説明

ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品

【課題】 耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れたポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。


(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性、機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、医療用部品、建材、フィルム、シート、ボトル、光学記録媒体、レンズ等の分野でいわゆるエンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。
しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂は、長時間紫外線や可視光に曝露される場所で使用すると、色相や透明性、機械的強度が悪化するため、屋外や照明装置の近傍での使用に制限があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤をポリカーボネート樹脂に添加する方法が広く知られている(例えば非特許文献1)。
ところが、このような紫外線吸収剤を添加した場合、紫外線照射後の色相などの改良は認められるものの、そもそもの樹脂の色相や耐熱性、透明性の悪化を招いたり、また成型時に揮発して金型を汚染する等の問題があった。
【0004】
従来のポリカーボネート樹脂に使用されるビスフェノール化合物は、ベンゼン環構造を有するために紫外線吸収が大きく、このことがポリカーボネート樹脂の耐光性悪化を招くため、分子骨格中にベンゼン環構造を持たない脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式ジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物モノマーユニットを使用すれば、原理的には耐光性が改良されることが期待される。中でも、バイオマス資源から得られるイソソルビドをモノマーとしたポリカーボネート樹脂は、耐熱性や機械的強度が優れていることから、近年数多くの検討がなされるようになってきた(例えば、特許文献1〜6)。
【0005】
しかしながら、上記脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式ジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物はフェノール性水酸基を有しないため、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂の製法として広く知られている界面法で重合させることは困難であり、通常、エステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。この方法では、上記ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとを塩基性触媒の存在下、200℃以上の高温でエステル交換させ、副生するフェノール等を系外に取り除くことにより重合を進行させ、ポリカーボネート樹脂を得る。ところが、上記のようなフェノール性水酸基を有しないモノマーを用いて得られるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有するモノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂に比べ熱安定性に劣っているために、高温にさらされる重合中や成形中に着色が起こり、結果的には紫外線や可視光を吸収して耐光性の悪化を招くという問題があった。中でも、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を有するモノマーを用いた場合は色相悪化が著しく、明度の改良についてはより解決するのが困難であった。更に、種々成形品として使用する場合には高温で溶融成形されるが、その時にも熱安定性がよく、成形性、離型性に優れた材料が求められていた。
また、ポリカーボネート樹脂の剛性、寸法安定性、熱変形温度などの向上のために充填剤を用いる方法が知られている。しかしながら、一般的に充填剤を混合する前のポリカーボネート樹脂の色相が悪い場合は、充填剤を混合した後の色相が更に悪化してしまうという
問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献2】特開2006−232897号公報
【特許文献3】特開2006−28441号公報
【特許文献4】特開2008−24919号公報
【特許文献5】特開2009−91404号公報
【特許文献6】特開2009−91417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ポリカーボネート樹脂ハンドブック(1992年8月28日 日刊工業新聞社発行 本間精一編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
更に、本発明者らは、充填剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、その耐光性を高める必要があるとの課題があることを見出した。
本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れ、しかも耐光性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、分子内に下記式(1)で表される構造を含むポリカーボネート樹脂と特定量の充填剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であり、かつ前記ポリカーボネート樹脂の触媒として特定の金属を特定量で含むポリカーボネート樹脂組成物が、優れた耐光性を有するだけでなく、優れた色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などを有することを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[11]に存する。
【0010】
[1]構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
[2]前記充填剤が、無機充填剤である、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。[3]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(2)で表される炭酸ジエステル60重量ppm以下を含む、[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
【化2】

【0014】
(上記式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
[4]前記ポリカーボネート樹脂中の下記式(3)で表される末端基の濃度が、20μeq/g以上160μeq/g以下の範囲である、[1]から[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
【化3】

【0016】
[5]構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物である、[1]から[4]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0017】
【化4】

【0018】
[6]前記ポリカーボネート樹脂が、鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を含む、[1]から[5]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、前記式(2)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られる、[1]から[6]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8]前記重縮合が触媒の存在下で行われるものであって、該触媒がリチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、かつこれらの金属化合物の合計量が、用いたジヒドロキシ化合物1molあたり、金属量として20μmol以下である、[7]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]前記触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、前記ポリカーボネート樹脂中のリチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下である、[8]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0019】
[10][1]から[9]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品。
[11]前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものである、[10]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた耐光性、透明性を有するだけでなく、優れた色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度に優れ、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、ボトル、容器分野など幅広い分野へ適用可能なポリカーボネート樹脂組成物を提供することができ、特に屋外や照明部品等の紫外線を含む光線に曝露される用途に適したポリカーボネート樹脂組成物を提供することが可能になる。尚、本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度のうち少なくとも1つ優れた効果を示していれば、本発明の効果を奏するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。尚、本明細書において「〜」と記載している場合、その前後の数値または物理量を含む表現として用いるものとする。
【0022】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とする。
