説明

ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品

【課題】 漆黒性、色調、鮮映性、耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物および成形品を提供することにある。
【解決手段】 構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、着色剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物中に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を、金属量として20質量ppm以下含有し、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品の反射光で測定したL値が6以下であるポリカーボネート樹脂組成物。


(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆黒性、鮮映性、耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性、機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、医療用部品、建材、フィルム、シート、ボトル、光学記録媒体、レンズ等の分野でいわゆるエンジニアリングプラスチックスとして利用されている。ポリカーボネート樹脂に着色剤あるいは添加剤を加えたポリカーボネート樹脂組成物についても、同様に種々の部品、部材として広く利用されている。
【0003】
近年、ポリカーボネート樹脂組成物を成型してなる成形品の、薄肉化、緻密化、大型化が進み、成形品の各種物性の向上要求が高まっている。特に、電気・電子・OA機器の筐体や、自動車用内・外装部品、その他生活関連の外装部品等においては、高級感を出すために、深みのある漆黒性、鮮映性があり、同時に耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性も兼ね備えることが、求められてきている。
【0004】
このような要求に対して、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物であって、一定量のチタン原子を含み、さらに染顔料を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(特許文献1)や、芳香族ポリカーボネート及び脂環式ポリエステル樹脂に対して、アンスラキノン系染料を含む2種類以上の染料からなる着色剤を含有してなる黒色樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形品(特許文献2)が提案されている。
【0005】
しかし、これらの何れにおいても、樹脂の漆黒性、鮮映性、耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性を同時に実現する技術としては、充分とは言えなかった。このような状況下、深みのある漆黒性、鮮映性があり、同時に耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性も兼ね備えた樹脂組成物及び成形品が要望されていた。
【0006】
一方、従来のポリカーボネート樹脂に使用されるビスフェノール化合物は、ベンゼン環構造を有するために紫外線吸収が大きく、このことがポリカーボネート樹脂の耐光性に影響を及ぼす傾向がある。このため、分子骨格中にベンゼン環構造を持たない脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物モノマーユニットを使用すれば、原理的には耐光性が改良されることが期待される。中でも、バイオマス資源から得られるイソソルビドをモノマーとしたポリカーボネート樹脂は、耐熱性や機械的強度が優れていることから、近年数多くの検討がなされるようになってきた(例えば、特許文献3〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−176972号公報
【特許文献2】特開2009−35691号公報
【特許文献3】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献4】特開2006−232897号公報
【特許文献5】特開2006−28441号公報
【特許文献6】特開2008−24919号公報
【特許文献7】特開2009−91404号公報
【特許文献8】特開2009−91417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物は、フェノール性水酸基を有しないため、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂の製法として広く知られている界面法で重合させることは困難であり、通常、エステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。この方法では、上記ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとを塩基性触媒の存在下、200℃以上の高温でエステル交換させ、副生するフェノール等を系外に取り除くことにより重合を進行させ、ポリカーボネート樹脂を得る。ところが、上記のようなフェノール性水酸基を有しないモノマーを用いて得られるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有するモノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂に比べ熱安定性に劣っているために、高温にさらされる重合中や成形中に着色が起こり、結果的には紫外線や可視光を吸収して耐光性に影響が生じるという課題があった。中でも、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を有するモノマーを用いた場合は色相に与える影響が大きく、着色剤を含有させない状態の樹脂の色相に影響を与えるばかりでなく、着色剤を含有させた樹脂組成物においても、白みがかり鮮映性に欠けて、漆黒性に優れた樹脂組成物が得られないという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来の課題を解消し、深みのある漆黒性、鮮映性があり、同時に耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性も兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、着色剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物中に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を触媒として含有し、その触媒として含有する金属量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して20質量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品の、反射光で測定したL値が6以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が、漆黒性、鮮映性とともに、優れた耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性を同時に有することを見出し、本発明に到達した。
【0011】
【化1】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[14]に存する。
【0012】
[1]構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、着色剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物中に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を触媒として含有し、その触媒として含有する金属量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して20質量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品の、反射光で測定したL値が6以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
【化2】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【0014】
[2]前記長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物がマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
[3]前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部中の前記着色剤の含有濃度が0.001質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
[4]前記着色剤が有機染料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0017】
[5]前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して酸化防止剤を0.0001質量部以上5質量部以下含んでなることを特徴とする特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0018】
