説明

ポリコサノールをベースにした会合性モノマーと、それに対応する会合性増粘剤およびその使用

本発明は、生物資源を原料としたポリコサノール、特にオクタコサノールをベースにした末端疎水性鎖を有する新規な会合性モノマーに関する。本発明はさらに、このモノマーと、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸のエステルの一種とから製造されるHASE型会合性コポリマーに関する。本発明はさらに、これらのコポリマーの、水性配合物用の増粘剤としての使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会合性増粘剤、特にHASE「Hydrophobically modified Alkali-Soluble Emulsion、疎水変性アルカリ可溶性エマルション」タイプの会合性増粘剤 (epaississantes) の分野に関するものである。この増粘剤は塗料のような水溶性配合物で用いられる。
【背景技術】
【0002】
本発明が主として対象にするのは生物資源原料であるポリコサノール(polycosanols)をベースにした新規な会合性モノマーである。このモノマーは上記HASEタイプの増粘剤の製造に用いられる。従って、生物資源起源のレオロジー添加剤の新しいシリーズが得られる。さらに、この増粘剤はそれを添加した水性配合物に極めて有利な特性、例えばチキソトロピー効果を与えることができる。
【0003】
無機充填剤を含む水溶性塗料配合物は水相と、液相中の一種または複数のエマルションポリマー(バインダとよばれる)と、充填剤および/または顔料と、分散剤と、各種添加剤(例えば界面活性剤、融合剤、殺生物剤、消泡剤)と、少なくとも一種の増粘剤とから成る。
【0004】
上記増粘剤を用いることで、それを添加した水溶性配合物(特に水溶性塗料)はその製造、運搬または貯蔵の段階および塗布の段階の両方でそのレオロジーを制御することができる。これらの各段階では種々の実用的制約から互いに異なる種々のレオロジー特性が要求される。経時的安定性という理由および塗料を垂直面上に塗布可能にするという理由の両方の理由から、当業者が水性配合物で求める有効な増粘効果は使用中に飛散がないこと等にまとめることができる。そのため、レオロジー特性のこの制御に寄与する添加剤は「増粘剤 (epaississantes)」という用語を用いて表されてきた。
【0005】
増粘剤の中で「アソシアティブ(associative)(会合性、結合性)」増粘剤として知られる増粘剤は他とは区別されている。この増粘剤は不溶性疎水基を有する水溶性ポリマーである。
【0006】
この高分子は会合性の特徴を有する。すなわち、水中に導入した時に疎水団がミセル凝集体の形で集合する傾向がある。この凝集体はポリマーの親水部によって互いに結合して3次元網が形成される。それによって媒体の粘度が高くなる。
【0007】
会合性増粘剤の作用機構および特徴は周知であり、例えば非特許文献1および2に記載されている。
【0008】
これら会合性増粘剤の中でHASE「Hydrophobically modified Alkali-Soluble Emulsion、疎水変性アルカリ可溶性エマルション」タイプの会合性増粘剤のクラスは他と区別されている。この増粘剤は(メタ)アクリル酸と、そのエステルと、「疎水性」モノマー(実際には一端が官能化可能で、他端に疎水基を有するオキシアルキル化鎖)から成る疎水性モノマーとのコポリマーである。増粘剤の示すレオロジー特性の大部分はこの末端疎水基によって決まるので、末端疎水基の選択は特に重要である。
【0009】
非特許文献3および非特許文献4はHASEタイプの増粘剤を含む水性塗料の低い剪断勾配粘度が疎水基の炭素原子数が16以上になった場合に増加するということを示している。
【0010】
非特許文献5は疎水基が8〜20の炭素原子を有するアルキル鎖であるHASEタイプの増粘剤に関するものであり、剪断勾配での粘度ではあるが、アルキル鎖が有する炭素原子の数とともに粘度が極めて大きく増加することを示している。
【0011】
従って、これらの全ての文献が教えていることは、より高い増粘効率性を得るための一つの解決策は疎水団が有する炭素原子の数を増やす、ということである。このことは当業者に周知の要素の一つで、同じタイプの疎水団では炭素原子数が増えれば水性配合物の粘度も上がる。事実、溶液状態になったときに生じるミセル凝集体の寸法は疎水団の寸法によって決まり、それが粘度の増大に直接関係する。この点に関しては非特許文献1に記載されている。
【0012】
このことは多くの特許で裏付けられており、HASEタイプのポリマーの場合、末端疎水基の炭素原子数は30にすることができ、極めて特殊な場合には40以上にすることができることが記載され、請求されている。
【0013】
すなわち、特許文献1(欧州特許第0 013 836号公報)にはメタクリル酸と、4個以下の炭素原子を有するアルキルアクリレートと、30個以下の炭素原子を有する脂肪鎖を末端に有するオキシアルキル化モノマーとをベースにしたコポリマーが開示され、水性ゲルのブルックフィールド粘度を大幅に増加させることができる。
【0014】