【0023】
【化5】

【0024】
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂、充填剤及びその配合量の詳細については後述するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を上記式(1)で表されるポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属、即ち、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属を合計で20重量ppm以下含むものである。ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属の合計の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとするために少ないことが好ましく、より好ましくは10重量ppm以下、更に好ましくは5重量ppm以下である。
【0025】
但し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属は、ポリカーボネート樹脂製造に好ましく用いられる触媒に由来してポリカー
ボネート樹脂中に含まれるものであり、触媒として含まれる金属を工業的に系外に完全に除去することは困難であるため、その含有量の合計は、ポリカーボネート樹脂組成物に対する金属量として、通常、0.01重量ppm以上、好ましくは0.05重量ppm以上、より好ましくは0.1重量ppm以上である。
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれうる長周期型周期表第2族の金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを指し、これらの長周期型周期表第2族の金属の中でも、ポリカーボネート樹脂組成物にマグネシウムまたはカルシウムが含まれていることが好ましく、カルシウムが含まれていることがより好ましい。
【0027】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属も含まれうるが、ポリカーボネート樹脂組成物中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対する金属量として1重量ppm以下であることが好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムは原料のポリカーボネート樹脂の製造時に用いる触媒からのみではなく、ジヒドロキシ化合物等の原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂組成物を製造したときにおいてもこれらの化合物の合計量は、金属量として0.8重量ppm以下であることがより好ましく、0.7重量ppm以下であることが更に好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属の合計の含有量が上記範囲であることで、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとする効果がある。
【0028】
ポリカーボネート樹脂組成物中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の耐光性の点から、これを成形体(厚さ3mm)として、反射光で測定したASTM D1925−70に準拠した初期のイエローインデックス(YI)値をYI、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm〜400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後のイエローインデックス(YI)値をYIとした場合、|YI―YI|≦6.0以下であることが好ましく、上記値が5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることが更に好ましい。
【0030】
尚、本発明におけるメタルハライドランプを用いた照射処理は、後述する実施例におけるメタルハライドランプ照射試験を意味する。
前述のメタルハイドランプ照射前後でのYI値の絶対値の差を小さくする、即ちポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとするためには、例えば、本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造時に用いる触媒の種類と量を適宜選択する、ポリカーボネート樹脂製造時の温度及び時間を適宜選択する、ポリカーボネート樹脂中の紫外線吸収能を有する化合物、例えば、残存フェノール、残存ジフェニルカーボネートを減らす、ジヒドロキシ化合物等の原料モノマーとして紫外領域に吸収を持つ物質の使用量を減らす、原料中の不純物として含まれる紫外領域に吸収を持つ物質の使用量を減らす等して製造することができる。特に、触媒の種類と量、重合時の温度及び時間が重要であり、特に、後述のポリカーボネート樹脂の説明で好ましいとする条件を採用し、前述のように、ポリカーボネート樹脂組成物全体でのリチウム及び長周期型周期表第2族の金属を特定量以下で含有するものとすることが好ましい。
【0031】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐光性や臭気低減の観点からポリカーボネー
ト樹脂組成物全体に対して、芳香族モノヒドロキシ化合物を700重量ppm以下含有することが好ましく、500重量ppm以下であることが更に好ましく、300重量ppm以下であることが特に好ましい。芳香族モノヒドロキシ化合物は、主に本発明に用いるポリカーボネート樹脂中に含まれるものに由来してポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるものであり、芳香族モノヒドロキシ化合物については、以下のポリカーボネート樹脂に関する説明において詳述する。但し、ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物とは、「酸化防止剤」としてポリカーボネート樹脂組成物に含まれうるものを除く意味で用いるものとする。
【0032】
2.ポリカーボネート樹脂
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合されるポリカーボネート樹脂(本明細書において、「本発明に用いるポリカーボネート樹脂」と称することがある。)を製造するための方法について、以下に詳述する。
【0033】
<原料>
(ジヒドロキシ化合物)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「本発明に用いるジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を少なくとも含む。 即ち、本発明に用いるジヒドロキシ
化合物は、2つのヒドロキシル基と、更に下記式(1)で表される構造単位を少なくとも含むものをいう。
【0034】
【化6】

【0035】
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部構成する部位である場合を除く。)
本発明に用いるジヒドロキシ化合物としては、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられるが、中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、耐熱性の観点からは、環状エーテル構造を有する化合物が好ましく、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物等の2つ
の環状エーテル構造を有する化合物が更に好ましく、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコールが特に好ましい。
【0036】
これらジヒドロキシ化合物は得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
【化7】

【0038】
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0039】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上記本発明のジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下、「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、その他のジヒドロキシ化合物としては、鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物等の脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。これらの中でも脂肪族ジヒドロキシ化合物が好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物がより好ましい。
【0040】
鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物とは、鎖状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシル基
とを有する化合物であり、ヒドロキシル基を除いてはエーテル基などの酸素原子を有する化合物は含まれない。鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物には、直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合
物と分岐鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物とがある。直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。分岐鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0041】
脂環式ジヒドロキシ化合物は、環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシル基とを有
