ポリコサノールナノ粒子
本発明は、ナノ粒子ポリコサノール、これらの粒子を含む製剤、並びに様々な疾患及び状態の治療及び予防へのこれらの粒子及び製剤の使用方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年2月23日に出願された米国仮特許出願第61/154,712号に対する優先権の恩典を主張するものであり、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、少なくとも1つのポリコサノールを含むナノ粒子組成物、新規のナノ粒子ポリコサノール製剤、及びその使用に関する。様々な実施形態では、ナノ粒子ポリコサノール粒子は、約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する。
【背景技術】
【0003】
ポリコサノールは、サトウキビなどの植物源から得られる濃縮長鎖N−アルキルアルコールの複合混合物である。ポリコサノールが健康なボランティアの血清脂質レベル及び血清リポタンパク質レベルに与える効果を調べたキューバでの初期研究から、2〜40mg/dの投薬量でポリコサノールを投与することにより、血清脂質レベル及び血清リポタンパク質レベルが低下し(Hernandez et al.,Curr.Ther.Res.Clin.Exp.1992;51:568)、高コレステロール血症が軽減する(Pons et al.,Curr.Ther.Res.Clin.Exp.;1992;52:507)ことが示された。しかしながら、数々のその後の研究にもかかわらず、キューバ国外の研究者は、もとの研究と共になされた主張を確認することができなかった。血清脂質/コレステロールレベルに対するポリコサノールの無効性は、同業者による審査のある評判の高い専門誌において包括的に実証されている。
【0004】
例えば、Francini−Pesentiと共同研究者らは、高コレステロール血症の対象に対してポリコサノールの二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施し、10mg/d及び20mg/dのポリコサノールの投与では脂質低下効果が示されないという結論を下した(Complement Ther.Med.;2008;16(2):61;及びPhytother.Res.;2008;22(3):318)。同様の盲検プラセボ対照試験において、Bertholdと共同研究者らは、10、20、40及び80mg/dのポリコサノール投与では、プラセボが投与された対象で見られる血清脂質レベルよりも血清脂質レベルが低くならないことを示した(JAMA;2006;295(19):2262)。Dullensらは、個々のポリコサノール成分(C24、C26、C28、又はC30)でも、天然のポリコサノール混合物(全成分、30mg/100g食餌)でも、LDL受容体ノックアウトマウスの血清コレステロール濃度は低下しないことを見出した(J.Lipid Res.;2008;49(4):790)。Kassisと共同研究者らは、ヒトの高コレステロール血症の治療におけるキューバのサトウキビポリコサノールの有効性を10mg/dの投薬量で研究し、ポリコサノールに高コレステロール血症対象の脂質指標に対する有益な効果がないという結論を下した(Am.J.Clin.Nutr.;2006;84(5):1003)。Linと共同研究者らは、正常から軽度に上昇した血漿コレステロールを有する対象において20mg/dの投薬量のコムギ胚芽ポリコサノールの効果を研究したが、血漿コレステロールの低下は検出されなかった(Metabolism;2004;53(10):1309)。Lukashevichらは、錠剤又は軟質ゲル製剤として毎日投与した蜜蝋ポリコサノール(10mg又は40mg)に、軽度から中程度の高コレステロール血症の対象の血清脂質に対する効果がないことを見出した(Circulation;2006;114:892)。Murphyらは、ウサギにヒマワリ油由来のポリコサノールを食餌補給しても、コレステロール低下効果がないことを見出した(J.Am.College Nutr;2008;27(4):476)。
【0005】
従って、キューバ人の研究の初期の一見前途有望そうな結果にもかかわらず、同時期に行なわれた盲検プラセボ対照試験から到達せざるを得ない結果は、当該技術分野で認められているポリコサノール製剤は、血清脂質/コレステロールレベルの調節に効果がないということである。
【0006】
他の代謝パラメータ及び生理的パラメータに対するポリコサノール製剤の有用性に関する研究も同様に否定的な結果を生んでいる。例えば、ポリコサノールは、血糖レベル、血糖管理(Crespo et al.,Int.J.Clin.Pharm.Res.;1999:117)又は糖尿病状態(Shinbori et al.,Eur.J.Pharmacol;2007;139−144)に対して効果がないことが示された。
【0007】
キューバ人の研究で使用されたポリコサノールの組成物又は製剤が、キューバ人の研究と他の研究者の研究の矛盾した結果の原因であるかどうかに関して、しばらくの間、論争が存在した。この論争は、独創的な研究において解消された(Kassis,British Journal of Nutrition(2007),97,381−388;Kassis,Lipids Health Dis.(2008);7:17;Kassis, Appl.Physiol.Nutr.Metab;(2008);33(3):540及びDullens, J.Lipid Res.(2008),49:790)。これらの研究者は、キューバ人の研究で使用された製剤を含む、利用された様々なサトウキビ由来のポリコサノール製剤を調べた。彼らの研究により、試験したポリコサノール製剤の中に、対照と比べてヒト又は動物における脂質パラメータを有意に改善するものはないという結論が下された。さらに、LDL酸化のインビボ評価により、ベースライン及び対照と比べた酸化LDL濃度の有意な変化は示されなかった。このように、2008年の半ばの時点で、キューバのサトウキビポリコサノール製剤及び他のサトウキビポリコサノール製剤の血清脂質低下効果に関する論争は、キューバ国外で解決されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリコサノールのナノ粒子及びナノ粒子製剤並びにこのナノ粒子及び製剤を作製する方法を提供する。極めて驚くべきことに、本発明のポリコサノール製剤は、コレステロールと血清脂質を減少させ、収縮期血圧と拡張期血圧を低下させる。さらに、本発明の製剤は、抗酸化効果を発揮し、インスリン抵抗性及びその結果を軽減し、ビタミンCレベルを上昇させ、血糖レベルを調節する。従って、本発明はまた、本発明の製剤を対象に投与することによって疾患を治療し、代謝を調節する方法を提供する。本発明はまた、代謝を調節し、高血圧症、高コレステロール血症及びいくつかの他の疾患を治療する方法を提供する。例えば、本発明の製剤は、インビボのタンパク質酸化を制御し、血中グルコースレベルを調節するのに有用であり、インスリン抵抗性及びその結果、例えば、糖尿病、及びその有害な下流効果を治療及び予防するために用いることができる。さらに、本発明の製剤は、対象のインビボのビタミンCレベルの調節に有用である。
【0009】
従って、様々な実施形態において、本発明は、ポリコサノールのナノ粒子を提供する。典型的な本発明のナノ粒子は、約60%〜約95%、例えば、約70%〜約95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、安定剤画分とを含む。例示的な実施形態では、安定剤画分は、ポリ(エチレングリコール)エステルを含む。様々な実施形態では、安定剤画分は、トコフェリルエステルを含む。安定剤画分の例示的な成分は、トコフェリルポリ(エチレングリコール)エステル、例えば、トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)を含む。例示的な本発明のナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。
【0010】
本発明の他の目的、利点、及び実施形態を以下の詳細な説明に示す。
【0011】
以下に明確される内容と同様に、本発明の上述の特性、利点及び目的が達成され、また、詳細に理解されるように、上で簡潔に要約された本発明のより具体的な説明は、添付の図面で示されるその特定の実施形態を参照してなされ得る。これらの図面は、本明細書の一部を形成する。しかしながら、添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を示すものであり、従って、それらの範囲に限定するものと考えられるべきでないことに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】他のナノ粒子と比べた本発明の粒子のサイズを示す。
【図2】光散乱で測定される約48nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図3】光散乱で測定される約55nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図4】光散乱で測定される約53nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図5】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるインスリン抵抗性のレベルを示す。
【図6】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるアディポネクチンの血漿レベルを示す。
【図7】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるアルカリホスファターゼの血中レベルを示す。
【図8】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおける総コレステロール/HDL比のレベルを示す。
【図9】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるC反応性タンパク質の血中レベルを示す。
【図10】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける空腹時血中グルコースレベルを示す。
【図11】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるグルタチオンレベルを示す。
【図12】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるグリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを示す。
【図13】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるHDLレベルを示す。
【図14】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるICAM−1(細胞間接着分子)レベルを示す。
【図15】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるMCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを示す。
【図16】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける血漿H2S(硫化水素)のレベルを示す。
【図17】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるPAI−1(プラスミノーゲン活性化インヒビター)レベルを示す。
【図18】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける一酸化窒素レベルを示す。
【図19】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるタンパク質酸化レベルを示す。
【図20】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるランダムなグルコースレベルを示す。
【図21】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける赤血球脂質過酸化レベルを示す。
【図22】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるRBP−4(レチノール結合タンパク質)レベルを示す。
【図23】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるTNF−α(腫瘍壊死因子)レベルを示す。
【図24】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける総コレステロールレベルを示す。
【図25】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるトリグリセリドレベルを示す。
【図26】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるビタミンCレベルを示す。
【図27】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるウェスタンブロット解析によるNF−κB(活性化B細胞の核因子κ軽鎖エンハンサー)p50及びp65のタンパク質強度を示す。
【図28】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるp−50−nf−κb/βアクチン比を示す。
【図29】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるp−65−nf−κb/βアクチン比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
別途指示がない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、一般に、本発明が属する技術分野の専門家によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0014】
「ポリコサノール」という用語は、濃縮N−アルキルアルコールの混合物を指す。ポリコサノールの例示的な供給源は、サトウキビ及び蜜蝋である。ポリコサノールは、既知の方法により抽出される。ポリコサノール中の長鎖アルコールは、主に1−オクタコサノール、1−トリアコンタノール、1−テトラコサノール、及び1−ヘキサコサノールである。典型的な市販の商業組成物は、(a)1−テトラコサノール:0〜10%;(b)1−ヘキサコサノール:2〜15%;(c)1−ヘプタコサノール:0〜0.5%;(d)1−オクタコサノール:55〜70%;(e)1−ノナコサノール:0〜10%;(f)1−トリアコンタノール:5〜20%;(g)1−ドトリアコンタノール:0.1〜10%;及び(h)1−テトレートリアコンタノール:0.1〜10%といった最低90%の脂肪アルコールから構成される。
【0015】
「有効平均粒子サイズ」、「粒子サイズ」及び「サイズ」という用語は互換的に用いられる。これらの用語は、光散乱を用いた粒子サイズ評価において生じるピークの頂点に本質的に対応する粒子サイズを指す。本発明の粒子のサイズを決定するための有用な方法は、光散乱に限定されない。
【0016】
本方法及び製剤は、予防目的又は治療目的で使用され得る。いくつかの実施形態では、任意の疾患もしくは障害を「治療する」又は任意の疾患もしくは障害の「治療」という用語は、疾患又は障害を改善すること(すなわち、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの進行を停止させる又は軽減すること)を指す。他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、対象によって認識されない場合がある少なくとも1つの物理的パラメータを改善することを指す。さらに他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、物理的に(例えば、認識可能な症状の安定化もしくは根絶)、生理的に(例えば、物理的パラメータの安定化もしくは根絶)又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を抑制することを指す。また他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、疾患又は障害の発症を遅延させることを指す。
【0017】
「治療的有効量」は、本発明の方法に言及するとき、本明細書において「に有効な量」と互換的に用いられる。ポリコサノール投薬量に関して用いられるとき、これらの用語は、特定の薬理学的応答を提供する投薬量を指し、この特定の薬理学的応答を得るために、ポリコサノールは、そのような治療を必要とする相当数の対象に投与される。特定の場合に特定の対象に投与される「治療的有効量」は、そのような投薬量が当業者に「治療的有効量」とみなされるとしても、特定の疾患の治療を受ける患者の100%に有効なものではあり得ず、本明細書に記載の疾患の治療に必ずしも有効であるわけではないことが強調される。ポリコサノール投薬量が、特定の場合には、経口投薬量として、又は血中で測定されるような薬物レベルに関して測定されることがさらに理解されるべきである。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「個体」、「対象」、及び「患者」という用語は、動物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)を指すために互換的に用いられる。
【0019】
A.組成物
様々な実施形態では、本発明は、ポリコサノールのナノ粒子を提供する。典型的な本発明のナノ粒子は、約70%〜90%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、安定剤画分とを含む。例示的な実施形態では、安定剤画分は、ポリ(エチレングリコール)エステルを含む。様々な実施形態では、安定剤画分は、トコフェリルエステルを含む。安定剤画分の例示的な成分としては、トコフェリルポリ(エチレングリコール)エステル、例えば、トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)が挙げられる。例示的な本発明のナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。薬学的製剤をはじめとする、複数の本発明のナノ粒子を取り込んだ製剤も提供する。
【0020】
様々な実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも約70%のオクタコサノール、少なくとも約71%のオクタコサノール、少なくとも約72%のオクタコサノール、少なくとも約73%のオクタコサノール、少なくとも約74%のオクタコサノール、少なくとも約75%のオクタコサノール、少なくとも約76%のオクタコサノール、少なくとも約77%のオクタコサノール、少なくとも約78%のオクタコサノール、少なくとも約79%のオクタコサノール、少なくとも約80%のオクタコサノール、少なくとも約81%のオクタコサノール、少なくとも約82%のオクタコサノール、少なくとも約83%のオクタコサノール、少なくとも約84%のオクタコサノール、少なくとも約85%のオクタコサノール、少なくとも約86%のオクタコサノール、少なくとも約87%のオクタコサノール、少なくとも約88%のオクタコサノール、少なくとも約89%のオクタコサノール、又は少なくとも約90%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分を含む。
【0021】
様々な実施形態では、ナノ粒子は、約90%以下のオクタコサノール、約89%以下のオクタコサノール、約88%以下のオクタコサノール、約87%以下のオクタコサノール、約86%以下のオクタコサノール、約85%以下のオクタコサノール、約84%以下のオクタコサノール、約83%以下のオクタコサノール、約82%以下のオクタコサノール、約81%以下のオクタコサノール、約80%以下のオクタコサノール、約79%以下のオクタコサノール、78%以下のオクタコサノール、77%以下のオクタコサノール、76%以下のオクタコサノール、75%以下のオクタコサノール、74%以下のオクタコサノール、73%以下のオクタコサノール、72%以下のオクタコサノール、又は71%以下のオクタコサノールを含むポリコサノール画分を含む。
【0022】
例示的な実施形態では、ナノ粒子は、約70%〜約90%、約71%〜約89%、約72%〜約88%、約73%〜約87%、約74%〜約86%、約75%〜約85%、約76%〜約84%、約77%〜約83%、約78%〜約82%、約79%〜約81%、又は約80%のオクタコサノールを有するポリコサノール画分を含む。
【0023】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、オクタコサノールとトリアコンタノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約8:1〜約17:1、約9:1〜約16:1、約10:1〜約15:1、約11:1〜約14:1、約12:1〜約13:1、約8:1〜約15:1、約8:1〜約13:1、約8:1〜約11:1、又は約8:1〜約9:1のオクタコサノール:トリアコンタノール比を有する。
【0024】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、オクタコサノールとヘキサコサノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約16:1〜約50:1;約18:1〜約45:1;約19:1〜約40:1;約19:1〜約35:1;約19:1〜約30:1;約19:1〜約25:1;約19:1〜約22:1;又は約19:1〜約20:1のオクタコサノール:ヘキサコンタノール比を有する。
【0025】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、トリアコンタノールとヘキサコサノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、最大でも約1.5:1、最大でも約1.3:1;最大でも約1:1;最大でも約0.8:1;最大でも約0.6:1;最大でも約0.4:1;又は最大でも約0.2:1のトリアコサノール:ヘキサコンタノール比を有する。
【0026】
例示的な実施形態では、ナノ粒子は、約9:1〜約16:1の比でトリアコンタノールと混合された70%〜約95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、TPGSから本質的に完全に形成されている安定剤画分(例えば、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%TPGS)とを含む。様々な実施形態では、ポリコサノール画分とTPGSは、約1:2.8の比である。
【0027】
本発明は、任意の好適な供給源から獲得又は単離されたポリコサノール又はポリコサノールの成分を利用する。例えば、米国特許第5,663,156号;第5,856,316号;第6,197,832号;第6,225,354号;及び第6,596,776号(これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)は、使用される出発材料及び抽出過程に特有のポリコサノール組成物を開示している。様々な実施形態では、本発明のナノ粒子の作製に有用なポリコサノールは、少なくとも約80%のオクタコサノール、少なくとも約81%のオクタコサノール、少なくとも約82%のオクタコサノール、少なくとも約83%のオクタコサノール、少なくとも約84%のオクタコサノール、少なくとも約85%のオクタコサノール、少なくとも約86%のオクタコサノール、少なくとも約87%のオクタコサノール、少なくとも約88%のオクタコサノール、少なくとも約89%のオクタコサノール又は少なくとも約90%のオクタコサノールを含む。様々な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約80%〜約85%のオクタコサノールを含む。例示的な実施形態では、オクタコサノールの量は、約82%〜約83%である。
【0028】
本発明のナノ粒子及びその製剤における安定剤画分として有用な様々な例示的な界面活性剤としては、ビタミンE TPGS(トコフェロールプロピレングロコールスクシネート、水溶性形態のビタミンE)、ソルビタンモノラウレート(Span 20)、ソルビタンモノパルミテート(Span 40)、ポロキサマー、ソルビタンモノステアレート(Span 60)、ソルビタンモノオレエート(Span 80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20、ポリソルベート20)、ポリオキシエチレン(20)モノパルミテート(Tween 40、ポリソルベート40)、ポリオキシエチレン(20)モノステアレート(Tween 60、ポリソルベート60)、ポリオキシエチレン(20)トリステアレート(Tween 65、ポリソルベート65)、ポリオキシエチレン(20)モノオレエート(Tween 80、ポリソルベート80)、スクロースモノミリステート、スクロースパルミテート/ステアレート、スクロースステアレート、ジオクチルスルホスクシネートナトリウム塩、モノグリセリドモノオレエート、モノグリセリドモノラウレート、モノグリセリドモノパルミテート、レシチン、ジグリセリド混合物、モノグリセリドのクエン酸エステル、モノグリセリドの酢酸エステル、モノグリセリドの乳酸エステル、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、シクロデキストリン、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、ステアロイルラクチレート、C8−18遊離脂肪酸、PTS(米国特許第6.045.826号)又はそれらの組合せが挙げられる。様々な実施形態では、安定剤画分は、シクロデキストリンを含まない。他の実施形態では、安定剤画分は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含まない。
【0029】
本発明のナノ粒子は、約100nm以下の直径を有するナノ粒子を提供する任意の有用な比のポリコサノール画分と安定剤画分を含むことができる。例示的な実施形態では、ポリコサノール画分:安定剤画分の比は、約1:1〜約1:4、例えば、約1:2〜約1:3.5である。同様に、様々な実施形態では、オクタコサノール:安定剤の比の範囲は、約1:1.6〜約1:2.8、例えば、約1:2〜約1:2.5である。例示的な実施形態では、比は、約1:2.25である。例示的な本発明のナノ粒子におけるトリアコンタノール:安定剤の比の範囲は、約1:10〜約1:40、例えば、約1:11〜約1:35である。例示的な実施形態では、安定剤はビタミンEのエステル、例えば、TPGS(d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)である。
【0030】
ナノ粒子を生成させる混合物は、安定剤画分の他に、界面活性剤を含むこともできる。例示的な界面活性剤が上に示されており、これらは、例えば、TWEEN20、TWEEN80、エステル(例えば、スクロースパルミチン酸エステル及びスクロースステアリン酸モノエステル)、ペクチン、寒天など、当業者に一般に知られている。
【0031】
得られるナノ粒子ポリコサノール製剤を、固体投薬製剤又は液体投薬製剤、例えば、液体分散液、ゲル、エアロゾル、軟膏、クリーム、制御放出製剤、急速溶解製剤、凍結乾燥製剤、錠剤、カプセル、遅延放出製剤、延長放出製剤、パルス放出製剤、即時放出製剤と制御放出製剤を混ぜ合わせた物などにおいて利用することができる。
【0032】
本発明によるナノ粒子及び薬学的製剤は、1以上の結合剤、充填剤、潤滑剤、懸濁剤、甘味料、香味剤、防腐剤、緩衝剤、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、及び他の賦形剤も含み得る。このような賦形剤は当該技術分野で公知である。
【0033】
