説明

ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品

【課題】耐光性、色調、光反射率、耐衝撃性などに優れたポリカーボネート樹脂組成物、その成形品及び光反射部材を提供する。
【解決手段】構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射率、耐衝撃性、耐光性、色相等に優れたポリカーボネート樹脂組成物、その成形品及び光反射部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。
【0003】
従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、得られたポリカーボネートは、褐色であり、満足できるものではない。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物とのポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており(例えば、特許文献2参照)、更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、イソソルビドとジフェニルカーボネートとのエステル交換により得られたポリカーボネートに二酸化チタンを添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案されているが(例えば、特許文献4参照)、透明性、色調に優れたポリカーボネート樹脂と二酸化チタンを組み合わせて反射率に優れるポリカーボネート樹脂を得ること、特に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むポリカーボネート樹脂組成物が光反射率に優れることについは記載されていない。
【0005】
また、イソソルビドとトリシクロデカンジメタノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換により得られたポリカーボネートに無機充填剤を添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案されているが(例えば、特許文献5参照)、無機充填剤として酸化チタン使用したことについては記載されておらず、ポリカーボネート樹脂組成物の光反射率などの光学特性を改善することついては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】特開昭56−55425号公報
【特許文献3】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献4】特開2009−191227号公報
【特許文献5】国際公開第10/061927号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イソソルビドのようなジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含み、耐光性、色相、光反射率、耐衝撃性などに優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、従来のポリカーボネート樹脂組成物では耐光性、色相、光反射率、耐衝撃性が不十分であるとの課題が見出された。本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、特定構造のポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、当該ポリカーボネート樹脂組成物中に特定の金属を特定量含むものが、優れた光反射率、耐衝撃性、耐光性などを有することを見出し、本発明に到達した。 即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[13]に存する。
【0009】
[1]構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
[2]前記式(1)で表される部位を有する構造単位(a)として、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むものである、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]前記式(1)で表される部位を有する構造単位(a)として、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むものである、[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
[4]前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を含むものである、[1]から[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]前記脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)として、シクロヘキサンジメタノール類に由来する構造単位を含むものである、[1]から[4]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(3)で表される炭酸ジエステルに由来する構造単位を含む、[1]から[5]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0014】
【化3】

【0015】
(上記式(3)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
[7]前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、前記式(3)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られたものである、[1]から[6]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8]前記重縮合が触媒の存在下で行われるものであって、該触媒がリチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物であり、かつこれらの金属化合物の合計量が、用いたジヒドロキシ化合物1molあたり、金属量として20μmol以下である、[7]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]ポリカーボネート樹脂100重量部に対して離型剤を0.001重量部以上2重量部以下含有する[1]から[8]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[10]ポリカーボネート樹脂100重量部に対して酸化防止剤を0.001重量部以上1重量部以下含有する[1]から[9]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0016】
[11][1]から[10]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品。
[12]射出成形法により成形されたものである、[11]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
[13][11]または[12]に記載のポリカーカーボネート樹脂成形品からなる光反射部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐光性、光反射率、耐衝撃性、色相等に優れたポリカーボネート樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂成形品、及び光反射部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されるものではない。尚、本明細書において、「〜」とはその前後の数値または物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において「置換基」という表現を用いる場合、当該置換基の種類は特に限定されるものではなく、特に明記しない限りは分子量200までのものを意味するものとする。
【0019】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である。
【0020】
【化4】


(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂、酸化チタン及びその配合量の詳細については後述するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有するものであり、しかもその含有する金属、即ち、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属を合計で20重量ppm以下含むものである。ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属の合計の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性や色調を優れたものとするためには少ないことが好ましく、より好ましくは10重量ppm以下、更に好ましくは5重量ppm以下、特に好ましくは1.5重量ppm以下である。但し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属は、ポリカーボネート樹脂製造に好ましく用いられる触媒に由来してポリカーボネート樹脂中に含まれるため、その含有量の合計は、通常、0.1ppm以上である。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれうる長周期型周期表第2族の金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを指す。これらの長周期型周期表第2族の金属の中でも、ポリカーボネート樹脂組成物にマグネシウムまたはカルシウムが含まれていることが好ましく、カルシウムが含まれていることがより好ましい。
