説明

ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】難燃性、透明性、表面硬度、拡散性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される特定の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂(A)及び一般式(2)で示される特定の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜30,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20〜20/80の割合で含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対し、難燃剤を0.01〜30質量部及び光拡散剤を0.01〜5質量部含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3〜8であり、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、難燃性、透明性、表面硬度、拡散性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、強靭で耐衝撃性や電気的特性に優れ、しかも、得られる成形品は寸法安定性等にも優れることから、電気電子機器部品、自動車用内装部品類、精密成形部品、照明用機器部材、各種建材等の製造用原料樹脂として広く使用されている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂は、ガラスに比べると表面硬度が低いため、耐擦傷性が劣り、布で拭いたり手荒に扱うと表面に傷がつきやすく、耐擦傷性を有することが望まれる。
従来、この耐擦傷性の改良のためには、ポリカーボネート樹脂成形品の表面に各種コーティングを施すことが行なわれているが、コーティング等の処理では、加工のためのコストと手間を要することから、ポリカーボネート樹脂組成物の配合組成を改良することにより、ポリカーボネート樹脂成形品自体に耐擦傷性を付与することが望まれる。
【0004】
従来、ポリカーボネート樹脂組成物自体の硬度を高める技術としては、ポリカーボネート樹脂にシリコーンオイルを配合したもの(特許文献1)、シリコーン化合物等の摺動性充填剤を配合したもの(特許文献2)、ビフェニル化合物、ターフェニル化合物、ポリカプロラクトン等の反可塑剤を配合したもの(特許文献3)などが提示されているが、表面硬度はある程度向上し透明性も良好ではあるものの、耐衝撃性は十分ではなかった。
特許文献4には、芳香族ポリカーボネート樹脂にアクリルエラストマーとポリエステル樹脂を配合して、耐衝撃性を改善する方法が提案されている。しかしながら、この樹脂組成物は、硬度と耐薬品性がある程度向上するものの、透明性は低下してしまい、また硬度及び耐衝撃性も、その両方とも満足できるというものではない。
【0005】
また、ポリカーボネート樹脂に光拡散性を付与することにより、照明器具カバー、LED照明装置やその部材、透過型のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シート、遮光性建材など、各種の光拡散性の要求される用途に用いることが行われている。
このような用途には、当然のことながら高い難燃性が要求されるが、通常光拡散剤を配合すると難燃性が低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−210889号公報
【特許文献2】特開2007−51233号公報
【特許文献3】特開2007−326938号公報
【特許文献4】特公昭62−37671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、高い表面硬度を有し、さらに、難燃性、透明性、光拡散性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂材料が望まれている。
本発明の目的は、高い表面硬度、高度の難燃性、透明性と光拡散性の全てを併せ有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、それぞれ特定の構造単位と特定の分子量を有する2種のポリカーボネート樹脂を特定割合で含有し、難燃剤と光拡散剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、特定の溶融粘度特性を有するものが、高い表面硬度と高い難燃性と透明性、拡散性を併せ有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる以下の成形品を提供する。
【0009】
[1]下記一般式(1)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂(A)及び下記一般式(2)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜30,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20〜20/80の割合で含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対し、難燃剤を0.01〜30質量部及び光拡散剤を0.01〜5質量部含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3〜8であり、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、Rはメチル基、Rは水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化2】

を示し、R及びRは水素原子またはメチル基を示し、ZはCと結合して炭素数6〜12の置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化3】

(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【0010】
[2]前記一般式(1)におけるRがメチル基、Rが水素原子であり、前記一般式(1)及び(2)におけるXがイソプロピリデン基であることを特徴とする上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]UL94規格垂直燃焼試験でV−0を達成する試験片厚みが1.2mm以下であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]難燃剤が有機スルホン酸金属塩系難燃剤であり、その含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01〜1質量部であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]難燃剤が臭素系難燃剤またはリン系難燃剤であり、その含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、2〜30質量部であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]光拡散剤がアクリル系光拡散剤またはシリコーン系光拡散剤であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]ポリカーボネート樹脂(A)が溶融エステル交換法により製造されたものであることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[8]ポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)の合計100質量%中、10質量%以上がフレーク状の粉末原料に由来することを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるLED照明装置用部材。
[10]上記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遮光用建材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通常光拡散剤を配合すると難燃性が低下するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は光拡散剤配合による難燃性の低下がなく、難燃助剤の含有なしでも良好な難燃性を発揮することができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い表面硬度を有し、さらに高い透明性と良好な全光線透過率を示すので、難燃性、透明性、表面硬度、拡散性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<発明の概要>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記一般式(1)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂(A)及び前記一般式(2)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜30,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20〜20/80の割合で含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対し、難燃剤を0.01〜30質量部、光拡散剤を0.01〜5質量部含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3〜8であり、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とする。