ナノ粒子又はナノ粒子の製剤において使用可能な例示的な賦形剤としては、限定するものではないが、大豆レシチン、大豆レシチン誘導体、カプリロカプロイルマクロゴール−8グリセリド、中鎖トリグリセリド、精製オリーブ油、液体香味料、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、糖エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プロピレングリコール、デクスパンテノール、アーモンド油、米油、ヒマワリ油、大豆油、ゴマ油、グリセリン、グリセリルパルミトステアレート、甘扁桃油、オレイン酸、ポリグリセリルオレエート、サッカロース、ポロキサマー、マクロゴール−15ヒドロキシステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、アスコルビルパルミテート、ポリエチレングリコール、セラリューションF、セラリューションH、セラリューションC、ラウロイルマクロゴール−32グリセリド、グリセリド、C12−C18ノグリセリド、C12−C18ジグリセリド、及びC12−C18トリグリセリド、グリセリルステアレート、プロピレングリコールラウレート、プロピレングリコールカプリレート、プロピレングリコールジペルゴネートが挙げられる。いくつかの実施形態では、本製剤は、クエン酸無水物、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、及びスクロースラウレートから選択される1以上の賦形剤を含む。
【0034】
充填剤の例は、ラクトース一水和物、ラクトース無水物、及び様々なデンプン類であり、結合剤の例は、様々なセルロース類及び架橋ポリビニルピロリドン、微結晶性セルロース(例えば、アビセル(商標)PH101及びアビセル(商標)PH102)、微結晶性セルロース、並びにケイ化微結晶性セルロース(プロソルブSMCC(商標))である。
【0035】
圧縮すべき粉末の流動性に対して作用する薬剤を含む、好適な潤滑剤は、コロイド状二酸化ケイ素(例えば、アエロジル(商標)200)、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、及びシリカゲルである。
【0036】
甘味料の例は、スクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、チクロ、アスパルテーム、及びアセスルファムなどの、任意の天然甘味料又は人工甘味料である。香味剤の例は、メガスイート(商標)(MAFCOの商標)、バブルガムフレーバー、及び果実フレーバーなどである。
【0037】
防腐剤の例は、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸及びその塩、パラヒドロキシ安息香酸の他のエステル(例えば、ブチルパラベン)、アルコール(例えば、エチルアルコールもしくはベンジルアルコール)、フェノール化合物(例えば、フェノール)、又は四級化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム)である。例示的な防腐剤としては、限定するものではないが、亜硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム及び安息香酸カルシウムが挙げられる。
【0038】
好適な希釈剤としては、薬学的に許容される不活性フィラー、例えば、微結晶性セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、及び/又は前述のもののいずれかの混合物が挙げられる。希釈剤の例としては、微結晶性セルロース(例えば、アビセル(商標)PH101及びアビセル(商標)PH102);ラクトース(例えば、ラクトース一水和物、ラクトース無水物、及びファルマトース(商標)DCL21);リン酸水素カルシウム(例えば、エムコンプレス(商標));マンニトール;デンプン;ソルビトール;スクロース;並びにグルコースが挙げられる。
【0039】
好適な崩壊剤としては、軽く架橋したポリビニルピロリドン、トウモロコシ(corn)デンプン、ジャガイモデンプン、トウモロコシ(maize)デンプン、及び加工デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グリコール酸ナトリウムデンプン、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0040】
発泡剤の例は、有機酸と炭酸塩又は重炭酸塩などの発泡性カップル(effervescent couples)である。好適な有機酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、及びアルギン酸と、これらの無水物並びに塩とが挙げられる。好適な炭酸塩及び重炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウムグリシン、炭酸L−リジン、及び炭酸アルギニンが挙げられる。あるいは、発泡性カップルの重炭酸ナトリウム成分のみが存在していてもよい。
【0041】
様々な実施形態では、本発明の組成物は、光散乱法、顕微鏡法、又は他の適当な方法で測定したときに、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の平均粒子サイズを有するナノ粒子ポリコサノールナノ粒子を含有する。
【0042】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも99%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0043】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも95%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0044】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも90%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0045】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも85%(例えば、約85%〜約99%、95%、又は90%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0046】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約80%(例えば、約80%〜約99%、95%、90%、又は85%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0047】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約75%(例えば、約75%〜約99%、95%、90%、85%、又は80%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0048】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約70%(例えば、約70%〜約99%、95%、90%、85%、80%、又は70%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0049】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約65%(例えば、約65%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、又は70%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0050】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約60%(例えば、約60%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、又は65%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0051】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも55%(例えば、約55%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、又は60%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0052】
ナノ粒子のサイズを決定する方法は当該技術分野で周知である。例えば、光回折(すなわち、光散乱計測)技術を用いることができる。これらの技術としては、広帯域散乱計測(米国特許第5,607,800号;第5,867,276号及び第5,963,329号)、スペクトル偏光解析(米国特許第5,739,909号)並びにスペクトル及び単一波長ビームプロファイル反射率測定及びビームプロファイル偏光解析(米国特許第6,429,943号)が挙げられる。さらに、隔離されたライン又は隔離されたバイア及びメサ上でCD測定を取得するために、単一波長レーザーBPR又はBPEを用いることが可能な場合もある(2002年9月13日に出願された米国特許出願第10/243,245号を参照されたい)。
【0053】
例示的な実施形態では、本発明は、治療的有効量のポリコサノールを含有する本発明のポリコサノールナノ粒子の単位投薬量製剤を提供する。例示的な実施形態では、単位投薬量製剤は、ポリコサノール画分と安定剤画分とを含有するナノ粒子の製剤であり、単位投薬量製剤は、約10mg〜約100mg、例えば、約10mg〜約50mgを含む。様々な実施形態では、単位投薬量は1日投薬量である。当業者であれば、ポリコサノールの治療的有効量を実験的に決定することができ、純粋な形態で、又はそのような形態が存在する場合には、薬学的に許容される塩、エステル、もしくはプロドラッグの形態で用いることができることを理解するであろう。本発明のナノ粒子組成物中のポリコサノールの実際の投薬量レベルは、特定の組成物や特定の投与方法に対する所望の治療応答を得るために有効なポリコサノールの量を得るように変化させてもよい。従って、選択される投薬量レベルは、所望の治療効果、投与経路、投与されるポリコサノールの効力、所望の治療期間、及び他の因子によって決まる。
【0054】
投薬量単位組成物は、1日用量を作り上げるために使用し得るような量又はその約量を含み得る。しかしながら、任意の特定の患者に対する特定の用量レベルは、種々の因子、すなわち、達成されるべき細胞応答又は生理的応答の種類及び程度;利用される特定の薬剤又は組成物の活性;利用される特定の薬剤又は組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康、性別、及び食事;薬剤の投与時間、投与経路、及び排出速度;治療期間;特定の薬剤と組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知の同様の因子によって決まることが理解されるであろう。
【0055】
本発明のナノ粒子の例示的な作製方法では、事前に選択された量の安定剤とポリコサノールを撹拌により一緒に溶解させて、確実に均質になるようにする。高温の水又は添加剤、防腐剤、賦形剤などの水溶液を溶解物に添加し、撹拌しながら、所望の温度、通常は約60℃〜約90℃に維持する。例示的な方法では、水と固体の混合物は、水を固体よりも多く含み、例えば、重量で約10:1である。混合物を撹拌しながら、室温まで冷却する。様々な実施形態では、本方法により粒子の懸濁液が生じる。
【0056】
A.方法
ポリコサノールのナノ粒子及びこのナノ粒子を含む製剤の他に、本発明は、このナノ粒子及び製剤を用いて、疾患を治療及び予防し、代謝を調節する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明のナノ粒子は、高血圧、コレステロール代謝の調節、及び高脂血症、高コレステロール血症、炎症などの治療に有用である。様々な実施形態では、本製剤は、タンパク質酸化の調節又は低下に用いられる。例示的な実施形態では、本製剤は、血糖値、インスリン抵抗性、糖尿病、及び血糖レベルに関連する他の状態の管理に有用である。またさらなる実施形態では、本製剤は、血漿ビタミンCレベルの調節(例えば、増加)、並びに収縮期血圧及び拡張期血圧の低下に有用である。他の実施形態では、本製剤は、NF−κBの活性化の阻害に有用である。
【0057】
例示的な実施形態では、本製剤を治療的有効量で対象に投与して、特定の疾患又は障害を治療し、ここで、この対象は、別の場合にはポリコサノールによる治療を必要としない。様々な実施形態では、ナノ粒子を投与して、単一の疾患を治療するか又は単一の代謝因子を調節する。従って、例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症、高血圧症などの治療を必要としない対象においてインスリン抵抗性を治療する方法を提供する。例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において血糖を調節する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において糖尿病(例えば、II型糖尿病)を治療する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明は、高血圧症、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象においてタンパク質酸化を減少させるか又は予防する方法を提供する。例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において血清ビタミンCレベルを増加させる方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象においてNF−κBの活性化を阻害する方法を提供する。
【0058】
本発明の方法の非限定的な例を以下に示す。
【0059】
タンパク質酸化
本発明は、対象のタンパク質酸化を減少させ、従って、この酸化の有害な結果を軽減する方法を提供する。本方法は、対象のタンパク質酸化を減少させる治療的有効量の本発明のポリコサノール製剤を対象に投与することを含む。
【0060】
酸化ストレスは、肝臓毒素への曝露、肝内胆汁鬱滞、アルコール性肝障害、肝虚血/再灌流傷害及びウイルス性肝炎などの種々の病態生理学的状態における急性及び慢性の疾患及び損傷の発症の原因とされてきた(Stehbens,Exp.Mol.Pathol;2003;75(3):265;Jaeschke et al.,Toxicol.Lett.;2003;144(3):279−88;McDonough,Toxicology.2003;189(1−2):89;Jaeschke et al.,J.Clin.Invest;1988;81(4):1240)。活性酸素種(ROS)及び活性窒素種(RNS)の過剰産生は、これらの病的状態における抗酸化防御の顕著な減少とともに、脂質過酸化、タンパク質酸化及び核塩基酸化の過程を通じて様々な細胞機能を障害する。脂質過酸化は、例えば、細胞膜の物理的特性及び化学的特性を変化させ、それにより、その流動性及び透過性を変化させ、膜シグナル伝達及びイオン交換の障害を生じさせ、膨張、細胞溶解、そして最後には細胞死をもたらす。タンパク質及びDNAの酸化も、細胞の機能障害及び死に直接関係する(Fang Y Z et al.,Nutrition.2002;18(10):872−9)。
【0061】
タンパク質酸化に関連する疾患としては、限定するものではないが、関節リウマチ(IgG、α1−プロテイナーゼインヒビター)、虚血再灌流傷害、肺気腫(α1−プロテイナーゼインヒビター、エラスターゼ)、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病)、筋ジストロフィー、加齢に伴う障害(グルタミンシンセターゼ、炭酸脱水素酵素III、アコニターゼ)、急性膵炎、白内障発生(α−クリスタリン)、癌、慢性エタノール摂取、成人呼吸逼迫症候群が挙げられる。本発明の製剤を用いて、クワシオルコールの影響を治療又は改善することもできる(Manory,J.Pediatr;2000;137:421).
【0062】
例示的な治療関連用量は、タンパク質酸化の標準的な臨床マーカー(例えば、タンパク質カルボキシル化)の低下をもたらす用量である。タンパク質カルボニル含量(PCC)は、最も広く用いられているタンパク質の酸化修飾のマーカーである。PCCの定量にはいくつかの方法がある。様々な従来法では、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンをタンパク質カルボニルと反応させて、対応するヒドラゾンを形成させ、これを放射能計数により光学的に、又は免疫組織化学的に解析することができる。例えば、Yan et al.,Arch.Biochem.Biophys.327:330−334,1996を参照されたい。
【0063】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0064】
血清ビタミンCの増加
本発明はまた、対象の血清ビタミンCを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の血清ビタミンCレベルを増加させるか又は調節する治療的有効量の本発明のポリコサノール製剤を対象に投与する工程を含む。
【0065】
インスリン抵抗性及び糖尿病は、健康な対象で見られるレベルと比較したときに、血清ビタミンCレベルの減少を伴うので、経口投与される補給ビタミンCが、内皮機能障害をはじめとするインスリン抵抗性及び糖尿病の結果を治療するものとして提案されている。しかしながら、補給ビタミンCは、単独で用いた場合、有効性が認められなかった(Kaneto et al.,Diabetes;1999;48(12):2398)。これはおそらく、経口投与されるビタミンC補給では、内皮機能障害又はインスリン抵抗性が改善されないためである(Chen et al.,Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol;2006;290(1):H137)。
【0066】
本発明は、内在性ビタミンCを調節する方法、従って、インスリン抵抗性、糖尿病及びこれらの症候群の結果を治療する方法を提供する。
【0067】
例示的な治療関連用量は、例えば、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法で、血清ビタミンC濃度の標準的な臨床マーカーの増加をもたらす用量である。例えば、Washko et al.,Anal.Biochem.1992;204:1−14を参照されたい。
【0068】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0069】
インスリン抵抗性
本発明はまた、インスリン抵抗性及び限定するものではないが、糖尿病をはじめとする、インスリン抵抗性から生じる結果を治療する方法を提供する。本方法は、インスリン抵抗性を治療するのに十分な量の本発明の粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0070】
インスリン抵抗性は、循環インスリンの生理的効果に対するインスリン標的組織(例えば、骨格筋、肝臓、及び脂肪組織)による不十分な応答と定義される。これら3つの組織におけるインスリン感受性の障害の特徴は、インスリンにより刺激される骨格筋へのグルコース取込みの減少、インスリンにより媒介される肝臓における肝グルコース産生抑制の障害、及び脂肪組織における脂肪分解を抑制するインスリンの能力の低下である。実際、インスリン抵抗性は、II型糖尿病の発症の主な予測因子である。
【0071】
II型糖尿病では、インスリン抵抗性が顕性高血糖症の発症の前に起こることが広く認められている。インスリン抵抗性の原因は遺伝性及び/又は後天性であることがある。II型糖尿病によっても、患者にコレステロールの上昇や心血管疾患が生じやすくなる。西洋文化では、インスリン抵抗性を引き起こす最も一般的な後天性因子は、肥満、座っていることが多いライフスタイル、及び加齢であり、これらは全て相互に関連する。インスリン抵抗性に対する強力な代償性インスリン分泌応答が存在するとき、グルコースレベルは比較的正常であり続けることができる。しかしながら、インスリン産生膵β細胞がもはや組織インスリン感受性の減少を保証することができなくなったとき、グルコース恒常性が悪化し、耐糖能障害、そして最終的にはII型糖尿病が発症する。
【0072】
糖尿病を患う個体は、血流中のビタミンCのレベルも減少している。研究により、糖尿病患者は、正常個体よりも少なくとも30%低い循環アスコルビン酸レベルを有することが分かっている(Will et al.,Nutr.Rev.54(7):193(1996))。しかしながら、高用量の経口ビタミンCを投与しても、この欠損は改善されない(Chen et al.,J.Physiol.Heart Circ.Physiol.,290(1):H137−45(2006))。しかしながら、下記の実施例に見られるように、本発明の投与はこの欠損に対処する。
【0073】
インスリン抵抗性と関連する一般的な疾患又は障害としては、黒色表皮症、尋常性座瘡、アレルギー、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、双極性障害、乳癌、心血管疾患、白内障、子宮頸癌、鬱病、真性糖尿病、脂質異常症、脂肪肝疾患、小児2型糖尿病、慢性疲労、結腸直腸癌、ふけ、グレーブス病、心疾患、高LDLコレステロール、高トリグリセリド、多毛症、低血糖症、甲状腺機能低下症、炎症、腎疾患、低HDLコレステロール、ループス、神経障害、神経炎、骨粗鬆症、膵癌、パーキンソン病、多嚢胞性卵巣症候群、前立腺癌、関節リウマチ、強皮症、脂漏症、卒中、及び静脈瘤が挙げられる。
【0074】
上に示した疾患及び障害の他に、インスリン抵抗性の主な結果のうちのいくつかとしては、限定するものではないが、2型真性糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、多嚢胞性卵巣症候群、非アルコール性脂肪肝疾患、血管内皮の機能の障害、トリグリセリド及びコレステロールの上昇、凝固の障害、腎機能の障害、心拍リズムの障害、並びに尿酸レベルの上昇が挙げられる。
【0075】
例示的な治療関連用量は、血清インスリン抵抗性の標準的な臨床マーカー、例えば、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill)製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法で測定可能な血漿中のインスリン及びインスリンレベルの減少をもたらす用量である。
【0076】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0077】
コレステロール関連疾患
様々な実施形態では、本発明は、対象の高コレステロール血症を治療する及び/又は脂質代謝を調節する方法を提供する。本方法は、高コレステロール血症を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0078】
高コレステロール血症、高脂血症及び心血管疾患は、西洋産業社会でますます広まっている。この理由は完全には理解されていないが、肉体労働がますます必要なくなるにつれて座っていることがますます多くなったライフスタイルとともに、一部はこれらの状態に対する遺伝的素因に関連し、一部は飽和脂肪の多い食事に関連している可能性がある。高コレステロール血症及び高脂血症は極めて重大であるが、それは、これらによって、個体に、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞(心臓発作)、及び卒中をはじめとする、心血管疾患が生じやすくなるからである。
【0079】
特定の形態の高脂血症としては、例えば、高コレステロール血症、家族性異常βリポタンパク質血症、糖尿病性脂質異常症、ネフローゼ脂質異常症及び家族性複合型高脂血症が挙げられる。高コレステロール血症は、血清低密度リポタンパク質−コレステロール及び血清総コレステロールの上昇を特徴とする。低密度リポタンパク質(LDLコレステロール)は、血中コレステロールを輸送する。家族性異常βリポタンパク質血症(別名、III型高脂血症)は、血清中でのβVLDLと呼ばれる超低密度リポタンパク質−コレステロール(VLDLコレステロール)粒子の蓄積を特徴とする。正常なアポリポタンパク質E3が異常なアイソフォームのアポリポタンパク質E2と置き換わることもまた、この状態と関連している。糖尿病性脂質異常症は、VLDLコレステロールの過剰産生、VLDLトリグリセリド脂質分解の異常、LDLコレステロール受容体活性の低下、及び場合によっては、III型高脂血症などの複数のリポタンパク質異常を特徴とする。腎臓の機能不全と関連するネフローゼ脂質異常症は治療が難しく、多くの場合、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症を含む。家族性複合型高脂血症は、高脂血症の複数の表現型、すなわち、IIa型、IIb型、IV型、V型又は高アポβリポタンパク質血症を特徴とする。
【0080】
血清脂質、特にLDLコレステロールを低下させることができれば、心血管疾患の可能性を減少させることができることはよく知られている。血清脂質を減らすことができれば、アテローム性動脈硬化症の進行を遅延させることができるか、又はアテローム性動脈硬化症の退行を誘導することができることもよく知られている。このような場合、高脂血症又は高コレステロール血症と診断された個体は、心血管疾患、特に冠状動脈疾患のリスクを低下させる目的でアテローム性動脈硬化症の進行を遅延させるか又はアテローム性動脈硬化症の退行を誘導するために、脂質低下療法を考慮すべきである。このような療法は、その他の結果として、卒中や心筋梗塞のリスクを低下させる。さらに、正常な血清脂質レベルとみなされるレベルを示す特定の個体が心血管疾患を発症することもある。これらの個体では、脂質過酸化や高レベルのLp(a)又はリポタンパク質Aのような他の因子によって、コレステロールレベルや脂質レベルが比較的正常であるにもかかわらず、アテローム発生が生じることがある。
【0081】
本明細書で用いられる「治療的有効量」の例示的なマーカーは、対象に投与(例えば、経口投与)したときに、一例として、総コレステロールレベルを低下させること、LDLコレステロールを低下させること、HDLコレステロールを上昇させること、総コレステロール/HDL比を低下させること、及び/又はトリグリセリドを低下させることによって健康な血清脂質プロファイルを維持するか、あるいは健康体重の維持を助ける本発明の製剤中のポリコサノールの量を指す。
【0082】
別の例示的な治療関連用量は、脂質代謝及び心血管危険因子の標準的な臨床マーカーである、C反応性タンパク質の減少をもたらす用量である。
【0083】
NF−κB活性化の阻害
様々な実施形態では、本発明は、対象のNF−κBの活性化を阻害する方法を提供する。本方法は、NF−κBの活性化を阻害するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0084】
NF−κB/Relファミリーの転写因子は、ホモ二量体やヘテロ二量体を形成するいくつかの構造的に関連するタンパク質から構成され、p50/p105、p52/p100、RelA(p65)、c−Rel/NF−κBを含む。哺乳動物で最もよく見られるRel/NF−κB二量体は、p50−RelA(p50/p65)ヘテロ二量体を含み、特にNF−κBと呼ばれる。これは細胞質中に存在する遍在性因子であるが、活性化されると、核に移行し、核内で遺伝子の転写を誘導する。ほとんどの疾患が無秩序な炎症によって引き起こされるために、NF−κBは多種多様な疾患と関連付けられている。従って、NF−κB活性化を阻害することができる薬剤は、NF−κB関連疾患の発症を予防するもしくは遅延させるか、又はNF−κB関連疾患を治療する可能性がある。
【0085】
NF−κBは、フリーラジカル、炎症性刺激、発癌物質、腫瘍促進物質、内毒素、γ線、紫外線(UV)光、及びX線によって活性化される(B.B.Aggarwal et al.,Nuclear transcription factor−kappa B as a target for cancer drug development Leukemia.16:1053−68)。活性化されると、NF−κBは、アポトーシスを抑制し、細胞の形質転換、増殖、浸潤、転移、化学療法耐性、放射線耐性、及び炎症を誘導することが示されている200を超える遺伝子の発現を誘導する。Kumar A, et al.,2004.Nuclear factor−kappa B:Its role in health and diseases,J Mol Med.,82:434−448を参照されたい。
【0086】
