説明

ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物

【課題】ポリカーボネート系樹脂組成物に難燃性と高い溶融流動性を付与し、耐光性の高い成形品を精度よく成形する。
【解決手段】ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(A)50〜95重量%とスチレン系樹脂(B)5〜50重量%で構成された熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、下記式(I)で表される芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)10〜30重量部、および粉状ポリテトラフルオロエチレン(D)0.1〜2重量部を添加する。
【化1】



(式中、R、R、RおよびRは、メチル基を2位および6位に有するフェニル基を示し、Aは1,3−フェニレン基、nは1を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融流動性などの成形加工性および耐光性に優れるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートと、ABS樹脂、AS樹脂などのスチレン系樹脂との混合物は耐熱性および耐衝撃性が高いため、いわゆるポリマーアロイとして、種々の成形品、例えば、自動車、電気、電子の部品などに幅広く使用されている。前記ポリマーアロイを電気・電子部品やオフィスオートメーション(OA)機器のハウジング、エンクロージャー、シャーシなどに使用する場合、ポリマーアロイには難燃性が要求される。
【0003】
特に、近年、製品の安全性を高めるため、OA機器や家電製品の成形品には、アメリカの難燃規格であるアンダーライターズラボラトリーズ社(UL)のサブジェクト94に基づく最高難燃レベルであるV−0や5Vの規格認定が要求される場合が多い。
【0004】
一方、材料の使用量を低減するためには、部品やハウジングの小形化のみならず薄肉化が有用である。しかし、燃焼に伴なって、成形品の薄肉部から樹脂の火垂れ(ドリップ)が生じ、他の可燃物を延焼させる危険がある。そのため、難燃性樹脂組成物には、ドリップしない高度の難燃性も要求される。
【0005】
難燃性を付与するため、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイには、通常、ハロゲン系難燃剤が添加されている。前記ハロゲン系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールAやそのオリゴマー、臭素化エポキシオリゴマーなどに代表される臭素系難燃剤と、三酸化アンチモンに代表される金属酸化物を主体とする難燃助剤とを組み合わせて使用する場合が多い。しかし、臭素系難燃剤のうち、デカブロモジフェニルエーテル(DBDPO)やオクタブロモジフェニルエーテル(OBDPE)は、樹脂組成物の燃焼に伴なって有毒なジベンゾダイオキシンを生成させる可能性が、欧州の環境保護団体から指摘されている。そのため、樹脂の難燃化には非ハロゲン系難燃剤の使用が有用である。
【0006】
非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、特に芳香族リン酸エステル系難燃剤が使用されている。例えば、特開平2−32154号公報に対応する米国特許第5,061,745号明細書(特許文献1)には、モノマー型リン酸エステル系難燃剤を、難燃助剤としてのポリテトラフルオロエチレンと組み合わせて使用することが開示されている。米国特許第5,204,394号明細書(特許文献2)には、ポリカーボネートとスチレン系樹脂との混合物にオリゴマー型リン酸エステルを添加することが開示されている。さらに、米国特許第5,122,556号明細書(特許文献3)には、ポリカーボネートとダイマー型リン酸エステル系難燃剤との使用が開示されている。さらには、特開昭61−62556号公報(特許文献4)、特開昭62−4746号公報(特許文献5)、特開平2−115262号公報(特許文献6)、特開平4−298554号公報(特許文献7)、特開平5−179123号公報(特許文献8)、特開平5−262940号公報(特許文献9)、特開平5−279531号公報(特許文献10)などにも、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイにリン酸エステル系難燃剤を添加することが開示されている。
【0007】
これらの芳香族置換又は非置換のリン酸エステル系難燃剤を用いると、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイに適度の難燃性と耐衝撃性を付与できる。そのため、家庭電気機器、OA機器などの成形材料として、一部実用化されている。
【0008】
しかし、前記非ハロゲン系難燃剤を含むポリマーアロイは、成形時の溶融流動性が小さい場合が多い。そのため、高い流動性を付与し、小型化のみならず、軽量化及び薄肉化が必要とされる成形品を効率よく製造することが困難となる。また、前記ポリマーアロイは、成形機の金型に付着し易く、金型の清掃を頻繁に行う必要があったり、成形時に難燃剤の熱劣化などによる樹脂の滞留劣化が生じ易い。
【0009】
さらに、溶融流動性の比較的高いポリマーアロイであっても、成形品の耐光性が低く、変色しやすい。また、前記溶融流動性を高めると、成形品の耐熱性、耐衝撃性、機械的強度なども低下し易い。例えば、ポリカーボネートに対するスチレン系樹脂の割合を大きくすると、溶融流動性が高くなるものの、成形品の耐熱性、難燃性が低下し易い。そのため、高い流動性を維持しつつ、成形品の耐光性、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度を高めることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,061,745号明細書
【特許文献2】米国特許第5,204,394号明細書
【特許文献3】米国特許第5,122,556号明細書
【特許文献4】特開昭61−62556号公報
【特許文献5】特開昭62−4746号公報
【特許文献6】特開平2−115262号公報
【特許文献7】特開平4−298554号公報
【特許文献8】特開平5−179123号公報
【特許文献9】特開平5−262940号公報
