説明

ポリカーボネート用プライマー組成物及びポリカーボネート

【課題】接着工程でポリカーボネート表面を白化させることなく、且つ、長時間湿熱条件下に置かれた時でも接着力の低下が少ないポリカーボネート用プライマー組成物及びポリカーボネートを提供する。
【解決手段】(a)塩化ゴムと、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体と、溶剤とを成分とするポリカーボネート用プライマー組成物であって、(a)成分と(b)成分の配合質量比率が、(a)/(b)=20/80〜60/40の範囲であり、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤の含有量が20〜60質量%、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量が5〜25質量%であり、前記(a)塩化ゴムの塩素化率が、20%以上である、ポリカーボネート用プライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の透明性を損なわず、且つ、長時間湿熱条件下に置かれた時でも接着力が低下しないポリカーボネート用プライマー組成物及びポリカーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、車両、船舶、航空機向け窓材、クレーンなどの産業機械向けカバーや窓材、住宅向け窓材、半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ製造装置などの産業装置向けカバーや窓材、太陽電池受光面側用透明パネルは、従来ガラスが用いられている。近年では、軽量化、燃費などの経済性の観点から透明樹脂が多く用いられているが、その中でも、耐衝撃性、耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂が用いられている。ポリカーボネートを窓材や透明パネルとして使用する場合、その多くが透明な接着剤を用いた異種材との接着工程、または、透明な接着剤や封止材を介した積層工程が設けられ、製品全体としての透明性を保持しつつ、強固な接着力と長時間湿熱条件下に置かれた時でも接着力が低下しない耐久性が要求される。
【0003】
しかし、ポリカーボネートは、接着し易い被着体ではないため、各種接着剤や、プライマーまたは表面処理を併用する方法が提案されているが、ポリカーボネート樹脂自体が耐溶剤性良好ではないため、溶解性の良い溶剤を用いるとポリカーボネート表面が白化してしまうため、透明性を損ない外観不良となる問題がある。また、ポリカーボネートは透湿性が良好ではないため、他の材質と接着剤や、プライマーまたは表面処理を併用して接着し、耐湿試験等を実施すると、ポリカーボネートと接着剤の界面に水分が浸入し接着力が低下する問題がある。
【0004】
例えば、一般的に市販されている接着剤の溶剤は、トルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等が主に使用されている。これらの溶剤は、ポリカーボネート樹脂にクラックや白化を発生させてしまう。
【0005】
また、可塑化ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、硫黄元素を含むポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂等のホットメルトまたは反応性ホットメルト接着剤、反応性シリコーン接着剤等の無溶剤の接着剤もあるが、ポリカーボネート樹脂への接着力が不十分であり、また、接着剤に含まれる可塑剤がポリカーボネート樹脂を白化させる場合がある。
【0006】
更に、接着性の向上を目的に、ポリカーボネート樹脂にプラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理等を施し、上記のホットメルト接着剤や、反応性シリコーン接着剤を用いて接着することもあるが、初期の接着力は強固になる場合があるが、湿熱条件下に置かれた場合、水分と接着界面の親和性が強く、すぐに接着力が低下してしまう。
【0007】
特許文献1では、ポリカーボネート樹脂と単板を用い、湿気硬化型ホットメルト接着剤、熱可塑性ポリエステル樹脂接着剤または熱可塑性シラン変性樹脂接着剤を用いて積層体を作製している。これらの接着剤の接着力は非常に弱く、見かけ上はく離等の異常が発生していなくても、はく離試験、自動車、車両等の実用試験等では容易にはく離してしまう。
【0008】
特許文献2では、光硬化アクリル接着剤を用いて同種の透明樹脂同士を強固に接着しているが、取り扱いが煩雑な上、ポリカーボネート樹脂以外の材料とは接着しにくく、更に、長時間湿熱条件下に置かれた場合、接着層が脆化してはく離する等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第003994404号公報
【特許文献2】特許第003990004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、接着工程でポリカーボネート表面を白化させることなく、且つ、長時間湿熱条件下に置かれた時でも接着力の低下が少ないポリカーボネート用プライマー組成物及びポリカーボネートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、塩化ゴムとエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、アルコール系溶剤と芳香族炭化水素溶剤の含有率を一定の範囲にすることで、ポリカーボネート表面を白化させることなく良好な接着性が得られ、高温高湿度下に長期間放置されても接着強度の低下が少ないポリカーボネート用プライマー組成物を得られることを見出した。
【0012】
本発明は、[1](a)塩化ゴムと、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体と、溶剤とを成分とするポリカーボネート用プライマー組成物であって、(a)成分と(b)成分の配合質量比率が、(a)/(b)=20/80〜60/40の範囲であり、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤の含有量が20〜60質量%、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量が5〜25質量%であり、前記(a)塩化ゴムの塩素化率が、20%以上である、ポリカーボネート用プライマー組成物に関する。