活性化形態のNF−κBは、限定するものではないが、癌、アレルギー、頭痛、疼痛、心筋梗塞、複合性局所疼痛症候群、心肥大、筋ジストロフィー(2a型)、筋肉疲労、異化障害、1型糖尿病、2型糖尿病、肥満、胎児の成長遅延、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、心疾患、慢性心不全、虚血/再灌流、卒中、脳動脈瘤、狭心症、肺疾患、嚢胞性線維症、酸誘導性の肺損傷、肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ヒアリン膜症、腎疾患、糸球体疾患、アルコール性肝疾患、レプトスピラ腎症、腸疾患、腹膜子宮内膜症、皮膚疾患、副鼻腔炎、中皮腫、無汗性外胚葉性形成異常、ベーチェット病、色素失調症、結核、喘息、関節炎、クローン病、大腸炎(ラット)、眼アレルギー、緑内障、虫垂炎、パジェット病、膵炎、歯周炎、子宮内膜症、炎症性腸疾患、炎症性肺疾患、敗血症、シリカ誘導性の疾患、睡眠時無呼吸、AIDS(HIV−1)、自己免疫、抗リン脂質症候群、ループス、ループス腎炎、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、慢性疾患症候群、家族性地中海熱、遺伝性周期性発熱症候群、心理社会的ストレス疾患、神経病理学的疾患、家族性アミロイド神経障害、炎症性神経障害、外傷性脳損傷、脊髄損傷、乾癬、敗血性ショック、パーキンソン病、多発性硬化症、リウマチ性疾患、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、網膜疾患、白内障、及び様々な炎症性疾患をはじめとする、疾患及び障害の原因とされている。本発明の製剤及び方法は、NF−κBの活性化を阻害する能力を示しており、この能力により、体内のNF−κB活性化と関連する疾患を治療又は予防することができる。
【0087】
アディポネクチン
様々な実施形態では、本発明は、対象のアディポネクチンレベルを増加させる方法を提供する。本方法は、アディポネクチンレベルの増加させ、それにより低アディポネクチンレベルと関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0088】
アディポネクチンは、グルコース調節や脂肪酸異化をはじめとする、いくつかの代謝過程を調節するタンパク質ホルモンである。Diez JJ,Iglesias P.“The role of the novel adipocyte−derived hormone adiponectin in human disease.” Eur.J.Endocrinol.148(3):293−300,2003を参照されたい。
【0089】
アディポネクチンは、もっぱら脂肪組織から血流中に分泌され、多くの他のホルモンと比べて血漿中に非常に多く存在する。このホルモンのレベルは、成人では体脂肪率と逆相関する。Ukkola O,Santaniemi,“Adiponectin:a link between excess adiposity and associated co−morbidities” J.Mol.Med.80(11):696−702,2002を参照されたい。
【0090】
このホルモンは、2型糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、また、メタボリックシンドロームの独立危険因子を引き起こすおそれのある代謝異常の抑制において役割を果たす。Renaldi O.et al.,2009 “Hypoadiponectinemia:a risk factor for metabolic syndrome” Acta Med Indones 41(1):20−4を参照されたい。
【0091】
プラスミノーゲン活性化インヒビター
様々な実施形態では、本発明は、対象のPAI−1タンパク質レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のPAI−1レベルを低下させるのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。PAI−1は、ウロキナーゼ型及び組織型のプラスミノーゲン活性化因子を不活化することによって線維素溶解を阻害するセリンプロテアーゼインヒビターである。血漿PAI−1の活性は、深夜12時から朝6時の間に最も高い(Kluft C, et al.,Thromb Haemost.1988 Apr 8;59(2):329−32)。
【0092】
PAI−1は、様々な疾患状態(例えば、いくつかの形態の癌)、並びに肥満及びメタボリックシンドロームにおいて増加したレベルで存在する。PAI−1は、これらの状態を有する患者における血栓症の発生の増加と関連付けられている(Mimuro J(1991) “[Type 1 plasminogen activator inhibitor:its role in biological reactions].” Rinsho Ketsueki 32(5):487−9.PMID 1870265.):Binder BR, et al.(2002).“Plasminogen activator inhibitor 1:physiological and pathophysiological roles”. News Physiol.Sci.17:56−61.PMID 11909993:Hoekstra T, et al.(2004).“Plasminogen activator inhibitor−type 1:its plasma determinants and relation with cardiovascular risk.” Thromb.Haemost.91(5):861−72:Lijnen HR(2005).“Pleiotropic functions of plasminogen activator inhibitor−1.” J.Thromb.Haemost.3(1):35−45;De Taeye B, et al.(2005).“Plasminogen activator inhibitor−1:a common denominator in obesity,diabetes and cardiovascular disease.” Current opinion in pharmacology 5(2):149−54:Dellas C,Loskutoff DJ(2005).“Historical analysis of PAI−1 from its discovery to its potential role in cell motility and disease.” Thromb.Haemost.93(4):631−40)。
【0093】
TNF−α
様々な実施形態では、本発明は、対象のTNF−αレベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のTNF−αレベルを低下させ、それによりTNF−αレベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。腫瘍壊死因子(TNF−α)は炎症応答を促進し、この炎症応答は、関節リウマチ、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、アルツハイマー病及び難治性喘息などの自己免疫障害と関連する臨床的な問題の多くを引き起こす。これらの障害は、TNFインヒビターを用いて治療することもある。TNF産生の異常調節は、アルツハイマー病(Perispinal Etanercept for Treatment of Alzheimer’s Disease Edward Tobinick* Current Alzheimer Research,2007,4,550−552)及び癌をはじめとする、種々のヒト疾患の原因とされている。Locksley RM,Killeen N,Lenardo MJ(2001).“The TNF and TNF receptor super families:integrating mammalian biology.” Cell 104(4):487−501を参照されたい。
【0094】
肥満の齧歯類や肥満のヒトは、脂肪組織内のTNF−α発現が増加している。従って、脂肪組織内のTNF−α発現と肥満及びインスリン抵抗性との間に正の相関がある(Endocr Rev.2003 Jun;24(3):278−301)。インビボやインビトロでの外因性TNF−αへの慢性曝露により、インスリン抵抗性が誘導される。Endocrinology.1992 Jan;130(1):43−52 Gene deletion of TNFα or its receptors in obese rodents(fa/fa Zucker rats)improves insulin sensitivity and circulating NEFAs.Nature.1997 Oct 9;389(6651):610−4を参照されたい。
【0095】
脂肪組織では、TNF−αは、NEFAやグルコースの取込み及び貯蔵並びに脂肪生成に関与する遺伝子を抑制する。TNF−αはまた、アディポネクチンのような脂肪細胞によって分泌される因子の発現を修飾する(Am J Physiol Endocrinol Metab.2003 Sep;285(3):E527−33)。肝臓では、TNF−αは、グルコースの取込み及び代謝並びに脂肪酸酸化に関与する遺伝子の発現を抑制すると同時に、コレステロール及び脂肪酸のデノボ合成に関与する遺伝子の発現を増加させる。
【0096】
インスリンシグナル伝達は、血清NEFAレベルの増加を通じてTNF−αにより間接的に障害される。チアゾリジンジオンは、インスリン作用に対するTNF−αの阻害効果を改善することが知られている。J Clin Invest.1997 Oct 1;100(7):1863−9を参照されたい。さらに、体重減少により、TNF−αレベルが減少することが認められている。J Clin Invest.1995 May;95(5):2111−9を参照されたい。
【0097】
レチノール結合タンパク質
様々な実施形態では、本発明は、対象のRBP−4レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のRBP−4レベルを低下させ、それによりRBP−4レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。レチノール結合タンパク質4(RBP4)は、最近、AG4KOマウスモデルでインスリン抵抗性に寄与するアディポカインとして記載されている。Yang Q, et al.,Serum retinol binding protein 4 contributes to insulin resistance in obesity and type 2 diabetes,Nature 436(7049):356−62.(2005)を参照されたい。RBP4は、糖尿病の発症前に血清中で上昇しており、多様な臨床症状を示す対象のインスリン抵抗性及び関連する心血管危険因子を同定するように思われる。これらの知見により、血清RBP4レベルの低下を目的とした抗糖尿病療法の理論的根拠が与えられた。Graham TE,et.al N Engl J Med.2006 Jun 15;354(24):2552−63を参照されたい。
【0098】
一酸化窒素
様々な実施形態では、本発明は、対象の一酸化窒素レベルを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の一酸化窒素レベルを増加させるのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0099】
内皮NOS(eNOS)(別名、一酸化窒素シンターゼ3(NOS3))は、血管中でNOを発生させ、血管機能の調節や血圧の低下に関与する。Alderton WK, et al.,Biochem J.2001 Aug 1;357(Pt 3):593−615を参照されたい。NOは、直接的な血管拡張(流量依存性、受容体媒介性);血管収縮を引き起こす影響を阻害することによる間接的な血管拡張(例えば、アンジオテンシンII及び交感神経性血管収縮剤を阻害する)、抗血栓作用(血小板の血管内皮への接着を阻害する)、抗炎症作用(白血球の血管内皮への接着を阻害する)、スーパーオキシドアニオンを捕捉する能力;並びに抗増殖作用(例えば、平滑筋過形成を阻害する)をはじめとする、様々な血管作用を有することが知られている。
【0100】
NOに上述の作用があることから、その産生障害やバイオアベイラビリティ低下によって、血管収縮(例えば、冠攣縮性狭心症、全身血管抵抗の上昇、高血圧症);血小板の凝集や血管内皮への接着による血栓症;白血球接着分子や内皮接着分子の上方調節による炎症;血管肥大及び血管狭窄が生じることがある。Nitric Oxide:Biology and Pathobiology;By:Louis J.Ignarro(編者) ISBN−10:0123738660;ISBN−13:9780123738660 Publisher:Academic Press − 2009を参照されたい。NOの産生及びバイオアベイラビリティの異常と関連する疾患又は状態としては、限定するものではないが、高血圧症;肥満;脂質異常症(特に、高コレステロール血症及び高トリグリセリド血症);糖尿病(I型及びII型);心不全;アテローム性動脈硬化症;並びに加齢と関連する状態が挙げられる。Dessy,C, et al.,(2004年9月). “Pathophysiological Roles of Nitric Oxide:In the Heart and the Coronary Vasculature”及びCurrent Medical Chemistry − Anti−Inflammatory & Anti−Allergy Agents in Medicinal Chemistry(Bentham Science Publishers Ltd.) 3(3):207−216を参照されたい。
【0101】
MCP−1(単球走化性タンパク質−1)
様々な実施形態では、本発明は、対象のMCP−1レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のMCP−1レベルを低下させ、それによりMCP−1レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。MCP−1は、炎症部位に単球を動員するケモカインである。MCP−1は、白色脂肪組織中の脂肪細胞や間質血管細胞によって発現され、分泌される。肥満の齧歯類では、循環MCP−1レベルがより高く、脂肪組織によるMCP−1発現が増加している。J Biol Chem.2003 Nov 21,278(47):46654−60を参照されたい。さらに、MCP−1は、インスリン刺激性のグルコース取込みやインスリン誘導性のインスリン受容体チロシンリン酸化を減少させることによってインスリン抵抗性に直接寄与することができ、また、脂肪生成遺伝子の発現を減少させることによって、脂肪細胞の増殖や分化を阻害することができる。
【0102】
MCP−1をマウスに投与すると、末梢で循環単球が増加し、動脈中の単球蓄積が増加し、新生内膜が形成されるので、アテローム発生におけるMCP−1の役割が示唆される。Cardiovasc Res.2003 Jan;57(1):178−85を参照されたい。
【0103】
硫化水素
様々な実施形態では、本発明は、対象のH2Sレベルを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の血清H2Sレベルを増加させ、それにより低H2Sレベルと関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。H2Sは、代謝、心機能及び細胞生存を調節するいくつかの細胞シグナルを促進する。内在性H2Sのバイオアベイラビリティは、システインの生合成に関与するいくつかの酵素によって調節される。Szabo C(2007).Hydrogen sulfide and its therapeutic potential.Nat Reviews 6:917−935を参照されたい。健常人とII型糖尿病の男性患者から採取した血液サンプル中のH2Sのレベルは、糖尿病患者におけるH2Sレベルの著しい減少を示した。より低いH2Sレベルは、微小血管機能障害の臨床マーカーと関連しており、この血圧降下ガスの喪失が、糖尿病患者における血管合併症の発症の要因となり得ることを示唆している。Brancaleone V, et al.(2008). Biosynthesis of H2S is impaired in non−obese diabetic(NOD) mice;Br J Pharmacol 155:673−680:Lefer DJ(2007). A new gaseous signaling molecule emerges:cardio protective role of hydrogen sulfide;及びProc Natl Acad Sci USA 104:17907−17908を参照されたい。
【0104】
ICAM−1(細胞間接着分子−1)
様々な実施形態では、本発明は、対象のICAM−1レベルの上昇を調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のICAM−1レベルを低下させ、それによりICAM−1レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。ICAM−1は、風邪を引き起こすウイルスの大多数によって用いられるものと同じ受容体分子である。ライノウイルスは、風邪をよく引き起こす。接着分子は、発生学、免疫学、及び悪性腫瘍をはじめとする、多くの医学分野において主要な役割を果たす。
【0105】
多くの生理学的過程では、細胞が他の細胞又は細胞外マトリックスに接触し、これらに接着することが必要となる。細胞と細胞の相互作用や細胞とマトリックスの相互作用は、いくつかの細胞間接着分子、すなわち「ICAM」ファミリーによって仲介される。New Cell adhesion research,Patrick Nott and other contributors,ISBN−10:1606923781;ISBN−13:9781606923788 Publisher:Nova Biomedical Books − 2009−04を参照されたい。従って、ICAM−1は、正常な過程と病態生理学的過程の両方において必須の役割を果たす(Springer et al.,1987,Ann.Rev.Immunol.5:223−252)。従って、ICAM−1の機能又は発現を阻止することによって細胞接着を媒介するための戦略が開発されてきた。このような戦略は、典型的には、抗ICAM−1抗体、ICAM−1結合を競合的に阻止するリガンド、又はICAM−1 mRNAに対するアンチセンス核酸分子を利用する。しかしながら、このような治療で用いられる薬剤は、ICAM−1を化学量論的に低下させるに過ぎず、通常、罹患細胞又は活性化細胞による異常に高いICAM−1の産生に圧倒される。
【0106】
好中球の浸潤を特徴とする疾患は、慢性疾患を伴うことが多く、その場合、ICAM−1又はVCAM−1の発現が優勢になる。Adams DH,Shaw S 1994 Leukocyte endothelial interactions and regulation of leukocyte migration.Lancet 343:831−836を参照されたい。局所発現の増加及び血清可溶性接着分子の増加は、動脈硬化症、血管炎、関節炎、腎疾患及び肝疾患、虚血再灌流状態、臓器拒絶反応、転移、並びに多くのより病的な状態をはじめとする、様々な病的状態において報告されている。Bevilacqua MP, et al.,1994 Endothelial leukocyte adhesion molecules in human disease.Annu Rev Med 45:361−378を参照されたい。
【0107】
接着分子は、特定の形態の炎症において重要であり得る。Gorski A 1994 the role of cell adhesion molecules in immunopathology.Immunol Today 15:251−255を参照されたい。従って、必要なのは、ICAM−1媒介性の細胞接着を効果的に減少させるか又は遮断するために、ICAM−1の発現を選択的に阻害する触媒量又は準化学量論的量の薬剤である。
【0108】
多くの様々なウイルス感染阻害方法のうちの1つは、ウイルスの細胞への結合を阻止することである。ライノウイルス血清型の多くは、細胞への付着に、単一の細胞受容体、すなわち、細胞間接着分子−1(ICAM−1)を用いている。このことは、風邪の治療法の探索を目指した、この受容体の遮断薬の開発につながる可能性がある。
【0109】
ICAM−1の発現は、アレルギー性接触皮膚炎、固定薬疹、扁平苔癬、及び乾癬などの種々の炎症性皮膚障害とも関連付けられている。Ho et al.,1990,J.Am.Acad.Dermatol.22:64−68;Griffiths and Nickoloff,1989,Am.J.Pathology 135:1045−1053;Lisby et al.,1989,Br.J.Dermatol.120:479−484;及びShiohara et al.,1989,Arch.Dermatol.125:1371−1376を参照されたい。さらに、ICAM−1発現は、関節リウマチ患者(Hale et al.,1989,Arth.Rheum.32:22−30);糖尿病患者の膵臓B細胞(Campbell et al.,1989,P.N.A.S.USA 86:4282−4286);グレーブス病患者の甲状腺濾胞細胞(Weetman et al.,1989,J.Endocrinol.122:185−191);腎同種移植及び肝同種移植の拒絶反応(Faull and Russ,1989,Transplantation 48:226−230;Adams et al.,1989,Lancet 1122−1125);並びに炎症性腸疾患(IBD)組織(Springer T,1990,Nature 346:425−34)において検出されている。
【0110】
I型糖尿病に共通して認められる合併症もまたICAM−1の発現を伴う。例えば、ICAM−1によって媒介される白血球の毛細血管内皮への接着は、網膜、末梢神経、及び腎臓などの糖尿病患者の特定の組織における微小血管虚血を引き起こすことがある。これは、これらの組織の毛細血管非灌流をもたらし、この毛細血管非灌流がさらに、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害もしくは糖尿病性腎症、又は細胞間接着分子−1(ICAM−1)を介する多形核白血球と内皮細胞の接着によって誘導される血管形成を引き起こす。従って、ICAM−1によって媒介される白血球停滞を阻害することで、糖尿病と関連する網膜異常を予防することができると考えられている。Miyamoto K et al.(2000),Am.J.Pathol.156:1733−1739;Miyamoto K et al.(1999),P.N.A.S USA 96:10836−1084;Jude E B et al.(1998),Diabetologia 41:330−6;Miyamoto et al.,1999,P.N.A.S USA 96:10836−10841;及びYong Song Gho et al.,Cancer Research 59,5128−5132,October 15,1999を参照されたい。
【0111】
グルタチオン
様々な実施形態では、本発明は、対象のGSHレベルを増加させるか又は調節する方法を提供する。本方法は、対象のGSHレベルを増加させるか又は調節するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0112】
還元型のグルタチオン(GSH)は、動物細胞において最も多い非タンパク質チオールである。そのデノボ合成とサルベージ合成は還元された細胞環境を維持するのに役立ち、このトリペプチドは多くの細胞質酵素の補因子であり、いくつかの細胞タンパク質の重要な翻訳後修飾としての役割も果たす。システインチオールは、外因性求電子種と内在性求電子種の両方との反応において求核物質としての役割を果たす。結果として、活性酸素種(ROS)は、自然反応と触媒反応の両方において、GSHの標的となることが多い。ROSは、細胞シグナル伝達事象及びヒト疾患病理において明確な役割を有するので、GSHと関連酵素の発現の不均衡は、種々の状況の原因とされている。GSH代謝と疾患(例えば、癌、神経変性疾患、嚢胞性線維症(CF)、HIV、及び老化)の因果関係が示されている。GSH恒常性に関与する酵素の多型発現は、これらの疾患の易罹患性や進行に影響を及ぼす。Danyelle M.Townsend,*,Kenneth D.Tew,Haim Tapiero Biomedicine & Pharmacotherapy 57(2003) 145−155を参照されたい。
【0113】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0114】
上に示した例示的な方法を含む、本発明の方法の各々の様々な実施形態では、本発明の製剤で治療される対象は、ビタミンE補給を必要としない。様々な他の実施形態では、本製剤の投与によって調節される代謝パラメータ又は本製剤の投与によって治療される疾患は、対象へのビタミンE補給により治療可能であることが認識されているか又は対象へのビタミンE補給により改善することが知られているパラメータ又は疾患ではない。
【0115】
血液化学又は代謝の変化を測るための当該技術分野で認められているアッセイが、本発明の粒子の治療関連(又は他の)投薬量の有効性を確認するのに用いられる。以下に、様々な投薬量で本発明の有効性を解析するために使用可能な従来のアッセイのごく一部を示す実施例を提供する。血漿中のサイトカイン、インスリン、脂質過酸化及びビタミンC、CRP、MCP−1、IL−6、TNF−α、レプチン、レチノール結合タンパク質並びにインスリンのレベルを測る標準的アッセイは、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法の形態を取ることができる。酸化ストレスは、そのチオバルビツール酸との反応によるマロンジアルデヒド(脂質過酸化の最終産物)を測定することにより決定することができる。Jain,J.Biol.Chem.264:21340−21345,1989;Jain et al.,Diabetes 38:1539−1543,1989を参照されたい。タンパク質酸化は、Yan et al.,Arch.Biochem Biophys.327:330−334,1996に開示されている方法により決定することができる。インスリン抵抗性は、例えば、HOMA法により決定することができる(Yaturu et al.,Cytokine 34:219−23,2006)。血漿中のビタミンC濃度は、Nino及びShawの方法により決定することができる。Alan Wu(編).Teitz Clinical Guide to Laboratory Tests(第4版),Philadelphia,WB Saunders Co.2006を参照されたい。グリコシル化ヘモグロビンは、Helena Laboratories(Beaumont,TX)から購入したGlyco−Tek親和性カラムキット及び試薬(カタログ番号5351)を用いて決定することができる。グルコースレベルは、グルコースオキシダーゼを用いて、Accu−check Advantageグルコメーター(Boehringer Manheim Corporation,Indianapolis,IN)により決定することができる。
【0116】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されている。しかしながら、本発明は、これらの実施例に記載されている特定の条件又は詳細に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0117】
実施例1
1%ポリコサノールを含む液体製剤の調製
1.スクロースラウレート(0.1〜0.5%)を含む水溶液(100mL)を調製し、撹拌しながら80〜85℃まで加温する。
2.ビーカーの中に、ポリコサノール(1g)と少なくとも1つの賦形剤又は安定剤(2〜5g)とを量り取り、撹拌しながら80〜85℃まで加温する。
3.強く撹拌しながら、ビーカーの中にポリコサノールと賦形剤とともに糖エステル溶液を入れ、撹拌しながら80〜85℃に5分間維持する。温度が50℃未満になると、この製剤は透明になる。
4.ヒーターのスイッチを切り、室温に達するまで穏やかに撹拌させておく。
5.防腐剤(例えば、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、クエン酸無水物)を添加する。
6.この溶液をボトルに入れる。
【0118】
実施例2
【表1】
【表2】
【表3】
【0119】
実施例3
粒子サイズが53nmで、オクタコサノールが約82〜83%の1%ポリコサノール溶液(10mg/mL)を用いたラット研究
材料及び方法
