説明

ポリシランの製造方法

【課題】安全で環境汚染の危険性の無いポリシランの製造方法であって、分子量分布の狭いポリシランを収率よく製造し得るポリシランの製造方法の提供。
【解決手段】一般式(1):
(SiR (1)
(式中、mは1〜3であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12の(置換)ビニル基、炭素数6〜12の(置換)アリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12の(置換)アミノ基またはシリル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるジハロシランを、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在下、光を作用させて重合することにより、
一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランを形成させる、ポリシランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシランは、セラミックス前駆体、並びに、フォトレジスト、有機感光体、光導波路、光メモリなどの光・電子材料などとして注目されている。
【0003】
従来、ポリシランの製造方法としては、以下の様な方法が知られている。
(1)金属ナトリウムなどのアルカリ金属を用いて、トルエン溶媒中のジアルキルジハロシランあるいはジハロテトラアルキルジシランを100℃以上の温度で強力に撹拌し、還元的にカップリングさせる方法“J.Am.Chem.Soc.,103(1981)7352”。
(2)ビフェニルなどでマスクしたジシレンをアニオン重合させる方法(特開平1-23063号公報)。
(3)環状シラン類を開環重合させる方法(特開平5-170913号公報)。
(4)ヒドロシラン類を遷移金属錯体触媒により脱水素縮重合させる方法(特公平7-17753号公報)。
(5)ジハロシラン類を室温以下の温度で電極還元してポリシランを製造する方法(特開平7-309953号公報)。
(6)ジハロシラン類にハロゲン化サマリウムおよびサマリウム金属を作用させることによりポリシランを製造する方法(特開2001-122972号公報)。
【0004】
これらの内、(1)の方法は、空気中で発火する金属ナトリウムを用いるため安全操作に問題があり、および分子量分布が多峰性になる等のポリマー物性上の問題を伴い、(2)および(3)の方法は、複雑なモノマーを合成する必要があるなど煩雑な操作を伴なうためモノマー合成からのトータルの収率が低く、重合にアルキルリチウム試薬が必要なので安全性に問題があるなどの難点がある。(4)の方法は、その反応機構上、分子量および得られたポリシランの構造(例えば、架橋構造が形成されるなど)に関して、未だ多くの改良すべき点がある。(5)の方法は、高分子量で高品質のポリシランが安全に且つ高収率で得られる優れた技術であるが、特殊な反応装置である電解槽を必要とする。そのため、高付加価値用途向けのポリシランの製造には適しているが、付加価値のあまり高くない用途向けのポリシランの製造には適した方法であるとはいい難い。
【0005】
一方、(6)の方法は、危険な試薬を用いることなく、安全で環境汚染の危険性の無い製造方法であるが、得られるポリシランの収率が低く(上記文献の実施例によれば、10.8%〜38.7%)、且つ、本発明者の確認によれば、分子量分布が広く(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比が約2以上)、所望のポリシラン物性値が得られないという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-023063号公報
【特許文献2】特開平5-170913号公報
【特許文献3】特公平7-017753号公報
【特許文献4】特開平7-309953号公報
【特許文献5】特開2001-122972号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,103(1981)7352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点を解決することにある。即ち、危険な試薬を用いることなく、安全で環境汚染の危険性の無いポリシランの製造方法において、分子量分布の狭いポリシランを収率よく製造し得る新たなポリシランの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の如き従来技術の現状に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことには、ジシランに2価のハロゲン化サマリウム(II)およびサマリウム(単体)の存在下、光を作用させて重合することにより、従来技術の問題点が解消されるか乃至は大幅に軽減されることに加えて、重合反応効率が極めて大きく向上することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリシランの製造方法であって、一般式(1):
(SiR (1)
(式中、mは1〜3であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12の(置換)ビニル基、炭素数6〜12の(置換)アリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12の(置換)アミノ基またはシリル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるジハロシランを、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在下、光を作用させて重合することにより、
