説明

ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】難燃性及び流動性を同時に高めることができるポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂100質量部と、金属塩化合物0.01〜1質量部と、ポリシラン0.01〜5質量部とを含有するポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、難燃性、流動性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化されたポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
【背景技術】
【0003】
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、従来、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤をポリカーボネート樹脂に配合することがなされてきた。
しかしながら、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたりすることがあった。
また、リン系難燃剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の特徴である高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするため、その用途が制限されることがあった。
加えて、これらのハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤は、製品の廃棄、回収時に環境汚染を惹起する可能性があるため、近年ではこれらの難燃剤を使用することなく難燃化することが望まれている。
【0004】
かかる状況下、近年、有機アルカリ金属塩化合物および有機アルカリ土類金属塩化合物に代表される金属塩化合物が有用な難燃剤として検討されている。このような金属塩化合物によるポリカーボネートの難燃化技術としては、例えば、炭素数4〜8のパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を利用する方法(特許文献1参照)、非ハロゲン系芳香族スルホン酸ナトリウム塩を含有させる方法(特許文献2参照)等の、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩化合物を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に難燃性を付与する手法が挙げられる。
【0005】
一方、近年主鎖が、ケイ素原子の繰り返しからなるポリシランを樹脂に配合し、機械物性、潤滑性、難燃性を向上させる検討がなされている。(例えば、特許文献3〜5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−40445号公報
【特許文献2】特開2000−169696号公報
【特許文献3】特開2003−268247号公報
【特許文献4】特開2003−277617号公報
【特許文献5】特開2003−277756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような、金属塩化合物が、ポリカーボネート樹脂に付与する難燃性は触媒的であり、高い難燃性を得ようと、配合量を多くしても、効果が得られないあるいは、かえって難燃性が悪化してしまうという課題を有していた。
【0008】
また、上述のようなポリシランを配合することによる難燃効果は、非常に小さく、このようなものをポリカーボネート樹脂に配合した樹脂組成物は実際には、満足のいくものではなかった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、難燃性、流動性を高めることができるポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂に金属塩化合物と、ポリシラン化合物とを、所定量を含有させることにより難燃性が著しく向上し、さらに流動性をも向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂100質量部と、金属塩化合物0.01〜1質量部と、ポリシラン0.01〜5質量部を含有することを特徴とする。
【0012】
このとき、該ポリシランが、下記式(1)〜(3)で示される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有することが好ましく、
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

[式(1)〜(3)中、R、R及びRは、一価炭化水素基、水素原子、シリル基から選ばれる少なくとも1種を表し、それぞれの繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。x、y、zは0又は整数を表し、x+y+z≧2を満たす。a、b、cは、0または1を表す。]
これらのポリシランは、直鎖、分岐鎖、環状、網目状いずれの形態であってもよい。
【0016】
さらに、下記式(4)で示される直鎖状ポリシランであることが、より好ましい。
【0017】
【化4】

[式(4)中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、一価炭化水素基、水素原子、シリル基から選ばれる少なくとも1種を表し、それぞれの繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよく、mは1以上の整数を表す。]
【0018】
さらに、式(1)、(2)及び(4)のポリシランにおいて、R、Rが、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であることがなかでも好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0019】
また、前記金属塩化合物は、有機スルホン酸のアルカリ金属塩であることが好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、または芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩であることがより好ましい。このとき、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩は、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物によれば、従来より高い難燃性、流動性を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0022】
[1.概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、少なくとも、ポリカーボネート樹脂と、金属塩化合物とポリシランとを含有する。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。
【0023】
[2.ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂の種類に制限は無い。また、ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0024】
なお、本発明におけるポリカーボネート樹脂は、下記一般式(5)で表される、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。
【0025】
【化5】