[6]前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して難燃剤を0.01質量部以上30質量部以下含んでなることを特徴とする特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0019】
[7]前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と下記式(2)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0020】
【化3】

(式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
【0021】
[8]前記ポリカーボネート樹脂組成物が、芳香族モノヒドロキシ化合物を、700質量ppm以下含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0022】
[9]前記ポリカーボネート樹脂組成物中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1質量ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0023】
[10]構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0024】
【化4】

【0025】
[11]前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0026】
[12]前記ポリカーボネート樹脂組成物が、前記式(2)で表される炭酸ジエステルを60質量ppm以下を含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1つに記載ポリカーボネート樹脂組成物。
【0027】
[13]請求項1乃至11のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
【0028】
[14]ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものであることを特徴とする請求項12に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、漆黒性および熱滞留安定性に優れ、鮮映性、耐衝撃性、表面硬度、難燃性も兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品が得られる。
このような特長を有する本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、製品に高級感、重厚感を持たせることができる幅広い分野の成形品に使用することが可能であり、電気・電子・OA機器の筐体や、自動車用内・外装部品、その他生活関連の外装部品等への適用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0031】
・ ポリカーボネート樹脂組成物
本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、着色剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物中に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を触媒として含有し、その触媒として含有する金属量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して20質量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品の、反射光で測定したL値が6以下であることを特徴とする。
【0032】
【化5】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【0033】
なお、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物は、本ポリカーボネート樹脂の重縮合に用いる触媒に由来するものであり、ポリカーボネート樹脂組成物中のこれらの合計量は、ポリカーボネート樹脂組成物の鮮鋭性を高める観点から、金属量として、20質量ppm以下であり、好ましくは15質量ppm以下、より好ましくは12質量ppm以下である。
【0034】
一方、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物は、本ポリカーボネート樹脂の重縮合に用いる触媒に由来して含まれるものであり、触媒として含まれる金属を工業的に系外に除去することは困難であるため、その含有量の合計は、ポリカーボネート樹脂組成物に対する金属量として、通常0.001質量ppm以上、好ましくは0.05質量ppm以上、より好ましくは0.01ppm以上含まれるものである。
【0035】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれる長周期型周期表第2族の金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを指す。これらの長周期型周期表第2族の金属の中でも、ポリカーボネート樹脂組成物にマグネシウムまたはカルシウムが含まれていることが好ましく、カルシウムが含まれていることがより好ましい。
【0036】
また、ポリカーボネート樹脂組成物中の、原料あるいは重縮合反応生成物に由来する芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量は、好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下、特には300質量ppm以下であることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1質量ppmである。
【0037】
・ ポリカーボネート樹脂
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂である。
【0038】
【化6】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【0039】
製造方法は特には限定されないが、代表的な製造例としては、上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、下記式(2)で表される炭酸ジエステルとを、リチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の化合物である触媒の存在下で重縮合する製造方法が挙げられる。
【0040】
【化7】

(式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。)
【0041】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するための方法について詳述する。
<原料>
(ジヒドロキシ化合物)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「本発明のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得られる。
【0042】
【化8】

【0043】
本発明に用いるジヒドロキシ化合物としては、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物類、下記式(3)、(4)および(5)に代表されるような環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類が挙げられる。
【0044】
これらのジヒドロキシ化合物のなかでも、入手のし易さ、取扱いの容易さ、重合時の反応性の高さ、得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相の観点からは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましい。また耐熱性の観点からは、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物類が好ましく、中でも下記式(3)に代表される無水糖アルコール構造を有する化合物類、および下記式(4)、(5)に代表されるスピログリコール構造を有する化合物類が好ましく、特にはこれらのなかでも下記式(3)および下記式(4)に代表されるような複数の環構造を有するものが好ましく、その中でも2つの環構造を有するものが好ましい。
これらは得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
【化11】

【0048】
上記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、成形性、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度、難燃性、熱滞留安定性カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0050】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上記本発明のジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、その他のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールのなどの直鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物;ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコールなどの分岐鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、等の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類などが挙げられる。