【0013】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。
また、本願明細書において「〜」とは、特に断りがない限り、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂である。
【化4】

(一般式(1)中、Rはメチル基、Rは水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化5】

を示し、R及びRは水素原子またはメチル基を示し、ZはCと結合して炭素数6〜12の置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【0015】
上記一般式(1)において、Rはメチル基であり、Rは水素原子またはメチル基であるが、Rは特には水素原子であることが好ましい。
【0016】
また、Xは、
【化6】

である場合、R及びRの両方がメチル基であるイソプロピリデン基であることが好ましく、また、Xが、
【化7】

のとき、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6〜12の二価の脂環式炭化水素基を形成するが、二価の脂環式炭素水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5−トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0017】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)としての好ましい具体例としては、以下のi)〜iv)のポリカーボネート樹脂が挙げられる。
i)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位を有するもの、即ちRがメチル基、Rが水素原子、X(または−CR−)がイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
ii)2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位、即ちRがメチル基、Rがメチル基、Xがイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
iii)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン構造単位、即ちRがメチル基、Rが水素原子、X(または−C(=Z)−)がシクロヘキシリデン基である構造単位を有するもの、
iv)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン構造単位、即ちRがメチル基、Rが水素原子、X(または−C(=Z)−)がシクロドデシリデン基である構造単位を有するもの。
これらの中で、より好ましくは上記i)、ii)またはiii)、さらに好ましくは上記i)またはiii)、特には上記i)のポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0018】
これらポリカーボネート樹脂(A)は、それぞれ、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン及び2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンをジヒドロキシ化合物として使用して製造することができる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)は、前記一般式(1)の構造単位以外のカーボネート構造単位を有することもでき、例えば、前記一般式(2)の構造単位(即ち、ビスフェノール−A由来の構造単位)、あるいは後述するような他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有していてもよい。一般式(1)の構造単位以外の構造単位の共重合量は、通常60モル%以下であり、55モル%以下、また50モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下、さらには30モル%以下、特には20モル%以下であり、10モル%以下、なかで5モル%以下が最も好ましい。
【0020】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、20,000〜35,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られ、20,000を下回ると、耐衝撃性が著しく低下し、製品化した際に割れや欠けなどの不具合を生じる可能性が高くなり、35,000を超えると流動性が低下し、薄肉、特に厚み2mm以下の薄肉成形品を製造することが極めて困難となる傾向にある。ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい分子量の下限は、22,000、より好ましくは23,000、さらに好ましくは24,000であり、上限は好ましくは33,000、より好ましくは32,500である。
ここで、粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計を使用し、温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10−40.83の式から算出される値を意味する。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)は、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が、3〜8であることが好ましい。
【0022】
ここで、溶融粘度の比(η10/η1000)の測定は、具体的には、以下のようにして行う。
キャピログラフによる溶融粘度は、キャピラリーレオメータ「キャピログラフ 1C」(株式会社東洋精機製作所製)を用い、ダイス径1mmφ×10mmL、滞留時間5分、測定温度300℃にて、剪断速度γ=9.12〜1824sec−1の範囲で測定され、η10及びη1000を求める。また、測定に用いるポリカーボネート樹脂は、予め80℃で5時間乾燥したものを使用する。
【0023】
溶融粘度η10は、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼性試験における燃焼時の溶融粘度に対応する。溶融粘度η10が高いほど、燃焼時に火種が落下し難く、延焼し難いと考えられる。
ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η10は、8,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは10,000Pa・s以上である。また、溶融粘度η10は、50,000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度η10が、過度に小さいと燃焼時に火種が落下しやすい傾向がある。溶融粘度η10が、過度に大きいと押出機での混練時に粘度が高いため、添加剤の分散不良を招き易い、あるいは押出機のモータ負荷が大きすぎてトラブルになりやすい傾向がある。
【0024】
溶融粘度η1000は、例えば、射出成形時のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度に対応する。溶融粘度η1000が低いほど、成形時の流動性が良好と考えられる。
ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η1000は、10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5,000Pa・s以下である。また、溶融粘度η1000は、1,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは2,000Pa・s以上である。溶融粘度η1000が、過度に小さいと機械的強度が劣る傾向がある。溶融粘度η1000が、過度に大きいと流動性不足により成形性が悪化する傾向がある。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)は、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性と成形性のバランスを表す指標としての技術的意義を有する。すなわち、高速剪断速度における溶融粘度η1000は、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における成形性を支配する要因となり得る。また、低速剪断速度における溶融粘度η10は、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼性試験における難燃性を支配する要因となり得る。
溶融粘度の比(η10/η1000)は、好ましくは3以上であり、より好ましくは3.5以上であり、且つ、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6.5以下である。比(η10/η1000)が過度に小さいと、難燃性、表面硬度や成形性に劣る傾向がある。比(η10/η1000)が過度に大きいと、押出混練時のしやすさや、機械的強度に劣る傾向がある。
