説明

ポリシラザンを含むコーティング組成物

【課題】埋設性と塗布性とに優れ、すぐれた膜物性を有するシリカ質膜を形成することができるコーティング組成物とそれを用いたシリカ質膜の形成方法の提供。
【解決手段】ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを含んでなるコーティング組成物であって、前記ペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の範囲と、分子量3,000〜8,000の範囲とにそれぞれ極大を有し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが6〜12である、コーティング組成物。このコーティング組成物ギャップを有する基板上に塗布し、1000℃以下で加熱することにより、ギャップ深部まで埋設されたシリカ質膜を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程においてシリカ質膜を形成させるためのコーティング組成物に関するものである。より具体的には、半導体の製造工程で絶縁膜として使用されるシリカ質膜を形成させるためのポリシラザンを含むコーティング組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、半導体装置にはより高い集積密度が求められるようになっており、それに応えるべく製造技術が改良されている。そして、そのような半導体装置の製造過程のひとつである、絶縁膜を形成させる工程では、狭いギャップを埋設することが必要になってきている。
【0003】
このような狭いギャップを埋設するのに、ペルヒドロポリシラザンを含むコーティング組成物を用いることが知られている。ペルヒドロポリシラザンは基本骨格がSi−N、Si−H、N−H結合により構成される重合体であり、酸素および/または水蒸気を含む雰囲気で焼成することでSi−N結合がSi−O結合に置換され、純度の高いシリカ質膜が得られるという特徴を有している。
【0004】
しかしながら、半導体に要求される集積密度がより高くなるにしたがい、ギャップはより狭くなってきている。従来知られている、ペルヒドロポリシラザンを含むコーティング組成物は一般的に埋設性に優れているといわれているが、昨今要求される高い集積密度を達成するためには、改良が必要になってきている。具体的には、従来のコーティング組成物では、埋設性と塗布性とを両立させることが困難になってきている。
【0005】
このような問題の原因の一つとして、ペルヒドロポリシラザンの分子量分布があることが知られている。例えば、特許文献1には重量平均分子量が4000〜8000であり、重量平均分子量および数平均分子量の比が3.0〜4.0であるペルヒドロポリシランザンを用いたスピンオンガラス組成物が開示されている。また、特許文献2には、重量平均分子量が3000〜6000であるポリシラザンを含むスピンオングラスが開示されている。さらに、特許文献3にはポリスチレン換算分子量が700以下のポリシラザン量が、全ポリシラザン量の10%以下であるシリカ系被膜形成用塗布液が開示されている。これらは、いずれもポリシラザンの分子量分布を制御して塗布性等を改良しようとするものである。
【0006】
本発明者らの検討によれば、重量平均分子量の小さいペルヒドロポリシラザンを用いると埋設性は向上する傾向にあるが、塗布時にストリエーションが発生しやすくなり、反対に重量平均分子量の大きいペルヒドロポリシラザンを用いると、ストリエーションの発生が抑制されて塗布性が改良されるが、埋設性は劣化する傾向にある。この結果、狭いギャップの深部まで十分埋設されず、塗布後に焼成してシリカ質膜を形成させた場合、ギャップ深部のフッ酸によるエッチングレートが大きくなるという問題が発生しやすいという問題点があった。このような問題点は、特許文献1〜3に記載されているような分子量分布の制御だけでは十分ではなく、さらなる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−319927号明細書
【特許文献2】特開2005−150702号明細書
【特許文献3】特開平8−269399号明細書
【特許文献4】特許第1474685号明細書
