ポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラム
【課題】 妥協型ポリシが選択され得るべき状況であるにもかかわらず当該妥協型ポリシが選択候補となることがない状態を解消する。
【解決手段】 ポリシ検索システム1は、複数のポリシがそれぞれ独立したファイルとして格納されたポリシデータベース2と、ポリシデータベース2に格納されている複数のポリシを用いて人工免疫ネットワークを構築し、一定の計算時間刻みごとにポリシの濃度計算を行い、濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段3と、人工免疫ネットワークの中から抑制関係の閉路を探索する閉路探索手段4と、閉路が存在し、かつ当該閉路に関連する主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段5と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段6とを有している。
【解決手段】 ポリシ検索システム1は、複数のポリシがそれぞれ独立したファイルとして格納されたポリシデータベース2と、ポリシデータベース2に格納されている複数のポリシを用いて人工免疫ネットワークを構築し、一定の計算時間刻みごとにポリシの濃度計算を行い、濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段3と、人工免疫ネットワークの中から抑制関係の閉路を探索する閉路探索手段4と、閉路が存在し、かつ当該閉路に関連する主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段5と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段6とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、知識ベースの中からデータを検索するシステムおよび方法およびプログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、妥協策を含むポリシをデータとして保存するポリシデータベースの中から、発生している状況に適合した1ないしは複数のポリシを選択するシステムおよび方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
膨大なデータの中から、ある条件に適合したデータのみを抽出する際に、すべてのデータにアクセスする方法では、有為な時間内に結果を出力することが困難である。このため、データのある一部にアクセスしながら、条件に適合したデータを抽出する方法としてメタヒューリスティクスが用いられている。メタヒューリスティクスとしては、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムが有名である。
【0003】
一方、通信網の運用管理システムに代表されるように、大規模システムであり、かつシステム利用者(運用者)の要求が色濃く反映された機能を提供する必要があるシステムの設計開発において、システムの機能を要求どおりに実現するための1つのアプローチとして、ポリシベース管理という手法が検討されている。これは、あらかじめ運用方針であるポリシを設定し、状況に応じて動的にポリシを選択し、それに基づいてシステムがその振る舞いを決める方式である。
【0004】
ポリシの選択は、制約充足問題として記述することが可能である。制約充足問題の解法は、厳密解法と近似解法に大別できる。厳密解法は、最適値を必ず見つけられるという利点を持っている一方で、その処理時間に問題がある。通信網の運用管理におけるポリシの数は数千にもなることがしばしば存在し、かつ業務に支障をきたさない時間内で結果を出力する必要があることから、ポリシ選択の手法として厳密解法を用いることは適切でない。近似解法では、主にニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムが、様々な問題を解くために利用されている。
【0005】
ところが、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムは、対象となるデータの構成が変更になると、データ抽出に用いる演算式も変更しなければならない。即ち、ニューラルネットワークにおいては、どのようなタイプにおいても、ユニットまたはその関係に変化が起きるたびに再学習を行わなければならない。また、遺伝的アルゴリズムにおいては、問題領域が変更される度に適合度計算・交叉・突然変異を再度設定し直さなければならない。ニューラルネットワークにおける再学習や遺伝的アルゴリズムにおける柔軟な適合度計算など、これまでの限界を打破する研究成果も報告されているが、運用管理におけるポリシ選択に関する要求を満たすことは、依然として難しい。これは、運用管理において、システム設計時にすべてのポリシを想定できないためである。このような問題領域の変化は、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムにおける要素の増減につながる。そのため、ニューラルネットワークにおける再学習や遺伝的アルゴリズムにおける適合度計算などの再設定が依然として必要となる。