特許文献2(欧州特許第0 011 806号公報)には、カルボン酸ベースの酸モノマー(エチルアクリレートまたはエチルアクリレートと他のモノマーとの混合物)と、8〜20個の炭素原子を有するアルキル鎖または8〜16個の炭素原子を有するフェニルアルキル鎖を末端に有する非イオンビニル界面活性エステルとの共重合で得られる水性組成物、特にラテックス塗料用の増粘剤として用いるエマルション状態の液体ポリマーが記載されている。このポリマーはStormer(登録商標)粘度測定(中位剪断勾配)およびHaake(登録商標)粘度測定(10,000s-1以上の剪断勾配)で示されるように、中程度および高剪断勾配下で効率的である。
【0015】
上記特許文献1には、アクリルまたはメタクリル酸と、アルキルメタクリレートまたはアクリレートと、8〜30個の炭素原子を有する、アルキル団を末端に有する非イオンモノマーとのエマルション共重合で得られるコポリマーの存在が示されている。この添加剤を用いることで水性配合物の貯蔵特性を改善できる。すなわち、10回転/分で測定されるブルックフィールド(登録商標)粘度値が示すように、低剪断勾配粘度を増加できる。
【0016】
特許文献3(欧州特許第0 577 526号公報)には、カルボン酸官能基を有するエチレンモノマー(不飽和エチレンを有し、カルボン酸官能基を持たないモノマーでもよい)と、26〜30個の炭素原子を有する疎水性脂肪鎖(これ自体はアルキル、アルキルアリール、アリールアルキルまたはアリールタイプの直鎖または分岐鎖の基で構成される)を末端に有する不飽和エチレンを有するオキシアルキレートモノマーとの共重合で得られるコポリマーが記載されている。この増粘剤は水性配合物で低剪断勾配で高い粘度を得るのに特に効果的である。
【0017】
特許文献4(欧州特許第1 270 617号公報)には水性配合物で同様なレオロジー特徴を与える同じ構造のコポリマーが記載されている。このポリマーは36個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキル、アルキルアリール、アリールアルキルまたはアリール基から成る脂肪鎖を有する。
【0018】
特許文献5(欧州特許第0 705 852号公報)には、一種以上のカルボン酸モノマーと、一種以上の非イオンビニルモノマーと、30個の炭素原子を有するアリールアルキル、例えばトリスチリルフェノールで置換される疎水性フェノール団を含む一種以上の非イオンモノマーとの共重合で得られたコポリマーから成るレオロジー添加剤が記載されている。なお、特許文献6(国際特許第97/03242号公報)で本出願人が示したように、この化合物はその界面活性特性が良く知られており、特許文献6には紫外線吸収組成物、特にジ−およびトリスチリルフェノールを界面活性剤として含む組成物が記載されている。この増粘剤を用いると水性塗料に高速および中速の速度勾配で十分に満足のいくレオロジー特性が与えられる。
【0019】
特許文献7(欧州特許第1 812 482号公報)には40個以上、場合によっては50個以上の炭素原子を有するクミルフェノール誘導体の製造方法が記載されている。この化合物はその疎水基を利用したHASEタイプの会合性増粘剤組成物で用いられる。
【0020】
上記従来技術から、「効果的な」増粘特性を得るための疎水基が有する炭素原子の数は「少なくとも16」、好ましくは「少なくとも20」、特に好ましくは「少なくとも24」であると定量化できる。この技術的要件に加えて、環境面からの制約がある。すなわち、今日では生物資源起源の生成物、すなわち化石エネルギー源から製造したものではないという制約がある。このアプローチは環境に優しい化学および持続可能な発展の概念の一つの観点である。
【0021】
残念なことに、この観点に関して科学はほとんど進んでいない。24個以上の炭素原子を有する疎水基の関連で、ステアリン(18個の炭素原子)はある程度成功しているが、本出願人が知る限り、コレステロールおよびラノリン(それぞれ27および30個の炭素原子)が考えられている程度である(特許文献1の第15頁参照)。
【0022】
現在、少なくとも24個の炭素原子を有する末端疎水基を有する生物資源起源のHASEタイプの会合性増粘剤に対する大きなニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許第0 013 836号公報
【特許文献2】欧州特許第0 011 806号公報
【特許文献3】欧州特許第0 577 526号公報
【特許文献4】欧州特許第1 270 617号公報
【特許文献5】欧州特許第0 705 852号公報
【特許文献6】国際特許第97/03242号公報
【特許文献7】欧州特許第1 812 482号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】「水性塗料用のレオロジー改質剤」(Surface Coating Australia,1985,pp.6-10)
【非特許文献2】「水性塗料用のレオロジー改質剤:配合物にとって最も柔軟性のある手段」(Eurocoat 97,UATCM,vol.1,pp423-442)
【非特許文献3】「各種長さの疎水性アルキル鎖を有する準希薄疎水変性HASE溶液の動的光散乱」(Macromol.Chem.Phys.,203,2002,pp.2312-2321)