一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランを形成させる、ポリシランの製造方法を提供するものである。
ここで、前記の(置換)とは、置換基を有してよい、との意である。
本発明で作用させる光は、波長に制限は無い。好ましくは可視光を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、危険な試薬を用いることなく安全で環境汚染の危険性の無いポリシランの製造方法により、狭い分子量分布を持ったポリシランを収率よく製造することができる。分子量分布が狭いポリシランは、光学材料に用いた場合に特異なサーモトロピック液晶性を示す(Liquid Crystals, 37, 1183-1190 (2010))。また、表面処理剤として均一な製膜性を示すことにより、均質な塗膜物性を提供できる。また、分子配向性が揃うことにより、安定なレジストや感光体の製造が可能になる。更に加えて、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在だけではジハロシランの重合が進行しないような比較的低温においても、高い反応収率でポリシランを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例3で得られたメチルフェニルポリシランの紫外−可視(UV-vis)スペクトル及び蛍光発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、出発原料として使用するジハロシランは、一般式(1):
(SiR (1)
(式中、mは1〜3であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12の(置換)ビニル基、炭素数6〜12の(置換)アリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12の(置換)アミノ基またはシリル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるジハロシランである。
【0014】
本発明で製造されるポリシランは、一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランである。
【0015】
本発明で製造されるポリシランは、狭い分子量分布を有する点が特徴であり、Mw/Mn=1.0〜1.5、好ましくは、1.0〜1.3の範囲にある。
【0016】
まず、出発原料のジハロシランについて説明する。本発明で用いるジハロシラン(1)式におけるmは1〜3であり、モノシラン、ジシランおよびトリシラン化合物から選ばれる。mは、好ましくは1または2であり、モノシランまたはジシラン化合物が好ましい。
【0017】
およびRの炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、2−メチルペンチル、n−ヘプチル、2−メチルヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、2−メチルオクチル、2−エチルヘプチル、n−デシル、2−メチルノニル、2−エチルオクチル、n−ウンデシル、2−エチルノニル、n−ドデシル等の、直鎖または分岐状のアルキル基が例示される。
これらの中でも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0018】
炭素数2〜12の(置換)ビニル基としては、ビニル、2−メチルビニル、2−エチルビニル、2−プロピルビニル、2−ブチルビニル、2−ペンチルビニル、2−ヘキシルビニル、2−ヘプチルビニル、2−オクチルビニル、2−ノニルビニル、2−デシルビニル等のビニル基または置換ビニル基が例示される。
これらの中でも、ビニル基および2−メチルビニル基が好ましい。
【0019】
炭素数6〜12の(置換)アリール基としては、フェニル基、o−、m−もしくはp−位に炭素数1〜6の鎖状もしくは分岐状アルキル基が置換したフェニル基、およびメチルもしくはエチル基が置換したナフチル基が例示される。置換基の炭素数1〜6のアルキル基としてはメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、2−メチルペンチル等のアルキル基が挙げられる。
【0020】
炭素数1〜12のアルコキシ基としては、上記炭素数1〜12のアルキル基にそれぞれ対応するアルコキシ基が例示される。この中でも、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。
【0021】
炭素数1〜12の(置換)アミノ基としては、アミノ基、ならびに、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、n−プロピルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、i−プロピルアミノ、メチル−i−プロピルアミノ、ジ−i−プロピルアミノ、n−ヘキシルアミノ、メチル−n−ヘキシルアミノ、ジ−n−ヘキシルアミノ、n−オクチルアミノおよび2−エチルヘキシルアミノ等のモノもしくはジ置換アルキルアミノ基が例示される。アミノ基および炭素数1〜6のアルキル基を有する置換アミノ基が好ましい。
【0022】
シリル基としては、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリ−i−プロピルシリル、ジメチルフェニルシリル、ジエチルフェニルシリル、メチルジフェニルシリル、エチルジフェニルシリル、メチルジトリルシリル、ジメチルトリルシリル、トリフェニルシリル、トリトリルシリル等のアルキルシリル基、アルキルアリールシリル基またはアリールシリル基、ならびに、これらのシリル基のオリゴマー、即ち、ケイ素数2〜10程度のオリゴシリル基が挙げられ、これらの中でもケイ素数1〜6のものが好ましい。