【0006】
そこで、上記問題の解決、すなわちデータの構成が変更された場合でも演算式の変更を必要とせず、有為な時間内で結果を出力するために、本願発明者はこれまでに人工免疫ネットワークモデルに基づくポリシ選択手法を開発した(非特許文献1参考)。このポリシ選択手法では、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを含むポリシをポリシデータベースに格納し、上記ポリシを抗体と見なし、ポリシの実行条件を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、抗原に対応する状況が発生した場合に、該当するポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとにポリシの濃度を計算し更新していき、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するようにしている。このポリシ選択手法では、妥協型ポリシという概念を導入することにより、本来は同時に成立し得ない複数の主張型ポリシを妥協型ポリシと共に採用する、あるいは本来優先的に採用されるべき主張型ポリシを採用せずに、逆に優先度が低い主張型ポリシを妥協型ポリシと共に採用する、といったことを可能にしている。
【0007】
【非特許文献1】大谷、山本:「免疫的手法を用いた通信網管理用ポリシの選択手法」、情報処理学会論文誌、Vol. 44、No. 1、pp. 68-81、2003年1月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の技術では、例えば図14に示すようなポリシ間の結合が存在しかつ図に示されたすべての主張型ポリシの実行条件が成立している場合に対して、考慮されるべき妥協型ポリシが選択候補に挙がって来ないという問題が生じてしまう。図14に示す関係は、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合に、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表現するものである。すなわち、主張型ポリシ10Aを抑制する主張型ポリシ10B,10Cが存在するため、妥協型ポリシが存在せず3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合には、主張型ポリシ10B,10Cが優先的に採用され、主張型ポリシ10Aは採用されない。これに対して、主張型ポリシ10Bを抑制する妥協型ポリシ11Aと、主張型ポリシ10Cを抑制する妥協型ポリシ11Bが存在するため、妥協型ポリシ11A,11Bが採用される場合には、主張型ポリシ10Aがこれら2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表している。
【0009】
ここで、図14中の補助ポリシ12A,12Bは、妥協型ポリシ11A,11Bの存在に対応して、優先度が低い主張型ポリシAの条件成立時に妥協型ポリシ11A,11Bを刺激するように、システムが自動的に生成するものである。補助ポリシ12A,12Bについては、濃度が閾値を超えても選択されることはない。妥協型ポリシ11Aが選択候補になるためには、補助ポリシ12Aの濃度が高くなる必要があり、同様に、妥協型ポリシ11Bが選択候補になるためには、補助ポリシ12Bの濃度が高くなる状態になる必要がある。ところが、補助ポリシ12Aは主張型ポリシ10Cから抑制される関係を持ち、補助ポリシ12Bは主張型ポリシ10Bから抑制される関係を持つ。このため、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合、補助ポリシ12A,12Bは主張型ポリシ10B,10Cから抑制されて選択される状態に至らず、結果、妥協型ポリシ11A,11Bが選択候補になることがない。すなわち、妥協型ポリシ11A,11Bが存在しないのと等価な状態となってしまう。この結果、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合であっても、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性がなくなり、想定されていたポリシが出力されず、妥当な運用が行われない虞がある。さらに、上記に例示した図14のケース以外にも、折角用意した妥協型ポリシ(妥協策)が無意味になってしまうケースが予想される。
【0010】