【特許文献10】特開平5−279531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、高い難燃性および溶融流動性を有するだけでなく、耐光性に優れた成形品を得る上で有用なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、薄肉部を有する成形品であっても精度よく成形できるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、ポリカーボネートとスチレン系樹脂とのポリマーアロイ系において、燃焼時のドリップを防止でき、難燃性の高い樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、難燃性、耐光性、耐熱性、耐衝撃性および機械的強度に優れる成形品を得る上で有用なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は前記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の部位にメチル基が置換されたフェニル基と、1,3−フェニレン基とを有する特定の核置換芳香族リン酸エステルを非ハロゲン系難燃剤として用いると、難燃性のみならず溶融流動性が高く、しかも高い耐光性を有する成形品を精度よく成形できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物は、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(A)50〜95重量%とスチレン系樹脂(B)5〜50重量%で構成された熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)10〜30重量部、および粉状ポリテトラフルオロエチレン(D)0.1〜2重量部の割合で含み、かつ薄肉部を有する成形品又は薄物成形品を成形するための樹脂組成物であって、スチレン系樹脂(B)が、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)/ゴム変性スチレン系樹脂(B2)=0〜75/25〜100(重量比)で構成され、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式(I)
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、R、R、RおよびRは、メチル基を2位および6位に有するフェニル基を示し、Aは1,3−フェニレン基、nは1を示す。)
で表される芳香族リン酸エステル系難燃剤であり、かつシリンダー温度240℃、射出圧750kgf/cm、幅20mm、厚み2mmの条件で測定したとき、スパイラルフロー長さが215〜318mmであり、溶融流動性及び耐光性に優れている。
【0019】
前記ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)は、(B1a)芳香族ビニル単量体5〜90重量%、(B1b)シアン化ビニル単量体10〜40重量%および(B1c)共重合可能なビニル単量体0〜40重量%の共重合体であってもよい。ゴム変性スチレン系樹脂(B2)は、(B21)ガラス転移点(Tg)が0℃以下のゴム質重合体5〜65重量%に、少なくとも(B1a)芳香族ビニル単量体を含む重合性ビニル単量体35〜95重量%が重合したグラフト共重合体であってもよい。
【0020】
本発明には、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(A)50〜95重量%とスチレン系樹脂(B)5〜50重量%で構成された熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)10〜30重量部、および粉状ポリテトラフルオロエチレン(D)0.1〜2重量部の割合で含むポリカーボネート系難燃性樹脂組成物において、薄肉部を有する成形品又は薄物成形品を成形するために、ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物の特性を向上する方法であって、スチレン系樹脂(B)が、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)/ゴム変性スチレン系樹脂(B2)=0〜75/25〜100(重量比)で構成され、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式(I)
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、R、R、RおよびRは、メチル基を2位および6位に有するフェニル基を示し、Aは1,3−フェニレン基、nは1を示す。)
で表される芳香族リン酸エステル系難燃剤を用いることにより、前記樹脂組成物の溶融流動性及び耐光性を向上させる方法も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物は、特定の芳香族リン酸エステル系難燃剤を含んでいるので、難燃性、耐炎性に優れると共に、溶融流動性が高く、しかも成形品の耐光性が高い。そのため、ハウジングなどの大型成形品のみならず、薄肉部を有する成形品や薄物成形品であっても精度よく成形できると共に、成形品の変色を防止できる。
【0024】
また、ポリカーボネートとスチレン系樹脂との混合樹脂組成物に、特定の芳香族リン酸エステル系難燃剤とフッ素樹脂とを組合せて添加するので、燃焼時の成形品からのドリップを防止でき、高い難燃性を付与できるとともに、耐光性、耐熱性、耐衝撃性および機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[芳香族ポリカーボネート(A)]
ポリカーボネート(A)としては、種々のポリマー、例えば、2価フェノール化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン法)、または2価フェノール化合物と炭酸ジエステルとの反応(エステル交換法)により得られるポリカーボネートが使用できる。2価フェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパンなどの置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシアリール)アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンなどの置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン;4,4′−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルフィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシジアリールスルホキシド;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ケトンなどのジヒドロキシジアリールケトン;1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンゼン、4,4′−ビス(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)ベンゼン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、フェノールフタレインなどが例示される。これらの2価フェノール化合物は単独で又は二種以上組合せて使用できる。
【0026】
好ましい2価フェノール化合物には、耐熱性の高い芳香族ポリカーボネートを形成するビスフェノール類、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシジフェニルケトンなどが含まれる。特に好ましいフェノール化合物には、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートを形成する2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)が含まれる。