【0026】
溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)の調整は、種々の方法で可能であるが、後記するポリカーボネート樹脂(A)の製造工程において、例えば重縮合反応における反応器の攪拌回転数、反応液の温度、圧力、時間を調整することにより行うことができる。具体的な例として、η10/η1000を大きくするには、重縮合反応時に高温、高真空とし、η10/η1000を小さくするには、重縮合反応を阻害しない範囲で、低温、低真空とすることで可能である。
また、モノマー種や重合度の違いにより(η10/η1000)の異なる2種類あるいはそれ以上の種類のポリカーボネート樹脂を任意の割合で混合することで、目的の(η10/η1000)を有するポリカーボネート樹脂(A)とすることも可能である。この方法を用いれば、比較的簡便に目的の物性を有するポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂(A)は、[η]/[η]linで定義される分岐パラメーターGが、0.1〜0.9であることが好ましい。分岐パラメーターGは、0.3〜0.9がより好ましく、0.5〜0.9が更に好ましい。分岐パラメーターGが過度に小さいと、溶融張力が大きすぎて流動性が低下する傾向があり、分岐パラメーターGが過度に大きいと、溶融状態でニュートン流体として挙動し成形性が不十分となる傾向があり、流動性と難燃性のバランスが悪くなる場合がある。
【0028】
ここで[η]は、塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度(dl/g)である。[η]は、0.4〜2dl/g以下の範囲であることが好ましく、0.5〜1dl/gがより好ましく、0.5〜0.8dl/gが特に好ましい。極限粘度[η]が過度に小さいと、機械的強度が劣る傾向があり、極限粘度[η]が過度に大きいと、溶融流動性が悪化し成形性が劣る傾向がある。
【0029】
また、[η]linとは、汎用較正曲線を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(ポリスチレン換算)が同一の直鎖状ポリカーボネート樹脂の、塩化メチレン溶媒中、20℃における極限粘度である。本実施の形態では、具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物と同じ芳香族ジヒドロキシ化合物と塩化カルボニルとを原料とし、分岐剤を使用せずに界面重合法により直鎖状のポリカーボネート樹脂を、目的の重量平均分子量となるように重合する。そして、得られた直鎖状ポリカーボネート樹脂の極限粘度を測定し、[η]linを求めることができる。
【0030】
分岐パラメーターGは、以下の方法により算出する。すなわち、前述した方法で測定したポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度[η]を、それと同じ重量平均分子量を有する直鎖状ポリカーボネート樹脂の極限粘度[η]linで除してポリカーボネート樹脂の分岐パラメーターGを算出する。
【0031】
ポリカーボネート樹脂(A)の極限粘度[η]を上記範囲内とする方法は以下の例が挙げられる。例えば、後述するジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法により重合する場合、原料の炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物の仕込み量を適宜調整し、目標の極限粘度[η]となるように、触媒添加量、反応温度、反応圧力、反応時間を調整する。また、末端停止剤等を添加し重縮合することでも調整出来る。一方、後述する界面重合法の場合、通常、末端停止剤、分岐剤等を適宜添加することで、目標の極限粘度とすることが可能である。
ポリカーボネート樹脂(A)は、分岐構造が生成するという点から溶融エステル交換法により製造されたものが好ましい。分岐構造が生成すると剪断時の粘度が増加し、難燃性や押出成形性に優れる傾向にある。
【0032】
ポリカーボネート樹脂(A)は、一種または2種以上を混合して使用してもよく、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0033】
<ポリカーボネート樹脂(B)>
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(B)は、下記一般式(2)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂である。
【化8】

(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【0034】
上記一般式(2)で表されるポリカーボネート構造単位の好ましい具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール−A由来のカーボネート構造単位である。
ポリカーボネート樹脂(B)は、前記一般式(2)の構造単位以外のカーボネート構造単位を有することもでき、他のジヒドロキシ化合物由来のカーボネート構造単位を有していてもよい。一般式(2)の構造単位以外の構造単位の共重合量は、通常50モル%未満が好ましく、より好ましくは40モル%以下、さらには30モル%以下、特には20モル%以下であり、10モル%以下、なかで5モル%以下が最も好ましい。
【0035】
他のジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のような芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0036】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量(Mv)は、16,000〜30,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られ、16,000を下回ると、耐衝撃性が著しく低下し、製品化した際に割れや欠けなどの不具合を生じる可能性が高くなり、30,000を超えると流動性が低下し、薄肉の成形品を作成することが極めて困難となる傾向にある。ポリカーボネート樹脂(B)の好ましい分子量の下限は、17,000、より好ましくは17,500であり、その上限は好ましくは29,000、より好ましくは28,000である。
なお、粘度平均分子量(Mv)の定義は、前記したとおりである。
また、ポリカーボネート樹脂(B)は、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0037】
ポリカーボネート樹脂(B)は、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が、3〜8であることが好ましい。溶融粘度の比(η10/η1000)は、好ましくは3.5以上7以下であり、より好ましくは3.5以上6.5以下である。比(η10/η1000)が過度に小さいと、難燃性、表面硬度や成形性に劣る傾向がある。比(η10/η1000)が過度に大きいと、押出混練時のしやすさや、機械的強度に劣る傾向がある。
ここで、溶融粘度の比(η10/η1000)の測定は、前記したとおりである。
【0038】
ポリカーボネート樹脂(B)の溶融粘度η10は、8,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは10,000Pa・s以上である。また、溶融粘度η10は、50,000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度η10が、過度に小さいと燃焼時に火種が落下しやすい傾向がある。溶融粘度η10が、過度に大きいと押出機での混練時に粘度が高いため、添加剤の分散不良を招き易い、あるいは押出機のモータ負荷が大きすぎてトラブルになりやすい傾向がある。
【0039】
ポリカーボネート樹脂(B)の溶融粘度η1000は、10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5,000Pa・s以下である。また、溶融粘度η1000は、1,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは2,000Pa・s以上である。溶融粘度η1000が、過度に小さいと機械的強度が劣る傾向がある。溶融粘度η1000が、過度に大きいと流動性不足により成形性が悪化する傾向がある。
【0040】
溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)の調整は、種々の方法で可能であるが、後記するポリカーボネート樹脂(B)の製造工程において、例えば重縮合反応における反応器の攪拌回転数、反応液の温度、圧力、時間を調整することにより行うことができる。具体的な例として、η10/η1000を大きくするには、重縮合反応時に高温、高真空とし、η10/η1000を小さくするには、重縮合反応を阻害しない範囲で、低温、低真空とすることで可能である。
また、モノマー種や重合度の違いにより(η10/η1000)の異なる2種類あるいはそれ以上の種類のポリカーボネート樹脂を任意の割合で混合することで、目的の(η10/η1000)を有するポリカーボネート樹脂(B)とすることも可能である。この方法を用いれば、比較的簡便に目的の物性を有するポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0041】
