説明

ポリグリコール酸系樹脂、その製造方法およびその用途

【課題】熱安定性に優れたアミド結合を分子鎖に有する高分子量ポリグリコール酸系樹脂、その製造方法およびその用途を提供する
【解決手段】末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とを反応させて得られ、下記式(1)で表わされる構成単位を含むポリグリコール酸系樹脂。
【化1】


(式(1)において、Rはポリイソシアネート残基であって、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含む炭素数3〜20の炭化水素基または芳香環を含む炭素数6〜20の炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリコール酸系樹脂、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保護に対する関心の高まりに伴い、環境負荷の低い生分解性ポリマーに対する期待も高まっている。生分解性ポリマーの一つであるポリグリコール酸は、生体内での分解・吸収性を有していることから、主に手術用縫合糸などの医療用材料としての研究開発、利用が進められている。また、ポリグリコール酸は市販のポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルと比較して耐熱性、機械強度に優れ、さらに高ガスバリア性を有しているという点から、高機能性の汎用樹脂として注目されている。
【0003】
ポリグリコール酸は一般的に(1)グリコール酸の環状2量体であるグリコリドの開環重合、(2)グリコール酸(水溶液)またはグリコール酸エステルの脱水、または脱アルコール重縮合等により合成することができる。ポリグリコール酸を十分な機械強度を有するフィルムなどの成形体とするためには、高分子量化する必要があるが、(1)の方法では高分子量体の合成が可能であるものの、モノマーであるグリコリドの収率が低いこと、またグリコリド精製に多大なエネルギーを必要とすることから高コスト化につながるという問題があった。(2)の方法では、非特許文献1にあるように溶融重縮合の場合、溶融状態を維持しながら反応を行っても重量平均分子量50000程度までしか到達せず、また固相重合では、特許文献1にあるように重合温度を段階的に上昇させる必要があり、また長時間を必要とするという問題点があった。
【0004】
上述した問題点を解決する方法として、ポリ乳酸やその他のポリエステル系樹脂で用いられる方法としては特許文献2にあるようにポリイソシアネート化合物を用いた鎖延長反応による高分子量化がある。しかしながらポリイソシアネート化合物によるポリグリコール酸の鎖延長法に適応するには様々な問題点があった。まず、ポリグリコール酸は一般的な汎用有機溶媒に不溶であるため、グリコール酸オリゴマーの溶融温度以上(240℃以上)で反応させる必要がある。このような高温状態での反応では、ポリイソシアネート化合物との鎖延長反応により生成する結合が240℃以上で安定である必要があり、また副反応によるゲル化等を抑制する必要がある。一般的にポリイソシアネート化合物は、ポリマー末端のヒドロキシル基との反応によりウレタン結合を形成することで分子量を増大させることが可能であるが、ポリグリコール酸のヒドロキシル基との反応を溶融状態で行うと、生成したウレタン結合の熱安定性が低いために、溶融反応時や溶融成形時に乖離、分解してしまう問題がある。特許文献3ではヘキサフルオロイソプロパノール溶媒やフェノール/トリクロロフェノール混合溶媒等の限られた可溶化溶媒中、ジイソシアネート化合物により鎖延長反応を行う方法が開示されている。しかしながら、可溶化溶媒が高価であるため経済的とは言い難く、また生成する結合はウレタン結合であるため、加熱溶融成形時に熱分解が起こることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−130647号公報
【特許文献2】特開平5−148352号公報
【特許文献3】特開2006−152196号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Polymer 2000, 41, 8725.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価に製造でき成形性、熱安定性に優れる高分子量ポリグリコール酸系樹脂、その製造方法およびその用途を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の反応工程を経ることにより得られるアミド結合を分子鎖に有するポリグリコール酸系樹脂が熱安定性、成形性に優れ、かつ安価に製造できることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、第一の発明は、末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られ、下記式(1)で表わされる構成単位を含むポリグリコール酸系樹脂である。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)において、Rはポリイソシアネート残基であって、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含む炭素数3〜20の炭化水素基または芳香環を含む炭素数6〜20の炭化水素基を表す。)
【0012】
ポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量(Mw2)が前記グリコール酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw1)の3倍以上であり、かつMw2が90,000以上である前記ポリグリコール酸系樹脂は成形性の点で好ましい態様である。
【0013】
前記ポリイソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物である前記ポリグリコール酸系樹脂は経済性の点で好ましい態様である。
【0014】
示差走査熱量測定において昇温速度10℃/分で加熱した場合のセカンドランの融点(Tm)(融解ピークのピークトップ)が200℃≦Tm≦220℃であり、かつ240℃に昇温後、降温速度10℃/分で測定した結晶化点(Tc)(結晶化ピークのピークトップ)が90℃≦Tc≦150℃である前記ポリグリコール酸系樹脂は成形性の点で好ましい態様である。
【0015】