【0027】
なお、耐熱性、機械的強度などを損わない範囲であれば、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートを製造する際、ビスフェノールAの一部を、他の2価フェノール化合物で置換してもよい。
【0028】
ポリカーボネートの分子量は、例えば、塩化メチレンを用い20℃で測定した場合、粘度平均分子量15000〜50000、好ましくは18000〜40000、さらに好ましくは20000〜30000程度である。分子量が15000未満であると成形品の耐衝撃性が低下し易く、50000を越えると流動性が低下し易い。
【0029】
ポリカーボネートの極限粘度は、例えば、20℃塩化メチレン中、0.3〜0.7dl/g、好ましくは0.3〜0.65dl/g程度である。
【0030】
[スチレン系樹脂(B)]
スチレン系樹脂(B)には、ゴム成分を含まないゴム未変性スチレン系樹脂(B1)とゴム変性スチレン系樹脂(B2)とが含まれる。また、ゴム変性スレン系樹脂(B2)は、ゴム成分とスチレン系樹脂との混合組成物(B2a)であってもよく、ゴム成分(B21)の存在下、スチレン系単量体、又はスチレン系単量体と非スチレン系ビニル単量体とを含むビニル単量体混合物を重合したグラフト重合体(B2b)であってもよい。
【0031】
ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)には、芳香族ビニル単量体(B1a)の単独又は共重合体、芳香族ビニル単量体(B1a)と共重合可能な非スチレン系ビニル単量体との共重合体が含まれる。
【0032】
芳香族ビニル単量体(B1a)としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、α−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなど)、ハロゲン化スチレン(例えば、o−クロロスチレン、p−クロロスチレンなど)などのスチレン系単量体が挙げられる。好ましい芳香族ビニル単量体には、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、特にスチレン、α−メチルスチレンが含まれる。これらの芳香族ビニル単量体は、一種又は二種以上混合して使用できる。
【0033】
非スチレン系ビニル単量体には、共重合可能なビニル単量体、例えば、シアン化ビニル単量体(B1b)(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル)、他の共重合可能なビニル単量体(B1c)[例えば、(メタ)アクリル系単量体(例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどの炭素数1〜10程度のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸など)、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなど]が含まれる。
【0034】
好ましい非スチレン系単量体には、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル系単量体(例えば、メタクリル酸メチルなどの炭素数1〜4程度のアルキル(メタ)アクリレートなど)、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなど、特にアクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどのアルキル(メタ)アクリレートなどが含まれる。これらの非スチレン系単量体も一種又は二種以上使用できる。
【0035】
スチレン系樹脂(B1)は、例えば、芳香族ビニル単量体の単独又は共重合体(例えば、ポリスチレン)であってもよいが、(1)スチレン系単量体(B1a)と、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体(B1b)との共重合体(例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)など)、(2)スチレン系単量体(B1a)とアルキル(メタ)アクリレート(B1c)との共重合体(例えば、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)、(3)スチレン系単量体(B1a)と、シアン化ビニル単量体(B1b)と、アルキル(メタ)アクリレートなどの共重合可能なビニル単量体(B1c)との共重合体(例えば、スチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸メチル共重合体など)、(4)スチレン−無水マレイン酸共重合体やスチレン−N−置換マレイミド共重合体などである場合が多い。
【0036】
好ましいスチレン系樹脂(B1)には、AS樹脂、スチレン−アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体などが含まれる。ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)は一種または二種以上使用できる。
【0037】
前記共重合体を形成するための各単量体の割合は、溶融流動性、成形品の耐熱性、耐衝撃性などを損わない範囲で選択でき、例えば、芳香族ビニル単量体(B1a)50〜90重量%(好ましくは55〜85重量%、さらに好ましくは60〜80重量%)程度、シアン化ビニル単量体(B1b)10〜40重量%(好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは20〜30重量%程度)、および(メタ)アクリル系単量体などの共重合可能なビニル単量体(B1C)0〜40重量%(好ましくは0〜30重量%、さらに好ましくは0〜20重量%)程度である。芳香族ビニル単量体(B1a)の量が50重量%未満では、成形品が着色したり、劣化する可能性があり、90重量%を越えると成形品の耐熱性や耐薬品性が低下し易い。また、シアン化ビニル単量体(B1b)の使用量が10重量%未満では、成形品の耐薬品性が低下し易く、40重量%を越えると成形品の耐熱安定性が低下しやすい。さらに、(メタ)アクリル系単量体などの共重合可能なビニル単量体(B1c)の使用量が40重量%を越えると、溶融流動性や成形品の物性が低下する場合がある。
【0038】
ゴム変性スチレン系樹脂(B2)におけるゴム成分としては、例えば、ポリブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−ブロピレンゴム、EPDMゴム(エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム)、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのスチレン単位を含まない非スチレン系ゴム状重合体;スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体などのスチレン単位を含むスチレン系ゴム状重合体が例示できる。これらのゴム状重合体は一種又は二種以上使用できる。