【0023】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属も含まれうるが、ポリカーボネート樹脂組成物中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対して1重量ppm以下であることが好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムは原料のポリカーボネート樹脂の製造時に使用する触媒からのみではなく、その他の原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂組成物を製造したときにおいてもこれらの化合物の合計量は、金属量として0.8重量ppm以下であることがより好ましく、0.7重量ppm以下であることが更に好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属の合計の含有量が上記範囲であることで、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとする効果がある。
【0024】
ポリカーボネート樹脂組成物中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、色相の観点から下記式(3)で表される炭酸ジエステル60重量ppm以下で含むことが好ましい。下記式(3)で表される炭酸ジエステルは主としてポリカーボネート樹脂の原料に由来するものであるため、詳細についてはポリカーボネート樹脂の説明において述べることとする。
【0026】
【化5】

【0027】
(上記式(3)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
【0028】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐光性や臭気低減の観点からポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、芳香族モノヒドロキシ化合物を700重量ppm以下含有することが好ましく、500重量ppm以下であることが更に好ましく、300重量ppm以下であることが特に好ましい。芳香族モノヒドロキシ化合物は、主に原料のポリカーボネート樹脂中に含まれるものに由来してポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるものであり、芳香族モノヒドロキシ化合物については、以下のポリカーボネート樹脂に関する説明において詳述する。但し、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれる芳香族者モノヒドロキシ化合物とは、「酸化防止剤」としてポリカーボネート樹脂組成物に含まれうるものを除く意味で用いるものとする。
【0029】
2.ポリカーボネート樹脂
<原料>
(ジヒドロキシ化合物)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(α)」と称することがある。)と、炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得られる。以下に本発明で用いるポリカーボネート樹脂の製造方法について詳述する。
【0030】
【化6】

【0031】
(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【0032】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(α))としては、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物、下記式(2)、(4)および(5)で表される分子内に環状エーテル構造を有する化合物が挙げられる。
【0033】
【化7】

【0034】
以上の中でも、入手のし易さ、ハンドリングのしやすさ、重合時の反応性の高さ、得られるポリカーボネート樹脂及びそれを用いたポリカーボネート樹脂組成物の色相をより良好なものにするなどの観点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、または分子内に環状エーテル構造を有する化合物が好ましい。これらの中でも分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が、より好ましい。分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物では、環状構造が単環であっても多環であってもよいが、中でも環状構造を複数有するものが好ましく、更には環状構造を2つ有するものが好ましく、特にはそれら2つの環状構造が同じものであることが好ましい。また、耐熱性の観点からは、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物の中でも、前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコールが好ましい。
【0035】
前記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
これらのジヒドロキシ化合物(α)のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0037】
更に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、その光反射率や耐衝撃性の向上の観点から、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(β)」と称することがある。)に由来する構造単位を含んでいることが好ましい。尚、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位については以下に詳述するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂においては、前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)とのいずれとも解される構造単位が含まれうる。このような構造単位を1種のみ含有する場合には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂の必須成分である構造単位(a)とみなすこととする。一方、構造単位(a)と構造単位(b)とのいずれにも解されうる構造単位を2種以上有する場合には、任意に構造単位(a)または構造単位(b)と位置づければよい。
【0038】
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))としては、鎖状脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が挙げられる。好ましいのは脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物である。
【0039】
鎖状脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が挙げられる。直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0040】
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物は環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基は、環状構造に直接結合していてもよいし、置換基を介して環状構造に結合していてもよく、また、環状構造は単環であっても多環であってもよい。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオールなどのシクロヘキサンジオール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオールなどのシクロへキセンジオール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロへキサンジメタノール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオールなどのシクロヘキセンジメタノール類、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノールなどのノルボルナンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール等が挙げられ、これらのうち、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサンジメタノール類が好ましく、シクロヘキサンジメタノール類の中でも1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。
【0041】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(α))に由来する構造単位(a)と、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)との両方を含むジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂に透明性、耐衝撃性の改善だけではなく、柔軟性、耐熱性、成形性など種々の物性を改善する効果を得ることも可能である。
【0042】
更に、ポリカーボネート樹脂中に占める脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)の割合が少な過ぎるとポリカーボネート樹脂組成物の透明性が悪くなる傾向にあり、一方、多過ぎるとポリカーボネート樹脂組成物の耐光性や色相などが悪くなる傾向にある。
【0043】
ポリカーボネート樹脂中に占める、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)の割合は、好ましくは20mol%以上、より好ましくは30mol%以上、更に好ましくは35mol%以上、特に好ましくは45mol%以上であり、最も好ましいのは52mol%以上である。一方、ポリカーボネート樹脂中に占める脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)は、好ましくは80mol%以下、より好ましくは75mol%以下、更に好ましくは70mol%以下である。また、ポリカーボネート樹脂中に占める、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)の割合は、20mol%以上であることが好ましく、25mol%以上であることがより好ましく、35mol%以上であることが更に好ましく一方、80mol%以下であることが好ましく、70mol%以下であることがより好ましく、65mol%以下であることが更に好ましい。