【非特許文献4】「希釈HASE溶液の光散乱:マクロモノマーの疎水性およびスペーサー長さの効果」(Macromolecules、33、2000、pp.7021-7028)
【非特許文献5】「HASEエマルション塩溶液の粘弾特性」(Polymer 40,1999,pp.6369-6379)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明者は、この分野の研究を続けることによって上記タイプの新規な構造を開発することに成功した。本発明者は、HASEタイプの会合性増粘剤の合成で用いられる下記式(I)を有する新規な疎水性モノマーの開発に成功した:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表す)。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の特徴はR’が下記式(II)の基である点にある
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26(この場合、R’はオクタコサノールを表す)である)
【0027】
式(II)はポリコサニル(polycosanyls)またはポリコサノール(polycosanols)誘導体の式にほかならない。後者はサトウキビ、蜜蝋および米ぬかから得られる脂肪アルコールである。最も広く使用されているポリコサノールはオクタコサノール、トリアコンタノール、ドトリアコンタノール、ヘキサコサノールおよびヘプタコサノールである。主成分であるオクタコサノールの式はCH3−(CH226−CH2−OHである。この化合物はその治療効果すなわちコレステロール低下特性、脂質状態改善、血小板凝集抑制、筋細胞増殖抑制および心血管症状改善で知られている(特に特許文献8〜12を参照)。
【0028】
【特許文献8】欧州特許第2 007 429号公報
【特許文献9】欧州特許第1 827 136号公報
【特許文献10】欧州特許第1 536 693号公報
【特許文献11】欧州特許第1 776 159号公報
【特許文献12】欧州特許第1 515 714号公報
【0029】
従来特許にはHASEタイプの会合性増粘剤の組成物で用いられる疎水性モノマーをこのような構造を用いて製造することは記載がない。これによって大量に入手可能な無公害原料が開発される。
【0030】
さらに、本発明増粘剤は水性組成物で用いたときに特に有利なレオロジー効果を生じるということが明らかになった。本発明を説明するテストが示すように、合成構造に応じた増粘効果が広範囲の剪断勾配で得られ、従って、エンドユーザーに広範囲の増粘剤を提供することができる。しかも、顔料の相溶性は損なわれず、ドリップフロー(drip flow)タイプの塗布バランスを改善するのに特に有利なチキソトロピー効果を得ることができる。
【0031】
本発明はさらに、疎水基が完全に生物資源起源である、20個以上(実際には24〜34)の炭素原子を有する疎水基を末端に有する会合性モノマーを有する水性組成物で特に効果的なHASEタイプの増粘剤を提供する。
【0032】
本発明の第1の対象は、下記の式(I)の疎水性モノマーにある:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【0033】
本発明の第2の対象は、は下記(a)〜(c)から成る水溶性コポリマーにある:
(a)(メタ)アクリル酸、
(b)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸のエステル、
(c)少なくとも一種の式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来の非チキソトロピー増粘剤Viscoatex 730(灰色の点線)、従来のポリマーA6(灰色の線)および本発明ポリマーC5(黒線)で得られるレオグラムを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
HASEタイプの増粘剤の群に属する上記コポリマーの製造方法は当業者に周知であり、当業者は本発明の背景に挙げた上記文献を参照できる。
【0036】
本発明コポリマーは下記(a)〜(c)から成ることを特徴とする(各モノマーは重量%で表され、(a)、(b)および(c)の合計は100%である):
(a)20〜50%、好ましくは35〜45%の(メタ)アクリル酸、
(b)40〜70%、好ましくは45〜55%の少なくとも一種の(メタ)アクリル酸のエステル、
(c)2〜20%、好ましくは3〜15%の少なくとも一種の式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【0037】
本発明コポリマーは、溶液ラジカル重合、直接または逆相ラジカル重合、溶剤中の懸濁または沈殿ラジカル重合、触媒系および移動剤の存在下のラジカル重合で得られ、さらに、制御されたラジカル重合下、好ましくはニトロオキシド媒介(nitroxide mediated)重合(NMP)またはコバロキシム(cobaloximes)によって、原子移動ラジカル重合(ATRP)、カルバメート、ジチオエステルまたはトリチオカーボネート(RAFT)またはキサンテートの中から選択される硫化誘導体による制御されたラジカル重合下で得られるという特徴をさらに有する。