する化合物であり、そのヒドロキシル基は、環状構造に直接結合していてよいし、アルキレン基のような置換基を介して環状構造に結合していてもよい。また、環状構造は単環であっても、多環であってもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物の好適なものとしては、以下に挙げる5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物や6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物として、5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物や6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物を用いることで得られるポリカーボネート樹脂の剛性を高めることができるために好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物の炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下である。この炭素数が多いほど、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性が高くなる傾向にあるが、炭素数が少ないほど、精製し易く、また、原料調達が容易である。
【0042】
5員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物としては、トリシクロデカンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジオール類、1,3−シクロペンタンジオール等のシクロペンタンジオール類、1,3−シクロペンタンジメタノール等のシクロペンタンジメタノール類、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等のデカリンジオール類、1,5−デカリンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等のデカリンジメタノール類、トリシクロデカンジオール類、トリシクロデカンジメタノール類、
ペンタシクロペンタデカンジメタノール類等が挙げられる。
【0043】
6員環構造を有する脂環式ジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオール等のシクロヘキセンジオール類、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等のノルボルナンジオール類、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール等のアダマンタンジオール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロヘキサンジメタノール類、4−シクロヘキセン−1,2ジオール等のシクロヘキセンジオール類、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等のノルボルナンジメタノール類、1,3−アダマンタンジメタノール、2,2−アダマンタンジメタノール等のアダマンタンジメタノール類等が挙げられる。
【0044】
芳香族ビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキ
シフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0045】
以上に挙げたその他のジヒドロキシ化合物の中でも、ポリカーボネート樹脂の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが好ましく、鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0046】
これらのその他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下や、耐熱性の低下を招くことがあるため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する本発明に用いるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が、20モル%以上好ましく、30モル%以上がより好ましく、特には50モル%以上であることが好ましい。
【0047】
本発明に用いるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下で本発明に用いるジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0048】
これら塩基性安定剤の本発明に用いるジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎると本発明に用いるジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明に用いるジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明に用いるジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0049】
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明に用いるジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や
品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
【0050】
本発明に用いるジヒドロキシ化合物がイソソルビド等、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。例えば、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招く可能性があり、又、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合がある。
【0051】
上記酸化分解物を含まない本発明に用いるジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
【0052】
このような蒸留精製で、本発明に用いるジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を好ましくは20重量ppm以下、より好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、前記本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
【0053】
(炭酸ジエステル)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述した本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(2)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
【化8】

【0055】
(上記式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
上記式(2)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。ここで、上記式(2)に関する「置換」とは分子量200以下の置換基により置換されていることを意味し、例えば置換ジフェニルカーボネートであれば、ジフェニ
ルカーボネートの水素原子のうちの少なくとも1つが、分子量200以下の置換基により置換していることを意味する。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0056】
<エステル交換反応触媒>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0057】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、特に波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックス値に影響を与え得る。従って本発明において使用可能な触媒としては、耐光性を満足させ得る、即ち上記した波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックスを所定の値にし得るものであることが好ましく、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物が、本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造において必須に用いられる。
【0058】
触媒として使用されるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物と共に、補助的に、リチウム以外の長周期型周期表第1族の金属を含む化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0059】
また、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0060】
触媒として使用可能なリチウムを含む化合物として水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素リチウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2リチウム、リチウムのアルコレート若しくはフェノレート、ビスフェノールAの2リチウム塩等が挙げられる。
【0061】
また、触媒として使用可能なリチウム以外の長周期型周期表第1族の金属を含む化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ナトリウムのアルコレート若しくはフェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩等のナトリウム化合物、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウム、水素化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素カリウム、安息香酸カリウム、リン酸水素2カリウム、フェニルリン酸2カリウム、カリウムのアルコレート若しくはフェノレート、ビスフェノールAの2カリウム塩等のカリウム化合物、水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2セシウム、