【0051】
中でも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち直鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物、分岐鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物からなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、更に好ましくは直鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物であり、その中でも特に、直鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0052】
これらのその他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下や、耐熱性の低下を招くことがあるため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する本発明のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、通常20モル%以上、好ましくは30モル%以上、より好ましくは55モル%以上である。
【0053】
本発明のジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいても良く、特に酸性下で本発明のジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0054】
これら塩基性安定剤の、本発明のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明のジヒドロキシ化合物に対して、通常0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上であり、通常1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。
【0055】
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明のジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相に影響を与え、結果的に成形品の耐光性に影響を及ぼすため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
【0056】
本発明のジヒドロキシ化合物がイソソルビドなど、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の着色を招く可能性があり、又、物性を劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もある。
【0057】
上記酸化分解物を含まない本発明のジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下の条件で行う。
【0058】
このような蒸留精製で、本発明のジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を通常20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは5質量ppm以下にすることにより、前記本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
【0059】
(炭酸ジエステル)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述した本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
【0060】
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(2)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
【化12】

(式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。)
【0062】
上記式(2)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相に影響を及ぼす場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0063】
<エステル交換反応触媒>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造方法は特に限定されるものではないが、代表例としては、上記式(1)の本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、上記式(2)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する方法が挙げられる。より詳細には、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行い、エステル交換反応の際に副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去する方法が挙げられる。
【0064】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば、限定されないが、本発明においては少なくとも長周期型周期表における第1族または第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物が用いられる。また、その他に使用可能な触媒の例としては、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0066】
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0067】
1族金属化合物とは、例えば、リチウム、カリウム、セシウムのような、1族金属を含有する化合物のことである。より具体的には、1族金属化合物として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
【0068】
2族金属化合物とは、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのような、2族金属を含有する化合物のことである。より具体的には、2族金属化合物として、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0069】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0070】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0071】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0072】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0073】
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり通常0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上であり、通常300μmol以下、好ましくは100μmol以下である。中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
【0074】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相や耐光性に影響を与えたり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(2)で表される炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相に影響を与え、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の耐光性に影響を及ぼす可能性がある。
【0075】
また、1族金属、中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、特にはナトリウム、カリウム、セシウムは、ポリカーボネート樹脂組成物中に多く含まれると色相に影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂組成物中のこれらの合計量は、金属量として、通常1質量ppm以下、好ましくは0.8質量ppm以下、より好ましくは0.7質量ppm以下である。
【0076】
ポリカーボネート樹脂組成物中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂組成物中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0077】
