説明

ポリガラクツロナーゼ

【課題】エンド型分解様式を示し、プロトペクチナーゼ活性を有し、常温で広いpH領域において安定で、食品工業用のみならず衣料用洗剤酵素としても有用なポリガラクツロナーゼ及びその製造法、並びに当該酵素を用いたモノ及びオリゴガラクツロン酸の製造法の提供。
【解決手段】下記の酵素学的性質を有するポリガラクツロナーゼ。
(1)作用:ポリガラクツロン酸、ペクチン及びプロトペクチンに作用し、ポリガラクツロン酸のα−1,4結合をエンド的に加水分解し、オリゴガラクツロン酸を生成する。
(2)最適反応pH:pH5付近(酢酸緩衝液)
(3)最適反応温度:約50℃(酢酸緩衝液、pH5)
(4)分子量:約24000(ゲル濾過法)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンド型分解様式を示すポリガラクツロナーゼ及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリガラクツロナーゼは、一般にペクチナーゼとも呼ばれ、ポリガラクツロン酸(「ペクチン酸」とも称する)やペクチンを分解する加水分解酵素である。斯かるポリガラクツロナーゼは、その最適反応pHを酸性−弱酸性に有していることから、主に食品工業用酵素として用いられているが、衣料用洗剤酵素としての利用も試みられている(特許文献1〜3)。
食品工業においては、一般的に作用pHの低い領域で効率良く働くポリガラクツロナーゼが必要とされるが、衣料用洗浄剤、繊維処理等に使用される場合には、界面活性剤、キレート剤等に対し安定であることが必要とされる。また、更に植物性繊維においてペクチン質は不溶性ペクチンであるプロトペクチンとして存在しているため、プロトペクチンを分解する能力(プロトペクチナーゼ活性)も有していることが好ましい。
【0003】
一方、ペクチン又はペクチン酸にポリガラクツロナーゼを作用させ生成されるオリゴガラクツロン酸には、大腸菌などに対する静菌作用や植物の対微生物防御反応を誘導する作用があるとされ、当該酵素を用いてオリゴガラクツロン酸をより効率よく製造する方法も検討されている(特許文献4)。
【0004】
ポリガラクツロナーゼには、作用様式がエキソ型のものとエンド型のものがあるが、メチルエステル化等の修飾を受けた基質に対する反応性が良い点から、洗剤酵素として使用する場合、エンド型のものが好ましい。エンド型のものはカビや植物由来のものが多く、例えば、至適pHが4で、分子量が36000のPEC−M1(シグマ社)、至適pHが5.5で、分子量が42000のPEC−M2(シグマ社)、また至適pHが4.5で、分子量が41000の糸状菌アクレモニウム・セルロリティカス由来のポリガラクツロナーゼ(特許文献5)が知られている。
しかしながら、常温での安定pH領域が狭かったり、プロトペクチナーゼ活性が低い等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−226599号公報
【特許文献2】特許第2033580号公報
【特許文献3】国際公開第98/06809号パンフレット
【特許文献4】特開平6−205687号公報
【特許文献5】特開2001−61473公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エンド型分解様式を示し、プロトペクチナーゼ活性を有し、常温で広いpH領域において安定で、食品工業用のみならず衣料用洗剤酵素としても有用なポリガラクツロナーゼ及びその製造法、並びに当該酵素を用いたモノ及びオリゴガラクツロン酸の製造法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、土壌中の微生物が産生する酵素のスクリーニングを行ったところ、高いプロトペクチナーゼ活性を有し、界面活性剤、キレート剤に耐性で、且つ常温で酸性からアルカリ性領域の広いpH領域において安定である、エンド型のポリガラクツロナーゼを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に係るものである。
[1]下記の酵素学的性質を有するポリガラクツロナーゼ。
(1)作用:ポリガラクツロン酸、ペクチン及びプロトペクチンに作用し、ポリガラクツロン酸のα−1,4結合をエンド的に加水分解し、オリゴガラクツロン酸を生成する。
(2)最適反応pH:pH5付近(酢酸緩衝液)
(3)最適反応温度:約50℃(酢酸緩衝液、pH5)
(4)分子量:約24000(ゲル濾過法)
[2]プレクトスファエレラ属真菌由来である[1]のポリガラクツロナーゼ。
[3]プレクトスファエレラ属真菌がプレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である[2]のポリガラクツロナーゼ。