そこで本発明は、妥協型ポリシが選択され得るべき状況であるにもかかわらず当該妥協型ポリシが選択候補となることがない状態を解消することができるポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段とを有するポリシ検索システムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段を有し、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するようにしている。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段としてコンピュータを機能させるポリシ検索用プログラムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段としてコンピュータを機能させて、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するようにしている。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシをポリシデータベースに格納し、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、前記ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索方法において、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加するようにしている。
【0014】
図14に例示される妥協型ポリシが選択候補とならない問題は、ポリシ間の関係を有向グラフとしてみなしたとき、「抑制関係に関する閉路」が形成されていることに起因する。ここで、妥協型ポリシと、当該妥協型ポリシと関連して自動生成される補助ポリシとを一体と見なす。当該一体と見なした妥協型ポリシと補助ポリシを広義妥協型ポリシと呼ぶ。上記「抑制関係に関する閉路」を図14の例で説明すると、主張型ポリシ10Bは広義妥協型ポリシ13Aから抑制され、その広義妥協型ポリシ13Aは主張型ポリシ10Cから抑制され、その主張型ポリシ10Cは広義妥協型ポリシ13Bから抑制され、その広義妥協型ポリシ13Bは主張型ポリシ10Bから抑制される関係にあり、「抑制関係に関する閉路」が形成されていることが分かる。
【0015】
上記「抑制関係に関する閉路」が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシ(図14の例では主張型ポリシ10B,10C)および当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシ(図14の例では主張型ポリシ10A)の実行条件がすべて成立している場合に、上記閉路に含まれる妥協型ポリシ(図14の例では妥協型ポリシ11A,11B)が選択候補とならない問題が発生する。
【0016】
したがって、上記「抑制関係に関する閉路」を検出し、当該閉路に関連する主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合には、当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加することで、システム利用者の意図に沿って妥協型ポリシが選択されるようになる。これにより、折角用意した妥協型ポリシ(妥協策)が無意味になってしまう状況を回避できる。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のポリシ検索システムにおいて、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段をさらに有するようにしている。
【0018】
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載のポリシ検索用プログラムにおいて、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段としてコンピュータをさらに機能させるようにしている。
【0019】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のポリシ検索方法において、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算するようにしている。
【0020】
この場合、妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが採用される場合には、妥協型ポリシが適切に抑制される関係を維持することができる。
【発明の効果】
【0021】
しかして請求項1記載のポリシ検索システムおよび請求項3記載のポリシ検索用プログラムおよび請求項5記載のポリシ検索方法によれば、妥協型ポリシが選択され得るべき状況であるにもかかわらず当該妥協型ポリシが選択候補となることがない状態を解消し、システム利用者の意図に沿った形で適切に妥協型ポリシを選択するようにできる。
【0022】
本発明によれば、通信網の運用管理など、専門的知識を必要とし、しかも、考慮すべき条件が数多く存在する業務を、効率的に支援することが可能となる
【0023】
