説明

ポリサルファイド系樹脂の簡易判別方法

【課題】 本発明の目的は、特に建築物解体に伴い発生する廃棄物にPCB含有物が混入しないよう、現場において迅速かつ確実にポリサルファイド系樹脂を判別する方法、及びその判別のための装置を提供することである。
【解決手段】 本発明は第一に、樹脂を酸性溶液に溶解させ、溶解液中に硫黄イオン又は硫酸イオンが存在するか否かを検出し、硫黄イオン又は硫酸イオンが存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法及びそのための装置に関する。本発明は第二に、樹脂を加熱し、加熱時に発生するガス中に二酸化硫黄が存在するか否かを二酸化硫黄を検出するための検出手段により検出し、二酸化硫黄が存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法及びそのための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の樹脂がポリサルファイド系樹脂か否かを簡易かつ迅速に判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物解体に伴い発生する廃棄物(以下「建設廃棄物」という)の中には、高分子化合物からなる種々のシーリング材が含まれている(例えば特許文献1参照)。高分子化合物の中でもポリサルファイド系樹脂は、製造された時期によってPCBが含まれている可能性がある(平成15年4月19日付朝日新聞報道記事)。そのため建設廃棄物処理において廃棄物中にPCBを含む樹脂が混入しないようにするために、事前に建築物解体現場(以下「現場」という)においてポリサルファイド系樹脂の存在を調べ、他の樹脂と分別することが必要である。
【0003】
樹脂がポリサルファイド系であるか否かの従来の判別法としては、例えば外観観察、燃焼に伴う刺激臭に基づく官能試験、硝酸への溶解性等の定性判定による方法が挙げられる。これらの既存の方法は、確実性に欠けるため、現場における判定法として十分なものではない。
【0004】
例えば、硝酸への溶解性に基づいて判別する方法は次の点で不十分である。ポリサルファイド系シーリング材が酸溶液に反応溶解することは事実であるが、実際にはポリサルファイド系シーリング材の種類の相違(分子量、結晶化度、可塑剤の種類、酸と液と固化比などの相違)により酸による溶解程度や時間などが大きく変動することがあり、また、ポリサルファイド系以外の他のシーリング材を酸溶液中に入れた場合には樹脂自体は溶解しないもののシーリング材中に含まれる他の成分(例えば可塑剤)が酸に反応し気泡が発生したり変色することがあるため、実用上は酸溶液への溶解反応だけでは検査対象樹脂がポリサルファイド系であると明確に判別することは非常に難しい。また、1つの検査対象試料中に2種類以上の樹脂が混在する場合、酸溶液への溶解性を確認するだけでは判定が不確実となる。例えば、ポリサルファイド系樹脂とシリコン系樹脂が混在するシーリング材を硝酸溶液に入れると、可塑剤とポリサルファイド系樹脂は溶解するもののシリコン系樹脂は溶けずに残るため、溶液への溶解性を確認するだけでは、このような試料をポリサルファイド系樹脂を含まないシーリング材であると誤認するおそれがある。また、外観観察や燃焼に伴う刺激臭に基づく官能試験による判別法は検査する人の主観に依存せざるを得ず、不確実であることは言うまでもない。
【0005】
また機器分析としては蛍光X線による含有元素分析や赤外線を利用した分光学的手法が有効とされるが、機器の取り扱いや測定したスペクトルの解析等に専門知識を必要とするため汎用性に劣ること、分析装置が高額であり測定にコストがかかることの欠点がある。
【0006】
【特許文献1】特許第2588333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特に建築物解体に伴い発生する廃棄物にPCB含有物が混入しないよう、現場において迅速かつ確実にポリサルファイド系樹脂を判別する方法、及びその判別のための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)樹脂を酸性溶液に溶解させ、溶解液中に硫黄イオン又は硫酸イオンが存在するか否かを検出し、硫黄イオン又は硫酸イオンが存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法。
(2)樹脂を加熱し、加熱時に発生するガス中に二酸化硫黄が存在するか否かを二酸化硫黄を検出するための検出手段により検出し、二酸化硫黄が存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法。
(3)酸性溶液を含む溶解槽及び硫黄イオン又は硫酸イオンを検出するための検出手段を備えたポリサルファイド系樹脂の判別装置。
(4)樹脂を加熱するための加熱手段及びガス中の二酸化硫黄を検出するための検出手段を備えたポリサルファイド系樹脂の判別装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、迅速かつ確実にポリサルファイド系樹脂を判別する方法、及びその判別のための装置が提供される。本発明によれば対象樹脂がポリサルファイド系樹脂であるか否かを低コストで簡易かつ確実に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の第一の態様では、検査対象樹脂を酸性溶液に溶解させ、溶解液中に硫黄イオン又は硫酸イオンが存在するか否かを検出し、硫黄イオン又は硫酸イオンが存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する。この方法によればポリサルファイド系樹脂の存在が明確に特定できるため、従来判別が困難であった試料(例えば酸溶解性の可塑剤を含むシーリング材や、ポリサルファイド系樹脂と他の樹脂とが混合して含まれるシーリング材)であっても、ポリサルファイド樹脂を含むものであると明確に判別することができる。
【0011】
酸性溶液は検査対象樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されないが、硝酸水溶液が好ましい。
【0012】
酸性溶液に樹脂を溶解した溶液中における硫黄イオン又は硫酸イオンの検出は通常の方法で行うことができる。通常は検出を行う前に、酸性溶液にアルカリ性物質が添加され溶液が中和される。アルカリ性物質としては例えば水酸化ナトリウム溶液が挙げられるがこれに限定されない。