[4]更に、下記(5)及び(6)から選択される1以上の酵素学的性質を有する[1]〜[3]のポリガラクツロナーゼ。
(5)pH安定性:pH2〜12(40℃、60分間処理)
(6)耐熱性:約50℃まで安定(酢酸緩衝液、pH5、15分間処理)
[5][1]のポリガラクツロナーゼを産生するプレクトスファエレラ属真菌。
[6]プレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である[5]の真菌。
[7]プレクトスファエレラ属真菌を培養し、培養物からポリガラクツロナーゼを採取することを特徴とする[1]のポリガラクツロナーゼの製造法。
[8]プレクトスファエレラ属真菌がプレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である[7]のポリガラクツロナーゼの製造法。
[9]ポリガラクツロン酸又はペクチンに、[1]〜[4]のポリガラクツロナーゼを作用させることを特徴とするモノ及びオリゴガラクツロン酸の製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリガラクツロナーゼは、ポリガラクツロン酸及びペクチンに対しエンド的に作用し、最適反応pHをpH5付近に有し、常温で広いpH領域において安定であることから、保存自由度が高い。そして、優れたプロトペクチナーゼ活性を示し、キレート剤存在下、界面活性剤存在下においても活性を維持することから、食品工業用のみならず衣料用洗剤酵素、繊維処理用酵素としても有用である。また、本発明のポリガラクツロナーゼを用いることによりモノ及びオリゴポリガラクツロン酸を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリガラクツロナーゼ活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図2】本発明のポリガラクツロナーゼ活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図3】本発明のポリガラクツロナーゼ安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図4】本発明のポリガラクツロナーゼ安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図5】本発明のポリガラクツロナーゼのプロトペクチナーゼ活性を市販のポリガラクツロナーゼのそれと比較した図である。M1:PEC−M1、M2:PEC−M2
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリガラクツロナーゼは、下記の(1)〜(4)の酵素学的性質を有する。
(1)作用:
ポリガラクツロン酸(ペクチン酸)、ペクチン及びプロトペクチンに作用し、ポリガラクツロン酸のα−1,4結合をエンド的に加水分解し、オリゴガラクツロン酸を生成する。
また、ペクチンに対しては、エステル化度30%のペクチンでは約106%、エステル化度60%のペクチンに対しては約48%、エステル化度90%のペクチンでは約8%、の反応速度でこれを分解する。
また、プロトペクチンに作用して、モノ−、ジ−又はトリ−ガラクツロン酸を生成するプロトペクチナーゼ活性を有する。
(2)最適反応pH:
pH5.0の酢酸緩衝液中で最も高い反応速度を示し、また、pH4.5〜6.5の広範囲で最大活性の50%以上の活性を示す(図1)。従って、最適反応pHは、4.5〜6、すなわちpH5付近(酢酸緩衝液)である。
(3)最適反応温度:
酢酸緩衝液(pH5.0)中で酵素反応を行った場合、約40〜50℃、すなわち50℃付近に最適反応温度を示す。また、30℃〜60℃の範囲で最大活性の50%以上の活性を示す(図2)。
(4)分子量:
ゲル濾過法(塩化ナトリウムを含む酢酸緩衝液(pH5.0)にて平衡化したTSK−GEL G2000SWXLを用い、1mL/minの流速で溶出)により測定した推定分子量は、22000〜26000、すなわち約24000である。
【0012】
また、本発明のポリガラクツロナーゼは、更に詳細には、以下の(5)〜(8)の性質を有する。
(5)pH安定性:
各緩衝液(pH1〜13)中、40℃、60分間恒温した後の残存活性は、酢酸緩衝液(pH5)中での残存活性を100%とした場合、pH2.0〜12.0の範囲で70%以上である(図3)。
すなわち、pH安定性は、pH2〜12(40℃、60分間処理)である。
(6)耐熱性:
50mM酢酸緩衝液(pH5.0)中、10℃〜80℃の各温度で15分間恒温した場合、約60℃まで安定である(図4)。
(7)キレート剤の影響:
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤の添加によって殆ど阻害されない(表1)。
【0013】
(8)界面活性剤の影響:
陽イオン界面活性剤(0.2%(w/v))の存在下においても安定である(表2)。
例えば、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル0.2%含有液中で124%、ポリオキシエチレン(8)ラウリルエーテル0.2%含有液中で121%以上の活性を保持する。
【0014】
以上のとおり、本発明のポリガラクツロナーゼは、常温で広いpH領域において安定で、ポリガラクツロナーゼ活性、すなわちポリガラクツロン酸の加水分解活性を有する。当該ポリガラクツロナーゼ活性は、エンド型であり、ポリガラクツロン酸よりオリゴガラクツロン酸を生成する。
さらに、本発明のポリガラクツロナーゼは、不溶性天然ペクチンであるプロトペクチンに作用することから、不溶性ペクチンを基質としたペクチン分解物の製造、植物性繊維上のプロトペクチンに付着した汚れや、ケチャップ、ジャム等の不溶性ペクチン含量の高い食物の食べこぼしや染み汚れの除去に有効である。
【0015】
本発明のポリガラクツロナーゼは、ポリガラクツロナーゼ生産菌を培養し、培養物から採取することにより製造される。
本発明のポリガラクツロナーゼを生産する菌としては、プレクトスファエレラ(Plectosphaerella)属に属する真菌、例えばプレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57)株を挙げることができる。当該プレクトスファエレラ KSM−P57株は次の形態学的性質を有する。
【0016】
本菌株をポテトデキストロース寒天培地「ダイゴ」(日本製薬、東京)(PDA培地)、2%Malt Agar(MA培地)、Bacto Oatmeal Agar(Becton Dickinson,MD,USA)(OA培地)又はLcA(三浦培地)(LcA培地)にて、培養温度:25℃、培養期間:2週間の条件にて培養した場合、直径約60mmの黄色〜薄肌色の湿生コロニーを形成する。分生子柄の先端部にフィアライドが頂生あるいは側生し、フィアライドの先端部には円筒形のカラレットを有し、楕円形〜紡錘形で1〜2細胞性の分生子が塊状に形成される。子嚢果などの有性生殖器官の形成は認められない。
【0017】
プレクトスファエレラ KSM−P57は、28SrDNA塩基配列の相同性検索の結果から、Plectosporium tabacinumに対して相同率100%の最も高い相同性を示したことから、本菌株はPlectosphaerella cucumerinaのアナモルフであるPlectosporium tabacinumであると考えられた。プレクトスファエレラ属細菌として本菌株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)へ、平成23年2月1日付で、プレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57;FERM AP-22057)として寄託した。
【0018】
プレクトスファエレラ KSM−P57株等のポリガラクツロナーゼ生産菌を用いて本発明のポリガラクツロナーゼを生産するには、菌株を同化性の炭素源、窒素源、その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い振盪培養あるいは通気攪拌培養すれば良い。培地のpHは、7〜9に調整するのが好ましい。
【0019】
かくして得られた培養物中からのポリガラクツロナーゼの採取及び精製は、一般の方法に準じて行うことができる。即ち、培養物から遠心分離または濾過することで菌体を除き、得られた培養上清液から硫酸アンモニウム沈殿、溶剤沈殿、限外濾過、各種クロマトグラフィー、凍結乾燥、噴霧乾燥等の常法手段により目的酵素を濃縮することができる。このようにして得られた酵素液または乾燥粉末はそのまま用いることもできるが更に公知の方法により結晶化や造粒化することができる。
プレクトスファエレラ KSM−P57株由来のポリガラクツロナーゼの詳細な酵素学的性質を実施例4に記載した。
【0020】
本発明のポリガラクツロナーゼを用いてペクチン又はポリガラクツロン酸を原料として、モノ及びオリゴガラクツロン酸を製造することができる。
ここで、オリゴガラクツロン酸としては、ガラクツロン酸が2〜8個結合したものが挙げられる。
本発明のポリガラクツロナーゼと原料との酵素反応は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、例えばペクチン又はポリガラクツロン酸を水又は緩衝液に溶解又は懸濁させ、これにポリガラクツロナーゼを作用させることや、ポリガラクツロナーゼを不溶性固定化担体に結合させて、これにペクチン又はポリガラクツロン酸を流下させること等により行うことができる。