また、本発明は、[2](a)塩化ゴムの塩素化率が、70%以下である、[1]に記載のポリカーボネート用プライマー組成物に関する。
また、本発明は、[3][1]又は[2]に記載のポリカーボネート用プライマー組成物を塗布してなる、ポリカーボネートに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物を用いることで、ポリカーボネートに対し、透明性を保持しつつ良好な接着性が得られ、高温高湿度下に長期間放置されても接着強度が低下しにくい接着が可能となるため、耐候性が要求される屋外用途に特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物は、(a)塩化ゴムと、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体と、溶剤とを成分とするポリカーボネート用プライマー組成物であって、(a)成分と(b)成分の配合質量比率が、(a)/(b)=20/80〜60/40の範囲であり、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤の含有量が20〜60質量%、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量が5〜25質量%であり、前記(a)塩化ゴムの塩素化率が、20%以上である。
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物の成分である、(a)塩化ゴムとは、塩素化ポリオレフィンとも表現でき、アルケンをモノマーとして合成されるポリマーであり、炭素−炭素二重結合を有している。一般的に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、天然ゴム、合成イソプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体等を、通常60%まで均一に塩素化したものである。従って、本発明のポリカーボネート用プライマー組成物で用いられる、(a)塩化ゴムとは、一般的に、塩素化ポリオレフィン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、塩素化エチレンプロピレン共重合体、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ゴムなどがこれに相当する。
【0015】
また、例えば、塩素化率が20%程度の塩素化ポリエチレンは、ポリエチレンよりも柔らかくゴム状で溶剤に可溶であり、更に塩素化が進むと生成物は固くなる。本発明においては、塩素化率20%以上の塩素化ポリオレフィン((a)塩化ゴム)を用いる。好ましくは、(a)塩化ゴムの塩素化率は30%以上であり、また、70%以下がより好ましい。塩素化率20%未満では被着体であるポリカーボネートへの接着性と耐高温高湿性に乏しく、塩素化率が70%を超えると溶剤溶解性に乏しくなる傾向がある。
市販品としては、日本製紙ケミカル株式会社製のスーパークロン822(塩素化ポリオレフィン、塩素化率24.5%、スーパークロンは登録商標)、スーパークロンHE−305(塩素化ポリオレフィン、塩素化率68%)、日本バイエルアグロケム株式会社製ペルクードS20(塩素化ポリオレフィン、塩素化率64.5%)等が挙げられる。
【0016】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物の成分である、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体とは、一般にEVAとして市販されているものであれば特に規定されることなく、酢酸ビニル含有量、メルトインデックス(樹脂流動性)にかかわらず使用することができる。市販品としては、東ソー株式会社製のウルトラセンUE634(酢酸ビニル含有率26質量%、メルトインデックス4、ウルトラセンは登録商標)、ウルトラセンUE760(酢酸ビニル含有率40質量%、メルトインデックス75)、ウルトラセンUE722(酢酸ビニル含有率28質量%、メルトインデックス400)等が挙げられる。
なお、メルトインデックス(樹脂流動性)とは、メルトフローレート(MFR)とも表され、ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量の合成樹脂を、定められた温度で加熱・加圧し、容器底部に設けられた開口部(ノズル)から10分間あたりに押出された樹脂量を測定し、求められる。値は単位:g/10分で表示される。よって、例えば、「メルトインデックス4」であれば、「MFR;4g/10分」である。
【0017】
本発明では、(a)成分と(b)成分の配合質量比率が、(a)/(b)=20/80から60/40の範囲で使用することができ、好ましくは30/70から60/40の範囲である。配合質量比率が、(a)/(b)=20/80〜60/40の範囲を外れると、ポリカーボネートへの接着性と耐高温高湿性に乏しくなる傾向がある。
【0018】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物は、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤を20〜60質量%含み、(d)芳香族炭化水素系溶剤を5〜25質量%含む。
本発明に用いる(c)アルコール系溶剤とは、水酸基を有する溶剤であり、その例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノールなどが挙げられる。特に一価アルコールが好ましい。また、プライマーに揮発性が求められるため、低沸点(100℃以下)であることがより好ましく、エタノール、iso−プロピルアルコールが特に好ましい。
