説明

ポリグリセリン組成物を用いた熱安定性改良剤及びハロゲン含有樹脂組成物

【課題】熱安定性及び耐着色性に優れた、ハロゲン含有樹脂組成物を提供する。
【解決手段】グリセリンの割合が1重量%未満、及びジグリセリンの割合が30重量%未満であり、且つ5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%未満であるポリグリセリン組成物を含有する熱安定性改良剤、及びそれを含有するハロゲン含有樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリセリン組成物を用いた熱安定性改良剤、及びこの熱安定性改良剤を含有するハロゲン含有樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン含有樹脂において塩化ビニル系樹脂は、加熱成形加工時に、脱ハロゲン化水素を伴った分解から変色劣化を起こしやすいことが知られている。これらの劣化を防止する目的で予め塩化ビニル樹脂に熱安定剤を添加し安定性を改善する試みがなされている。
【0003】
熱安定剤として従来から使用されていた鉛化合物、カドミウム化合物は塩化ビニル樹脂への熱安定性付与効果は大きいが毒性が心配されるため、環境への安全性の観点で、低毒性のバリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウムを複合化させた安定剤への置き換えが望まれており、その熱安定性への効果から亜鉛化合物が最も一般的である。しかし、これら低毒性の安定剤だけでは、熱安定剤の性能が十分ではなく、亜鉛化合物を使用した塩化ビニル系樹脂は一旦劣化が始まると塩化亜鉛が生成し、これが樹脂の劣化を促進する触媒となるため急激に樹脂が劣化する亜鉛焼けを引き起こす。これを抑制する為に、多価アルコール系熱安定性改良剤を併用することで効果を示すことが知られている。多価アルコールとしてはマンニット、ソルビット、ペンタエリスリトール及びその縮合物、トリメチロールプロパン及びその縮合物、グリセリン及びその縮合物及びそれらのエステル誘導体が挙げられるが、それらの中でグリセリンを縮合したポリグリセリン組成物を熱安定剤と併用して塩化ビニル系樹脂に添加することが報告されている(特許文献1)。
しかながら、上記ポリグリセリン組成物の併用では熱安定化効果が不足し、塩化ビニル系樹脂が着色する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−1190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、これまでに種々検討はなされているものの、鉛又はカドミウム系安定剤を使用しない配合で、熱安定性及び耐着色性に関し熱安定剤として、充分な効果を示すものが得られていなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、熱安定剤の改良により、鉛又はカドミウム系安定剤を使用しない配合でも、充分な熱安定性及び耐着色性を示すハロゲン含有樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の割合で構成された、ポリグリセリン組成物を含有する熱安定性改良剤を使用したハロゲン含有樹脂組成物は、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、グリセリンの割合が1重量%未満、及びジグリセリンの割合が30重量%未満であり、且つ5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%未満であるポリグリセリン組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、上記ポリグリセリン組成物を含有する熱安定性改良剤を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
また、本発明は、上記熱安定性改良剤を含有するハロゲン含有樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハロゲン含有樹脂組成物によれば、鉛化合物、カドミウム化合物の安定剤を使用することなく、優れた熱安定性及び耐着色性を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリグリセリン組成物、これを用いた熱安定性改良剤及びハロゲン含有樹脂組成物の好適な実施の形態について詳細に説明する。本発明の熱安定性改良剤は、グリセリンの割合が1重量%未満、及びジグリセリンの割合が30重量%未満であり、且つ5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%未満であるポリグリセリン組成物を含有する。
【0013】
上記ポリグリセリン組成物の総量に対し、グリセリンの割合が1重量%以上または、及びジグリセリンの割合が30重量%以上では、かかるハロゲン含有樹脂組成物の加工温度で組成物の一部が揮発し、加工機器を汚染するため好ましくなく、またこの影響で本発明の効果が得られなくなる。
【0014】
更に、5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%以上含まれると、かかるハロゲン含有樹脂組成物との相溶性が悪くなるため、加工時に十分な効果が得られなくなり、また、加工後も製品からこれらのグリセリン縮合物が樹脂表面にブリードアウトし、品質を低下させるため好ましくない。