第二の発明は、末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とをアミド化触媒の存在下反応させる工程を含む前記ポリグリコール酸系樹脂の製造方法である。
【0016】
前記ポリイソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物である前記ポリグリコール酸系樹脂の製造方法は好ましい態様である。
【0017】
周期律表第1族、2族および3族に属する金属群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むアミド化触媒を使用する前記ポリグリコール酸系樹脂の製造方法はアミド結合の生成が容易になり好ましい態様である。
【0018】
マグネシウムまたはカルシウムを含むアミド化触媒を使用する前記ポリグリコール酸系樹脂の製造方法はアミド結合の生成が容易になり好ましい態様である。
前記グリコール酸オリゴマーの溶融状態で前記ポリグリコール酸系樹脂を製造する方法は、生産性の点で好ましい態様である。
第三の発明は、前記ポリグリコール酸系樹脂を含有する成形体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリグリコール酸系樹脂は、アミド結合を分子鎖中に有し、実用上充分な高分子量を持ち成形性、熱安定性に優れているので、フィルム、シートなどの成形体用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のポリグリコール酸系樹脂は、末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られ、下記式(1)で表わされる構成単位を含むことを特徴とする。
【0021】
【化2】

【0022】
式(1)において、Rはポリイソシアネート残基であって、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含む炭素数3〜20の炭化水素基または芳香環を含む炭素数6〜20の炭化水素基を表す。前記炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、1,2−ジメチルプロピレン、1,3−ジメチルプロピレン、1−メチルブチレン、2−メチルブチレン、3−メチルブチレン、4−メチルブチレン、2,4−ジメチルブチレン、1,3−ジメチルブチレン、ペンチレン、へキシレン、ヘプチレン、オクチレン、デシレン、ドデシレン、エタン−1,1−ジイル、プロパン−2,2−ジイル、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン等が挙げられるが、かかるアルキル基中の任意の−CH2−は−O−、−CO−、−COO−または−SiH2−で置換されていてもよい。また、前記脂環構造を含む炭素数3〜20の炭化水素基の具体例としては、シクロプロピレン、1,3−シクロブチレン、1,3−シクロペンチレン、1,4−シクロヘキシレン、1,5−シクロオクチレン、ノルボニレン、1,3−シクロペンチレン、1,2−シクロヘキシレン、1,4−ジメチルシクロヘキシレン、1,3−ジメチルシクロヘキシレン、1−メチル−2,4−シクロヘキシレン、4,4′−メチレン−ビスシクロヘキシレン、および3−メチレン−3,5,5−トリメチル−シクロヘキシレンが挙げられる。また、前記芳香環を含む炭素数6〜20の炭化水素基の具体例としては、m−フェニレン、p−フェニレン、4,4′−ジフェニレン、1,4−ナフタレンおよび1,5−ナフタレン、4,4′−メチレンジフェニレン、2,4−トリレン、2,6−トリレン、m−キシリレン、p−キシリレン、m−テトラメチルキシリレン、4,4′−オキシジフェニレンおよびクロロジフェニレンが挙げられる。なかでもブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ドデシレン、3−メチレン−3,5,5−トリメチル−シクロヘキシレン、1,3−ジメチルシクロヘキシレン、4,4′−メチレン−ビスシクロヘキシレンが好ましく、ヘキシレン、m−キシリレンがより好ましい。
【0023】
また、上記式(1)で表される構成単位は、上記ポリグリコール酸系樹脂1分子あたりに、4〜100ユニット、好ましくは4〜50ユニット、より好ましくは6〜30ユニット、特に好ましくは10〜20ユニット含んでいる。
【0024】
一般式(1)で表されるユニットは、グリコール酸オリゴマーの末端カルボキシル基とイソシアネート基との反応により形成することができ、後述するアミド化触媒を使用することにより、カルボキシル基を効率的にアミド基に変換することも可能である。
【0025】
ポリグリコール酸系樹脂中のアミド結合は、後述する実施例に記載した方法で、1H−NMRを測定することにより同定することができる。
また、グリコール酸オリゴマー以外のポリイソシアネートと反応する共重合体成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有させることも可能であり、このようなポリグリコール酸系樹脂も本発明の範囲内である。
【0026】
[末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマー]
本発明で使用するグリコール酸オリゴマーの末端は、90%を超える割合でカルボキシル基になっている。末端のカルボキシル基率は95%以上であることがより好ましい。本発明では、後述するとおり、上記グリコール酸オリゴマーの末端カルボキシル基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との反応によりアミド結合を形成させる。該グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基以外の末端官能基は通常ヒドロキシル基であるが、ヒドロキシル基とイソシアネート基の反応により生じるウレタン結合は熱安定性に劣るため、末端カルボキシル基率を高くする必要がある。末端のカルボキシル基率が90%以下であると、熱安定性のよい高分子量ポリグリコール酸系樹脂を得るためにはグリコール酸オリゴマーをより高分子量化する必要があり生産性が悪くなり好ましくない。
【0027】
また、後述するように溶融重合でポリグリコール酸系樹脂を製造する場合はグリコール酸オリゴマーの融点以上の温度で重合を行うのが好ましいが、ウレタン結合はグリコール酸オリゴマーの融点以上の温度では分解してしまい、末端のカルボキシル基率が90%以下のポリグリコール酸オリゴマーでは高分子量のポリグリコール酸系樹脂を得ることは難しい。