雄のズッカー糖尿病肥満ラットを、5週齢でCharles River Laboratoriesから購入した。動物にランダムに番号を振り、温度と湿度が調節された動物施設内のプラスチック製のコロニーケージで1匹ずつ飼育した。動物を、一般に認められた委員会プロトコルに従い、このプロトコルを用いて飼育した。ラットを2日間、環境とトレーナーによる扱いに馴れさせた。ラットの高血糖症を、その血中グルコース濃度を測定することにより検査した。血中グルコースは、好都合なAccu−Chek(商標登録)グルコメーター(Boehringer Mannheim Corp.,Indianapolis,IN)を用いて尾部切開により測定した。ラットをランダムに3つのグループに分けた。処理グループの各々のラットには、20Gの給餌針(Popper and Sons,New Hyde Park,NY)を用いた強制経口投与により毎日8週間、適切な用量の本発明のナノ粒子ポリコサノール製剤を補給した。対照グループには、ビヒクル緩衝液を補給した。ポリコサノール補給投薬量を決定するために、体重を週1回モニタリングした。ラットを、22±2℃で、12時間:12時間の明暗周期にして、水とPurina 5008実験食(lab chow diet)を自由摂取させて、標準的な飼育条件下で飼育した。8週目の終わりに、ラットを一晩絶食させた後、解析のためにハロタン(2−ブロモ−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタン)に曝露させて安楽死させた。19 1/2ゲージ針で心穿刺して血液を採取し、ヘパリンを含むシリンジに血液を引き入れ、その後すぐに、それをEDTAバキュテナーチューブに移した。
【0120】
3つのグループのZDFラットが存在した。1.対照ZDF;2.ポリコサノール(5mg/日/kg BW)を補給したZDF、及び(3)補給を開始する時点のラット。これにより、ZDFラットの血液中で解析すべき全てのパラメータのベースラインレベルが分かった。同じぐらいの年齢のスプラーグドーリーラットを、正常食で飼育した年齢を一致させた正常対照ラットとして用いた。
【0121】
ラットを、ポリコサノールありとポリコサノールなしで、Purina 5008食で8週間飼育した。アイスバケットに置かれた予冷されたEDTAチューブの中に血液サンプルを採取した。EDTA血をHbA1cアッセイとCBCアッセイ(臨床血液学研究室が実施)に用いた。EDTA血を遠心分離した。RBCをGSHアッセイと脂質過酸化アッセイに用いた。透明な血漿は、脂質過酸化産物及びタンパク質酸化産物のために、並びにELISAアッセイによるTNF−α、IL−6、MCP−1、CRP、アディポカイン、インスリン感受性のために取っておいた。解析は全て採血後すぐに実施した。酸化ストレスマーカーと炎症促進性サイトカイン用のサンプルは、−70℃フリーザーで保存した。ポリコサノール補給時の毒性の兆候を明らかにするために、SGOT値とSGPT値を含む完全な化学プロファイル(CMP2)も実施した。サイトカインアッセイでは、異なる日にサイトカインを解析したときのプレート間変動をモニタリングするために、常に対照血清サンプルを解析した。日による対照血清値の変動が7%を超える場合は、アッセイを繰り返した。
【0122】
サイトカイン、インスリン、脂質過酸化及びビタミンCのアッセイ:血漿中のCRP、MCP−1、IL−6、TNF−α、レプチン、レチノール結合タンパク質及びインスリンのレベルは、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill)製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法により決定した。製造元のキットにより指定された適切な対照と標準を全て用いた。サイトカインアッセイでは、異なる日に解析したときのプレート間変動を調べるために、対照サンプルを毎回解析した。酸化ストレスは、そのチオバルビツール酸との反応によるマロンジアルデヒド(脂質過酸化の最終産物)を測定することにより決定した(1,2)。Jain “Hyperglycemia can cause membrane lipid peroxidation and osmotic fragility in human red blood cells.” J Biol Chem 264:21340−21345,1989;及びJain et al., “Erythrocyte membrane lipid peroxidation and glycosylated hemoglobin in diabetes” Diabetes 38:1539−1543,1989を参照されたい。タンパク質酸化は、“Efficacy of hypochlorous acid scavengers in the prevention of protein carbonyl formation” Arch Biochem Biophys 327:330−334,1996に記載のYan et al.の方法により決定した。インスリン抵抗性は、HOMA法により決定した。Yaturu et al., “Resistin and adiponectin levels in subjects with coronary artery disease and type 2 diabetes.” Cytokine 34:219−23,2006;及びIsmael et al., “Bockade of sensory abnormalities and kinin B1 receptor expression by N−acetyl−L−cysteine and ramipril in a rat model of insulin resistance.” Eur J Pharmacol.589:66−72,2008を参照されたい。血漿中のビタミンC濃度は、Nino及びShawの方法により決定した。Wu(編).Teitz Clinical Guide to Laboratory Tests(第4版) Philadelphia,WB Saunders Co.2006を参照されたい。GSHは、Red Blood Cell Metabolism:A manual of Biochemical Methods Pub:Grune and Stratton,NY.131−134,1984に記載のBeutlerの方法により決定した。
【0123】
グリコシル化ヘモグロビン(GHb)、グルコース及びインスリン抵抗性の測定
グリコシル化ヘモグロビンは、Helena Laboratories(Beaumont,TX)から購入したGlyco−Tek親和性カラムキット及び試薬(カタログ番号5351)を用いて決定した。グルコースレベルは、グルコースオキシダーゼを用いてAccu−check Advantageグルコメーター(Boehringer Manheim Corporation,Indianapolis,IN)により決定した。
【0124】
肝抽出物のウェスタンブロット解析:実験用ラットから摘出した組織を液体窒素を用いてすぐに凍結させ、よくすり潰して粉末にし、さらに使用するまで−70℃で凍結させた。凍結組織粉末(<150mg)をプロテアーゼインヒビターを含む1mLのPBSに再懸濁して洗浄し、穏やかにボルテックスし、15,000rpmで4℃にて10分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを上述のようにもう1回洗浄した後、プロテアーゼインヒビターを含む500mLの抽出緩衝液(25mM Tris、0.5mM EDTA、0.1mM PMSF、pH7.4)に再懸濁し、ホモジナイザーを用いてホモジナイズし、穏やかな超音波処理にかけた。チューブを15,000rpm(4℃、30分)で遠心分離し、上清(抽出物)を回収した。回収した抽出物を上記のようにもう1回遠心分離にかけ、細胞破片を除去した。この抽出物のタンパク質含量をBCAタンパク質アッセイを用いて測定した。メルカプトエタノールを還元剤として含めて5分間沸騰させた後、各グループからの等量のタンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲルに充填した。分離されたタンパク質をニトロセルロースメンブレンに転写し、T−PBS中の1%BSAでブロッキングし、それぞれの一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、メンブレンをT−PBSで洗浄し(8分、4回)、5%脱脂粉乳中の二次抗体とともに、室温で30分間、インキュベートした。メンブレンをT−PBSで再度洗浄し(8分、4回)、化学発光試薬で2分間処理し、オートラジオグラフィで現像するX線フィルムに感光させた。
【0125】
別途言及しない限り、化学薬品は全てSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から購入した。
【0126】
データ解析:データは、Sigma Plot統計ソフトウェア(Jandel Scientific,San Rafael,CA)で異なるグループ間のANOVAを用いて解析した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0127】
結果
異なる処理グループ間において屠殺時点での体重差は認められなかった。補給を開始してから5週間及び7週間後に評価したとき、各ラットによる1週間分の食餌摂取量は、両方のグループで同じぐらいであった。ポリコサノールを8週間補給した雄のズッカー肥満ラットの体重と食餌摂取量を下記の表1に示す。各値は平均±SEを表す。
【表4】
【0128】
全ての図において、「*」で印が付けられた値は、対照と比較して統計的に有意である(p<0.05)。図30は、補給したラットの血液中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(AP)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン及びアニオンGapのレベルに関するデータを示す。結果の解析から、ポリコサノール補給によって、グルコース、総コレステロール、トリグリセリド、タンパク質酸化、MCP−1及びCRP及びアルカリホスファターゼの血中レベルが低下し、ビタミンCの血中レベルが増加したことが示されている。ポリコサノールはトランスアミナーゼの血中レベルを変化させなかったが、糖尿病ラットと比較してアルカリホスファターゼレベルを確かに低下させた。
【0129】
表IIは、ポリコサノール補給が、糖尿病ラットのヘモグロビン、ヘマトクリット又はRBC数に影響を及ぼさなかったことを示し、これは、赤血球生存の変化がポリコサノール補給ZDFラットのより低いグリコシル化ヘモグロビンレベルに与える影響を一切否定し、ポリコサノール補給ラットにおいて毒性の兆候が一切ないことを支持するものである。このデータは、肝機能検査又は腎機能検査で評価したときに、ポリコサノール補給が毒性を一切引き起こさないようであることを示す。
【表5】
【0130】
肝臓は、グルコース代謝の調節において主要な役割を果たす。Michael et al., “Loss of Insulin signaling in hepatocytes leads to severe insulin resistance and progressive hepatic dysfunction.” Mol Cell.6:87−97,2000を参照されたい。肝臓は、グルコース、タンパク質及びビタミンの貯蔵器官である。血中グルコースレベルの主な調節因子である糖生成経路及び糖新生経路は肝臓に特有のものである。インスリン、グルカゴン、増殖ホルモン、コルチゾール、及びカテコールアミンをはじめとする、いくつかのホルモンが、肝臓によるグルコース代謝の調節に寄与する。従って、本発明者らは、ポリコサノール補給ラットにおける肝臓でのNF−κB活性化の役割と、グルコース代謝に対するその潜在的な寄与を調べた。
【0131】
本発明者らの研究の結果は、実験的糖尿病が、ベースライン対照と比較して、糖尿病ズッカーラットの肝臓におけるNF−κBの活性化を誘導したことを示す。Yerneni et al., “Hyperglycemia−induced activation of nuclear transcription factor kappaB in vascular smooth muscle cells.” Diabetes.48:855−64,1999を参照されたい。NF−κBは、高血糖症の既知の標的である。Meng et al., “Akt is a downstream target of NFkB.” J Biol Chem 277:29674−29680を参照されたい。糖尿病と関連する酸化ストレスは、NF−κB(p50及びp65として知られる2つのDNA結合サブユニットからなるヘテロ二量体)の既知の活性化因子である。NF−κBは、抑制性κB(IκB)として知られるその抑制性タンパク質と複合体を形成して細胞質中に存在する。活性化の後、IκBはNF−κBから解離し、ユビキチン化され、分解される。NF−κBは解放されて、核に移行する。その核移行と同時に、NF−κBはp65サブユニットの残基276でセリンリン酸化を受け、周囲のクロマチン構成要素と会合する。その後、NF−κBはDNAと結合し、炎症促進性サイトカインとインスリン抵抗性の既知のメディエーターの転写を促進する。従って、NF−κBのリン酸化p65サブユニットの測定は、NF−κB活性化を決定するための有効なツールである。図27に示すように、糖尿病ラットは、NF−κB活性化の上昇を示した。本発明者らは、NF−κBが本明細書に記載のポリコサノール製剤の投与によって阻害されることも見出した。本発明者らの結果は、ポリコサノール補給によって、糖尿病ラットにおける血糖症と酸化ストレスの阻害と炎症促進性サイトカインの分泌とが有意に改善されたことを示している。
【0132】
結論として、ポリコサノール補給には、血糖や炎症促進性サイトカインの血中レベルを低下させ、ビタミンCレベルを増加させる可能性がある。この効果は、ポリコサノールによるNF−κB活性化阻害によってもたらされる。
【0133】
実施例4
臨床試験研究
糖尿病患者の血圧低下における有効性と認容性をプライマリーエンドポイントとして評価し、かつその他の重要なバイオマーカーを評価するための非盲検単一施設研究において、上記の1%ポリコサノール製剤を用いた。この研究の結果を下記の実施例4.1にまとめる。
【0134】
実施例4.1
Homa%B(β細胞機能(%B))とインスリン感受性(%S)とインスリン抵抗性をHOMA Calculator v2.2.2(Diabetes Care 1998;21:2191−92)を用いて計算した。この研究には、平均年齢が48±22歳の14名の糖尿病対象が含まれた。糖尿病の平均期間は、13.5±12.5年であった。対象は、12週間の間、20mg(1日2回、1mL)を摂取した。対象の食事に制限はなかった。
【0135】
下記の表IIIに示すように、BMIが28を超える患者における収縮期血圧及び拡張期血圧、C反応性タンパク質レベル、超低密度脂質レベル(VLDL)、血清アルブミン、血清グロブリンレベル、並びに胴回りの減少は、p<<0.05で統計的に有意であった。この結果から、高血圧症の治療、C反応性タンパク質レベルが高い患者における心血管リスクの軽減、VLDL(LDLの前駆体)の減少、胴回りの減少、及び腎機能の改善に有用であり得ることが示される。ポリコサノールは認容性が極端に高く、患者からの有害事象の報告はなかった。
【表6】
【0136】
糖尿病患者の収縮期圧の低下における極めて有意な結果を基にして、英国の前向き糖尿病研究(UK Prospective Diabetes Study)(UKPDS)に基づくリスク因子の低下を計算することができる。5000人の患者を対象にしたこの10年にわたる研究により、糖尿病の合併症と収縮期血圧の間には直接的なリスク関係があるという結論が下された。収縮期圧の10mmの降下によって、リスク因子は10〜20%低下する。これを下記の表IVに示す。“Systolic pressure lowers the risk of association of systolic blood pressure with macrovascular and micro vascular complications of Type 2 diabetes:prospective observational study” British Medical Journal(2000) 321:412−419を参照されたい。
【表7】
【表8】
【0137】
UKPDSリスク評価方法を適用すると、12週目で、リスク低下が相当なものであったことが分かる。本発明のポリコサノール製剤は、糖尿病患者及び高血圧症関連疾患による危険にさらされている者のリスク因子を軽減するのに有用であると推測することができる。
【0138】
実施例4.2:
3歳の時に1型糖尿病と診断された26歳の男性に本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤(20mg/日)を投与した。この男性の治療前の1日のインスリン摂取量は、毎日30ユニットであった。ベースライン時点で、及び21週間にわたって、空腹時インスリンを測定した。結果を下記の表VIに示す。
【表9】
【0139】
上のデータに基づくと、ポリコサノール製剤は、1型糖尿病患者において、内在性インスリン産生時のβ細胞活性の増強に役立つ可能性がある。
【0140】
実施例4.3:
ネフローゼ症候群と診断された4歳の女児を1日10mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。ネフローゼ症候群は、尿中タンパク質(1日に3.5グラムを上回る)、低血中タンパク質レベル、高コレステロールレベル、及び腫れを含む一群の症状である。ネフローゼ症候群は、腎臓、特に、糸球体の基底膜に損傷を与える様々な障害によって引き起こされる。これはすぐに、尿中タンパク質の異常な排泄を引き起こす。ネフローゼ症候群はあらゆる年齢層を襲う可能性がある。小児では、2歳から6歳の間に最もよく見られる。
【0141】
ベースラインでは尿路症状はなかった。女児の尿対タンパク質クレアチニン比(UPCR)は6.0であった。ポリコサノール製剤で2週間治療した後、UPCR比は1.6まで低下し、4週間後には0.6まで低下した。下記のデータに基づくと、ポリコサノール製剤は、実施例4.1に示すような腎疾患を治療するのに有用である可能性がある。実施例4.1では、アルブミンの低下が統計的に有意であった。
【表10】
【0142】
実施例4.4:
日中に膝関節痛、夜間に関節の痺れと疼痛の症状を示す48歳の男性を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で3カ月間治療した。食事でビタミンCが十分に消費されたにもかかわらず、ベースライン時のビタミンCの血液血漿レベルは低かった(約0.15mg%)。関節リウマチと骨関節炎は、X線とMRIにより除外された。RA因子と尿酸レベルは正常であった。
【表11】
【0143】
患者の日中の膝関節痛は完全に抑えられ、夜間の疼痛は最小限にまで軽減された。
【0144】
実施例4.5:
2型糖尿病の43歳の男性患者(検出時は38歳)は、ベースライン時の血漿ビタミンCレベルが0.27mg%と非常に低かった。この研究のために、この男性患者に1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤を6カ月間投与した。
【0145】
6カ月目の終わりに、男性患者の血漿ビタミンCレベルは3.82mg%にまで改善していた。HbA1cと空腹時インスリンレベルの改善も認められた。
【表12】
【0146】
実施例4.6:
II型糖尿病及び高インスリン血症と診断された42歳の男性(診断時は37歳)を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で6カ月間治療した。下記の表に示すように、この男性は、6カ月目の終わりに空腹時インスリンレベルの有意な低下を示した。
【表13】
【0147】
実施例4.7:
41歳の時に2型糖尿病と診断された47歳の女性患者を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で6カ月間治療した。6カ月目の終わりに、ウェスト・ヒップ比、空腹時グルコースレベル、及びhs−C反応性タンパク質レベルの有意な低下が認められた。
【表14】
【0148】
実施例4.8:
ベースライン時に超低HDLを示した、非糖尿病の48歳の肥満(BMI>30)男性患者を1日40mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で8週間治療した。結果は、HDL、LDL、CHOL/HDL(総コレステロール/HDL)比の大きな改善と6kgの体重減少とBMI比の改善を示した。
【表15】
【0149】
実施例4.9:
高血圧症及び2型糖尿病と診断された50歳の女性を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。結果は、6カ月での血圧の大きな改善を示した。
【表16】
【0150】
実施例4.10:
10歳の女児が尿中アルブミンによる腎感染と診断された。この女児を1日10mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。10日後の尿検査で感染の完全寛解が示され、尿中アルブミンの痕跡は示されなかった。この結果は、アルブミンの存在を示す腎感染を治療する上での本発明の有用性を示している。
【0151】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は説明を目的とするものに過ぎず、それに照らして様々な修正又は変更が当業者に示唆され、かつ本出願の精神及び範囲並びに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書に引用される刊行物、特許、及び特許出願は全て、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年2月23日に出願された米国仮特許出願第61/154,712号に対する優先権の恩典を主張するものであり、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、少なくとも1つのポリコサノールを含むナノ粒子組成物、新規のナノ粒子ポリコサノール製剤、及びその使用に関する。様々な実施形態では、ナノ粒子ポリコサノール粒子は、約100nm未満の有効平均粒子サイズを有する。
【背景技術】
【0003】
ポリコサノールは、サトウキビなどの植物源から得られる濃縮長鎖N−アルキルアルコールの複合混合物である。ポリコサノールが健康なボランティアの血清脂質レベル及び血清リポタンパク質レベルに与える効果を調べたキューバでの初期研究から、2〜40mg/dの投薬量でポリコサノールを投与することにより、血清脂質レベル及び血清リポタンパク質レベルが低下し(Hernandez et al.,Curr.Ther.Res.Clin.Exp.1992;51:568)、高コレステロール血症が軽減する(Pons et al.,Curr.Ther.Res.Clin.Exp.;1992;52:507)ことが示された。しかしながら、数々のその後の研究にもかかわらず、キューバ国外の研究者は、もとの研究と共になされた主張を確認することができなかった。血清脂質/コレステロールレベルに対するポリコサノールの無効性は、同業者による審査のある評判の高い専門誌において包括的に実証されている。
【0004】
例えば、Francini−Pesentiと共同研究者らは、高コレステロール血症の対象に対してポリコサノールの二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施し、10mg/d及び20mg/dのポリコサノールの投与では脂質低下効果が示されないという結論を下した(Complement Ther.Med.;2008;16(2):61;及びPhytother.Res.;2008;22(3):318)。同様の盲検プラセボ対照試験において、Bertholdと共同研究者らは、10、20、40及び80mg/dのポリコサノール投与では、プラセボが投与された対象で見られる血清脂質レベルよりも血清脂質レベルが低くならないことを示した(JAMA;2006;295(19):2262)。Dullensらは、個々のポリコサノール成分(C24、C26、C28、又はC30)でも、天然のポリコサノール混合物(全成分、30mg/100g食餌)でも、LDL受容体ノックアウトマウスの血清コレステロール濃度は低下しないことを見出した(J.Lipid Res.;2008;49(4):790)。Kassisと共同研究者らは、ヒトの高コレステロール血症の治療におけるキューバのサトウキビポリコサノールの有効性を10mg/dの投薬量で研究し、ポリコサノールに高コレステロール血症対象の脂質指標に対する有益な効果がないという結論を下した(Am.J.Clin.Nutr.;2006;84(5):1003)。Linと共同研究者らは、正常から軽度に上昇した血漿コレステロールを有する対象において20mg/dの投薬量のコムギ胚芽ポリコサノールの効果を研究したが、血漿コレステロールの低下は検出されなかった(Metabolism;2004;53(10):1309)。Lukashevichらは、錠剤又は軟質ゲル製剤として毎日投与した蜜蝋ポリコサノール(10mg又は40mg)に、軽度から中程度の高コレステロール血症の対象の血清脂質に対する効果がないことを見出した(Circulation;2006;114:892)。Murphyらは、ウサギにヒマワリ油由来のポリコサノールを食餌補給しても、コレステロール低下効果がないことを見出した(J.Am.College Nutr;2008;27(4):476)。
【0005】
従って、キューバ人の研究の初期の一見前途有望そうな結果にもかかわらず、同時期に行なわれた盲検プラセボ対照試験から到達せざるを得ない結果は、当該技術分野で認められているポリコサノール製剤は、血清脂質/コレステロールレベルの調節に効果がないということである。
【0006】
他の代謝パラメータ及び生理的パラメータに対するポリコサノール製剤の有用性に関する研究も同様に否定的な結果を生んでいる。例えば、ポリコサノールは、血糖レベル、血糖管理(Crespo et al.,Int.J.Clin.Pharm.Res.;1999:117)又は糖尿病状態(Shinbori et al.,Eur.J.Pharmacol;2007;139−144)に対して効果がないことが示された。
【0007】
キューバ人の研究で使用されたポリコサノールの組成物又は製剤が、キューバ人の研究と他の研究者の研究の矛盾した結果の原因であるかどうかに関して、しばらくの間、論争が存在した。この論争は、独創的な研究において解消された(Kassis,British Journal of Nutrition(2007),97,381−388;Kassis,Lipids Health Dis.(2008);7:17;Kassis, Appl.Physiol.Nutr.Metab;(2008);33(3):540及びDullens, J.Lipid Res.(2008),49:790)。これらの研究者は、キューバ人の研究で使用された製剤を含む、利用された様々なサトウキビ由来のポリコサノール製剤を調べた。彼らの研究により、試験したポリコサノール製剤の中に、対照と比べてヒト又は動物における脂質パラメータを有意に改善するものはないという結論が下された。さらに、LDL酸化のインビボ評価により、ベースライン及び対照と比べた酸化LDL濃度の有意な変化は示されなかった。このように、2008年の半ばの時点で、キューバのサトウキビポリコサノール製剤及び他のサトウキビポリコサノール製剤の血清脂質低下効果に関する論争は、キューバ国外で解決されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリコサノールのナノ粒子及びナノ粒子製剤並びにこのナノ粒子及び製剤を作製する方法を提供する。極めて驚くべきことに、本発明のポリコサノール製剤は、コレステロールと血清脂質を減少させ、収縮期血圧と拡張期血圧を低下させる。さらに、本発明の製剤は、抗酸化効果を発揮し、インスリン抵抗性及びその結果を軽減し、ビタミンCレベルを上昇させ、血糖レベルを調節する。従って、本発明はまた、本発明の製剤を対象に投与することによって疾患を治療し、代謝を調節する方法を提供する。本発明はまた、代謝を調節し、高血圧症、高コレステロール血症及びいくつかの他の疾患を治療する方法を提供する。例えば、本発明の製剤は、インビボのタンパク質酸化を制御し、血中グルコースレベルを調節するのに有用であり、インスリン抵抗性及びその結果、例えば、糖尿病、及びその有害な下流効果を治療及び予防するために用いることができる。さらに、本発明の製剤は、対象のインビボのビタミンCレベルの調節に有用である。
【0009】
従って、様々な実施形態において、本発明は、ポリコサノールのナノ粒子を提供する。典型的な本発明のナノ粒子は、約60%〜約95%、例えば、約70%〜約95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、安定剤画分とを含む。例示的な実施形態では、安定剤画分は、ポリ(エチレングリコール)エステルを含む。様々な実施形態では、安定剤画分は、トコフェリルエステルを含む。安定剤画分の例示的な成分は、トコフェリルポリ(エチレングリコール)エステル、例えば、トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)を含む。例示的な本発明のナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。
【0010】
本発明の他の目的、利点、及び実施形態を以下の詳細な説明に示す。
【0011】