さらに請求項2記載のポリシ検索システムおよび請求項4記載のポリシ検索用プログラムおよび請求項6記載のポリシ検索方法によれば、妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが採用される場合には、妥協型ポリシが適切に抑制される関係を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1から図19に本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの実施の一形態を示す。このポリシ検索方法は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシ10と、対立する2以上の主張型ポリシ10を両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシ10のうち非優先側の主張型ポリシ10を採用する妥協策が記述された妥協型ポリシ11とを少なくとも含むポリシをポリシデータベース2に格納し、ポリシを抗体と見なし、ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、抗原が表す状況が発生した場合に、該当するポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとにポリシの濃度を計算し更新していき、複数のポリシの中から濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、ポリシデータベース2に格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するものであり、ポリシをノードとし、ポリシ間の連結関係をリンクとして、人工免疫ネットワークの中からノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシ10および当該主張型ポリシ10に抑制された主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加するようにしている。
【0026】
さらに例えば本実施形態では、システム利用者から採用する旨の回答があった妥協型ポリシ11について、当該妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合に、当該主張型ポリシ10の上記妥協型ポリシ11に対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、追加した計算要素の上記妥協型ポリシ11に対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算するようにしている。
【0027】
本実施形態のポリシは、例えば、通信網の運用管理システムの運用方針が、「if『条件』then『処理内容』」の形式で記述されるものとしている。上記記述の中の『処理内容』の部分には、例えば通信網の運用管理システムの属性値の設定や通信装置を制御するための操作内容が記述される。また、上記記述の中の『条件』の部分は、上記『処理内容』を実行するための前提条件となるサービスまたは通信網の状況が記述される。通信網の運用管理におけるポリシの数は一般に多数(例えば数千のオーダ)であり、各ポリシは、例えばそれぞれ独立したファイル(即ちコンピュータが取り扱い可能な記憶・演算の単位)として、データベースに格納される。
【0028】
人工免疫ネットワークとは、生体の免疫系を工学的にモデル化し、情報処理に応用したものである。免疫系は、変化する状況に対応する能力が優れているとともに、複数の処理を同時に行う能力があるため、通信網や通信サービスの状況や運用者の要求が変化し、しかも複数のサービスを同時に扱う必要がある通信網の運用管理におけるポリシ選択に適している。本実施形態では、抗体および抗原の間の刺激・抑制関係によって構成される人工免疫ネットワークであるイディオタイプネットワークを利用する。
【0029】
例えば図2に示すように、抗体20は、抗体本体21のほかに、抗原22を認識する部分であるパラトープ23と、自らが他の抗体20’に抗原と認識される部分のイディオトープ24から構成される。抗体20は、自ら有するパラトープ23に対応する抗原22あるいはイディオトープ24が存在すると、刺激を受け、その血中濃度(以下、濃度とする。)を増加させる。一方、イディオトープ24に対応するパラトープ23を持つ別の抗体20’が存在すると、そのイディオトープ24を有する抗体20は抑制され、その濃度は低下する。生体の中では、濃度の高い抗体だけが効力を発揮する。刺激・抑制関係には、親和度(刺激親和度、抑制親和度)という係数が考えられている。大きな親和度を持つ刺激・抑制関係の場合には、抗体の濃度が低くても、刺激・抑制効果は比較的大きなものとなる。一方、小さな親和度を持つ刺激・抑制関係の場合には、抗体の濃度が高くても、刺激・抑制効果は比較的小さなものとなる。
【0030】
本実施形態の人工免疫ネットワークでは、サービスまたは通信網の状況が抗原として表現され、ポリシは抗体として表現される。ポリシの記述の中のif『条件』の部分が抗原に対する抗体のパラトープを表し、then『処理内容』の部分が抗体本体を表す。ここで、先に説明した「if『条件』then『処理内容』」の形式で記述されるポリシを特に操作記述ポリシと呼ぶ。一方、複数の操作記述ポリシの間の関係を記述するポリシを特に関連記述ポリシと呼ぶ。ただし、単にポリシというときは操作記述ポリシを指すものとする。操作記述ポリシは、積極的に採用すべき処理を示す主張型ポリシ10と、やむを得ず採用する処理を示す妥協型ポリシ11とに分類される。ポリシ間の関係は、図3に示す矢印25,26,27のいずれかで表現される。矢印25は一方が他方を刺激する関係を示す。矢印26は一方が他方を抑制する関係を示す。矢印27は一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係を示す。