【0028】
本発明におけるグリコール酸オリゴマーは、グリコール酸を主成分とする。ここでいう主成分とは、構成単位の95モル%以上がグリコール酸由来であるものをいい、5モル%未満で末端のカルボキシル基の割合を90%以上にするための共重合成分を含み、また、本発明の目的を損なわないものであれば、他の共重合成分単位を含んでいてもよい。
【0029】
グリコール酸以外の他の共重合成分単位としては、後述する開始剤や、多価カルボン酸、多価アルコール、グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類またはそれらの誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類またはそれらの誘導体、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類、ラクチド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0030】
[末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーの製法]
本発明でいう末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーは、本発明の目的を損なわないものであればその調製方法は特に限定されないが、経済的な観点から、グリコール酸またはグリコール酸水溶液を直接脱水縮合する直接重縮合法で合成することが好ましい。例えば原料のグリコール酸またはグリコール酸水溶液を不活性ガス雰囲気中または気流下において加熱し、圧力を降下させて重縮合反応させ、最終的に所定の温度および圧力の条件下で重縮合反応を行うことにより、グリコール酸オリゴマーを得ることができる。またその後減圧下、または不活性ガス気流下における固相重合により反応を進行させることもできる。該直接重縮合法では、原料であるグリコール酸とともにポリカルボン酸または酸無水物等の共重合体成分を重合初期、途中または後期のいずれかに添加することにより末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーを調製することができる。該ポリカルボン酸成分としてはジカルボン酸が好ましく、該ジカルボン酸成分としては、コハク酸、フタル酸、マレイン酸、テトラブロムフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ドデシルコハク酸などが挙げられ、コハク酸がコスト面から好ましい。該酸無水物としては無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸またはドデシル無水コハク酸などが挙げられ、コスト面から無水コハク酸が好ましい。該ポリカルボン酸または酸無水物を重合後期に添加する場合の添加量は、添加前のグリコール酸オリゴマーの末端ヒドロキシル基のモル数に対して1倍モルが好ましい。ここで「倍モル」とは、「ポリカルボン酸または酸無水物のモル数/ヒドロキシル基末端のモル数」により算出される値の単位である。ヒドロキシル基末端のモル数は、用いた仕込み量と、後述する実施例に記載した方法で、1H−NMRを測定することにより決定することができる。該ポリカルボン酸または酸無水物等を重合開始時または途中に添加する場合、後述するグリコール酸オリゴマーが目的の分子量になるように添加量を調整する。例えばコハク酸を添加する場合の具体例としては、グリコール酸オリゴマーの数平均分子量を2500としたい場合、グリコール酸:コハク酸のモル比を41:1となるように反応を行えばよい。
重合開始時または途中で添加する場合は、通常仕込みグリコール酸に対して0.4〜5モル%、より好ましくは0.5〜3モル%を使用する。
【0031】
また、該重縮合反応は触媒なしでも、あるいは従来用いられている重縮合触媒存在下に行ってもよい。触媒を用いることでグリコール酸オリゴマーの調製時間を短縮することもできる。従来用いられている金属系重縮合触媒としては金属および金属塩、金属酸化物等があげられるが、グリコール酸オリゴマーから金属系触媒を除去することは困難であることから、後述するポリイソシアネート化合物との反応を阻害しない触媒を選択する必要がある。このような金属触媒としてはマグネシウム、カルシウムおよびこれらの塩や酸化物が挙げられる。また従来重縮合触媒として用いられている有機スルホン酸系触媒を用いることができる。有機スルホン酸触媒としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等を挙げることができる。好ましくはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が挙げられる。有機スルホン酸系の触媒を用いて固相重合を行う場合、反応が進むに従い反応温度を上昇させるため、最終的には触媒を揮散させることが可能であり、触媒の残留を極力低減させることができる。触媒を使用する場合、その添加量はグリコール酸100重量部に対して0.001〜1重量部、好ましくは0.002〜0.5重量部である。
グリコシドを開環重合する方法では、水又は乳酸、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸等の開始剤を使用して調整することができる。
【0032】
[グリコール酸オリゴマーの重量平均分子量<Mw1>]
前記グリコール酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw1)は、それぞれ5,000〜50,000であることが好ましく、10,000〜30,000であることが特に好ましい。重量平均分子量(Mw1)が上記範囲内であると重合時間が短く、工程時間の短縮が可能である点で好ましい。また、前記の分子量範囲にすることによりポリグリコール酸系樹脂の溶融温度を下げることができ、熱加工性に優れるポリグリコール酸系樹脂を得ることができる。
【0033】
なお、本発明における重量平均分子量(Mw)は、後述する実施例に記載の方法で、ヘキサフルオロイソプロパノールを移動相としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)によりポリメタクリル酸メチルに対する相対重量平均分子量として測定した値である。
【0034】
[ポリグリコール酸系樹脂の製造方法]