【0023】
は、ハロゲン原子(Cl、F、Br、I)を示す。ハロゲン原子としては、Clが好ましい。
【0024】
本発明において用いる一般式(1)で表されるジハロシランの好ましい具体例としては、ジメチルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン等のモノシラン化合物、1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラメチルジシラン、1,2−ジクロロ−1,2−ジメチル−1,2−ジフェニルジシラン、1,2−ジクロロ−1,1−ジメチル−2,2−ジフェニルジシラン等のジシラン化合物、ならびに、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3,3−ヘキサメチルトリシラン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2−テトラメチル−3,3−ジフェニルトリシラン等のトリシラン化合物などが挙げられる。
【0025】
本発明においては、一般式(1)で表されるジハロシランの1種を単独で使用してもよく、または2種を混合使用してもよい。ジハロシランは、できるだけ高純度のものであることが好ましい。例えば、液体のジハロシランについては、水素化カルシウムにより乾燥し、蒸留して使用することが好ましく、また、固体のジハロシランについては、再結晶法により精製し、使用することが好ましい。
【0026】
重合反応に際しては、ジハロシランを溶媒に溶解して使用する。溶媒としては、活性水素を有さない溶媒が使用でき、より具体的には、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)等のジアルキルセロソルブ系の溶剤、ジエチルエーテル、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル系溶剤等の他、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、塩化メチレン、トルエン、キシレン、ベンゼン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサンなどが例示される。これらの溶媒は、単独でも、或いは2種以上の混合物としても使用できる。これらの中で1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)が好ましく、1,2−ジメトキシエタン(DME)がより好ましい。
【0027】
溶媒中のジハロシランの濃度は、低すぎる場合には、重合が効率よく行われないのに対し、高すぎる場合には、反応に使用する還元剤金属(サマリウム)が多くなりすぎて攪拌が困難になることがある。従って、溶媒中のジハロシランの濃度は、通常0.05〜20mol/L程度であり、好ましくは0.05〜15mol/L程度であり、より好ましくは0.1〜13mol/L程度である。
【0028】
本発明において使用する2価のハロゲン化サマリウム(II)としては、例えば、SmIおよびSmBrが挙げられるが、SmIが好ましい。
ハロゲン化サマリウム(II)及びサマリウムは、SmX(式中、Xはハロゲンを表す。)+Sm(単体)を使用してもよいし、量論量以上の金属サマリウム(Sm:サマリウム単体)と1,2−ジハロエタンとを反応させて、生成するハロゲン化サマリウムと金属サマリウムが併存するものをそのまま使用してもよい。例えば、Xがヨウ素(I)の場合で説明すると、式(5):
Sm(単体・過剰量)+1,2−ジヨードエタン=Sm(単体・未反応量)+SmI(生成量) (5)
に従って生成するSm(単体・未反応量)+SmIの混合物を用いてもよい。
【0029】
式(5)に用いる1,2−ジハロエタンとしては、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタンまたはそれらの混合物が使用でき、好ましくは1,2−ジヨードエタンであり、または1,2−ジヨードエタンと1,2−ジブロモエタンの混合物である。
【0030】
本発明は、その重合反応機構に囚われるものではないが、2価のハロゲン化サマリウム(II)の作用機構は以下のように推定される。即ち、2価のハロゲン化サマリウム(II)が、一般式(1)で表されるジハロシランを還元して、ハロゲン末端ポリシランを形成させる(所謂、「還元的カップリング重合反応」)とともに、それ自身は酸化されて、3価のハロゲン化サマリウム(III)を形成すると考えられる。
【0031】
ハロゲン化サマリウム(II)の使用量は、ジハロシラン1molに対して通常0.01〜20molであり、好ましくは0.05〜10molであり、より好ましくは0.1〜3molである。
【0032】
本発明において使用するサマリウム(金属サマリウム)の形状は、反応を行いうる限り特に限定されないが、粉体、粒状体、リボン状体、切削片状体、塊状体、棒状体、平板などが例示され、これらの中でも、表面積の大きい粉体、粒状体、リボン状体、切削片状体などが好ましい。サマリウムの使用量は、ジハロシラン1molに対して通常0.1〜10molであり、好ましくは1〜7molである。
【0033】
本発明は、その重合反応機構に囚われるものではないが、サマリウムは、2価のハロゲン化サマリウム(II)がジハロシランを還元してポリシランを形成させる際に生成する3価のハロゲン化サマリウム(III)を還元して、2価のハロゲン化サマリウム(II)を再生させると同時に、それ自身は酸化されて2価のハロゲン化サマリウム(II)を生成すると推定される。また、サマリウムは、2価のハロゲン化サマリウム(II)を還元して、より還元力の強い1価のハロゲン化サマリウム(I)を生成させると同時に、それ自身は酸化されて、1価のハロゲン化サマリウム(I)を生成すると推定される。
【0034】
