説明

ポリクロロプレンラテックス組成物、及びその製造方法

ポリビニルアルコールを乳化/分散剤として用いたノニオン型のポリクロロプレンラテックス組成物は、化学的、機械的安定性が良いが、高粘度であるが故に塗工方法に制限がある、高固形分化が困難である等の問題点があった。 クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合することによって、低粘度で高固形分化が可能なポリクロロプレンラテックス組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、低粘度を有するノニオン系のポリクロロプレンラテックス組成物に関するものである。該ポリクロロプレンラテックス組成物は、ノニオン型でありながら低粘度であるため、スプレー塗布用にも供することができる、高固形分化が図り易い等のメリットがあり、水系接着剤の原料として好適に用い得る。
【背景技術】
ポリクロロプレンラテックス組成物としては、ロジン酸を乳化剤として用いたアニオン型ラテックスが良く知られている。しかしながら、ロジン酸を用いたアニオン型ラテックスを水系接着剤の原料として用いた場合、化学的、機械的安定性に難点があった。この点を改良する手段として、特殊スルホン酸塩を乳化剤として用いたアニオン型ラテックスが知られているが、ラテックスが酸性であるためにpHの低下が大きい点や、金属の腐食に対する懸念等の問題点が残されていた(例えば、接着の技術Vol.21,No.4(2002)通巻65号(第17頁;2.2.2.2項)参照。)。
これら残された問題点を解決するために、ポリビニルアルコールを乳化/分散剤として用いたノニオン型ポリクロロプレンラテックス組成物が提案されている。しかしながら、これらのラテックスの場合、ラテックス自身の粘度が高くなるため、塗工方法に制限がある、濃縮による高固形分化が困難である等の問題点があった(特開2000−303043号公報(第2頁;請求項1〜2、第3〜5頁;実施例1〜6)及び特開2002−53703号公報(第2頁;請求項1〜2、第4〜7頁;実施例1〜6)参照。)。
【発明の開示】
本発明は、かかる現状に鑑み、化学的、機械的安定性に優れ、pHが中性付近で安定し、かつ低粘度であるノニオン型のポリクロロプレンラテックス組成物及びその製造方法を提供するものである。
また、低粘度化の副次効果として、高固形分化、即ち高い固形分濃度を有するようにされたノニオン型ポリクロロプレンラテックス組成物を提供するものである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合することにより、化学的、機械的安定性に優れ、pHの低下も少なく、かつ低粘度のノニオン型のポリクロロプレンラテックス組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の要旨からなるものである。
(1)クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合して得られたポリクロロプレンラテックス組成物。
(2)ノニオン型乳化剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする上記(1)に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(3)ノニオン型乳化剤が、一般式(1)で表されるポリオキシエチレン−アセチレングリコールエーテルであることを特徴とする上記(1)に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。

(式中、RおよびR’は、それぞれアルキル基もしくはアリール基を表す。また、mおよびnはそれぞれ整数を表す。)
(4)ノニオン型乳化剤のHLB値が、14〜19であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(5)クロロプレンと共重合可能な単量体が、エチレン性不飽和カルボン酸であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(6)ポリビニルアルコールが、ケン化度60〜98モル%のものであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(7)ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の合計添加量が、クロロプレン単独または、クロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体の総量100質量部に対して、1〜10質量部であり、ポリビニルアルコール/ノニオン型乳化剤の添加比率(質量比)が、0.5/99.5〜99.5/0.5の範囲であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(8)固形分濃度が45〜75質量%であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
(9)pHが6〜9であり、かつ粘度が5〜5000mPa・sである上記(8)に記載のポリクロロプレンラテックス組成物
(10)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を使用してなる接着剤。
