説明

ポリカーボネート樹脂組成物

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機重合体粒子(B)0.5〜10重量部およびエラストマー(C)0.5〜10重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物であって、当該組成物を射出成形して得られる厚み2mmの試験片を用いてJIS K7105に基づき測定角60度にて測定された光沢度が80%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形して得られる成形品。
【効果】本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた強度を損なうことなく、艶消し状の外観を得ることができることから、鏡面反射によりその機能を損なう部材や意匠性として艶消しの要求される、電気電子の筐体、ゲーム・アミューズメント関連機器の外装、パーテーション等の建築分野にも好適である。とりわけ高衝撃と艶消し性の要求されるゲーム・アミューズメント関連機器の周辺部材に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し状の外観を有し、かつ高い強度を有する成形品を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物およびこれを成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れており、電気/電子、光学、建材、医療、食品、車両等の各分野において幅広く使用されている。
ポリカーボネート樹脂は、その優れた透明性から表面が平滑な板状成形品や光学用の鏡面成形品などに用いられるケースが多い。一方、表面が鏡面の場合は光線の透過率は高くなるが、光源から正反射の方向位置では反射光が強くなりグレアを生じる場合がある。例えば、屋外用の建材等では反射光が眩しくなり過ぎて、実用上の障害をもたらす場合があった。
【0003】
従来から、艶消し状の外観を得る方法としては、エンボスロールによって表面に凹凸を形成させる方法や射出成形用金型の内面に微細な凹凸を設ける方法が提案されている。しかし、鏡面成形品の成形に切り替える際にロールや金型の交換といった設備面の対応が必要となることから全体としての生産効率が悪化するといった問題があった。
また、塗装を施すことにより艶消し状の外観を得る方法もあるが、塗装の際に埃等が吸着しやすく、またコストが高くなるという問題があった。
【0004】
一方、樹脂自体を改質する技術としては、熱可塑性樹脂に微粒子を分散させる方法(特開昭63−137911号公報)が提案されているが、艶消し性は得られるものの、機械的強度が低下するという問題があった。
【0005】
また、樹脂に微粒子を分散した材料を表面層とし、これを基材と一体成形する方法(特開平3−558840号公報)が提案されているが、追加の設備、例えば、押出成形であれば多層押出設備、射出成形であれば2色成形機や2色金型が必要となり、コストの上昇につながるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−137911号公報
【特許文献2】特開平3−558840号公報
【0007】
特に、電気電子の筐体やゲーム、アミューズメント関連部品などの用途では、高い強度を有し、かつ艶消し性も備えた樹脂材料が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、艶消し状の外観を有し、かつ高い強度を有する成形品を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物およびこれを成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に有機重合体粒子とエラストマーを併用することにより、艶消し性のみならず強度にも優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機重合体粒子(B)0.5〜10重量部およびエラストマー(C)0.5〜10重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物であって、当該組成物を射出成形して得られる厚み2mmの試験片を用いて、JIS K7105に基づき測定角60度にて測定された光沢度が80%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形して得られる成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた強度を損なうことなく艶消し状の外観を得ることができることから、鏡面反射によりその機能を損なう部材や意匠性として艶消しの要求される、電気電子の筐体、ゲーム・アミューズメント関連機器の外装、パーテーション等の建築分野にも好適である。とりわけ高衝撃と艶消し性の要求されるゲーム・アミューズメント関連機器の周辺部材に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0013】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0014】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0016】
本発明にて使用される有機重合体粒子(B)としては、球状の形態を示すものが好適に使用できる。球状の形態を示す有機重合体粒子としてはシリコーン系重合体やアクリル系重合体等の粒子が挙げられる。有機重合体粒子(B)の平均粒子径としては、1〜30μmの範囲であることが好ましい。シリコーン系重合体粒子としてはモーメンティブジャパン社製トスパール120S、また、アクリル系重合体粒子としてはガンツ化成社製ガンツパールGM0449Sや総研化学社製ケミスノーKMR−3TAなどが挙げられる。
【0017】
有機重合体粒子(B)の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.5〜10重量部である。添加量が0.5重量部未満ではポリカーボネート樹脂の艶消し効果が充分に得られず、また10重量部を超えると衝撃強度が低下するので好ましくない。より好ましくは、2〜8重量部の範囲である。
【0018】
本発明にて使用されるエラストマー(C)としては、MBS樹脂、MAS樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。とりわけ、エポキシ変性のアクリル樹脂が衝撃強度を維持するうえで好適に使用できる。
【0019】
エラストマー(C)の添加量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.5〜10重量部である。添加量が0.5重量部未満ではポリカーボネート樹脂の衝撃強度の維持効果が充分に得られず、また10重量部を超えると熱安定性が悪くなるので好ましくない。より好ましくは、2〜8重量部の範囲である。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、公知の各種添加剤、ポリマーなどを添加することができる。例えば、長期間、光に暴露された際の樹脂成形品の変色を抑制するためにヒンダードアミン系の耐光安定剤を、鮮やかな色調を得るためにベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を添加してもよい。さらに、これらを併用して添加してもよい。