【特許文献5】特許第2613787号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の通り、従来のコーティング組成物では、昨今要求されるような狭いギャップを有する基板に対してシリカ質膜を形成させようとする場合に、埋設性と塗布性とを十分に両立できていなかった。本発明の目的は、このような問題点に鑑みて、狭いギャップ、言い換えればアスペクト比の大きいギャップを十分に埋設することができ、かつ、塗布時にストリエーションの発生しない、半導体装置のシリカ質膜を形成させるためコーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるコーティング組成物は、ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを含んでなるコーティング組成物であって、前記ペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の範囲と、分子量3,000〜8,000の範囲とにそれぞれ極大を有し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが6〜12であることを特徴とする、ものである。
【0010】
また、本発明によるシリカ質膜の形成方法は、
凹凸を有する基板の表面上に、ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを含んでなるコーティング組成物であって、前記ペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の範囲と、分子量3,000〜8,000の範囲とにそれぞれ極大を有し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが6〜12であるコーティング組成物を塗布する塗布工程、および
塗布済み基板を1000℃未満の酸素雰囲気または水蒸気を含む酸化雰囲気で加熱処理して前記組成物を二酸化ケイ素膜に転化させる硬化工程
を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング組成物によれば、ポリシラザン化合物を含むコーティング組成物の塗布性と埋設性とを両立した上に、さらに得られるシリカ質膜の膜物性をも改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
コーティング組成物
本発明によるコーティング組成物は、ペルヒドロポリシラザンとそのペルヒドロポリシラザンを溶解し得る溶媒とを含んでなる。
【0014】
本発明に用いられるペルヒドロポリシラザンは、後述するように特定の分子量および分子量分布を有することが必要であるが、その構造は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意の構造のものを選択することができる。無機化合物であるペルヒドロポリシラザンは、ケイ素、窒素、および水素だけからなり、焼成によりシリカ質膜を形成させたときに不純物が混入しにくいという特徴を有している。このようなペルヒドロポリシラザンの具体的な構造は、下記一般式(I)で表すことができる。
−(SiH−NH)− (I)
式中、nは重合度を表す数である。
【0015】
なお本発明の効果を損なわない範囲で、(I)式の水素の一部または全部がアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基などに置換されたポリシラザン化合物を少量含むこともできる。
【0016】
本発明によるポリシラザン組成物は、前記したペルヒドロポリシラザンを含んでなるものであるが、そのペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の領域と、分子量3,000〜8,000の領域とに極大を有するものである。この場合、その二つの極大の間には一つ以上の、好ましくは一つの極小が存在する。
【0017】
このような分子量分布曲線を有するペルヒドロポリシラザンは、任意の方法で調製することができるが、もっとも簡単には、相対的に分子量が大きいペルヒドロポリシラザンと、相対的に分子量が小さいペルヒドロポリシラザンとを混合することにより得ることができる。より具体的には、重量平均分子量が800〜2,500、特に1,000〜2,200、であるペルヒドロポリシラザン(以下、簡単のために低分子量ポリシラザンという)と、重量平均分子量が3,000〜8,000、特に3,500〜7,000、であるペルヒドロポリシラザン(以下、簡単のために高分子量ポリシラザンという)とを混合することにより得ることが好ましい。これは、混合前のペルヒドロポリシラザンの合成方法は特に限定されないが、例えば特許文献4または5に記載された方法により合成することができる。
