説明

ポリケトン叩解短繊維の製造方法

【課題】本発明は、高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を短時間で製造することが可能なポリケトン叩解短繊維の製造方法を提供するものである。
【解決手段】繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトン繊維を長さ1〜20mmにカットし、このカット繊維をデスクリファイナーで叩解し高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を製造するに際して、外周全体に渡って幅2〜10mmの縁が設けられた構造のプレートで叩解処理することを特徴とするポリケトン叩解短繊維の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリケトン短繊維に関し、さらに詳しくは高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耐熱性や耐薬品性に優れた機能紙の需要が増大している。機能紙に要求されるスペックは厳しく、たとえば自動車用コンデンサーのセパレーター紙には、150℃以上の耐熱性、濃度30%以上、温度40℃以上での耐薬品性が要求されている。この様な機能紙にあっては、従来の木材パルプを原料とする紙では、実用に耐えられない為、新規な素材による紙が求められている。ポリケトン繊維は、耐熱性、耐薬品性に優れ且つ不純物(塩素イオン、金属イオン)の析出も少ないという特性を有するため、機能紙の素材として有望視され、実用化を目指して検討が進められている。機能紙は高い紙強度を要求される為、繊維を高度にフィブリル化させたパルプを原料とするが、ポリケトン繊維を短時間で高度にフィブリル化させることは難しく、種々の検討が為されている。たとえば特許文献1ではポリケトンカット繊維を、ビーターやリファイナーで予備叩解した後、高圧ホモジナイザーでさらに叩解処理することで、高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を得る方法が開示されている。しかしこの方法で得られたポリケトン叩解短繊維は繰り返しの叩解によって繊維長が著しく短かくなっているため、繊維同士の絡み合いが起こらず紙強度は低レベルのままである。
【0003】
【特許文献1】国際公開2006−123456号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、ポリケトンカット繊維をデスクリファイナ−で叩解処理するに際して、特定の構造のプレートを使うことで、フィブリル化が促進し短時間で高度にフィブリル化したポリケトン短繊維が得られることを見出した。またこのポリケトン叩解短繊維は繊維長が長いという特徴を有するため、繊維同士の絡まり合いが多く、紙強度が向上することを見出し本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトン繊維を長さ1〜20mmにカットし、このカット繊維をデスクリファイナーで叩解し高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を製造するに際して、外周全体に渡って幅2〜10mmの縁が設けられた構造のプレ−トで叩解処理することを特徴とするポリケトン短繊維の製造方法である。
【化1】

【発明の効果】
【0006】
本発明は、耐熱性、耐薬品性に優れ、不純物(塩素イオン、金属イオン)の析出が少なく、高強度な機能紙を得るための原料として好適なポリケトン叩解短繊維の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上好ましくは98モル%以上特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

(但し、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレンと1−フェニルエチレンが混在していてもよい。)
【0008】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上、20dl/g以下、15dl/g以下、10dl/g以下が好ましい。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