【0026】
式(5)中、Aは一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたAを用いてもよい。
【0027】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしても良い。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いても良い。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
【0030】
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0031】
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0032】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0033】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0034】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0035】
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0036】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0037】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0038】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0039】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0040】
これらのなかでもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、なかでもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0041】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
【0042】
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0043】
2,2’−オキシジエタノール(即ち、エチレングリコール)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0044】
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0045】
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;
【0046】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0047】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0048】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0049】
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0050】
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0051】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体のなかでもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0052】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0053】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0054】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0055】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0056】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;0−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0057】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0058】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0059】
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0060】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0061】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0062】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0063】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0064】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0065】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0066】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただしなかでも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0067】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0068】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0069】
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂を一定割合以上含有することが好ましい。
構造粘性指数Nとは、溶融体の流動特性を評価する指標である。通常、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融特性は、数式:γ=a・σにより表示することができる。なお、前記の式中、γ:剪断速度、a:定数、σ:応力、N:構造粘性指数を表す。
上述の数式において、N=1のときはニュートン流動性を示し、Nの値が大きくなるほど非ニュートン流動性が大きくなる。つまり、構造粘性指数Nの大小により溶融体の流動特性が評価される。一般に、構造粘性指数Nが大きい芳香族ポリカーボネート樹脂は、低剪断領域における溶融粘度が高くなる傾向がある。このため、構造粘性指数Nが大きい芳香族ポリカーボネート樹脂を別のポリカーボネート樹脂と混合した場合、得られるポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。
【0070】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、ポリカーボネート樹脂に、構造粘性指数Nが通常1.2以上、好ましくは1.25以上、より好ましくは1.28以上であり、また、通常1.8以下、好ましくは1.7以下の芳香族ポリカーボネート樹脂を一定割合以上含有させるようにする。このように構造粘性指数Nが高い芳香族ポリカーボネート樹脂を含有させることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。また、構造粘性指数Nを前記範囲の上限値以下とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形性を良好な範囲に維持できる。
【0071】
なお、「構造粘性指数N」は、例えば特開2005−232442号公報に記載されているように、上述の式を誘導した、Logη=〔(1−N)/N〕×Logγ+Cによって表示することも可能である。なお、前記式中、N:構造粘性指数、γ:剪断速度、C:定数、η:見かけの粘度を表す。この式から分かるように、粘度挙動が大きく異なる低剪断領域におけるγとηからN値を評価することもできる。例えば、γ=12.16sec−1及びγ=24.32sec−1でのηからN値を決定することができる。
【0072】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂は、上述した構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂を、ポリカーボネート樹脂中、通常20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含む。構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂と組み合わせることにより、本発明に係る金属塩及びポリシランの特有の相乗効果を顕著に発揮できるからである。なお、上限に制限は無く、通常100質量%以下であるが、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。
【0073】
なお、構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0074】
また、ポリカーボネート樹脂は、上述した構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂以外に、構造粘性指数Nが上記の所定範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでいても良い。その種類に制限は無いが、なかでも直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂と直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂とを組み合わせることにより、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性(滴下防止性)と成形性(流動性)のバランスをとりやすいという利点が得られる。この観点から、ポリカーボネート樹脂は、構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂と、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂とから構成されるものを用いることが特に好ましい。
【0075】
ポリカーボネート樹脂が直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を含む場合、基体樹脂に占める直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の割合は、通常80質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、また、通常0質量%より多く、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を上記範囲とすることにより、難燃剤やその他の添加剤の良好な分散性が得られやすく、難燃性、成形性に優れるポリカーボネート樹脂が得られやすいという利点が得られる。
【0076】
なお、ポリカーボネート樹脂としては、基体樹脂中に構造粘性指数Nが上記の所定範囲からはずれる芳香族ポリカーボネート樹脂を、1種だけ含んでいても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含んでいても良い。したがって、基体樹脂は、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を、1種だけ含んでいても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含んでいても良い。
【0077】
・・・構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法
芳香族ポリカーボネート樹脂のなかでも特に構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合には、上述の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造法に従って製造すればよい。この際、分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、適宜「分岐ポリカーボネート樹脂」という。)を製造するようにすると、構造粘性指数Nが所定範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂が得られやすく、好ましい。分岐ポリカーボネート樹脂は構造粘性指数Nが高くなる傾向があるためである。
【0078】
分岐ポリカーボネート樹脂の製造方法の例を挙げると、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報等に記載の方法が挙げられる。これらの文献に記載の方法では、溶融エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸のジエステルとを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を使用することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0079】
また、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する他の方法として、上述のポリカーボネート樹脂の原料である、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体の他に、三官能以上の多官能性化合物(分岐剤)を用い、界面重合法又は溶融エステル交換法にて、これらを共重合する方法が挙げられる。
【0080】
三官能以上の多官能性化合物としては、例えば、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン(フロログルシン)、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類;
【0081】
3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインド−ル(即ち、イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。なかでも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0082】
多官能性化合物は、前記ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができる。多官能性芳香族化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上であり、また、通常10モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
なお、多官能性化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0083】
溶融エステル交換法によって得られた分岐ポリカーボネート樹脂に含まれる分岐構造は、例えば、下記式(6)〜(9)の構造が挙げられる。なお、下記式(6)〜(9)において、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、または、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−で示される二価の基からなる群より選ばれるものを示す。
【0084】
【化6】