【0018】
ペルヒドロポリシラザンに限らず、高分子化合物は分子量分布に幅があるため、分子量の異なる2種類の高分子化合物を混合したとき、混合の前後で分子量分布の極大の位置が変化することがある。これは、特に2種類の高分子化合物の分子量分布において、極大となる分子量が近い場合に起こりやすく、混合によって、極大値をもつ分子量が近づく傾向にある。場合によっては極大値がひとつになることもある。しかしながら、前記したような重量平均分子量を有する2種類のペルヒドロポリシラザンを混合した場合、分子量の差が大きいので一般的には極大値がひとつとなることはない。また、本願発明においては、二つの極大値の間の分子量を有する成分を少なくすることによって本発明の効果が発現するものと考えられるため、少なくとも二つの極大の間に極小を有するように2種類のペルヒドロポリシラザンを混合する必要がある。
【0019】
本発明において、目的とする分子量分布を達成するために2種類のペルヒドロポリシラザンを混合する場合、それぞれペルヒドロポリシラザンの分子量分布は狭いほうが好ましい。これは、混合されるいずれかの、または両方のペルヒドロポリシラザンの分子量分布が広いと、分布曲線の2つの極大の間に極小が表れにくくなり、また、本発明の効果も小さくなる傾向があるからである。具体的には、混合する前の2種類のペルヒドロポリシラザンのそれぞれについて、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1.1〜1.8であることが好ましい。
【0020】
ペルヒドロポリシラザンの分子量分布を狭くするには、ペルヒドロポリシラザンに含まれる高分子量成分、および/または低分子量成分を除去することにより行うことが簡便である。このように高分子量成分、および/または低分子量成分を除去する簡単な方法としては、溶解度の分子量依存性を利用する方法が挙げられる。すなわち、ペルヒドロポリシラザンは一般に分子量が大きいほど溶解度が低く、分子量が小さいほど溶解度が高い傾向にある。このような溶解度の差を利用し、そのペルヒドロポリシラザンの一部を溶解できる程度の溶解性を有する溶媒にそのペルヒドロポリシラザンを溶解させ、不溶性成分を濾別することにより、不溶性成分として濾別された高分子量成分と、溶媒中に溶解した低分子量成分とに分別することができる。すなわち、濾別された不溶性成分を除去すれば高分子量成分を除去することとなり、溶解した成分を除去すれば低分子量成分を除去することとなる。
【0021】
ここで、ペルヒドロポリシラザンの溶解性は、用いる溶媒により異なるので、ある溶媒で高分子量成分を除去したあと、溶解性が異なる別の溶媒を用いて低分子量を除去して、さらに分子量分布の幅を狭くすることもできる。このような方法では、高分子量成分または低分子量成分を完全に除去できない場合が多いが、異なった分子量、すなわち重合度の異なる化合物の混合物である高分子化合物の分子量分布を狭くするためには簡便かつ有効な方法である。このような用途に用いられる溶媒としては、例えば炭化水素が適当である。例えばアルカン類であると、炭素数が多くなるにつれて分子量がより大きいペルヒドロポリシラザンを溶解できる傾向にある。一般には、炭素数が5〜10程度の炭化水素を用いることができる。
【0022】
また、高分子化合物の分子量分布を狭くするために、一般に用いられるクロマトグラフィーなどによって、ペルヒドロポリシラザンの分子量ごとに分別することもできる。しかし、クロマトグラフィーを用いると処理時間が長くなることがあり、生産効率の観点から前記した溶媒に対する溶解性の差を利用する方法が好ましい。
【0023】
そのほか、ペルヒドロポリシラザンの分子量分布を狭くするための処理をするのではなく、分子量分布の狭いペルヒドロポリシラザンを、合成方法や合成原料の調整を行うことにより合成することも有効である。
【0024】
なお、2種類のペルヒドロポリシラザンを混合する前に、それぞれのペルヒドロポリシラザンに含まれる高分子量成分または低分子量成分を除去する場合には、低分子量ペルヒドロポリシラザンの高分子量成分を、また、高分子量ペルヒドロポリシラザンの低分子量成分を除去することが好ましい。このように分子量分布曲線の2つの極大の中間領域に対応する成分を少なくすることで、本発明の効果がより強く発現する。
【0025】