【0039】
好ましいゴム成分には、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、EPDMゴム、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が含まれる。ゴム成分としては、ブタジエン単位を含む重合体(例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体など)を用いる場合が多い。
【0040】
ゴム成分のガラス転移温度Tgは0℃以下、好ましくは−150℃〜0℃、さらに好ましくは−100℃〜−10℃程度である。ゴム成分のガラス転移温度が0℃を越えると、成形品の衝撃強度が低下し易い。
【0041】
ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム成分とスチレン系樹脂との混合物で構成してもよいが、少なくともスチレン系単量体がゴム成分にグラフト重合した耐衝撃性スチレン系樹脂であるのが好ましい。ゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、ポリブタジエンにスチレンが重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS樹脂、アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンとが重合したAAS樹脂、塩素化ポリエチレンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したACS樹脂、エチレン−プロピレンゴム(EPDMゴム)にアクリロニトリルとスチレンとが重合したAES樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体にアクリロニトリルとスチレンとが重合したターポリマー、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンとが重合したMBS樹脂などが挙げられる。これらのゴム変性スチレン系樹脂は、一種又は二種以上使用できる。
【0042】
ゴム変性スチレン系樹脂(B2)のうちゴム成分を除く構成成分とその割合は、前記ゴム未変性スチレン系樹脂と共通する場合が多い。ゴム成分(B21)と、少なくとも芳香族ビニル単量体を含む重合性単量体との割合は、ゴム変性スチレン系樹脂の特性に応じて広い範囲で選択でき、例えば、前者/後者=5〜65/35〜95(重量%)、好ましくは10〜60/40〜90(重量%)、さらに好ましくは15〜50/50〜85(重量%)程度であり、10〜65/35〜90(重量%)程度である場合が多い。このような割合でグラフト重合すると、前記割合に対応してゴム成分を含有する耐衝撃性の高いグラフト重合体を得ることができる。ゴム変性スチレン系樹脂(B2)において、重合性単量体の組成は、例えば、(B1a)芳香族ビニル単量体20〜90重量%(好ましくは21〜85重量%程度)、(B1b)シアン化ビニル単量体10〜40重量%(好ましくは14〜38重量%程度)および(B1c)共重合可能なビニル単量体0〜40重量%(好ましくは0〜30重量%程度)である場合が多い。
【0043】
ゴム変性スチレン系樹脂(B2)、特にグラフト重合体中に分散したゴム成分の平均粒子径は、例えば、0.05〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μm程度である。ゴム成分の平均粒子径が0.05μm未満であると成形品の衝撃強度が低下し、5μmを越えると成形品の光沢や表面外観が低下し易い。なお、ゴム成分は、粒度分布において、複数のピーク(例えば2つのピークなど)を有するゴム分散粒子として分散していてもよい。
【0044】
スチレン系樹脂(B)は、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)単独で構成してもよいが、耐衝撃性を高めるため、少なくともゴム変性スチレン系樹脂(B2)、特にグラフト共重合体を含むのが好ましい。すなわち、好ましいスチレン系樹脂(B)には、(1)ゴム変性スチレン系樹脂(B2)単独、(2)ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)とゴム変性スチレン系樹脂(B2)との混合樹脂組成物が含まれる。
【0045】
スチレン系樹脂(B)としては、溶融流動性および成形加工性を高めるため、通常、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)とゴム変性スチレン系樹脂(B2)とを混合して使用する場合が多い。ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)とゴム変性スチレン系樹脂(B2)との割合は、広い範囲で選択でき、例えば、前者/後者=0〜75/100〜25(重量%)、好ましくは0〜60/40〜100(重量%)、さらに好ましくは0〜50/50〜100(重量%)程度であり、10〜40/60〜90(重量%)程度である場合が多い。ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)の割合が75重量%を越えると、成形品の耐衝撃性が低下し易く、ゴム変性スチレン系樹脂(B2)の割合が25重量%未満であると、成形品の耐衝撃性が低下し易い。
【0046】
AS樹脂などのゴム未変性スチレン系樹脂(B1)とABS樹脂などのゴム変性スチレン系樹脂(B2)との混合樹脂組成物でスチレン系樹脂(B)を構成する場合、スチレン系樹脂(B)におけるゴム成分の含有量は、例えば、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%程度である。ゴム成分の含有量が1重量%未満では成形品の耐衝撃性が低く、50重量%を越えると溶融流動性が低下したり成形過程でゲル化や着色劣化が生じ易い。
【0047】
前記ゴム未変性スチレン系樹脂は、慣用の方法、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などにより製造できる。ゴム変性スチレン系樹脂(グラフト重合体)は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合により製造する場合が多い。なお、重合に際しては、必要に応じて、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレンなどの溶剤、ミネラルオイルなどの反応に不活性な溶媒、分子量調整剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤などを添加してもよい。
【0048】
[樹脂混合物]
