説明

ポリシリルカルボジイミド化合物およびその製造方法

【課題】ポリ乳酸の湿熱安定剤として有用な新規ポリシリルカルボジイミド化合物を提供する。
【解決手段】カルボジイミド基の窒素原子が、シリル原子により結合されている特定構造を重合度1〜20のくり返し単位で有し、末端に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはエステル基あるいはエーテル基で封止されているポリシリルカルボジイミド化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシリルカルボジイミド化合物に関する。さらに詳しくは、ポリ乳酸の耐加水分解安定剤として有用なポリシリルカルボジイミド化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の目的から自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。ポリ乳酸は、生体由来の原料から得られる乳酸あるいはその誘導体を原料とするため生体安全性が高く、環境にやさしい高分子材料である。そのため汎用ポリマーとしての利用が検討され、延伸フィルム、繊維、射出成形品等としての利用が検討されている。
しかしながらポリ乳酸は、湿度により分解されやすいため、例えば溶融状態においては溶融粘度の低下が大きく、また固体状態においてはいわゆる耐湿熱安定性が悪く、さらに結晶化速度が遅いため、結晶化させて成形品として用いるにも成形性に限界があった。
ポリ乳酸の成形性を改良するため、結晶化を促進する結晶化核剤を添加する方法が提案されている(特許文献1)。また、有機、無機フィラーを添加する方法が提案されている(特許文献2)。これらの提案によれば、結晶化速度自体の向上にはある程度の改良は見られているが耐湿熱安定性は依然低いままであり問題の本質的解決には程遠いのが実情である。
【0003】
一方、L−乳酸単位からなるポリL−乳酸(以下PLLAと略称することがある。)とD−乳酸単位からなるポリD−乳酸(以下PDLAと略称することがある。)を溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されることが知られている(特許文献3および非特許文献1)。このステレオコンプレックスポリ乳酸は、結晶融解温度が200〜230℃とPLLAやPDLAに比べて高融点であり且つ高結晶性を示す興味深い現象が発見されている。
しかしながらステレオコンプレックスポリ乳酸の形成は容易ではなく、とりわけPLLAやPDLAの重量平均分子量が15万を超えるとその困難さはいっそう顕著となる(特許文献3)。即ち、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、通常、単一相を示すことはなく、PLLA相およびPDLA相(以下ホモ相と呼ぶことがある。)とポリ乳酸ステレオコンプレックス相(以下コンプレックス相と呼ぶことがある。)の混合相組成物となる。この混合組成物において、コンプレックス相の割合が少ないとステレオコンプレックスポリ乳酸本来の耐熱性を発揮することが困難である。またステレオコンプレックスポリ乳酸もポリ乳酸ホモポリマーと同様、脂肪族ポリエステルの特徴として、湿度により加水分解を受けやすい欠点を有しており、この問題は依然未解決で残っている。
【0004】
ポリ乳酸あるいはステレオコンプレックスポリ乳酸の耐湿熱安定性の改良に対しては、カルボジイミド化合物によるカルボキシル基の封止による耐湿熱安定性の向上が提案されている(特許文献4および5)。しかしこれらの提案では樹脂中に練りこまれたカルボジイミド化合物は、溶融成形時、熱分解して樹脂の色相を悪化させることがある。カルボジイミド化合物は%オーダーと比較的多量に樹脂に配合する必要があるため、溶融時、樹脂の色相を顕著に悪化することがある。例えば上記文献によると、カルボジイミドを添加しない場合のポリ乳酸延伸糸のカラーb*値は1.7であるのに対し、カルボジイミドを添加した場合、3.5程度と極端に悪化している。
加えてカルボジイミド化合物は溶融成形時、熱分解して成形品が着色するとともに悪臭を発生して作業環境を悪化させる問題があることもまた明らかとなり、取り分け作業環境悪化の問題は早急な解決が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−192884号公報
【特許文献2】特開2005−2174号公報
【特許文献3】特開昭63−241024号公報
【特許文献4】特開2004−332166号公報
【特許文献5】特開2005−350829号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules,24,5651(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリ乳酸、とりわけステレオコンプレックスポリ乳酸の湿熱安定剤として有用な新規ポリシリルカルボジイミド化合物を提供することにある。また本発明の目的は、ポリ乳酸に含有させたとき、色相良好で耐湿熱安定性に優れた組成物となるポリシリルカルボジイミド化合物を提供することにある。また本発明の目的は、悪臭により作業環境を悪化させることのないポリシリルカルボジイミド化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究をかさねた結果、カルボジイミド基の窒素原子がシリル原子により結合され特定構造を有するポリシリルカルボジイミド化合物が、ポリ乳酸の湿熱安定剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、主として下記式(i)で表される繰り返し単位よりなり、重合度が1〜20で、末端にXまたは下記式(ii)で表される置換基を有するポリシリルカルボジイミド化合物である。
【0009】
【化1】