フェニルリン酸2セシウム、セシウムのアルコレート若しくはフェノレート、ビスフェノールAの2セシウム塩等のセシウム化合物等が挙げられる。
【0062】
触媒として使用可能な長周期型周期表第2族の金属を含む化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウム、ステアリン酸バリウム等のバリウム化合物、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、水酸化ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0063】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0064】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0065】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0066】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0067】
上記の中でも、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましい。
【0068】
上記重合触媒の使用量は、通常、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、中でもリ
チウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、金属量として、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
【0069】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
【0070】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂には、1族金属、中でもナトリウム、カリウム及びセシウムが、使用する触媒からのみではなく、ジヒドロキシ化合物等の原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がありうるため、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、少ないほうが好ましく、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
【0071】
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。尚、本発明においては、ポリカーボネート樹脂中の金属はすべてポリカーボネート樹脂組成物中に残っているものとみなすことができる。
【0072】
<製造方法>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0073】
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも95℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0074】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の原料である本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルと混合する操作は、酸素濃度10体積%以下、更には0.0001体積%〜10体積%、中でも0.0001体積%〜5体積%、特には0.0001体積%〜1体積%の雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
【0075】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂を得るためには、炭酸ジエステルは、反応に用いる本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜
1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。
このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成型時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性を悪化させる可能性がある。
【0076】
更には、本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂の耐光性を悪化させる場合がある。 本発明に用いるポリカーボネート樹脂に残存する前記式(2)で表され
る炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0077】
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を狂わせ、重合速度の低下を招くおそれがある。
【0078】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であり、好ましくは、80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、逆に低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0079】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
【0080】
本発明のポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0081】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2基以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3基以上、好ましくは3基〜5基、特に好ましくは、4基である。
本発明において、反応器が2基以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0082】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
【0083】
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、140℃〜270℃、好ましくは180℃〜240℃、更に好ましくは200℃〜230℃で、110kPa〜10kPa、好ましくは70kPa〜5kPa、更に好ましくは30kPa〜1kPa(絶対圧力)の圧力下、0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
【0084】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度210℃〜270℃、好ましくは220℃〜250℃で、通常0.1時間〜10時間、好ましくは、1時間〜6時間、特に好ましくは0.5時間〜3時間行う。
【0085】
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化を抑制し、色相や耐光性の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満、特に225℃〜245℃であることが好ましい。 また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、
熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0086】
所定の分子量のポリカーボネート樹脂を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、紫外線透過率は下がり、YI値は大きくなる傾向にある。
【0087】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルやビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
【0088】
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0089】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存
するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下することがある。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招くことがある。
【0090】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
【0091】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
【0092】
<物性>
このようにして得られた本発明に用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、通常、1.20dL/g以下、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
【0093】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。
尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
【0094】
更に本発明に用いるポリカーボネート樹脂の下記式(3)で表される末端基の濃度(「末端フェニル基濃度」という)の下限量は、好ましくは20μeq/g、より好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は好ましくは160μeq/g、より好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
下記式(3)で表される末端基の濃度が、高すぎると重合直後や成型時の色相が良くても、紫外線曝露後の色相の悪化を招く可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
【0095】
下記式(3)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0096】