(11)ポリクロロプレンラテックス組成物中に含まれる(共)重合体のゲル含有量(トルエン不溶分)が3〜30質量%である上記(10)に記載の接着剤。
(12)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を使用してなる塗布剤。
(13)クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合することを特徴とするポリクロロプレンラテックス組成物の製造方法。
【発明の効果】
本発明によって得られたポリクロロプレンラテックス組成物は、これまでのポリビニルアルコールだけを用いて乳化重合したノニオン型のポリクロロプレンラテックス組成物に較べ低粘度である。そのため、塗工方法の制限も無く、また高固形分化も可能である。したがって、水系接着剤の原料として非常に好適に用いることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のクロロプレンは、2−クロロ−1,3−ブタジエンであり、アセチレンやブタジエンを経由して得られるものである。
本発明のクロロプレンと共重合可能な単量体は、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸若しくはそのエステル類、メタクリル酸若しくはそのエステル類等が挙げられ、必要に応じて2種類以上用いることもできる。
特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸に代表される不飽和カルボン酸を共重合させることが、接着力及び乳化重合中の乳化安定性が向上するため好ましい。なかでも、メタクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸を共重合させることが、クロロプレンとの共重合性の観点から好ましい。
クロロプレンと共重合可能な単量体の使用量は特に限定されるものではないが、ポリクロロプレンの特性保持の観点から、クロロプレン100質量部あたり好ましくは50質量部以下、特に好ましくは0.5〜20質量部が好適である。
特に不飽和カルボン酸を共重合させる場合は、クロロプレン100質量部あたり10質量部以下が好ましく、より好ましくは0.2〜5質量部であり、更に好ましくは0.5〜3.5質量部、特に好ましくは0.7〜2.0質量部である。不飽和カルボン酸の添加量が少な過ぎると接着力への寄与が充分ではなく、逆に多すぎた場合は乳化状態が不安定になることがある。
本発明におけるポリビニルアルコールは特に制限されるものではないが、ケン化度が60〜98モル%の範囲のものが好ましく、より好ましくはケン化度が75〜95モル%のものであり、更に好ましくはケン化度が75〜90モル%のものである。
ポリビニルアルコールの重合度は、重合度200〜3000の範囲のものが好ましく、更に好ましくは重合度200〜700である。
ポリビニルアルコールがこの範囲であれば、重合操作が安定に行え、高濃度で、化学的、機械的に安定なポリクロロプレンラテックス組成物が得られる。
また、必要に応じて他の単量体を共重合したポリビニルアルコールも使用することができる。共重合型の例としてはアクリルアミドとの共重合体などがある。
本発明のノニオン型乳化剤は、特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−アセチレングリコールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどがある。
これらのノニオン型乳化剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。ここで、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、又はこれらの混合物などが好ましいが、これらに限定されるものではない。
また、一般式(1)で表されるポリオキシエチレン−アセチレングリコールエーテルも好適に用いられる。ポリオキシエチレン−アセチレングリコールエーテルとしては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールに、エチレンオキシドを付加したものがある。ここで、一般式(1)中のm及びnの値は、エチレンオキシドの付加比率を変えることで変更できる。実際にはm及びnの値はある分布を持った値として制御されているため、エチレンオキシドの付加量(m+n)は一般に平均値として表される。
製造コストを考えなければ、m及びnの値を正確に制御することも可能であり、そのものも本発明に用い得る。

(式中、RおよびR’はそれぞれ炭素数が好ましくは1〜10のアルキル基もしくはアリール基を表す。また、mおよびnは、それぞれ好ましくは1〜50の整数を表す。)
本発明のノニオン型乳化剤のHLB値は、14以上が好ましく、より好ましくは15〜19.5の範囲であり、更に好ましくは16〜19の範囲である。HLB値が小さいと、クロロプレンラテックス組成物の安定性が悪く、重合中に析出物が発生する恐れがある。なお、ここでHLB値は乳化剤の親水基と親油基のバランスを表す数値である(例えば、吉田時行、進藤信一、大垣忠義、山中樹好著「新版 界面活性剤ハンドブック」工学図書株式会社,P234 2000年参照)