ポリカーボネート樹脂(B)は、分岐パラメーターGが、0.1〜0.9であることが好ましい。分岐パラメーターGは、0.3〜0.9がより好ましく、0.5〜0.9が更に好ましい。分岐パラメーターGが過度に小さいと、溶融張力が大きすぎて流動性が低下する傾向があり、分岐パラメーターGが過度に大きいと、溶融状態でニュートン流体として挙動し成形性が不十分となる傾向があり、流動性と難燃性のバランスが悪くなる場合がある。
分岐パラメーターGの定義は前記したとおりである。
【0042】
ポリカーボネート樹脂(B)の極限粘度[η]を上記範囲内とする方法は以下の例が挙げられる。例えば、後述するジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法により重合する場合、原料の炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物の仕込み量を適宜調整し、目標の極限粘度[η]となるように、触媒添加量、反応温度、反応圧力、反応時間を調整する。また、末端停止剤等を添加し重縮合することでも調整出来る。一方、後述する界面重合法の場合、通常、末端停止剤、分岐剤等を適宜添加することで、目標の極限粘度とすることが可能である。
【0043】
<ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の製造方法>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)及び(B)を製造する方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0044】
・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂(A)または(B)を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、前記各ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0045】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0046】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0047】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0048】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。
このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0049】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0050】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0051】
・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂(A)または(B)を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0052】
ジヒドロキシ化合物は、それぞれ前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0053】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0054】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0055】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0056】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0057】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、この範囲の条件で、ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0058】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0059】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1質量ppm以上であり、また、通常100質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下である。
【0060】
なお、前記したように、ポリカーボネート樹脂(A)は溶融エステル交換法により製造されることが好ましい。
【0061】
<ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の割合>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)の混合割合は、両者の質量比で、ポリカーボネート樹脂(A)/ポリカーボネート樹脂(B)=80/20〜20/80である。このような混合割合で用いることにより、高い表面硬度と高度の透明性と難燃性向上を達成することができる。ポリカーボネート樹脂(A)の質量比が20を下回ると表面硬度が低下し、製品化した際に表面に傷がつきやすくなってしまい、80を超えると耐衝撃性が低下してしまうため、製品化した際に割れや欠けなどの不具合がおきやすくなってしまう。
好ましい混合比は、ポリカーボネート樹脂(A)/ポリカーボネート樹脂(B)=80/20〜30/70である。
【0062】
また、本発明においては、原料として使用するポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)は、その合計100質量%中、10質量%以上がフレーク状の粉末であることが好ましい。フレーク状のポリカーボネート樹脂粉末の含有割合は好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。このような割合でフレーク状の粉末を含むことにより、ポリカーボネート樹脂組成物製造時の、難燃剤や光拡散剤、必要に応じて配合される他の添加剤成分の分級を防ぎ、未溶融物の発生や添加剤の凝集等を抑制し、難燃性、透明性、光拡散性に優れた成形品が得られやすい傾向にある。フレーク状粉末の平均粒径は、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。
フレーク状の粉末以外のポリカーボネート樹脂としては、ペレット状のものが好ましい。ペレット長さは好ましくは1〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面が楕円形の場合は長径が2〜3.5mm、短径が1〜2.5mm、断面が円形の場合は直径2〜3mmのものが好ましい。ペレットの長さや断面形状は、ポリカーボネート樹脂製造時のストランドカッターの刃の回転数、巻き取り速度、押出機の吐出量により調整することができる。
【0063】
<難燃剤>
本発明で使用する難燃剤としては、例えば、有機スルホン酸金属塩系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、有機スルホン酸金属塩系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系系難燃剤が好ましい。
【0064】
難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であり、上限は30質量部以下である。難燃剤の含有量が過度に少ないと、難燃効果が低下する。難燃剤の配合量が過度に多いと、樹脂成形体の機械的強度が低下する。
【0065】
有機スルホン酸金属塩系難燃剤としては、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、中でも、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩が好ましく、特にはパーフルオロアルカンスルホン酸金属塩が好ましい。
有機スルホン酸金属塩の金属としては、好ましくは、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。中でも難燃性と耐加水分解性との観点からはカリウムが好ましい。これら有機スルホン酸金属塩は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0066】
芳香族スルホンスルホン酸金属塩としては、好ましくは、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられ、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩は重合体であってもよい。
芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム塩、4−クロロ−4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩等が挙げられる。
【0067】
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩としては、好ましくは、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