【0031】
関連記述ポリシは、「許容不可ポリシ」と「優先ポリシ」と「状況変化ポリシ」と「同時刺激・抑制ポリシ」とに分類される。「許容不可ポリシ」は、ある主張型ポリシ10を実行する際に許容できない条件を示す。「優先ポリシ」は、2つの主張型ポリシ10,10間の優先順を設定する。「状況変化ポリシ」は、主張型ポリシ10に記述されている操作によって常に発生する状況を示す。「同時刺激・抑制ポリシ」は、複数の主張型ポリシ10を同時に刺激または抑制する。「許容不可ポリシ」「優先ポリシ」「状況変化ポリシ」は、いずれの場合も主張型ポリシ10どうしの関係に適用する。「許容不可ポリシ」および「優先ポリシ」は、図4に示すように、一端が抑制を示し他端が刺激を示す矢印27で表現される。図4の関係では、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合、優先側の主張型ポリシ10Bのみが選択される。「状況変化ポリシ」は、図5に示すように、一端側に刺激のみを示す矢印25で表現される。「同時刺激・抑制ポリシ」は、T細胞として表され、図6に示す同時抑制ポリシ28はサプレッサT細胞に対応し、図7に示す同時刺激ポリシ29はヘルパーT細胞に対応する。
【0032】
妥協型ポリシ11は、「対立する2以上の主張型ポリシを両立させる機能」または「対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する機能」を有するもので、必ず主張型ポリシ10とともに採用され、妥協型ポリシ11のみで採用されることはない。
【0033】
図8に、2つの主張型ポリシ10A,10Bを両立させる妥協型ポリシ11の例を示す。この場合、主張型ポリシ10Bに抑制される主張型ポリシ10Aを妥協型ポリシ11が刺激し、この妥協型ポリシ11を主張型ポリシ10Bが刺激するように、刺激だけの効果を持つ関係で妥協型ポリシ11を2つの主張型ポリシ10A,10Bに結び付ける。さらに、別の主張型ポリシ10Cが上記の妥協型ポリシ11を抑制することによって、妥協しないことも表現できる。
【0034】
図8の関係が設定されるケースを具体例を挙げて説明する。例えば、作業員が1名しかいない部署において、主張型ポリシ10Aとして「通信装置の保守点検を行う場合に作業員1名を割り当てる」という定義をし、主張型ポリシ10Bとして「通信装置の故障対応を行う場合に作業員1名を割り当てる」という定義をしたとする。妥協型ポリシ11が存在しない場合、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合(即ち、保守点検と故障対応の要請が同時にあった場合)、主張型ポリシ10Bのみが選択され、故障対応のみが実施される。一方、妥協型ポリシ11として「応援要員を獲得する」という定義を設定することで、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合であっても、妥協型ポリシ11と共に対立する主張型ポリシ10A,10Bの双方を採用することができる。なお、妥協型ポリシ11については、ポリシ検索を実行するシステムが選択可能であると判断した後に、当該システムがシステム利用者に対して当該妥協型ポリシ11を採用するか否かの確認をするようにし、最終的な判断をシステム利用者に求めるようにすることが望ましい。さらに、主張型ポリシ10Cとして、「予算が逼迫しているならば、応援要員を手配できない」というものを定義しておくことで、そのような状況が発生している場合、妥協型ポリシ11は選択候補とならない。例えば、主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合には、主張型ポリシ10B,10Cだけが選択されることとなる。
【0035】
また図9に、対立する2以上の主張型ポリシ10のうち非優先側の主張型ポリシ10を採用する妥協型ポリシ11の例を示す。この場合、妥協しなければ優先される主張型ポリシ10Bを抑制し、非優先側の主張型ポリシ10Aを採用するような妥協が行われる。このような妥協を行う場合には、妥協型ポリシ11に加え補助ポリシ12を用意する。補助ポリシ12とは、非優先側の主張型ポリシ10Aのパラトープ(ポリシの記述の中のif『条件』の部分)と、妥協型ポリシ11の本体(then『処理内容』の部分)を併せ持つものであり、ポリシ検索を実行するシステムにより自動的に生成され、選択対象とはならない。妥協型ポリシ11は、優先側の主張型ポリシ10Bを抑制し、かつ主張型ポリシ10Bから刺激を受ける関係で結び付けられる。補助ポリシ12は、妥協型ポリシ11を刺激する関係で結び付けられる。
【0036】