以上のような方法で、異なった分子量を有するペルヒドロポリシラザンを準備し、それらを混合するとき、その混合比は、低分子量ポリシラザンと高分子量ポリシラザンとの重量比が3:7〜6:4であることが好ましく、4:6〜6:4であることがより好ましい。混合比がこの範囲外であると、塗布性と埋設性とのバランスが悪くなることがあるためである。
【0026】
本発明において特定される分子量分布を有するペルヒドロポリシラザンは、前記したように分子量の異なる2種類のペルヒドロポリシラザンを混合することにより得ることが簡便であるが、そのほかの方法により得られるものであってもよい。例えば、比較的広い分子量分布を有するペルヒドロポリシラザンを準備し、それからクロマトグラフフィーで分子量が2,500〜3,000付近の中間領域成分を除去することで、所望の分子量分布を達成できる。
【0027】
また、本発明に用いられるペルヒドロポリシラザンは、その重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが6〜12であることが必要であり、7〜10であることが好ましい。このような比Mw/Mnは、前記したように2種類のペルヒドロポリシラザンを混合する場合には、低分子量ペルヒドロポリシラザンと、高分子量ペルヒドロポリシラザンとを、3:7〜6:4の重量比で混合した場合に達成できる。
【0028】
本発明によるコーティング組成物は、前記のペルヒドロポリシラザンを溶解し得る溶媒を含んでなる。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0029】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0030】
本発明に用いられるコーティング組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0031】
また、前記の各成分の含有量は、目的とする組成物の用途によって変化するが、ペルヒドロポリシラザンの含有率が10〜25重量%であることが好ましく、12〜22重量%とすることがより好ましい。一般的にペルヒドロポリシラザンの含有量が過度に高いとコーティング組成物の粘度が高くなって埋設性や塗布性が劣化する傾向にあり、また過度に低いと形成されるシリカ質膜の厚さが不足する傾向がある。
【0032】
シリカ質膜の製造法
本発明によるシリカ質膜の製造法によれば、溝や穴などのギャップがある基板上に、ギャップの深部まで十分に埋設され、膜面が平坦であり、膜質も均質な被膜を形成することができる。したがって、電子デバイスのトランジスター部やキャパシター部の平坦化絶縁膜(プリメタル絶縁膜)として形成することも、また溝付き基板上にシリカ質膜を形成させて溝を埋封することによって、トレンチ・アイソレーション構造を形成することもできる。以下、トレンチ・アイソレーション構造を形成させる方法に基づいて本発明を説明する。
【0033】
(A)塗布工程
本発明によるコーティング組成物は、基板上のトレンチ・アイソレーション構造の形成に適したものである。トレンチ・アイソレーション構造を形成させる場合には所望の溝パターンを有するシリコンなどの基板を準備する。この溝形成には、任意の方法を用いることができるが、例えば以下に示す方法により形成させることができるである。
【0034】
まず、シリコン基板表面に、例えば熱酸化法により、二酸化シリコン膜を形成させる。ここで形成させる二酸化シリコン膜の厚さは一般に5〜30nmである。
【0035】
必要に応じて、形成された二酸化シリコン膜上に、例えば減圧CVD法により、窒化シリコン膜を形成させる。この窒化シリコン膜は、後のエッチング工程におけるマスク、あるいは後述する研磨工程におけるストップ層として機能させることのできるものである。窒化シリコン膜は、形成させる場合には、一般に100〜400nmの厚さで形成させる。
【0036】
このように形成させた二酸化シリコン膜または窒化シリコン膜の上に、フォトレジストを塗布する。必要に応じてフォトレジスト膜を乾燥または硬化させた後、所望のパターンで露光および現像してパターンを形成させる。露光の方法はマスク露光、走査露光など、任意の方法で行うことができる。また、フォトレジストも解像度などの観点から任意のものを選択して用いることができる。
【0037】
形成されたフォトレジスト膜をマスクとして、窒化シリコン膜およびその下にある二酸化シリコン膜を順次エッチングする。この操作によって、窒化シリコン膜および二酸化シリコン膜に所望のパターンが形成される。
