説明

ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムおよびその製造方法

【課題】 厚み斑の小さい、ガスバリア性に優れたポリグリコール酸フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が3倍以上となるように、少なくとも一方向に一段目の延伸を行ない、次いで、最終的に二軸方向に延伸され、かつその面倍率が9倍以上となるように、二段目の延伸を行なう二軸延伸フィルムの製造方法。ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が9倍以上となるように、同時二軸延伸を行なう二軸延伸フィルムの製造方法。上記方法により製造された厚み斑が10%以下であるポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は厚み斑が小さく、優れたガスバリア性を有して、食品、医薬品等の包装材料に好適なポリグリコール酸フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているため、食品、医薬品等の包装材料に好適な素材として、近年、研究開発が盛んになっている。そのなかで、ポリグリコール酸を用いた延伸フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながらポリグリコール酸は、結晶性が非常に高く、さらにガラス転移温度が室温より少し高い程度であるため、延伸フィルムを工業的に製造する際に未延伸フィルムの結晶化が起こりやすく、その結果ネック延伸となり出来上がった製品の厚み斑が大きく、上市できるものではなかった。
【0004】
特許文献2には、成形物中のポリグリコール酸の溶融粘度を比較的低くすることにより、溶融状態での流動性に優れ、均一な薄膜化が可能であると記載されている。しかし、このように低い溶融粘度のポリマーでは実施例にあるようにインフレーション法には適しているが、Tダイ法においては溶融張力が低くなり、端部が自重により垂れてしまうため製膜は困難である。
【0005】
一方、特許文献3には、特定範囲の融点を有する、生分解性ポリエステルを主体とする成形材料を、適度な量の結晶が残存するような特定の温度範囲に加熱しながら溶融成形し、その後延伸することによって、生分解性を有し、耐熱性に優れ、且つヘーズ(JIS K7105準拠)が5%以下の、透明性に優れた包装材用途に好適な生分解性ポリエステル延伸成形体を容易に製造することができると記載されている。しかし、ポリグリコール酸をこの特定範囲の融点にするためには他の成分を共重合する必要があり、ポリグリコール酸の優れたガスバリア性が十分に発揮できないという問題があった。
【特許文献1】特開平10−60136号公報
【特許文献2】特開2003−20344号公報
【特許文献3】特開2003−326594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、結晶化速度の速いポリグリコール酸の結晶化をコントロールし、厚み均一性に優れたポリグリコール酸の連続延伸フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、未延伸シートを製膜後特定の時間内に延伸することによって、厚み均一性の優れたポリグリコール酸の連続フィルムを提供できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1) ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が3倍以上となるように、少なくとも一方向に一段目の延伸を行ない、次いで、最終的に二軸方向に延伸され、かつその面倍率が9倍以上となるように、二段目の延伸を行なうことを特徴とするポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法。
(2) 一段目の延伸が縦方向の延伸であり、二段目の延伸が横方向の延伸であることを特徴とする(1)記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
(3) ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が9倍以上となるように、同時二軸延伸を行なうことを特徴とするポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法。
(4) 延伸が未延伸シートに製膜した後、2分以内に行なわれることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
(5) 延伸時におけるフィルム温度が(Tg+2)〜(Tg+20)℃であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
(6) 下記式で定義された厚み斑が10%以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により製造された二軸延伸フィルム。
厚み斑(%)=(幅方向の最大厚さ−幅方向の最小厚さ)÷平均厚さ×100
(7) 20℃、100%RH雰囲気下での酸素透過度が30ml/(m2・day・M
Pa)以下であることを特徴とする(6)記載の二軸延伸フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、未延伸シートを製膜してから延伸するまでの時間を制限することにより、優れたガスバリア性を有するポリグリコール酸の延伸フィルムを工業的に生産することが可能となり、これまで制限されていたポリグリコール酸フィルムの使用範囲が大きく広がる。したがって、本発明の製造方法により製造されたフィルムの産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明を詳細に説明する。