これらの中でも、特に、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0068】
有機スルホン酸金属塩系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であり、上限は1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.5質量部、さらに好ましくは0.06〜0.3質量部の範囲である。
【0069】
臭素系難燃剤としては、従来公知の任意の、ポリカーボネート樹脂に使用される臭素系難燃剤を用いることが出来る。この様な臭素系難燃剤としては、芳香族系化合物が挙げられ、具体的には、例えば、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ化合物、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等の臭素化ベンジル(メタ)アクリレート、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)(EBTPI)等の臭素化イミド化合物、臭素化ポリカーボネート、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA等が挙げられる。これらの中でも熱安定性の良好な点より、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)等の臭素化ベンジル(メタ)アクリレート、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリスチレン、臭素化イミド化合物が好ましく、臭素化ベンジル(メタ)アクリレート、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート及び臭素化イミド化合物がより好ましく、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート及び臭素化イミド化合物がさらに好ましい。
臭素系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、2質量部以上であることが好ましく、上限は30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10〜28質量部、さらに好ましくは15〜26質量部の範囲である。
【0070】
リン系難燃剤としては、赤燐、被覆された赤燐、ポリリン酸塩系化合物、リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等が挙げられる。
【0071】
リン系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、2質量部以上であることが好ましく、上限は30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4〜20質量部、さらに好ましくは5〜16質量部の範囲である。
【0072】
珪素含有化合物系難燃剤としては、例えば、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。
【0073】
珪素含有化合物系難燃剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、2質量部以上であることが好ましく、上限は30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3〜25質量部、さらに好ましくは4〜20質量部の範囲である。
【0074】
<光拡散剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は光拡散剤を含有する。このように光拡散剤を含有することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる成形体の光拡散性を高めることができる。
光拡散剤の例としては、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス等の無機微粒子;アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂などの有機微粒子が挙げられる。特には有機微粒子が好ましく、その中でもアクリル系微粒子及び/又はシリコーン系微粒子がより好ましい。
【0075】
有機微粒子としては、有機高分子を構成する主鎖同士が架橋した、架橋構造を有する有機微粒子が好ましい。中でも、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の加工過程、例えば、射出成形時において、実用的に変形せず、微粒子状態を維持し得るものが好ましい。
このような観点から、光拡散剤は、本発明で使用するポリカーボネート樹脂の成形温度(例えば、350℃)まで加熱しても、ポリカーボネート樹脂中で実質的に溶融しない微粒子が好ましい。かかる微粒子としては、例えば、架橋したアクリル系樹脂(架橋アクリル系微粒子)やシリコーン系樹脂の微粒子(架橋シリコーン微粒子)などが挙げられる。特に、部分架橋したメタクリル酸メチルをベースとしたポリマー微粒子であって、且つ、ポリ(ブチルアクリレート)のコアとポリ(メチルメタクリレート)のシェルとを有するポリマー微粒子か、または、ゴム状ビニルポリマーのコアとシェルとを含んだコア/シェルモルホロジーを有するポリマー微粒子かが好ましい。
【0076】
また、光拡散剤の重量平均粒径は、通常0.7μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。重量平均粒径が小さ過ぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の光拡散性が劣り、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に光源が透けて見えたり、視認性に劣ったりする傾向があり、逆に大き過ぎると含有量に対する拡散効果が低くなる可能性がある。
【0077】
光拡散剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.5質量部以上であり、5質量部以下、好ましくは3質量部以下である。光拡散剤の含有量が少なすぎると光拡散性が不足し、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に光源が透けて見える可能性がある。一方、多すぎると本発明の成形体の光線透過率が低下し、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に輝度が過度に低くなる可能性がある。
なお、光拡散剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0078】
<その他の添加剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、他の種々の添加剤を配合することもできる。添加剤としては、例えば、滴下防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、ワラストナイト、珪酸カルシウム、硼酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
【0079】
<滴下防止剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滴下防止剤を含有していてもよく、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、0.05〜1質量部であることが好ましい。このように滴下防止剤を含有することで、樹脂組成物の溶融特性を改良することができ、具体的には燃焼時の滴下防止性を向上させることができる。
滴下防止剤の含有量は、0.05質量部より少ないと、滴下防止剤による難燃性向上効果が不十分になりやすく、1質量部を超えると、樹脂組成物を成形した成形体の外観不良や機械的強度、透明性の低下が生じやすい。含有量の下限は、より好ましくは0.05質量部、特に好ましくは0.08質量部である。含有量の上限は、より好ましくは0.8質量部、特に好ましくは0.5質量部である。
【0080】
滴下防止剤としては、フルオロポリマーが好ましく、フルオロポリマーは1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0081】
フルオロポリマーとしては、例えば、フルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体である。具体例としてはジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でも好ましくはテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が挙げられる。
【0082】
フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、ダイキン化学工業社製「ポリフロン(登録商標)F201L」、「ポリフロン(登録商標)F103」、「ポリフロン(登録商標)FA500B」などが挙げられる。さらに、フルオロエチレン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン化学工業社製「フルオン(登録商標)D−1」等が挙げられる。さらに、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も使用することができ、このようなフルオロエチレン重合体としては、ポリスチレン−フルオロエチレン複合体、ポリスチレン−アクリロニトリル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸メチル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸ブチル−フルオロエチレン複合体等が挙げられ、具体例としては三菱レイヨン社製「メタブレン(登録商標)A−3800」、GEスペシャリティケミカル社製「ブレンデックス(登録商標)449」等が挙げられる。なお、滴下防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0083】
<安定剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、成形時等における分子量の低下や透明性の悪化を防止するために、安定剤を含有することも好ましい。
安定剤としては、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましい。
【0084】
リン系安定剤としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0085】
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
これらの中でも、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、BASF社より「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
【0086】
安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、より好ましくは0.02質量部以上であり、また、1質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。安定剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、分子量低下や透明性悪化の改善効果が得られない場合があり、安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、逆に熱や水分に対して不安定となる傾向にある。
【0087】
<紫外線吸収剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。特に、上記したリン系安定剤及び/またはフェノール系安定剤と併用することにより、耐候性がより向上しやすい傾向にある。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤またはマロン酸エステル系紫外線吸収剤がより好ましい。
特にポリカーボネート樹脂(A)に対する耐候性の向上効果が、ポリカーボネート樹脂(B)よりも良く、かつ色調の変化がより少ないことが認められた。
【0088】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0089】
トリアジン系紫外線吸収剤の具体例としては、トリアジン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0090】
マロン酸エステル系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類、特に2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類が挙げられ、このようなマロン酸エステル系紫外線吸収剤としては、具体的には例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、BASF社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0091】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下、さらに好ましくは0.4質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0092】
<離型剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することも好ましい。
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸及びアルコールからなる脂肪酸エステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物及びポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられ、この中でも特に、脂肪族カルボン酸及びアルコールからなる脂肪酸エステルがより好ましい。
【0093】
脂肪酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価若しくは3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、モンタン酸、テトラリアコンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0094】
脂肪酸エステルを構成するアルコールとしては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール、又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0095】
脂肪族カルボン酸及びアルコールからなる脂肪酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリスチルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアレート、ベヘン酸ベヘネート、ベヘン酸ステアレート、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸ステアレート及びステアリン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種の離型剤を使用することがより好ましい。
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下、さらに好ましくは0.4質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0096】
<ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度比(η10/η1000)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が、3〜8である。
ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度の比(η10/η1000)の測定は、予め80℃で5時間乾燥したポリカーボネート樹脂組成物を用い、前記した方法により行う。
【0097】
溶融粘度η10は、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼性試験における燃焼時の溶融粘度に対応する。溶融粘度η10が高いほど、燃焼時に火種が落下し難く、延焼し難いと考えられる。
ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η10は、8,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは10,000Pa・s以上である。また、溶融粘度η10は、50,000Pa・s以下であることが好ましい。溶融粘度η10が、過度に小さいと燃焼時に火種が落下しやすい傾向がある。溶融粘度η10が、過度に大きいと押出機での混練時に粘度が高いため、添加剤の分散不良を招き易い、あるいは押出機のモータ負荷が大きすぎてトラブルになりやすい傾向がある。
【0098】
溶融粘度η1000は、例えば、射出成形時のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度に対応する。溶融粘度η1000が低いほど、成形時の流動性が良好と考えられる。
ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度η1000は、10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5,000Pa・s以下である。また、溶融粘度η1000は、1,000Pa・s以上であることが好ましく、より好ましくは2,000Pa・s以上である。溶融粘度η1000が、過度に小さいと機械的強度が劣る傾向がある。溶融粘度η1000が、過度に大きいと流動性不足により成形性が悪化する傾向がある。
【0099】
溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)は、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性と成形性のバランスを表す指標としての技術的意義を有する。すなわち、高速剪断速度における溶融粘度η1000は、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時における成形性を支配する要因となり得る。また、低速剪断速度における溶融粘度η10は、ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼性試験における難燃性を支配する要因となり得る。
ポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度の比(η10/η1000)は、3以上であり、好ましくは3.5以上であり、且つ、8以下、好ましくは7以下、より好ましくは6.5以下である。比(η10/η1000)が過度に小さいと、難燃性、表面硬度や成形性に劣る傾向がある。比(η10/η1000)が過度に大きいと、押出混練時のしやすさや、機械的強度に劣る傾向がある。
【0100】
溶融粘度η10と溶融粘度η1000との比(η10/η1000)の調整は、種々の方法で可能であるが、前記したポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の製造工程において、例えば重縮合反応における反応器の攪拌回転数、反応液の温度、圧力、時間を調整することにより行うことができる。具体的な例として、η10/η1000を大きくするには、重縮合反応時に高温、高真空とし、η10/η1000を小さくするには、重縮合反応を阻害しない範囲で、低温、低真空とすることで可能である。
また、モノマー種や重合度の違いにより(η10/η1000)の異なる2種類あるいはそれ以上の種類のポリカーボネート樹脂を任意の割合で混合することで、目的の(η10/η1000)を有するポリカーボネート樹脂とすることも可能である。この方法を用いれば、比較的簡便に目的の物性を有するポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0101】
<鉛筆硬度>
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、鉛筆硬度がHB以上という極めて高い硬度を有する。
ここで、鉛筆硬度はJIS K5600−5−4に準拠して測定される。本発明では、上記と同じ100×100×2mmの試験片に対して、測定を行う。
鉛筆硬度がHBより低いと、樹脂組成物を製品とした際の表面硬度が低く、製品を使用中に表面が傷付きやすくなってしまう。中でもF以上、H以上、特には2H以上であることが好ましい。
【0102】
<UL94難燃性>
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、UL94規格垂直燃焼試験でV−0を達成する試験片厚みが1.2mm以下であるという高い難燃性を達成することが可能となる。
V−0を達成する試験片の厚みは、好ましくは1.0mm、さらに好ましくは0.8mmである。
【0103】
前述したように、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂(A)及びMvが16,000〜30,000のポリカーボネート樹脂(B)を組み合わせることにより、このような構成を有しない樹脂組成物と比較して、難燃性と硬度と透明性の全てが良好なものとなる。
【0104】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が上記のような特性を発現する理由は明確ではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)に、芳香族ジヒドロキシ化合物の2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(「C−PC」と記す。)を用いる場合を例に挙げると、例えば、以下のように推測される。
すなわち、C−PCは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)を原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(B)(「A−PC」と記す。)と極めて相溶性がよくヘイズ低下を起こさず、また20質量%程度の少量の添加で組成物の硬度の向上効果が顕著となり、さらにデュポン衝撃強度(落錘強度)は添加量が20質量%を超えると急激に向上する。硬度の向上は、C−PC等が、A−PCと比較して、成形体の表面部において偏在する傾向があり、表面硬度が高くなるのではないかと推測される。また、溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3〜8であることにより、高度の難燃性と流動性の両立が達成可能となる。
【0105】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する際、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及び難燃剤、光拡散剤、さらに必要に応じて配合される上記添加剤等の混合方法は特に限定されず、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、ポリカーボネート樹脂(A)、(B)及び難燃剤、光拡散剤、必要に応じて配合される上記添加剤等の各成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0106】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0107】
<ポリカーボネート樹脂成形体>
上述した本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて、ポリカーボネート樹脂成形体が製造される。ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形機、押出成形機等の従来公知の成形機を用いて成形する方法等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物を成形してなるポリカーボネート樹脂成形体は、高い表面硬度と高い難燃性を併せ有し、かつ透明性、光拡散性にも優れる成形体である。
【0108】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したように、高い表面硬度と高度の難燃性と透明性、光拡散性を有する樹脂成形体が得られるので、例えば、照明装置用部材、遮光用建材等として、特に好適である。
【0109】
照明装置用部材としては、例えば、LED照明用カバー等が挙げられる。
遮光用建材としては、例えば、ブラインド、カーポート屋根材、ベランダの遮光カバー等が挙げられる。
さらに、硬度・難燃性・透明性・光拡散性が求められる用途、例えば、液晶表示装置部材、半透明難燃シート、間仕切りなどの建材等に好適である。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0111】
実施例及び比較例において使用した各成分は以下のとおりである。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
ポリカーボネート樹脂(A)として、以下のポリカーボネート樹脂(C−PC−1)を使用した。
【0112】
(1)溶融エステル交換法によるポリカーボネート樹脂(C−PC−1)の製造:
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.66モル(5.71kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積40リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(CsCO)を、BPC1モルに対し1.5×10−6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0113】
次に、反応器内を60分かけて温度を280℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに80分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は300℃、攪拌動力は1.40kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0114】
得られたポリカーボネート樹脂(C−PC−1)の物性は以下の通りであった。
鉛筆硬度 2H
粘度平均分子量(Mv) 32,000
η10/η1000 7.9
【0115】
[ポリカーボネート樹脂(B)]
ポリカーボネート樹脂(B)として、以下のポリカーボネート樹脂(A−PC−1)〜(A−PC−3)を使用した。
(1)A−PC−1:
ビスフェノール−Aを出発原料とし溶融エステル交換法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「NOVAREX M7027BF」(ペレット状)
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 27,000
η10/η1000 5.3
(2)A−PC−2:
ビスフェノール−Aを出発原料とし界面法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロンE−2000」(フレーク状粉末)
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 28,000
η10/η1000 3.2
(3)A−PC−3:
ビスフェノール−Aを出発原料とし界面法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロンH−4000」(フレーク状粉末)
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 18,000