【0038】
パターンが形成された窒化シリコン膜および二酸化シリコン膜をマスクとして、シリコン基板をドライエッチングして、トレンチ・アイソレーション溝を形成させる。
【0039】
形成されるトレンチ・アイソレーション溝の幅は、フォトレジスト膜を露光するパターンにより決定される。半導体素子におけるトレンチ・アイソレーション溝は、目的とする半導体素子により異なるが、幅は一般に0.02〜10μm、好ましくは0.05〜5μm、であり、深さは200〜1000nm、好ましくは300〜700nmである。本発明による方法は、従来のトレンチ・アイソレーション構造の形成方法に比べて、より狭く、より深い部分まで、均一に埋設することが可能であるため、より狭く、より深いトレンチ・アイソレーション構造を形成させる場合に適しているものである。特に、従来のシリカ質膜形成用組成物やシリカ質膜の形成方法では、溝の深い部分まで均一なシリカ質膜の形成が困難であった、溝の幅が一般に0.5μm以下、特に0.1μm以下、アスペクト比が5以上であるトレンチ・アイソレーション構造を形成する場合、本発明によるシリカ質膜形成用組成物を用いることにより溝内のシリカ質膜を均一に形成させることができる。
【0040】
次いで、このように準備されたシリコン基板上に、シリカ質膜の材料となる前記のコーティング組成物の塗膜を形成させる。
【0041】
コーティング組成物は、任意の方法で基板上に塗布することができる。具体的には、スピンコート、カーテンコート、ディップコート、およびその他が挙げられる。これらのうち、塗膜面の均一性などの観点からスピンコートが特に好ましい。
【0042】
シリカ質膜形成用組成物塗布後のトレンチ溝埋設性および塗布性を両立させるために、塗布される塗膜の厚さは、一般に10〜1,000nm、好ましくは50〜800nmである。
【0043】
塗布の条件は、組成物の濃度、溶媒、または塗布方法などによって変化するが、スピンコートを例に挙げると以下の通りである。
【0044】
最近は製造の歩留まりを改善するために、大型の基板に素子を形成させることが多いが、8インチ以上のシリコン基板に均一にシリカ質膜形成用組成物の塗膜を形成させるためには、複数の段階を組み合わせたスピンコートが有効である。
【0045】
まず、シリコン基板の中心部に、または基板全面に平均的に塗膜が形成されるような、中心部を含む数カ所に、一般にシリコン基板1枚あたり0.5〜20ccの組成物を滴下する。
【0046】
次いで、滴下した組成物をシリコン基板全面に広げるために、比較的低速かつ短時間、例えば回転速度50〜500rpmで0.5〜10秒、回転させる(プレスピン)。
【0047】
次いで、塗膜を所望の厚さにするために、比較的高速、例えば回転速度500〜4500rpmで0.5〜800秒、回転させる(メインスピン)。
【0048】
さらに、シリコン基板の周辺部での塗膜の盛り上がりを低減させ、かつ塗膜中の溶剤を可能な限り乾燥させるために、前記メインスピン回転速度に対して500rpm以上速い回転速度で、例えば回転速度1000〜5000rpmで5〜300秒、回転させる(ファイナルスピン)。
【0049】
これらの塗布条件は、用いる基板の大きさや、目的とする半導体素子の性能などに応じて、適宜調整される。
【0050】
(B)硬化工程
コーティング組成物を塗布した後、必要に応じてプリベーク工程に付すことができる。
プリベーク工程では、塗膜中に含まれる溶媒の完全除去と、塗膜の予備硬化を目的とするものである。特にポリシラザンを含む組成物を用いる本発明のシリカ質膜の形成方法においては、プリベーク処理をすることにより、形成されるシリカ質膜の緻密性が向上するので、プリベーク工程を組み合わせることが好ましい。
【0051】
通常、プリベーク工程では、実質的に一定温度で加熱する方法がとられる。また、硬化の際に塗膜が収縮し、ギャップ部がへこみになったり、ギャップ内部にボイドが生じたりすることを防ぐために、プリベーク工程における温度を制御し、経時で上昇させながらプリベークを行うことが好ましい。プリベーク工程における温度は通常50℃〜400℃、好ましくは100〜300℃、の範囲内である。プリベーク工程の所要時間は一般に10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、である。
【0052】