【化9】

【0097】
前記式(2)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明に用いるポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成型時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限値は、通常1重量ppmである。
【0098】
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂の芳香環に結合した水素原子のモル数をX、芳香環以外に結合した水素原子のモル数をYとした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、X/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下、好適には0.01以下である。X/(X+Y)は、H−NMRで定量することができる。
【0099】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の、波長350nmにおける光線透過率が60%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上である。該波長における光線透過率が60%を下回ると、吸収が大きくなり、耐光性が悪化する場合がある。
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上であることが好ましく、40%以上が更に好ましく、50%以上が特に好ましい。該波長における光線透過率が30%を下回ると、耐光性が悪化する傾向にある。
【0100】
3.充填剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有する。本明細書において、「充填剤」とは通常、充填剤と呼ばれるものであればいずれも含まれるが、前述した本発明のポリカーボネート樹脂の通常の溶融混練温度の範囲である、150℃〜300℃の範囲において溶融しないものが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合できる充填剤としては、無機系充填剤及び有機系充填剤が挙げられるが、ポリカーボネート樹脂の剛性を高める観点から無機充填剤が好ましい。充填剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1重量部以上100重量部以下である。充填剤の配合量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは7重量部以上であり、ま
た、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは35重量部以下である。充填剤の配合量が過度に少ないと補強効果が低く、また、過度に多いと外観が悪くなる傾向がある。
【0101】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填剤、ガラスの粉状充填剤、ガラスのフレーク状充填剤;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、マイカ、タルクが挙げられる。特に好ましくはガラス繊維及びタルクから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以上に挙げた無機充填剤は1種のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0102】
また、無機充填剤の中でも、ガラス繊維、ガラスミルドファイバーとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。特に、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維の直径は、好ましくは6μm〜20μmであり、より好ましくは9μm〜14μmである。ガラス繊維の直径が過度に小さいと補強効果が不充分となる傾向がある。また、過度に大きいと、製品外観に悪影響を与えやすい。
【0103】
また、ガラス繊維としては、好ましくは長さ1mm〜6mmにカットされたチョップドストランド;好ましくは長さ0.01mm〜0.5mmに粉砕されて市販されているガラスミルドファイバーが挙げられる。これらは単独または両者を混合して用いてもよい。
本発明で使用するガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤等による表面処理、あるいは取扱い性を向上させるために、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等による集束処理を施して使用してもよい。
【0104】
ガラスビーズとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。中でも、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラスビーズの形状は、粒径10μm〜50μmの球状が好ましい。
【0105】
ガラスフレークとしては、鱗片状のガラスフレークが挙げられる。ポリカーボネート樹脂を配合後のガラスフレークの最大径は、一般的には1000μm以下、好ましくは1μm〜500μmであり、且つアスペクト比(最大径と厚み途の比)が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
【0106】
有機充填剤としては、例えば、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、コルク粉、パルプ粉などの粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂などのバルン状・球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維などの繊維状有機充填剤が上げられる。
炭素繊維としては、特に限定されず、例えば、アクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであって、耐炎質、炭素質、黒鉛質等の種々のものが挙げられる。炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)の平均は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上である。アスペクト比の平均が過度に小さいと、ポリカーボネート樹脂組成物の導電性、強度、剛性が低下する傾向がある。炭素繊維の径は3μm〜15μmであり、上記のアスペクト比に調整するために、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバー等のいず
れの形状も使用できる。炭素繊維は、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0107】
炭素繊維は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて、ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理等の表面処理が施されてもよい。
【0108】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂に配合する充填剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に無機充填剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と無機充填剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0109】
4.酸化防止剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.0001重量部以上1重量部以下であり、好ましくは、0.0001重量部以上0.1重量部以下であり、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.01重量部以下である。酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常0.0001重量部以上であると成形時の着色抑制効果が良好となる傾向があるが、酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1重量部より多いと射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがある。
【0110】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/またはホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
【0111】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の化合物が挙げられる。
【0112】
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t
ert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが更に好ましい。
【0113】
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、が挙げられる。
【0114】
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
【0115】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0116】
5.離型剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、ステアリン酸エステルなどが挙げられ、好ましくは高級脂肪酸である。
【0117】
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。このような飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等がより好ましい。なかでもパルミチン酸、ステアリン酸が更に好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0118】