前記ポリグリコール酸系樹脂の製造方法は、末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む。該反応では後述するアミド化触媒を用いることが好ましい。該工程の具体例として以下の溶融重合法が挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り、何らこれに限定されない。
【0035】
まず、前記グリコール酸オリゴマーおよび必要に応じて後述するアミド化触媒を加え、これらをグリコール酸オリゴマーが溶融する温度まで昇温する。さらにポリイソシアネート化合物を加え、溶融温度で反応させポリグリコール酸系樹脂を得ることができる。ポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0036】
ジメチルスルホキシド等の溶媒を使用することも可能であるが、溶媒除去等の後処理が必要なため前記の溶融重合法が好ましい態様である。
【0037】
[反応温度]
溶融重合法での反応温度はグリコール酸オリゴマーの溶融温度以上であることが好ましく、230℃〜250℃であることが好ましい。当該工程における反応温度が、上記上限を超えると副反応が進行しゲル化が起こりやすくなる場合があり、上記下限未満であるとグリコール酸オリゴマーが溶解せず、本発明におけるポリグリコール酸系樹脂が得られない場合がある。また、溶融重合法では、反応物の分子量の増加とともに粘度が急激に上昇するので、押出機、特に二軸混練押出機で反応させさせながら生成物を押し出す方法が好ましい態様である。
【0038】
[ポリイソシアネート化合物]
本発明で使用するポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有している化合物であり、本発明の目的を阻害しなければ特に限定されない。イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート化合物としては、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートなどのトリイソシアネート類やポリフェニルメタンポリイソシアネート等の多イソシアネート置換化合物類が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0039】
ジイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−(ビスイソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタンまたはビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンなどが挙げられ、より好適な例として、m−キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−(ビスイソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタン、またはビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンなどが挙げられる。なかでも経済的な観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはm−キシリレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0040】
[ポリイソシアネートの添加量]
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、前記グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端数から算出したモル数に基づいて決定する。グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端数は、1H−NMRより算出する。1H−NMRは後述する実施例に記載した方法で測定する。上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、前記グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端数から算出したモル数に対して0.8〜2.0倍モルであることが好ましく、0.8〜1.5倍モルであることがさらに好ましい。ここで「倍モル」とは、「ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数/カルボキシル基末端のモル数」により算出される値の単位である。
【0041】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量が上記下限値未満であると、ポリイソシアネート化合物の添加効果が小さく、高分子量のポリグリコール酸系樹脂を得ることが困難となる。一方、上記上限値を超えると、イソシアネートが架橋反応などの副反応を引き起こし、ゲル状のポリグリコール酸系樹脂が生成することがある。
【0042】
[アミド化触媒]
本発明においてアミド化触媒とは、前記グリコール酸オリゴマーの末端カルボキシル基部分を優先的に前記ポリイソシアネート化合物と反応させて、アミド結合を形成させる触媒をいう。
【0043】
前記工程に用いるアミド化触媒は、周期律表第1族、2族および3族における金属群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびイッテルビウムの群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことがより好ましく、マグネシウムまたはカルシウムを含むことが特に好ましい。このような金属を含んでいると触媒効果の点で好ましい。
【0044】
上記周期律表第1族金属を含むアミド化触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムもしくはセシウムの、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられ、また上記周期律表第2族金属を含むアミド化触媒としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムの、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナトなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられる。さらには、上記周期律表第3族金属を含むアミド化触媒としては、スカンジウム、イッテルビウム、イットリウムもしくは他の希土類の、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられる。これらは単独で使用しても、また併用してもよい。これらの金属化合物触媒の中でも、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、塩化マグネシウム、イッテルビウムトリフラートなどが好ましく、さらにはマグネシウム化合物、特に、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。これらの触媒は2種以上併用することもできる。