【0085】
【化7】

【0086】
【化8】

【0087】
【化9】

【0088】
分岐ポリカーボネート樹脂を製造する方法としては、上述した方法のなかでも、上述の溶融エステル交換法によって分岐ポリカーボネート樹脂を製造する製造方法が特に好ましい。比較的安価で、工業的入手のしやすい原料により製造できるためである。このため、ポリカーボネート樹脂も、溶融エステル交換法により製造することが好ましい。
【0089】
・ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、通常10000以上、好ましくは16000以上、より好ましくは18000以上であり、また、通常40000以下、好ましくは30000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0090】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0091】
【数1】

【0092】
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0093】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の重量に対する、末端水酸基の重量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0094】
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0095】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30重量%以下とすることが好ましい。
【0096】
更にポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、なかでも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0097】
[2.金属塩化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は金属塩化合物を含有する。このように金属塩化合物を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
金属塩化合物が有する金属の種類としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の炭化層形成を促進し、難燃性をより高めることができると共に、ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できるからである。したがって、金属塩化合物としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩化合物が好ましく、なかでもアルカリ金属塩がより好ましい。
【0098】
また、金属塩化合物としては、例えば、有機金属塩化合物、無機金属塩化合物などが挙げられるが、ポリカーボネート樹脂への分散性が良いという点から有機金属塩化合物が好ましい。
有機金属塩化合物としては、例えば、有機スルホン酸金属塩、有機スルホンアミドの金属塩、有機カルボン酸金属塩、有機ホウ酸金属塩、有機リン酸金属塩等が挙げられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂と混合した場合の熱安定性の点から、有機スルホン酸金属塩、有機スルホンアミドの金属塩、有機リン酸金属塩が好ましく、有機スルホン酸金属塩が特に好ましい。
【0099】
また、金属塩化合物の金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属;並びに、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)等が挙げられる。なかでも特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がさらに好ましく、ナトリウム、カリウム、セシウムが最も好ましい。
【0100】
有機スルホン酸金属塩の例を挙げると、有機スルホン酸リチウム(Li)塩、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩、有機スルホン酸ルビジウム(Rb)塩、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩、有機スルホン酸マグネシウム(Mg)塩、有機スルホン酸カルシウム(Ca)塩、有機スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩、有機スルホン酸バリウム(Ba)塩、等が挙げられる。このなかでも特に、有機スルホン酸ナトリウム(Na)塩、有機スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物等の有機スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0101】
金属塩化合物のうち、好ましいものの例としては、含フッ素脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の金属塩、芳香族スルホンアミドの金属塩が挙げられる。そのなかでも好ましいものの具体例を挙げると、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;パーフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、パーフルオロブタンスルホン酸カルシウム、パーフルオロブタンスルホン酸バリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、トリフルオロメタンスルホン酸バリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、
【0102】
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸マグネシウム、パラトルエンスルホン酸カルシウム、パラトルエンスルホン酸ストロンチウム、パラトルエンスルホン酸バリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩;等の、芳香族スルホン酸金属塩等、
【0103】
ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミドリチウム、ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタン)スルホニルイミドカリウム、ビス(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドリチウム、ビス(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、ビス(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ペンタフルオロエタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン等の、線状含フッ素脂肪族スルホンアミドのアルカリ金属塩;シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドナトリウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム等の、環状含フッ素脂肪族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホンアミドの金属塩等、
【0104】
サッカリンのナトリウム塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドのカリウム塩等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等の、芳香族スルホンアミドの金属塩等が挙げられる。
【0105】
上述した例示物のなかでも、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩としては含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム等が好ましい。また、芳香族スルホン酸金属塩としては芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、及びパラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム等が特に好ましい。
なお、金属塩化合物は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0106】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における金属塩化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、1質量部以下、好ましくは0.75質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。金属塩化合物の含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる可能性がある。
【0107】
[3.ポリシラン]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はポリシランを含有する。このようにポリシランを含有することでポリカーボネート樹脂組成物の流動性を向上させることができ、さらに上述の金属塩化合物と同時に含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を著しく向上させることができる。この金属塩化合物との著しい難燃性向上の相乗効果の理由の詳細は分からないが、金属塩化合物の触媒作用により、燃焼時の温度下、ポリシランの持つSi−Si結合を、部分的に開裂させ、ポリカーボネート樹脂とポリシランの複合体を効率よく形成させることに起因していると考えられる。
【0108】
ポリシランとしては、Si−Si結合を有するポリマーであれば、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状又は網目状等いずれの形態をとっていてもよいが、通常、下記式(10)〜(12)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有している。
【0109】
【化10】