【0021】
ここで、用いられる緩衝液としては、酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、トリスアミノメタン、ビス−トリス、グリシン、水酸化ナトリウム等を組み合わせた緩衝液が好ましい。例えば、酢酸緩衝液(pH3.5〜5.5)、ビス−トリス緩衝液(pH6.0〜7.0)等が挙げられる。
【0022】
ポリガラクツロナーゼの使用量は、効果を損なわない限り限定されないが、例えば、原料であるペクチン又はポリガラクツロン酸に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8.0質量%である。
【0023】
反応の条件は、ポリガラクツロナーゼの至適温度、至適pHにおいて反応させるのが好ましく、例えば、25〜60℃、好ましくは35〜55℃の温度範囲、pH4.0〜6.5、好ましくはpH5.0〜6.0のpH範囲で反応させることができる。
【0024】
反応時間は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、6〜72時間が好ましく、18〜48時間がより好ましい。
【0025】
斯くして得られたモノ及びオリゴガラクツロン酸は、そのまま使用することもできるが、必要に応じて、更にイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過等により脱塩、分離、精製することができる。
尚、原料であるペクチン又はペクチン酸は、植物由来のものであれば種類は問わず、植物体からの抽出等により調製できる、或いは調製されたものを購入することもできる。
【実施例】
【0026】
実施例1 ポリガラクツロナーゼ生産菌のスクリーニング
日本各地の土壌を滅菌水に懸濁したものを、下記組成の寒天平板培地に塗布した。30℃の培養器で3〜5日間静置培養した。菌の生育後、0.2%(w/v)ポリガラクツロン酸、0.1%リン酸1水素カリウム、1%塩化ナトリウム、50mMEDTA、50mMトリス−塩酸塩緩衝液(pH8.0)0.8%寒天からなる軟寒天を重層し、室温で一夜恒温した。重層した軟寒天上に1%セチルトリメチルアンモニウムブロマイド溶液を注ぎ、室温で1時間放置後、生育した菌の周辺にペクチンの分解に伴う溶解斑が検出されたものについて選抜し、シングルコロニー化を繰り返し、ポリガラクツロン酸分解酵素の生産能を検定した。このようにして得られた多くの菌株は、主にペクチン酸リアーゼを生産したが、その中でポリガラクツロナーゼ生産菌としてプレクトスファエレラ KSM−P57株を得た。当該菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターへ、プレクトスファエレラ KSM−P57(Plectoshaerella sp. KSM−P57;FERM AP-22057)として寄託した。
【0027】
実施例2 プレクトスファエレラ KSM−P57株によるポリガラクツロナーゼの生産
上述のスクリーニングにより得られたプレクトスファエレラ KSM−P57株の培養は、500mL容坂口フラスコに50mLの培地を加え、30℃、2日間好気的に行った。培地組成は、0.5%(w/v)ペクチン、2.0%ポリペプトンS、0.5%酵母エキス、1.0%魚肉エキス、0.15%リン酸一水素二カリウム、0.02%硫酸マグネシウム7水塩、0.005%硫酸マンガン5水塩であった。培養液中に生産されるポリガラクツロナーゼ活性は、5mM EDTAを添加しペクチン酸リアーゼ活性を完全に失活させて測定を行った。この測定法により、培養液あたり0.1〜0.2U/Lの生産量を得た。
【0028】
実施例3 ポリガラクツロナーゼの精製
プレクトスファエレラ KSM−P57株の培養液を遠心分離(8000×g、30分間、4℃)し上清液(約3L)を得た。得られた上清に対し、フェニルメタンスルホニルフルオリド溶液を終濃度1mMとなるように、塩化カルシウム溶液を終濃度50mMとなるように添加・攪拌後、再び遠心分離(8000×g、30分間、4℃)を行った。得られた上清は限外濾過用モジュール(ACP1010:旭化成)により濃縮、脱塩を行った。得られた濃縮液(455mL)は1mMジチオスレイトールを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)にて平衡化しておいたDEAEトヨパール650Mカラム(5×7cm:東ソー)に供した。約400mLの平衡化緩衝液を用いて非吸着タンパク質を洗浄溶出させた。非吸着部分にエンド型ポリガラクツロナーゼ活性が溶出された。