本発明のポリビニルアルコール及びノニオン型乳化剤の合計添加量は、特に限定されるものではないが、クロロプレン単独または、クロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体の総量100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜6質量部であり、更に好ましくは3〜5質量部である。ポリビニルアルコール及びノニオン型乳化剤の合計添加量が1質量部未満の場合には乳化力が充分でなく、重合反応中に凝集物の発生が頻発し易くなる恐れがある。また10質量部を越えると重合反応中の増粘や、異常発熱など製造が困難になったり、接着物性を大きく損なったりする恐れがある。
また、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の添加比率は、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール/ノニオン型乳化剤が、質量比で、0.5/99.5〜99.5/0.5範囲が好ましく、より好ましくは50/50〜1/99の範囲、さらに好ましくは30/70〜5/95の範囲である。上記の添加比率が大き過ぎる場合は、耐水生が低下したり、重合反応中に増粘し製造が困難になる恐れがある。また、上記の添加比率が小さ過ぎる場合には、乳化力が充分でなく、重合反応中に凝集物の発生が頻発し易くなる恐れがある。
本発明では、乳化重合の際に連鎖移動剤を添加し、トルエン不溶の重合体であるゲルの含有率や、ポリクロロプレンの分子量を調節することができる。連鎖移動剤の種類は特に限定されるものではなく、通常クロロプレンの乳化重合に使用されるものが使用でき、例えばn−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルムなどがある。
本発明におけるポリクロロプレンラテックス組成物の製造におけるクロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を重合させる温度は特に限定されるものではないが重合反応を円滑に行うために、0〜55℃の範囲が好ましく、10〜50℃の範囲がより好ましい。重合温度が0℃より低い場合、水の凍結の懸念があり、55℃よりも高い場合はクロロプレンの揮発が多くなりその対策が必要になる。
重合の開始剤としては、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、tert−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物などが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
重合温度を20℃以下に設定した場合には、亜硫酸ソーダ,硫酸第1鉄,アントラキノンβスルホン酸ソーダ,ロンガリット,アスコルビン酸,ホルムアミジンスルフィン酸等を併用して、いわゆるレドックス開始剤として使用した方が重合が円滑に進む。
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物の最終重合率は、特に限定されるものではなく、任意に調節することができる。その際には重合停止剤(重合禁止剤)により重合を停止すれば良い。重合停止剤は特に限定されるものでなく、例えば、2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、ヒドロキシアミン等、一般的な重合停止剤が使用できる。
その際、未反応のモノマーは脱モノマー操作によって除去されるが、その方法は特に限定されるものではない。
また、本発明のポリクロロプレンラテックス組成物の固形分濃度(単に固形分ともいう)は特に限定されるものではなく、濃縮あるいは、水等の添加により希釈することで、固形分濃度を必要な濃度に制御することができる。本発明で固形分濃度は、JIS K 6387−2に準拠する方法によりも求められる。
接着剤としての使用を考慮すると、乾燥速度の点から、固形分濃度45質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは55質量%以上である。ただし、固形分75質量%以上にすると実用上、安定性が損なわれる可能性があるため好ましくない。特に本発明のポリクロロプレンラテックス組成物は、これまでのノニオン型ラテックスに較べ低粘度であるが故に高固形分化が容易である点がメリットであり、濃縮による高固形分化を行うことが好ましい。
この際の濃縮の方法としては、減圧濃縮などがあるが、特に限定されるものではない。一般的には、脱モノマーから濃縮まで、減圧下加熱して連続的に行うのが経済的である。
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物の構造は、特に限定されるものではないが、重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤、最終重合率、脱モノマー、濃縮条件等を適切に選定、制御することで、固形分濃度、トルエン可溶分の分子量、トルエン不溶分(ゲル含有量)等を調整することが可能である。
初期接着力を重視する場合には、ポリクロロプレンラテックス組成物中の(共)重合体のゲル含有量(トルエン不溶分)を3〜30質量%に調整することが好ましく、耐熱接着強度を重視する場合にはゲル含有量を30〜70質量%に調整することが好ましい。