【0110】
【化11】

【0111】
【化12】

【0112】
このようなポリシランとしては、例えば、前記式(10)で表される構造単位からなる直鎖状、または環状ポリシラン、前記式(11)または(12)で表される構造単位からなる分岐状、または網目状ポリシラン、前記式(10)〜(12)で表される構造単位の組合せ、例えば式(10)と式(11)、式(10)と式(12)、式(11)と式(12)、式(10)〜(12)からなるポリシラン等が挙げられる。なかでも直鎖状ポリシラン及び環状ポリシランがポリカーボネート樹脂への分散性に優れる傾向にある為、好ましく、特に直鎖状ポリシランが、耐熱性が高い傾向にある為好ましいが、前記直鎖状ポリシランの一部が、分岐、網目状になっていてもよい。
【0113】
上述のような式(10)で表される構造単位からなる直鎖状ポリシランとしては、具体的には例えば、下記式(13)で表すこともでき、式(10)で表される構造単位からなる環状ポリシランとしては、具体的には例えば、下記式(14)で表すこともできる。
【0114】
【化13】

【0115】
【化14】

【0116】
前記式(10)〜(14)において、R〜Rで表される置換基としては、一価炭化水素基、水素原子、シリル基から選ばれる少なくとも1種を表す。一価炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられるが、なかでもアルキル基、アリール基が好ましく、アルキル基が特に好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0117】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられるが、通常炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、なかでもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0118】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜14のシクロアルキル基が挙げられるが、なかでも炭素数5〜8のシクロアルキル基が好ましい。
【0119】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜8のアルケニル基が挙げられ、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜12のシクロアルケニル基が挙げられる。
【0120】
アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等の炭素数2〜8のアルキニル基やエチニルベンゼン基等のアリール等も挙げられる。
【0121】
アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル(即ち、トリル)基、ジメチルフェニル(即ち、キシリル)基、ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基が挙げられるが、なかでも炭素数6〜10のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。また、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数6〜20のアラルキル基が挙げられるが、なかでも炭素数6〜10のアラルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0122】
シリル基としては、例えば、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基等のケイ素数1〜10のシリル基が挙げられるが、なかでもケイ素数1〜6のシリル基が好ましい。前記シリル基である場合は、その水素原子の少なくとも1つがアルキル基、アリール基、アルコキシ基等の官能基で置換されていてもよい
【0123】
ポリシランの重合度、すなわち構造単位(10)〜(12)における、x、y及びzの合計は、通常2以上、好ましくは5以上、より好ましくは、10以上、また通常500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下である。x、y及びzの合計が2以下の場合は、ポリシラン1量体、すなわちポリシランモノマーである為、耐熱性が極端に低下し、ポリカーボネート樹脂組成物とした場合、ガス化(揮発)しやすく、金型汚染や機械物性の低下、難燃性の低下を招く傾向にある為好ましくない。また、500を超えるものは、製造上極めて困難であり、またポリカーボネート樹脂への分散性が極端に低下する為、やはり好ましくない。
【0124】
また、式(13)における、直鎖状ポリシランの重合度、すなわちmは通常1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また通常300以下、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。このような範囲とすることが、前記同様の理由により好ましい。
【0125】
式(14)における環状ポリシランの重合度、すなわちnは、通常4以上好ましくは5以上であり、通常12以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下であり、特に好ましいのはm=5程度である。nが、3以下のものは、化学構造上製造困難であり、nが12以上のものもまた、製造上困難である。
【0126】
式(10)〜(14)における、a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、0又は1を表す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiが、0の場合、ポリシランが有機官能基として、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、水素原子、シリル基を有することを意味し、a、b、c、d、e、f、g、h及びiが1の場合は、ポリシランが有機官能基として、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、シクロアルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、水酸基を有することを意味する。ポリシランの耐熱性の観点からは、a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、0であることが好ましいが、樹脂との親和性を改善する為に意図的に、あるいは酸化作用等によって非意図的に、1となっていてもよい。