更に、式(2)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性に影響を与える場合があるだけでなく、成型時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000質量ppm以上の、副生フェノール等に由来する芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物を低減して、ポリカーボネート樹脂中に好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下、特には300質量ppm以下含有することが好ましい。ポリカーボネート樹脂組成物中の芳香族モノヒドロキシ化合物は、上記のようにポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物を低減することによって、本発明で好ましい範囲とすることもできるが、ポリカーボネート樹脂と添加剤等とを混合する際に、真空ベント付の押出機を用いて脱揮しながら溶融混練することによっても、本発明で好ましい範囲に調整することができる。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1質量ppmである。なお、本発明において、芳香族モノヒドロキシ化合物には後述する「フェノール系酸化防止剤」は含まれないものとする。より具体的には、本発明における芳香族モノヒドロキシ化合物は、芳香族環が有する全ての置換基の炭素数の合計が、6を超えないものである。
【0078】
なお、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0079】
<製造方法>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(2)の炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0080】
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは120℃以下である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等に影響を及ぼす可能性がある。混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相が変化し、耐光性に影響を及ぼす可能性がある。
【0081】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の原料である本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(2)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度が通常0.0001体積%以上であり、通常10体積%以下、好ましくは5体積%以下、より好ましくは1体積%以下の雰囲気下で行うことが、色相への影響の観点から好ましい。
【0082】
本発明に用いる樹脂を得るためには、前記式(2)で表される炭酸ジエステルは、本発明の反応に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物に対して、通常0.90以上、好ましくは、0.95以上のモル比率で用いることが好ましく、通常1.20以下、好ましくは1.10以下のモル比率で用いることが好ましい。
【0083】
このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性に影響を与え、成型時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られ難い可能性がある。
【0084】
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相や耐光性に影響を及ぼす可能性がある。
【0085】
更には、本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物に対して、前記式(2)で表される炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の耐光性に影響を及ぼす可能性がある。本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物に残存する炭酸ジエステルの濃度は、通常200質量ppm以下、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは60質量ppm以下、中でも30質量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネート樹脂組成物は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1質量ppmである。
【0086】
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0087】
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本願発明の目的を達成することができない可能性がある。
【0088】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において通常45℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常180℃以下、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは130℃以下である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0089】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
【0090】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0091】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、好ましくは3つ以上、より好ましくは3〜5つ、さらに好ましくは4つである。
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0092】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
【0093】
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の分解や着色を助長する可能性がある。
【0094】
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、通常140℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上で、通常270℃以下、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下であり、通常1kPa以上、好ましくは5kPa以上、より好ましくは10kPa以上で、通常110kPa以下、好ましくは70kPa以下、より好ましくは30kPa以下(絶対圧力)の圧力下、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上で、通常10時間以下、好ましくは3時間以下の時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
【0095】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度を通常210℃以上、好ましくは220℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下であり、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上で、通常10時間以下、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下行う。
【0096】
色相や耐光性の良好なポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物を得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満、特に225℃〜245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0097】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルやビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
【0098】
ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0099】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0100】
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは260℃以下である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招く。
【0101】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として通常100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下が好ましく、さらには10μm以下が好ましい。
【0102】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B−9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
【0103】
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
【0104】
このようにして得られた、本発明に用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、還元粘度の上限は、1.20dL/g以下、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