【0038】
本発明コポリマーは、好ましくは水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフランまたはこれらの混合物から成る群に属する一種以上の極性溶剤によって静的または動的プロセスで複数の相に分離されるという特徴を有する。
【0039】
本発明の第3の対象は、水性塗料、ラッカー、ニス、紙加工または化粧または洗浄配合物の中から選択される水性組成物での上記水溶性コポリマーの増粘剤としての使用にある。
【実施例】
【0040】
本発明は以下の実施例からより良く理解できよう。本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1
この実施例では、新規なオクタコサノールベースの疎水性モノマーを用いた5つの水溶性コポリマーを説明する。以下の実施例では本発明コポリマーの使用法を変える。
【0041】
テスト1
このテストは水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)36.4%のメタクリル酸、
(b)53.2%のエチルアクリレート、
(c)10.4%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート官能基、R’はオクタコサノールを表す)
【0042】
テスト2
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)36.4%のメタクリル酸、
(b)53.2%のエチルアクリレート、
(c)10.4%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=50、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート官能基、R’はオクタコサノールを表す)
【0043】
テスト3
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)39.3%のメタクリル酸、
(b)55.7%のエチルアクリレート、
(c)5.0%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート官能基、R’はオクタコサノールを表す)
【0044】
テスト4
このテストも水溶性コポリマーに対応する(その成分のそれぞれの重量%で表す)
(a)39.3%のメタクリル酸、
(b)55.7%のエチルアクリレート、
(c)5.0%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=50、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート官能基、R’はオクタコサノールを表す)
【0045】
テスト5
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)41.5%のメタクリル酸、
(b)56.0%のエチルアクリレート、
(c)2.5%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート官能基、R’はオクタコサノール(式IIの基でp=26、CAS番号=67905−27−5のオクタコサノールから得られる)を表す)
【0046】
テスト6
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)41.5%のメタクリル酸、
(b)56.0%のエチルアクリレート、
(c)2.5%の式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート基、R’はヘキサコンサニル(式IIの基でp=24、CAS番号=506−52−5のヘキサコサノールから得られる)を表す)
【0047】
テスト7
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)41.5%のメタクリル酸、
(b)56.0%のエチルアクリレート、
(c)2.5%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート基、R’はトリアコンタニル(式IIの基でp=24、CAS番号=593−50−0のトリアコンタノールから得られる)を表す)
【0048】
テスト8
このテストも水溶性コポリマーに対応する(成分はそれぞれの重量%で表す):
(a)41.5%のメタクリル酸、
(b)56.0%のエチルアクリレート、
(c)2.5%の下記式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
(ここで、m=25、n=0、AOは酸化エチレンを表し、Rはメタクリレート基、R’はドトリアコンタニル(式IIの基でp=24、CAS番号=6624−79−9のドトリアコンタノールから得られる)を表す)
【0049】
実施例2
この実施例では本発明および従来のコポリマーの、溶剤を含まない艶消し塗料の増粘剤としての使用を説明する。
この塗料の組成は[表1]に示す(各成分の質量はグラムで表す)。全ての増粘剤の活性物質は乾燥抽出量の30重量%である。塗料は当業者に周知の方法で配合する。