(式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。)
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0009】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上、8%以下、より好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
好ましい単糸繊度は、0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtex、モノフィラメント糸の場合は、10〜100000dtexである。
【0010】
本発明のポリケトン叩解短繊維は前述したポリケトン繊維を1〜20mmに裁断したカット繊維をデスクリファイナー叩解処理して製造する。 裁断機は一般的なギロチンカッター、あるいはロータリーカッターで良い。カット繊維の長さは特に限定されないが1〜20mmが好ましく、より好ましくは、1.5〜10mm、特に好ましくは2〜8mmである。カット繊維長が1mm未満の場合にはポリケトン叩解短繊維の長さが短かくなるため繊維同士の絡み合いが不足し強度が発現されない。カット繊維長が20mmより大きい場合には、ポリケトン叩解短繊維の先端が丸まって毛玉状になり、品位不良、厚み斑の大きい紙になってしまう。
カット繊維は水に分散させスラリーの状態でデスクリファイナーに供給する。カット繊維濃度は0.2〜10%、好ましくは0.3〜8%、さらに好ましくは0.5〜5%である。カット繊維の濃度が0.2%未満の場合、水が多すぎて、カット繊維同士、あるいはカット繊維と金属刃の擦過が起こらないためフィブリル化が進まない。カット繊維濃度が10%を超えると、カット繊維同士、カット繊維と金属刃の擦過力が強くなりすぎて、ポリケトン叩解短繊維長が著しく短くなるため好ましくない。
【0011】
本発明のポリケトン叩解短繊維は特定の構造のプレートを取り付けたデスクリファイナーで叩解処理することを特徴とする。この特定の構造のプレート以外では高度にフィブリル化し且つ繊維長が大きいポリケトン叩解短繊維を得ることは出来ない。また他の叩解機、例えばビーターを使った場合には高度にフィブリル化させる事が不可能であり、さらに高圧ホモジナイザーを使った場合には高度にフィブリル化させることは可能であるが、繊維長が著しく短くなってしまうため紙強度を発現させることは出来ない。
デスクリファイナーのプレートは外周全体に渡って幅2〜10mmの縁を設けた構造であることが重要である。この縁があるためにスラリーはせき止められ滞留する。この滞留している間にカット繊維が金属刃によって擦過されフィブリル化が進行する。またカット繊維同士がぶつかりあうことでさらにフィブリル化が促進する。縁が無い場合にはカット繊維のほとんどは素通りしてしまうため、フィブリル化が進まない。縁の幅は2〜10mmであり、好ましくは3〜8mm、さらに好ましくは4〜6mmである。
【0012】
図を用いてさらに説明する。図−1は外周全体に渡って縁が設けられた構造のプレートである。1)が外周縁、2)はカット繊維を叩解するための金属刃、3)は溝(スラリーの流路)である。図−2は木材パルプの叩解処理に使われる一般的な縁が設けられていない構造のプレートである。プレートに取り付けられる金属刃の刃幅は2〜5mmが好ましくさらに好ましくは3〜4mmである。刃幅が2mmよりも小さいと擦過力が小さくなりフィブリル化が進まない。刃幅が5mmを超えるとカット繊維が過大な擦過力を受け繊維長が短くなる。プレートに取り付けられる金属刃の枚数は、周方向等間隔に、外周長あたり0.10〜0.20枚であることが好ましい。外周長あたり0.1〜0.20枚とは例えば外径が305cmの場合、305×3.14×(0.10〜0.20)であるため、96枚〜190枚の刃を設置する事を意味する。幅2〜5mmの金属刃を周方向等間隔に外周長あたり0.10〜0.20枚設けることによって、カット繊維は適度な擦過力を受けフィブリル化が進行する。枚数が0.20より多いと摩過力が過大となり繊維長が短くなる。0.10より少ないと刃が粗くなってしまいカット繊維は素通りしフィブリル化が進まない。
【0013】
金属刃は5〜30°傾斜した状態で取り付けられていることが好ましい。5〜30°傾斜していることでカット繊維は素通りすることなく刃に接触し擦過力を受けフィブリル化が促進する。傾斜角度は5〜30°であり好ましくは8〜25°さらに好ましくは10〜20°である。傾斜角度が5°未満の場合にはカット繊維の素通りが多くなりフィブリル化が進まない。30°を超えるとカット繊維が刃にまともにぶつかるためカット繊維の切断が進行し繊維長が短くなってしまう。
本発明の叩解処理はシングルデスクリファイナーで行っても良いし、ダブルデスクリファイナーで行っても良い。生産量などを勘案し決定すれば良い。
【0014】
ポリケトン叩解短繊維の物性は比表面積値と平均繊維長で表すことが出来る。比表面積値はマウンテック(株)製の比表面積計を使いBHT標準法にて測定した。本発明方法で得られるポリケトン叩解短繊維の比表面積値は4〜10m2/gである。比表面積値が4m2/g未満の場合には繊維同士の絡み合いが不足するため紙強度が向上しない。比表面積値が10m2/gを超えると繊維長が短くなってしまうため紙強度が向上しない。好ましい範囲は5〜8m2/gである。繊維長はネスレオートメーション(株)製 カヤーニファイバーアナライザーFS200を使い、ポリケトン短繊維10000本の繊維長をレーザー光により計測し所定の計算式にしたがって平均繊維長(LW)を算出した。平均繊維長(LW)は0.3〜4mmであり、好ましくは0.4〜3.5mm、もっとも好ましくは0.5〜3mmが良い。平均繊維長が0.3mm未満の場合には、紙強度が発現されない。平均繊維長が4mmを超える場合にはフィブリルの先端が丸まって毛玉が出来、品位不良となるため好ましくない。