【0127】
ポリシランが非環状構造(直鎖状、分岐状、網目状)の場合、末端置換基は、通常、水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、シリル基である。
【0128】
このようなポリシランとしては、ポリジメチルポリシラン、ポリメチルプロピルシラン、ポリメチルブチルシラン、ポリメチルペンチルシラン、ポリジブチルシラン、ポリジヘキシルシラン、ジメチルシラン−メチルヘキシルシラン共重合体等のポリジアルキルシラン;ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体等のポリアルキルアリールシラン;ポリジフェニルシラン等のポリジアリールシラン;ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルナフチルシラン共重合体等のジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体;等が挙げられる。このようなポリシランの詳細は、例えば、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)等に例示されている。
【0129】
ポリシランの分子量は、数平均分子量で、通常300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上であり、通常200000以下、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは10000以下である。数平均分子量が、300未満の場合は、ポリシランの耐熱性が低下し、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が低下する可能性があり、また200000を超えるものは、ポリカーボネート樹脂への分散性、相溶性が極端に低下し、機械物性の低下や難燃性の低下を招く恐れがある為やはり好ましくない。
【0130】
本発明におけるポリシランの製造方法については、公知の方法であれば特に限定されず、適宜選択して用いればよいが、例えば、特定の構造単位を有するケイ素含有モノマーを原料とし、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(マグネシウム還元法)、アリカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(キャッピング法)、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法、金属触媒の存在下にヒドラジン類を脱水素縮重合させる方法、ビフェニル等で架橋されたジシレンのアニオン重合による方法、環状シラン類の開環重合による方法等が挙げられるが、これらの製造方法の中では、得られるポリシランの純度、分子量分布、ナトリウムや塩素等の不純物含有量等を制御し易い点、製造コストや安全性の面で工業的メリットが大きい点よりマグネシウム還元法が特に好ましい。なお、得られたポリシランに水を添加してシラノール基を生成させてもよい。
【0131】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリシランの含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.025質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上であり、5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、特に好ましくは1質量部以下である。ポリシランの含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎても効果が頭打ちになり経済的でないばかりでなく、ポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる可能性がある。なお、ポリシランは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0132】
[4.その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0133】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;
ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;
ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン共重合体(COP)樹脂等のポリオレフィン樹脂;
ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0134】
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に好適な添加剤の例について具体的に説明する。
【0135】
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。これらのなかでも、下記式(15)で表される有機ホスフェート化合物及び/又は下記式(16)で表される有機ホスファイト化合物が好ましい。
【0136】
【化15】

上記式(15)において、R10はアルキル基またはアリール基を表す。なかでもR10は、炭素数が通常1以上、好ましくは2以上であり、通常30以下、好ましくは25以下のアルキル基、または、炭素数が通常6以上であり、通常30以下のアリール基であることがより好ましい。さらに、R10は、アリール基よりもアルキル基が好ましい。なお、R10が2以上存在する場合、R同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
また、式(15)において、jは、通常0以上、好ましくは1以上であり、また、通常2以下の整数を表す。
【0137】
【化16】