図9の関係が設定されるケースを具体例を挙げて説明する。例えば、主張型ポリシ10Aとして「通信装置を点検する場合には通信装置を停止する」と定義し、主張型ポリシ10Bとして「迂回ルートが存在しない場合には作業日程を変更する」というものを定義する。仮に、ある通信装置を停止した場合に、迂回ルートが存在しなくなったならば、主張型ポリシ10A,10Bの条件に合致する状況がそれぞれ発生する。妥協型ポリシ11が存在せずこれら2つの主張型ポリシ10A,10Bだけの場合は、主張型ポリシ10Bだけが選択され、通信装置の点検作業は日程を変更しなければならない。これに対して、妥協型ポリシ11として、「その通信装置を利用している応用プログラムそのものが停止しているのであれば迂回ルートが存在しなくても良い」という定義を設けておくと、上記のように主張型ポリシ10A,10Bの条件に合致する状況がそれぞれ発生した場合でも、主張型ポリシ10Aと妥協型ポリシ11だけが選択される(主張型ポリシ10Bは選択されない)結果となる。
【0037】
なお、図4〜図9では、抗原(抗体であるポリシを刺激するサービスまたは通信網の状況)は省略している。抗原は、該当する状況が発生した段階で生成され、恒常的には存在しない。抗原に対応する状況が発生していることは、例えば、通信監視システムなどの別のシステムや管理者等のシステム利用者から入力される。
【0038】
ポリシ(抗体)の濃度は、以下の数式1および数式2に基づいて計算される。
【数1】
ただし、
ai(t):時間tにおける抗体iの濃度
b:抗体iを刺激する抗原の濃度
mji:抗体iに対する抗体jの刺激親和度
pji:抗体iに対する抗体jの抑制親和度
mi:抗体iに対する抗原の刺激親和度
nji:抗体iに対するT細胞jの刺激親和度または抑制親和度
Ci:T細胞iの濃度
Ki:抗体iの自然消滅率
N1:抗体iを刺激する抗体の種類数
N2:抗体iを抑制する抗体の種類数
N3:抗体iを刺激または抑制するT細胞の種類数
Ai(t):濃度ai(t+1)を計算するための値(免疫系に関する意味はない)
【数2】
【0039】
具体的には、数式1に基づいて算出されたAi(t)に関する勾配を基に、数式2を用いて、各ポリシ(抗体)の時刻(t+1)における濃度を計算する。なお、従来の濃度計算式の中には、抗体からの刺激・抑制効果を、抗体の種類で平均化する微分方程式を用いる場合があるが、これでは、抗原からの影響に比べ、特定の抗体から受ける影響が非常に小さくなるため、複数のポリシを同時に選択するには適さない。これに対して、数式1の微分方程式では、抗体からの刺激・抑制効果として各抗体からの影響の和を用いている。これによって、抗体からの影響が、ときに抗原からの刺激を上回る効果をもたらすことになる。また、従来のイディオトープでは、通常、抗体(ポリシ)間の影響力を示す親和度について、刺激と抑制に同じ値を用いるが、本実施形態では、刺激に関する親和度と抑制に関する親和度を別々に設定するようにしている。
【0040】
刺激親和度、抑制親和度、自然消滅率などのパラメータは、例えば抗原に刺激されていない抗体(ポリシ)が選択されないようにする等、実際の運用方針と整合性がとれるように適宜設定される。例えば、本実施形態では次のようにパラメータを設定している。主張型ポリシ10および補助ポリシ12の自然消滅率は0.1とし、妥協型ポリシ11の自然消滅率は1.5とする。抗体濃度ai(t)は0〜1の値をとるものとする。抗体濃度の初期値は演算結果に影響を与えないが、通常は0.0から始める。抗原濃度bの初期値は例えば1.0で固定とし、変化しないものとする。抗体に対する抗原の刺激親和度はデフォルト値で1とする。また、状況の変化に追従できるように数式2におけるA(t)の最大値を5、最小値を−5に制限する。
【0041】
図4,図5,図8,図9におけるような主張型ポリシ10Aの主張型ポリシ10Bに対する刺激親和度は、0.1以下とする。また、図7におけるようなT細胞(同時刺激ポリシ29)の主張型ポリシ10に対する刺激親和度も、0.1以下とする。但し、図10に示すように、複数のポリシB,Cが1のポリシAを刺激する場合には次の規則に従うものとする。即ち、ポリシAに対する抗原からの刺激がなくても、他のポリシ(図10の場合はポリシB,C)からの刺激でポリシAの濃度を増加させるためには、刺激親和度の総和を0.1以上に設定する。また、他のポリシ(図10の場合はポリシB,C)からの個々の刺激だけでは、ポリシAの濃度を増加させない場合には、上記他のポリシB,Cの個別の刺激親和度は0.1未満に設定する。
【0042】
また、図8におけるような主張型ポリシ10Bの妥協型ポリシ11に対する刺激親和度、妥協型ポリシ11の主張型ポリシ10Aに対する刺激親和度、図9における補助ポリシ12の妥協型ポリシ11に対する刺激親和度は、デフォルト値で1.0とする。
【0043】
また、図4,図8,図9におけるような主張型ポリシ10Bの主張型ポリシ10Aに対する抑制親和度は、1.0以下とする。また、図6におけるようなT細胞(同時抑制ポリシ28)の主張型ポリシ10に対する抑制親和度も、1.0以下とする。但し、図11に示すように、複数のポリシが1のポリシを抑制する場合には次の規則に従うものとする。即ち、複数のポリシ(図11の場合はポリシB,C)が揃って初めてポリシAを抑制する効果を持つ場合、上記複数のポリシ(ポリシB,C)からの抑制親和度の総和が1以上となるように設定する。また、複数のポリシ(ポリシB,C)からの個々の抑制効果だけではポリシAが抑制されない場合には、上記複数のポリシ(ポリシB,C)の個別の抑制親和度は1未満に設定する。複数のポリシ(ポリシB,C)からの個々の抑制効果だけでポリシAが抑制される場合には、上記複数のポリシ(ポリシB,C)の個別の抑制親和度を1に設定する。