【0015】
本発明においては、組成物の総量に対し、グリセリンの割合が1重量%未満、及びジグリセリンの割合が30重量%未満であり、且つ5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%未満であるポリグリセリン組成物が特に好ましく使用される。
【0016】
本発明の熱安定性改良剤は、上記ポリグリセリン組成物を含有するものである。本発明の熱安定性改良剤は、ハロゲン含有樹脂100重量部に対して、上記ポリグリセリン組成物を0.01重量部〜10重量部含有することが好ましく、上記ポリグリセリン組成物を0.05重量部〜5重量部含有することが特に好ましい。
【0017】
本発明で対象となるハロゲン含有樹脂とはポリ塩化ビニル、塩化ビニルとそれと共重合するモノマーとの共重合体(共重合には同時に重合する共重合の他ブロック共重合、グラフト共重合が含まれる)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリプロピレン、これらの混合体、さらには上記重合体と他の重合体との混合体を指す。
【0018】
本発明のハロゲン含有樹脂組成物に含有される亜鉛化合物は、金属亜鉛以外で塩化ビニル樹脂に対して添加されうるものであればよく、亜鉛のカルボン酸塩類、メルカプチド、フェノレート、無機化合物などが挙げられ、少なくとも一種または二種以上を併用して配合することが耐着色性に優れた製品が得られるため好ましい。
【0019】
上記、亜鉛のカルボン酸塩としては例えば、モンタン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、リノール酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、乳酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、リシノレイン酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、クロトン酸亜鉛等のモノカルボン亜鉛塩、アゼライン酸亜鉛、セバシン酸亜鉛、ダイマー酸亜鉛、マロン酸亜鉛、コハク酸亜鉛、マレイン酸亜鉛、アジピン酸亜鉛、グルタル酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、酒石酸亜鉛等の脂肪族ジカルボン酸亜鉛あるいはそのジカルボン酸モノエステルの亜鉛塩、クエン酸亜鉛等の脂肪族トリカルボン酸亜鉛あるいはそのトリカルボン酸のモノ又はジエステルの亜鉛塩等の無置換あるいは置換脂肪族モノあるいはポリカルボン酸亜鉛;安息香酸亜鉛、o−、m−及びp−トルイル酸亜鉛、p−第三級ブチル安息香酸亜鉛、p−ヒドロキシ安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛等の芳香族モノカルボン酸亜鉛、フタル酸亜鉛、イソフタル酸亜鉛、テレフタル酸亜鉛等の芳香族ジカルボン酸亜鉛あるいはそのジカルボン酸モノエステルの亜鉛塩、トリメリット酸亜鉛、ピロメリット酸亜鉛等の芳香族トリカルボン酸亜鉛あるいはそのトリカルボン酸モノ又はジエステルの亜鉛塩等の無置換あるいは置換芳香族モノあるいはポリカルボン酸亜鉛;チオグリコール酸亜鉛、メルカプトプロピオン酸亜鉛、チオリンゴ酸亜鉛、チオジプロピオン酸亜鉛等の含イオウモノあるいはポリカルボン酸亜鉛;グリシン亜鉛、アラニン亜鉛、焼成グルタミン酸亜鉛等のアミノモノあるいはポリカルボン酸亜鉛等が挙げられる。
【0020】
また、上記亜鉛のメルカプチドとしては例えば、亜鉛ラウリルメルカプチド、亜鉛チオフェノレート等が挙げられる。
【0021】
また、亜鉛のフェノレートとしては例えば、フェノール、クレゾール、キシロール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のフェノール類と亜鉛とのフェノレート等が挙げられる。
【0022】
また、上記亜鉛の無機化合物としては例えば、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、ロダン亜鉛、燐酸亜鉛、亜燐酸亜鉛等の無機亜鉛化合物が挙げられる。
【0023】
亜鉛化合物の使用量についてはハロゲン含有樹脂組成物100重量部に対して0.5〜20重量部が好ましい。
【0024】
本発明のハロゲン含有樹脂組成物は金属塩類化合物を含有することが出来る。ハロゲン含有樹脂組成物に含有することが出来る金属塩類化合物としては金属のカルボン酸塩類、メルカプチド及びフェノレート、塩基性炭酸塩等である。具体的には金属種としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、すず、ジ又は/及びモノアルキルすず等であり、対するアニオンとしては天然脂肪酸、合成脂肪酸、多価脂肪族カルボン酸、1価あるいは多価の無置換あるいは置換芳香族カルボン酸、アミノ酸、1価あるいは多価の無置換あるいは置換フェノール、1価あるいは多価の無置換あるいは置換脂肪族メルカプタン、炭酸である。