本発明では、ジハロシランを、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在下、光を作用させて重合することにより、
一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランを形成させる。
本発明の重合機構は、上記と同様に還元的カップリング重合反応であると推定される。光の作用は、以下に述べるように、ハロゲン化サマリウム(II価)の還元的カップリング重合反応を促進しているものと推察されるが、本発明はこれらの機構に左右されるものではない。
【0035】
本発明で用いる光は、その波長に格段の制限は無く、可視光を使用できることも特徴の1つである。また、広範な波長範囲の光、例えば太陽光の利用も可能である。
本発明は、その重合機構に囚われるものではないが、光の作用機構は以下のように推定される。即ち、光がハロゲン化サマリウム(II価)の還元力を高めることによって、ジハロシランの還元的カップリング重合反応を促進しているものと推定される。この結果、後の実施例で示す様に、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在だけでは重合反応が実質的に進行しないような低温においても、光照射により極めて高いポリシラン収率を得ることができるという素晴らしい効果を発揮する。この効果は更に、低温反応が可能であるが故に、高温反応に伴う連鎖移動等の副反応の生起が抑えられ、結果として、狭い分子量分布を有するポリシランが得られたものと推定される。
【0036】
本発明は、上述のとおり、ジハロシランを、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在下、光を作用させて重合することにより、
一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランを製造する方法を提供するものである。式(2)に於いて、ポリシラン末端は特定されていないが、末端は重合反応後の後処理により種々の形態をとり得ることから、本発明はポリシランの末端を何ら限定するものではない。
本発明において、還元的カップリング重合反応で直接的に得られるポリシランは、前述のとおり、式(3):
−((SiR−X (3)
(式中、X、R、R、mおよびnは前記と同義である。)
で表される末端ハロゲン型のポリシラン(3)である。
重合反応終了後、反応液に活性水素を有する化合物を添加して反応を停止し、後処理を行う。活性水素化合物としては低級アルコール、低級カルボン酸、または1級アミン等が使用される。例えば、低級アルコールの場合で説明すれば、ROH(Rは、炭素数1〜4程度のアルキル基を表す。)で表される低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等)を重合反応後に添加して反応を停止し、後処理する。この場合、最終的に得られるポリシランは、式(4):
O−((SiR−OR (4)
(式中、R、R、R、mおよびnは前記と同義である。)で表される末端アルコキシ型ポリシラン(4)である。
【0037】
光照射重合反応は、光照射部、不活性ガス(窒素など)注入部、撹拌器および冷却水循環部を備えた密封可能なガラス反応槽を用いて行う。光源には通常の光源(例えば、Xeランプ)を用い、必要に応じてカラーフィルタにより、所定波長以下の光をカットして、反応の波長依存性を検討する。
反応温度は通常、−20℃〜溶媒の沸点程度までの温度範囲にあり、好ましくは0℃〜150℃、より好ましくは、10℃〜100℃、例えば40℃である。ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在だけでは実質的に重合が進行しないか極めて重合速度が遅い様な比較的低温でも、本発明の光照射系ではジハロシランの重合が高収率で進行することは、光がハロゲン化サマリウム(II価)の触媒活性を大きく高めていることを示唆している。本発明の光照射系で狭い分子量分布のポリシランが得られることは、比較的低温での重合での重合反応の選択性が高いことを示唆している。即ち、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在だけでジハロシランの重合を起こすためには比較的高温が要求されるが、その場合には、連鎖移動反応等の副反応が生起するために、分子量分布が広がるものと推察される。勿論、本発明は、これらの反応機構の当否に左右されるものではない。
【0038】
光照射重合反応は、例えば、前述の密閉可能な反応容器に、一般式(1)で表されるジハロシラン、2価のハロゲン化サマリウム(II)及びサマリウムを溶媒とともに添加し、好ましくは機械的(例えば、電磁攪拌機など)もしくは磁気的(例えば、マグネチック回転子など)に撹拌しつつ、光照射下、重合反応を行わせる方法により行うことができる。反応容器は、密閉できる限り、形状および構造についての制限は特にない。反応容器内は、乾燥した窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0039】
反応時間は、原料ジハロシラン、2価のハロゲン化サマリウム(II)、サマリウムの量、光照射強度等によって変化し得るが、30分程度以上であり、通常1時間〜2日間程度、例えば、1時間〜24時間程度である。所望の重合収率が得られた時点で反応を停止する。反応の停止には、前述のとおり、活性水素含有化合物を添加混合する。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