【0044】
また、図12に示すように、妥協型ポリシ11(図12の場合はポリシA)を発動してはならない状況を示すポリシ(図12の場合はポリシB)からの抑制親和度は、妥協型ポリシ11(ポリシA)を刺激する親和度の総和よりも大きく(例えば2.0以上に)設定する。例えば図8の主張型ポリシ10Cの妥協型ポリシ11に対する抑制親和度は、2.0以上とする。
【0045】
以上のように、適切なパラメータが設定された人工免疫ネットワークについて、数式1および数式2に基づいて、時々刻々と抗体(ポリシ)の濃度が計算される(図13のS1〜S5参照)。そして、濃度が閾値(例えば0.7)を超えたポリシが選択され、採用される(S6)。
【0046】
上記に説明したポリシ検索方法を実行するポリシ検索システム1の構成例を図1に示す。このポリシ検索システム1は、複数のポリシがそれぞれ独立したファイルとして格納されたポリシデータベース2と、ポリシデータベース2に格納されている複数のポリシを用いて人工免疫ネットワークを構築し、一定の計算時間刻みごとにポリシ(抗体)の濃度計算を行い、濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段3と、人工免疫ネットワークの中から抑制関係の閉路を探索する閉路探索手段4と、閉路が存在し、かつ当該閉路に関連する主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段5と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段6と、システム利用者から採用する旨の回答があった妥協型ポリシ11について、当該妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合に、当該主張型ポリシ10の上記妥協型ポリシ11に対する抑制親和度に、追加した計算要素の上記妥協型ポリシ11に対する刺激親和度の値を加算する親和度調整手段7とを有している。
【0047】
このポリシ検索システム1は、例えば既存または新規のコンピュータ(計算機)を利用して実現される。このコンピュータは、例えば中央処理演算装置(CPU)、RAMやROMおよびハードディスクなどの記憶装置、キーボードやマウスなどの入力装置8、ディスプレイなどの出力装置9、他のシステムと通信を行うためのネットワークインターフェースなどのハードウェア資源がバスにより接続されて構成されている。このコンピュータ上で本発明に係るポリシ検索用プログラムが実行されることにより、コンピュータがポリシ検索システム1として機能する。コンピュータの記憶装置(例えばハードディスク)は、ポリシが格納されるポリシデータベース2として機能する。そして、CPUの演算機能および他のハードウェア資源に対する制御機能により、ポリシ選択手段3、閉路探索手段4、採否確認手段5、計算要素追加手段6、親和度調整手段7が実現される。
【0048】
抗原が表す状況が発生している場合、管理者等のシステム利用者により入力装置8を介してその旨がポリシ検索システム1に入力される。または、抗原が表す状況が監視システム30により自動的に検出され、当該状況が発生している旨がポリシ検索システム1に自動的に入力される。ポリシ選択手段3は図13のフローチャートに示す処理を実行し、発生状況に適合したポリシを選択する。
【0049】
また、ポリシ選択手段3により選択された発生状況に適合したポリシは、出力装置9としてのディスプレイに表示され、表示されたポリシに対応する処理が管理者等のシステム利用者により実行される。または、ポリシ選択手段3により選択されたポリシは、管理機能実行システム31に出力され、当該ポリシに対応する処理が管理機能実行システム31により自動的に実行される。なお、選択されたポリシを出力装置9としてのディスプレイに表示する際には、主たるポリシと、それに関連する従属的なポリシ(妥協型ポリシ11を含む)とを区別して、システム利用者に提示することが好ましい。
【0050】
なお、コンピュータをポリシ検索システム1として機能させるポリシ検索用プログラムは、オペレーティングシステムに依存しないオブジェクト指向型プログラミング言語であるJava(登録商標)を用いて構築することが好ましい。また、ポリシ検索用プログラムに読み込まれるポリシの定義(組み合わせ)は、複雑かつ可変であることから、XML(Extensible Markup Language)にて表現することが望ましい。
【0051】
ここで図14に示す関係は、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合に、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表現するものである。しかし、妥協型ポリシ11Aに関連する補助ポリシ12Aが主張型ポリシ10Cに抑制され、妥協型ポリシ11Bに関連する補助ポリシ12Bが主張型ポリシ10Bに抑制されているため、妥協型ポリシ11A,Bが選択候補に挙がって来ない。即ち、妥協型ポリシ11とそれに関連する補助ポリシ12とを一体と見なすと、抑制関係の閉路が形成され、妥協型ポリシ11A,11Bが存在しないのと等価な状態となってしまう。この結果、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合であっても、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性がなくなり、想定されていたポリシが出力されず、妥当な運用が行われない虞がある。