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物において、クロロプレンと共重合可能な単量体として不飽和カルボン酸を用いた場合、重合直後のラテックスは酸性であるが、pH調整剤等で調整することができる。pHは、ラテックスの安定性から、好ましくは6〜9、特に好ましくは6.5〜8.0の範囲に調整することが好適である。
pH調整剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、りん酸3ナトリウム、りん酸水素2ナトリウム、りん酸3カリウム、りん酸水素2カリウム、クエン酸3カリウム、クエン酸水素2カリウム、クエン酸3ナトリウム、クエン酸水素2ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、4硼酸ナトリウム等の無機塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムやジエタノールアミン等の塩基性物質がある。
pH調整剤の添加方法は特に制限を受けるものではなく、pH調整剤を直接または水で任意の割合に希釈して添加することができる。
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物を水系接着剤として用いる場合には、初期接着力、耐水接着力、粘着保持時間等の特性をより実用的にバランスするために、粘着付与樹脂を添加することが好ましい。
水系接着剤に粘着付与樹脂を配合する場合、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、ロジン樹脂、ロジン酸エステル樹脂、重合ロジン樹脂、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂、C留分系石油樹脂、C留分系石油樹脂、C/C留分系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂などがある。十分な初期接着力を得るためには、軟化点温度が50〜160℃の樹脂が好ましい。これらの中では、テルペンフェノール樹脂やロジン酸エステル樹脂のエマルジョンが初期強度や耐水性の観点から特に好ましい。
粘着付与樹脂の添加方法は特に限定されるものではないが、プライマー中に樹脂を均一に分散させるために、水性エマルジョンとしてから添加することが好ましい。
さらに粘着付与樹脂の水性エマルジョンの製法には、トルエン等の有機溶剤に溶解させたものを、乳化剤を用いて水中に乳化/分散させた後、有機溶剤を減圧しながら加熱して取り除く方法と、微粒子に粉砕して乳化/分散させる方法などがあるが、より微粒子のエマルジョンを作製できる方法が好ましい。
粘着付与樹脂の添加量(固形分換算)は、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、更に好ましくは20〜70質量部である。10質量部未満では初期接着力等の接着特性が充分に改善されない場合があり、100質量部を超えると耐熱強度等の接着特性が不足となる可能性が高い。
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物には、上述した以外にも、要求性能に合わせて、増粘剤、金属酸化物、充填剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、消泡剤等を任意に添加することができる。
また、ポリイソシアネート化合物等からなる硬化剤との組合せで2液型接着剤としても使用し得る。
本発明のラテックス組成物に安定性付与や接着性改善のために添加される金属酸化物としては酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄等を例示することが出来るがこれらに限定されるものではない。酸化亜鉛、酸化チタンの使用が接着物性の点から好ましく、特に酸化亜鉛の使用が好ましい。特に不飽和カルボン酸を共重合したラテックスの場合には、酸化亜鉛を使用することで耐熱強度が向上することから、酸化亜鉛の使用が推奨される。
金属酸化物の添加量は、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分100質量部に対し0.2〜6質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。0.2質量部未満では接着特性の改良効果が不充分な場合があり、6質量部を超えると粘着性が損なわれる可能性がある。
本発明のラテックス組成物からなる接着剤の用途は特に限定されるものではなく、セメント、モルタル、スレート、布類、木材、合成ゴム素材、ポリウレタン系素材、ポリ塩化ビニル系素材、ポリオレフィン系素材等の種々の材料を接着する際に好適に使用できる。
以下、実施例及び比較例により本発明の効果を詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を限定されるものではない。なお、以下の説明において特に断りのない限り部および%は質量基準で表す。
【実施例1】
