説明

ポリカーボネート積層体およびその製造方法

【構成】分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1〜30重量%含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる厚み5〜500μのポリカーボネートフィルムを、ポリカーボネート基材の少なくとも一面にラミネーション成形してなることを特徴とするポリカーボネート積層体およびその製造方法。
【効果】本発明は、共押出方法と異なり、特殊な装置を用いることなく透明性、耐衝撃性、耐候性に優れたポリカーボネート樹脂積層体を提供することが出来る。また、本発明で製造された積層体は、リサイクルすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ラミネーション成形による耐候性、透明性、リサイクル性に優れたポリカーボネート積層体およびその製造方法に関する。。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性などに優れており、建築材料、道路用資材、自動車部品などに広く用いられているが、透明材料であるアクリル樹脂に比べ耐候性に劣っており、その利用分野、特に屋外分野での使用において種々制約を受けている。
【0003】このため、ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を共押出する方法(特公昭47−19119、特開昭5559929)が提案されているが、ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性が著しく低下するとともに、両樹脂の屈折率が相違するため、共押出シートの耳部のリサイクルを行なうと透明感が失われるといった問題がある。
【0004】一方、紫外線吸収剤を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物とポリカーボネート樹脂とを共押出することにより、耐衝撃性の低下防止ならびにリサイクルを可能とする複合体が新たに提案(特開昭55−59929、特開昭59−101360)されているが、共押出法には特殊なダイス構造を有する複雑で、かつ高価な装置ならびに被覆層の厚み調整に高度な技術を必要とするため、工業的生産法としては最良なる方法とは言いがたい。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上述の問題点に鑑み鋭意研究した結果、特定の紫外線吸収剤を含有してなるポリカーボネートフィルムをポリカーボネート基材にラミネーション成形することにより、ポリカーボネート樹脂本来の特長である透明性、耐衝撃性、耐熱性を保持するとともに優れた耐候性を有し、かつリサイクル可能なポリカーボネート積層体を製造することが出来ることを見出し、本発明に到達したものである。さらに本発明のポリカーボネート積層体の製造方法においては、特殊な共押出装置を必要とせず、従来押出加工に用いられていた装置で積層体を生産することが出来る。
【0006】すなわち、本発明は、分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1〜30重量%含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる厚み5〜500μのポリカーボネートフィルムを、ポリカーボネート基材の少なくとも一面にラミネーション成形してなる耐候性、透明性、耐衝撃性、耐熱性に優れるポリカーボネート積層体およびその製造方法を提供するものである。
【0007】以下に、本発明のポリカーボネート積層体およびその製造方法につき、詳細に説明する。
【0008】本発明において使用されるポリカーボネート樹脂とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0009】上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0010】これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0011】さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。
【0012】3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4’−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどがあげられる。
【0013】ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜35,000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0014】本発明のポリカーボネート積層体およびその製造方法におけるフィルムおよび基材として用いられるポリカーボネート樹脂の組成、分子量には特に制限はなく、同一の組成ならびに分子量を有するポリカーボネート樹脂をフィルムと基材の両方に用いることもできるが、積層体の耐候性、透明性、耐衝撃性、耐熱性、さらにはリサイクル性の面より、フィルムと基材におけるポリカーボネート樹脂の組成が同一で、かつフィルムに用いられるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、基材におけるそれよりも1000以上低いことが望ましい。特にフィルムにおけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10,000〜30,000であることが好ましい。
【0015】次に、本発明において使用される紫外線吸収剤とは、分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。分子量380未満のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、たとえば分子量323の2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールでは、フィルム加工時、ポリカーボネート樹脂組成物の粘度低下が起こり、厚みの均一なフィルムを得ることが出来ない。好ましくは380〜700のものである。
【0016】なお、分子量380以上の紫外線吸収剤でも、ベンゾトリアゾール系以外の化合物、例えばベンゾフェノン系やヒンダードアミン系紫外線吸収剤では、耐候性の改善効果に劣る。