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリ
ン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等がより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレートが特に好ましい。
【0119】
これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。離型剤を用いる場合には、その配合量は通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001重量部〜2重量部であり、好ましくは0.01重量部〜1重量部であり、更に好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。離型剤の含有量が過度に多いと成型時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には成形機の整備に労力を要する可能性があり、また、成形品は外観不良をきたす可能性がある、離型剤の含有量が100重量部に対し、0.0001重量部以上であると成型時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
【0120】
本実施の形態において、離型剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に離型剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と離型剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0121】
6.その他の成分
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、前記式(1)で表されるポリカーボネート樹脂、充填剤、酸化防止剤、離型剤以外の成分(本明細書において、「その他の成分」と総称することがある。)を本発明の効果を著しく阻害しない限り、適宜組み合わせて使用することができる。その他の成分としては、以下で例示する酸性化合物、難燃剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、帯電防止剤、核剤、衝撃改良剤、発泡剤、染顔料等があるが、本発明の効果を著しく阻害しない限りはここで例示されない成分を使用することを何ら妨げるものではない。
【0122】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には更に酸性化合物を含有していてもよい。酸性化合物を使用する場合には、酸性化合物の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、少なくとも1種の酸性化合物0.00001重量部以上0.1重量部以下、好ましくは、0.0001重量部以上0.01重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.001重量部以下である。酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.00001重量部以上であると、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色抑制の点で好ましいが、酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1重量部より多いと、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合がある。
【0123】
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコ
リン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
【0124】
これらの酸性化合物は、上述したポリカーボネート樹脂の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
【0125】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で難燃剤を配合することができる。難燃剤の配合量は、難燃剤の種類や難燃性の程度に応じて適宜選択することが可能であるが、本発明においてはポリカーボネート100重量部に対し、難燃剤0重量部〜30重量部である。
【0126】
難燃剤としては、例えば、燐含有化合物系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、スルホン酸金属塩系難燃剤、珪素含有化合物系難燃剤等が挙げられる。本実施の形態では、これらの群より選ばれた少なくとも1種を使用することができる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0127】
燐含有化合物系難燃剤としては、例えば、燐酸エステル系化合物、ホスファゼン系化合物、赤燐、被覆された赤燐、ポリ燐酸塩系化合物等が挙げられる。燐含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対し、0重量部〜20重量部である。配合量が過度に多いと耐熱性が低下しやすい。
【0128】
ハロゲン含有化合物系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、臭素化芳香族トリアジン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシポリマー、デカブロモジフェニルオキサイド、トリブロモアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、デカブロモジフェニルエタン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。
【0129】
ハロゲン含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0重量部〜20重量部である。ハロゲン含有化合物系難燃剤の配合量が過度に多いと機械強度が低下し、また難燃剤のブリードによる変色の原因となる場合がある。
【0130】
スルホン酸金属塩系難燃剤としては、例えば、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、好ましくは、周期表1族の金属、周期表2族の金属等が挙げられる。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ベリリウム、マグネシウムである。
【0131】
スルホン酸金属塩系難燃剤の中でも、難燃性と熱安定性の観点から、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が好ましい。芳香族スルホンスルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。これらは重合体であってもよい。芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェ
ニル−スルホン−3−スルホンのカリウム塩、4−クロロー4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩等が挙げられる。
【0132】
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ土類金属塩等が好ましい。さらに、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等がより好ましい。
【0133】
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0134】
スルホン酸金属塩系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対し、0〜5重量部である。スルホン酸金属塩系難燃剤の配合量が過度に多いと熱安定性が低下しやすい。
【0135】
珪素含有化合物系難燃剤としては、例えば、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。これらの中で、シリコーンワニスが好ましい。
【0136】
シリコーンワニスとしては、例えば、主として2官能型単位[RSiO]と3官能型単位[RSiO1.5]からなり、1官能型単位[RSiO0.5]及び/又は4官能型単位[SiO]を含むことがある比較的低分子量の溶液状シリコーン樹脂が挙げられる。ここで、Rは、炭素数1〜12の炭化水素基又は一個以上の置換基で置換された炭素数1〜12の炭化水素基である。置換基としてはエポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基及びビニル基等が挙げられる。Rの種類を変えることにより、マトリックス樹脂との相溶性を改善することが可能である。
【0137】
シリコーンワニスとしては、無溶剤のシリコーンワニス、溶剤を含むシリコーンワニス等が挙げられる。本実施の形態では、溶剤を含まないシリコーンワニスが好ましい。シリコーンワニスは、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等のアルキルアルコキシシランの加水分解により製造することができる。これらの原料のモル比、加水分解速度等を調整することにより分子の構造(架橋度)及び分子量のコントロールが可能である。さらに、製造条件によってはアルコキシシランが残存するが、組成物中に残存するとポリカーボネート樹脂の耐加水分解性が低下する場合が有るため、残存アルコキシシランは少量又は無いことが望ましい。
【0138】
シリコーンワニスの粘度は、300センチストークス以下が好ましく、より好ましくは250センチストークス以下であり、さらに好ましくは200センチストークス以下である。シリコーンワニスの粘度が過度に大きいと、難燃性が不十分になることがある。
珪素含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0〜10重量部である。珪素含有化合物系難燃剤の配合量が過度に多いと耐熱性が低下しやすい。
【0139】
より高い難燃性を達成するために、滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの併用が好ましい。滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンは、重合体中に容易に分散し、かつ重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示す。滴下防止用として市販されているものは、例えば、テフロン(登録商標)6J、テフロン(登録商標)30J(三井・デュポンフロロケミカル株式会社)、ポリフロンF201L(ダイキン化学工業株式会社)等が挙げられる。