プリベーク工程における温度を経時で上昇させるには、基板が置かれている雰囲気の温度を段階的に上昇させる方法、あるいは温度を単調増加的に上昇させる方法が挙げられる。ここで、プリベーク工程における最高プリベーク温度は、被膜からの溶媒を除去するという観点から、シリカ質膜形成用組成物に用いる溶媒の沸点よりも高い温度に設定するのが一般的である。
【0053】
なお、本発明による方法においてプリベーク工程を組み合わせる場合には、プリベークにより高温となった基板を、温度が下がる前に、好ましくは50℃以上、プリベーク時の最高温度以下の温度の基板を硬化工程に付すことが好ましい。温度が下がる前の基板を硬化工程に付すことで、再度温度を上昇させるエネルギーと時間とを節約することができる。
次に、ポリシラザンを含む塗膜をシリカ質膜に転化させて硬化させるために、基板全体を加熱する、硬化工程に付す。通常は、基板全体を硬化炉などに投入して加熱するのが一般的である。
【0054】
硬化は、硬化炉やホットプレートを用いて、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行うことが好ましい。水蒸気は、ポリシラザンをシリカ質膜(すなわち二酸化ケイ素)に十分に転化させるのに重要であり、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは70%以上とする。特に水蒸気濃度が80%以上であると、有機化合物のシリカ質膜への転化が進行しやすくなり、ボイドなどの欠陥が発生が少なくなり、シリカ質膜の特性が改良されるので好ましい。雰囲気ガスとして不活性ガスを用いる場合には、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどを用いる。
【0055】
硬化させるための温度条件は、用いるシリカ質膜形成用組成物の種類や、工程の組み合わせ方によって変化する。しかしながら、温度が高いほうがポリシラザンがシリカ質膜に転化される速度が速くなる傾向にあり、また、温度が低いほうがシリコン基板の酸化または結晶構造の変化によるデバイス特性への悪影響が小さくなる傾向がある。このような観点から、本発明における硬化工程では、通常1000℃以下、好ましくは400〜700℃で加熱を行う。ここで、目標温度までの昇温時間は一般に1〜100℃/分であり、目標温度に到達してからの硬化時間は一般に1分〜10時間、好ましくは15分〜3時間、である。必要に応じて硬化温度または硬化雰囲気の組成を段階的に変化させることもできる。この加熱により、ポリシラザンが二酸化ケイ素に転化してシリカ質膜となる。
【0056】
本発明によるシリカ質膜の形成方法は、前記の各工程を必須とするものであるが、必要に応じて、研磨工程やエッチング工程などのさらなる工程を組み合わせることもできる。
【0057】
本発明を諸例を用いて説明すると以下のとおりである。
【0058】
含成例1 低分子量ポリシラザンの合成
純度99%以上のジクロロシラン400gを0℃の脱水ビリジン5kgに撹拌しながら注入した。この混合物の温度を0℃に維持したまま、純度99.9%のアンモニアガス1.22kgを撹拌しながら混合物に注入した。
【0059】
混合物の温度を0℃に維持しながら撹拌を続けて12時間反応を行った。反応後の混合物に乾燥窒素を30分間吹き込んで過剰なアンモニアを除去し、その後スラリー状の反応混合物から塩化アンモニウムを濾別して、濾液Aを得た。得られた濾液Aにキシレンを混合して50℃に加熱し、20mmHgの減圧下で蒸留してピリジンを除去し、重量平均分子量1450のポリマーを含む20重量%濃度の溶液とした。
【0060】
得られた20重量%のキシレン溶液を50℃に加熱し、10mmHgの減圧下で蒸留してキシレンを除去した。得られる無色透明液体にn−ペンタンを加え、10重量%濃度の白色溶液とした。この溶液を濾過精度0.2μmのフィルターで濾過してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液にジブチルエーテルを混合して50℃に加熱し、20mmHgの減圧下で蒸留してn−ペンタンを除去し、重量平均分子量が1100、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1.45のポリマーを含む20重量%濃度のポリマー溶液1とした。
【0061】
合成例2 高分子量ポリシラザンの合成
合成例1と同様にして濾液Aを調製し、さらに密閉系で150℃で3時間加熱した。室温に冷却後、常圧に戻し、得られた溶液にキシレンを混合して50℃に加熱し、20mmHgの減圧下で蒸留してピリジンを除去し、重量平均分子量6000のポリマーを含む20重量%濃度の溶液とした。
