説明

ポリキノン系イオン性化合物から得られる新規電極材料及びそれらの電気化学的ジェネレーターにおける使用

【課題】優れた酸化還元特性を有する新規な電極材料の提供。
【解決手段】本発明は、ポリキノン系イオン性化合物から誘導される新規電極材料及びそれらの例えば電気化学的ジェネレーターにおける使用に関する。本発明は、特に、ロジゾン酸塩;ルフィ没食子酸塩;エラグ酸塩;チオシアン酸ポリマー若しくは1−シアノ−2−メルカプトアセチレン;ケトピリジンから誘導される単位を含むポリマー;ベンゾキノン単位及びピラジン単位を含む交互ポリマー;1,2−ジメルカプトシクロブテンジオン(ジチオスクアリン)酸塩;1,5−ジヒドロピリミド(5,4d)ピリミジン−2,4,6,8(3H,7H)−テトロン酸塩;基が共役セグメントで結合しているジカルボン酸塩;基が共役セグメントで結合しているジカルボン酸から誘導されるポリアミドのような化合物に関する。本発明は、前記化合物の酸化生成物の全てにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気化学的ジェネレーターにおいて使用される電極材料として有用な新規ポリキノン系イオン性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属から得られる電極材料、特に、TiS2 ,VOx (2≦x≦2.5)のような遷移金属二元カルコゲナイド、LiNiO2 ,LiCoO2 ,Li1+x Mn2-x4 (0≦x≦1)及びLiV38 のような三元酸化物は周知である。しかしながら、これらの材料は、多くの場合に比較的毒性が高い。バナジウム誘導体を除き、容量は中程度、すなわち100 Ah・g-1程度であり、それらのポテンシャル(約4V対Li+ /Li0 )は固体又は液体電解質の安定領域を超える。従って、それらは安全上問題がある。
【0003】
共役ポリマーのような有機化合物は、電解質から抜き取られた陰イオンの挿入機構を通じて作用する。従って、それらから得られるマスキャパシティー(capacites massiques )は低く、それらのサイクル能は不十分である。
【0004】
他の周知の化合物に、固有導電性を持たなくても、魅力のある酸化還元特性及びマスキャパシティー(≧300 Ah・g-1)を有するポリスルフィド型のもの、特に2,5−ジメルカプトチアジアゾールの酸化カップリング誘導体がある。しかしながら、得られる還元生成物及び中間体は、窒素原子を有する共役チオール酸塩リチウム塩である。硫黄及び窒素のような分極性陰イオンセンター上への電荷の局在化によって、電解液への溶解度が比較的大きくなるとともにサイクル耐用寿命が短くなる。
【0005】
モノキノン類は、それらの酸化還元特性については知られているが、それらのポテンシャル(2.2 V程度対Li+ /Li0 )については興味のあるものでなく、その中性の酸化型化合物が電解液に可溶である。キノン系官能基を有するポリマー、例えばヒドロキノンとホルムアルデヒドの重縮合により得られるものは、水のような非常に極性の高いプロトン性溶剤の不在下では、電荷キャリヤー、イオン及び電子の移動度が低いために電気化学的に活性でない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、同一分子内に集積している、共役している、又は集積し共役している少なくとも2個のキノン官能基を有する陰イオン塩から誘導される電気化学的に活性な化合物に関する。より詳細には、本発明は、一般式:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中:
+ は、アルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、遷移金属陽イオン、希土類陽イオン、有機金属陽イオン、「ニウム」型の有機陽イオン、陽イオン性酸化型共役ポリマーの繰返し単位、又は酸化還元性を有していてもよい単量体若しくは重合体陽イオンを表し;
Xは酸素、NCN又はC(CN)2 であり;
ZはC−Y- 又はN- であり;
Yは、酸素、硫黄、NCN、−C(CN)2 であるが、Yが硫黄である場合にn≦4でありXが酸素であることを条件とし;
1 は、存在しないか又はO、S、NH、−(C=C)r −、−(W=W)r −であり、ここでWは独立にCR6 又はNであり;
rは1〜12であり;
6 は、H、ハロゲン、CN、又は任意に1つ以上の置換基オキサ、アザ又はチアを有していても良いC1-12アルキル、C2-12アルケニル若しくはC6-14アリールであり、2つのR6 基が結合して3〜7員環を形成していても良く;
2 及びR3 は、同じであっても相異なっていても良く、存在しないか、又は任意にアザ、オキサ若しくはチアにより置換されていても良い二価炭素基であり;
qは0〜pであり;
pは1〜5であり;
nは1〜104 であり;
1 、R2 及びR3 のうちの2つが結合しあって3〜7員環を形成していてもよい)
により表される少なくとも1つの酸化状態を有する酸化還元化合物から構成される。
【0009】
本発明の目的に対し、nが4以下である場合には、本発明の化合物はポリマーでないとみなす。さらに、「二価基」なる表現は、場合に応じて1つ以上の置換基アザ、オキサ又はチアを含んでいてもよい炭素原子数2〜200 のアルキレン、アリーレン又はアリールアルキレンを表すものと定義する。
【0010】
本発明は、さらに、全体又は部分的に本発明の化合物を含むことを特徴とする電極材料、又は電解質、本発明の化合物を含む少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの陽極を含む一次若しくは二次ジェネレーター又はスーパーキャパシター(Super-capacite)のような電気エネルギー貯蔵装置に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、同一分子内で集積及び/又は共役している複数のキノン官能基を有する陰イオン塩から誘導される一群の電気化学的に活性な化合物を開示しクレームする。そのような型の化合物が、高い容量、すなわち3.5 〜1V対Li+ /Li0 から構成される電位で300 Ah・g-1以上の容量を有し、従来の非プロトン性電解質の安定領域で液体又は固体であるためにジェネレーターの陽極及び負極の製造を可能にすることが見いだされた。さらに、対応する塩は、それらの酸化度によらずに、液体電解質又は非プロトン性ポリマーに実質的に溶解する。固相での酸化還元反応の速度は注目に値するものであり、無機挿入材料のものに匹敵する。中性キノン基のCOの酸素原子をNCN基又はC(CN)2 で置換することによって及び/又は負電荷を帯びたキノン基の酸素原子を陰イオン性基N- 、NCN- 若しくはC(CN)2 - で置換することによって、酸化還元活性の観点で同様な魅力のある特性を得られることも見いだされた。中性キノンの酸素をNCN又はC(CN)2 で置換することによって、酸化還元電位は正値のほうに約300mV 変位する。キノン基に対してこれらの置換を行う化学的方法は当業者に周知である。
【0012】
本発明の酸化還元化合物には、キノン基の負電荷を帯びた酸素が硫黄S- により置換されたポリキノン類も包含される。この場合には、中性でかつ弱く分極可能でかつより電気陰性度が高くなる酸素化基COとの電荷の共役は、対応するイオン性誘導体の溶解度、特に電解質溶液への溶解度を著しく低下させる。ジスルフィドブリッジCS−SCを形成するCS- の酸化的重複によりさらに高い酸化度が得られる。
【0013】