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えばフェノール系またはリン系熱安定剤[2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(4−エチル−6−t−メチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4′−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)等]、滑剤[パラフィンワックス、n−ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等]、流動性改良剤、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィン等]を必要に応じて添加することができる。
【0022】
本発明における各種配合成分の添加順序については、何ら制限はない。例えば、ポリカーボネート樹脂(A)、有機重合体粒子(B)およびエラストマー(C)を任意の配合量で計量し、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等により一括混合した後、混合物を通常の単軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、個々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、(A)と(C)および/または(B)とを高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化し、マスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)を所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機へ投入する位置、押出温度、スクリュウ回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。さらに、該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)とを、所望の比率により乾式混合後、射出成形装置やシート押出機装置に直接投入して成形品とすることも可能である。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ重量基準に基づく。
【0024】
使用した原材料は以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製カリバー200−13、
粘度平均分子量:21500、以下「PC」と略記)
有機重合体粒子(B):
ガンツ化成社製GM−0449S
(アクリル系重合体粒子、以下「粒子1」と略記)
モメンティブジャパン社製トスパール120S
(ポリメチルシルセスキオキサン系重合体粒子、以下「粒子2」と略記)
エラストマー(C):
ロームアンドハース社製パラロイドEXL−2314
(エポキシ変性アクリル系エラストマー、以下「EL1」と略記)
ロームアンドハース社製パラロイドEXL−2602
(MBS系エラストマー、以下「EL2」と略記)
【0025】
前述の各種原料を表1〜3に示す配合比率にて、それぞれタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α(L/D=42、Φ=30mm))を用いて、溶融温度260℃にて混錬しペレットを得た。
得られたペレットを用いて290℃の条件下、射出成形機(日本製鋼所製J100EII−P)にて幅50mm×長さ90mm3段プレート状試験片(3mm部分:幅50mm×長さ35mm/2mm部分:幅50mm×長さ30mm/1mm部分:幅50mm×長さ25mm)を作成した。
得られたペレットを用いて、同様に290℃の条件下、射出成形機(日本製鋼所製J100EII−P)にて幅12.7mm×長さ63.5mm×厚み3.2mmのアイゾッド衝撃試験片を作成した。作成したアイゾッド衝撃試験片は、D−256に従いフライス盤によりノッチ切削加工を施した。
【0026】
本発明における各種評価項目及び測定方法について説明する。
1.衝撃強度:
得られたアイゾッド衝撃試験片を用いて、ASTM D−256に準拠してノッチ付きアイゾッド衝撃強度を測定した。3.2mm厚みで50kg・cm/cm以上を合格とした。
2.艶消し性:
得られた3段プレート状試験片を用いて、JIS K7105に準拠して測定角60度におけるグロスを測定した。2mm厚みで80%以下を合格とした。
3.イエローネスインデックス(YI)
得られた3段プレート状試験片を用いて、ASTM D−1925に準拠して2mm部分のイエローネスインデックス(YI)を測定した。YIが20以下を合格とした。
4.光線透過率
試験片の2mm部分における光線透過率をJIS K7361に基づき測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
表1と表2で示したとおり、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の要件を満足する場合(実施例1〜12)は衝撃強度、グロスおよびYIの必要な性能は全て要求されるレベルを満足していた。
【0031】
一方、表3に示すとおり、本発明の構成を満足しない場合には、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、有機重合体粒子の配合量が規定量より少ない場合であり、グロスが劣る結果となった。
比較例2は、有機重合体粒子の配合量が規定量より多い場合であり、衝撃強度が劣る結果となった。
比較例3および比較例5は、エラストマーの配合量が規定量より少ない場合であり、衝撃強度が劣る結果となった。
比較例4および比較例6は、エラストマーの配合量が規定量より多い場合であり、YIが劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、有機重合体粒子(B)0.5〜10重量部およびエラストマー(C)0.5〜10重量部からなるポリカーボネート樹脂組成物であって、当該組成物を射出成形して得られる厚み2mmの試験片を用いて、JIS K7105に基づき測定角60度にて測定された光沢度が80%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
有機重合体粒子(B)が、アクリル系重合体粒子、シリコーン系重合体粒子、スチレン系重合体粒子から選択される1種もしくは2種以上の重合体粒子である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
エラストマー(C)がエポキシ変性されたアクリル系エラストマーである請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2013−43906(P2013−43906A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181040(P2011−181040)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(396001175)住化スタイロンポリカーボネート株式会社 (215)
【Fターム(参考)】