以下に明確される内容と同様に、本発明の上述の特性、利点及び目的が達成され、また、詳細に理解されるように、上で簡潔に要約された本発明のより具体的な説明は、添付の図面で示されるその特定の実施形態を参照してなされ得る。これらの図面は、本明細書の一部を形成する。しかしながら、添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を示すものであり、従って、それらの範囲に限定するものと考えられるべきでないことに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】他のナノ粒子と比べた本発明の粒子のサイズを示す。
【図2】光散乱で測定される約48nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図3】光散乱で測定される約55nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図4】光散乱で測定される約53nmのピークを有する本発明のナノ粒子のサイズ分布を示す。
【図5】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるインスリン抵抗性のレベルを示す。
【図6】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるアディポネクチンの血漿レベルを示す。
【図7】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるアルカリホスファターゼの血中レベルを示す。
【図8】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおける総コレステロール/HDL比のレベルを示す。
【図9】未処理のラット並びに1mg/kg及び2mg/kgの本発明の粒子で処理したラットにおけるC反応性タンパク質の血中レベルを示す。
【図10】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける空腹時血中グルコースレベルを示す。
【図11】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるグルタチオンレベルを示す。
【図12】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるグリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを示す。
【図13】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるHDLレベルを示す。
【図14】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるICAM−1(細胞間接着分子)レベルを示す。
【図15】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるMCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを示す。
【図16】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける血漿H2S(硫化水素)のレベルを示す。
【図17】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるPAI−1(プラスミノーゲン活性化インヒビター)レベルを示す。
【図18】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける一酸化窒素レベルを示す。
【図19】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるタンパク質酸化レベルを示す。
【図20】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるランダムなグルコースレベルを示す。
【図21】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける赤血球脂質過酸化レベルを示す。
【図22】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるRBP−4(レチノール結合タンパク質)レベルを示す。
【図23】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるTNF−α(腫瘍壊死因子)レベルを示す。
【図24】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおける総コレステロールレベルを示す。
【図25】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるトリグリセリドレベルを示す。
【図26】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるビタミンCレベルを示す。
【図27】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるウェスタンブロット解析によるNF−κB(活性化B細胞の核因子κ軽鎖エンハンサー)p50及びp65のタンパク質強度を示す。
【図28】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるp−50−nf−κb/βアクチン比を示す。
【図29】未処理のラット及び本発明の粒子で処理したラットにおけるp−65−nf−κb/βアクチン比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
別途指示がない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、一般に、本発明が属する技術分野の専門家によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0014】
「ポリコサノール」という用語は、濃縮N−アルキルアルコールの混合物を指す。ポリコサノールの例示的な供給源は、サトウキビ及び蜜蝋である。ポリコサノールは、既知の方法により抽出される。ポリコサノール中の長鎖アルコールは、主に1−オクタコサノール、1−トリアコンタノール、1−テトラコサノール、及び1−ヘキサコサノールである。典型的な市販の商業組成物は、(a)1−テトラコサノール:0〜10%;(b)1−ヘキサコサノール:2〜15%;(c)1−ヘプタコサノール:0〜0.5%;(d)1−オクタコサノール:55〜70%;(e)1−ノナコサノール:0〜10%;(f)1−トリアコンタノール:5〜20%;(g)1−ドトリアコンタノール:0.1〜10%;及び(h)1−テトレートリアコンタノール:0.1〜10%といった最低90%の脂肪アルコールから構成される。
【0015】
「有効平均粒子サイズ」、「粒子サイズ」及び「サイズ」という用語は互換的に用いられる。これらの用語は、光散乱を用いた粒子サイズ評価において生じるピークの頂点に本質的に対応する粒子サイズを指す。本発明の粒子のサイズを決定するための有用な方法は、光散乱に限定されない。
【0016】
本方法及び製剤は、予防目的又は治療目的で使用され得る。いくつかの実施形態では、任意の疾患もしくは障害を「治療する」又は任意の疾患もしくは障害の「治療」という用語は、疾患又は障害を改善すること(すなわち、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの進行を停止させる又は軽減すること)を指す。他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、対象によって認識されない場合がある少なくとも1つの物理的パラメータを改善することを指す。さらに他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、物理的に(例えば、認識可能な症状の安定化もしくは根絶)、生理的に(例えば、物理的パラメータの安定化もしくは根絶)又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を抑制することを指す。また他の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、疾患又は障害の発症を遅延させることを指す。
【0017】
「治療的有効量」は、本発明の方法に言及するとき、本明細書において「に有効な量」と互換的に用いられる。ポリコサノール投薬量に関して用いられるとき、これらの用語は、特定の薬理学的応答を提供する投薬量を指し、この特定の薬理学的応答を得るために、ポリコサノールは、そのような治療を必要とする相当数の対象に投与される。特定の場合に特定の対象に投与される「治療的有効量」は、そのような投薬量が当業者に「治療的有効量」とみなされるとしても、特定の疾患の治療を受ける患者の100%に有効なものではあり得ず、本明細書に記載の疾患の治療に必ずしも有効であるわけではないことが強調される。ポリコサノール投薬量が、特定の場合には、経口投薬量として、又は血中で測定されるような薬物レベルに関して測定されることがさらに理解されるべきである。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「個体」、「対象」、及び「患者」という用語は、動物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)を指すために互換的に用いられる。
【0019】
A.組成物
様々な実施形態では、本発明は、ポリコサノールのナノ粒子を提供する。典型的な本発明のナノ粒子は、約70%〜90%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、安定剤画分とを含む。例示的な実施形態では、安定剤画分は、ポリ(エチレングリコール)エステルを含む。様々な実施形態では、安定剤画分は、トコフェリルエステルを含む。安定剤画分の例示的な成分としては、トコフェリルポリ(エチレングリコール)エステル、例えば、トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)が挙げられる。例示的な本発明のナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。薬学的製剤をはじめとする、複数の本発明のナノ粒子を取り込んだ製剤も提供する。
【0020】
様々な実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも約70%のオクタコサノール、少なくとも約71%のオクタコサノール、少なくとも約72%のオクタコサノール、少なくとも約73%のオクタコサノール、少なくとも約74%のオクタコサノール、少なくとも約75%のオクタコサノール、少なくとも約76%のオクタコサノール、少なくとも約77%のオクタコサノール、少なくとも約78%のオクタコサノール、少なくとも約79%のオクタコサノール、少なくとも約80%のオクタコサノール、少なくとも約81%のオクタコサノール、少なくとも約82%のオクタコサノール、少なくとも約83%のオクタコサノール、少なくとも約84%のオクタコサノール、少なくとも約85%のオクタコサノール、少なくとも約86%のオクタコサノール、少なくとも約87%のオクタコサノール、少なくとも約88%のオクタコサノール、少なくとも約89%のオクタコサノール、又は少なくとも約90%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分を含む。
【0021】
様々な実施形態では、ナノ粒子は、約90%以下のオクタコサノール、約89%以下のオクタコサノール、約88%以下のオクタコサノール、約87%以下のオクタコサノール、約86%以下のオクタコサノール、約85%以下のオクタコサノール、約84%以下のオクタコサノール、約83%以下のオクタコサノール、約82%以下のオクタコサノール、約81%以下のオクタコサノール、約80%以下のオクタコサノール、約79%以下のオクタコサノール、78%以下のオクタコサノール、77%以下のオクタコサノール、76%以下のオクタコサノール、75%以下のオクタコサノール、74%以下のオクタコサノール、73%以下のオクタコサノール、72%以下のオクタコサノール、又は71%以下のオクタコサノールを含むポリコサノール画分を含む。
【0022】
例示的な実施形態では、ナノ粒子は、約70%〜約90%、約71%〜約89%、約72%〜約88%、約73%〜約87%、約74%〜約86%、約75%〜約85%、約76%〜約84%、約77%〜約83%、約78%〜約82%、約79%〜約81%、又は約80%のオクタコサノールを有するポリコサノール画分を含む。
【0023】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、オクタコサノールとトリアコンタノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約8:1〜約17:1、約9:1〜約16:1、約10:1〜約15:1、約11:1〜約14:1、約12:1〜約13:1、約8:1〜約15:1、約8:1〜約13:1、約8:1〜約11:1、又は約8:1〜約9:1のオクタコサノール:トリアコンタノール比を有する。
【0024】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、オクタコサノールとヘキサコサノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約16:1〜約50:1;約18:1〜約45:1;約19:1〜約40:1;約19:1〜約35:1;約19:1〜約30:1;約19:1〜約25:1;約19:1〜約22:1;又は約19:1〜約20:1のオクタコサノール:ヘキサコンタノール比を有する。
【0025】
様々な実施形態では、ポリコサノール画分は、トリアコンタノールとヘキサコサノールの両方を含む。例示的な実施形態では、使用されるポリコサノールは、最大でも約1.5:1、最大でも約1.3:1;最大でも約1:1;最大でも約0.8:1;最大でも約0.6:1;最大でも約0.4:1;又は最大でも約0.2:1のトリアコサノール:ヘキサコンタノール比を有する。
【0026】
例示的な実施形態では、ナノ粒子は、約9:1〜約16:1の比でトリアコンタノールと混合された70%〜約95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、TPGSから本質的に完全に形成されている安定剤画分(例えば、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%TPGS)とを含む。様々な実施形態では、ポリコサノール画分とTPGSは、約1:2.8の比である。
【0027】
本発明は、任意の好適な供給源から獲得又は単離されたポリコサノール又はポリコサノールの成分を利用する。例えば、米国特許第5,663,156号;第5,856,316号;第6,197,832号;第6,225,354号;及び第6,596,776号(これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)は、使用される出発材料及び抽出過程に特有のポリコサノール組成物を開示している。様々な実施形態では、本発明のナノ粒子の作製に有用なポリコサノールは、少なくとも約80%のオクタコサノール、少なくとも約81%のオクタコサノール、少なくとも約82%のオクタコサノール、少なくとも約83%のオクタコサノール、少なくとも約84%のオクタコサノール、少なくとも約85%のオクタコサノール、少なくとも約86%のオクタコサノール、少なくとも約87%のオクタコサノール、少なくとも約88%のオクタコサノール、少なくとも約89%のオクタコサノール又は少なくとも約90%のオクタコサノールを含む。様々な実施形態では、使用されるポリコサノールは、約80%〜約85%のオクタコサノールを含む。例示的な実施形態では、オクタコサノールの量は、約82%〜約83%である。
【0028】
本発明のナノ粒子及びその製剤における安定剤画分として有用な様々な例示的な界面活性剤としては、ビタミンE TPGS(トコフェロールプロピレングロコールスクシネート、水溶性形態のビタミンE)、ソルビタンモノラウレート(Span 20)、ソルビタンモノパルミテート(Span 40)、ポロキサマー、ソルビタンモノステアレート(Span 60)、ソルビタンモノオレエート(Span 80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20、ポリソルベート20)、ポリオキシエチレン(20)モノパルミテート(Tween 40、ポリソルベート40)、ポリオキシエチレン(20)モノステアレート(Tween 60、ポリソルベート60)、ポリオキシエチレン(20)トリステアレート(Tween 65、ポリソルベート65)、ポリオキシエチレン(20)モノオレエート(Tween 80、ポリソルベート80)、スクロースモノミリステート、スクロースパルミテート/ステアレート、スクロースステアレート、ジオクチルスルホスクシネートナトリウム塩、モノグリセリドモノオレエート、モノグリセリドモノラウレート、モノグリセリドモノパルミテート、レシチン、ジグリセリド混合物、モノグリセリドのクエン酸エステル、モノグリセリドの酢酸エステル、モノグリセリドの乳酸エステル、モノグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、シクロデキストリン、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、ステアロイルラクチレート、C8−18遊離脂肪酸、PTS(米国特許第6.045.826号)又はそれらの組合せが挙げられる。様々な実施形態では、安定剤画分は、シクロデキストリンを含まない。他の実施形態では、安定剤画分は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含まない。
【0029】
本発明のナノ粒子は、約100nm以下の直径を有するナノ粒子を提供する任意の有用な比のポリコサノール画分と安定剤画分を含むことができる。例示的な実施形態では、ポリコサノール画分:安定剤画分の比は、約1:1〜約1:4、例えば、約1:2〜約1:3.5である。同様に、様々な実施形態では、オクタコサノール:安定剤の比の範囲は、約1:1.6〜約1:2.8、例えば、約1:2〜約1:2.5である。例示的な実施形態では、比は、約1:2.25である。例示的な本発明のナノ粒子におけるトリアコンタノール:安定剤の比の範囲は、約1:10〜約1:40、例えば、約1:11〜約1:35である。例示的な実施形態では、安定剤はビタミンEのエステル、例えば、TPGS(d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)である。
【0030】
ナノ粒子を生成させる混合物は、安定剤画分の他に、界面活性剤を含むこともできる。例示的な界面活性剤が上に示されており、これらは、例えば、TWEEN20、TWEEN80、エステル(例えば、スクロースパルミチン酸エステル及びスクロースステアリン酸モノエステル)、ペクチン、寒天など、当業者に一般に知られている。
【0031】
得られるナノ粒子ポリコサノール製剤を、固体投薬製剤又は液体投薬製剤、例えば、液体分散液、ゲル、エアロゾル、軟膏、クリーム、制御放出製剤、急速溶解製剤、凍結乾燥製剤、錠剤、カプセル、遅延放出製剤、延長放出製剤、パルス放出製剤、即時放出製剤と制御放出製剤を混ぜ合わせた物などにおいて利用することができる。
【0032】
本発明によるナノ粒子及び薬学的製剤は、1以上の結合剤、充填剤、潤滑剤、懸濁剤、甘味料、香味剤、防腐剤、緩衝剤、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、及び他の賦形剤も含み得る。このような賦形剤は当該技術分野で公知である。
【0033】
ナノ粒子又はナノ粒子の製剤において使用可能な例示的な賦形剤としては、限定するものではないが、大豆レシチン、大豆レシチン誘導体、カプリロカプロイルマクロゴール−8グリセリド、中鎖トリグリセリド、精製オリーブ油、液体香味料、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、糖エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プロピレングリコール、デクスパンテノール、アーモンド油、米油、ヒマワリ油、大豆油、ゴマ油、グリセリン、グリセリルパルミトステアレート、甘扁桃油、オレイン酸、ポリグリセリルオレエート、サッカロース、ポロキサマー、マクロゴール−15ヒドロキシステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、アスコルビルパルミテート、ポリエチレングリコール、セラリューションF、セラリューションH、セラリューションC、ラウロイルマクロゴール−32グリセリド、グリセリド、C12−C18ノグリセリド、C12−C18ジグリセリド、及びC12−C18トリグリセリド、グリセリルステアレート、プロピレングリコールラウレート、プロピレングリコールカプリレート、プロピレングリコールジペルゴネートが挙げられる。いくつかの実施形態では、本製剤は、クエン酸無水物、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、及びスクロースラウレートから選択される1以上の賦形剤を含む。
【0034】
充填剤の例は、ラクトース一水和物、ラクトース無水物、及び様々なデンプン類であり、結合剤の例は、様々なセルロース類及び架橋ポリビニルピロリドン、微結晶性セルロース(例えば、アビセル(商標)PH101及びアビセル(商標)PH102)、微結晶性セルロース、並びにケイ化微結晶性セルロース(プロソルブSMCC(商標))である。
【0035】
圧縮すべき粉末の流動性に対して作用する薬剤を含む、好適な潤滑剤は、コロイド状二酸化ケイ素(例えば、アエロジル(商標)200)、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、及びシリカゲルである。
【0036】
甘味料の例は、スクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、チクロ、アスパルテーム、及びアセスルファムなどの、任意の天然甘味料又は人工甘味料である。香味剤の例は、メガスイート(商標)(MAFCOの商標)、バブルガムフレーバー、及び果実フレーバーなどである。
【0037】
防腐剤の例は、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸及びその塩、パラヒドロキシ安息香酸の他のエステル(例えば、ブチルパラベン)、アルコール(例えば、エチルアルコールもしくはベンジルアルコール)、フェノール化合物(例えば、フェノール)、又は四級化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム)である。例示的な防腐剤としては、限定するものではないが、亜硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム及び安息香酸カルシウムが挙げられる。
【0038】
好適な希釈剤としては、薬学的に許容される不活性フィラー、例えば、微結晶性セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、及び/又は前述のもののいずれかの混合物が挙げられる。希釈剤の例としては、微結晶性セルロース(例えば、アビセル(商標)PH101及びアビセル(商標)PH102);ラクトース(例えば、ラクトース一水和物、ラクトース無水物、及びファルマトース(商標)DCL21);リン酸水素カルシウム(例えば、エムコンプレス(商標));マンニトール;デンプン;ソルビトール;スクロース;並びにグルコースが挙げられる。
【0039】
好適な崩壊剤としては、軽く架橋したポリビニルピロリドン、トウモロコシ(corn)デンプン、ジャガイモデンプン、トウモロコシ(maize)デンプン、及び加工デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グリコール酸ナトリウムデンプン、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0040】
発泡剤の例は、有機酸と炭酸塩又は重炭酸塩などの発泡性カップル(effervescent couples)である。好適な有機酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、及びアルギン酸と、これらの無水物並びに塩とが挙げられる。好適な炭酸塩及び重炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウムグリシン、炭酸L−リジン、及び炭酸アルギニンが挙げられる。あるいは、発泡性カップルの重炭酸ナトリウム成分のみが存在していてもよい。
【0041】
様々な実施形態では、本発明の組成物は、光散乱法、顕微鏡法、又は他の適当な方法で測定したときに、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の平均粒子サイズを有するナノ粒子ポリコサノールナノ粒子を含有する。
【0042】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも99%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0043】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも95%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0044】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも90%が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0045】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも85%(例えば、約85%〜約99%、95%、又は90%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0046】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約80%(例えば、約80%〜約99%、95%、90%、又は85%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0047】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約75%(例えば、約75%〜約99%、95%、90%、85%、又は80%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0048】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約70%(例えば、約70%〜約99%、95%、90%、85%、80%、又は70%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0049】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約65%(例えば、約65%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、又は70%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0050】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも約60%(例えば、約60%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、又は65%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0051】
本発明の一実施形態では、上述の方法で測定したときに、ポリコサノールナノ粒子の少なくとも55%(例えば、約55%〜約99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、又は60%)が、約100nm未満、約90nm未満、約80nm未満、約70nm未満、約60nm未満、又は約50nm未満の粒子サイズを有する製剤を提供する。
【0052】
ナノ粒子のサイズを決定する方法は当該技術分野で周知である。例えば、光回折(すなわち、光散乱計測)技術を用いることができる。これらの技術としては、広帯域散乱計測(米国特許第5,607,800号;第5,867,276号及び第5,963,329号)、スペクトル偏光解析(米国特許第5,739,909号)並びにスペクトル及び単一波長ビームプロファイル反射率測定及びビームプロファイル偏光解析(米国特許第6,429,943号)が挙げられる。さらに、隔離されたライン又は隔離されたバイア及びメサ上でCD測定を取得するために、単一波長レーザーBPR又はBPEを用いることが可能な場合もある(2002年9月13日に出願された米国特許出願第10/243,245号を参照されたい)。