これらのポリキノン系化合物は、ポリマー鎖に沿って電荷が共役しているポリマーの一部にもなることができる。そのような場合において、これらの剛直な高分子の溶解度は、当該高分子に帰属する電荷がいかなるものであっても、ゼロに等しく、中性状態に含まれる。
【0014】
本発明の化合物は陰イオン塩、すなわち負電荷を帯びた塩であるために、全体的に中性の電荷をもたせるためにはそれらを陽イオンと会合させなくてはならない。好ましい陽イオンは、プロトン、Li,Na,K,Csのようなアルカリ金属陽イオン;Mg,Ca,Baのようなアルカリ土類金属陽イオン;Cu,Zn,Pb,Fe,Ni,Co,Mn,V,Crのような遷移金属陽イオン;希土類陽イオン;メタロセンのような有機金属陽イオン;アンモニウム、アミジニウム、グアニジニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、イミダゾリニウム、スルホニウム、ホスホニウム、ヨージニウムのような「イウム(ium )」型の陽イオン;ポリピロール、ポリチオフェン、ポリキノリンのような酸化型陽イオン性共役ポリマーの繰返し単位;式[−(R”NC54 −C54 N−)2+n (式中、R”は、それぞれ任意にオキサ、アザ又はチアで置換されていても良いC2-12アルキレン、C6-14アリーレン又はC6-14アリーレンC2-12アルキレンである)により表されるビオロゲンのような酸化還元特性を場合に応じて有していてもよいモノマー又はポリマーの形態にある陽イオンから選ばれることが都合良い。リチウム陽イオン及びプロトンが特に好ましい。電解質媒体及び/又は電極材料中に他のイオンが存在していても良く、他のイオンが界面の導電性の向上に寄与しうるものであってもよい。そのような場合においてカリウムイオンが都合良く使用され、第4級化イミダゾリウムから誘導された陽イオンも同様に都合良く使用される。
【0015】
陽イオンの酸化度が高い場合には本発明の分子の酸化還元能に陽イオンの酸化還元能が上乗せされる場合がある。鉄、銅又はマンガンの陽イオン並びにメタロセンは、そのような用途にとって特に重要である。ビオロゲンのような酸化還元特性を有する有機陽イオンも同様に重要である。これらの陽イオンはポリマー鎖の一部を構成していてもよい。
【0016】
本発明の化合物は、高い酸化還元交換能を有し、実際に、慣用的な無機化合物のものよりも優れている。利用可能な官能基が非常に多岐にわたるため、広い電位範囲内、典型的には0.1 〜3.7 V対Li+ /Li0 で、酸化還元電位を選択することが可能である。0.1〜2V対Li+ /Li0 で構成される酸化還元対をもつ化合物が、一次及び二次バッテリ又はスーパーキャパシターの電気化学的ジェネレーターにおいて負極の構成材料として都合良く使用される。同様に、2〜3.7 V対Li+ /Li0 で構成される酸化還元対をもつ化合物は、同様な装置における正極の構成材料として又はエレクトロクロミック素子における能動電極若しくは受動電極として都合良く使用される。
【0017】
本発明の化合物は単独で又は混合物で使用できる。本発明の化合物は、他の酸化還元化合物、特に挿入化合物(composes d'insertion)とともに使用されてもよい。そのような挿入化合物としては、例えば、負極に対して、金属リチウム又はそれらの合金(場合に応じて酸化リチウム中でナノメートル分散体(dispersion nanometrique )の形態にあってもよい)、リチウムと遷移金属、例えばコバルトとの複窒化物;一般式:Li1+y Ti2-x/44 (式中、x及びyは0〜1である)により表される低いポテンシャルをもつ酸化物;並びに炭素又は有機物の熱分解により生成する炭化生成物が上げられる。正極に対しては、挿入化合物として、遷移金属の酸化物及び硫化物、例えばVOz (式中、zは2〜2.5 である);LiV38 ;Lia1-a Coa2 (式中、aは0〜1である);マンガンスピネルLiy Mn2-xx4 (式中、xは0〜0.5 であり、yは0〜2であり、MはLi,Cr,Al,V,Niである);有機ポリスルフィド;FeS;FeS2 ;硫酸鉄;鉄及びリチウムのリン酸塩並びにかんらん石構造をもつホスホシリケート;又はマンガンによる鉄の置換生成物が挙げられる。これらは単独で使用されても混合物で使用されてもよい。
【0018】
本発明の材料は、前記の新規酸化還元化合物を単独で又は混合物の形態で含むとともに、少なくとも1種の導電体及び少なくとも1種のバインダーを含む複合材料電極において特に具体化される。前記導電体は、カーボンブラック、グラファイト粉末、有機物の熱分解から得られる生成物、特にフェノール樹脂又はポリアクリロニトリルの熱分解から得られる生成物のような炭化化合物から選ばれることが好ましい。電極バインダーが電気化学的作用をもたず機械的機能のみをもつ場合には、電極バインダーは、ポリテトラフルオロエチレン;エチレン、プロピレン及びジエンのコポリマー又はターポリマーのような無極性ポリマーであって、これらの酸化還元材料が適切に作用するのに必要な電解質の浸透を可能にするのに十分な多孔性を保ったまま材料の結合を可能にするものから都合良く選ばれる。
【0019】
そのような型の酸化還元材料に適切な液体電解質は、塩又は酸を溶剤に溶解させることにより得られるものである。溶剤は、環式又は非環式カーボネート;γ−ブチロラクトン;モノアルキルアミド及びジアルキルアミド;テトラアルキルスルファミド;モノ−、ジ−、トリ−及びテトラエチレングリコールのジアルキル化エーテル;及び分子量2000g/モル未満のオリゴマー;並びにこれらの混合物から選ばれることが好ましい。
【0020】
ある態様において、電極バインダーはイオン伝導性を有し、それらの可塑性又は弾性によって、電極の動作に固有の容積変化を補償しながら電解質中で酸化還元材料の粒子同士間の均一な接触を維持することができる。好ましい態様において、単独又は混合物の形態にある電解質は、極性型ポリマー、極性溶剤及び/又は少なくとも1種のイオン性塩を含む。液体溶剤の添加を伴う場合に有用な前記極性型ポリマーは、フッ化ビニリデン系ホモ−またはコポリマー、アクリロニトリル系ホモ−又はコポリマー、メチルメタクリレート系ホモ−又はコオリマーから好ましくは選ばれる。液体溶剤の添加の有無にかかわらず有用な極性型ポリマーは、エチレンオキシド系又はプロピレンオキシド系ホモ−又はコポリマーから好ましくは選ばれる。本発明の化合物のもう1つの好ましい態様において、機械的特性を向上させるためにポリマー電解質にセラミック粒子又は架橋粒子を加える。
【0021】
本発明の化合物のもう1つの興味ある側面は、標準可逆動作電位を超える酸化の後、リチウムイオンと一酸化炭素若しくは二酸化炭素、窒素、エチレン若しくはアセチレンのような気体状化合物とそれらのポリマーとを遊離する不可逆的反応を与えうることにある。これらの生成物は、ジェネレーター媒体から除去されるもの(ガス)か又は不活性なもの(ポリマー)であり、主にジェネレーターの最初の動作サイクル中に不動態層が出現することによってもたらされるアノードとカソードの間の容量平衡の損失を補償するのに有用な非常に優れた容量を提供する。
【0022】
以下の陰イオンは本発明の化合物を例示するものであるが、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
以下の例により本発明の好ましい態様を例示するが、本発明の範囲を限定するものであると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0027】
例1
2.10gのロジゾン酸二水和物(Lancaster Windham )をイソプロパノール中で839mg の水酸化リチウム一水和物により処理した。懸濁液を濾過し、黒色沈澱物を50℃で予備乾燥させると次のロジゾン酸リチウム:
【0028】
【化5】