【0140】
滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0重量部より多く2.0重量部以下である。滴下防止用ポリテトラフルオロエチレンの配合量が過度に少ないと、燃焼時の溶融滴下防止効果が不十分であり、過度に多いと、成形品外観が悪くなりやすい。
【0141】
本実施の形態において、ポリカーボネート樹脂に配合する難燃材の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中等のポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際等が挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に充填材を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と充填材を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
【0142】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤の配合量は、紫外線吸収剤の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、本発明においてはポリカーボネート100重量部に対し、紫外線吸収剤0重量部〜5重量部である。
ここで、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物が挙げられる。なかでも有機化合物はポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいので好ましい。
【0143】
紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また。通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。分子量が過度に小さいと、長期間使用での耐紫外線性能の低下を引き起こす可能性がある。分子量が過度に大きいと、長期間使用での樹脂組成物の透明性低下を引き起こす可能性がある。
【0144】
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物等が挙げられる。なかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独又は2種以上を併用してもよい。
【0145】
ベンゾトリアゾール系化合物のより具体的な例としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロ
キシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0146】
ヒドロキシベンゾフェノン系化合物としては、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’、4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0147】
マロン酸エステル系化合物としては、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル−2,2‘−(1,4−フェニレン−ジメチリデン)−ビスマロネートなどが挙げられる。
【0148】
トリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin1577FF)などが挙げられる。
【0149】
シアノアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
シュウ酸アニリド系化合物としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアント社製、SanduvorVSU)等が挙げられる。
【0150】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、従来、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0151】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、一般名Solvent Blue45[CA.No61110]等が代表例として挙げられる。これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらブルーイング剤は、通常、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.1×10−5〜2×10−4重量部の割合で配合される。
【0152】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で光安定剤を含有することができる。かかる安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して通常0重量部〜2重量部である。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で帯電防止剤を含有することができる。
【0153】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。更に、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂組成物に通常用いられる核剤、発泡剤、染顔料等が含まれても差し支えない。
【0154】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS樹脂、ASなどの合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、ゴムなどの熱可塑性樹脂の1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0155】
7.ポリカーボネート樹脂成形品
本実施の形態では、上述したポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品が得られる。ポリカーボネート樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、射出成形法が好ましい。
【実施例】
【0156】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。 なお、以下の実施例における各種の
製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例のまたは実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0157】
以下において、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
1)酸素濃度の測定
重合反応装置内の酸素濃度を、酸素計(AMI社製:1000RS)を使用し、測定した。
【0158】
2)還元粘度の測定
ポリカーボネート樹脂のサンプルを、溶媒として塩化メチレンを用いて溶解し、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0159】
3)ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比及び末端フェニル基濃度の測定
ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物構造単位比は、ポリカーボネート樹脂30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、溶液とし、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH NMRスペクトルを測定した。各ジヒドロキシ化合物に由来する
構造単位に基づくシグナル強度比より各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を求めた。
末端フェニル基濃度は、1,1,2,2−テトラブロモエタンを内標として、上記と同様にH−NMRを測定し、内標と末端フェニル基に基づくシグナル強度比より求めた。
【0160】
4)ポリカーボネート樹脂中の金属濃度の測定及びポリカーボネート樹脂組成物中の金属含有量
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂ペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP−MSで定量した。
上記の測定により定量したポリ−ボネート樹脂中の金属濃度に基づき、ポリカーボネート樹脂組成物全体における金属含有量を算出した。算出方法は、まず各原料の分子量、触媒の式量、及び各原料と触媒のモル比率からポリカーボネート樹脂に対するカルシウムの重量部を求め、次にポリカーボネート樹脂組成物に対する重量部(重量ppm)を求めた。
【0161】
5)ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物含有量、前記式(2)で表される炭酸ジエステル含有量の測定
ポリカーボネート樹脂試料1.25gを塩化メチレン7mlに溶解し溶液とした後、総量が25mlになるようにアセトンを添加して再沈殿処理を行った。次いで、該処理液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにて定量を行った。
【0162】
6)芳香環に結合した水素原子のモル数Xの全水素原子のモル数(X+Y)に対する比(ここでYは芳香環以外に結合した水素原子のモル数である)
内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)をあらかじめ添加混合した重クロロホルムのみのスペクトルを測定し、TMSと重クロロホルム中に含まれる残存水素原子のシグナル比を求める。次に、ポリカーボネート樹脂30mgを秤取し、前記重クロロホルム約0.7mLに溶解させた。これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子株式会社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH NMRス