【0138】
式(16)中、R11はアルキル基またはアリール基を表す。なかでもR11は、炭素数が1以上30以下のアルキル基、又は、炭素数が6以上30以下のアリール基であることが好ましい。なお、R11同士はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0139】
上記式(16)で表される有機ホスファイト化合物の好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
なお、熱安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0140】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0141】
[5.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、本発明に係るポリカーボネート樹脂及び金属塩化合物、ポリシラン、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0142】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0143】
[6.成形体]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して成形体(樹脂組成物成形体)として用いる。この成形体の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形体の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0144】
成形体の例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらのなかでも、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品等の部品へ用いて好適であり、電気電子機器の部品に用いて特に好適である。
【0145】
前記の電気電子機器としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。
【0146】
成形体の製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
得られた本発明の成形体は、上述したようにポリカーボネート樹脂の優れた性質を損なうことなく、耐擦傷性の高い実用的な成形体として用いることが可能である。
【実施例】
【0147】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0148】
実施例及び比較例に用いた成分は以下のものである。
ポリカーボネート樹脂[PC1](界面重合法によって得られたビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製、ユーピロン(登録商標)S−3000、粘度平均分子量21000、構造粘性指数1.0)、
ポリカーボネート樹脂[PC2](界面重合法によって得られたビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量17000、構造粘性指数1.0)、
ポリカーボネート樹脂[PC3](溶融エステル法によって得られたビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量27000、構造粘性指数1.3)、
金属塩化合物[M1](パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、ランクセス社製、BayowetC4)、
金属塩化合物[M2](トルエンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業社製)、
ポリシラン[PS](ポリジメチルシラン、数平均分子量2000)、
熱安定剤[Stab](トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、旭電化工(株)社製、アデカスタブ2112)
【0149】
[樹脂ペレット製造]
上述に示した、成分を表2〜3に記した割合(質量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度270℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0150】
[UL試験用試験片の作製]
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ3.2mm(1/8インチ)及び厚さ1.6mm(1/16インチ)の試験片を成形した。得られた成形体はUL試験用サンプルとして、後述する要領で難燃性の評価を行った。
【0151】
[難燃性評価]
各ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、上述の方法で得られたUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行なった。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表1に示す基準を満たすことが必要となる。
【0152】
【表1】

【0153】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。
【0154】
[流動性評価]
JIS K 7210に準拠し、東洋精機製作所社製メルトインデクサーを用いて、120℃で5時間乾燥した樹脂組成物について、300℃、荷重11.8Nで測定した時間当たりの溶融流動体積メルトボリュームレート(単位:cm/10min)を測定し、評価した。
【0155】
【表2】






【0156】
【表3】

【0157】
【表4】

【0158】
表2〜3から分かるように、実施例1〜5のポリカーボネート樹脂組成物は、高い難燃性、流動性を有し、金属塩化合物のみを含有する比較例1〜2、ポリシランのみを含有する比較例3〜4のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性が不十分であることが明らかである。また、表4から分かるように、特定の構造粘性指数を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する場合においても、金属塩化合物のみを含有する比較例5のポリカーボネート樹脂組成物、ポリシランのみを含有する比較例6のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性が不十分であるのに対し、金属塩化合物及びポリシランを同時に含有する実施例6〜7のポリカーボネート樹脂組成物は、高い難燃性を有することが明らかである。
したがって、上記の実施例及び比較例から、難燃性、流動性を高められるという効果は、本発明の構成によりはじめて得られるものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は産業上の幅広い分野に利用することが可能であり、例えば、電気電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの分野に用いて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、金属塩化合物を0.01〜1質量部、ポリシランを0.01〜5質量部含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
該ポリシランが、下記式(1)〜(3)で示される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

[式(1)〜(3)中、R、R及びRは、一価炭化水素基、水素原子、シリル基から選ばれる少なくとも1種を表し、それぞれの繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい。x、y、zは0又は整数を表し、x+y+z≧2を満たす。a、b、cは、0または1を表す。]
【請求項3】
ポリシランが、下記式(4)で示される直鎖状ポリシランであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】

[式(4)中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、一価炭化水素基、水素原子、シリル基から選ばれる少なくとも1種を表し、それぞれの繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよく、mは1以上の整数を表す。]
【請求項4】
式(1)、(2)及び(4)のポリシランにおいて、R、Rが、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
式(1)、(4)のポリシランにおいて、R、Rが、共にメチル基であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
金属塩化合物が、有機スルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
有機スルホン酸のアルカリ金属塩が、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩および芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩が、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂中、構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
該構造粘性指数Nが1.2以上の芳香族ポリカーボネート樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項9に記載のポリカーボネート樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−180368(P2010−180368A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26837(P2009−26837)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】