本発明において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂とは、ポリグリコール酸の繰り返し構造(−O−CH−CO−)を70mol%以上含有する(共)重合体あるいはその混合物であり、好ましくは繰り返し構造(−O−CH−CO−)を85mol%以上含有する(共)重合体あるいはその混合物である。
【0010】
本発明において、ポリグリコール酸の、温度250℃、剪断速度100/秒の条件で測定した溶融粘度は、500〜5000Pa・sが好ましく、より好ましくは800〜3000Pa・sである。溶融粘度が500Pa・s未満の場合、溶融張力が低く製膜が困難となり、5000Pa・sを超えると押出し負荷が高く非経済的である。
【0011】
ポリグリコール酸に共重合または混合する成分としては、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネートcoブチレンアジペート)等に代表されるジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステルや、ポリ(乳酸)、ポリ(3ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(6ヒドロキシカプロン酸)等のポリヒドロキシカルボン酸や、ポリ(εカプロラクトン)やポリ(δバレロラクトン)に代表されるポリ(ωヒドロキシアルカノエート)や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどに代表されるアルキレングリコールや、ポリ(ブチレンサクシネートcoブチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンアジペートcoブチレンテレフタレート)の他、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、ポリケトン、シュウ酸エチレン、澱粉等の多糖類等が挙げられる。
【0012】
また、ポリグリコール酸を主体とする樹脂には、得られるフィルムの性能を損なわない範囲において、ポリオレフィン、エラストマー、アイオノマーなどの樹脂や、滑剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤を配合することもできる。
【0013】
ポリグリコール酸を主体とする樹脂を製膜して未延伸シートを得る方法は、公知の方法を使用することができる。例えば押出機にてポリグリコール酸を主体とする樹脂を溶融したのち、Tダイより押し出し、表面温度を0〜20℃に温調した冷却ドラム(CR)上に静電印加法により密着させて急冷し、未延伸シートを得る方法が挙げられる。
【0014】
本発明においては、未延伸シートの製膜後5分以内に、好ましくは製膜後2分以内に、面倍率が3倍以上になるように、少なくとも一方向に一段目の延伸を行なうか、または面倍率が9倍以上となるように、同時二軸延伸を行なうことが必要である。ただし、同一方向への連続した多段延伸は一段の延伸とみなす。例えば連続して縦方向に1.5倍、次いで3倍に延伸した場合は、4.5倍の延伸とみなす。
【0015】
延伸方式としては、フラット式逐次二軸延伸、フラット式同時二軸延伸、チューブラ式同時二軸延伸等の方式を用いることができるが、フィルムの厚み斑が小さく、フィルム巾方向の物性が均一であることからフラット式逐次二軸延伸、フラット式同時二軸延伸法が好ましい。逐次二軸延伸法を用いる場合は、一段目に縦方向に延伸し、二段目に横方向に延伸する方法が挙げられる。
【0016】
一段目の延伸が製膜後5分を超えて行なわれたり、その面倍率が3倍未満である場合、また同時二軸延伸が製膜後5分を超えて行なわれたり、その面倍率が9倍未満である場合、延伸切断によりフィルムが得られなくなったり、延伸できたとしても最終的に得られたフィルムの厚み斑が大きくなってしまう。詳細な原因はわからないが、ポリグリコール酸はガラス転移温度が室温より少し高い程度であり、結晶化速度が速い樹脂であるため、未延伸シートが室温で放置された場合に微視的な結晶化が進むなどして延伸に適した状態でなくなってしまうものと考えられ、製膜後速やかに延伸することが必要になるのである。すくなくとも一段目に一方向に面倍率が3倍以上、好ましくは3.5倍以上になるように延伸するかまたは面倍率が9倍以上になるように同時二軸延伸することにより延伸配向させるとポリグリコール酸の状態が安定し、後段の延伸工程において大きな厚み斑が拡大しない。
【0017】
本発明において面倍率とは、縦方向の延伸倍率と、横方向の延伸倍率との積を指す。一方向に多段の延伸を施した場合は、それらの延伸倍率を全て積する。本発明において最終的な面倍率は9倍以上であることが必要であり、好ましくは15倍、更に好ましくは20倍以上である。面倍率が9倍未満の場合、後述する厚み斑が10%以内にならなかったり、強度が低くなり、ガスバリア性が悪くなったりするなど物性面で不具合が生じる。
【0018】
延伸時におけるフィルム温度は(Tg+2)〜(Tg+20)℃が好ましい。更に好ましくは(Tg+2)〜(Tg+10)℃である。この温度範囲は逐次二軸延伸の場合には全ての延伸ゾーンにおいても適用される。この範囲を外れると、延伸時にフィルムが破断したり、ネック延伸になって厚み斑が大きくなったりする。
【0019】
延伸フィルムは必要に応じ、140〜220℃で熱セットされうる。また、0〜8%の弛緩処理も行なうことができる。
【0020】