η10/η1000 2.1
【0116】
[難燃剤]
・有機スルホン酸金属塩:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩
DIC社製、商品名「F−114P」
・臭素系難燃剤:臭素化ポリカーボネート
三菱瓦斯化学社製、商品名「ユーピロンFR−53」
【0117】
[光拡散剤]
・アクリル系光拡散剤:
重量平均粒径4μmのアクリル系光拡散剤(球状)
ガンツ化成社製、商品名「ガンツパールGM205S」
[滴下防止剤]
・ポリテトラフルオロエチレン:
ダイキン工業社製、商品名「ポリフロンFA500B」
【0118】
(実施例1〜6)(比較例1〜4)
上記した各樹脂及び各添加剤を表1および表2に示す組成(すべて質量部)で配合混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30XCT」)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物を製造し、ペレットを得、80℃、5時間乾燥した後、以下の手順に従い、各種試験片を作成し、以下の評価を行った。
【0119】
実施例および比較例において行った各評価・測定の方法は、以下の通りである。
(イ)溶融粘度
ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、ダイス径1mmφ×30mmLのキャピラリーレオメータ(株式会社東洋精機製作所社製「キャピログラフ1C」)を使用し、滞留時間は5分、測定温度300℃、剪断速度γ=9.12〜1824sec−1の範囲で測定した。ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物は、予め80℃で5時間乾燥したものを使用した。η10及びη1000は、剪断速度10sec−1における溶融粘度と剪断速度1000sec−1における溶融粘度をそれぞれ読み取り、測定値とした。
【0120】
(ロ)UL94難燃性試験
上記記載の方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形機(住友重機械工業株式会社製「SE100DU」)により、シリンダー温度260〜280℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で、UL94規格に従い、厚みの異なる複数のUL試験用試験片(長さ125mm×幅13mm×厚さ0.6〜3.0mm)を射出成形し、UL規格94の垂直燃焼試験を行って、「V−0」を達成できた試験片の厚みにより、評価を行った。
V−0,V−1,V−2の判定は、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間及び無炎燃焼持続時間の合計、5本の試験片の有炎燃焼持続時間の合計、並びに燃焼滴下物(ドリップ)の有無で判定する。
1回目の接炎時に、V−0は10秒以内、V−1とV−2は30秒以内に有炎燃焼を終えるか否かで判定する。更に、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計が、V−0は30秒以内、V−1とV−2は60秒以内で消えるか否かで判定する。
更に、5本の試験片の有炎燃焼持続時間の合計が、V−0は50秒以内、V−1とV−2は250秒以内か否かで判定する。また、燃焼滴下物はV−2のみに許容されている。なお、すべての試験片は燃え尽きないことが必要である。
【0121】
(ハ)鉛筆硬度
ポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、上記ペレットを射出成形機(住友重機械工業株式会社製「SE100DU」)を用い、シリンダー設定温度260〜280℃、金型温度80℃、スクリュー回転数100rpmの条件下にて、厚み2mm、縦100mm、横100mmのプレートを射出成形した。得られたプレートについて、JIS K5600−5−4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用い、1,000g荷重にて鉛筆硬度を測定した。
【0122】
(ニ)全光線透過率
上記記載の方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業社製「SE−100DU」を用い、金型温度80℃、シリンダー設定温度300℃の条件下で射出成形を行い、長さ65mm、幅45mm、厚さ2mmの光学特性試験用試験片を得た。
JIS K−7136に準拠し、上記光学特性試験用試験片(厚み2mm)を用い、日本電色工業社製のNDH−2000型ヘイズメーターで、全光線透過率(単位:%)を測定した。
【0123】
(ホ)分散度
上記光学特性試験用試験片(厚み2mm)を用い、MURAKAMI COLOR RESEARCH LABORATORY社製のGP−5 GONIOPHOTOMETERを用い、入射光:0°、煽り角:0°、受光範囲:0°〜90°、光束絞り:2.0、受光絞り:3.0の条件で2mm厚部の輝度を測定し、0°の輝度に対して、輝度が半減する角度を分散度(°)として求めた。
分散度が高いほど、光拡散性が高く、照明カバーにした場合に、光源の光をより拡散し、より広範囲において照度を保て、かつ光源の視認性が低下する効果もあるため、好ましい。
以上の評価結果を以下の表に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
表1及び表2に示した結果から、本発明の特定要件を全て満たすポリカーボネート樹脂組成物が初めて、高い表面硬度と難燃性と透明性・光拡散性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い表面硬度と難燃性と透明性、光拡散性にも優れるので、各種用途における成形体として使用でき、特に、照明装置用部材、遮光用建材等に好適であり、産業上の利用性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂(A)及び下記一般式(2)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜30,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20〜20/80の割合で含有するポリカーボネート樹脂100質量部に対し、難燃剤を0.01〜30質量部及び光拡散剤を0.01〜5質量部含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、300℃、剪断速度10sec−1で測定した溶融粘度η10と、300℃、剪断速度1000sec−1で測定した溶融粘度η1000との比(η10/η1000)が3〜8であり、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がHB以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、Rはメチル基、Rは水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化2】

を示し、R及びRは水素原子またはメチル基を示し、ZはCと結合して炭素数6〜12の置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化3】

(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるRがメチル基、Rが水素原子であり、前記一般式(1)及び(2)におけるXがイソプロピリデン基であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
UL94規格垂直燃焼試験でV−0を達成する試験片厚みが1.2mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
難燃剤が有機スルホン酸金属塩系難燃剤であり、その含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01〜1質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
難燃剤が臭素系難燃剤またはリン系難燃剤であり、その含有量が、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、2〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
光拡散剤がアクリル系光拡散剤またはシリコーン系光拡散剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)が溶融エステル交換法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)の合計100質量%中、10質量%以上がフレーク状の粉末原料に由来することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるLED照明装置用部材。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遮光用建材。

【公開番号】特開2013−82887(P2013−82887A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164276(P2012−164276)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】