【0029】
が得られた。
【0030】
例2
厚さ30mmのリチウムフィルム、リチウムイオンに対するポリマーの酸素の数の比が12:1となるように分子量9×104 のポリエチレンオキシドとリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSI)の錯体から調製されたポリマー電解質を用いてリチウムバッテリを作製した。常用の溶剤を溶媒とする溶液を塗布し、蒸発させ、乾燥させると、厚さ約80μmのフィルムが形成された。正極は、例1で調製されたロジゾン酸リチウム40% v/v 、カーボンブラック(Ketjen black(登録商標))5重量%及び前述の電解質組成物の電解質5% v/v の混合物を含むものであったが、得られたものは分子量が105 であるポリマーであった。アセトニトリルを混合物に加え、得られた懸濁液を、ステンレススチール容器内でジルコンボールにより均質化した。直径1.6cm のステンレススチールディスク上に懸濁液を塗布し、溶剤を蒸発させた後厚さ60mmの層を形成させることによって、電極を得た。中性雰囲気(ヘリウム雰囲気、O2 ,H2 O<1ppm )中で、3つの部材、すなわちアノード−電解質−カソードをプレスすることによってボタンバッテリ型のバッテリを集成し、デジタル式ポテンシオスタット Macpile(登録商標)を用いて80℃でスローボルタンメトリーで試験した。305mAh・g-1の容量にそれぞれ対応する2つの活性領域が、Li+ /Li0 対に関して約2.8 V〜約1.8 Vにあった。比較のために、マンガンスピネルLiMn24 を基材とする電極の容量は、2.9 Vで153mAh・g-1の理論最大容量を有し、マンガンの溶解を制限するためにこの化合物を修飾したもの、例えばLi1.05Mn1.85Al0.14 は115mAh・g-1の容量を示した。
【0031】
例3
イソプロパノール溶液中で過剰のリチウムイソプロポキシドによりテトラヒドロキシベンゾキノンを処理すると、次の反応:
【0032】
【化6】