【0044】
全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化に由来する構造単位(b)の割合が20mol%以上であると、ポリカーボネート樹脂組成物としたときの耐衝撃性の観点で好ましい。一方、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化に由来する構造単位(b)の割合が多くなり過ぎると、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性や色相などが悪くなる傾向にある。
【0045】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂には、ジヒドロキシ化合物(α)及びジヒドロキシ化合物(β)以外のジヒドロキシ化合物(以下、「その他のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としてより具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。
【0046】
その他のジヒドロキシ化合物を使用する場合、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対する量は、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対して、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下で用いられ、特に好ましくは10モル%以下で用いられる。ただし、その他のジヒドロキシ化合物として、芳香族環を有するものについては、耐光性の観点からはポリカーボネート樹脂の分子構造内に芳香環構造を有しないことが好ましい。
【0047】
本発明で用いるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤などの安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下では本発明で用いるジヒドロキシ化合物が変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドなどの塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンなどのアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0048】
これら塩基性安定剤の本発明で用いるジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎると本発明で用いるジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明で用いるジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明で用いるジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0049】
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明で用いるジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
【0050】
本発明で用いるジヒドロキシ化合物がイソソルビド等、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸などの分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招く可能性があり、又、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もあり、好ましくない。
【0051】
上記酸化分解物を含まない本発明で用いるジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
【0052】
このような蒸留精製で、本発明で用いるジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を20重量ppm以下、好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、前記本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
【0053】
(炭酸ジエステル)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述した本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(3)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
【化8】

【0055】
上記式(3)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基である。A及びAは、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
【0056】
前記式(3)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートなどの置換ジアリール、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネートなどの置換ジアルキルが例示されるが、好ましくは置換ジアリールであり、置換ジアリールの中でもジフェニルカーボネートが好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0057】
<エステル交換反応触媒>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0058】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、特に透明性や色相に影響を与え得る。
【0059】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂の耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度のうち、とりわけて耐光性を満足させ得るものであれば、限定されないが、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0060】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0061】
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0062】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩などが挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
【0063】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどが挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0064】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素などのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩などが挙げられる。
【0065】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0066】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0067】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンなどが挙げられる。
【0068】
上記の中でも、リチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性などの種々の物性を優れたものとするために好ましい。
【0069】
また、本発明のポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましい。
【0070】
上記重合触媒の使用量は、好ましくは、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、更に好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、好ましくは、0.1μmol以上、更に好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また、好ましくは20μmol以下、更に好ましくは10μmol以下、特に好ましくは3μmol以下、最も好ましくは2μmol以下である。
【0071】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
【0072】
更に、前記式(3)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートなどの置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明で用いるポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノールなどの芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0073】