(c)アルコール系溶剤の含有量は、ポリカーボネート用プライマー組成物の全溶剤を100質量%(樹脂固形分を除く)としたときの20〜60質量%の範囲である。好ましくは、30〜50質量%の範囲である。20質量%未満ではポリカーボネート表面が白化してしまい、60質量%を超えると(a)、(b)の成分を溶解できなくなるおそれがある。
【0019】
本発明に用いる(d)芳香族炭化水素系溶剤とは、ベンゼン環を有する溶剤であり、その例としては、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼンなどが挙げられる。(a)、(b)成分の溶解性、揮発性等から、特にベンゼン、トルエンが好ましい。
(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量は、ポリカーボネート用プライマー組成物の全溶剤を100質量%(樹脂固形分を除く)としたときの5〜25質量%の範囲である。5質量%未満では(a)、(b)成分の溶解性が不十分であると共に、ポリカーボネート表面を膨潤させ接着力を高める効果が弱く、25質量%を超えるとポリカーボネート表面を膨潤させる効果が高すぎ白化させてしまうおそれがある。ポリカーボネート用プライマー組成物の(a)、(b)成分の配合比率や、ポリカーボネート用プライマー組成物の塗布厚みや樹脂固形分濃度により最適量は変化するが、より好ましくは、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量は、5〜10質量%の範囲である。
【0020】
また、本発明のポリカーボネート用プライマー組成物に含まれる、(c)アルコール系溶剤、(d)芳香族炭化水素系溶剤以外の溶剤としては、特に限定しないが、例えば、ケトン系溶剤としてアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エステル系溶剤として酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、エーテル系溶剤としてメチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール等が挙げられ、溶解性等から、特にメチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。また、前記溶剤の含有量としては、特に限定しない。
【0021】
ポリカーボネート用プライマー組成物の製造方法としては、特に規定されるものではなく、フラスコ等の容器に全溶剤をあらかじめ測り取り、(a)、(b)の成分を撹拌溶解することで製造できる。
樹脂固形分とは、ポリカーボネート用プライマー組成物の全配合物中の溶剤を除いた比率のことであり、本発明で特に限定されるものではないが、プライマーとして使用するためには、塗布厚みを薄く、乾燥性を早くするために、一般的には5〜10質量%の範囲にすることが好ましい。
【0022】
また、上記配合物以外に老化防止や変色防止や着色の目的のために添加物や充填物を添加しても良い。これら添加物を配合した場合、添加物を取り除いた配合にて、本発明の範囲にないと効果が得られない。
【0023】
また、本発明のポリカーボネート用プライマー組成物の粘度は、ザーンカップ3号で15秒以下であることが好ましい。15秒を超えるとプライマーとして、被着体に均一に塗布できないおそれがある。
なお、ザーンカップとは、インキ、ペイント、ラッカーなどの粘性(粘度)の測定に用いられる、簡単な測定器で、底部にオリフィスを有する容器(約43ml)のステンレス製カップと、長さ役300mmの柄で構成されている。ザーンカップは、カップに汲み取った定量の試料がオリフィスを通して流出する時間「流出秒」を測定するもので、この時間を基に、試料の粘性(粘度)の比較に使われる。
【0024】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物は、基本的には、被着体であるポリカーボネートに対して効果を発揮するものであるが、他の高分子樹脂物に対しても好適に使用可能である。
ポリカーボネート用プライマー組成物を塗付する対象である、被着体のポリカーボネートの形状等は特に限定されず、フィルム状、板状、構造物いずれにおいても、好適に使用できる。なお、フィルム状のポリカーボネートであれば、厚みは、通常、1〜100μm程度、また、板状のポリカーボネートであれば、厚みは、通常、0.1〜10mm程度である。
【0025】
本発明のポリカーボネート用プライマー組成物(以下、プライマーと略す)のポリカーボネートへの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、通常行われている、刷毛塗布、スプレー塗布、ディッピング等の方法を用いることができる。塗布厚みとしては薄いほどプライマーとしての効果が高いが、塗布ムラも考慮し、1〜20μmが好ましく、より好ましくは1〜10μmの範囲である。1μm未満では塗布ムラによる効果不足が、20μmを超えるとプライマー層内での凝集破壊が起き易くなるためである。
プライマーの乾燥についても限定されるものではなく、常温(25℃)での乾燥、炉内での乾燥でも良く、塗布面の溶剤によるタックが消失していれば良い。一般的な乾燥条件としては、常温5分〜常温8時間、80℃乾燥炉1分程度である。
プライマー成分中には反応成分を含まないため、長期にわたってプライマー効果を持続するが、一般には空気中の埃や水分がプライマー表面に付着し接着性を損なう場合があるため、常温8時間以上経過した場合は再塗布するのが普通である。
【0026】
ポリカーボネート表面に設けたプライマー層と別の被着体とを溶融接着しても良いし、ポリカーボネート表面のプライマー層上に別の接着剤を塗布し別の被着体と接着しても良い。
【実施例】
【0027】
次に、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。以下、ポリカーボネート用プライマー組成物は、プライマーとする。
【0028】
(実施例1)