【0033】
に対応する四リチウム塩が得られた。黒色沈澱物を濾過し、乾燥させ、空気に暴露されないようにした。
【0034】
フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンのコポリマー(PVDF)により結合されたグラファイト負極(85% v/v )であって、薄い銅シート(8mm)上に配置され、組成物LiC6 について3.1mAh・g-1の容量に対応するものを提供することによって、「ロッキングチェア型」又は「リチウムイオン型」のバッテリを作製した。正極は、10mmのアルミニウムコレクター上に配置された、Ketjen black型のカーボンブラック(7% v/v )、テトラヒドロキシベンゾキノンの四リチウム塩(73% v/v )及びPVDF(10%)の混合物であった。分子当たり2個の電子の可逆的交換に要する正極の容量は3.5mAh・cm-2であった。電解質は、2−テルチオブトキシエチル−2’−メトキシエチルエーテル(50/50 v/v )のエチレンカーボネート混合物中の1MのLiPF6 溶液から調製した。この液体を、厚さ25mmの多孔性膜(Celgard(登録商標))に固定化した。このバッテリを、 0.45mAh・cm-2で一定強度モードで8時間充電し、電位は3.6Vで安定になった。C/5、すなわち公称容量を得る5時間での放電中に得られた容量は3.8 mAh/cm-2であり、100 サイクルにわたるサイクル中安定であった。不動態化層の形成に必要な、炭素中へのリチウムの最初の挿入についての不可逆的容量は、次式:
【0035】
【化7】