得られた非吸着画分は限外濾過用モジュール(YM−10:ミリポア)により濃縮(21mL)を行った。そのうち20mLを用いて、P6−DG脱塩カラム(2.5cm×30cm:バイオラッド)を用いて10mMリン酸緩衝液(pH6.0)に置換を行い、同緩衝液にて平衡化したSPトヨパール650Mカラムカラム(1.5cm×13.5cm:東ソー)に供した。平衡化緩衝液にて洗浄した後、0から100mM NaCLを用い吸着タンパク質を濃度勾配法にて溶出させた。エンド型ポリガラクツロナーゼ活性は約10mMのNaCL濃度付近に溶出され、その画分を集め、限外濾過により濃縮し、予め10mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平行化しておいたP10−DGカラム(バイオラッド)により緩衝液置換を行った。(4mL、11.9U、640μgタンパク質)。
【0029】
実施例4 酵素学的性質の測定
実施例3の精製操作により得られたポリガラクツロナーゼ画分について、各種酵素学的性質を測定した。
なお、ポリガラクツロナーゼ活性の測定は、以下のように行った。
〔標準酵素活性測定法〕
試験管に0.2mLの0.5M酢酸緩衝液(pH5.0)、0.2mLの1%(w/v)ポリガラクツロン酸(ICNバイオメディカル;lot14482、水酸化ナトリウム溶液にてpH6.8に調整)、0.5mLの脱イオン水を添加し、40℃で5分間恒温した。これに0.1mLの適当に希釈した酵素液(希釈は脱イオン水により行った)を加え30分間反応させた後、1mLのジニトロサリチル酸試薬を添加し、沸水中で5分間還元糖の発色を行った。氷水中で急冷した後、4mLの脱イオン水を加え535nmにおける吸光度を測定し還元糖の生成量を求めた。尚、ブランクは酵素液を加えずに処理した反応液にジニトロサリチル酸試薬を加えた後、酵素液を添加し、同様に発色させたものを用意した。酵素1単位(1U)は、上記反応条件下において1分間に1μmol のD−ガラクツロン酸相当の還元糖を生成する量とした。
【0030】
(1)基質特異性
ポリガラクツロン酸の代わりにエステル化度の異なるペクチン(30、60、90%)を基質とし、標準活性測定法により反応速度を調べた。エステル化度30%のペクチン(シグマ;lot118K0974)では約106%、エステル化度60%のペクチン(シグマ;lot069K0976)に対しては約48%、エステル化度90%のペクチン(シグマ;lot18K1650)に対しては約8%の分解活性を有していた。次に基質として15cmのしつけ糸(金鈴印)1本(約12mg)を基質に用い40℃で1時間の反応を行った後、上清を液体クロマトグラフィーでの分析を行った。その結果、反応生成物としてモノ・ジ・トリガラクツロン酸が検出されたことから本酵素は、木綿繊維中に含まれるプロトペクチンに作用できるプロトペクチナーゼ活性を有すると考えられた。
【0031】
(2)基質の分解様式
100mMトリス−塩酸緩衝液(pH5.0)、0.2%ポリガラクツロン酸、5mM EDTAからなる反応液に0.05Uの酵素を添加し、全量を0.1mLとした。40℃、60分間反応させた液を液体クロマトグラフィーで分析を行った。その結果、反応生成物としてジ・トリガラクツロン酸及び、それ以上の溶出時間帯にもピークが検出され、本酵素はエンド型のポリガラクツロナーゼであった。
【0032】
(3)ポリガラクツロナーゼ活性の最適反応pH
酢酸緩衝液(pH3.5〜5.5)、ビストリス−塩酸緩衝液(pH6.0〜7.0)、MOPS緩衝液(pH7.0〜8.5)の各緩衝液(100mM)を用いて最適反応pHを調べた結果、本酵素はpH5.0の酢酸緩衝液中で最も高い反応速度を示し、また、pH4.5〜6.5の広範囲で最大活性の50%以上の活性を示した(図1)。
【0033】
(4)最適反応温度
100mM酢酸緩衝液(pH5.0)中、10℃〜70℃の各温度で酵素反応を行い、最適反応温度を調べた結果、本酵素は50℃付近に最適反応温度を示し、30℃〜60℃の範囲で最大活性の50%以上の活性を示した(図2)。
【0034】
(5)安定pH範囲
塩化カリウム−塩酸緩衝液(pH1)マックルベイン氏緩衝液(pH2〜3)、酢酸緩衝液(pH4〜5)、ビストリス−塩酸緩衝液(pH6)、トリス−塩酸緩衝液(pH7〜8)、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9〜10)、塩化カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(pH12〜13)の各緩衝液(50mM)中に本酵素を加え、40℃、60分間恒温した後、残存活性を測定した結果、本酵素は酢酸緩衝液(pH5)中での残存活性を100%とした場合、pH2.0〜12.0の範囲で70%以上の残存活性を示した(図3)。