【0010】
(R〜Rは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。XおよびYは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基である。)
また本発明は、(1)下記式(iii)で表されるビストリアルキルシリルカルボジイミドと、下記式(iv)で表されるジハロシリル化合物とを反応させ、下記式(v)で表されるプレポリマーを製造する工程、および
【0011】
【化2】

【0012】
(式(iii)中、Rは各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0013】
【化3】

【0014】
(式(iv)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Qは各々独立に、ハロゲン原子である。)
【0015】
【化4】

【0016】
(式(v)中、R、RおよびQは式(iv)と同じである。)
(2)得られたプレポリマーと下記式(vi)
【0017】
【化5】

(式(vi)中、Xは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。)
で表される化合物を反応させる工程、
からなる前記化合物の製造方法である。
【0018】
また本発明は、(1)下記式(iii)で表されるビストリアルキルシリルカルボジイミドと、下記式(iv)で表されるジハロシリル化合物とを反応させ、式(v)で表されるプレポリマーを製造する工程、および
【0019】
【化6】

【0020】
(式(iii)中、Rは各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0021】
【化7】

【0022】
(式(iv)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Qは各々独立に、ハロゲン原子である。)
【0023】
【化8】

【0024】
(式(v)中、R、RおよびQは式(iv)と同じである。)
(2)得られたプレポリマーと下記式(vii)
【0025】
【化9】

【0026】
(式(vii)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Yは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基である。Qはハロゲン原子である。)
で表される化合物を反応させる工程、
からなる前記化合物の製造方法である。
【0027】
また本発明は、前記ポリシリルカルボジイミド化合物をポリ乳酸の耐加水分解安定剤として使用する方法を包含する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸、とりわけステレオコンプレックスポリ乳酸の湿熱安定性を向上させることができる。また本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸に含有させると色相が良好な樹脂組成物となる。また本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、悪臭により作業環境を悪化させることがない。本発明の製造方法によれば、前記リシリルカルボジイミド化合物を効率的に製造することができる。また本発明の耐加水分解安定剤として使用する方法によれば、ポリ乳酸の加水分解安定を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、主として下記式(i)で表される繰り返し単位よりなり、重合度が1〜20で、末端にXまたは式(ii)で表される置換基を有する。
【0030】
【化10】

