弾性体との配合割合は、(A)成分99〜60質量%及び(B)成分1〜40質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(C)成分は1〜30質量部である。
(A)成分と(B)成分との合計量中の(A)成分が99質量%を超えると流動性を改善する効果が低下し、60質量%未満であると耐衝撃性、耐熱性及び難燃性が低下するので好ましくない。好ましくは、(A)成分90〜70質量%、(B)成分10〜30質量%であり、さらに好ましくは、(A)成分95〜70質量%、(B)成分5〜30質量%である。
また、(B)成分が1質量%未満であると難燃性及び流動性を向上させることができず、50質量部を越えると流動性が極めて高くなることにより成形性が悪化し、成形が困難となるので好ましくない。
また、(C)成分が1重量部未満であると衝撃強度や成形外観向上に効果が無く、30重量部を越えると流動性が低下し、成形外観向上に効果が無いため好ましくない。好ましくは3〜20重量部である。
【0046】
[添加剤成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(A)〜(C)成分とともに、添加剤成分を必要により添加含有させることができる。例えば、フェノール系、リン系、イオウ系酸化防止剤、帯電防止剤、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、抗菌剤、相溶化剤、着色剤(染料、顔料)等が挙げられる。添加剤成分の添加量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0047】
[混練・成形]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(A)〜(C)成分を前記割合で配合し、さらに必要に応じて用いられる添加剤成分を適当な割合で添加し、混練することにより得られる。このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機、あるいは、得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。特に、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、次いでこのペレットを用いて、射出成形あるいは射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。
【0048】
本発明は、また前述した本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体をも提供する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体、好ましくは射出成形体(射出圧縮を含む)であり、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品等に用いられる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
各例で得られた樹脂組成物の性能試験は、次のとおり行った。
(1)メルトインデックス(MI):流動性
測定条件樹脂温260℃、荷重21.18Nにおいて、ASTM規格D−1238に準拠し測定した。
(2)アイゾット衝撃強度(IZOD):耐衝撃性
厚さ1/8インチの試験片を用いて、ASTM規格D−256に準拠し、測定温度23℃にて測定した。
(3)熱変形温度(荷重たわみ温度):耐熱性
ASTM規格D−648に準拠して曲げ応力1.8MPaで測定した。
(4)酸素指数(LOI):難燃性
ASTM規格D−2863に準拠し測定した。酸素指数とは、試験片が燃焼を維持するのに必要な最低酸素濃度を空気中の容量%で示した値である。
(5)黄色度(YI値)
日本電色工業株式会社製の分光測色計Σ90で測定面積30φ、C2光源の透過法で測定した。
(6)成形外観
目視により観察した。真珠光沢やシルバーなどの外観不良が見られない場合を○、真珠光沢あるいはシルバーなどの外観不良が見られるもの場合を×とした。
【0050】
また、各例で用いた各成分は次のとおりである。
(A)ポリカーボネート樹脂
芳香族ポリカーボネート樹脂:商品名 タフロンA1900[出光興産株式会社製、粘度平均分子量=19,500]
(B)リグノフェノール
リグノクレゾール:
前記式(III)に示すリグノクレゾール:
ブナの木粉をp−クレゾールを含むアセトン溶液に浸漬して、木粉にp−クレゾールを収着させた。収着後の木粉に72質量%の硫酸を添加し激しく攪拌した。攪拌停止後浄水を加え放置し、上澄みをデカンテーションする操作を6回繰り返して酸と過剰のp−クレゾールを取り除いた。容器内の沈殿物を乾燥し、これにアセトンを加え、式(III)の構造を有するリグノクレゾールを抽出した後、アセトンを留去した。具体的には、特開2001−64494号公報の実施例1と同様に行った。
(C)コアシェルタイプゴム状弾性体
コアシェルタイプゴム状弾性体:[三菱レイヨン株式会社製]商品名 C223
反応型(グリシジル基)コアシェルタイプゴム状弾性体:[三菱レイヨン株式会社製]商品名 S2200
・その他成分
スチレン系熱可塑性エラストマー(SBS):[浅木化成株式会社製]商品名 タフプレンA
【0051】
[実施例1〜5及び比較例1〜4]
表1に示す割合で上記各成分を配合し、押出機(機種名:VS40、田辺プラスチック機械株式会社製)に供給し、240℃で溶融混練し、ペレット化した。なお、すべての実施例及び比較例において、フェノール系酸化防止剤としてイルガノックス1076(BASF社製)0.2質量部及びリン系酸化防止剤としてアデカスタブC(株式会社ADEKA製)0.1質量部をそれぞれ配合した。得られたペレットを、120℃で12時間乾燥させ後、射出成形機(東芝機械株式会社製、型式:IS100N)シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用いて性能を上記性能試験によって評価し、その結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より次のことが分った。
・実施例1〜5
(A)ポリカーボネート樹脂に(B)リグノフェノール及び(C)コアシェルタイプゴム状弾性体を添加すると、流動性、耐衝撃性、耐熱性及び難燃性に優れ、しかも黄色度が低く、成形外観がよいポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。特に、(C)コアシェルタイプゴム状弾性体としてグリシジル基を有する反応型コアシェルタイプゴム状弾性体を用いたものは、耐衝撃性が高く、黄色度の低減が顕著である。
・比較例1〜4
(C)コアシェルタイプゴム状弾性体を用いないと耐衝撃性が低下するとともに、黄色度も高く、シルバーが発生し外観不良となり(比較例1)、(C)コアシェルタイプゴム状弾性体の代わりに、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いた場合では、(B)リグノフェノールの分散性が低下し、耐衝撃性が低く、成形時にブツが発生して外観不良であり(比較例4)、(B)リグノフェノールの配合量が多すぎると成形が困難となり、射出成形できない(比較例2)。また、(C)コアシェルタイプゴム状弾性体の配合割合が多すぎると、流動性が低く、光沢が無く外観不良となる(比較例3)。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、電子・電気機器、情報・通信機器、OA機器、自動車分野、建材分野等の各種材料として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂99〜60重量%及び
(B)下記一般式(I)で表される構造を有するリグノフェノール1〜40重量%
からなる、樹脂混合物100重量部に対して、
(C)コアシェルタイプゴム状弾性体1〜30重量部
を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

〔式中、R1及びR4はアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アラルキル基又はフェノキシ基を示し、R2はヒドロキシアリール基又はアルキル置換ヒドロキシアリール基を示し、R3はヒドロキシアルキル基、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基又は−OR5(R5は水素原子、アルキル基又はアリール基を示す)を示し、水素原子以外のR1〜R5はそれぞれ置換基を有していてもよく、p及びqは0〜4の整数を示す。ただし、pが2以上である場合、複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、qが2以上である場合、複数のR4はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。〕
【請求項2】
(A)ポリカーボネート樹脂が芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
(C)コアシェルタイプゴム状弾性体が反応基を有するコアシェルタイプゴム状弾性体である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2013−56971(P2013−56971A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195088(P2011−195088)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】