【0050】
【表1】

【0051】
得られた塗料の粘度は、時間T=0、24時間および7日に、下記の異なる速度勾配で求めた:
(1)低速勾配:ブルックフィールド(登録商標)粘度、10回転/分および100回転/分(それぞれμBk10およびμBk100(MPa.s)で表す)
(2)中速勾配:Stormer粘度(μsで表す)
(3)高速勾配:ICI粘度(μIで表す)
【0052】
水性塗料の分野では、高剪断勾配での高粘度は「動的」特性を示すということを思い出されたい。すなわち、支持体上への塗布段階では塗料の粘度が十分高く維持される。その利点はビルト(すなわち塗布厚さ)が大きく、飛散性が少ないことである。また、低または中程度の剪断での高粘度は「静的」特性を示し、貯蔵中の十分な安定性を保証し、沈殿の現象を防止し、垂直支持体上へのドリップ傾向を制限する。
【0053】
テストA1、A2、A3、A4はそれぞれ本発明(INV)のコポリマー1、2、3、4を用いたものであり、テストA6は重量で55%のエチルアクリレートと、37%のメタクリル酸と、8%の式(I)のモノマー(ここで、m=25、n=0、Rはメタクリレート基で、R’は石油化学プロセスから得られる32個の炭素原子を含む分岐鎖の炭化水素鎖を表す)から成るコポリマーを用いたものである。結果は[表2]に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
[表2]の結果は、本発明コポリマーを用いることで剪断勾配にかかわらず、溶剤を含まない艶消し塗料を効果的に増粘できるということを示している。得られた粘度は対照例で測定した粘度に近いが、合成構造に応じて観察された変化は、このコポリマーから種々の増粘剤を開発できる可能性を示している。従って、本発明コポリマーは性能の点で効果的な変形例を構成し、生物資源起源の疎水基を有するという利点を有する。
【0056】
実施例3
この実施例では本発明および従来のコポリマーの、溶剤ベースのサテン塗料の増粘剤としての使用を説明する。
この塗料の組成は[表3]に示す(各成分の質量はグラムで表す)。全ての増粘剤の乾燥抽出物は活性物質の30重量%を有する。塗料は当業者に周知の方法を用いて配合した。
【0057】
【表3】

【0058】
テストB1、B3、B5、B6、B7、B8ではそれぞれ本発明(INV)のコポリマー1、3、5、6、7、8を用い、テストB6ではテストA6の場合と同じ従来(PA)のコポリマーを用いた。結果は[表4]に示す。
【0059】
【表4】


【0060】
この表4は本発明コポリマーを用いるとどんな剪断勾配でも溶剤を含まない艶消し塗料を効果的に増粘できるということを示している。テストB5〜B8では会合性モノマーを2.5重量%しか用いないにもかかわらず、従来のB6の10%に比べて、従来のB6で測定された粘度より高い粘度を得ることができている。
さらに、合成された構造に応じて観察される変化は本発明コポリマーから一定レンジの増粘剤を開発できることを示している。従って、本発明コポリマーは性能の点で効果的な変形例であり、生物資源起源の疎水基を有するという利点を有する。
【0061】
実施例4
この実施例では本発明および従来のコポリマーの、木材着色剤の増粘剤としての使用を説明する。
これら木材着色剤の組成は[表5]に示す。全ての増粘剤は活性物質の30重量%の乾燥抽出物を有する。塗料は当業者に周知な方法を用いて配合する。
【0062】
【表5】

【0063】
テストC3は本発明(INV)のコポリマー3を用い、テストC6はテストA6の場合と同じ従来(PA)のコポリマーを用いる。結果は[表6]に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
この[表6]は本発明コポリマーを用いることでどんな剪断勾配でも木材着色剤を効果的に増粘できるということを示している。増粘特性は従来の対照例とほぼ同じレベルである。
【0066】
さらに、2つの顔料相溶性テストを行う。すなわち、塗料の顔料相溶性が不十分な場合、最初に粘度の降下が観察され、着色力が低いため一定レベルの色を得るためにはより多くの着色剤が必要になる。その結果、対照例と比べてむらのある、色の薄い塗膜になる。この現象は分光測色計を用いて測定できる。この測色計は色度座標(Huntsmann:L*,a*,b*)を測定でき、乾燥塗膜の色を測定できる。
【0067】
また、「フィンガーラビングテスト」(当業者は「擦り取り(rub out)」という)も行った。これは、剪断の非存在下で、塗布器を用いてコントラストカード上に150μmの塗料配合物を塗布(すなわち、ゆっくり、応力を加えずに塗布)し、45秒間待った後、まだ粘性のある塗膜の任意部分で30秒間指で擦って剪断力を加える。塗膜の乾燥後に剪断領域(擦られた領域)と非剪断領域(塗膜が擦られていない領域)との間の測色差をSpectro-Pen分光測色計を用いて求めて、テストした塗料組成物が十分な顔料相溶性を有するか否かを評価できる(ΔE値)。
【0068】
後者の2つのテストは乾燥顔料(5重量%のBASF社の黒色顔料Laconyl(登録商標))を添加した塗料に対して行う。
【0069】
【表7】

【0070】