【0062】
得られる20重量%のキシレン溶液を50℃に加熱し、10mmHgの減圧下で蒸留してキシレンを除去した。得られる白色粉末にn−ヘプタンを加え、10重量%濃度の分散液とした。この分散液をガラスフィルター(アドバンテック東洋株式会社製:GF−75(商品名))を用いて減圧濾過し、溶媒を除去した。得られえた白色粉末をジブチルエーテルに溶解し、重量平均分子量が6400、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1.22のポリマーを含む20重量%濃度のポリマー溶液2とした。
【0063】
合成例3 超高分子量ポリシラザンの合成
合成例1と同様にして濾液Aを調製し、密閉系で150℃で6時間加熱した。室温に冷却後、常圧に戻し、得られた溶液にジブチルエーテルを混合して50℃に加熱し、20mmHgの減圧下で蒸留してピリジンを除去し、重量平均分子量9200のポリマーを含む20重量%濃度のポリマー溶液3とした。
【0064】
実施例1
60gのポリマー溶液1と40gのポリマー溶液2とを混合した。混合後のポリマー溶液は、分子量分布曲線の分子量が6300の位置と650の位置とに極大を有し、またMw/Mnは10であった。
【0065】
シリコン墓板として、深さ0.5μmで0.05、0.1、0.2、及び0.5μmの幅を有する溝が形成され、表面が窒化ケイ素ライナー層で被覆された基板を用意した。この基板に、調製したポリマー溶液をコーティング組成物としてスピンコーティングにより塗布した。塗布条件は、プレスピン:300rpm/5秒間、メインスピン:1000rpm/20秒間、ファイナルスピン:l500rpm/10秒間とした。塗布後の膜面を観察したところ、ストリエーションの発生はなく、優れた塗布性を達成できていることが確認できた。
【0066】
さらにこの塗布後の基板を、ホットプレート上で150℃、3分間プリベークし、引き続き冷却せずに純酸素雰囲気下の焼成炉に導入した。焼成炉内で昇温速度10℃/分で800℃まで加熱し、さらに水蒸気濃度80%の酸素雰囲気下で30分間焼成した。得られた焼成膜のFT−IRを測定したところ、Si−O結合に帰属される波数1080cm−1の吸収が観測され、シリカ質膜が得られていることが確認された。一方で、N−H結合およびSi−H結合に帰属される波数3380cm−1及び2200cm−1の吸収は観測されず、ペルヒドロポリシラザンがシリカに転換したことが確認された。
【0067】
また、0.5重量%のフッ化水素酸と30重量%のフッ化アンモニウムを含む水溶液をエッチング溶液として用いて、23℃でエッチングを行なって熱酸化シリカ膜に対する相対エッチングレートを測定したところ1.48であった。
【0068】
焼成後の基板を溝の長手方向に対して直角の方向で切断した後、0.5重量%のフッ化水素酸と30重量%のフッ化アンモニウムを含む水溶液に30秒問浸潰し、さらに純水で十分に洗浄してから乾燥させた。
【0069】
基板の断面を走査型電子顕微鏡により、50,000倍で断面に痢直な方向の仰角30°上方から、各溝の最深部を観察し、エッチング量を評価した。溝幅が変化しても、エッチング量の変化は僅かであり、幅0.05μmの溝の最深部においても十分に緻密なシリカ質膜が形成されていることが確認できた。
【0070】
実施例2
40gのポリマー溶液1と60gのポリマー溶液2とを混含した。混合後のポリマー溶液は、分子量分布曲線の分子量が6250の位置と680の位置とに極大を有し、またMw/Mnは10であった。
【0071】
調製したポリマー溶液をコーティング組成物として、実施例1と同様にして、シリコン基板上に塗布した。塗布後の膜面を観察したところ、ストリエーションの発生はなく、優れた塗布性を達成できていることが確認できた。
【0072】
さらにこの塗布後の基板を、実施例1と同様に焼成した。得られた焼成膜のFT−IRを測定したところ、Si−O結合に帰属される波数1080cm−1の吸収が観測され、シリカ質膜が得られていることが確認された。一方で、N−H結合及びSi−H結合に帰属される波数3380cm−1及び2200cm−1の吸収は観測されず、ペルヒドロポリシラザンがシリカに転換したことが確認された。また、実施例1と同様に熱酸化シリカ膜に対する相対エッチングレートを測定したところ1.50であった。
【0073】