以上の製造方法により製造されたポリグリコール酸の二軸延伸フィルムは厚み斑が小さく、高いガスバリア性を有する。すなわち、下記式で定義された厚み斑を10%以下とすることができる。また、20℃、100%RH雰囲気下での酸素透過度を30ml/(m・day・MPa)以下とすることができる。
厚み斑(%)=(幅方向の最大厚さ−幅方向の最小厚さ)÷平均厚さ×100
【実施例】
【0021】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例および比較例の評価に用いた原料および測定方法は次のとおりである。
(1)原料
ポリグリコール酸:グリコリド20kgを、反応釜に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら約30分間室温で乾燥した。次いで、触媒としてSnCl・6.5HOを4g添加し、窒素ガスを吹き込みながら170℃に2時間保持して重合した。重合終了後、反応釜を室温まで冷却し、反応釜から取出した塊状ポリマーを約3mm以下の細粒に粉砕し、約150℃、約0.1kPaで一晩減圧乾燥し、残存モノマーを除去してポリグリコール酸を得た。(得られたポリグリコール酸のTmは228℃、Tgは38℃、溶融粘度(250℃、100/秒)は2200Pa・sであった。)
(2)測定法
(2−1)厚み斑:
延伸フィルムの厚みを幅方向に5mm間隔で測定し、幅方向の最大厚さ、幅方向の最小厚さ、平均厚さから次式により求めた。
厚み斑(%)=(幅方向の最大厚さ−幅方向の最小厚さ)÷平均厚さ×100
(2−2)酸素透過度:
Modern Control社製のOX−TRAN2/20を使用し、20℃、100%RHの条件で測定した。単位:ml/(m・day・MPa)
【0022】
実施例1
押出機およびTダイを用いて、ポリグリコール酸を温度250℃で溶融して未延伸シートとして押出し、静電印加方式で表面温度を10℃に温調した冷却ドラム上に密着させて冷却し、製膜速度20m/minで200μmの厚みの未延伸シートを得た。40℃の予熱ロールを通した後、50℃に温調された周速の異なるロール間で4倍に縦延伸を行なった。このとき、未延伸シートが冷却ドラムに接してから延伸されるまでの時間は3分であった。テンター式横延伸機に導き予熱温度50℃、延伸温度55℃で4倍に延伸し、200℃で熱セットを行なうとともに2%の弛緩処理を行ない、12μmの厚みのフィルムを得た。得られたフィルムの厚み斑および酸素透過度を測定し、表1に示した。
【0023】
実施例2〜5、比較例1〜3
各種延伸条件を表1のとおり変更した以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。なお製膜後、縦延伸が開始されるまでの時間は、製膜速度を変更することにより調節した。
【0024】
実施例6
実施例1と同様にして未延伸シートを得、テンター式同時二軸延伸機に導き、予熱温度55℃、延伸温度55℃、延伸倍率3×3.3倍で延伸し200℃で熱セットを行なうとともに2%の弛緩処理を行ない、平均厚み12μmのフィルムを得た。得られたフィルムの厚み斑および酸素透過度を測定し、表1に示した。
【0025】
比較例4
製膜後、延伸されるまでの時間を、製膜速度を変更することにより調節した以外は実施例6と同様に行ない平均厚み12μmのフィルムを得た。得られたフィルムの厚み斑および酸素透過度を測定し、表1に示した。
【0026】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が3倍以上となるように、少なくとも一方向に一段目の延伸を行ない、次いで、最終的に二軸方向に延伸され、かつその面倍率が9倍以上となるように、二段目の延伸を行なうことを特徴とするポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
一段目の延伸が縦方向の延伸であり、二段目の延伸が横方向の延伸であることを特徴とする請求項1記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
ポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法において、ポリグリコール酸を主体とする樹脂を未延伸シートに製膜した後、5分以内に面倍率が9倍以上となるように、同時二軸延伸を行なうことを特徴とするポリグリコール酸を主体とする樹脂からなる二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
延伸が未延伸シートに製膜した後、2分以内に行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
延伸時におけるフィルム温度が(Tg+2)〜(Tg+20)℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
下記式で定義された厚み斑が10%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造された二軸延伸フィルム。
厚み斑(%)=(幅方向の最大厚さ−幅方向の最小厚さ)÷平均厚さ×100
【請求項7】
20℃、100%RH雰囲気下での酸素透過度が30ml/(m・day・MPa)以下であることを特徴とする請求項6記載の二軸延伸フィルム。

【公開番号】特開2006−182017(P2006−182017A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330201(P2005−330201)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】