【0105】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。
【0106】
なお、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0107】
更に本発明に用いるポリカーボネート樹脂中の下記式(6)で表される末端基の濃度の下限量は、通常20μeq/g、好ましくは40μeq/g、より好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/g、好ましくは140μeq/g、より好ましくは100μeq/gである。
【0108】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂中の、下記式(6)で表される末端基の濃度が、高すぎると重合直後や成型時の色相が良くても、紫外線曝露後の色相に影響を及ぼす可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する可能性がある。
【0109】
下記式(6)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(2)で表される炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0110】
【化13】

【0111】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素原子のモル数を(A)、芳香環以外に結合した水素原子のモル数を(B)とした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率は、A/(A+B)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、A/(A+B)は0.1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下、好適には0.01以下である。A/(A+B)は、H−NMRで定量することができる。
【0112】
<L値>
本発明に係る樹脂組成物のL*値は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形品をJIS K−7105に準じ測定したものであって、通常、測定用の成形体を成形した上で、当該成形体のL値を測定するが、既に成形体となっている場合は、その一部を切り出すなど、測定可能な状態として測定すればよく、その形状には制限されない。成形体を成形する方法に特制限は無いが、例えば射出成形により平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を作成し、JIS K−7105に準じ日本電色工業社製SE2000型分光式色彩計(反射法)にて測定する方法があげられる。この場合の射出成形条件としては、樹脂組成物ペレットを、110℃で4時間以上乾燥した後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で、成形品の表面粗さが、JIS B0601(2001年)で規定される輪郭曲線の最大高さRzで0.2μm以下、且つ輪郭曲線要素の平均長さRSmが25μm以下になるように成形することが好ましい。反射光で測定したL値は6以下であり、好ましくは5以下、更に好ましくは2以下である。L値を上記範囲とするには、広い波長領域において光吸収体を有する着色剤を、本発明に用いるポリカーボネート樹脂に含有させればよい。また、L値の下限については特に制限はないが、通常0.1以上である。なお、L値の測定は後掲の実施例に記載の方法によって行うことができるが、その測定に用いる成形品の成形条件、測定に用いる成形品の厚さ等には特に制限はなく、測定されて得られたL値が6以下であれば良い。ただし、実際の製品においてはポリカーボネート樹脂組成物は通常、0.1〜20mm、好ましくは0.5〜10mmの厚みに成形されることが多く、後掲の実施例では3mmの厚みの成形品を例示している。
【0113】
値を6以下、好ましくは5以下、更に好ましくは2以下とするには、可視光領域において光学反射率が一定以下に低くなるよう各種着色剤を適宜含有させればよい。より具体的には、400nm以上800nm以下の波長領域において、最大反射率が、好ましくは5%以下、より好ましくは0.1%〜3.5%、特に好ましくは0.1%〜3%の範囲内となるように着色剤を含有させる。最終的に400nm以上800nm以下の波長領域での最大反射率が上記範囲内となれば、使用する着色剤の種類、量に特に制限は無く、最大吸収波長の異なる複数の着色剤の組み合わせとしても構わない。
【0114】
値を6以下、好ましくは5以下、更に好ましくは2以下とすると、漆黒性のある成形体が実現できる。より深みのある良好な漆黒性を実現するためには、少なくとも、400nm以上、好ましくは500nm以上の波長領域に光吸収を有する着色剤と、他の着色剤を併用することが好ましい。
【0115】
<着色剤>
本発明に用いる着色剤としては特に制限が無いが、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。L値が6以下となるように着色できるものであれば特に制限は無い。ただし、上記で述べたように、より深みのある漆黒性の実現のためには、有機染料を用いることが好ましく、より好ましくは少なくともアンスラキノン系染料を含む2種以上の染料からなる着色剤を用いること、さらに好ましくは2種以上のアンスラキノン系染料を用いることが好ましい。
【0116】
本発明に用いる着色剤の総量としては、本発明のポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.05質量部以上であり、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下用いる。
【0117】
着色剤の量がこれより少なすぎると漆黒性が足りず、また、多すぎると経済的に問題があるばかりでなく、成形時にモールドデポジット等で外観不良現象が発生しやすくなる。 本発明に用いる着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等の染顔料が挙げられ、着色できるものであれば特に制限は無い。
以下、着色剤について詳細に説明する。
【0118】
無機顔料としては具体的には例えば、カーボンブラック;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料等;が挙げられる。
【0119】
有機顔料及び有機染料としては具体的には例えばフタロシアニン系染顔料;アゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;アンスラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、メチン系、キノリン系、複素環系、メチル系の染顔料等;が挙げられる。
これらの中でも、着色性、漆黒性、深み、清澄性の観点で、少なくともアンスラキノン系染料を用いるのが好ましい。
【0120】
アンスラキノン系染料としては、Solvent Red 52、Solvent Red 111、Solvent Red 149、Solvent Red 150、Solvent Red 151、Solvent Red 168、Solvent Red 191、Solvent Red 207、Disperse Red 22、Disperse Red 60、Disperse Violet 31、Solvent Blue 35、Solvent Blue 36、Solvent Blue 63、Solvent Blue 78、Solvent Blue 83、Solvent Blue 87、Solvent Blue 94、Solvent Blue 97、Solvent Green 3、Solvent Green20、Solvent Green 28、Disperse Violet 28、Solvent Violet 13、Solvent Violet 14、Solvent Violet 36等のカラーインデックスで市販されている染料が挙げられる。
【0121】
これら染顔料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。染顔料の組み合わせについては特には制限されないが、より好ましくは、少なくともアンスラキノン系染料を含む2種以上の染料からなる着色剤を用いること、さらに好ましくは2種以上のアンスラキノン系染料を用いることが好ましい。
【0122】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物に配合する前記染顔料の含有時期、含有方法は特に限定されない。含有時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際等が挙げられる。含有方法としては、ポリカーボネート樹脂に前記染顔料を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と前記染顔料を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできるが、漆黒性、鮮映性の観点では、直接混合または混錬する方法がより好ましい。
【0123】
<酸化防止剤>
本発明の樹脂組成物には、更に酸化防止剤を含んでも良い。酸化防止剤としては樹脂に使用される一般的な酸化防止剤が種々使用できるが、酸化安定性、熱安定性、漆黒性等の観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、およびフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0124】