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、特にはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムは、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、少ない方が好ましく、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
【0074】
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)などの方法を使用して測定することが出来る。
【0075】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)の炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0076】
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも95℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化などの不具合を招く。混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0077】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の原料である本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10体積%以下、更には0.0001体積%〜10体積%、中でも0.0001体積%〜5体積%、特には0.0001体積%〜1体積%の雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
【0078】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂を得るためには、前記式(3)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いる本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。
【0079】
このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成形時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
【0080】
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性を悪化させる可能性がある。
【0081】
更には、本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物に対して、前記式(3)で表される炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂の耐光性を悪化させる場合があり、好ましくない。 本発明で用いるポリカーボネート樹脂に残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0082】
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0083】
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本願発明の目的を達成することができない可能性がある。
【0084】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であり、好ましくは、80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイルなどが用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0085】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
【0086】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0087】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0088】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
【0089】
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
【0090】
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、140〜270℃、好ましくは180〜240℃、更に好ましくは200〜230℃、圧力は絶対圧力として、110〜10,000Pa、好ましくは70〜5,000Pa、更に好ましくは30〜1000Pa、反応時間は0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度210℃〜270℃、好ましくは220℃〜250℃で、通常0.1時間〜10時間、好ましくは、1時間〜6時間、特に好ましくは0.5時間〜3時間行う。
【0091】
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化を抑制し、色相や耐光性の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満、特に225℃〜245℃であることが好ましい。 また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0092】
所定の分子量のポリカーボネート樹脂を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、透明性や色相が悪くなる傾向にある。
【0093】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルやビスフェノールAなどの原料として再利用することが好ましい。
【0094】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法などが挙げられる。
【0095】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招くおそれがある。
【0096】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
【0097】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
【0098】
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷などの冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
【0099】
<ポリカーボネート樹脂の物性>
このようにして得られた本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、一方、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下が好ましく、0.80dL/g以下がより好ましい。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0100】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂組成物の光反射率を高めるため、ポリカーボネート樹脂そのものの透明性が優れることが好ましく、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとするためにはポリカーボネート樹脂そのものにおいても耐光性が優れることが好ましい。とりわけ、耐光性については、従来は可視光領域の吸収が注視されていたが、本発明者は可視光に吸収がなく人間の目では着色が認められない場合であっても、太陽光線や人工照明などに晒された場合に、着色する樹脂と着色しない樹脂があることを見出され、特定の波長の光線透過率を一定以上にすることで解決することができる。
【0101】
すなわち、本発明のポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が60%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上である。該波長における光線透過率が60%を下回ると、吸収が大きくなり、耐光性が悪化する場合がある。
【0102】
更に、本発明のポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長320nmにおける光線透過率は、30%以上であることが好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましい。該波長における光線透過率が30%を下回ると、耐光性が悪化する傾向にある。
【0103】
本発明のポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm〜400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925−70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であるのが好ましく、より好ましくは10以下、特に好ましくは8以下である。
【0104】
尚、本発明におけるメタルハライドランプを用いた照射処理は、後述するが、特定の装置で、特定のフィルターなどを用い、主として300nm〜400nmの波長の光を(この波長範囲以外の波長の光はできるだけ取り除き)、放射照度1.5kW/m2で、試料に100時間照射することをいう。
【0105】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)を、上記のようなメタルハライドランプでの照射処理等を行わずに、透過光で測定したイエローインデックス値(初期のイエローインデックス値、初期のYI値と言う)が通常10以下、好ましくは7以下、特に好ましくは5以下であり、メタルハライドランプ照射前後でのイエローインデックス値の差の絶対値が6以下であるのが好ましく、より好ましくは4以下、特に好ましくは3以下である。初期のイエローインデックス(YI)値が10を超えると、耐光性が悪化する傾向がある。