内容積3リットルの反応器を用いて、窒素雰囲気中で、水95部にポリビニルアルコール(PVA 203:クラレ社製)0.6部とノニオン型乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン1118S−70:花王社製、HLB値16.4)3.0部を60℃で溶解させた。このポリビニルアルコール/ノニオン型乳化剤水溶液を室温近くまで冷却した後、クロロプレン単量体97部、メタクリル酸3部、オクチルメルカプタン0.3部を加えた。これを45℃に保持しながら亜硫酸ナトリウムと過硫酸カリウムを開始剤として用い重合した。重合は重合熱の発生が無くなってから更に1時間放置し重合の終点とした。得られたポリクロロプレンラテックス組成物に20%ジエタノールアミン水溶液を添加してpHを7に調製し、減圧加熱により濃縮し、固形分50%および固形分60%のサンプルを調製した。
[ラテックス粘度の測定]
実施例1で得られたラテックスを25℃に調整し、ブルックフィールド粘度計により30rpmでの粘度を測定した。結果は、表1にまとめて示した。
[凝集物の測定]
実施例1で得られた固形分60%のポリクロロプレンラテックス組成物全量を、目開き177μmのステンレス金網を用いて濾過した。残留物は、蒸留水を用いて充分洗浄した後、110℃で乾燥後、質量を測定した。残留物の質量を(式2)で示したように、ポリクロロプレンラテックス組成物全量の質量で除算し、凝集物分とした。結果は、表1にまとめて示した。
凝集物分[%]=(残留物の質量[g])÷(ポリクロロプレンラテックス組
成物全体の質量[g])×100 ・・・(2)
[機械的安定度試験]
実施例1で得られた固形分60%のラテックスを20℃に調整し、177μmのステンレス金網を通して発生した凝固物を捕集する。凝固物を蒸留水で洗浄した後、110℃で乾燥し秤量する。この秤量を、式(3)で示したように、ポリクロロプレンラテックス組成物中の全固形分質量で除算し、機械的安定度とした。結果は表1にまとめて表示した。
機械的安定度(%)=凝固物の質量(g)/ポリクロロプレンラテックス組成
物中の全固形分質量(g)×100 (3)
[接着剤組成物の製造]
実施例1で得られたポリクロロプレンラテックス組成物100部、粘着付与樹脂エマルジョン(荒川化学工業社製タマノールE−100)30部、及び酸化亜鉛分散体(大崎工業社製AZ−SW)1部を何れも固形分換算比率で混合、スリーワンモータで攪拌混合し、接着剤組成物を調製した。
[スプレー試験]
固形分50%のサンプルを用いて調整した接着剤組成物について、スプレー塗布の試験を行った。スプレー塗布の評価は、接着剤の塗布量、接着剤塗布の均一性等によって行った。結果は表1にまとめて表示した。表中、「良好」とは、塗布量が充分かつ均一に塗布できたことを意味し、「不良」とは塗布量が充分でないか又は均一に塗布できなかったことを意味する。
[帆布の貼り合わせ]
上記で得られたサンプルについて、刷毛塗りによる接着試験を行った。
帆布(25×150mm)2枚各々に、固形分60%のサンプルを用いて調製した接着剤組成物300g(固形分)/mを刷毛で塗布し、80℃雰囲気下9分間乾燥した後、室温で1分放置後に塗布面を貼り合わせ、ハンドローラーで圧締した。
[初期剥離強度]
貼り合わせた帆布を、10分間放置後、引張り試験機を用い、引張り速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。
[常態剥離強度]
貼り合わせた帆布を7日間放置後、引張り試験機を用い、引張り速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。
[耐水強度]
貼り合わせた帆布を7日間放置後、水中に2日間浸漬した。取り出した帆布は表面の水分を拭き取った後、直ちに引張り試験機を用い、引張り速度200mm/minで180°剥離強度を測定した。なお、以下に示した他の実施例および各比較例は、特に記載しない限り本実施例と同様のものである。
[実施例2、3]
実施例1におけるポリビニルアルコール/ノニオン型乳化剤の比率を、それぞれ、1.2/2.4(実施例2)、および1.8/1.8(実施例3)に変更した他は実施例1と同様にして、ラテックスサンプルを調製し、試験を行い評価した。
【実施例4】
実施例1におけるノニオン型乳化剤を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン1135S−70:花王社製、HLB値17.9)に変更した他は実施例1と同様にして、ラテックスサンプルを調製し、試験を行い評価した。
【実施例5】
実施例1におけるノニオン型乳化剤を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エマルゲン1108:花王社製、HLB値13.5)に変更した他は実施例1と同様にして、ラテックスサンプルを調製し、試験を行い評価した。
[実施例6、7]
実施例1におけるノニオン型乳化剤を、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(エマルゲンA−90:花王社製、HLB値14.5)に変更し、かつそれぞれ、表1に示す比率で用いた他は実施例1と同様にして、ラテックスサンプルを調製し、試験を行い評価した。
[実施例8、9]
実施例1におけるノニオン型乳化剤を、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールとエチレンオキシドの付加物(サーフィノール485:日信化学工業社製、HLB値17、エチレンオキシド付加質量比85%)に変更し、かつそれぞれ、表1に示す比率で用いた他は実施例1と同様にして、ラテックスサンプルを調製し、試験を行い評価した。