【0035】
(6)耐熱性
50mM酢酸緩衝液(pH5.0)中に本酵素を添加し、10℃〜80℃の各温度で15分間恒温した後の残存活性を測定した。本酵素は、この条件下において60℃まで非常に安定である(図4)。
【0036】
(7)分子量
ゲル濾過法:100mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.0)にて平衡化したTSK−GEL G2000SWXL(7.8×30mm)に本酵素を載せ、1mL/minの流速で溶出を行った。標準タンパク質としてチログロブリン(670000)、γ−グロブリン(158000)、卵白アルブミン(44000)、ミオグロビン(17000)、ビタミンB12(1350)を用い、それぞれの溶出液量と分子量から検量線を作製し、本酵素の分子量を求めたところ約24000と推定された。
【0037】
(9)各種化合物の影響
本酵素の活性に及ぼす各種化合物の影響は、各化合物を所定濃度になるよう反応系へ添加し、活性測定を行うことにより調べた結果、本酵素は、下表に記載の修飾剤やキレート剤に耐性を示した(表1)。
【0038】
【表1】

【0039】
(10)界面活性剤の影響
各種界面活性剤を0.2%(w/v)になるように添加した反応系において、酵素の反応性を調べた結果、陽イオン界面活性剤の存在下において、本酵素は、対象に比べ約120%の活性を発現した(表2)。
【0040】
【表2】

【0041】
(11)金属塩の影響
各種金属塩を標準活性測定条件に1mM添加し、酵素活性に与える影響を調べた。その結果、本酵素は記載の金属化合物に対して耐性を示した(表3)。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例5 プロトペクナーゼ活性
上述の標準酵素活性測定法において、ポリガラクツロン酸の代わりに、基質として15cmのしつけ糸(金鈴印)1本(約12mg)を用いて30℃で24時間の反応を行った後、上清の還元糖の発色を測定した。各酵素はポリガラクツロン酸の分解活性として100mU/mLの濃度で使用した。その結果、本酵素は市販のペクチナーゼ(PEC−M1(シグマ社)、PEC−M2(シグマ社))と比較して約3倍のプロトペクチナーゼ活性を有することが判明した(図5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の酵素学的性質を有するポリガラクツロナーゼ。
(1)作用:ポリガラクツロン酸、ペクチン及びプロトペクチンに作用し、ポリガラクツロン酸のα−1,4結合をエンド的に加水分解し、オリゴガラクツロン酸を生成する。
(2)最適反応pH:pH5付近(酢酸緩衝液)
(3)最適反応温度:約50℃(酢酸緩衝液、pH5)
(4)分子量:約24000(ゲル濾過法)
【請求項2】
プレクトスファエレラ属真菌由来である請求項1記載のポリガラクツロナーゼ。
【請求項3】
プレクトスファエレラ属真菌がプレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である請求項2記載のポリガラクツロナーゼ。
【請求項4】
更に、下記(5)及び(6)から選択される1以上の酵素学的性質を有する請求項1〜3の何れか1項記載のポリガラクツロナーゼ。
(5)pH安定性:pH2〜12(40℃、60分間処理)
(6)耐熱性:約50℃まで安定(酢酸緩衝液、pH5、15分間処理)
【請求項5】
請求項1記載のポリガラクツロナーゼを産生するプレクトスファエレラ属真菌。
【請求項6】
プレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である請求項5記載の真菌。
【請求項7】
プレクトスファエレラ属真菌を培養し、培養物からポリガラクツロナーゼを採取することを特徴とする請求項1記載のポリガラクツロナーゼの製造法。
【請求項8】
プレクトスファエレラ属真菌がプレクトスファエレラ KSM−P57(Plectosphaerella sp.KSM−P57; FERM AP-22057)である請求項7記載のポリガラクツロナーゼの製造法。
【請求項9】
ポリガラクツロン酸又はペクチンに、請求項1〜4の何れか1項記載のポリガラクツロナーゼを作用させることを特徴とするモノ及びオリゴガラクツロン酸の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−187042(P2012−187042A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53240(P2011−53240)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】