ここで、酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.0005質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上であり、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0125】
前記含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になることがある。また、前記含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観に影響が生じる可能性がある。
【0126】
(ホスファイト系酸化防止剤)
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0127】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。これらの化合物は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0128】
ここで、ホスファイト系酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.0002質量部以上であり、通常1質量部以下、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下である。
【0129】
前記含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になることがある。また、前記含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観に影響が生じる可能性がある。
【0130】
(イオウ系酸化防止剤)
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などをあげることができる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0131】
ここで、イオウ系酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.0002質量部以上であり、通常1質量部以下、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下である。
【0132】
前記含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になることがある。また、前記含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれる可能性がある。
【0133】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤をそれぞれ単独で含有しても着色抑制の効果の発現は乏しく、双方含有することで、成形時の着色抑制に多大な効果を発揮する可能性がある。
【0134】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の化合物が挙げられる。
【0135】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0136】
ここで、フェノール系酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.0002質量部以上であり、通常1質量部以下、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下である。
【0137】
前記含有量が過度に少ないと、成形時の着色抑制効果が不十分になることがある。また、前記含有量が過度に多いと、射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観に影響が生じる可能性がある。
【0138】
<難燃剤>
また、本発明で使用するポリカーボネート樹脂組成物には難燃剤を含有しても良い。難燃剤の含有量は、難燃剤の種類や難燃性の程度に応じて選択される。本実施の形態では、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、難燃剤が通常0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上であり、通常30質量部以下、好ましくは25質量部以下の範囲である。難燃剤を含有することにより、難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0139】
難燃剤としては、例えば、燐含有化合物系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、スルホン酸金属塩系難燃剤、珪素含有化合物系難燃剤等が挙げられる。本実施の形態では、これらの群より選ばれた少なくとも1種を使用することができる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0140】
燐含有化合物系難燃剤としては、例えば、燐酸エステル系化合物、ホスファゼン系化合物、赤燐、被覆された赤燐、ポリ燐酸塩系化合物等が挙げられる。燐含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.1質量部〜20質量部である。配合量が過度に少ないと十分な難燃性が得られにくく、過度に多いと耐熱性が低下しやすい。
【0141】
ハロゲン含有化合物系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、臭素化芳香族トリアジン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシポリマー、デカブロモジフェニルオキサイド、トリブロモアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、デカブロモジフェニルエタン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。
【0142】
ハロゲン含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、0.1質量部〜20質量部である。ハロゲン含有化合物系難燃剤の含有量が過度に少ないと十分な難燃性が得られにくく、過度に多いと機械的強度が低下し、また難燃剤のブリードによる変色の原因となる場合がある。
【0143】
スルホン酸金属塩系難燃剤としては、例えば、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、好ましくは、周期表1族の金属、周期表2族の金属等が挙げられる。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ベリリウム、マグネシウムである。
【0144】
スルホン酸金属塩系難燃剤の中でも、難燃性と熱安定性の観点から、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が好ましい。
【0145】
芳香族スルホンスルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。これらは重合体であってもよい。芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム塩、4−クロロー4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩等が挙げられる。
【0146】
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ土類金属塩等が好ましい。さらに、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等がより好ましい。
【0147】
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0148】
スルホン酸金属塩系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.01〜5質量部である。スルホン酸金属塩系難燃剤の含有量が過度に少ないと十分な難燃性が得られにくく、過度に多いと熱安定性が低下しやすい。
【0149】
珪素含有化合物系難燃剤としては、例えば、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。これらの中で、シリコーンワニスが好ましい。
【0150】
シリコーンワニスとしては、例えば、主として2官能型単位[(RO)SiO]と3官能型単位[(RO)SiO1.5]からなり、1官能型単位[(RO)SiO0.5]及び/又は4官能型単位[SiO]を含むことがある比較的低分子量の溶液状シリコーン樹脂が挙げられる。ここで、Rは、炭素数1〜12の炭化水素基又は一個以上の置換基で置換された炭素数1〜12の炭化水素基である。置換基としてはエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基及びビニル基等が挙げられる。ROの種類を変えることにより、マトリックス樹脂との相溶性を改善することが可能である。
【0151】
シリコーンワニスとしては、無溶剤のシリコーンワニス、溶剤を含むシリコーンワニス等が挙げられる。本実施の形態では、溶剤を含まないシリコーンワニスが好ましい。シリコーンワニスは、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等のアルキルアルコキシシランの加水分解により製造することができる。これらの原料のモル比、加水分解速度等を調整することにより分子の構造(架橋度)及び分子量のコントロールが可能である。さらに、製造条件によってはアルコキシシランが残存するが、組成物中に残存するとポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合が有るため、残存アルコキシシランは少量又は無いことが望ましい。