【0106】
更には、本発明のポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)を透過光で測定した国際照明委員会(CIE)で規定されたL*値は通常96.3以上、好ましくは96.6以上、好適には96.8以上である。L*値が96.3を下回った場合には、耐光性が悪化する傾向がある。
【0107】
更に本発明で用いるポリカーボネート樹脂中の下記式(6)で表される末端基の濃度の下限量は、通常20μeq/g、好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/g、好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
【0108】
下記式(6)で表される末端基の濃度が、高すぎると重合直後や成形時の色相が良好であっても、紫外線曝露後の色相の悪化を招く可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
【0109】
下記式(6)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法などが挙げられる。
【0110】
【化9】

【0111】
また、本発明で用いるポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素のモル数を(X)、芳香環以外に結合した水素原子のモル数を(Y)とした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、X/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下、好適には0.01以下である。X/(X+Y)は、1H−NMRで定量することができる。
【0112】
また、本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤などの添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、押出機などで混合することもできる。
【0113】
上記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は75℃以上、105℃以下であることが好ましく、80℃以上、105℃以下であることがより好ましく、85℃以上、105℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度がかかる範囲内のポリカーボネート樹脂を用いることで、優れた耐熱性を有する成形品を提供することができる。
【0114】
3.酸化チタン
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有する。本発明において酸化チタンを用いるのは、透明性に優れるポリカーボネート樹脂と屈折率が高い酸化チタンとを共に使用することにより、ポリカーボネート樹脂組成物中において効率よく金属化合物による光反射を起こし、光反射率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を得ることができるということを見出したためある。更に、前記ポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂は、意外なことに光反射率だけではなく耐衝撃性、耐光性にも優れるものとなる。
【0115】
本発明に用いる酸化チタンは、市販品として入手可能ないかなるものも使用でき、その表面を、有機、又は無機の処理剤で処理されたものであってもよい。通常、酸化チタンで市販されているものでは、耐候性や分散性、ハンドリング性向上の観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の含水酸化物により、表面処理が施されている場合が多い。しかしシリカは吸水性が高く、水分の影響を受けやすいので、無機表面処理剤としては中でも、アルミナやジルコニアが好ましい。
【0116】
本発明に用いる酸化チタンにおいて表面処理剤の含有量が酸化チタンに対して多すぎると、酸化チタン表面に無機処理層が形成され、その吸着水により、これを含むポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体において、外観不良や、燃焼時のドリッピングが増加する場合がある。逆に少なすぎても分散性が不十分となるなど、改良効果が不十分となることがある。よって通常、この表面処理剤の量は、酸化チタンに対して2〜5重量%である。
【0117】
また、上述した吸着水による問題を回避するためには、酸化チタンの表面処理剤として有機表面処理剤を用いることが好ましい。この様な表面処理剤としては、アルコキシ基、エポキシ基、アミノ基、又はSi−H結合を有する、有機シラン化合物や有機シリコン化合物等が挙げられる。中でもハイドロジェンポリシロキサン(Si−H結合を有するシリコン化合物)が好ましく、有機表面処理剤による処理量は、金属化合物に対して、0.5〜5重量%、中でも1〜3重量%であることが好ましい。
【0118】
本発明における酸化チタン(表面処理剤の量を含む。)の含有量は通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01重量部以上100重量部以下であるが、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、更に好ましくは5重量部以上であり、一方、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下、更に好ましくは30重量部以下である。酸化チタンの含有量が0.01重量部未満であると、酸化チタンの配合による光反射率や耐衝撃性の改良効果が十分得られなくなり、一方、100重量部を越えると耐衝撃性の低下や外観が不良となる。
【0119】
本発明に用いる金属化合物の平均粒子径は任意であり、これを含有するポリカーボネート樹脂組成物の用途等に応じて、適宜選択して決定すればよい。この平均粒子径が小さすぎると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物における遮光性及び光反射性が不十分となる場合がある。逆に平均粒子径が大きすぎても遮光性及び光反射性が劣ると共に、樹脂成形体表面に肌荒れが生じたり、衝撃強度が低下する場合がある。よって酸化チタンの平均粒子径は、0.05μm以上、0.5μm以下であることが好ましく、中でも0.1μm以上、0.5μm以下、特に0.15μm以上、0.35μm以下であることが好ましい。
【0120】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる酸化チタンの製造方法は、塩酸法、硫酸法等の従来公知の任意の製造方法により得られたものを用いることができ、特に制限はない。中でも塩素法で製造された酸化チタンは、硫酸法で製造された酸化チタンに比べて白度が優れており、好ましい。また酸化チタンの結晶形態も特に制限はないが、ルチル型の酸化チタンは、アナターゼ型のそれに比べて白度、光線反射性、及び耐光性の点で優れているので好ましい。
【0121】
4.酸化防止剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下であり、好ましくは、0.001重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常1重量部以下であり、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.0001重量部以上であると成形時の着色抑制効果が良好となる傾向があるが、酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、1重量部より多いと射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがある。
【0122】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/またはホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
【0123】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどの化合物が挙げられる。
【0124】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0125】
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、が挙げられる。
【0126】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
【0127】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0128】
5.離型剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、ステアリン酸エステルなどが挙げられ、離型性と透明性の観点から離型剤としてより好ましいのはステアリン酸エステルである。
【0129】
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレートなどがより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましい。
【0130】
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましく、このような高級脂肪酸としてミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。また、炭素数16〜18の飽和脂肪酸が更に好ましく、このような飽和脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が特に好ましい。
【0131】
これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。離型剤を用いる場合には、その配合量はポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。離型剤の含有量が過度に多いと成形時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には金型の整備に労力を要する可能性があり、また、成形品は外観不良をきたす可能性がある、離型剤の含有量がポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001重量部以上であると成形時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
【0132】
本実施の形態において、離型剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中などのポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末などの固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際などが挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に離型剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と離型剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0133】
6.その他の成分
以下に本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合可能な成分を挙げる。ただし、以下に挙げる各成分は前述のポリカーボネート樹脂及び金属化合物は含まないものとする。
【0134】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂(以下、単に「その他の樹脂」と称することがある。)を使用することも出来る。その他の樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレートなどの樹脂やコア−シェル型、グラフト型又は線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。
【0135】
その他の樹脂の配合量としては、本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、0重量部以上、30重量部以下の割合で配合することが好ましく、0重量部以上、20重量部以下の割合で配合することがより好ましく、0重量部以上、10重量部以下の割合で配合することがさらに好ましい。
【0136】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、スチルベンベンゾオキサゾール誘導体、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、酸性化合物、紫外線吸収助剤、ブルーイング剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤などを適宜配合することが可能である。ただし、以下にあげる成分は使用可能なものの代表例であり、本発明に以下に挙げるもの以外の成分を配合することを妨げるものではない。
【0137】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、光反射率や耐光性を高める目的で4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンを1〜1000ppm含有することができる。4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンは従来公知の任意の方法、例えば特公昭41−20225号公報や、特表2002−535393号公報等に記載の方法により、得ることが出来る。
【0138】
本発明において、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンの含有量は、0〜1000ppmである。この含有量が1000ppmを越えても、含有量の増加に見合う効果の向上が期待できないばかりか、滞留熱安定性や外観が低下する場合がある。
【0139】
本発明においては、本発明の効果を損ねない範囲で、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン以外の、従来公知の任意の蛍光増白剤を用いてもよく、具体的には例えば、クマリン系、ナフトトリアゾリルスチルベン系、ベンゾオキサゾール系、ベンズイミダゾール系、およびジアミノスチルベン−ジスルホネート系蛍光増白剤等が挙げられる。
【0140】
本発明において、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンと、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン以外の蛍光増白剤を併用する場合には、蛍光増白剤全体に占める4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンの含有率は20重量%以上であることが好ましい。中でも30重量%以上、更には40重量%以上、特に50重量%以上であることが好ましい。4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンの含有量が低すぎると、得られるポリカーボネート樹脂組成物や樹脂成形体における光反射性、耐光性、色相等の改良が不十分となる場合がある。
【0141】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で充填剤を配合することができる。本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合することのできる充填剤としては無機充填剤及び有機充填剤が挙げられる。
【0142】
充填剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、0重量部以上100重量部以下である。充填剤の配合量は、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは35重量部以下である。充填剤を配合することによりポリカーボネート樹脂組成物の補強効果が得られるが、また、100重量部より多く配合すると外観が悪くなる傾向がある。
【0143】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、石膏、石膏ウィスカー、タルク、マイカ;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、ウィスカーなどが挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填剤、ガラスの粉状充填剤、ガラスのフレーク状充填剤;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、マイカ、タルクが挙げられる。特に好ましくはガラス繊維及びタルクから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以上に挙げた無機充填剤は1種のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0144】
また、無機充填剤の中でも、ガラス繊維、ガラスミルドファイバーとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。特に、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維の直径は、好ましくは6μm〜20μmであり、より好ましくは9μm〜14μmである。ガラス繊維の直径が過度に小さいと補強効果が不充分となる傾向がある。また、過度に大きいと、製品外観に悪影響を与えやすい。
【0145】
また、ガラス繊維としては、好ましくは長さ1mm〜6mmにカットされたチョップドストランド;好ましくは長さ0.01mm〜0.5mmに粉砕されて市販されているガラスミルドファイバーが挙げられる。これらは単独または両者を混合して用いてもよい。
【0146】
本発明で使用するガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤等による表面処理、あるいは取扱い性を向上させるために、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等による集束処理を施して使用してもよい。
【0147】
ガラスビーズとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。中でも、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラスビーズの形状は、粒径10μm〜50μmの球状が好ましい。
【0148】
ガラスフレークとしては、鱗片状のガラスフレークが挙げられる。ポリカーボネート樹脂を配合後のガラスフレークの最大径は、一般的には1000μm以下、好ましくは1μm〜500μmであり、且つアスペクト比(最大径と厚み途の比)が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
【0149】
有機充填剤としては、例えば、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、コルク粉、パルプ粉などの粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂などのバルン状・球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維などの繊維状有機充填剤が挙げられる。
【0150】
炭素繊維としては、特に限定されず、例えば、アクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであって、耐炎質、炭素質、黒鉛質などの種々のものが挙げられる。炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)の平均は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上である。アスペクト比の平均が過度に小さいと、ポリカーボネート樹脂組成物の導電性、強度、剛性が低下する傾向がある。炭素繊維の径は3μm〜15μmであり、上記のアスペクト比に調整するために、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどのいずれの形状も使用できる。炭素繊維は、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0151】