【0053】
例示的な実施形態では、本発明は、治療的有効量のポリコサノールを含有する本発明のポリコサノールナノ粒子の単位投薬量製剤を提供する。例示的な実施形態では、単位投薬量製剤は、ポリコサノール画分と安定剤画分とを含有するナノ粒子の製剤であり、単位投薬量製剤は、約10mg〜約100mg、例えば、約10mg〜約50mgを含む。様々な実施形態では、単位投薬量は1日投薬量である。当業者であれば、ポリコサノールの治療的有効量を実験的に決定することができ、純粋な形態で、又はそのような形態が存在する場合には、薬学的に許容される塩、エステル、もしくはプロドラッグの形態で用いることができることを理解するであろう。本発明のナノ粒子組成物中のポリコサノールの実際の投薬量レベルは、特定の組成物や特定の投与方法に対する所望の治療応答を得るために有効なポリコサノールの量を得るように変化させてもよい。従って、選択される投薬量レベルは、所望の治療効果、投与経路、投与されるポリコサノールの効力、所望の治療期間、及び他の因子によって決まる。
【0054】
投薬量単位組成物は、1日用量を作り上げるために使用し得るような量又はその約量を含み得る。しかしながら、任意の特定の患者に対する特定の用量レベルは、種々の因子、すなわち、達成されるべき細胞応答又は生理的応答の種類及び程度;利用される特定の薬剤又は組成物の活性;利用される特定の薬剤又は組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康、性別、及び食事;薬剤の投与時間、投与経路、及び排出速度;治療期間;特定の薬剤と組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野で周知の同様の因子によって決まることが理解されるであろう。
【0055】
本発明のナノ粒子の例示的な作製方法では、事前に選択された量の安定剤とポリコサノールを撹拌により一緒に溶解させて、確実に均質になるようにする。高温の水又は添加剤、防腐剤、賦形剤などの水溶液を溶解物に添加し、撹拌しながら、所望の温度、通常は約60℃〜約90℃に維持する。例示的な方法では、水と固体の混合物は、水を固体よりも多く含み、例えば、重量で約10:1である。混合物を撹拌しながら、室温まで冷却する。様々な実施形態では、本方法により粒子の懸濁液が生じる。
【0056】
A.方法
ポリコサノールのナノ粒子及びこのナノ粒子を含む製剤の他に、本発明は、このナノ粒子及び製剤を用いて、疾患を治療及び予防し、代謝を調節する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明のナノ粒子は、高血圧、コレステロール代謝の調節、及び高脂血症、高コレステロール血症、炎症などの治療に有用である。様々な実施形態では、本製剤は、タンパク質酸化の調節又は低下に用いられる。例示的な実施形態では、本製剤は、血糖値、インスリン抵抗性、糖尿病、及び血糖レベルに関連する他の状態の管理に有用である。またさらなる実施形態では、本製剤は、血漿ビタミンCレベルの調節(例えば、増加)、並びに収縮期血圧及び拡張期血圧の低下に有用である。他の実施形態では、本製剤は、NF−κBの活性化の阻害に有用である。
【0057】
例示的な実施形態では、本製剤を治療的有効量で対象に投与して、特定の疾患又は障害を治療し、ここで、この対象は、別の場合にはポリコサノールによる治療を必要としない。様々な実施形態では、ナノ粒子を投与して、単一の疾患を治療するか又は単一の代謝因子を調節する。従って、例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症、高血圧症などの治療を必要としない対象においてインスリン抵抗性を治療する方法を提供する。例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において血糖を調節する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において糖尿病(例えば、II型糖尿病)を治療する方法を提供する。様々な実施形態では、本発明は、高血圧症、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象においてタンパク質酸化を減少させるか又は予防する方法を提供する。例示的な実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象において血清ビタミンCレベルを増加させる方法を提供する。他の実施形態では、本発明は、高脂血症、高コレステロール血症などの治療を必要としない対象においてNF−κBの活性化を阻害する方法を提供する。
【0058】
本発明の方法の非限定的な例を以下に示す。
【0059】
タンパク質酸化
本発明は、対象のタンパク質酸化を減少させ、従って、この酸化の有害な結果を軽減する方法を提供する。本方法は、対象のタンパク質酸化を減少させる治療的有効量の本発明のポリコサノール製剤を対象に投与することを含む。
【0060】
酸化ストレスは、肝臓毒素への曝露、肝内胆汁鬱滞、アルコール性肝障害、肝虚血/再灌流傷害及びウイルス性肝炎などの種々の病態生理学的状態における急性及び慢性の疾患及び損傷の発症の原因とされてきた(Stehbens,Exp.Mol.Pathol;2003;75(3):265;Jaeschke et al.,Toxicol.Lett.;2003;144(3):279−88;McDonough,Toxicology.2003;189(1−2):89;Jaeschke et al.,J.Clin.Invest;1988;81(4):1240)。活性酸素種(ROS)及び活性窒素種(RNS)の過剰産生は、これらの病的状態における抗酸化防御の顕著な減少とともに、脂質過酸化、タンパク質酸化及び核塩基酸化の過程を通じて様々な細胞機能を障害する。脂質過酸化は、例えば、細胞膜の物理的特性及び化学的特性を変化させ、それにより、その流動性及び透過性を変化させ、膜シグナル伝達及びイオン交換の障害を生じさせ、膨張、細胞溶解、そして最後には細胞死をもたらす。タンパク質及びDNAの酸化も、細胞の機能障害及び死に直接関係する(Fang Y Z et al.,Nutrition.2002;18(10):872−9)。
【0061】
タンパク質酸化に関連する疾患としては、限定するものではないが、関節リウマチ(IgG、α1−プロテイナーゼインヒビター)、虚血再灌流傷害、肺気腫(α1−プロテイナーゼインヒビター、エラスターゼ)、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病)、筋ジストロフィー、加齢に伴う障害(グルタミンシンセターゼ、炭酸脱水素酵素III、アコニターゼ)、急性膵炎、白内障発生(α−クリスタリン)、癌、慢性エタノール摂取、成人呼吸逼迫症候群が挙げられる。本発明の製剤を用いて、クワシオルコールの影響を治療又は改善することもできる(Manory,J.Pediatr;2000;137:421).
【0062】
例示的な治療関連用量は、タンパク質酸化の標準的な臨床マーカー(例えば、タンパク質カルボキシル化)の低下をもたらす用量である。タンパク質カルボニル含量(PCC)は、最も広く用いられているタンパク質の酸化修飾のマーカーである。PCCの定量にはいくつかの方法がある。様々な従来法では、2,4−ジニトロフェニルヒドラジンをタンパク質カルボニルと反応させて、対応するヒドラゾンを形成させ、これを放射能計数により光学的に、又は免疫組織化学的に解析することができる。例えば、Yan et al.,Arch.Biochem.Biophys.327:330−334,1996を参照されたい。
【0063】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0064】
血清ビタミンCの増加
本発明はまた、対象の血清ビタミンCを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の血清ビタミンCレベルを増加させるか又は調節する治療的有効量の本発明のポリコサノール製剤を対象に投与する工程を含む。
【0065】
インスリン抵抗性及び糖尿病は、健康な対象で見られるレベルと比較したときに、血清ビタミンCレベルの減少を伴うので、経口投与される補給ビタミンCが、内皮機能障害をはじめとするインスリン抵抗性及び糖尿病の結果を治療するものとして提案されている。しかしながら、補給ビタミンCは、単独で用いた場合、有効性が認められなかった(Kaneto et al.,Diabetes;1999;48(12):2398)。これはおそらく、経口投与されるビタミンC補給では、内皮機能障害又はインスリン抵抗性が改善されないためである(Chen et al.,Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol;2006;290(1):H137)。
【0066】
本発明は、内在性ビタミンCを調節する方法、従って、インスリン抵抗性、糖尿病及びこれらの症候群の結果を治療する方法を提供する。
【0067】
例示的な治療関連用量は、例えば、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法で、血清ビタミンC濃度の標準的な臨床マーカーの増加をもたらす用量である。例えば、Washko et al.,Anal.Biochem.1992;204:1−14を参照されたい。
【0068】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0069】
インスリン抵抗性
本発明はまた、インスリン抵抗性及び限定するものではないが、糖尿病をはじめとする、インスリン抵抗性から生じる結果を治療する方法を提供する。本方法は、インスリン抵抗性を治療するのに十分な量の本発明の粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0070】
インスリン抵抗性は、循環インスリンの生理的効果に対するインスリン標的組織(例えば、骨格筋、肝臓、及び脂肪組織)による不十分な応答と定義される。これら3つの組織におけるインスリン感受性の障害の特徴は、インスリンにより刺激される骨格筋へのグルコース取込みの減少、インスリンにより媒介される肝臓における肝グルコース産生抑制の障害、及び脂肪組織における脂肪分解を抑制するインスリンの能力の低下である。実際、インスリン抵抗性は、II型糖尿病の発症の主な予測因子である。
【0071】
II型糖尿病では、インスリン抵抗性が顕性高血糖症の発症の前に起こることが広く認められている。インスリン抵抗性の原因は遺伝性及び/又は後天性であることがある。II型糖尿病によっても、患者にコレステロールの上昇や心血管疾患が生じやすくなる。西洋文化では、インスリン抵抗性を引き起こす最も一般的な後天性因子は、肥満、座っていることが多いライフスタイル、及び加齢であり、これらは全て相互に関連する。インスリン抵抗性に対する強力な代償性インスリン分泌応答が存在するとき、グルコースレベルは比較的正常であり続けることができる。しかしながら、インスリン産生膵β細胞がもはや組織インスリン感受性の減少を保証することができなくなったとき、グルコース恒常性が悪化し、耐糖能障害、そして最終的にはII型糖尿病が発症する。
【0072】
糖尿病を患う個体は、血流中のビタミンCのレベルも減少している。研究により、糖尿病患者は、正常個体よりも少なくとも30%低い循環アスコルビン酸レベルを有することが分かっている(Will et al.,Nutr.Rev.54(7):193(1996))。しかしながら、高用量の経口ビタミンCを投与しても、この欠損は改善されない(Chen et al.,J.Physiol.Heart Circ.Physiol.,290(1):H137−45(2006))。しかしながら、下記の実施例に見られるように、本発明の投与はこの欠損に対処する。
【0073】
インスリン抵抗性と関連する一般的な疾患又は障害としては、黒色表皮症、尋常性座瘡、アレルギー、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、双極性障害、乳癌、心血管疾患、白内障、子宮頸癌、鬱病、真性糖尿病、脂質異常症、脂肪肝疾患、小児2型糖尿病、慢性疲労、結腸直腸癌、ふけ、グレーブス病、心疾患、高LDLコレステロール、高トリグリセリド、多毛症、低血糖症、甲状腺機能低下症、炎症、腎疾患、低HDLコレステロール、ループス、神経障害、神経炎、骨粗鬆症、膵癌、パーキンソン病、多嚢胞性卵巣症候群、前立腺癌、関節リウマチ、強皮症、脂漏症、卒中、及び静脈瘤が挙げられる。
【0074】
上に示した疾患及び障害の他に、インスリン抵抗性の主な結果のうちのいくつかとしては、限定するものではないが、2型真性糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、多嚢胞性卵巣症候群、非アルコール性脂肪肝疾患、血管内皮の機能の障害、トリグリセリド及びコレステロールの上昇、凝固の障害、腎機能の障害、心拍リズムの障害、並びに尿酸レベルの上昇が挙げられる。
【0075】
例示的な治療関連用量は、血清インスリン抵抗性の標準的な臨床マーカー、例えば、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill)製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法で測定可能な血漿中のインスリン及びインスリンレベルの減少をもたらす用量である。
【0076】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0077】
コレステロール関連疾患
様々な実施形態では、本発明は、対象の高コレステロール血症を治療する及び/又は脂質代謝を調節する方法を提供する。本方法は、高コレステロール血症を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0078】
高コレステロール血症、高脂血症及び心血管疾患は、西洋産業社会でますます広まっている。この理由は完全には理解されていないが、肉体労働がますます必要なくなるにつれて座っていることがますます多くなったライフスタイルとともに、一部はこれらの状態に対する遺伝的素因に関連し、一部は飽和脂肪の多い食事に関連している可能性がある。高コレステロール血症及び高脂血症は極めて重大であるが、それは、これらによって、個体に、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞(心臓発作)、及び卒中をはじめとする、心血管疾患が生じやすくなるからである。
【0079】
特定の形態の高脂血症としては、例えば、高コレステロール血症、家族性異常βリポタンパク質血症、糖尿病性脂質異常症、ネフローゼ脂質異常症及び家族性複合型高脂血症が挙げられる。高コレステロール血症は、血清低密度リポタンパク質−コレステロール及び血清総コレステロールの上昇を特徴とする。低密度リポタンパク質(LDLコレステロール)は、血中コレステロールを輸送する。家族性異常βリポタンパク質血症(別名、III型高脂血症)は、血清中でのβVLDLと呼ばれる超低密度リポタンパク質−コレステロール(VLDLコレステロール)粒子の蓄積を特徴とする。正常なアポリポタンパク質E3が異常なアイソフォームのアポリポタンパク質E2と置き換わることもまた、この状態と関連している。糖尿病性脂質異常症は、VLDLコレステロールの過剰産生、VLDLトリグリセリド脂質分解の異常、LDLコレステロール受容体活性の低下、及び場合によっては、III型高脂血症などの複数のリポタンパク質異常を特徴とする。腎臓の機能不全と関連するネフローゼ脂質異常症は治療が難しく、多くの場合、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症を含む。家族性複合型高脂血症は、高脂血症の複数の表現型、すなわち、IIa型、IIb型、IV型、V型又は高アポβリポタンパク質血症を特徴とする。
【0080】
血清脂質、特にLDLコレステロールを低下させることができれば、心血管疾患の可能性を減少させることができることはよく知られている。血清脂質を減らすことができれば、アテローム性動脈硬化症の進行を遅延させることができるか、又はアテローム性動脈硬化症の退行を誘導することができることもよく知られている。このような場合、高脂血症又は高コレステロール血症と診断された個体は、心血管疾患、特に冠状動脈疾患のリスクを低下させる目的でアテローム性動脈硬化症の進行を遅延させるか又はアテローム性動脈硬化症の退行を誘導するために、脂質低下療法を考慮すべきである。このような療法は、その他の結果として、卒中や心筋梗塞のリスクを低下させる。さらに、正常な血清脂質レベルとみなされるレベルを示す特定の個体が心血管疾患を発症することもある。これらの個体では、脂質過酸化や高レベルのLp(a)又はリポタンパク質Aのような他の因子によって、コレステロールレベルや脂質レベルが比較的正常であるにもかかわらず、アテローム発生が生じることがある。
【0081】
本明細書で用いられる「治療的有効量」の例示的なマーカーは、対象に投与(例えば、経口投与)したときに、一例として、総コレステロールレベルを低下させること、LDLコレステロールを低下させること、HDLコレステロールを上昇させること、総コレステロール/HDL比を低下させること、及び/又はトリグリセリドを低下させることによって健康な血清脂質プロファイルを維持するか、あるいは健康体重の維持を助ける本発明の製剤中のポリコサノールの量を指す。
【0082】
別の例示的な治療関連用量は、脂質代謝及び心血管危険因子の標準的な臨床マーカーである、C反応性タンパク質の減少をもたらす用量である。
【0083】
NF−κB活性化の阻害
様々な実施形態では、本発明は、対象のNF−κBの活性化を阻害する方法を提供する。本方法は、NF−κBの活性化を阻害するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0084】
NF−κB/Relファミリーの転写因子は、ホモ二量体やヘテロ二量体を形成するいくつかの構造的に関連するタンパク質から構成され、p50/p105、p52/p100、RelA(p65)、c−Rel/NF−κBを含む。哺乳動物で最もよく見られるRel/NF−κB二量体は、p50−RelA(p50/p65)ヘテロ二量体を含み、特にNF−κBと呼ばれる。これは細胞質中に存在する遍在性因子であるが、活性化されると、核に移行し、核内で遺伝子の転写を誘導する。ほとんどの疾患が無秩序な炎症によって引き起こされるために、NF−κBは多種多様な疾患と関連付けられている。従って、NF−κB活性化を阻害することができる薬剤は、NF−κB関連疾患の発症を予防するもしくは遅延させるか、又はNF−κB関連疾患を治療する可能性がある。
【0085】
NF−κBは、フリーラジカル、炎症性刺激、発癌物質、腫瘍促進物質、内毒素、γ線、紫外線(UV)光、及びX線によって活性化される(B.B.Aggarwal et al.,Nuclear transcription factor−kappa B as a target for cancer drug development Leukemia.16:1053−68)。活性化されると、NF−κBは、アポトーシスを抑制し、細胞の形質転換、増殖、浸潤、転移、化学療法耐性、放射線耐性、及び炎症を誘導することが示されている200を超える遺伝子の発現を誘導する。Kumar A, et al.,2004.Nuclear factor−kappa B:Its role in health and diseases,J Mol Med.,82:434−448を参照されたい。
【0086】
活性化形態のNF−κBは、限定するものではないが、癌、アレルギー、頭痛、疼痛、心筋梗塞、複合性局所疼痛症候群、心肥大、筋ジストロフィー(2a型)、筋肉疲労、異化障害、1型糖尿病、2型糖尿病、肥満、胎児の成長遅延、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、心疾患、慢性心不全、虚血/再灌流、卒中、脳動脈瘤、狭心症、肺疾患、嚢胞性線維症、酸誘導性の肺損傷、肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ヒアリン膜症、腎疾患、糸球体疾患、アルコール性肝疾患、レプトスピラ腎症、腸疾患、腹膜子宮内膜症、皮膚疾患、副鼻腔炎、中皮腫、無汗性外胚葉性形成異常、ベーチェット病、色素失調症、結核、喘息、関節炎、クローン病、大腸炎(ラット)、眼アレルギー、緑内障、虫垂炎、パジェット病、膵炎、歯周炎、子宮内膜症、炎症性腸疾患、炎症性肺疾患、敗血症、シリカ誘導性の疾患、睡眠時無呼吸、AIDS(HIV−1)、自己免疫、抗リン脂質症候群、ループス、ループス腎炎、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、慢性疾患症候群、家族性地中海熱、遺伝性周期性発熱症候群、心理社会的ストレス疾患、神経病理学的疾患、家族性アミロイド神経障害、炎症性神経障害、外傷性脳損傷、脊髄損傷、乾癬、敗血性ショック、パーキンソン病、多発性硬化症、リウマチ性疾患、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、網膜疾患、白内障、及び様々な炎症性疾患をはじめとする、疾患及び障害の原因とされている。本発明の製剤及び方法は、NF−κBの活性化を阻害する能力を示しており、この能力により、体内のNF−κB活性化と関連する疾患を治療又は予防することができる。
【0087】
アディポネクチン
様々な実施形態では、本発明は、対象のアディポネクチンレベルを増加させる方法を提供する。本方法は、アディポネクチンレベルの増加させ、それにより低アディポネクチンレベルと関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0088】
アディポネクチンは、グルコース調節や脂肪酸異化をはじめとする、いくつかの代謝過程を調節するタンパク質ホルモンである。Diez JJ,Iglesias P.“The role of the novel adipocyte−derived hormone adiponectin in human disease.” Eur.J.Endocrinol.148(3):293−300,2003を参照されたい。
【0089】
アディポネクチンは、もっぱら脂肪組織から血流中に分泌され、多くの他のホルモンと比べて血漿中に非常に多く存在する。このホルモンのレベルは、成人では体脂肪率と逆相関する。Ukkola O,Santaniemi,“Adiponectin:a link between excess adiposity and associated co−morbidities” J.Mol.Med.80(11):696−702,2002を参照されたい。
【0090】
このホルモンは、2型糖尿病、肥満、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、また、メタボリックシンドロームの独立危険因子を引き起こすおそれのある代謝異常の抑制において役割を果たす。Renaldi O.et al.,2009 “Hypoadiponectinemia:a risk factor for metabolic syndrome” Acta Med Indones 41(1):20−4を参照されたい。
【0091】
プラスミノーゲン活性化インヒビター
様々な実施形態では、本発明は、対象のPAI−1タンパク質レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のPAI−1レベルを低下させるのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。PAI−1は、ウロキナーゼ型及び組織型のプラスミノーゲン活性化因子を不活化することによって線維素溶解を阻害するセリンプロテアーゼインヒビターである。血漿PAI−1の活性は、深夜12時から朝6時の間に最も高い(Kluft C, et al.,Thromb Haemost.1988 Apr 8;59(2):329−32)。
【0092】
PAI−1は、様々な疾患状態(例えば、いくつかの形態の癌)、並びに肥満及びメタボリックシンドロームにおいて増加したレベルで存在する。PAI−1は、これらの状態を有する患者における血栓症の発生の増加と関連付けられている(Mimuro J(1991) “[Type 1 plasminogen activator inhibitor:its role in biological reactions].” Rinsho Ketsueki 32(5):487−9.PMID 1870265.):Binder BR, et al.(2002).“Plasminogen activator inhibitor 1:physiological and pathophysiological roles”. News Physiol.Sci.17:56−61.PMID 11909993:Hoekstra T, et al.(2004).“Plasminogen activator inhibitor−type 1:its plasma determinants and relation with cardiovascular risk.” Thromb.Haemost.91(5):861−72:Lijnen HR(2005).“Pleiotropic functions of plasminogen activator inhibitor−1.” J.Thromb.Haemost.3(1):35−45;De Taeye B, et al.(2005).“Plasminogen activator inhibitor−1:a common denominator in obesity,diabetes and cardiovascular disease.” Current opinion in pharmacology 5(2):149−54:Dellas C,Loskutoff DJ(2005).“Historical analysis of PAI−1 from its discovery to its potential role in cell motility and disease.” Thromb.Haemost.93(4):631−40)。
【0093】
TNF−α
様々な実施形態では、本発明は、対象のTNF−αレベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のTNF−αレベルを低下させ、それによりTNF−αレベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。腫瘍壊死因子(TNF−α)は炎症応答を促進し、この炎症応答は、関節リウマチ、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、アルツハイマー病及び難治性喘息などの自己免疫障害と関連する臨床的な問題の多くを引き起こす。これらの障害は、TNFインヒビターを用いて治療することもある。TNF産生の異常調節は、アルツハイマー病(Perispinal Etanercept for Treatment of Alzheimer’s Disease Edward Tobinick* Current Alzheimer Research,2007,4,550−552)及び癌をはじめとする、種々のヒト疾患の原因とされている。Locksley RM,Killeen N,Lenardo MJ(2001).“The TNF and TNF receptor super families:integrating mammalian biology.” Cell 104(4):487−501を参照されたい。
【0094】
肥満の齧歯類や肥満のヒトは、脂肪組織内のTNF−α発現が増加している。従って、脂肪組織内のTNF−α発現と肥満及びインスリン抵抗性との間に正の相関がある(Endocr Rev.2003 Jun;24(3):278−301)。インビボやインビトロでの外因性TNF−αへの慢性曝露により、インスリン抵抗性が誘導される。Endocrinology.1992 Jan;130(1):43−52 Gene deletion of TNFα or its receptors in obese rodents(fa/fa Zucker rats)improves insulin sensitivity and circulating NEFAs.Nature.1997 Oct 9;389(6651):610−4を参照されたい。
【0095】
脂肪組織では、TNF−αは、NEFAやグルコースの取込み及び貯蔵並びに脂肪生成に関与する遺伝子を抑制する。TNF−αはまた、アディポネクチンのような脂肪細胞によって分泌される因子の発現を修飾する(Am J Physiol Endocrinol Metab.2003 Sep;285(3):E527−33)。肝臓では、TNF−αは、グルコースの取込み及び代謝並びに脂肪酸酸化に関与する遺伝子の発現を抑制すると同時に、コレステロール及び脂肪酸のデノボ合成に関与する遺伝子の発現を増加させる。
【0096】