【0031】
式中、R〜Rは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。
【0032】
〜Rの炭素数1〜20のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i‐プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、t−アミル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オレイル基等が例示される。炭素数5〜20のシクロアルキル基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、デカリル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、2,6−ジ−t−ブチルシクロヘキシル基等が例示される。炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、キシリル基、トリル基、4−t−ブチルフェニル基、2,6−ジ−t−ブチルフェニル基、ドデシルフェニル基、1−ナフチル基等が例示される。また炭素数7〜20のアラルキル基として、ベンジル基、4−t−ブチルベンジル基、2,6−ジ−t−ブチルベンジル基、ドデシルベンジル基等が例示される。
【0033】
X、Yは各々独立に炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基である。
XおよびYにおいて炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基としては、R〜Rにおいて例示した置換基が好適に例示される。
【0034】
炭素数1〜20のアルキルオキシ基として、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、t−アミルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、オレイルオキシ基等が例示される。炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基として、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシオキシ基、デカリルオキシ基、2,4−ジメチルシクロヘキシルオキシ基等が例示される。
炭素数6〜20のアリールオキシ基として、フェニルオキシ基、キシリルオキシ基、トリルオキシ基、4−t−ブチルフェニルオキシ基、ドデシルフェニルオキシ基、2,6−ジ−t−ブチルフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基等が例示される。炭素数7〜20のアラルキルオキシ基として、ベンジルオキシ基、4−t−ブチルベンジルオキシ基、2,6−ジ−t−ブチルベンジルオキシ基、ドデシルベンジルオキシ基等が例示される。アラルキルオキシ基として末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基として、重合度5〜100の末端メトキシ化ポリエチレンオキシ基、末端アセトキシ化ポリエチレンオキシ基、末端エトキシ化ポリテトラメチレンオキシ基、末端ブトキシ化ポリプロピレンオキシ基等が例示される。
ポリ乳酸への適用の好適性の観点より、本発明の化合物の重合度は1〜20の範囲が選択される。重合度が20を超えてもポリ乳酸の耐加水分解性を向上させることができるが、重合度が20を超えるとポリ乳酸との相溶性が低くなり、樹脂組成物がにごる懸念がある。またプレポリマーの製造効率より、重合度は、好ましくは2〜20、より好ましくは4〜18、さらに好ましくは6〜14、とりわけ好ましくは6〜12の範囲である。
【0035】
本発明の化合物中の式(i)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%である。
本発明の化合物中のトリメチルシリル基の含有量は、0.1〜1000ppmであることが好ましい。トリメチルシリル基は、式(ii)において、R、RおよびYが各々メチル基である置換基である。
本発明の化合物中の加水分解性ハロゲン含有量は、0.01〜100ppmであることが好ましい。
本発明の化合物の熱重量分析(TGA)測定による5%重量減少温度は、300℃以上であることが好ましい。5%熱減量温度を300℃以上であるとポリ乳酸に適用したとき、悪臭による作業環境の悪化を抑制することができる。
【0036】
本発明の化合物は、悪臭による作業環境の悪化が好適に抑制され、樹脂色相の悪化も少なく、ポリ乳酸の耐加水分解安定剤として好適に使用することができる。本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸、とりわけ、ポリL−およびポリD−乳酸よりなり、示差走査熱量計により結晶融解温度が200℃以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸に適用したとき、作業環境の悪化が抑制され、色相良好で、安定性の向上したポリ乳酸組成物を有効に与える。
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸に適用したとき、悪臭による作業環境の悪化を抑制するため、さらに5%熱減量温度を300℃以上により好適に高めるため、式(i)および(ii)において、RおよびRの炭素数の合計が10以上であり、RおよびRの炭素数の合計が10以上であることが好ましい。
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸に適用したとき、悪臭等による作業環境の悪化をより一層好ましく抑制するため、さらに5%熱減量温度を310℃以上に高めるため、また式(i)および(ii)において、R、RおよびXの炭素数の合計が15以上であり、R、RおよびYの炭素数の合計が15以上であることが好ましい。
【0037】
〈ポリシリルカルボジイミド化合物の製造方法〉
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物は、式(v)で表されるハロゲン化ポリシリルカルボジイミド(プレポリマー)を製造する工程(I)、得られたプレポリマーのハロゲン原子をXまたは式(ii)で表される置換基で置換する工程(II)、により製造することができる。
【0038】
(工程(I):プレポリマーの製造)
ハロゲン化ポリシリルカルボジイミド(プレポリマー)は、下記のように、式(iii)で表されるビストリアルキルシリルカルボジイミド(A)と、式(iv)で表されるジハロシリル化合物(B)とを反応させることによって製造する。
【0039】
【化11】

【0040】
式(iii)中のRは、各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。アルキル基として、メチル基、エチル基等が挙げられる。式(iii)の化合物として、ビストリメチルシリルカルボジイミドが好ましい。
式(iv)中のQは、各々独立にハロゲン原子である。ハロゲン原子として、フッソ原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。式(iv)の化合物として、ジ塩化シリル化合物が好ましい。RおよびRは、式(i)と同じであり、各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。式(v)中のQ、RおよびRは、式(iv)と同じである。
【0041】
プレポリマーの重合度は(A):(B)のモル比を適宜設定することにより、所望の範囲とすることが可能である。重合度を18〜22程度にするには(A):(B)は1:1に近い範囲が、重合度8〜12程度とするには1:1.1〜1.2の範囲が、重合度を1に近い範囲とするときは、(A):(B)は1:2〜5の範囲が好適に選択される。
前述の量比で混合された(A)成分と(B)成分は、攪拌装置、温度計、留出管、真空配管の設置された反応槽に仕込み、常圧条件下、140〜170℃で2〜3時間、攪拌反応させ、生成する塩化トリメチルシランを留去する。理論量の50〜90%の塩化トリメチルシランが留去された時点で、反応槽内の減圧度を徐々に高め、さらに3〜10時間反応させる。減圧度は通常0.1〜10kPaが適用される。反応時間、反応温度は(B)成分の構造により適宜変更して適用される。
【0042】
(工程(II):置換工程、第一の方法)
工程(II)は、得られたプレポリマーと下記式(vi)
【0043】
【化12】