【0013】
樹脂を酸性溶液に溶解した時点、又は更に中和を行なった時点で、固形分が析出して濁りが生じる場合がある。そのような場合は硫黄イオン又は硫酸イオンを検出する前に適当なろ過手段を用いて固液分離することが好ましい。簡便には、シリンジフィルターを装着したシリンジを用いて樹脂の溶解液を吸引することによりろ過を行なうことができる。
【0014】
硫黄イオン又は硫酸イオンの検出は例えば次の方法で行うことができる。金属イオンと硫黄イオン又は硫酸イオンとから形成される硫化物塩又は硫酸塩は沈殿する性質がある。そこで、溶液中に金属イオンを添加し、沈殿が目視で観察された場合にこれらのイオンの存在を検出することができる。使用し得る金属イオンとしては例えばバリウムイオンが挙げられる。金属イオンは水溶性の塩(例えば塩化物塩)の形態で溶液中に添加することができる。
【0015】
使用される酸性溶液が5mL程度である場合、検査対象樹脂は米粒程度の大きさにカットされていることが好ましい。
【0016】
本発明の第一の方法を実施するための装置の好ましい一例の概略図を図1に示す。溶解槽11には硝酸水溶液12が入れられている。この水溶液中に検査対象樹脂を溶解させた後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質が溶解槽11中に添加され中和される。検出部13は前記硝酸水溶液中で溶け残った固形物を分離するためのろ過装置(メンブレンフィルター)14と硝酸水溶液を吸引するためのシリンジ15とから構成される。前記硝酸水溶液をシリンジ15により吸引する前に予め、硫黄イオン又は硫酸イオンを検出可能な試薬(例えば塩化バリウム又はその水溶液)16をシリンジ内に入れておけば、ろ過装置14を通過した溶液がシリンジ15内に導入されて上記試薬16と接触した時点で直ちに検査対象樹脂がポリサルファイド系樹脂であるか否かの判別が可能となるため好ましい。
【0017】
本発明に係る、ポリサルファイド系樹の第二の判別方法は、検査対象樹脂を加熱して熱分解させ、発生するガス中に二酸化硫黄が存在するか否かを二酸化硫黄を検出するための検出手段により検出し、二酸化硫黄が検出された場合にポリサルファイド系樹脂であると判別する方法である。検査対象樹脂は米粒大程度にカットされていることが好ましい。また樹脂の加熱温度は、300〜350℃が好ましい。
【0018】
本発明の第二の方法を実施するための装置の好ましい一例の概略図を図2に示す。本装置は、検査対象樹脂21を熱分解して熱分解ガスを発生させる熱分解ガス発生部と、発生した熱分解ガス中の二酸化硫黄を検出するための検出部24を備える。熱分解ガス発生部は、加熱部22と発生したガスを検出部に導くための導入管23とを備える。加熱部22はヒータ等の通常の加熱装置により構成される。加熱部22において加熱された検査対象樹脂は熱分解されて熱分解ガス及び煤等の微粒子が放出される。検出部24は二酸化硫黄を検出するための検出手段と熱分解ガスを検出手段に導くための吸引管とを備える(図示せず)。二酸化硫黄を検出するための検出手段は二酸化硫黄の存在を定性的又は定量的に客観的に検出できる手段であれば特に限定されないが、例えば、試験紙(例えばヨウ素酸カリウム・デンプン紙)、検知管(株式会社ガステックなどから市販されている)等が挙げられる。検出後の熱分解ガスは導入管23を通じて排出される。
【実施例】
【0019】
ポリサルファイド系樹脂の断片(0.5g)を試験管中で(1+1)硝酸(硝酸と水との容量比1:1混合物)10mLに入れたところ、樹脂は数分間で溶解した。
【0020】
上記溶解液中に10N水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを7に調整したところ、夾雑物に由来すると思われる沈澱が生じた。
【0021】
この液を孔径0.45μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。
得られたろ液5mLに1N塩化バリウム水溶液5mLを添加したところ、白色の沈澱が生じた。この沈澱は硫酸バリウムであると考えられる。
【0022】
従って白色沈殿の有無に基づいてポリサルファイド系樹脂を判別することが可能となる。
【0023】
なお塩化バリウムに代えて、塩化カルシウム(CaCl2)又は硫酸銅(CuSO4)を同様に添加したところ沈澱は生成しなかった。また、上記の中和工程を省略した場合には塩化バリウム、塩化カルシウム又は硫酸銅の何れを添加しても沈澱は生成しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の方法を実施するための装置の好ましい一例の概略図を示す。
【図2】本発明の第二の方法を実施するための装置の好ましい一例の概略図を示す。
【符号の説明】
【0025】
11…溶解槽、12…硝酸水溶液、13…検出部、14…ろ過装置、15…シリンジ、16…試薬、21…検査対象樹脂、22…加熱部、23…ガス導入管、24…検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を酸性溶液に溶解させ、溶解液中に硫黄イオン又は硫酸イオンが存在するか否かを検出し、硫黄イオン又は硫酸イオンが存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法。
【請求項2】
樹脂を加熱し、加熱時に発生するガス中に二酸化硫黄が存在するか否かを二酸化硫黄を検出するための検出手段により検出し、二酸化硫黄が存在する場合に該樹脂がポリサルファイド系樹脂であると判別する、ポリサルファイド系樹脂の判別方法。
【請求項3】
酸性溶液を含む溶解槽及び硫黄イオン又は硫酸イオンを検出するための検出手段を備えたポリサルファイド系樹脂の判別装置。
【請求項4】
樹脂を加熱するための加熱手段及びガス中の二酸化硫黄を検出するための検出手段を備えたポリサルファイド系樹脂の判別装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−119084(P2006−119084A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309570(P2004−309570)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000211064)中外テクノス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】