【0045】
[アミド化触媒の添加量]
上記アミド化触媒の添加量は、前記グリコール酸オリゴマー100重量部に対して、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0046】
[ポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量<Mw2>]
本発明におけるポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量(Mw2)は90,000以上であることが好ましく、90,000〜500,000であることがより好ましく、120,000〜300,000であることがさらに好ましい。ポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量(Mw2)が上記範囲内であると、成形性および機械強度の点で好ましい。
【0047】
本発明におけるポリグリコール酸系樹脂における重量平均分子量(Mw2)は、ポリイソシアネートとの反応により前記グリコール酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw1)の3倍以上、より好ましくは3〜51倍、特に好ましくは3〜26倍であることが好ましい。3倍以下であると、後述する本発明におけるポリグリコール酸系樹脂の熱的特性が発現しない場合がある。
【0048】
[ポリグリコール酸系樹脂の熱的特性]
本発明のポリグリコール酸系樹脂は、従来の一般的なポリグリコール酸ホモポリマーの融点(240℃程度)と比較して融点が低い特徴を有する。従来のポリグリコール酸ホモポリマーは、溶融成形時に融点以上の高温で溶融させた場合、熱分解等が起こり加工安定性に問題があったが、本発明のポリグリコール酸系樹脂は、従来のポリグリコール酸ホモポリマーより溶融温度が低いので、熱分解による分子量低下を抑えて成形加工が可能である。
【0049】
すなわち、本発明のポリグリコール酸系樹脂は、後述する示差走査熱量測定法において昇温速度10℃/分で加熱した場合のセカンドランの融点(Tm)(融解ピークのピークトップ)を190℃≦Tm≦230℃、好ましくは200℃≦Tm≦220℃とすることができる。
【0050】
Tmは、前記グリコール酸オリゴマーのMw1を前記範囲内において小さくすることで低くすることが可能であり、Mw1を大きくすることで高くすることが可能であり、オリゴマーのMw1の制御によりTmを前記の範囲に調整することができる。
【0051】
また、ポリグリコール酸ホモポリマーは溶融状態から降温したときの結晶化速度が非常に速く、すなわち結晶化点が高く、結晶化を制御することが困難であり、フィルム、シート等の押出成形時には透明性を損なうという問題点があった。結晶化点を低くするためには、例えば特許文献(WO2003−037956)にあるように、高温で熱処理する必要がある。本発明におけるポリグリコール酸系樹脂は、示差走査熱量測定において240℃の熱履歴を受けた後の降温速度10℃/分で測定した結晶化点(Tc)(結晶化ピークのピークトップ)が90℃≦Tc≦150℃、さらには110℃≦Tc≦140℃とすることができるため、溶融温度と結晶化点の温度差を大きくすることが可能で、結晶化を制御することが容易である。
【0052】
結晶化点Tcは、使用する前記ポリイソシアネート化合物の種類にもよるが、一般的に前記グリコール酸オリゴマーのMw1を前記範囲内において小さくすることで低くすることが可能であり、Mw1を大きくすることで高くすることが可能であり、オリゴマーのMw1の制御によりTcを前記の範囲に調整することができる。
【0053】
[ポリグリコール酸系樹脂の成形体および成形加工法と用途]
本発明のポリグリコール酸系樹脂は種々の成形加工法で成形できるが、前述したように溶融加工の成形性に優れている。ここでいう成形体とは、フィルム、シート、繊維、射出成形体、押出成形体、真空成形体、発泡成形体等の各種成形体を意味する。
【0054】
成形加工法は特に制限されないが、具体的には、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成形加工法が挙げられる。
【0055】
本発明のポリグリコール酸系樹脂の用途については特に制限は無く、汎用用途から医療具等の特殊用途まで広い範囲で使用することが可能である。特にポリグリコール酸に特徴的な高ガスバリア性は、後述する実施例に記載したように、本発明のポリグリコール酸系樹脂においてもポリグリコール酸ホモポリマーと同等であることから、フィルム・シート状でガスバリア性が必要な用途に使用することが望ましい。また、従来のポリグリコール酸系樹脂が広く利用されている縫合糸分野においても使用することが可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例における各測定方法を以下に示す。
【0057】
<重量平均分子量(Mw)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Waters社製、検出器RI:Waters社製2414、カラム:SHODEX社製HFIP−G、HFIP−806 2本)(検出器およびカラム温度40℃、流速0.6mL/min、5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム(和光純薬)含有のヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子社製))により、ポリメタクリル酸メチル(分子量はそれぞれ520000、267000、158000、93300、54500、10100、2580)を標準サンプルとして作成した検量線との比較で求めた。サンプル5mgに対し、5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム(和光純薬)含有ヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子社製)を5mL用いて溶解させ測定した。