前記ポリカーボネート(A)とスチレン系樹脂(B)とを溶融混合すると、ポリマーアロイを形成するためか、耐熱性および耐衝撃性の高い成形品が得られる。前記ポリカーボネート(A)とスチレン系樹脂(B)との割合は、耐熱性、耐衝撃性、溶融流動性などを損わない範囲で、各樹脂の種類などに応じて選択でき、例えば、前者/後者=40〜95/5〜60(重量%)、好ましくは50〜95/5〜50(重量%)、さらに好ましくは55〜85/15〜45(重量%)程度である。ポリカーボネート(A)とスチレン系樹脂(B)との割合は、前者/後者=50/50〜90/10(重量%)、特に60/40〜90/10(重量%)程度である場合が多い。ポリカーボネート(A)の含有量が40重量%未満であると溶融流動性は高いものの成形品の耐熱性や耐衝撃性が低下し易く、95重量%を越えると成形過程での溶融流動性が低下し易い。上記樹脂混合物において、ゴム含量は、例えば、1〜30重量%、好ましくは1〜25重量%程度である。
【0049】
[芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)]
芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)は、前記式(I)で表される。式(I)においてR〜Rのフェニル基に置換していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などの炭素数1〜4程度の低級アルキル基が例示される。これらのアルキル基のうち、炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基及び/又はエチル基が好ましい。このようなアルキル基の置換数は、各フェニル基に対して0〜3個、好ましくは1〜3(例えば2)程度である。
【0050】
本発明の特色は、Aが1,3−フェニレン基であって、且つR、R、RおよびRはの少なくとも1つが、炭素数1〜4のアルキル基を1〜5個有するフェニル基である点にある。
【0051】
前記炭素数1〜4のアルキル基を1〜5個有するフェニル基には、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−プロピルフェニル基、3−プロピルフェニル基、4−プロピルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、2−ブチルフェニル基、3−ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、2−イソブチルフェニル基、3−イソブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、2−s−ブチルフェニル基、3−s−ブチルフェニル基、4−s−ブチルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、3−t−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基などのモノアルキルフェニル基;2,3−ジメチルフェニル基、2,3−ジエチルフェニル基、2,3−ジプロピルフェニル基、2,3−ジイソプロピルフェニル基、2−エチル−3−メチルフェニル基、3−エチル−2−メチルフェニル基などの2,3−ジアルキルフェニル基;2,4−ジメチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、2,4−ジプロピルフェニル基、2,4−ジイソプロピルフェニル基、2−エチル−4−メチルフェニル基、4−エチル−2−メチルフェニル基などの2,4−ジアルキルフェニル基;2,5−ジメチルフェニル基、2,5−ジエチルフェニル基、2,5−ジプロピルフェニル基、2,5−ジイソプロピルフェニル基、2−エチル−5−メチルフェニル基、5−エチル−2−メチルフェニル基などの2,5−ジアルキルフェニル基;2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2,6−ジプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジブチルフェニル基、2,6−ジイソブチルフェニル基、2,6−ジ−s−ブチルフェニル基、2,6−ジ−t−ブチルフェニル基、2−エチル−6−メチルフェニル基などの2,6−ジアルキルフェニル基;3,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジエチルフェニル基、3,4−ジプロピルフェニル基、3,4−ジイソプロピルフェニル基、3−エチル−4−メチルフェニル基、4−エチル−3−メチルフェニル基などの3,4−ジアルキルフェニル基;3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、3,5−ジプロピルフェニル基、3,5−ジイソプロピルフェニル基、3−エチル−5−メチルフェニル基などの3,5−ジアルキルフェニル基;2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、4−エチル−2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジエチル−4−メチルフェニル基、4−メチル−2,6−ジイソプロピルフェニル基などのトリアルキルフェニル基等が含まれる。
【0052】
これらの中でも、メチル、エチル、プロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基を2個有するフェニル基(例えば、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基などのジメチルフェニル基など)等が好ましい。このような炭素数1〜3のアルキル基を2個有するフェニル基、特にジメチルフェニル基を有する化合物を用いると、成形品の耐熱性が顕著に向上する。前記炭素数1〜3のアルキル基を2個有するフェニル基として、前記アルキル基を2位および6位に有するフェニル基(例えば、2,6−ジメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2−エチル−6−メチルフェニル基など)を用いる場合が多い。
【0053】
置換基R、R、RおよびRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基を1〜5個有するフェニル基であってもよい。置換基R〜Rが、炭素数1〜4のアルキル基を1〜5個有するフェニル基である化合物を用いると、溶融流動性および成形品の耐光性を顕著に改善できる。
【0054】
なお、置換基R〜Rの全てが無置換フェニル基である化合物を用いると、成形品の耐光性が著しく低下する。また、Aが1,4−フェニレン基である化合物を用いると、溶融流動性が低い上、成形品の引張り伸度が低下する。
【0055】
前記式(I)において、繰返し単位nは1〜5の整数であればよいが、リン酸エステルオリゴマー型難燃剤を構成するため、1〜3の整数、なかでも1又は2、特に1であるのが好ましい。前記芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)は1種又は2種以上組合わせて用いることができる。
【0056】
前記式(I)で表される難燃剤は、種々の方法、例えば、特開平5−1079号公報に記載されているように、R、R、RおよびRに対応するフェノール化合物(例えば、フェノール、クレゾール、キシレノールなど)と、オキシ塩化リンと、レゾルシノールとの反応により製造できる。