炭素繊維は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて、ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理などの表面処理が施されてもよい。
【0152】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には更に酸性化合物を含有していてもよい。酸性化合物を使用する場合には、酸性化合物の配合量は、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対し、少なくとも1種の酸性化合物0.00001重量部以上0.1重量部以下、好ましくは、0.0001重量部以上0.01重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.001重量部以下である。酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して0.00001重量部以上であると、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色抑制の点で好ましいが、酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して0.1重量部より多いと、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合がある。
【0153】
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸などのブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
【0154】
これらの酸性化合物は、上述したポリカーボネート樹脂の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
【0155】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤の配合量は、紫外線吸収剤の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、本発明においてはポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、紫外線吸収剤0重量部〜5重量部である。
【0156】
ここで、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物が挙げられる。なかでも有機化合物はポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいので好ましい。
【0157】
紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また。通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。分子量が過度に小さいと、長期間使用での耐紫外線性能の低下を引き起こす可能性がある。分子量が過度に大きいと、長期間使用での樹脂組成物の透明性低下を引き起こす可能性がある。
【0158】
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物などが挙げられる。なかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独又は2種以上を併用してもよい。
【0159】
ベンゾトリアゾール系化合物のより具体的な例としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
【0160】
ヒドロキシベンゾフェノン系化合物としては、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’、4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0161】
マロン酸エステル系化合物としては、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル−2,2‘−(1,4−フェニレン−ジメチリデン)−ビスマロネートなどが挙げられる。
【0162】
トリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin1577FF)などが挙げられる。
【0163】
シアノアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0164】
シュウ酸アニリド系化合物としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(Clariant社製、SanduvorVSU)などが挙げられる。
【0165】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、従来、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0166】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、一般名Solvent Blue45[CA.No61110]などが代表例として挙げられる。これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらブルーイング剤は、通常、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、0.1×10−5〜2×10−4重量部の割合で配合される。
【0167】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂成形品の耐光性をさらに向上する目的で、光安定剤を配合することができる。かかる光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6)−テトラメチル−4−ピペリジル−1、6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物などが挙げられる。なかでもビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好ましい。
【0168】
前記光安定剤の配合量は、本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物全体に対して、0重量部以上、2重量部以下の割合で配合することができるが、光安定剤の配合効果を得るためには0.005重量部以上、0.5重量部以下の割合で配合することが好ましく、0.01重量部以上、0.2重量部以下の割合で配合することがより好ましい。かかる範囲で光安定剤を配合することにより、ポリカーボネート樹脂組成物表面への光安定剤のブリード、各種成形品の機械特性低下を生じることなく、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品の耐光性を向上することができる。
【0169】
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で帯電防止剤を含有することができる。
【0170】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂組成物に配合する蛍光増白剤、充填剤、酸性化合物、紫外線吸収助剤、ブルーイング剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤などの成分の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂、他の配合剤との混練途中などのポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂組成物が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末などの固体状態のポリカーボネート樹脂組成物とブレンド・混練する際などが挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に各種成分を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂組成物または他の樹脂等と各種成分を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0171】
7.ポリカーボネート樹脂成形品
本実施の形態では、上述したポリカーボネート樹脂組成物を成形することによりポリカーボネート樹脂成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂、金属酸化物及び必要に応じてその他の樹脂や添加剤などの原料を直接混合し、押出機或いは射出成形機に投入して成形するか、または、前記原料を、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製した後、このペレットを押出機或いは射出成形機に投入して成形する方法を挙げることができる。ポリカーボネート樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、成形品形状の自由度の観点から射出成形法が好ましい。
【0172】
8.光反射部材
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は光反射率に優れたものであるため、これを成形したものを光反射部材として好適に用いることができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物が耐光性に優れ、光照射による劣化が起こりにくいものである点からも、光反射部材として有利である。本発明の光反射部材は優れた光線光反射率を有するだけでなく、ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性、耐光性、色相、耐熱性、寸法安定性、熱安定性、外観等をも同時に維持されているので、液晶表示装置のバックライト用光線反射板、光反射枠または光反射シート、ならびに、電気・電子機器、広告灯などの照明用装置、自動車用メーターパネルなどの自動車用機器などの光線反射部品または光反射シートなど広範囲の用途において有用である。