【0036】
に従って、リチウム塩の過剰酸化により得られる。バッテリの可逆的動作は、次式:
【0037】
【化8】

【0038】
に従って起こる。
【0039】
例3のものと同様なジェネレーターを、2種の活性成分、すなわち0.9mg/cm2 のテトラヒドロキシベンゾキノンの四リチウム塩及び16mg/cm2のコバルトとリチウムの酸化物LiCoO2 を正極に混合することにより作製した。このジェネレーターを4.2 Vで充電すると、そのサイクル容量は、酸化コバルトのみの容量の96%に相当する2.5mAh・cm-2であった。
【0040】
例4
ロジゾン酸カリウムK266 (Fluka )を、例2の条件と同様な条件で処理して電気化学的ジェネレーターを作製した。容量は、225mAh・g-1の理論容量の93%に相当する210mAh・g-1であった。
【0041】
例5
3.5 gのロジゾン酸二水和物と3.5 gの酢酸銅二水和物とをメタノール中で反応させることによりロジゾン酸銅を調製した。溶剤及び反応により生成した酢酸の蒸発後、ロジゾン酸銅を110 ℃でほぼ真空で乾燥させた。リチウムアノード及びゲル型電解質(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンのコポリマー45%、LiBF4 の1Mγ−ブチロラクトン溶液55%)を含むジェネレーターで得られた容量は、3.3 〜2.5 V対Li+ /Li0 で4つの電子に対する理論容量の94%に相当する450mAh・g-1であった。
【0042】
例6
DMF中でテトラフルオロベンゾキノンに2当量のシアナミドの二リチウム塩Li2 NCNを反応させることによって、化合物:
【0043】
【化9】

【0044】
を得た。遠心分離によりフッ化リチウムを分離し、上記式に対応する青色のリチウム塩をエーテル中に沈澱させた。この化合物は、2.6 V対Li+ /Li0 で235mAh・g-1の容量を有していた。
【0045】
例7
濃硫酸中で没食子酸を縮合させることによりRobiquetの方法(Ann. 19, (1836), 204)に従ってルフィ没食子酸を調製した。中性条件下でTHF中にルフィ没食子酸を懸濁させ、リチウムイソプロポキシドで処理することによって、6置換リチウム塩を調製した。得られた塩を濾過し、乾燥窒素中で乾燥させた。ジキノン型への酸化は、アセトニトリル中でこの化合物4.0 gと化学量論的量の[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(10.18 g)とを反応させることにより行った。濾過及び乾燥後、次の化合物:
【0046】
【化10】

【0047】
が得られた。
この化合物は、2.5 〜3.2 V対Li+ /Li0 で358mAh・cm-2の可逆的容量を有する。
【0048】
例8
メタノール中で1.40gのtrans-trans ムコン酸(Sigma )を0.739 gの炭酸リチウムで処理した。蒸発及び真空乾燥後、ムコン酸リチウム25% v/v 、Ketjen black10%及び高分子電解質65%のカソード混合物を使用することによって、例2のものと同様なジェネレーターを作製した。この化合物は、リチウムに対して1.3 Vで、式当たり電子0.8 個の可逆的容量を有する。この化合物をリチウムイオン型バッテリにおいて負極として使用することもできる。
【0049】
例9
酢酸中で24時間攪拌しながらジヒドロキシ酒石酸ナトリウム塩(22.6g,Janssen Chemicals )に5gのヒドラジン一水和物N24 ・H2 Oを作用させることによって、5gのヒドラジン共役したアジノ官能基(還元された状態にあるジアゾ官能基)を有するポリマーを調製した。暗褐色のポリマーをイソプロパノール中で沈澱させ、濾過により分離し、乾燥させた。この化合物は、ポリマーの繰返し単位当たり2個の電子が関与する酸化還元特性を有する(容量は290mAh・g-1)。イオン交換カラムに通すことにより得られたリチウム塩は360mAh・g-1の容量を有する。その容量が50%減少したポリマーの式は、
【0050】
【化11】