還流設備を備えたフラスコ中にエタノール200g、トルエン70g、酢酸エチル300g、メチルエチルケトン330gを入れ、(a)成分としてペルクードS−20(日本バイエルアグロケム株式会社製、塩素化ポリオレフィン、塩素化率64.5%)50g、(b)成分としてウルトラセンUE722(東ソー株式会社製、酢酸ビニル含有率28質量%、メルトインデックス400、ウルトラセンは登録商標)50gを入れ、常温(25℃)で3時間撹拌溶解し、プライマーを作製した。得られたプライマーは、ザーンカップ3号で11秒の粘度であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は22質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は8質量%である。
【0029】
(実施例2)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール400g、トルエン100g、酢酸エチル200g、メチルエチルケトン200g、(a)成分としてペルクードS−20 30g、(b)成分としてウルトラセンUE760(東ソー株式会社製、酢酸ビニル含有率40質量%、メルトインデックス75、ウルトラセンは登録商標)70gによりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は44質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は11質量%である。
【0030】
(実施例3)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール400g、トルエン200g、酢酸エチル150g、メチルエチルケトン150g、(a)成分としてスーパークロン822(日本製紙ケミカル株式会社製、塩素化ポリオレフィン、塩素化率24.5%、スーパークロンは登録商標)50g、(b)成分としてウルトラセンUE634(東ソー株式会社製、酢酸ビニル含有率26質量%、メルトインデックス4)50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は44質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は22質量%である。
【0031】
(実施例4)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール500g、ベンゼン100g、酢酸エチル150g、メチルエチルケトン150g、(a)成分としてスーパークロン822 50g、(b)成分としてウルトラセンUE634 50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は56質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は11質量%である。
【0032】
(実施例5)
(実施例1)と同様の方法で、エタノール300g、トルエン100g、酢酸エチル250g、メチルエチルケトン250g、(a)成分としてスーパークロン822 40g、(b)成分としてウルトラセンUE760 60gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は33質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は11質量%である。
【0033】
(実施例6)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール300g、トルエン100g、酢酸エチル250g、メチルエチルケトン250g、(a)成分としてスーパークロンHE−305(日本製紙ケミカル株式会社製、塩素化ポリオレフィン、塩素化率68%、スーパークロンは登録商標)50g、(b)成分としてウルトラセンUE760 50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。また、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤は33質量%であり、(d)芳香族炭化水素系溶剤は11質量%である。
【0034】
(比較例1)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール300g、トルエン70g、酢酸エチル250g、メチルエチルケトン280g、(a)成分としてペルクードS−20 70g、(b)成分としてウルトラセンUE722 30gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で12秒であった。よって、(a)/(b)=70/30であった。
【0035】
(比較例2)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール300g、トルエン100g、酢酸エチル250g、メチルエチルケトン250g、(a)成分としてペルクードS−20 10g、(b)成分としてウルトラセンUE760 90gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で13秒であったが、微小な未溶解物が認められた。よって、(a)/(b)=10/90であった。
【0036】
(比較例3)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール400g、トルエン20g、酢酸エチル240g、メチルエチルケトン240g、(a)成分としてペルクードS−20 50g、(b)成分としてウルトラセンUE760 50gよりプライマーを作製した。しかし、未溶解物があり、プライマーとしては成り立たなかった。なお、全溶剤中の(d)芳香族炭化水素系溶剤(トルエン)の含有量は、2質量%であった。
【0037】
(比較例4)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール300g、トルエン250g、酢酸エチル150g、メチルエチルケトン200g、(a)成分としてペルクードS−20 50g、(b)成分としてウルトラセンUE760 50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。なお、全溶剤中の(d)芳香族炭化水素系溶剤(トルエン)の含有量は、28質量%であった。