[比較例1]
実施例1でポリビニルアルコール0.6部とノニオン型乳化剤3.0部を用いたのに対し、ポリビニルアルコール3.6部のみとした以外は同様に実験を行った。得られた結果は、表1にまとめた。ただし、固形分60%のサンプルが得られなかったため、刷毛塗り試験、初期剥離強度試験、常態剥離強度試験、耐水強度試験は、固形分50%のサンプルを用いて行った。
[比較例2]
実施例1でポリビニルアルコール0.6部とノニオン型乳化剤3.0部を用いたのに対し、ノニオン型乳化剤(エマルゲン1118S−70)3.6部のみとした以外は同様に実験を行った。しかし、重合開始剤の添加量を増量しても重合反応が起こらず、ポリクロロプレンラテックス組成物を得ることができなかった。
実施例と比較例の結果をまとめて表1に示した。表1から判る通り、実施例はスプレー塗布も可能であり塗布方法の制限が無いのに対し、比較例は粘度が高過ぎる故にスプレー塗布は困難であった。
また接着特性についても、実施例は低粘度であっても比較例と遜色ない強度を示しており、耐水性についてはむしろ優れる結果となった。

【産業上の利用可能性】
本発明によって得られたポリクロロプレンラテックス組成物は、水系接着剤の原料として非常に好適に用いることができる。
なお、本発明の明細書の開示として、本出願の基礎となる日本特許願2003−136182号(2003年5月14日に出願)、日本特許願2003−144332号(2003年5月22日に出願)、日本特許願2004−109691号(2004年4月2日に出願)及び日本特許願2004−121135号(2004年4月16日に出願)の全明細書の内容をここに引用し取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合して得られたポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項2】
ノニオン型乳化剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項3】
ノニオン型乳化剤が、一般式(1)で表されるポリオキシエチレン−アセチレングリコールエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。

(式中、RおよびR’は、それぞれアルキル基もしくはアリール基を表す。また、mおよびnはそれぞれ整数を表す。)
【請求項4】
ノニオン型乳化剤のHLB値が、14〜19であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項5】
クロロプレンと共重合可能な単量体が、エチレン性不飽和カルボン酸であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項6】
ポリビニルアルコールが、ケン化度60〜98モル%のものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項7】
ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の合計添加量が、クロロプレン単独または、クロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体の総量100質量部に対して、1〜10質量部であり、ポリビニルアルコール/ノニオン型乳化剤の添加比率(質量比)が、0.5/99.5〜99.5/0.5の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項8】
固形分濃度が45〜75質量%であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項9】
pHが6〜9であり、かつ粘度が5〜5000mPa・sである請求項8に記載のポリクロロプレンラテックス組成物
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を使用してなる接着剤。
【請求項11】
ポリクロロプレンラテックス組成物中に含まれる(共)重合体のゲル含有量(トルエン不溶分)が3〜30質量%である請求項10に記載の接着剤。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を使用してなる塗布剤。
【請求項13】
クロロプレン単独、またはクロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体を、ポリビニルアルコールとノニオン型乳化剤の存在下で乳化重合することを特徴とするポリクロロプレンラテックス組成物の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/101670
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506227(P2005−506227)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006714
【国際出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】