【0044】
(式(vi)中、Xは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。)
で表される化合物を反応させ、プレポリマーの両末端のハロゲンを炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基に置換して本発明のポリシリルカルボジイミド化合物を得る工程である。
【0045】
反応は以下のように行うことができる。プレポリマーを溶媒に溶解し、式(vi)で表されるヒドロキシ化合物と混合し、室温〜200℃程度の温度で反応させる。このとき系内が完全に液相になり、さらに、系内が前述のプレポリマーおよびポリシリルカルボジイミド含有層と、前述のヒドロキシ化合物含有層とが2相に分離した2相分離状態で反応させる。これにより効果的にハロゲンを前述の官能基に変換できるとともに、ポリシリルカルボジイミド化合物中ハロゲン等の不純物を好適に除去でき、耐熱性を高め、熱重量分析において、5%減量開始温度を300℃以上に高めることができる。
かかる2相分離状態を実現するため、溶媒としては、沸点が30〜150℃、より好適には、50〜120℃の線状または環状エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、脂肪族ケトン類、低級炭化水素類等が使用できる。
これらの溶媒としては例えばジエチルエーテル、ジブチルエーテル、THF等、クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエタン等、たとえばアセトン、MEK等、シクロヘキサン、オクタン等の溶媒が好適に選択される。なかでも反応性、製品の純度向上の観点よりTHF、アセトン、MEK、シクロヘキサン等が好適に選択される。
プレポリマーのハロゲン元素を前述のヒドロキシル化合物で、効率的に置換するため、ハロゲン/ヒドロキシル化合物のモル比は1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3〜20、より好ましくは5〜10の範囲が選択される。さらに完全に置換して、残存ハロゲン量を100ppmpp以下とするため反応時間は、適宜残存ハロゲン量をチェックして、設定するのが好ましい。
【0046】
(工程(II):置換工程、第二の方法)
置換工程の第二の方法として、プレポリマーの両末端のハロゲンを式(ii)の置換基に変換するため、式(vii)で表されるモノハロシリル化合物(C)と反応させてもよい。即ち、得られたプレポリマーと下記式(vii)
【0047】
【化13】