ΔE値およびL*値には影響はないが、従来法では低速および中速勾配での粘度の降下がより大きい。これは本発明によって顔料相溶性が改善されることを示している。
【0071】
実施例5
この実施例では本発明および従来のコポリマーの、実施例4で用いたのと同じ木材着色剤の増粘剤としての使用を説明する。
ここでは、テストA6(またはC6)のポリマーである従来の増粘剤の場合と、テストC5のポリマーである本発明の増粘剤の場合と、COATEX社から商品名Viscoatex(登録商標)730で市販の非チキソトロピー増粘剤である対照例の場合とに観察されたレオロジープロファイルのチキソトロピー特性を評価した。
実験的観点か説明すると、このテストではHaake社から市販のRheostress(登録商標)RS 150レオメータを用いて塗布し、剪断を増加させた後に、減少させる剪断サイクルを行い、次いでレオグラムを作る。これは粘度の変化を剪断の関数として示すグラフである。得られた化合物がチキソトロピーである場合は、戻りにたどる経路は行きにたどる経路よりかなり下方になる。チキソトロピーの振幅を行きと戻りのグラフで求めた面積で定量化する。チキソトロピー特性は垂直表面上への塗料の塗布を容易にする。
【0072】
[図1]は従来の非チキソトロピー増粘剤Viscoatex 730(灰色の点線)、従来のポリマーA6(灰色の線)および本発明ポリマーC5(黒線)で得られるレオグラムを示す。
本発明ポリマーは従来の製品(疎水性末端が化石燃料源から得られる)の場合と少なくとも同じ程度のチキソトロピー特性を有するので、垂直表面上に塗布するための塗料の増粘に極めて有利に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)の疎水性モノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【請求項2】
下記(a)〜(c)から成る水溶性コポリマー:
(a)(メタ)アクリル酸、
(b)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸のエステル、
(c)少なくとも一種の式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【請求項3】
下記(a)〜(c)から成る請求項2に記載のコポリマー(各モノマーは重量%で表され、(a)、(b)および(c)の合計は100%である):
(a)20〜50%、好ましくは35〜45%の(メタ)アクリル酸、
(b)40〜70%、好ましくは45〜55%の少なくとも一種の(メタ)アクリル酸のエステル、
(c)2〜20%、好ましくは3〜15%の少なくとも一種の式(I)のモノマー:
R−(A−O)m−(B−O)n−R’ (I)
[ここで、
mとnは150以下の整数で、少なくとも一方はゼロではなく、
AとBは2〜4個の炭素原子を有する互いに異なるアルキル基を表し、AO基は好ましくは酸化エチレンを表し、BO基は好ましくは酸化プロピレンを表し、
Rは重合可能な不飽和基、好ましくはメタクリレートを表し、
R’は下記の式(II)の基である:
CH3−(CH2p−CH2− (II)
(ここで、pは24〜34の実数、好ましくは26である)]
【請求項4】
触媒系および移動剤の存在下での溶液ラジカル重合、直接または逆相ラジカル重合、溶剤中の懸濁ラジカル重合または沈殿ラジカル重合のラジカル重合で得られるか、制御されたラジカル重合下、好ましくはニトロオキシドを介した重合(NMP)またはコバロキシムによるか、原子移動ラジカル重合(ATRP)下、カルバメート、ジチオエステルまたはトリチオカーボネート(RAFT)またはキサンテートの中から選択される硫化誘導体による制御されたラジカル重合下で得られる請求項2または3に記載のコポリマー。
【請求項5】
完全または部分中和反応の前または後に、コポリマーを好ましくは水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフランまたはこれらの混合物から成る群に属する一種または複数の極性溶剤によって静的または動的プロセスで処理して複数の相に分離する請求項2〜4のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
好ましくは上記組成物を水性塗料、ラッカー、ニス、紙加工または化粧または洗浄配合物の中から選択する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のコポリマーの、水性組成物での増粘剤としての使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−504648(P2013−504648A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528460(P2012−528460)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001782
【国際公開番号】WO2011/030191
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(398051154)コアテツクス・エス・アー・エス (35)
【Fターム(参考)】