ポリケトン叩解短繊維は湿式抄紙法によって抄紙しポリケトン繊維紙を得る。この後、ポリケトン繊維紙は自然乾燥した後、ホットプレスにて105℃×5分間の仕上げ処理を行ない製品とする。
【実施例】
【0015】
本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)比表面積値
マウンテック(株)製の比表面積計Macsorb HM model−1201を使いBHT標準法にて測定した。
(2)平均繊維長(LW)
ネスレオートメーション(株)製 カヤーニファイバーアナライザーFS200を使い、ポリケトン短繊維10000本の繊維長をレーザー光により計測し、所定の計算式にて加重平均繊維長(LW)を算出した。
【0016】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)をギロチンカッターにて裁断し長さ5mmのカット繊維を得た。このカット繊維1kgを100リッターの水に入れて繊維濃度1%のスラリーを作成した。このスラリーを熊谷理機株式会社製シングルデスクリファイナー(型式KRK型高濃度リファイナー、プレート直径=305mm)を使って、プレート回転数=1750rpm、プレートクリアランス=0.05mm、流量=30L/minで60分間、叩解処理を行った。このときプレートは、外周縁=有り、外周縁幅=5mm、金属刃幅=3mm、金属刃本数=150本(外周長あたり0.15)金属刃傾斜角度=15°の構造のプレートを使用した。得られたポリケトン短繊維の物性を表1に示す。高度にフィブリル化しており且つ繊維長も長くポリケトン繊維紙用原料として好適なものであった。
【0017】
[比較例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)をギロチンカッターにて裁断し長さ5mmのカット繊維を得た。このカット繊維1kgを100リッターの水に入れて繊維濃度1%のスラリーを作成した。このスラリーを熊谷理機株式会社製シングルデスクリファイナー(型式KRK型高濃度リファイナー、プレート直径=305mm)を使って、プレート回転数=1750rpm、プレートクリアランス=0.05mm、流量=30L/minで60分間、叩解処理を行った。このときプレートは、外周縁が無い事以外は実施例1と同じ刃幅、刃本数、刃傾斜角度のものを使用した。得られたポリケトン叩解短繊維の物性を表1に示す。フィブリル化が進んでおらず、比表面積値は低レベルであった。
【0018】
[比較例2]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)をギロチンカッターにて裁断し長さ5mmのカット繊維を得た。このカット繊維1kgを100リッターの水に入れて繊維濃度1%のスラリーを作成した。このスラリーを熊谷理機株式会社製シングルデスクリファイナー(型式KRK型高濃度リファイナー、プレート直径=305mm)を使って、プレート回転数=1750rpm、プレートクリアランス=0.05mm、流量=30L/minで180分間、叩解処理を行った。このときプレートは、外周縁が無い事以外は、実施例1と同じ刃幅、刃本数、刃傾斜角度のものを使用した。得られたポリケトン叩解短繊維の物性を表1に示す。フィブリル化は進んでいるが、平均繊維長が著しく短くなっており強度が要求される紙用パルプとしては不適なものであった。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を短時間で製造することが可能なポリケトン叩解短繊維の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図−1は外周全体に渡って外周縁が設けられた構造のプレートである。
【図2】図−2は木材パルプの叩解処理に使われる一般的な外周縁が設けられていない構造のプレートである。
【符号の説明】
【0022】
1)外周縁
2)金属刃
3)溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位の95モル%以上が、下記式(1)で示されるポリケトン繊維を長さ1〜20mmにカットし、このカット繊維をデスクリファイナーで叩解し高度にフィブリル化したポリケトン叩解短繊維を製造するに際して、外周全体に渡って幅2〜10mmの縁を設けた構造のプレートで叩解処理することを特徴とするポリケトン叩解短繊維の製造方法。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−163481(P2008−163481A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351686(P2006−351686)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/高性能ポリケトン繊維の工業化基盤技術の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】