【0048】
(式(vii)中、R、RおよびYは、式(ii)と同じである。Qはハロゲン原子である。)
で表される化合物を反応させてもよい。
【0049】
第二の方法において、プレポリマーとモノハロシリル化合物(C)との反応はプレポリマー製造の条件に準じて実施することができる。ただしこのときは反応溶媒として、第一の方法で例示した溶媒を適用することが好ましい。
第一および/または第二の方法で製造したポリシリルカルボジイミド化合物のトリメチルシリル基含有量、ハロゲン含有量をさらに低下させるため、両方法を組み合わせて適用することも好適な実施態様として例示できる。このときまず、第一の方法でポリシリルカルボジイミド化合物を製造し、ついで第二の方法を適用することが好ましい。
【0050】
本発明のポリシリルカルボジイミド化合物をポリ乳酸に適用したとき、含有ハロゲン元素は次第にハロゲン化水素に変換され、ポリ乳酸の耐加水分解反応を触媒することとなるため、ハロゲン含有量を100ppm以下に低減することは本発明のキーポイントであるが、0.01ppm以下に低減するためには、上記操作を繰り返す等の複雑な操作が必要となる。
さらにかかる方法を適用することにより本発明のポリシリルカルボジイミド化合物において、式(ii)於けるR、RおよびYが各々メチル基であるトリメチルシリル基の含有量を好適に0.1〜1000ppmに低減することができる。トリメチルシリル基がかかる範囲を超えて、多量に存在すると、ポリ乳酸に適用したとき、悪臭発生が顕著となりことがあるためである。
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0051】
実施例において使用する、NMRおよびIRおよびハロゲン分析は以下の方法により実施した。本願発明および実施例で用いた評価法をまず説明する。
【0052】
(1)ポリシリルカルボジイミド化合物の平均重合度(n)
ポリシリルカルボジイミド化合物の平均重合度(n)は、H−NMRにより末端のSiに結合したR(R〜R)、X、Y由来のピークと繰り返し単位中のSiに結合したR、Rの積分比より定量した。NMRは日本電子(株)製JNR−EX270を使用した。溶媒は重クロロホルムを用いた。
(2)ポリシリルカルボジイミド化合物中のカルボジイミド骨格の有無
ポリシリルカルボジイミド化合物中のカルボジイミド骨格の有無は、FT−IRによりカルボジイミドに特徴的な2100〜2200cm−1の確認を行った。FT−IRはサーモニコレー製Magna−750を使用した。
(3)ポリシリルカルボジイミド化合物中のトリメチルシリル基含有量
ポリシリルカルボジイミド化合物中のトリメチルシリル基含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計により定量した。ガスクロマトグラフ質量分析計は横河アナリティカル(株)製HP5973を使用した。
(4)ポリシリルカルボジイミド化合物中のハロゲン含有量
ポリシリルカルボジイミド化合物中のハロゲン含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計により定量した。ガスクロマトグラフ質量分析計は横河アナリティカル(株)製HP5973を使用した。
【0053】
(製造例1)プレポリマー;PPM−1−(10)
ビストリメチルシリルカルボジイミド(A)(10.25重量部、0.055モル)とジフェニルジクロロシラン(B)(12.66重量部、0.05モル)とを温度計、攪拌装置、蒸留装置および加熱装置を設置した反応装置に仕込み、155〜160℃で、トリメチルクロロシランが(10、7重量部、0.099モル)留出するまで、2.5時間反応させた。さらに同温度で、減圧度を0.67kPaに強化して、3時間反応させ、ゴム状プレポリマーを製造した。H−NMRおよびIR、ハロゲン含有量分析より平均重合度は10であった。
【0054】
(製造例2〜3)プレポリマー;PPM−1−(18),PPM−1−(5)
製造例1において(A)と(B)のモル比を1:1.01(製造例2)、1:1.3
【0055】
(製造例3)それぞれ平均重合度18および5のプレポリマーPPM−1−(18),PPM‐1−(5)を製造した。
【0056】
(製造例4〜5)プレポリマー;PPM−2−(9),PPM−3−(11)
製造例1においてジフェニルジクロロシランを、メチルオクタデシルジクロロシラン(製造例4;PPM−2−(9)),シクロヘキシルメチルジクロロシラン(製造例5;PPM−3−(11))にかえ、各々平均重合度9および11のプレポリマー;PPM−2−(9),PPM−3−(11)を製造した。
【0057】
(実施例1)
製造例1で製造したPPM−1−(10)0.5重量部を、THF5重量部に溶解し、ステアリルアルコール10重量部と混合し、製造例1で使用した反応装置に仕込み、100℃で10時間反応させた。反応後、下相のポリシリルカルボジイミド化合物含有層を取り出し、クロロホルムに溶解、純水で中性になるまで洗浄した。
ポリシリルカルボジイミドのクロロホルム溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を真空留去して、ハロゲン含有量10ppm、トリメチルシリル基含有量50ppmであり、式(i)において、R〜Rがフェニル基、X、Yがステアリルオキシ基である平均重合度10のポリシリルカルボジイミド−1−(10)が得られた。
該ポリシリルカルボジイミド0.5重量部と重量平均分子量15万のポリL−乳酸、50重量部、ポリD−乳酸50重量部、と(株)ADEKA製「アデカスタブ」NA−11、0.3重量部を260℃で溶融混合したところ、特別悪臭の発生も認められず、示差走査熱量計により220℃にステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶融解ピークを有し、色調は、ポリシリルカルボジイミドを添加しなかった場合と同様のポリ乳酸組成物を得た。
【0058】
また、120℃、100%RHにて2時間プレッシャークッカー中処理したときの還元粘度保持率は96%であった。ここで、還元粘度(ηsp/c)の測定は試料1.2mgを〔テトラクロロエタン/フェノール=(6/4)wt混合溶媒〕100mlに溶解、35℃でウベローデ粘度管を使用して測定した。
他方本発明のポリシリルカルボジイミドに換え、日清紡績(株)製のシクロヘキサン系ポリカルボジイミド(商品名「カルボジライト」LA−1)を使用して、ポリ乳酸組成物を形成したところ、強い悪臭が発生し、ポリ乳酸組成物も黄色に着色した。
また、120℃、100%RHにて2時間プレッシャークッカー中処理したときの還元粘度保持率は97%であった。
【0059】
(実施例2〜3)
製造例2,3のプレポリマーを実施例1と同様に処理して、各々クロロ含有量11ppm、トリメチルシリル基含有量45ppmのポリシリルカルボジイミド−1−(18)、ポリシリルカルボジイミド−1−(5)を製造した。
【0060】
(実施例4〜5)
製造例4,5のプレポリマー;PPM−2−(9),PPM−3−(11)を使用して、ヒドロキシ化合物として、フェノールおよびイソプロピルアルコールを使用して、実施例1と同様にして、実施例4においては反応温度を50℃に変更して、RおよびRがメチル基、RおよびRがオクタデシル基、XおよびYがフェノキシ基であり、平均重合度が9のポリシリルカルボジイミド−2−(9)を製造した(実施例4)、RおよびRがメチル基、RおよびRがシクロヘキシル基、XおよびYがイソプロポキシ基であり、平均重合度が11のポリシリルカルボジイミド−3−(11)を製造した(実施例5)。
【0061】
(実施例6)
製造例1で製造したプレポリマーPPM−1−(10)1重量部、塩化ジメチルドデシルシラン0.5重量と100℃で24時間反応させた。反応混合物をクロロホルムに溶解、純水で中性になるまで洗浄した。
ポリシリルカルボジイミドのクロロホルム溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を真空留去して、ハロゲン含有量10ppm、トリメチルシリル基含有量10ppmであり、式(i)において、RおよびRがフェニル基、Xがジメチルドデシルシリル基,RおよびRがメチル基、Yがドデシル基である平均重合度10のポリシリルカルボジイミド−11−(10)が得られた。
【0062】
(実施例7)
実施例1のポリシリルカルボジイミド−1−(10)1重量部と塩化ジメチルドデシルシラン0.5重量と100℃で24時間反応させた。反応混合物をクロロホルムに溶解、純水で中性にあるまで洗浄した。
ポリシリルカルボジイミドのクロロホルム溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を真空留去して、ハロゲン含有量5ppm、トリメチルシリル基含有量8ppmであり、式(i)において、RおよびRがフェニル基、Xがジメチルドデシルシリル基,RおよびRがメチル基、Yがドデシル基である平均重合度10のポリシリルカルボジイミド−12−(10)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明ポリシリルカルボジイミド化合物はポリ乳酸の耐加水分解安定性の向上に好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として下記式(i)で表される繰り返し単位よりなり、重合度が1〜20で、末端にXまたは下記式(ii)で表される置換基を有するポリシリルカルボジイミド化合物。
【化1】