【0051】
である。
【0052】
例10
エタノール中でジブトキシ−3,4−シクロブタン−1,2−ジオン(22.62 g,Aldrich )にカリウムヒドロゲノスルフィド(14.43 g,Alpha )を反応させることによりジチオスクアリン酸のカリウム塩を調製した。黄色塩が得られ、水−エタノール混合物中で再結晶化させた。この塩は、式:
【0053】
【化12】

【0054】
で表される。
アセトニトリル中の懸濁液の状態にあるこの塩18gに、機械的攪拌のもとに、テトラブチルアンモニウムトリブロミド(34.6g)のアセトニトリル溶液を加えた。1時間後、黄色沈澱物を濾過し、乾燥させると、
【0055】
【化13】

【0056】
が得られた。
この化合物は、2.8 V対Li+ /Li0 の平均電位で385mAh・g-1の可逆的容量を有し、プロピレンカーボネート及びその混合物又はポリエチレンオキシドを基材とする溶媒和しうるポリマーのような電解質へのその溶解度はポリジメルカプトチアジアゾールとは対照的にごくわずかである。
【0057】
例11
ピリジンの存在下、プロピレンカーボネート中でチオウレアにチオホスゲンを反応させることによりシッフポリ塩基であるポリ(チオシアン)酸を調製した。暗褐色の懸濁液を100mlの水に入れ、沈澱物を濾過し、水で洗浄した。この生成物は、展開した式が、
【0058】
【化14】

【0059】
である組成[C(SH)=N]n に対応する。
還元された状態にあるこのポリマーを、ピリジンの存在下でアセトニトリル溶液中のヨウ素により酸化させ、残留懸濁液を無色溶出液が得られるまでアセトニトリルで洗浄した。褐色を帯びた黒色の粉末は、ポリマー:
【0060】
【化15】

【0061】
を生成するチオール基の酸化に対応する。
このようして得られた化合物を40% v/v 含む正極を使用する例2に記載のものと同様な電気化学的ジェネレーターは、3〜2.4 V対Li+ /Li0 で360mAh・g-1の容量、すなわち478mAh・g-1の理論容量の75%の容量を示した。
【0062】
例12
チオウレアをシアノ酢酸のチオアミドで置換することにより例11と同様にして、式:
【0063】
【化16】

【0064】
で表される別のコポリマーを調製した。酸化後に得られたポリマーは、3.2 〜2.4 V対Li+ /Li0 で50%で555mAh・g-1の容量を有する黒色粉末であった。
【0065】
例13
Wallenfel & al. (Ann. 1963, 667)の方法に従ってテトラアミノベンゾキノンを調製した。この化合物16.8gとクロラニル(テトラクロロベンゾキノン)2.46gをボールミルで混合し、Buchi TO51オーブン内250 ℃でアルゴン中で加熱し、続いて真空中350 ℃で処理した。得られた化合物は、式:
【0066】
【化17】

【0067】
により表されるポリキノン−アジンに対応する。
このポリマーの懸濁液をリチウムイソプロポキシドのイソプロパノール溶液で処理することによって前記化合物のリチウム塩を得た。この化合物は、2.4 〜3V対Li+ /Li0 で 345Ah・g-1の可逆的容量、すなわち420mAh・g-1である理論容量の75%である可逆的容量を有する。このポリマーのリチウム塩を、無水DMF中で一緒に摩砕することによりモル比1:2でテトラクロロベンゾキノンを窒化リチウムを反応させることにより得ることができた。
【0068】
例14
エチレンと一酸化炭素が完全に交互に並んだポリマーをHiraguri等(J. Am. Chem. Soc., 1987, 109, 3779)の方法に従って得た。このポリマー56.06 gをヘキサフルオロプロパノールに溶解させ、還流下、10.39 gの亜硝酸リチウムで処理した。式:
【0069】
【化18】

【0070】
により表されるリチウム塩である黒色沈澱物の形態で共役ポリマーが生成した。
【0071】
例15
イソプロパノール中で化学量論的量のヒドラジン水和物とグリオキシル酸(Sigma )とを反応させることによりアジノ二酢酸を調製した。黄色を帯びた橙色の沈澱物を乾燥させ、濾過し、化学量論的量の炭酸リチウムを加えることによりメタノール−水(50:50)溶液中でリチウム塩を調製した。その塩を減圧乾燥させ、例7におけるのと同様な条件で試験した。この化合物は、リチウムに対して1.7 Vで可逆的酸化還元活性を有していた。
【0072】
例16
DMF中でのシュウ酸メチルと1,4−フェニレンジアミンとの重縮合により式:
【0073】
【化19】