【0058】
<ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、結晶化点(Tc)、結晶化度の測定方法>
示査走査熱量測定(DSC測定)(SII社製DSC装置RDC220)により求めた。試料を5〜6mg秤量し、窒素シールしたパンに計り込み、窒素シールされた予め30℃に設定されたDSC測定部に装入した後、10℃/minの昇温速度で240℃まで昇温した。その後、10℃/minの降温速度で0℃まで降温した。さらに、10℃/minの昇温速度で240℃まで昇温した。
ガラス転移温度(Tg)は、2回目(セカンドラン)の昇温時のガラス転移温度を測定した。
【0059】
融点(Tm)、結晶化度は2回目の昇温時の融解発熱ピークにおけるピークトップの融点(Tm)および結晶融解エンタルピー(ΔHm)を測定し、[[(ΔHm)/(ΔH0)]×100]を求め、結晶化度とした。ここでΔH0は完全理想結晶融解エンタルピーを表し、ポリグリコール酸の数値 183.2 J/g (Polymer 2004, 45, 3583.)を使用した。
【0060】
結晶化点(Tc)は、240℃から10℃/minの降温速度で降温冷却した時の結晶化発熱ピークのピークトップの結晶化点(Tc)を測定した。
【0061】
<ポリグリコール酸オリゴマーの末端官能基がカルボキシル基である割合の測定方法>
日本電子製ECA500を用い、グリコール酸オリゴマーおよびポリグリコール酸系樹脂を重ジメチルスルホキシド溶媒中100℃で1H−NMRスペクトルを測定した。ここで、ケミカルシフトはジメチルスルホキシドδ=2.468ppmを基準とした。
【0062】
なお、サンプルが溶解しにくい場合は、いったんイナートガス雰囲気下で溶融させてから急冷し、測定サンプルを調整した。
【0063】
上記測定により得られたポリグリコール酸オリゴマーの1H−NMRスペクトルにおいて、
δ=4.10ppm、シングレット(積分値 A):
グリコール酸オリゴマーのヒドロキシル基末端のメチレンプロトン
δ=4.61ppm、シングレット(積分値 B):
グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端のメチレンプロトン
δ=4.74、−4.83ppm、シングレット(積分値 C):
グリコール酸オリゴマーの主鎖メチレンプロトン
であり、例えば無水コハク酸を初期添加して調整したグリコール酸オリゴマーの場合、
δ=2.70ppm、シングレット(積分値 D):
コハク酸メチレンプロトン
以上のように同定することができる。
これらのピークの積分値より、以下の式から末端カルボン酸率を算出する。
末端官能基がカルボキシル基である割合(%) = B/(A+B)×100
【0064】
<グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端モル数(mol/g)>
前記測定方法により得られたスペクトルを元に、以下の式によりルボキシル基末端モル数(mol/g)を算出する。
カルボキシル基末端モル数(mol/g)
=B/(59(OH末端グリコール酸ユニット)×A+75(COOH末端グリコール酸ユニット)×B+58(主鎖グリコール酸ユニット)×C+100(酸無水物またはポリカルボン酸ユニット(ここではコハク酸ユニット))×D/2)
【0065】
<ポリグリコール酸系樹脂中のアミド結合の同定>
例えば無水コハク酸を初期添加して調整したグリコール酸オリゴマーを用い、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートを用いて得られたポリグリコール酸系樹脂を例として、1H−NMRスペクトルによりアミド結合形成を同定する方法を以下に記載する。1H−NMR測定は前記グリコール酸オリゴマーの測定と同様に行う。
δ=1.22−1.31ppm、ブロード:
ヘキサメチレンジイソシアネート由来のメチレンプロトン
δ=1.35−1.45ppm、ブロード:
ヘキサメチレンジイソシアネート由来のメチレンプロトン
δ=1.35−1.45ppm、ブロード:
ヘキサメチレンジイソシアネート由来のアミド結合隣接α位メチレンプロトン
δ=2.70ppm、シングレット:
コハク酸由来のメチレンプロトン
δ=4.10ppm、シングレット:
グリコール酸ユニットのヒドロキシル基末端のメチレンプロトン
δ=4.51ppm、シングレット:
グリコール酸ユニットのアミド結合隣接α位のメチレンプロトン
δ=4.77ppm、シングレット:
グリコール酸ユニットのアミド結合隣接β位のメチレンプロトン
δ=4.83ppm、シングレット:
ポリマー主鎖グリコール酸ユニットのメチレンプロトン
δ=7.60ppm、ブロード:
アミドのプロトン
以上のように同定することができる。
【0066】
ここで、ヒドロキシル基末端メチレンプロトンのケミカルシフトは、用いたグリコール酸オリゴマーのヒドロキシル基末端メチレンプロトンと変化がなく、またグリコール酸オリゴマーのカルボキシル基末端のケミカルシフトがアミド結合を形成することにより高磁場シフトすることが確認できる(δ=4.61ppm→δ=4.51ppm)。アミド結合のプロトンは用いるポリイソシアネート種によりケミカルシフトが変化するが、δ=7.5−8.5ppm付近に確認することが出来る。
【0067】
<酸素透過係数>
ポリグリコール酸系樹脂の厚み150μmのプレスフィルムの酸素透過性について、JIS K−7126に従い、モコン(MOCON)社製オキシトラン(OXTRAN)装置を用い、23℃、80%RHの条件で酸素透過係数を測定した。
【0068】
[製造例1]
デュポン社製のグリコール酸(Glypure99)380g(5.0mol)と無水コハク酸(和光純薬社製)12.17g(0.1217mol)とをディーンスタークトラップおよび窒素導入管が備え付けられた1000mlのセパラブルフラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、常圧、30L/minの窒素気流下で、140℃に加熱したオイルバスにより昇温しグリコール酸を溶解した。該フラスコ内を徐々に減圧し、100mmHgで3時間、反応マスが白濁するまで保持した。次に、オイルバス温度を180℃まで昇温し、さらに3時間、固化するまで反応を継続した。得られた白色個体を粉砕機により粉砕し、窒素気流下、180℃で12時間乾燥し、白色グリコール酸オリゴマー[オリゴマーA]288gを得た。オリゴマーAのGPC測定による重量平均分子量(Mw1)は17600であった。また、1H−NMR測定により算出した末端官能基がカルボキシル基である割合は96%であり、カルボキシル基末端モル数は7.1065×10-4(mol/g)であった。DSC測定により、Tg 29.6℃、Tm 209℃、結晶化度64%であった。