インスリンシグナル伝達は、血清NEFAレベルの増加を通じてTNF−αにより間接的に障害される。チアゾリジンジオンは、インスリン作用に対するTNF−αの阻害効果を改善することが知られている。J Clin Invest.1997 Oct 1;100(7):1863−9を参照されたい。さらに、体重減少により、TNF−αレベルが減少することが認められている。J Clin Invest.1995 May;95(5):2111−9を参照されたい。
【0097】
レチノール結合タンパク質
様々な実施形態では、本発明は、対象のRBP−4レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のRBP−4レベルを低下させ、それによりRBP−4レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。レチノール結合タンパク質4(RBP4)は、最近、AG4KOマウスモデルでインスリン抵抗性に寄与するアディポカインとして記載されている。Yang Q, et al.,Serum retinol binding protein 4 contributes to insulin resistance in obesity and type 2 diabetes,Nature 436(7049):356−62.(2005)を参照されたい。RBP4は、糖尿病の発症前に血清中で上昇しており、多様な臨床症状を示す対象のインスリン抵抗性及び関連する心血管危険因子を同定するように思われる。これらの知見により、血清RBP4レベルの低下を目的とした抗糖尿病療法の理論的根拠が与えられた。Graham TE,et.al N Engl J Med.2006 Jun 15;354(24):2552−63を参照されたい。
【0098】
一酸化窒素
様々な実施形態では、本発明は、対象の一酸化窒素レベルを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の一酸化窒素レベルを増加させるのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0099】
内皮NOS(eNOS)(別名、一酸化窒素シンターゼ3(NOS3))は、血管中でNOを発生させ、血管機能の調節や血圧の低下に関与する。Alderton WK, et al.,Biochem J.2001 Aug 1;357(Pt 3):593−615を参照されたい。NOは、直接的な血管拡張(流量依存性、受容体媒介性);血管収縮を引き起こす影響を阻害することによる間接的な血管拡張(例えば、アンジオテンシンII及び交感神経性血管収縮剤を阻害する)、抗血栓作用(血小板の血管内皮への接着を阻害する)、抗炎症作用(白血球の血管内皮への接着を阻害する)、スーパーオキシドアニオンを捕捉する能力;並びに抗増殖作用(例えば、平滑筋過形成を阻害する)をはじめとする、様々な血管作用を有することが知られている。
【0100】
NOに上述の作用があることから、その産生障害やバイオアベイラビリティ低下によって、血管収縮(例えば、冠攣縮性狭心症、全身血管抵抗の上昇、高血圧症);血小板の凝集や血管内皮への接着による血栓症;白血球接着分子や内皮接着分子の上方調節による炎症;血管肥大及び血管狭窄が生じることがある。Nitric Oxide:Biology and Pathobiology;By:Louis J.Ignarro(編者) ISBN−10:0123738660;ISBN−13:9780123738660 Publisher:Academic Press − 2009を参照されたい。NOの産生及びバイオアベイラビリティの異常と関連する疾患又は状態としては、限定するものではないが、高血圧症;肥満;脂質異常症(特に、高コレステロール血症及び高トリグリセリド血症);糖尿病(I型及びII型);心不全;アテローム性動脈硬化症;並びに加齢と関連する状態が挙げられる。Dessy,C, et al.,(2004年9月). “Pathophysiological Roles of Nitric Oxide:In the Heart and the Coronary Vasculature”及びCurrent Medical Chemistry − Anti−Inflammatory & Anti−Allergy Agents in Medicinal Chemistry(Bentham Science Publishers Ltd.) 3(3):207−216を参照されたい。
【0101】
MCP−1(単球走化性タンパク質−1)
様々な実施形態では、本発明は、対象のMCP−1レベルを調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のMCP−1レベルを低下させ、それによりMCP−1レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。MCP−1は、炎症部位に単球を動員するケモカインである。MCP−1は、白色脂肪組織中の脂肪細胞や間質血管細胞によって発現され、分泌される。肥満の齧歯類では、循環MCP−1レベルがより高く、脂肪組織によるMCP−1発現が増加している。J Biol Chem.2003 Nov 21,278(47):46654−60を参照されたい。さらに、MCP−1は、インスリン刺激性のグルコース取込みやインスリン誘導性のインスリン受容体チロシンリン酸化を減少させることによってインスリン抵抗性に直接寄与することができ、また、脂肪生成遺伝子の発現を減少させることによって、脂肪細胞の増殖や分化を阻害することができる。
【0102】
MCP−1をマウスに投与すると、末梢で循環単球が増加し、動脈中の単球蓄積が増加し、新生内膜が形成されるので、アテローム発生におけるMCP−1の役割が示唆される。Cardiovasc Res.2003 Jan;57(1):178−85を参照されたい。
【0103】
硫化水素
様々な実施形態では、本発明は、対象のH2Sレベルを増加させる方法を提供する。本方法は、対象の血清H2Sレベルを増加させ、それにより低H2Sレベルと関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。H2Sは、代謝、心機能及び細胞生存を調節するいくつかの細胞シグナルを促進する。内在性H2Sのバイオアベイラビリティは、システインの生合成に関与するいくつかの酵素によって調節される。Szabo C(2007).Hydrogen sulfide and its therapeutic potential.Nat Reviews 6:917−935を参照されたい。健常人とII型糖尿病の男性患者から採取した血液サンプル中のH2Sのレベルは、糖尿病患者におけるH2Sレベルの著しい減少を示した。より低いH2Sレベルは、微小血管機能障害の臨床マーカーと関連しており、この血圧降下ガスの喪失が、糖尿病患者における血管合併症の発症の要因となり得ることを示唆している。Brancaleone V, et al.(2008). Biosynthesis of H2S is impaired in non−obese diabetic(NOD) mice;Br J Pharmacol 155:673−680:Lefer DJ(2007). A new gaseous signaling molecule emerges:cardio protective role of hydrogen sulfide;及びProc Natl Acad Sci USA 104:17907−17908を参照されたい。
【0104】
ICAM−1(細胞間接着分子−1)
様々な実施形態では、本発明は、対象のICAM−1レベルの上昇を調節する(例えば、低下させる)方法を提供する。本方法は、対象のICAM−1レベルを低下させ、それによりICAM−1レベルの上昇と関連する疾患を治療するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。ICAM−1は、風邪を引き起こすウイルスの大多数によって用いられるものと同じ受容体分子である。ライノウイルスは、風邪をよく引き起こす。接着分子は、発生学、免疫学、及び悪性腫瘍をはじめとする、多くの医学分野において主要な役割を果たす。
【0105】
多くの生理学的過程では、細胞が他の細胞又は細胞外マトリックスに接触し、これらに接着することが必要となる。細胞と細胞の相互作用や細胞とマトリックスの相互作用は、いくつかの細胞間接着分子、すなわち「ICAM」ファミリーによって仲介される。New Cell adhesion research,Patrick Nott and other contributors,ISBN−10:1606923781;ISBN−13:9781606923788 Publisher:Nova Biomedical Books − 2009−04を参照されたい。従って、ICAM−1は、正常な過程と病態生理学的過程の両方において必須の役割を果たす(Springer et al.,1987,Ann.Rev.Immunol.5:223−252)。従って、ICAM−1の機能又は発現を阻止することによって細胞接着を媒介するための戦略が開発されてきた。このような戦略は、典型的には、抗ICAM−1抗体、ICAM−1結合を競合的に阻止するリガンド、又はICAM−1 mRNAに対するアンチセンス核酸分子を利用する。しかしながら、このような治療で用いられる薬剤は、ICAM−1を化学量論的に低下させるに過ぎず、通常、罹患細胞又は活性化細胞による異常に高いICAM−1の産生に圧倒される。
【0106】
好中球の浸潤を特徴とする疾患は、慢性疾患を伴うことが多く、その場合、ICAM−1又はVCAM−1の発現が優勢になる。Adams DH,Shaw S 1994 Leukocyte endothelial interactions and regulation of leukocyte migration.Lancet 343:831−836を参照されたい。局所発現の増加及び血清可溶性接着分子の増加は、動脈硬化症、血管炎、関節炎、腎疾患及び肝疾患、虚血再灌流状態、臓器拒絶反応、転移、並びに多くのより病的な状態をはじめとする、様々な病的状態において報告されている。Bevilacqua MP, et al.,1994 Endothelial leukocyte adhesion molecules in human disease.Annu Rev Med 45:361−378を参照されたい。
【0107】
接着分子は、特定の形態の炎症において重要であり得る。Gorski A 1994 the role of cell adhesion molecules in immunopathology.Immunol Today 15:251−255を参照されたい。従って、必要なのは、ICAM−1媒介性の細胞接着を効果的に減少させるか又は遮断するために、ICAM−1の発現を選択的に阻害する触媒量又は準化学量論的量の薬剤である。
【0108】
多くの様々なウイルス感染阻害方法のうちの1つは、ウイルスの細胞への結合を阻止することである。ライノウイルス血清型の多くは、細胞への付着に、単一の細胞受容体、すなわち、細胞間接着分子−1(ICAM−1)を用いている。このことは、風邪の治療法の探索を目指した、この受容体の遮断薬の開発につながる可能性がある。
【0109】
ICAM−1の発現は、アレルギー性接触皮膚炎、固定薬疹、扁平苔癬、及び乾癬などの種々の炎症性皮膚障害とも関連付けられている。Ho et al.,1990,J.Am.Acad.Dermatol.22:64−68;Griffiths and Nickoloff,1989,Am.J.Pathology 135:1045−1053;Lisby et al.,1989,Br.J.Dermatol.120:479−484;及びShiohara et al.,1989,Arch.Dermatol.125:1371−1376を参照されたい。さらに、ICAM−1発現は、関節リウマチ患者(Hale et al.,1989,Arth.Rheum.32:22−30);糖尿病患者の膵臓B細胞(Campbell et al.,1989,P.N.A.S.USA 86:4282−4286);グレーブス病患者の甲状腺濾胞細胞(Weetman et al.,1989,J.Endocrinol.122:185−191);腎同種移植及び肝同種移植の拒絶反応(Faull and Russ,1989,Transplantation 48:226−230;Adams et al.,1989,Lancet 1122−1125);並びに炎症性腸疾患(IBD)組織(Springer T,1990,Nature 346:425−34)において検出されている。
【0110】
I型糖尿病に共通して認められる合併症もまたICAM−1の発現を伴う。例えば、ICAM−1によって媒介される白血球の毛細血管内皮への接着は、網膜、末梢神経、及び腎臓などの糖尿病患者の特定の組織における微小血管虚血を引き起こすことがある。これは、これらの組織の毛細血管非灌流をもたらし、この毛細血管非灌流がさらに、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害もしくは糖尿病性腎症、又は細胞間接着分子−1(ICAM−1)を介する多形核白血球と内皮細胞の接着によって誘導される血管形成を引き起こす。従って、ICAM−1によって媒介される白血球停滞を阻害することで、糖尿病と関連する網膜異常を予防することができると考えられている。Miyamoto K et al.(2000),Am.J.Pathol.156:1733−1739;Miyamoto K et al.(1999),P.N.A.S USA 96:10836−1084;Jude E B et al.(1998),Diabetologia 41:330−6;Miyamoto et al.,1999,P.N.A.S USA 96:10836−10841;及びYong Song Gho et al.,Cancer Research 59,5128−5132,October 15,1999を参照されたい。
【0111】
グルタチオン
様々な実施形態では、本発明は、対象のGSHレベルを増加させるか又は調節する方法を提供する。本方法は、対象のGSHレベルを増加させるか又は調節するのに十分な量の本発明のナノ粒子製剤を対象に投与することを含む。
【0112】
還元型のグルタチオン(GSH)は、動物細胞において最も多い非タンパク質チオールである。そのデノボ合成とサルベージ合成は還元された細胞環境を維持するのに役立ち、このトリペプチドは多くの細胞質酵素の補因子であり、いくつかの細胞タンパク質の重要な翻訳後修飾としての役割も果たす。システインチオールは、外因性求電子種と内在性求電子種の両方との反応において求核物質としての役割を果たす。結果として、活性酸素種(ROS)は、自然反応と触媒反応の両方において、GSHの標的となることが多い。ROSは、細胞シグナル伝達事象及びヒト疾患病理において明確な役割を有するので、GSHと関連酵素の発現の不均衡は、種々の状況の原因とされている。GSH代謝と疾患(例えば、癌、神経変性疾患、嚢胞性線維症(CF)、HIV、及び老化)の因果関係が示されている。GSH恒常性に関与する酵素の多型発現は、これらの疾患の易罹患性や進行に影響を及ぼす。Danyelle M.Townsend,*,Kenneth D.Tew,Haim Tapiero Biomedicine & Pharmacotherapy 57(2003) 145−155を参照されたい。
【0113】
様々な実施形態では、本発明のナノ粒子を経口投与する。例示的な実施形態では、ナノ粒子を1日当たり約10mg〜約100mg、例えば、1日当たり約10mg〜約50mgの投薬量で投与する。
【0114】
上に示した例示的な方法を含む、本発明の方法の各々の様々な実施形態では、本発明の製剤で治療される対象は、ビタミンE補給を必要としない。様々な他の実施形態では、本製剤の投与によって調節される代謝パラメータ又は本製剤の投与によって治療される疾患は、対象へのビタミンE補給により治療可能であることが認識されているか又は対象へのビタミンE補給により改善することが知られているパラメータ又は疾患ではない。
【0115】
血液化学又は代謝の変化を測るための当該技術分野で認められているアッセイが、本発明の粒子の治療関連(又は他の)投薬量の有効性を確認するのに用いられる。以下に、様々な投薬量で本発明の有効性を解析するために使用可能な従来のアッセイのごく一部を示す実施例を提供する。血漿中のサイトカイン、インスリン、脂質過酸化及びビタミンC、CRP、MCP−1、IL−6、TNF−α、レプチン、レチノール結合タンパク質並びにインスリンのレベルを測る標準的アッセイは、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法の形態を取ることができる。酸化ストレスは、そのチオバルビツール酸との反応によるマロンジアルデヒド(脂質過酸化の最終産物)を測定することにより決定することができる。Jain,J.Biol.Chem.264:21340−21345,1989;Jain et al.,Diabetes 38:1539−1543,1989を参照されたい。タンパク質酸化は、Yan et al.,Arch.Biochem Biophys.327:330−334,1996に開示されている方法により決定することができる。インスリン抵抗性は、例えば、HOMA法により決定することができる(Yaturu et al.,Cytokine 34:219−23,2006)。血漿中のビタミンC濃度は、Nino及びShawの方法により決定することができる。Alan Wu(編).Teitz Clinical Guide to Laboratory Tests(第4版),Philadelphia,WB Saunders Co.2006を参照されたい。グリコシル化ヘモグロビンは、Helena Laboratories(Beaumont,TX)から購入したGlyco−Tek親和性カラムキット及び試薬(カタログ番号5351)を用いて決定することができる。グルコースレベルは、グルコースオキシダーゼを用いて、Accu−check Advantageグルコメーター(Boehringer Manheim Corporation,Indianapolis,IN)により決定することができる。
【0116】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されている。しかしながら、本発明は、これらの実施例に記載されている特定の条件又は詳細に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0117】
実施例1
1%ポリコサノールを含む液体製剤の調製
1.スクロースラウレート(0.1〜0.5%)を含む水溶液(100mL)を調製し、撹拌しながら80〜85℃まで加温する。
2.ビーカーの中に、ポリコサノール(1g)と少なくとも1つの賦形剤又は安定剤(2〜5g)とを量り取り、撹拌しながら80〜85℃まで加温する。
3.強く撹拌しながら、ビーカーの中にポリコサノールと賦形剤とともに糖エステル溶液を入れ、撹拌しながら80〜85℃に5分間維持する。温度が50℃未満になると、この製剤は透明になる。
4.ヒーターのスイッチを切り、室温に達するまで穏やかに撹拌させておく。
5.防腐剤(例えば、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、クエン酸無水物)を添加する。
6.この溶液をボトルに入れる。
【0118】
実施例2
【表1】
【表2】
【表3】
【0119】
実施例3
粒子サイズが53nmで、オクタコサノールが約82〜83%の1%ポリコサノール溶液(10mg/mL)を用いたラット研究
材料及び方法
雄のズッカー糖尿病肥満ラットを、5週齢でCharles River Laboratoriesから購入した。動物にランダムに番号を振り、温度と湿度が調節された動物施設内のプラスチック製のコロニーケージで1匹ずつ飼育した。動物を、一般に認められた委員会プロトコルに従い、このプロトコルを用いて飼育した。ラットを2日間、環境とトレーナーによる扱いに馴れさせた。ラットの高血糖症を、その血中グルコース濃度を測定することにより検査した。血中グルコースは、好都合なAccu−Chek(商標登録)グルコメーター(Boehringer Mannheim Corp.,Indianapolis,IN)を用いて尾部切開により測定した。ラットをランダムに3つのグループに分けた。処理グループの各々のラットには、20Gの給餌針(Popper and Sons,New Hyde Park,NY)を用いた強制経口投与により毎日8週間、適切な用量の本発明のナノ粒子ポリコサノール製剤を補給した。対照グループには、ビヒクル緩衝液を補給した。ポリコサノール補給投薬量を決定するために、体重を週1回モニタリングした。ラットを、22±2℃で、12時間:12時間の明暗周期にして、水とPurina 5008実験食(lab chow diet)を自由摂取させて、標準的な飼育条件下で飼育した。8週目の終わりに、ラットを一晩絶食させた後、解析のためにハロタン(2−ブロモ−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタン)に曝露させて安楽死させた。19 1/2ゲージ針で心穿刺して血液を採取し、ヘパリンを含むシリンジに血液を引き入れ、その後すぐに、それをEDTAバキュテナーチューブに移した。
【0120】
3つのグループのZDFラットが存在した。1.対照ZDF;2.ポリコサノール(5mg/日/kg BW)を補給したZDF、及び(3)補給を開始する時点のラット。これにより、ZDFラットの血液中で解析すべき全てのパラメータのベースラインレベルが分かった。同じぐらいの年齢のスプラーグドーリーラットを、正常食で飼育した年齢を一致させた正常対照ラットとして用いた。
【0121】
ラットを、ポリコサノールありとポリコサノールなしで、Purina 5008食で8週間飼育した。アイスバケットに置かれた予冷されたEDTAチューブの中に血液サンプルを採取した。EDTA血をHbA1cアッセイとCBCアッセイ(臨床血液学研究室が実施)に用いた。EDTA血を遠心分離した。RBCをGSHアッセイと脂質過酸化アッセイに用いた。透明な血漿は、脂質過酸化産物及びタンパク質酸化産物のために、並びにELISAアッセイによるTNF−α、IL−6、MCP−1、CRP、アディポカイン、インスリン感受性のために取っておいた。解析は全て採血後すぐに実施した。酸化ストレスマーカーと炎症促進性サイトカイン用のサンプルは、−70℃フリーザーで保存した。ポリコサノール補給時の毒性の兆候を明らかにするために、SGOT値とSGPT値を含む完全な化学プロファイル(CMP2)も実施した。サイトカインアッセイでは、異なる日にサイトカインを解析したときのプレート間変動をモニタリングするために、常に対照血清サンプルを解析した。日による対照血清値の変動が7%を超える場合は、アッセイを繰り返した。
【0122】
サイトカイン、インスリン、脂質過酸化及びビタミンCのアッセイ:血漿中のCRP、MCP−1、IL−6、TNF−α、レプチン、レチノール結合タンパク質及びインスリンのレベルは、Fisher Thermo Scientific Co,Rockford,Ill)製の市販のキットを用いたサンドイッチELISA法により決定した。製造元のキットにより指定された適切な対照と標準を全て用いた。サイトカインアッセイでは、異なる日に解析したときのプレート間変動を調べるために、対照サンプルを毎回解析した。酸化ストレスは、そのチオバルビツール酸との反応によるマロンジアルデヒド(脂質過酸化の最終産物)を測定することにより決定した(1,2)。Jain “Hyperglycemia can cause membrane lipid peroxidation and osmotic fragility in human red blood cells.” J Biol Chem 264:21340−21345,1989;及びJain et al., “Erythrocyte membrane lipid peroxidation and glycosylated hemoglobin in diabetes” Diabetes 38:1539−1543,1989を参照されたい。タンパク質酸化は、“Efficacy of hypochlorous acid scavengers in the prevention of protein carbonyl formation” Arch Biochem Biophys 327:330−334,1996に記載のYan et al.の方法により決定した。インスリン抵抗性は、HOMA法により決定した。Yaturu et al., “Resistin and adiponectin levels in subjects with coronary artery disease and type 2 diabetes.” Cytokine 34:219−23,2006;及びIsmael et al., “Bockade of sensory abnormalities and kinin B1 receptor expression by N−acetyl−L−cysteine and ramipril in a rat model of insulin resistance.” Eur J Pharmacol.589:66−72,2008を参照されたい。血漿中のビタミンC濃度は、Nino及びShawの方法により決定した。Wu(編).Teitz Clinical Guide to Laboratory Tests(第4版) Philadelphia,WB Saunders Co.2006を参照されたい。GSHは、Red Blood Cell Metabolism:A manual of Biochemical Methods Pub:Grune and Stratton,NY.131−134,1984に記載のBeutlerの方法により決定した。
【0123】
グリコシル化ヘモグロビン(GHb)、グルコース及びインスリン抵抗性の測定
グリコシル化ヘモグロビンは、Helena Laboratories(Beaumont,TX)から購入したGlyco−Tek親和性カラムキット及び試薬(カタログ番号5351)を用いて決定した。グルコースレベルは、グルコースオキシダーゼを用いてAccu−check Advantageグルコメーター(Boehringer Manheim Corporation,Indianapolis,IN)により決定した。
【0124】
肝抽出物のウェスタンブロット解析:実験用ラットから摘出した組織を液体窒素を用いてすぐに凍結させ、よくすり潰して粉末にし、さらに使用するまで−70℃で凍結させた。凍結組織粉末(<150mg)をプロテアーゼインヒビターを含む1mLのPBSに再懸濁して洗浄し、穏やかにボルテックスし、15,000rpmで4℃にて10分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを上述のようにもう1回洗浄した後、プロテアーゼインヒビターを含む500mLの抽出緩衝液(25mM Tris、0.5mM EDTA、0.1mM PMSF、pH7.4)に再懸濁し、ホモジナイザーを用いてホモジナイズし、穏やかな超音波処理にかけた。チューブを15,000rpm(4℃、30分)で遠心分離し、上清(抽出物)を回収した。回収した抽出物を上記のようにもう1回遠心分離にかけ、細胞破片を除去した。この抽出物のタンパク質含量をBCAタンパク質アッセイを用いて測定した。メルカプトエタノールを還元剤として含めて5分間沸騰させた後、各グループからの等量のタンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲルに充填した。分離されたタンパク質をニトロセルロースメンブレンに転写し、T−PBS中の1%BSAでブロッキングし、それぞれの一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、メンブレンをT−PBSで洗浄し(8分、4回)、5%脱脂粉乳中の二次抗体とともに、室温で30分間、インキュベートした。メンブレンをT−PBSで再度洗浄し(8分、4回)、化学発光試薬で2分間処理し、オートラジオグラフィで現像するX線フィルムに感光させた。
【0125】
別途言及しない限り、化学薬品は全てSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から購入した。
【0126】
データ解析:データは、Sigma Plot統計ソフトウェア(Jandel Scientific,San Rafael,CA)で異なるグループ間のANOVAを用いて解析した。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0127】
結果
異なる処理グループ間において屠殺時点での体重差は認められなかった。補給を開始してから5週間及び7週間後に評価したとき、各ラットによる1週間分の食餌摂取量は、両方のグループで同じぐらいであった。ポリコサノールを8週間補給した雄のズッカー肥満ラットの体重と食餌摂取量を下記の表1に示す。各値は平均±SEを表す。
【表4】
【0128】