【0074】
により表されるポリアミド型のポリマーを得た。ジクロロメタン中でのビス[(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼンとの反応によって、還元されたポリマーを酸化キノンイミン型に変換させた。この生成物は、次の展開した式:
【0075】
【化20】

【0076】
により表される。
この生成物は、2.7 V対Li+ /Li0 で310mAh・g-1の容量(理論値347 )を有していた。同様なポリマーを、1,4−フェニレンジアミンに対してトリフルオロエチルフマレートを反応させることにより(2.7 V対Li+ /Li0 )又は3,6−ジアミノピリダジンに対して塩化オキサリルを反応させることにより(2.9 V対Li+ /Li0 )調製した。
【0077】
【化21】

【0078】
例17
2当量のピリジンの存在下で、DMF中で溶液状態にあるN,N’−ジメチルヘキサメチレンジアミンに対して塩化フマリルを反応させることにより酸化還元ポリマーを調製した。ポリマーを水中で沈澱させ、アセトンに再溶解させることにより精製し、次いでメタノール中に再沈澱させた。カーボンブラックと混合されたこのポリマーは、1V対Li+ /Li0 で195mAh・g-1の容量(理論値247)の酸化還元活性を示した。
【0079】
例18
例10におけるのと同様にして、DMF中で1,8−ビス(メチルアミノ)−3,6−ジオキサオクタン(Janssen )に対してオキサリルジイミダゾールを重縮合させることによってイオン伝導性を有する酸化還元ポリマーを調製した。このポリマーも1V対Li+ /Li0 で酸化還元活性を示した。中性状態で、このポリマーは、塩に対する錯化性を有し、そのイオン導電性によって酸化還元反応が促進される。このポリマーの部分的還元状態での構造は、
【0080】
【化22】

【0081】
である。
前記アミンと1,5−ビス(メチルアミノ)−3−オキサペンタンの混合物を使用することによりアモルファスコポリマーが得られた。同様にして、オキサリル基をフマリル基又はムコニル基で置換できる。
【0082】
特定の態様により本発明を説明したが、さらに別の態様が可能であり、本明細書は本発明の原理に概して従うとともに本発明が属する技術分野において周知又は通例となっている態様に該当するような変更を含み、上記の基本的態様及び添付の請求の範囲に含まれる本発明のいかなる態様、用途又は適用も包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

(式中:
+ は、アルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、遷移金属陽イオン、希土類陽イオン、有機金属陽イオン、「ニウム」型の有機陽イオン、陽イオン性酸化型共役ポリマーの繰返し単位、又は酸化還元性を有していてもよい単量体若しくは重合体陽イオンを表し;
Xは酸素、NCN又はC(CN)2 であり;
ZはC−Y- 又はN- であり;
Yは、酸素、硫黄、NCN、−C(CN)2 であるが、Yが硫黄である場合にn≦4でありXが酸素であることを条件とし;
1 は、存在しないか又はO、S、NH、−(C=C)r −、−(W=W)r −であり、ここでWは独立にCR6 又はNであり;
rは1〜12であり;
6 は、H、ハロゲン、CN、又は任意に1つ以上の置換基オキサ、アザ又はチアを有していても良いC1-12アルキル、C2-12アルケニル若しくはC6-14アリールであり、2つのR6 基が結合して3〜7員環を形成していても良く;
2 及びR3 は、同じであっても相異なっていても良く、存在しないか、アザ、オキサ若しくはチアにより置換されていても良い二価炭素基であり;
qは0〜pであり;
pは1〜5であり;
nは1〜104 であり;
1 、R2 及びR3 のうちの2つが結合しあって3〜7員環を形成していてもよい)
により表される少なくとも1つの酸化状態を有する酸化還元化合物。
【請求項2】
ロジゾン酸塩であるか、
式:
【化2】

により表されるルフィ没食子酸塩及びその酸化化合物であるか、
式:
【化3】

により表されるエラグ酸及びその酸化化合物であって、2重結合を有する酸素原子がNCN又はC(CN)2 基で置換されていても良いものであるか、
式:
【化4】

(式中、ZはN又はC−CNである)
により表されるチオシアン酸又は1−シアノ−2−メルカプトアセチレンのポリマー並びにその酸化生成物及び還元生成物であるか、
式:
【化5】

により表されるケトピリジンから誘導される単位を含むポリマー並びにその酸化生成物及び還元生成物であるか、
ベンゾキノン単位とピラジン単位を含む交互ポリマー並びにそれらの酸化生成物及び還元生成物であるか、
式:
【化6】