冷却部及び滴下ロートを備えた20ml二口ナスフラスコを窒素置換後、ヒートガンでフレーム乾燥した。このフラスコへ、粉体の金属サマリウム600mg (4mmol)および1,2−ジヨードエタン280mg(1mmol)を加え、攪拌しながら真空乾燥した。アルゴン置換した後、Na-ベンゾフェノンケチルから蒸留した新鮮な1,2−ジメトキシエタン10mlを加えて室温で1時間攪拌した。この間、反応液は青紫色の懸濁液になった。この懸濁液中には、サマリウムおよびヨウ化サマリウム(II)が含まれていた。Sm/SmI2=3/1(モル比)である。このフラスコ中へ、メチルフェニルジクロロシラン191mg(1mmol)をアルゴン雰囲気下に加え、Xeランプ(出力:500W/hr.;波長範囲=300nm〜800nm)からの光をフィルターで315nm以下をカットして>315nmの波長範囲とした光を照射しながら、攪拌下、40℃で6時間反応した。波長のカットに用いたフィルターは、旭テクノグラス製の「色ガラスフィルター」である。
【0042】
反応液を室温まで冷却した後、エタノール2.5mlを加えて反応を停止させ、この反応液を1.5mol/L塩酸水溶液15ml中へ加えて未反応のサマリウムを溶解させた。これをメチルtert-ブチルエーテル20mlで3回抽出し、これらの有機層を合わせて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30ml、飽和塩化ナトリウム水溶液30ml、次いで水30mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去した後、得られた粗ポリシランをテトラヒドロフラン1mlに溶かし、エタノール50mlの中に滴下した。生成した沈殿を濾過した後、エタノール50mlで洗浄した。
【0043】
得られた白色粉末を真空乾燥することにより、メチルフェニルポリシランが収率66%で得られた。テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は2,300(平均重合度(n)≒19)、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比:Mw/Mn)は、1.1であった。
【0044】
実施例2〜6
Xeランプからの光をフィルターで、所定波長以下の光をカットして、それぞれ表1に示す所定波長以上の波長範囲とした光を照射しながら、実施例1と同様の条件で重合及び後処理を行った(実施例2〜6)。得られた結果を、実施例1の結果と共に表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1
Xeランプからの光を照射しない以外は、実施例1と同一に反応および後処理を行った。メチルフェニルポリシランの収率=0%であった。この結果を表1に示した。
【0047】
比較例2
Xeランプからの光を照射せずに、実施例1と同様の仕込み条件で、90℃の浴温で24時間還流反応し、同様の後処理を行った。得られたメチルフェニルポリシランの収率=78%、Mn=600(n≒5)、Mw/Mn=2.1であった。これらの結果を表1に示した。
【0048】
表1の結果から、40℃程度の比較的低温では、光照射なしでは重合速度が極めて遅いか、もしくは、実質的に重合反応が生起しないことが明らかになった(比較例 1)。光の促進効果は非常に際立っている。また、光照射なしで高温重合の場合(比較例 2)に対比して、光照射による重合では、得られたポリシランの分子量分布が狭く、単分散(Mw/Mn=1)に近いポリシランが得られたことが判る。また、分子量も、光照射により大幅に増加した。更に、照射する光の波長は可視光領域で十分であり、且つ、その範囲では重合により得られるポリシランの特性(狭い分子量分布および高い分子量等)が変わらないことが判った。
【0049】
実施例7
実施例3で得られたメチルフェニルポリシランのUV-visスペクトルを測定したところ、ポリシランに由来する吸収ピークが見られた(λmax=317nm)。また、蛍光スペクトルについても、λem=351nmにポリシラン由来の大きな発光が見られたことから、光照射下においてもSi-Si結合形成が良好に進行していることが明らかである(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法は、セラミックス前駆体、フォトレジスト、有機感光体、光導波路、光メモリなどの光・電子材料などに用いられるポリシランの製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシランの製造方法であって、一般式(1):
(SiR (1)
(式中、mは1〜3であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12の(置換)ビニル基、炭素数6〜12の(置換)アリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12の(置換)アミノ基またはシリル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるジハロシランを、ハロゲン化サマリウム(II価)およびサマリウムの存在下、光を作用させて重合することにより、
一般式(2):
−((SiR− (2)
(式中、nは2〜1000であり、m、RおよびRは前記と同義である。)
で表されるポリシランを形成させる、ポリシランの製造方法。
【請求項2】
ポリシランの分子量分布が1.0〜1.5の範囲にある、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
光が可視光である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化サマリウム(II)がヨウ化サマリウム(II)である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43932(P2013−43932A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182176(P2011−182176)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】