【0069】
[製造例2]
デュポン社製のグリコール酸(Glypure99)380g(5.0mol)と無水コハク酸(和光純薬社製)5.94g(0.0594mol)とをディーンスタークトラップおよび窒素導入管が備え付けられた1000mlのセパラブルフラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、常圧、30L/minの窒素気流下で、140℃に加熱したオイルバスにより昇温しグリコール酸を溶解した。該フラスコ内を徐々に減圧し、100mmHgで2.5時間、反応マスが白濁するまで保持した。次に、オイルバス温度を180℃まで昇温し、さらに1時間、固化するまで反応を継続した。得られた白色個体を粉砕機により粉砕し、窒素気流下、180℃で12時間乾燥し、白色グリコール酸オリゴマー[オリゴマーB]275gを得た。該オリゴマーBのGPC測定による重量平均分子量(Mw1)は30000であった。また、1H−NMR測定により算出した末端官能基がカルボキシル基である割合は92%であり、カルボキシル基末端モル数は4.726×10-4(mol/g)であった。DSC測定により、Tgは観測できず、Tm 219℃、結晶化度52%であった。
【0070】
[製造例3]
デュポン社製のグリコール酸(Glypure99)380g(5.0mol)をディーンスタークトラップおよび窒素導入管が備え付けられた1000mlのセパラブルフラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、常圧、30L/minの窒素気流下で、140℃に加熱したオイルバスにより昇温しグリコール酸を溶解した。該フラスコ内を徐々に減圧し、100mmHgで2.0時間、反応マスが白濁するまで保持した。次に、オイルバス温度を180℃まで昇温し、さらに1時間、固化するまで反応を継続した。得られた白色個体を粉砕機により粉砕し、白色グリコール酸オリゴマー[オリゴマーC]285gを得た。該オリゴマーCのGPC測定による重量平均分子量(Mw1)は15000であった。また、1H−NMR測定により算出した末端官能基がカルボキシル基である割合は50%であり、カルボキシル基末端モル数は2.1739×10-4(mol/g)であった。DSC測定により、Tgは観測できず、Tm 210℃、結晶化度58%であった。
【0071】
[製造例4]
デュポン社製のグリコール酸(Glypure99)380g(5.0mol)と無水コハク酸(和光純薬社製)2.97g(0.0297mol)とをディーンスタークトラップおよび窒素導入管が備え付けられた1000mlのセパラブルフラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、常圧、30L/minの窒素気流下で、140℃に加熱したオイルバスにより昇温しグリコール酸を溶解した。該フラスコ内を徐々に減圧し、100mmHgで3時間、反応マスが白濁するまで保持した。次に、オイルバス温度を180℃まで昇温し、さらに1時間、固化するまで反応を継続した。得られた白色個体を窒素気流下、180℃で1時間乾燥し、白色グリコール酸オリゴマー[オリゴマーD]288gを得た。該オリゴマーDのGPC測定による重量平均分子量(Mw1)は23300であった。また、1H−NMR測定により算出した末端官能基がカルボキシル基である割合は82%であり、カルボキシル基末端モル数は4.56×10-4(mol/g)であった。DSC測定により、Tgは32℃、Tm 217℃、結晶化度50%であった。
【0072】
[実施例1]
製造例1で合成したオリゴマーA30g(カルボキシル基として0.0213mol)およびステアリン酸マグネシウム22mg(0.0372mmol)とを攪拌棒を取り付けた100mlの側管付きガラスフラスコに装入した。該フラスコ内を3回窒素置換後、窒素雰囲気下で、240℃まで昇温しオリゴマーを溶解した。次に、該フラスコ内にヘキサメチレンジイソシアネート2.54g(0.0151 mol、末端カルボキシル基に対しイソシアネート基が1.42倍モル)を加え、合計25分反応させた後、テフロン(登録商標)シート上に取り出しポリグリコール酸系樹脂を得た。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、142000であり、重量平均分子量は8倍まで増大した。上記測定方法により1H−NMRを測定し、アミド結合生成を確認した。その他各種熱的特性データを表1に示す。
【0073】
さらに該樹脂約4gをポリイミドフィルム(商標名ユーピレックス(宇部興産社製))に挟み、250℃に加熱した真空熱プレス機に挿入し5分間かけて減圧した後、3MPaで20秒間真空熱プレスした。急冷後、ポリイミドフィルムから、得られたフィルムを剥離し、膜厚150μmの透明フィルムを得た。該プレスフィルムの酸素透過係数を上記測定方法により測定した結果もあわせて表1に示す。
【0074】
[実施例2]
ヘキサメチレンジイソシアネートをm−キシリレンジイソシアネート(末端カルボキシル基に対しイソシアネート基が1.30倍モル)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリグリコール酸系樹脂が得られた。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、188000であり、重量平均分子量は約11倍まで増大した。上記測定方法により1H−NMRを測定し、アミド結合生成を確認した。実施例1と相違する帰属を以下に示す。
δ=4.30ppm、ダブレット:ベンジル位プロトン
δ=4.60ppm、シングレット:グリコール酸ユニットのアミド結合隣接α位のメチレンプロトン
δ=7.12−7.28ppm、マルチプレット:ベンゼン環プロトン
δ=8.20ppm、ブロード:アミドプロトン
その他各種熱的特性データを表1に示す。
また実施例1と同様にプレスフィルムを作成し、透明なフィルムを得た。該プレスフィルムの酸素透過係数を上記測定方法により測定した結果もあわせて表1に示す。
【0075】
[実施例3]