焼成後の基板の断面を実施例1と同様の方法により観察し、エッチング量を評価した。溝幅が変化しても、エッチング量の変化は僅かであり、幅0.05μmの溝の最深部においても十分に緻密なシリカ質膜が形成されていることが確認できた。
【0074】
比較例1
ポリマー溶液1をコーティング組成物とし、実施例1と同様にして、シリコン基板上に塗布した。塗布後の膜面を観察したところ、中心部から周辺部に向かうストリエーションが多数発生しており、塗布性が不十分であることが確認された。
【0075】
さらにこの塗布後の基板を、実施例1と同様の方法で焼成し、断面を電子顕微鏡で観察した。幅0.1μm以上の溝ではエッチング量の変化は僅かであり、最深部においても十分に緻密なシリカ質膜が形成されていることが確認できた。しかし、幅0.05μmの溝の最深部においてはエッチング量が大きく、その部分には緻密なシリカ質膜が形成されていないことが確認された。
【0076】
比較例2
ポリマー溶液2をコーティング組成物とし、実施例1と同様にして、シリコン基板上に塗布した。塗布後の膜面を観察したところ、ストリエーションの発生はなく、優れた塗布性を達成できていることが確認された。
【0077】
さらにこの塗布後の基板を、実施例1と同様の方法で焼成し、断面を電子顕微鏡で観察した。幅0.2μm以上の溝ではエッチング量の変化は僅かであり、最深部においても十分に緻密なシリカ質膜が形成されていることが確認できた。しかし、幅0.05μmと0.1μmの溝の最深部においてはエッチング量が大きく、その部分には緻密なシリカ質膜が形成されていないことが確認できた。
【0078】
比較例3
ポリマー溶液3をコーティング組成物とし、実施例1と同様にして、シリコン基板上に塗布した。塗布後の膜面を観察したところ、ストリエーションの発生はなく、優れた塗布性を達成できていることが確認できた。
【0079】
さらにこの検布後の基板を、実施例1と同様の方法で焼成し、断面を電子顕微鏡で観察した。幅0.2μm以下の溝の最深部には空隙が認められ、埋設性に改良の余地があることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを含んでなるコーティング組成物であって、前記ペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の範囲と、分子量3,000〜8,000の範囲とにそれぞれ極大を有し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが6〜12であることを特徴とする、コーティング組成物。
【請求項2】
ペルヒドロポリシラザンの含有率が、コーティング組成物の全重量を基準として10〜25重量%である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ペルヒドロポリシラザンが、重量平均分子量が800〜2,500の低分子量ポリシラザンと、重量平均分子量が3,000〜8,000の高分子量ポリシラザンとの混合物である、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記低分子量ポリシラザンと前記高分子量ポリシラザンとの重量比が3:7〜6:4である、請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
凹凸を有する基板の表面上に、ペルヒドロポリシラザンと溶媒とを含んでなるコーティング組成物であって、前記ペルヒドロポリシラザンの分子量分布曲線が、分子量800〜2,500の範囲と、分子量3,000〜8,000の範囲とにそれぞれ極大を有し、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが6〜12であるコーティング組成物を塗布する塗布工程、および
塗布済み基板を1000℃未満の酸素雰囲気または水蒸気を含む酸化雰囲気で加熱処理して前記組成物を二酸化ケイ素膜に転化させる硬化工程
を含んでなることを特徴とする、シリカ質膜の形成方法。
【請求項6】
塗布工程と硬化工程の間に、塗布済み基板を50℃〜400℃で10秒〜30分加熱するプリベーク工程をさらに含んでなる、請求項5に記載のシリカ質膜の形成方法。

【公開番号】特開2011−142207(P2011−142207A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1883(P2010−1883)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】