具体的にはモンタン酸、コメ糠脂肪酸、ベヘン酸、エルシン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、コメ脂肪酸、リシノレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オクチル酸、イソステアリン酸、ダイマー酸、ナフテン酸、酢酸、アゼライン酸及びそのモノエステル、セバチン酸及びそのモノエステル、アジピン酸及びそのモノエステル、コハク酸及びそのモノエステル、マロン酸及びそのモノエステル、マレイン酸及びそのモノエステル、クロトン酸及びそのモノエステル、リンゴ酸及びそのモノエステル、酒石酸及びそのモノエステル、クエン酸及びそのモノエステル又はジエステル、乳酸、グリコール酸、チオグリコール酸及びそのエステル、メルカプトプロピオン酸及びそのエステル、チオリンゴ酸及びそのモノエステル又はジエステル、チオジプロピオン酸及びそのモノエステル、安息香酸、o−,m−及びp−トルイル酸、p−第三級ブチル安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル、サルチル酸及びそのエステル、フタル酸及びそのモノエステル、イソフタル酸及びそのモノエステル、テレフタル酸及びそのモノエステル、トリメリット酸及びそのモノエステル又はジエステル、焼成グルタミン酸、グリシン、アラニン、フェノール、クレゾール、キシロール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ラウリルメルカプタン、及び炭酸等である。
【0025】
本発明でハロゲン化樹脂組成物の性能を向上させるために他のいかなる添加剤とも併用することが出来る。それらの添加剤は例えば熱安定性を向上させる目的で添加する無機系安定剤、金属塩類化合物、ハイドロタルサイト類、ホスファイト類、エポキシ化合物、酸化防止剤、初期着色改良剤、ピペリジン誘導体、加工性を向上させる目的で添加する滑剤、加工助剤、成形品の性能向上、寿命の延長、外観・美観の保持の為に添加する可塑剤、発泡剤、充填剤、強化剤、紫外線吸収剤、防虫・坑菌剤、着色剤等である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例、試験例を示し、本発明を説明するが、その要旨を超えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0027】
<ポリグリセリン組成物A〜Fの合成>
温度計、攪拌機を備えた反応容器に精製グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)、及び触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて250℃で反応させ、ポリグリセリン組成物を得た。次いで、この組成物を減圧蒸留して表1に示すポリグリセリン組成物A〜Fを得た。
【0028】
以下の実施例及び比較例では、表1に示すポリグリセリン組成物A〜Fを用いた。尚、ポリグリセリンの組成分析はガスクロマトグラフィーで下記の通り条件で行いGCの面積比を組成として示した。
カラム:OV−1
検出器:FID
誘導化:TMS−HT(試薬:東京化成工業)
【0029】
【表1】

【0030】
<実施例1〜2及び比較例1〜4>
塩化ビニル樹脂(試薬、重合度約1000)100重量部、ステアリン酸亜鉛(試薬)1重量部及びステアリン酸カルシウム(試薬)1重量部、ハイドロタルサイト(試薬)0.5重量部からなる配合系にポリグリセリン組成物A〜Fを各1重量部添加しよく混合した後に、180℃に加熱した径6インチの混練り用試験ロールで3分間、よく切り返しを行い混練り圧延した後、平坦台の上で冷却し、厚さ0.6〜0.7mmのシートを調製した。
更にシートを1片20mmの試料に裁断し、予め185℃に加熱したギヤオーブン老化試験器に入れ試料を適時取り出し、完全に黒化するまでの時間を測定した。
【0031】
[加工時の耐着色性]
実施例、比較例で得られたシートを目視にてその耐着色性を以下の基準で評価した。これらの結果を表2に示す。
(基準)
○:シートが透明から淡黄色で均一
△:シートがやや褐色で均一または一部不均一な部分が見られる
×:シートが褐色で均一または一部不均一な部分が見られる
【0032】
【表2】

【0033】
表2の結果から実施例1及び実施例2のハロゲン化樹脂組成物は比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4と比べ熱安定性及び耐着色性において優れた性能であることが分かった。
【0034】
実施例、比較例で具体的に述べたように、本発明により鉛又はカドミウム系安定剤を使用しない配合でも、充分な熱安定性及び耐着色性を示すハロゲン含有樹脂組成物を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンの割合が1重量%未満、及びジグリセリンの割合が30重量%未満であり、且つ5量体以上のグリセリン縮合物の割合が30重量%未満であるポリグリセリン組成物を含有する熱安定性改良剤。
【請求項2】
請求項1記載の熱安定性改良剤及び亜鉛化合物を含有するハロゲン含有樹脂組成物。
【請求項3】
ハロゲン含有樹脂100重量部に対して、上記熱安定性改良剤を0.01重量部〜10重量部含有する請求項2のハロゲン含有樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−87224(P2013−87224A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229989(P2011−229989)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】