【0038】
(比較例5)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール100g、トルエン100g、酢酸エチル350g、メチルエチルケトン350g、(a)成分としてペルクードS−20 50g、(b)成分としてウルトラセンUE722 50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で12秒であった。なお、全溶剤中の(c)アルコール系溶剤(iso−プロピルアルコール)の含有量は、11質量%であった。
【0039】
(比較例6)
(実施例1)と同様の方法で、エタノール600g、トルエン50g、酢酸エチル100g、メチルエチルケトン150g、(a)成分としてペルクードS−20 50g、(b)成分としてウルトラセンUE722 50gよりプライマーを作製した。しかし、未溶解物があり、プライマーとしては成り立たなかった。なお、全溶剤中の(c)アルコール系溶剤(エタノール)の含有量は、67質量%であった。
【0040】
(比較例7)
(実施例1)と同様の方法で、iso−プロピルアルコール400g、トルエン100g、酢酸エチル150g、メチルエチルケトン200g、(a)成分としてスーパークロンA(日本製紙ケミカル株式会社製、塩素化ポリオレフィン、塩素化率11.5%)50g、(b)成分としてウルトラセンUE634 50gよりプライマーを作製した。得られたプライマーの粘度はザーンカップ3号で10秒であった。なお、(a)成分において、塩素化率は、20%未満であった。
【0041】
実施例1〜6、比較例1〜7で作製したプライマーの評価試験を行った。また、各評価結果は、表1、表2にまとめた。
【0042】
(溶解性の評価)
作製したプライマーの粘度が、ザーンカップ3号で15秒以下、かつ、未溶解物が認められない場合を「○」、微小な未溶解物が認められた場合を「△」、未溶解物が認められた場合を「×」とした。
【0043】
(ポリカーボネート白化性)
3mm厚の透明なポリカーボネート板に、作製したプライマーを刷毛塗布し、常温(25℃)10分間乾燥した。乾燥後のプライマー層の厚みは5μmであった。ポリカーボネート板を透かし、透明性が失われていないかどうかを、以下に示す基準で評価した。
「○」:ポリカーボネート板の透明性が保持されている。
「×」:表面が白化し、透明性が失われている。
【0044】
(ポリカーボネート接着強さ)
3mm厚の透明なポリカーボネート板に、作製したプライマーを刷毛塗布し、常温(25℃)10分間乾燥し、ポリカーボネート板表面に、厚み5μmのプライマー層を形成した。
プライマー層を形成したポリカーボネート板表面に、1mm厚のエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムを、100℃、10秒、4.9×10Paの条件でプレス接着した。常温(25℃)下でテストスピード100mm/分の条件で180°はく離し、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルムが材質破壊するものを「○」、ポリカーボネートとプライマー層の界面破壊するものを「×」、プライマー層の凝集破壊及びエチレン酢酸ビニル共重合体とプライマー層の界面破壊するものを「△」とした。
【0045】
(耐高温高湿性)
3mm厚の透明なポリカーボネート板に、作製したプライマーを刷毛塗布し、常温(25℃)10分間乾燥し、ポリカーボネート板表面に、厚み5μmのプライマー層を形成し、試験片とした。
前記試験片を、85℃85%中に500時間静置した後、常温(25℃)環境下で24時間後に、常温(25℃)下でテストスピード100mm/分の条件で180°はく離した。エチレン酢酸ビニル共重合体が材質破壊するものを「○」、その他を「×」とした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1から明らかなように実施例1〜6では、ポリカーボネート表面を白化させることなく、良好な接着性と耐高温高湿性が得られることが分かる。一方、全溶剤において、(c)アルコール系溶剤の含有量、あるいは、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量が、特定の範囲から外れている、比較例3、6では溶解性が十分でなく、比較例4、5についてはポリカーボネート表面の白化が認められた。また、(a)塩化ゴムと、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体の配合質量比率が、特定の範囲から外れている、比較例1、2ではポリカーボネートに対する接着性と耐高温高湿性に劣っている。また、(a)塩化ゴムの塩素化率が、20%未満である、比較例7ではポリカーボネートに対する接着性と耐高温高湿性に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化ゴムと、(b)エチレン酢酸ビニル共重合体と、溶剤とを成分とするポリカーボネート用プライマー組成物であって、(a)成分と(b)成分の配合質量比率が、(a)/(b)=20/80〜60/40の範囲であり、全溶剤中、(c)アルコール系溶剤の含有量が20〜60質量%、(d)芳香族炭化水素系溶剤の含有量が5〜25質量%であり、前記(a)塩化ゴムの塩素化率が、20%以上である、ポリカーボネート用プライマー組成物。
【請求項2】
(a)塩化ゴムの塩素化率が、70%以下である、請求項1に記載のポリカーボネート用プライマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリカーボネート用プライマー組成物を塗布してなる、ポリカーボネート。

【公開番号】特開2013−10854(P2013−10854A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144166(P2011−144166)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(000233170)日立化成ポリマー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】