【0057】
前記式(I)で表される化合物(C)は、前記ポリカーボネートとスチレン系樹脂(B)に難燃性を付与するための有効量、例えば、前記ポリカーボネート(A)とスチレン系樹脂(B)との混合樹脂組成物100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは10〜30重量部、さらに好ましくは15〜25重量部程度である。前記混合樹脂組成物100重量部に対する難燃剤(C)の添加量が5重量部未満では、高い溶融流動性、UL規格に適合する高い難燃性を付与することが困難であり、50重量部を越えると、溶融流動性および難燃性は高いものの、成形品の耐熱性が低下し易くなる。なお、混合樹脂組成物100重量部に対する式(I)で表される難燃剤(C)の添加量が10〜25重量部程度であると、難燃性、耐熱性、耐衝撃性、溶融流動性などの種々の特性がバランスのとれた特性となる。
【0058】
[フッ素樹脂(D)]
フッ素樹脂(D)は、火種及び融液の落下(ドリップ)を抑制するため難燃助剤として機能する。フッ素樹脂には、例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニルフルオライド、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーの単独又は共重合体;前記フッ素含有モノマーと、エチレン、プロピレン、アクリレートなどの共重合性モノマーとの共重合体が含まれる。フッ素樹脂の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドなどの単独重合体;テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などの共重合体が例示される。これらのフッ素樹脂は一種又は二種以上混合して使用できる。これらのフッ素樹脂の中で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。なお、フッ素樹脂は、慣用の方法、例えば、米国特許第2,393,967号明細書に記載の乳化重合法などにより得ることができる。
【0059】
前記フッ素樹脂は、ポリカーボネートおよびスチレン系樹脂との溶融混合により混和してもよいが、粉状、例えば、平均粒径10〜5000μm、好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは200〜700μm程度の粉粒体として使用する場合が多い。
【0060】
フッ素樹脂のフッ素含量は、樹脂の種類に応じて難燃性を付与できる範囲で選択でき、例えば、65〜75重量%、好ましくは70〜74重量%程度である場合が多い。また、粉粒状フッ素樹脂の見掛け密度は、例えば、0.4〜0.6g/cm、好ましくは0.43〜0.47g/cm程度であり、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである場合、比重は2.13〜2.22g/cm程度、融点は326〜328℃程度である。
【0061】
難燃助剤(D)の使用量は、例えば、樹脂混合物100重量部に対して0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部、さらに好ましくは0.2〜1重量部程度である。フッ素樹脂(D)の添加量が0.05重量部未満では火種や融滴の滴下防止効果(ドリップ防止効果)が小さく、高い難燃性を成形品に付与することが困難であり、5重量部を越えると、成形品の熱収縮が大きく、加熱時の寸法精度が低下するだけでなくコスト高となる。
【0062】
[その他の添加剤]
本発明の難燃性樹脂組成物には、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維などの補強繊維、炭酸カルシウム、タルクなどの充填剤、顔料などの着色剤などを添加してもよい。前記添加剤の使用量は、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度などを損わない範囲で、添加剤の種類に応じて適当に選択できる。例えば、酸化防止剤などの添加剤の添加量は、組成物全体に対して5重量%以下である場合が多く、ガラス繊維などの補強剤や充填剤の使用量は、組成物全体に対して50重量%以下である場合が多い。
【0063】
[難燃性樹脂組成物の調製]
難燃性樹脂組成物は、ポリカーボネート(A)、スチレン系樹脂(B)、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)及びフッ素樹脂(D)をV型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合した組成物であってもよいが、通常、前記予備混合物を均一に溶融混合した混合物である場合が多い。このような混合物は、前記予備混合物を、混練手段を用い、例えば、200〜300℃、好ましくは220〜280℃程度の温度で溶融混練し、ペレット化することにより得ることができる。混練手段としては、種々の溶融混合機、例えば、ニーダー、一軸又は二軸押出し機などが使用できるが、二軸押出し機などを用いて樹脂組成物を溶融して押出し、ペレタイザによりペレット化する場合が多い。
【0064】
本発明の難燃性樹脂組成物は、溶融流動性が高いため、小型の成形品のみならず、軽量な成形品及び薄肉部を有する成形品も精度よく成形できるとともに、高い難燃性および耐光性を成形品に付与できる。そのため、前記難燃性樹脂組成物は、家庭電化用品、OA機器などのハウジングやエンクロージャー、携帯電話機などの薄物ハウジングやケーシングなどの種々の成形品を成形する材料として有用である。このような成形品は、慣用の方法、例えば、ペレット状難燃性樹脂組成物を射出成形機を用いて、例えば、220〜280℃程度のシリンダー温度で射出成形することにより製造できる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0066】
なお、引張り伸度(%)は、クロスヘッドスピード5mm/分でASTM D−638に準じて測定し、曲げ弾性率(kg/cm)は3mm/分でASTMD−790に準じて測定し、アイゾット衝撃強度(kg・cm/cm)は、厚み1/4インチの切削ノッチ付きテストピースを用いASTM D−256に準じて測定した。
【0067】
また、熱変形温度(℃)は、厚み1/4インチのバーに荷重18.56kg/cmを作用させて、ASTM D−256に準じて測定し、耐炎性は、厚み1/16インチのテストピースを用い、UL−94に準じて評価した。
【0068】
さらに、スパイラルフロー長さ(mm)をシリンダー温度240℃、射出圧750kgf/cm、幅20mm、厚み2mmで調べた。
【0069】
また、耐光性は、三段カラープレート(50mm×30mm×厚み1mm/2mm/3mm)をキセノンランプで300時間光照射した後の変色度(△E)により評価した。さらに、耐水変色性は、前記三段カラープレートを、常温で、水中に1日浸漬し、表面に白い斑点が生じるか否かによって評価した。
【0070】
実施例1