により表される1,2−ジメルカプトシクロブテンジオン(ジチオスクアリン)酸の塩及びその酸化型化合物並びにそれらの酸化生成物であるか、
式:
【化7】

により表される1,5−ジヒドロピリミド[5,4d]ピリミジン−2,4,6,8−(3H,7H)テトロン及びその酸化化合物であるか、
式:
【化8】

(式中、Lは独立にCR5 ,N又はC−CNであり、ここでR5 は水素、任意に1つ以上の炭素数1〜30のオキサ、アザ又はチアで置換されていても良いC1-12アルキル、C2-12アルケニル、C6-10アリール、C6-10アリールC1-12アルキル、C1-12アルキルC6-10アリールであり、両方のLがCR5 である場合には2つのR5 が結合して炭素原子数4〜8の脂肪族環、芳香族環又は複素環を形成することができる)
に対応する共役セグメントに結合した基を含むジカルボン酸の塩であるか、
式:
【化9】

(式中、L及びR5 は上記定義の通りであり、Qは炭素原子数1〜30で任意にオキサ、アザ又はチア置換基を含んでいてもよい2価アルキレン、アルケニレン、アリーレン、アリールアルキレン、アルキルアリーレンである)
に対応する共役セグメントに結合した基を含むジカルボン酸から誘導されたポリアミドであることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
ロジゾン酸塩がロジゾン酸リチウム、ロジゾン酸カリウム若しくはロジゾン酸銅又はそれらの還元生成物である請求項2記載の化合物。
【請求項4】
酸化還元対が0.1 〜2V対Li+ /Li0 で構成される場合に電気化学的ジェネレーターにおける負極構成材料として使用されるか電気化学的ジェネレーターにおける正極構成材料として使用されるか、又は酸化還元対が2〜3.7 V対Li+ /Li0 で構成される場合にエレクトロクロミック素子における能動電極若しくは受動電極として使用されることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項5】
全体的に又は部分的に請求項1記載の化合物を含むことを特徴とする酸化還元電極材料。
【請求項6】
少なくとも1つの導電体及び少なくとも1つのバインダーをさらに含むことを特徴とする請求項5記載の材料。
【請求項7】
前記導電体がカーボンブラック又はグラファイト粉末を含み、前記バインダーがポリテトラフルオロエチレン、エチレン、プロピレン及びジエンのコポリマー又はターポリマーを含む請求項6記載の材料。
【請求項8】
電極での不動態層の形成により生じる固有損失を補償するためのリチウム源として使用できることを特徴とする請求項5記載の材料。
【請求項9】
次の酸化還元陰イオン:
【化10】

に対応する誘導体を含むことを特徴とする請求項8記載の材料。
【請求項10】
電解質と、請求項1記載の化合物を含む少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を含む、一次若しくは二次ジェネレーター又はスーパーキャパシターの電気エネルギー貯蔵装置。
【請求項11】
アルカリ陽イオンがリチウム陽イオンである請求項10記載の装置。
【請求項12】
負極が、酸化リチウム中のナノメートル分散体の形態にあってもよい金属リチウム又はそれらの合金であるか、リチウムと遷移金属の複窒化物であるか、一般式:Li1+y Ti2-x/44 (式中、x及びyは0〜1である)により表される低ポテンシャル酸化物であるか、炭素及び有機物質の熱分解から得られる炭化生成物であることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項13】
正極が、遷移金属の酸化物及び硫化物から選ばれる電極材料化合物をさらに含む請求項10記載の装置。
【請求項14】
電解質が、極性型ポリマー、極性溶剤又はそれらの混合物と少なくとも1種のイオン性塩を含む請求項10記載の装置。
【請求項15】
極性型ポリマーがポリエーテル、フッ化ビニリデン系ホモ−若しくはコポリマー、アクリロニトリル系ホモ−若しくはコポリマー、又はメチルメタクリレート系ホモ−若しくはコポリマーである請求項14記載の装置。
【請求項16】
極性溶剤が、非環式及び環式カーボネート、γ−ブチロラクトン、モノアルキルアミド及びジアルキルアミド、テトラアルキルスルファミド、モノ−、ジ−、トリ−及びテトラエチレングリコールのジアルキルエーテル、分子量2000g/モル未満のオリゴマー、並びにこれらの混合物を含む請求項14記載の装置。

【公開番号】特開2010−195791(P2010−195791A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57896(P2010−57896)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願平11−529560の分割
【原出願日】平成10年12月2日(1998.12.2)
【出願人】(599116904)アセップ インコーポレイティド (2)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(500402782)ユニベルシテ ドゥ モントリオール (1)
【Fターム(参考)】