【0152】
シリコーンワニスの粘度は、300センチストークス以下が好ましく、より好ましくは250センチストークス以下であり、さらに好ましくは200センチストークス以下である。シリコーンワニスの粘度が過度に大きいと、難燃性が不十分になることがある。
【0153】
珪素含有化合物系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.1〜10質量部である。珪素含有化合物系難燃剤の配合量が過度に少ないと十分な難燃性が得られにくく、過度に多いと耐熱性が低下しやすい。
【0154】
本実施の形態では、より高い難燃性を達成するために、滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの併用が好ましい。滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンは、重合体中に容易に分散し、かつ重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示す。滴下防止用として市販されているものは、例えば、テフロン(登録商標)6J、テフロン(登録商標)30J(三井・デュポンフロロケミカル株式会社)、ポリフロンF201L(ダイキン化学工業株式会社)等が挙げられる。
【0155】
滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.01質量部〜2.0質量部である。滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの配合量が過度に少ないと、燃焼時の溶融滴下防止効果が不十分であり、過度に多いと、成形品外観に影響を及ぼす可能性がある。
【0156】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂組成物に配合する前記酸化防止剤および前記難燃剤の含有時期、含有方法は特に限定されない。含有時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際等が挙げられる。含有方法としては、ポリカーボネート樹脂に前記酸価防止剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と前記酸化防止剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0157】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物には、種々の成形を行う前に、着色剤、酸化防止剤、難燃剤のみならず、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機などで混合することが出来る。
【0158】
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0159】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から樹脂成形品を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法、すなわち一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等を採用することができる。また、ホットランナー方式を用いた成形法を選択することもできる。これらの中でも成形の自由度の観点から射出成形法が好ましい。
【0160】
以下に射出成形法と押出成形法の具体的な条件を挙げる。
射出成形法では、成形温度(シリンダー温度)は、好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、一方、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、特に好ましくは250℃以下である。上記上限値以下であると、ポリカーボネート樹脂組成物が分解しにくくなり、製品への転写性が良好となるため、漆黒性がより得やすくなる。また、上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が低くなり、金型面の製品への転写性が良好となる。また、金型温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、一方、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。金型温度が上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が抑えられ、金型面の製品への転写性が良好となり、また、金型温度が上記下限値以下であると、成形サイクルが長くなり過ぎずに製造コストを抑えることができる。
【0161】
また、押出成形法では、成形温度(シリンダー温度)は好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、一方、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、特に好ましくは250℃以下である。上記上限値以下であると、ポリカーボネート樹脂組成物が分解しにくくなるため、ダイに分解物が付着するのを抑えることができるために好ましく、上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が低くなり、ロール面の製品への転写性が良好となる。また、ロール温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、一方、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。ロール温度が上記下限値以上であると、ロール面の製品への転写製が良好となるため好ましく、ロール温度が上記下限値以下であると、ロールに製品が巻きつくことが抑えられ、所望の製品を得やすくなるために好ましい。
【実施例】
【0162】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限値または下限値の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限値または下限値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
ポリカーボネート樹脂組成物の組成又は成形体の物性の評価は、次の方法により行った。
【0163】
(1)ポリカーボネート樹脂組成物中の金属濃度の測定
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂組成物のペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP−MSで金属濃度を測定した。金属濃度の測定は、ナトリウム、カリウム、及びセシウムの合計濃度、リチウムの濃度、並びにカルシウムの濃度について行った。
上記の測定により定量したポリカーボネート樹脂中の金属濃度に基づき、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対する金属含有量を算出した。算出方法は、まず、各原料の分子量、触媒の式量、及び各原料と触媒とのモル比率からポリカーボネート樹脂に対するカルシウムの質量部を求め、次にポリカーボネート樹脂組成物全体に対する質量部(質量ppm)を求めた。
【0164】
(2)ポリカーボネート樹脂組成物中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比及び末端フェニル基濃度の測定
ポリカーボネート樹脂組成物中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比は、ポリカーボネート樹脂組成物30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、溶液とし、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH−NMRスペクトルを測定した。各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナル強度比より各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を求めた。末端フェニル基濃度は、1,1,2,2−テトラブロモエタンを内標として、上記と同様にH−NMRを測定し、内標と末端フェニル基に基づくシグナル強度比より求めた。
【0165】
(3)還元粘度の測定
ポリカーボネート樹脂組成物のサンプルを、溶媒として塩化メチレンを用いて溶解し、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0166】
(4)ポリカーボネート樹脂組成物中のフェノール濃度、DPC(ジフェニルカーボネート)濃度の測定
ポリカーボネート樹脂組成物の試料1.25gを塩化メチレン7mlに溶解し、溶液とした後、総量が25mlになるようにアセトンを添加して再沈殿処理を行った。次いで、該処理液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにて定量を行った。
【0167】
(5)芳香環に結合した水素原子のモル数(A)の全水素原子のモル数(A+B)に対する比(ここで(B)は芳香環に結合していない水素原子のモル数である)