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)70重量部、下記のゴム未変性スチレン系樹脂10重量部および下記のゴム変性スチレン系樹脂20重量部とを用いて熱可塑性樹脂混合物を調製した。
【0071】
ゴム未変性スチレン系樹脂:スチレン75重量部とアクリロニトリル25重量部とを、特公昭62−51962号公報に記載の方法に準じて、リン酸カルシウム系の分散剤水溶液中で懸濁重合法により重合した共重合体(重量平均分子量123,000)。
【0072】
ゴム変性スチレン系樹脂:特開平5−320274号公報に記載の方法に準じて、ポリブタジエンゴムラテックス(固形分換算で40重量部)の存在下、スチレン45重量部およびアクリロニトリル15重量部を乳化重合する方法により重合したグラフト共重合体。
【0073】
前記熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業(株)製、PX200)19重量部、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製、ポリフロンTFE(グレード名F−104)、平均粒子径約500μm、見掛け密度0.45g/ml、融点326〜328℃、比重2.14〜2.20、フッ素含量約76%)0.4重量部、酸化防止剤0.2重量部および熱安定剤0.2重量部を添加し、V型ブレンダーにて、40分間予備混合した。この予備混合物を、二軸混練押出し機を用いて溶融押出してペレット化した。
【0074】
なお、上記リン酸エステル系難燃剤は、前記式(I)において、R、R、RおよびRが2,6−ジメチルフェニル基であり、Aが1,3−フェニレン基であり、n=1である。
【0075】
得られたペレットを80℃のオーブンで4時間以上乾燥した後、型締力100トンの射出成形機を用いて温度240℃、スクリュー回転数80rpm、金型温度80℃で射出成形し、テストピース(ASTM2号ダンベル片、バー(厚み1/4インチ、長さ126mm)、およびUL燃焼テストピース(126mm×126mm×1.6mm厚み))を成形した。また、型締力100トンの射出成形機を用いて、通常の射出成形法により、三種類の厚みを有する階段状の三段カラープレート(50mm×30mm×厚み1mm/2mm/3mm)を作製した。
【0076】
比較例1
実施例1の芳香族リン酸エステル系難燃剤19重量部に代えて、前記式(I)においてR、R、RおよびRが未置換のフェニル基、Aが1,3−フェニレン基で構成され、n=0〜4の非置換芳香族リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業(株)製、CR733S)19重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。上記非置換芳香族リン酸エステル系難燃剤において、n=0の化合物が約3%、n=1の化合物が約70%、n=2の化合物が約20%、n≧3の化合物が約7%である。
【0077】
比較例2
実施例1の芳香族リン酸エステル系難燃剤19重量部に代えて、置換芳香族リン酸エステルダイマー型難燃剤(大八化学工業(株)製、PX201)19重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。この難燃剤は、前記式(I)においてR、R、RおよびRが2,6−ジメチルフェニル基、Aが1,4−フェニレン基で構成され、n=1の芳香族リン酸エステル系化合物である。
【0078】
比較例3
実施例1の芳香族リン酸エステル系難燃剤19重量部に代えて、置換芳香族リン酸エステルダイマー型難燃剤(大八化学工業(株)製、PX202)19重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。この難燃剤は、前記式(I)においてR、R、RおよびRが2,6−ジメチルフェニル基、Aが4,4′−ビフェニリレン基で構成され、n=1の芳香族リン酸エステル系化合物である。
【0079】
実施例2
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)80重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂10重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂10重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0080】
実施例3
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)80重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂7重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂13重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0081】
実施例4
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)60重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂20重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂20重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0082】
実施例5
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)70重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂20重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂10重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0083】
実施例6
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)70重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂15重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂15重量部、実施例1の芳香族リン酸エステル系難燃剤を25重量部、実施例1のポリテトラフルオロエチレン0.6重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0084】
実施例7
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)60重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂20重量部、実施例1のゴム変性スチレン系樹脂20重量部、実施例1の芳香族リン酸エステル系難燃剤を16重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0085】
比較例4