ペクトルを測定した。得られたNMRチャートの6.5ppm〜8.0ppmに現れるシグナルの積分値から、重クロロホルム中に含まれる残存Hのシグナルの積分値(TMSのシグナルの積分値および前記で予め求めたTMSと重クロロホルム中に含まれる残存Hとの比から求める)を差し引いた値をxとする。一方、0.5ppm〜6.5ppmに現れるシグナルの積分値をyとすると、x/(x+y)=X/(X+Y)となるので、これを求めた。
【0163】
7)波長350nmおよび320nmにおける光線透過率の測定
ポリカーボネート樹脂のペレットを、窒素雰囲気下、110℃で10時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂のペレットを射出成形機(株式会社日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度220℃、成形サイクル23秒間の条件で、射出成形片(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)を成形し、厚み方向の光線透過率を、紫外可視分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製U2900)を用いて測定し、その平均値を算出し評価した。
【0164】
8)ポリカーボネート樹脂組成物の初期色相の評価方法
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、窒素雰囲気下、110℃で10時間乾燥した。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(株式会社日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度220℃、成形サイクル23秒間の条件で、射出成形片(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)を成形する操作を繰り返し、10ショット目〜20ショット目で得られた射出成形片の正方形の面に対する反射光におけ
るイエローインデックス(初期のYI)値をカラーテスタ(コニカミノルタ社製CM−3700d)を用いて測定し、平均値を算出した。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示す。
【0165】
9)曲げ弾性率
ISO 178に準拠して曲げ弾性率を測定した。
【0166】
10)荷重たわみ温度
ISO 75に準拠し、1.80MPaの荷重条件で荷重たわみ温度を測定した。
【0167】
11)メタルハライドランプ照射試験
スガ試験機株式会社製メタリングウェザーメーターM6Tを用いて、63℃、相対湿度50%の条件下、光源として水平式メタリングランプを、インナーフィルターとして石英を、またランプの周囲にアウターフィルターとして#500のフィルターを取り付け、波長300nm〜400nmの放射照度1.5kw/mになるように設定し、上記6)で得られた20ショット目の平板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)の正方形の面に対して、100時間照射処理を行った。照射後のYI値を上記6)と同様に測定した。
【0168】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド (ロケット・フルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール (新日本理化株式会社製、SKY C
HDM)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学株式会社製)
(充填剤)
ガラス繊維:ECS03T5751(日本電気硝子株式会社製)
タルク:MICRON WHITE #5000S(林化成株式会社製)
(酸化防止剤)
イルガノックス(登録商標)1010:ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASFジャパン株式会社製)イルガフォス(登録商標)168:トリス(2,4−ジ−tertブチルフェニル)ホスファイト(BASFジャパン株式会社製)
(離型剤)
NAA−180:ステアリン酸(日本油脂株式会社製)
【0169】
[実施例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.69/0.31/1.00/1.3×10−6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%〜0.001体積%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0170】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温228℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、重合反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂を得た。
【0171】
更に3ベントおよび注水設備を供えた二軸押出機に連続的に前記溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化防止剤として「イルガノックス(登録商標)1010」及び「イルガフォス(登録商標)168」、離型剤として「NAA−180」を表―1に記載の所定の割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮したのち、ペレタイザーによりペレット化を行い、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0172】
ベントおよびサイドフィード設備を備えた二軸押出機に、得られたペレット状ポリカーボネート樹脂とガラス繊維を、ポリカーボネート樹脂100重量部に対してガラス繊維が表−1に記載の所定の割合となるようにフィードしてポリカーボネート樹脂組成物を得た。上記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表−1に示す。
【0173】
[実施例2、3]
実施例1の充填剤の割合と種類を変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0174】
[比較例1、2]
酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた以外は、実施例1と同様に実施した(比較例1)。また、酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた以外は、実施例3と同様に実施した(比較例2)。
実施例1〜3、比較例1及び2の成分及び評価結果を表―1に示した。
なお、上記実施例および比較例の芳香族モノヒドロキシ化合物含有量については、そのほとんどが実質的にフェノールであった。
【0175】
【表1】

【0176】
表−1の結果が示すように、実施例1〜3で製造したポリカーボネート樹脂組成物は、比較例1及び2で製造したものと比べて、メタルハライドランプ照射処理前後のYI値の差の絶対値が小さく、耐光性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐光性、色相、耐熱性、成形性、機械的強度などに優れ、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シートなどの押出分野などの幅広い分野への材料提供が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
【請求項2】
前記充填剤が、無機充填剤である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(2)で表される炭酸ジエステル60重量ppm以下を含む、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(上記式(2)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂中の下記式(3)で表される末端基の濃度が、20μeq/g以上160μeq/g以下の範囲である、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】

【請求項5】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物である、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】

【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、鎖状脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート樹脂が、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、前記式(2)で表される炭酸ジエステルとの重縮合により得られる、請求項1から6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記重縮合が触媒の存在下で行われるものであって、該触媒がリチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、かつこれらの金属化合物の合計量が、用いたジヒドロキシ化合物1molあたり、金属量として20μmol以下である、請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、前記ポリカーボネート樹脂中のリチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下である、請求項8に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形されたものである、請求項10に記載のポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−67294(P2012−67294A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182761(P2011−182761)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】