内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)をあらかじめ添加混合した重クロロホルムのみのスペクトルを測定し、TMSと重クロロホルム中に含まれる残存水素原子のシグナル比を求めた。次に、ポリカーボネート樹脂組成物30mgを秤取し、前記重クロロホルム約0.7mLに溶解させた。これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH−NMRスペクトルを測定した。得られたNMRチャートの6.5ppm〜8.0ppmに現れるシグナルの積分値から、重クロロホルム中に含まれる残存水素原子のシグナルの積分値(TMSのシグナルの積分値および前記で予め求めたTMSと重クロロホルム中に含まれる残存水素原子との比から求める)を差し引いた値をaとする。一方、0.5ppm〜6.5ppmに現れるシグナルの積分値をbとすると、a/(a+b)=A/(A+B)となるので、これを求めた。
【0168】
(6)ASTM試験片及び平板状成形品の作製
以下の実施例1及び比較例1において製造したポリカーボネート樹脂組成物のペレットについて、それぞれ、110℃で4時間以上乾燥した後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で、ASTM試験片及び平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を作製した。
【0169】
(7)樹脂組成物の漆黒性
樹脂組成物の漆黒性を前記(6)で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)のL値及び外観により評価した。L値は、JIS K−7105に準じ、日本電色工業社製SE2000型分光式色彩計(反射法)にて測定した。数値として、L値が6以下、好ましくは5以下のものを、更に好ましくは2以下のものを漆黒性に優れるものとした。また、上記平板状成形品の外観を目視にて観察し、くすみや濁りが観察されないものを○とし、くすみや濁りが若干観察されるものを△として評価した。
【0170】
(8)熱滞留安定性(熱滞留試験)
前記(6)で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)の表面外観を目視にて観察し、シルバーストリークによる肌荒れのないものを○、シルバーストリークによる肌荒れの若干あるものを△として熱滞留安定性を評価した。
【0171】
(9)鮮映性
前記(6)で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)の表面外観を目視にて観察し、蛍光灯下で塗膜表面に蛍光灯管を映し出し、凹凸が見つけられなくかつ蛍光灯管が真直ぐに映し出されたものを○とし、著しい凹凸が見受けられたり、蛍光灯管が歪んで映されたりするものを×と判定した。
【0172】
(10)シャルピー衝撃試験
JIS K−7111に基づき、シャルピー衝撃試験を行った(単位:kg−cm/cm2)。
【0173】
(11)表面硬度(引っかき強度)
JIS K−5600−5−4に準拠して評価した。
【0174】
(12)難燃性
二軸押出機で混練したペレットを、80℃で4時間予備乾燥し、日本製鋼所製J75EII型射出成形機で、シリンダー温度230℃、成形サイクル45秒、金型温度60℃の条件で、UL94規格に準じて1.5mmtの燃焼試験片を成形した。得られた試験片にて、UL94規格の垂直燃焼試験を行って評価した。
【0175】
なお、以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール (イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学社製)
【0176】
[実施例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10−6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%〜0.001体積%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が215℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、215℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0177】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。
【0178】
得られたペレットを、2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。その結果、黄色度が小さく、明度に優れ、色調の良いポリカーボネート樹脂が得られ、耐光性も良好であった。
【0179】
得られたポリカーボネート樹脂を用い、ポリカーボネート樹脂組成物を調整した。ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対し、染料としてランクセス社製Macrolex(登録商標) Violet3R;0.1質量部、三菱化学社製Diaregin Blue H3G;0.01質量部、有本化学工業社製Oil Green 5602;0.1質量部(以上、アンスラキノン系染料)、ランクセス社製Macrolex(登録商標) Yellow 6G;0.05質量部(メチン系染料)、酸化防止剤として、BASF・ジャパン社製 イルガノックス(登録商標)1010;0.1質量部、BASF・ジャパン社製 イルガフォス(登録商標)168;0.05質量部、難燃剤として、大八化学工業製PX−200;8質量部を、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30XCT、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数200rpmにてバレル1より押出機にフィードし溶融混練することにより樹脂組成物のペレットを作製した。
得られたペレットを用い、前記(6)に記載した方法でポリカーボネート樹脂組成物の成形品を作成した。
実施例1で得られたポリカーボネート樹脂組成物、および成形品の評価結果は、表1に示した。
【0180】
[比較例1]
酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂は、実施例1に比べ、透明性、明度、耐光性が劣っていた。
【0181】
さらに実施例1と同様に、ポリカーボネート樹脂に対してアンスラキノン系染料および酸化防止剤を添加し、ポリカーボネート樹脂組成物、および成形品を評価し、その結果を表1に示した。
【0182】
表1から明らかな通り、本発明の樹脂組成物および成形品は、ポリカーボネート樹脂組成物としての一般的な耐衝撃性、表面硬度、難燃性を示し、かつ漆黒性、鮮映性があり、同時に熱滞留安定性も兼ね備える、物性バランスに優れたものであることがわかる。
【0183】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、着色剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物中に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を触媒として含有し、その触媒として含有する金属量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して20質量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品の、反射光で測定したL値が6以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物がマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部中の前記着色剤の含有濃度が0.001質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記着色剤が有機染料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して酸化防止剤を0.0001質量部以上5質量部以下含んでなることを特徴とする特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して難燃剤を0.01質量部以上30質量部以下含んでなることを特徴とする特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と下記式(2)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂組成物が、芳香族モノヒドロキシ化合物を700質量ppm以下含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリカーボネート樹脂組成物中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1質量ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリカーボネート樹脂組成物が、前記式(2)で表される炭酸ジエステルを60質量ppm以下含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項14】
ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものであることを特徴とする請求項13に記載のポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−184419(P2012−184419A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32133(P2012−32133)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】