全ての図において、「*」で印が付けられた値は、対照と比較して統計的に有意である(p<0.05)。図30は、補給したラットの血液中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(AP)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン及びアニオンGapのレベルに関するデータを示す。結果の解析から、ポリコサノール補給によって、グルコース、総コレステロール、トリグリセリド、タンパク質酸化、MCP−1及びCRP及びアルカリホスファターゼの血中レベルが低下し、ビタミンCの血中レベルが増加したことが示されている。ポリコサノールはトランスアミナーゼの血中レベルを変化させなかったが、糖尿病ラットと比較してアルカリホスファターゼレベルを確かに低下させた。
【0129】
表IIは、ポリコサノール補給が、糖尿病ラットのヘモグロビン、ヘマトクリット又はRBC数に影響を及ぼさなかったことを示し、これは、赤血球生存の変化がポリコサノール補給ZDFラットのより低いグリコシル化ヘモグロビンレベルに与える影響を一切否定し、ポリコサノール補給ラットにおいて毒性の兆候が一切ないことを支持するものである。このデータは、肝機能検査又は腎機能検査で評価したときに、ポリコサノール補給が毒性を一切引き起こさないようであることを示す。
【表5】
【0130】
肝臓は、グルコース代謝の調節において主要な役割を果たす。Michael et al., “Loss of Insulin signaling in hepatocytes leads to severe insulin resistance and progressive hepatic dysfunction.” Mol Cell.6:87−97,2000を参照されたい。肝臓は、グルコース、タンパク質及びビタミンの貯蔵器官である。血中グルコースレベルの主な調節因子である糖生成経路及び糖新生経路は肝臓に特有のものである。インスリン、グルカゴン、増殖ホルモン、コルチゾール、及びカテコールアミンをはじめとする、いくつかのホルモンが、肝臓によるグルコース代謝の調節に寄与する。従って、本発明者らは、ポリコサノール補給ラットにおける肝臓でのNF−κB活性化の役割と、グルコース代謝に対するその潜在的な寄与を調べた。
【0131】
本発明者らの研究の結果は、実験的糖尿病が、ベースライン対照と比較して、糖尿病ズッカーラットの肝臓におけるNF−κBの活性化を誘導したことを示す。Yerneni et al., “Hyperglycemia−induced activation of nuclear transcription factor kappaB in vascular smooth muscle cells.” Diabetes.48:855−64,1999を参照されたい。NF−κBは、高血糖症の既知の標的である。Meng et al., “Akt is a downstream target of NFkB.” J Biol Chem 277:29674−29680を参照されたい。糖尿病と関連する酸化ストレスは、NF−κB(p50及びp65として知られる2つのDNA結合サブユニットからなるヘテロ二量体)の既知の活性化因子である。NF−κBは、抑制性κB(IκB)として知られるその抑制性タンパク質と複合体を形成して細胞質中に存在する。活性化の後、IκBはNF−κBから解離し、ユビキチン化され、分解される。NF−κBは解放されて、核に移行する。その核移行と同時に、NF−κBはp65サブユニットの残基276でセリンリン酸化を受け、周囲のクロマチン構成要素と会合する。その後、NF−κBはDNAと結合し、炎症促進性サイトカインとインスリン抵抗性の既知のメディエーターの転写を促進する。従って、NF−κBのリン酸化p65サブユニットの測定は、NF−κB活性化を決定するための有効なツールである。図27に示すように、糖尿病ラットは、NF−κB活性化の上昇を示した。本発明者らは、NF−κBが本明細書に記載のポリコサノール製剤の投与によって阻害されることも見出した。本発明者らの結果は、ポリコサノール補給によって、糖尿病ラットにおける血糖症と酸化ストレスの阻害と炎症促進性サイトカインの分泌とが有意に改善されたことを示している。
【0132】
結論として、ポリコサノール補給には、血糖や炎症促進性サイトカインの血中レベルを低下させ、ビタミンCレベルを増加させる可能性がある。この効果は、ポリコサノールによるNF−κB活性化阻害によってもたらされる。
【0133】
実施例4
臨床試験研究
糖尿病患者の血圧低下における有効性と認容性をプライマリーエンドポイントとして評価し、かつその他の重要なバイオマーカーを評価するための非盲検単一施設研究において、上記の1%ポリコサノール製剤を用いた。この研究の結果を下記の実施例4.1にまとめる。
【0134】
実施例4.1
Homa%B(β細胞機能(%B))とインスリン感受性(%S)とインスリン抵抗性をHOMA Calculator v2.2.2(Diabetes Care 1998;21:2191−92)を用いて計算した。この研究には、平均年齢が48±22歳の14名の糖尿病対象が含まれた。糖尿病の平均期間は、13.5±12.5年であった。対象は、12週間の間、20mg(1日2回、1mL)を摂取した。対象の食事に制限はなかった。
【0135】
下記の表IIIに示すように、BMIが28を超える患者における収縮期血圧及び拡張期血圧、C反応性タンパク質レベル、超低密度脂質レベル(VLDL)、血清アルブミン、血清グロブリンレベル、並びに胴回りの減少は、p<<0.05で統計的に有意であった。この結果から、高血圧症の治療、C反応性タンパク質レベルが高い患者における心血管リスクの軽減、VLDL(LDLの前駆体)の減少、胴回りの減少、及び腎機能の改善に有用であり得ることが示される。ポリコサノールは認容性が極端に高く、患者からの有害事象の報告はなかった。
【表6】
【0136】
糖尿病患者の収縮期圧の低下における極めて有意な結果を基にして、英国の前向き糖尿病研究(UK Prospective Diabetes Study)(UKPDS)に基づくリスク因子の低下を計算することができる。5000人の患者を対象にしたこの10年にわたる研究により、糖尿病の合併症と収縮期血圧の間には直接的なリスク関係があるという結論が下された。収縮期圧の10mmの降下によって、リスク因子は10〜20%低下する。これを下記の表IVに示す。“Systolic pressure lowers the risk of association of systolic blood pressure with macrovascular and micro vascular complications of Type 2 diabetes:prospective observational study” British Medical Journal(2000) 321:412−419を参照されたい。
【表7】
【表8】
【0137】
UKPDSリスク評価方法を適用すると、12週目で、リスク低下が相当なものであったことが分かる。本発明のポリコサノール製剤は、糖尿病患者及び高血圧症関連疾患による危険にさらされている者のリスク因子を軽減するのに有用であると推測することができる。
【0138】
実施例4.2:
3歳の時に1型糖尿病と診断された26歳の男性に本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤(20mg/日)を投与した。この男性の治療前の1日のインスリン摂取量は、毎日30ユニットであった。ベースライン時点で、及び21週間にわたって、空腹時インスリンを測定した。結果を下記の表VIに示す。
【表9】
【0139】
上のデータに基づくと、ポリコサノール製剤は、1型糖尿病患者において、内在性インスリン産生時のβ細胞活性の増強に役立つ可能性がある。
【0140】
実施例4.3:
ネフローゼ症候群と診断された4歳の女児を1日10mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。ネフローゼ症候群は、尿中タンパク質(1日に3.5グラムを上回る)、低血中タンパク質レベル、高コレステロールレベル、及び腫れを含む一群の症状である。ネフローゼ症候群は、腎臓、特に、糸球体の基底膜に損傷を与える様々な障害によって引き起こされる。これはすぐに、尿中タンパク質の異常な排泄を引き起こす。ネフローゼ症候群はあらゆる年齢層を襲う可能性がある。小児では、2歳から6歳の間に最もよく見られる。
【0141】
ベースラインでは尿路症状はなかった。女児の尿対タンパク質クレアチニン比(UPCR)は6.0であった。ポリコサノール製剤で2週間治療した後、UPCR比は1.6まで低下し、4週間後には0.6まで低下した。下記のデータに基づくと、ポリコサノール製剤は、実施例4.1に示すような腎疾患を治療するのに有用である可能性がある。実施例4.1では、アルブミンの低下が統計的に有意であった。
【表10】
【0142】
実施例4.4:
日中に膝関節痛、夜間に関節の痺れと疼痛の症状を示す48歳の男性を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で3カ月間治療した。食事でビタミンCが十分に消費されたにもかかわらず、ベースライン時のビタミンCの血液血漿レベルは低かった(約0.15mg%)。関節リウマチと骨関節炎は、X線とMRIにより除外された。RA因子と尿酸レベルは正常であった。
【表11】
【0143】
患者の日中の膝関節痛は完全に抑えられ、夜間の疼痛は最小限にまで軽減された。
【0144】
実施例4.5:
2型糖尿病の43歳の男性患者(検出時は38歳)は、ベースライン時の血漿ビタミンCレベルが0.27mg%と非常に低かった。この研究のために、この男性患者に1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤を6カ月間投与した。
【0145】
6カ月目の終わりに、男性患者の血漿ビタミンCレベルは3.82mg%にまで改善していた。HbA1cと空腹時インスリンレベルの改善も認められた。
【表12】
【0146】
実施例4.6:
II型糖尿病及び高インスリン血症と診断された42歳の男性(診断時は37歳)を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で6カ月間治療した。下記の表に示すように、この男性は、6カ月目の終わりに空腹時インスリンレベルの有意な低下を示した。
【表13】
【0147】
実施例4.7:
41歳の時に2型糖尿病と診断された47歳の女性患者を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で6カ月間治療した。6カ月目の終わりに、ウェスト・ヒップ比、空腹時グルコースレベル、及びhs−C反応性タンパク質レベルの有意な低下が認められた。
【表14】
【0148】
実施例4.8:
ベースライン時に超低HDLを示した、非糖尿病の48歳の肥満(BMI>30)男性患者を1日40mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で8週間治療した。結果は、HDL、LDL、CHOL/HDL(総コレステロール/HDL)比の大きな改善と6kgの体重減少とBMI比の改善を示した。
【表15】
【0149】
実施例4.9:
高血圧症及び2型糖尿病と診断された50歳の女性を1日20mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。結果は、6カ月での血圧の大きな改善を示した。
【表16】
【0150】
実施例4.10:
10歳の女児が尿中アルブミンによる腎感染と診断された。この女児を1日10mgの本明細書に記載の1%ポリコサノール製剤で治療した。10日後の尿検査で感染の完全寛解が示され、尿中アルブミンの痕跡は示されなかった。この結果は、アルブミンの存在を示す腎感染を治療する上での本発明の有用性を示している。
【0151】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は説明を目的とするものに過ぎず、それに照らして様々な修正又は変更が当業者に示唆され、かつ本出願の精神及び範囲並びに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書に引用される刊行物、特許、及び特許出願は全て、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリコサノールのナノ粒子、ここで、前記ナノ粒子は、
(a)約70%〜95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、
(b)トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)を含む安定剤画分とを含み、
ここで、前記ナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。
【請求項2】
前記ポリコサノール画分がトリアコンタノールをさらに含む、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、約9:1〜約15:1のオクタコサノール:トリアコンタノールの比を有する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、約16:1〜約20:1のオクタコサノール:ヘキサコサノールの比を有する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、直径約100nm〜約40nmのサイズを有する、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、直径約60nmのサイズを有する、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項7】
請求項1に記載の複数のナノ粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の前記複数のナノ粒子と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤。
【請求項9】
約約10〜約30mg/mL(wt/vol)の請求項7に記載の前記複数のナノ粒子を含む単位投薬量製剤。
【請求項10】
対象の血清ビタミンCレベルを増加させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記血清ビタミンCレベルを増加させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項11】
対象のタンパク質酸化を低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記タンパク質酸化を低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項12】
対象の血圧を低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の血圧を低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項13】
対象の胴回りを減少させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の胴回りを減少させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項14】
対象のVLDL(超低密度脂質)レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象のVLDLレベルを減少させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項15】
対象のアルブミン/グロブリン比の上昇を調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記アルブミン/グロブリン比の上昇を調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
対象のインスリン抵抗性を治療する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記インスリン抵抗性を治療するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項17】
対象の血糖レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記血糖レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項18】
対象の糖尿病を治療する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の糖尿病を治療するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記糖尿病がII型糖尿病である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記糖尿病がI型糖尿病である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
対象のC反応性タンパク質レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記C反応性タンパク質レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項22】
対象のNF−κBタンパク質レベルを阻害する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象のNF−κBレベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
対象のPAI−1レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記PAI−1レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
対象のICAM−1レベルを低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記ICAM−1レベルを低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項25】
対象のアディポネクチンレベルを増加させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記アディポネクチンレベルを増加させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項26】
対象の一酸化窒素レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記一酸化窒素レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項27】
対象のTNF−αレベルを低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記TNF−αレベルを低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項28】
対象のMCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記MCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項29】
対象のグルタチオンレベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記グルタチオンレベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項30】
前記対象が別の場合には前記薬学的製剤による治療を必要としない、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
ポリコサノールのナノ粒子、ここで、前記ナノ粒子は、
(a)約70%〜95%のオクタコサノールを含むポリコサノール画分と、
(b)トコフェリルポリエチレングリコール(1000)スクシネート(「TPGS」)を含む安定剤画分とを含み、
ここで、前記ナノ粒子は、約100nm未満の直径を有する。
【請求項2】
前記ポリコサノール画分がトリアコンタノールをさらに含む、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、約9:1〜約15:1のオクタコサノール:トリアコンタノールの比を有する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、約16:1〜約20:1のオクタコサノール:ヘキサコサノールの比を有する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、直径約100nm〜約40nmのサイズを有する、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、直径約60nmのサイズを有する、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項7】
請求項1に記載の複数のナノ粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の前記複数のナノ粒子と、薬学的に許容される担体とを含む薬学的製剤。
【請求項9】
約約10〜約30mg/mL(wt/vol)の請求項7に記載の前記複数のナノ粒子を含む単位投薬量製剤。
【請求項10】
対象の血清ビタミンCレベルを増加させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記血清ビタミンCレベルを増加させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項11】
対象のタンパク質酸化を低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記タンパク質酸化を低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項12】
対象の血圧を低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の血圧を低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項13】
対象の胴回りを減少させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の胴回りを減少させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項14】
対象のVLDL(超低密度脂質)レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象のVLDLレベルを減少させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項15】
対象のアルブミン/グロブリン比の上昇を調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記アルブミン/グロブリン比の上昇を調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
対象のインスリン抵抗性を治療する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記インスリン抵抗性を治療するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項17】
対象の血糖レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記血糖レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項18】
対象の糖尿病を治療する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の糖尿病を治療するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記糖尿病がII型糖尿病である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記糖尿病がI型糖尿病である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
対象のC反応性タンパク質レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記C反応性タンパク質レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項22】
対象のNF−κBタンパク質レベルを阻害する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象のNF−κBレベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
対象のPAI−1レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記PAI−1レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
対象のICAM−1レベルを低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記ICAM−1レベルを低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項25】
対象のアディポネクチンレベルを増加させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記アディポネクチンレベルを増加させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項26】
対象の一酸化窒素レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記一酸化窒素レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項27】
対象のTNF−αレベルを低下させる方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記TNF−αレベルを低下させるのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項28】
対象のMCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記MCP−1(単球走化性タンパク質−1)レベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項29】
対象のグルタチオンレベルを調節する方法であって、請求項8に記載の薬学的製剤を、前記対象の前記グルタチオンレベルを調節するのに十分な量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項30】
前記対象が別の場合には前記薬学的製剤による治療を必要としない、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2012−518639(P2012−518639A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551084(P2011−551084)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/021684
【国際公開番号】WO2010/096231
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511177329)ナノルクス、インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】NANORX,INC.
【住所又は居所原語表記】6 Devoe Place,Chappaque,NY 10514 United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/021684
【国際公開番号】WO2010/096231
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511177329)ナノルクス、インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】NANORX,INC.
【住所又は居所原語表記】6 Devoe Place,Chappaque,NY 10514 United States of America
【Fターム(参考)】
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