オリゴマーAを製造例2で合成したオリゴマーBに変更し、さらにm−キシリレンジイソシアネートを末端カルボキシル基に対しイソシアネート基が1.24倍モルになるように用いた以外は実施例2と同様にしてポリグリコール酸系樹脂を得た。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、196000であり、重量平均分子量は約6.5倍まで増大した。上記測定方法により1H−NMRを測定し、アミド結合生成を確認した。その他各種熱的特性データを表1に示す。
【0076】
[比較例1]
オリゴマーAを製造例3で合成したオリゴマーCに変更した以外は実施例1と同様にして反応を行った。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、18000であり、重量平均分子量はほとんど増大しなかった。
また実施例1と同様にプレスフィルムを作成したが、フィルムとならなかった。
【0077】
[比較例2]
オリゴマーAを製造例3で合成したオリゴマーCに変更し、さらにヘキサメチレンジイソシアネートを末端カルボキシル基に対しイソシアネート基が2.40倍モルになるように用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、25500であり、重量平均分子量はほとんど増大しなかった。
また実施例1と同様にプレスフィルムを作成したが、フィルムとならなかった。
【0078】
[比較例3]
オリゴマーAを製造例4で合成したオリゴマーDに変更し、さらにヘキサメチレンジイソシアネートを末端カルボキシル基に対しイソシアネート基が1.32倍モルになるように用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw2)を測定したところ、68000であり、重量平均分子量は2.9倍までしか増大しなかった。
また実施例1と同様にプレスフィルムを作成したが、強度のあるフィルムとならなかった。
【0079】
[参考例]
グリコリド(ピュラック社製)116g(1.0mol)を攪拌機を取り付けた200mLガラス反応器に装入したのち、窒素置換を3回行った。窒素雰囲気下、オクタン酸錫のトルエン溶液(1.0M)5mLおよびグリコール酸 220mg(2.3mmol)を加えたのち、トルエンを減圧下で留去した。混合物を200℃、3時間加熱攪拌し、固化した白色生成物を取り出した。該生成物を粉砕後、窒素気流下、180℃で3時間乾燥し、グリコリドの開環重合によるポリグリコール酸を得た。
【0080】

【表1】

【0081】
表1に実施例1−3、比較例1−3のポリグリコール酸系樹脂および参考例のグリコリドの開環重合により合成したポリグリコール酸ホモポリマーの分析値を示した。表から末端カルボキシル基率の高いグリコール酸オリゴマーを用いた場合、Mwが高いポリグリコール酸系樹脂が得られることが分かる。また、Tcがポリグリコール酸ホモポリマーと比較し低くなっており、結晶化を制御しやすい樹脂であることが分かる。実施例1−3のポリグリコール酸系樹脂から良好なフィルムが得られ、酸素透過係数はポリグリコール酸ホモポリマーと同等であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とを反応させて得られ、下記式(1)で表わされる構成単位を含むことを特徴とするポリグリコール酸系樹脂。
【化1】

(式(1)において、Rはポリイソシアネート残基であって、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環構造を含む炭素数3〜20の炭化水素基または芳香環を含む炭素数6〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
ポリグリコール酸系樹脂の重量平均分子量(Mw2)が前記グリコール酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw1)の3倍以上であり、かつMw2が90,000以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリグリコール酸系樹脂。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリグリコール酸系樹脂。
【請求項4】
示差走査熱量測定において昇温速度10℃/分で加熱した場合のセカンドランでの融点(Tm)(融解ピークのピークトップ)が200℃≦Tm≦220℃であり、かつ240℃で熱履歴を受けた後の降温速度10℃/分における結晶化点(Tc)(結晶化ピークのピークトップ)が90℃≦Tc≦150℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリグリコール酸系樹脂。
【請求項5】
末端官能基がカルボキシル基である割合が90%を超えるグリコール酸オリゴマーと、ポリイソシアネート化合物とをアミド化触媒の存在下反応させる工程を含むことを特徴する請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリグリコール酸系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート化合物が、ジイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項5に記載のポリグリコール酸系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記アミド化触媒が、周期律表第1族、2族および3族に属する金属群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のポリグリコール酸系樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記アミド化触媒が、マグネシウムまたはカルシウムを含むことを特徴とする請求項5または6に記載のポリグリコール酸系樹脂の製造方法。
【請求項9】
反応を前記グリコール酸オリゴマーの溶融状態で行うことを特徴とする請求項5〜8に記載のポリグリコール酸系樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリグリコール酸系樹脂を含有する成形体。

【公開番号】特開2011−52110(P2011−52110A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202025(P2009−202025)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】