(R〜Rは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。XおよびYは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20の炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基である。)
【請求項2】
式(i)および(ii)において、RおよびRの炭素数の合計が10以上であり、RおよびRの炭素数の合計が10以上である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(i)および(ii)において、R、RおよびXの炭素数の合計が15以上であり、R、RおよびYの炭素数の合計が15以上である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
重合度が6〜12である請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
トリメチルシリル基の含有量が0.1〜1000ppmである請求項1〜4の何れか一項に記載の化合物。
【請求項6】
加水分解性ハロゲン含有量が0.01〜100ppmである請求項1〜5の何れか一項に記載の化合物。
【請求項7】
(1)下記式(iii)で表されるビストリアルキルシリルカルボジイミドと、下記式(iv)で表されるジハロシリル化合物とを反応させ、下記式(v)で表されるプレポリマーを製造する工程、および
【化2】

(式(iii)中、Rは各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。)
【化3】

(式(iv)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Qは各々独立に、ハロゲン原子である。)
【化4】

(式(v)中、R、RおよびQは式(iv)と同じである。)
(2)得られたプレポリマーと下記式(vi)
【化5】

(式(vi)中、Xは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。)
で表される化合物を反応させる工程、
からなる請求項1〜6の何れか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
(1)下記式(iii)で表されるビストリアルキルシリルカルボジイミドと、下記式(iv)で表されるジハロシリル化合物とを反応させ、下記式(v)で表されるプレポリマーを製造する工程、および
【化6】

(式(iii)中、Rは各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。)
【化7】

(式(iv)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Qは各々独立に、ハロゲン原子である。)
【化8】

(式(v)中、R、RおよびQは式(iv)と同じである。)
(2)得られたプレポリマーと下記式(vii)
【化9】

(式(vii)中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基である。Yは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、または末端がエステル基あるいはエーテル基で封止されたポリアルキレンオキシ基である。Qはハロゲン原子である。)
で表される化合物を反応させる工程、
からなる請求項1〜6の何れか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載のポリシリルカルボジイミド化合物をポリ乳酸の耐加水分解安定剤として使用する方法。

【公開番号】特開2010−174133(P2010−174133A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18052(P2009−18052)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】