【0017】分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2,2−メチレン−ビス−[6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチル)−フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3(3,4,5,6−テトラ−ヒドロフタリミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾールが例示され、一種または二種以上用いることが出来る。
【0018】分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、フィルムを構成するポリカーボネート樹脂組成物に1〜30重量%含有される。1重量%未満では耐候性に劣り、また30重量部を越すとフィルム加工が困難となる。耐候性およびフィルム加工性の面よりかかる紫外線吸収剤3〜15重量%含有のポリカーボネート樹脂組成物が好ましい。
【0019】ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法には何ら制限はなく、上述の紫外線吸収剤を重合途中又は重合後のポリカーボネート樹脂に配合することにより得ることが出来る。配合に際しては、バンバリーミキサー、押出機、ロール等公知の混合機を用いることが出来る。
【0020】なお、フィルムとなるポリカーボネート樹脂組成物に対し、必要に応じて他の添加剤、例えば着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤などを適宜配合することも出来る。
【0021】上述のポリカーボネート樹脂組成物を用いて5〜500μのフィルムを作成する方法にも特に制限はなく、Tダイフィルムキャスト押出機、インフレーションフィルム装置などの公知にフィルム押出装置にて作成することが出来る。
【0022】5μ未満のフィルムではポリカーボネート積層体の耐候性に劣る。また、5μ未満のフィルム作成自身困難となる。500μを越すフィルムではラミネーションによる貼合が困難となる。
【0023】積層材作成までの間、かかるフィルムを巻き取って置く場合には、フィルムの片面または両面にシボ加工を施したり、あるいは樹脂組成物中に酸化ケイ素などのフィルム滑性剤を含有させることによって、フィルム巻取り性を向上させることが望ましい。
【0024】基材となるポリカーボネート樹脂に対しても、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤などの公知の添加剤を、バンバリーミキサー、押出機、ロール等公知の混合機を用いて配合することが出来る。もちろん、各種の紫外線吸収剤を配合することもできるが、コストの面より、フィルムに配合されている量(重量%)よりも少ないことが望ましい。
【0025】ポリカーボネート樹脂基材の厚みには特に制限はないが、積層材の透明性、耐衝撃性、耐候性などの面より0.1〜30ミリ、特に0.5〜15ミリであることが好ましい。
【0026】上述のフィルムと基材とからなる積層体の形状には特に制限はなく、平板、波板、ハニカム構造体等が例示される。
【0027】以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものでない。また、“部”は重量基準に基づく。
【0028】
【実施例】
実施例 1〜3 および 比較例 1〜3粘度平均分子量23,000のポリカーボネート樹脂(ただし、リン系酸化防止剤を0.1%含む。)に、表1に示す各種紫外線吸収剤を配合したのち、280℃で、幅400mm、厚さ50μのフィルムを作成。ロール状に巻き取る。フィルム加工性を表1に示す。
【0029】粘度平均分子量28,000のポリカーボネート樹脂(ただし、リン系酸化防止剤を0.1%含む。)を用いて、280℃で、幅400mm、厚さ3mmのシートを押出成形する。その際、Tダイにて予め作成していたフィルムをラミネートした。なお、比較例3では、ポリカーボネート樹脂組成物のフィルムの代わりに市販のアクリルフィルム(幅400mm、厚さ50μ)を用いた。得られたポリカーボネート樹脂積層体の透明性、耐衝撃性、耐候性を表2に示す。
【0030】実施例および比較例で得られたポリカーボネート樹脂積層体を粉砕し、粘度平均分子量28,000のポリカーボネート樹脂(ただし、リン系酸化防止剤を0.1%含む。)に配合(配合量20%)した後、試験片を作成。未配合品と比較した。結果をリサイクル性として表2に示す。
【0031】評価方法を以下に示す。
フィルム加工性;Tダイキャスト法によるフィルムの成膜性を評価する。
良;○、不良;×
【0032】透明性;分光光度計にて光線透過率(%)を測定する。数値の大きい方が優れている。
【0033】耐衝撃性;5Kgの鋼球を厚み3mm+50μの切出し試験片の上方(最大1m)より落下させ、破壊およびクラックを生じない最大エネルギー(Kg・m)を測定する。数値の大きい方が優れている。最大高さ1mより落下させても破壊もクラックも生じない場合は、NB(非破壊)とする。
【0034】耐候性;岩崎電気製紫外線照射装置(アイスーパー)にて、500時間照射後のYI値(黄変度)。数値の小さい方が優れている。
【0035】リサイクル性;積層体を粉砕した後、粉砕品100%で再びシート成形(3mm厚み)し、分光光度計にてヘイズ(雲価)(%)を測定する。ヘイズ(雲価)(%)の小さい方が優れている。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
【発明の効果】本発明は、共押出方法と異なり、特殊な装置を用いることなく透明性、耐衝撃性、耐候性に優れたポリカーボネート樹脂積層体を提供することが出来る。また、本発明で製造された積層体は、リサイクルすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1〜30重量%含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる厚み5〜500μのポリカーボネートフィルムが、ポリカーボネート基材の少なくとも一面にラミネーションしてなることを特徴とするポリカーボネート積層体。
【請求項2】分子量380以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1〜30重量%含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる厚み5〜500μのポリカーボネートフィルムを、ポリカーボネート基材の少なくとも一面にラミネーション成形してなることを特徴とするポリカーボネート積層体の製造方法。

【公開番号】特開平6−64123
【公開日】平成6年(1994)3月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−247331
【出願日】平成4年(1992)8月24日
【出願人】(000183288)住友ダウ株式会社 (1)