ポリカーボネート樹脂(出光石油化学(株)製、タフロンFN2700、粘度平均分子量27000)40重量部、ゴム未変性スチレン系樹脂として、スチレン25重量部とα−メチルスチレン50重量部とアクリロニトリル25重量部とを、懸濁重合法により重合した共重合体(重量平均分子量90,000)30重量部、ゴム変性スチレン系樹脂として、ポリブタジエンゴムラテックス(固形分換算で30重量部)とスチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス(固形分換算で10重量部)の存在下、スチレン45重量部およびアクリロニトリル15重量部を乳化重合したグラフト共重合体30重量部を用いて熱可塑性樹脂組成物を調整すると共に、比較例1のリン酸エステル系難燃剤19重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0086】
比較例5
実施例1のポリカーボネート樹脂95重量部、実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂2.5重量部、実施例1のゴム変形スチレン系樹脂2.5重量部を用いるとともに、比較例2のリン酸エステル系難燃剤19重量部を用いる以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0087】
比較例6
実施例1のゴム未変性スチレン系樹脂15重量部、実施例1のゴム変形スチレン系樹脂15重量部を用いるとともに、ポリテトラフルオロエチレンを用いなかった点以外、実施例1と同様にして、テストピースを作製した。
【0088】
そして、実施例および比較例で得られたテストピースの特性を評価したところ、表1に示す結果を得た。なお、表中、「スチレン系樹脂の種類」の欄において、実施例1で用いたスチレン系樹脂を記号(1)、比較例4で用いたスチレン系樹脂を記号(2)で示し、「スチレン系樹脂の使用量」の欄には、ゴム未変性スチレン系樹脂とゴム変性スチレン系樹脂との総量を示した。「難燃剤の種類」の欄には、実施例1で用いた難燃剤を記号(1)、比較例1で用いた難燃剤を記号(2)、比較例2で用いた難燃剤を記号(3)、比較例3で用いた難燃剤を記号(4)で示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1より明らかなように、実施例1〜7の組成物は、難燃性、耐光性および溶融流動性が高く、大型や薄肉であって、しかも変色しにくい成形品を成形する上で有用である。
【0091】
比較例1の組成物は、実施例1の組成物と比較して、耐光性が低い上、耐熱性、耐衝撃性も低い。また、比較例1で用いた難燃剤は液体であるため、予備混合の際の作業性が低下する。比較例2の組成物は、実施例1の組成物と比較して、溶融流動性が低く、しかも引張り伸度が小さい。また、比較例3の組成物は耐炎性が十分でなく、流動性も低い。比較例4の組成物は溶融流動性が高いものの難燃性が小さく、比較例5の組成物は、耐熱性は高いものの溶融流動性が低い。比較例6の組成物は、難燃性が十分でなく、耐炎性試験においてドリップが生じる。なお、実施例1〜7で得られた成形品は、耐水変色性試験で斑点は全く生じなかったが、比較例1および5で得られた成形品は、耐水変色性試験で白い斑点が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物は、家庭電化用品、OA機器などのハウジングやエンクロージャー、携帯電話機などの薄物ハウジングやケーシングなどの種々の成形品を成形する材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(A)50〜95重量%とスチレン系樹脂(B)5〜50重量%で構成された熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)10〜30重量部、および粉状ポリテトラフルオロエチレン(D)0.1〜2重量部の割合で含み、かつ薄肉部を有する成形品又は薄物成形品を成形するための樹脂組成物であって、スチレン系樹脂(B)が、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)/ゴム変性スチレン系樹脂(B2)=0〜75/25〜100(重量比)で構成され、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式(I)
【化1】


(式中、R、R、RおよびRは、メチル基を2位および6位に有するフェニル基を示し、Aは1,3−フェニレン基、nは1を示す。)
で表される芳香族リン酸エステル系難燃剤であり、かつシリンダー温度240℃、射出圧750kgf/cm、幅20mm、厚み2mmの条件で測定したとき、スパイラルフロー長さが215〜318mmであり、溶融流動性及び耐光性に優れたポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)が、(B1a)芳香族ビニル単量体5〜90重量%、(B1b)シアン化ビニル単量体10〜40重量%および(B1c)共重合可能なビニル単量体0〜40重量%の共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム変性スチレン系樹脂(B2)が、(B21)ガラス転移点(Tg)が0℃以下のゴム質重合体5〜65重量%に、少なくとも(B1a)芳香族ビニル単量体を含む重合性ビニル単量体35〜95重量%が重合したグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(A)50〜95重量%とスチレン系樹脂(B)5〜50重量%で構成された熱可塑性樹脂混合物100重量部に対して、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)10〜30重量部、および粉状ポリテトラフルオロエチレン(D)0.1〜2重量部の割合で含むポリカーボネート系難燃性樹脂組成物において、薄肉部を有する成形品又は薄物成形品を成形するために、ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物の特性を向上する方法であって、スチレン系樹脂(B)が、ゴム未変性スチレン系樹脂(B1)/ゴム変性スチレン系樹脂(B2)=0〜75/25〜100(重量比)で構成され、芳香族リン酸エステル系難燃剤(C)が、下記式(I)
【化2】


(式中、R、R、RおよびRは、メチル基を2位および6位に有するフェニル基を示し、Aは1,3−フェニレン基、nは1を示す。)
で表される芳香族リン酸エステル系難燃剤を用いることにより、前記樹脂組成物の溶融流動性及び耐光性を向上させる方法。

【公開番号】特開2010−196078(P2010−196078A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137053(P2010−137053)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2006−68244(P2006−68244)の分割
【原出願日】平成6年10月26日(1994.10.26)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】