【実施例】
【0173】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限
り、以下の実施例により限定されるものではない。 以下において、ポリカーボネート樹脂組成物成形品の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
【0174】
1)試験片作製方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、80℃で6時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ2mm)および機械物性用ISO試験片を成形した。
【0175】
2)光反射率の測定
上記1)で得られた射出成形板について、分光測色計(コニカミノルタ社製CM―3600d)を使用し、D65光源、10度視野角にて上記試験片の正反射光を含むSCI方式での波長430nmにおける光反射率を測定した。測定径はφ8mmにて実施した。光反射率は値が高いほど優れたものと評価される。
【0176】
3)耐衝撃性試験
上記1)で得られた機械物性用ISO試験片について、ISO179に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施し、耐衝撃性を評価した。耐衝撃性はノッチ付シャルピー衝撃試験の値が大きいほど優れたものと評価される。
【0177】
4)耐光性試験
JIS K7105に準拠し、分光色差計(日本電色工業社製SE2000)を使用し、C光源透過法にて上記で得られた射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)のイエローインデックス(YI)値を測定した。これをYI(初期)とした。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示す。次に、スガ試験機社製メタリングウェザーメーターM6Tを用いて、63℃、相対湿度50%の条件下、光源として水平式メタリングランプを、インナーフィルターとして石英を、またランプの周囲にアウターフィルターとして#500のフィルターを取り付け、波長300nm〜400nmの放射照度1.5kw/m2になるように設定し、上記1)で得られた射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)の正方形の面に対して、100時間照射処理を行った。照射後のYI値を上記YI(初期)と同様に測定し、これをYI(耐光試験後)とした。
ΔYI=|{YI(耐光試験後)}−{YI(初期)}|
により、ΔYIを求めた。ΔYIの値が小さいほど耐光性に優れることを意味する。
【0178】
5)ポリカーボネート樹脂中の金属濃度の測定
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂ペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP−MSで金属濃度を測定した。
【0179】
6)ポリカーボート樹脂組成物中の金属含有量
上記5)で測定したポリ−ボネート樹脂中の金属濃度に基づき、ポリカーボネート樹脂組成物全体における金属含有量を算出した。算出方法としては、まず各原料の分子量、触媒の式量、及びそのモル比率からポリカーボネート樹脂に対するマグネシウム、カルシウム、リチウム、セシウムの各金属についてその重量部を求め、次にポリカーボネート樹脂組成物に対する重量部(重量ppm)に換算した。
【0180】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。 尚、金属化合物については物性を表−2にまとめた。
ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール (イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学社製)
(酸化チタン)
タイペークPC−3:酸化チタン(石原産業社製)
・塩素法酸化チタン(ルチル型)
・平均粒子径0.21μm
(酸化防止剤)
2112:ホスファイト系酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブ2112)
AO−60:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブAO−60)
(離型剤)
S−100A:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン社製S−100A)
【0181】
[製造例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10−6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%〜0 .001体積%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0182】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。ポリカーボネート樹脂の原料として用いたジヒドロキシ化合物の構造単位比と使用した触媒金属濃度の値を表−1に示す。
【0183】
[製造例2]
製造例1のISBとCHDMの構造単位比をISB/CHDM=0.50/0.50とした以外は、実施例1と同様に行った。製造例1と同様にポリカーボネート樹脂の原料として用いたジヒドロキシ化合物の構造単位比と使用した触媒金属濃度の値を表−1に示す。
【0184】
[実施例1、2]
製造例1、2のそれぞれにおいて得られたペレットと、更に表−2に示した組成となるように酸化チタンとしてタイペークPC−3、離型剤としてS−100A、更に酸化防止剤としてアデカスタブAO−60及びアデカスタブ2112とを2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS−32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたポリカーボネート樹脂組成物の分析結果、および上記方法において評価した。結果を表−2に示す。
【0185】
【表1】

【0186】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、光反射率、耐衝撃性、耐光性、色相、などに優れ、電気・電子部品、自動車用部品などの射出成形分野、フィルム、シートなどの押出分野などの幅広い分野への材料提供が可能である。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は耐光性、光反射率などに優れるものであるため、光反射部材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


(ただし、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【請求項2】
前記式(1)で表される部位を有する構造単位(a)として、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むものである、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される部位を有する構造単位(a)として、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むものである、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)を含むものである、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)として、シクロヘキサンジメタノール類に由来する構造単位を含むものである、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(3)で表される炭酸ジエステルに由来する構造単位を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

(上記式(3)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、前記式(3)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られたものである、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記重縮合が触媒の存在下で行われるものであって、該触媒がリチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物であり、かつこれらの金属化合物の合計量が、用いたジヒドロキシ化合物1molあたり、金属量として20μmol以下である、請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して離型剤を0.001重量部以上2重量部以下含有する請求項1から8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して酸化防止剤を0.001重量部以上1重量部以下含有する請求項1から9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項12】
射出成形法により成形されたものである、請求項11に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項13】
請求項11または12に記載のポリカーカーボネート樹脂成形品からなる光反射部材。

【公開番号】特開2012−214637(P2012−214637A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81060(P2011−81060)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】