【0052】
なお、図14の例では、一端が刺激を示し他端が抑制を示す矢印の刺激親和度はデフォルト値で0.03とし、抑制親和度はデフォルト値で1.0とする。また、一端側に抑制のみを示す矢印の抑制親和度はデフォルト値で1.0とする。ただし、さらにポリシが追加され、図10および図11に示すように複数のポリシが1のポリシを刺激または抑制する場合であって、刺激や抑制の関係についてAND条件(論理積)やOR条件(論理和)を考慮する場合には、図10および図11を用いて説明した規則に従って、これらの値は変化する。
【0053】
本実施形態の閉路探索手段4、採否確認手段5、計算要素追加手段6、親和度調整手段7では、例えば図15、図16および図20に示すフローチャートの処理を実行することにより、上記抑制関係の閉路に起因する問題を解決する。なお、図15、図16および図20の処理は、ポリシ選択のための濃度計算(図13のS3)以前に実行するようにする。また、人工免疫ネットワークにおけるすべてのポリシ(主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11、補助ポリシ12)をそれぞれノードと見なし、これらポリシ間の連結関係をリンクと見なす。
【0054】
まず、人工免疫ネットワークにおける2つのポリシ間の到達可能性を表す重み付け行列を計算する(図15のS101)。到達可能性には方向性を考慮する。例えば、妥協型ポリシ11および主張型ポリシ10からの探索方向は、他のポリシを抑制する方向のみに限定する。即ち、妥協型ポリシ11または主張型ポリシ10から他のポリシに移動するためには、移動後のノードである他のポリシを抑制する関係のリンクを介する必要があるものとする。一方、補助ポリシ12からの探索方向は、妥協型ポリシ11を刺激する方向のみに限定する。なお、ポリシ(ノード)間の関係は、ポリシ検索システム1において既に設定されているため、上述した方向性に関するデータを改めて用意する必要はない。
【0055】
重み付け行列の計算では、まず重み付け行列を初期化するためすべての重みを10000とした上で(図20のS301)、すべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12を1次選択群とする(S302)。この1次選択群の中から未選択のポリシを1つ選択し、選択したポリシを起点とする(S303)。次にすべてのポリシを2次選択群とする(S304)。この2次選択群の中から未選択のポリシを1つ選択し終点とする(S305)。始点と終点が同じポリシであれば(S306;Yes)、その間の重みを0とする(S307)。
【0056】
始点と終点が異なるポリシの場合で(S306;No)、始点が主張型ポリシかつ終点が補助ポリシであって、終点が始点に抑制されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S308;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0057】
前記の条件が満たされない場合で(S308;No)、始点が妥協型ポリシかつ終点が主張型ポリシであって、終点が始点に抑制されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S309;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0058】
前記の条件が満たされない場合で(S309;No)、始点が補助ポリシかつ終点が妥協型ポリシであって、終点が始点に刺激されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S310;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0059】
上述した1次演算は1次選択群に含まれるすべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12について行い(S313)、2次演算は2次選択群に含まれるすべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12について行う(S312)。
【0060】
なお、始点終点間の重みを1とする条件成立の有無の判断は(S308、S309、S310)、前記の順序に限られるものではなく、3つのうちのいずれの条件から判断しても良い。
【0061】
次に、人工免疫ネットワークの中のすべての妥協型ポリシ11を1次選択群とする(S102)。この1次選択群の中から1つの妥協型ポリシ11を選択する(S103)。選択した妥協型ポリシ11を起点として、起点とは異なる到達可能なすべての妥協型ポリシ11を抽出する(S105)。このときの起点を1次起点と呼ぶ。また、このときの妥協型ポリシ11を抽出する演算を1次演算と呼ぶ。
【0062】
ここで、「到達可能なすべての妥協型ポリシ」には、起点から到達点までの経路の途中に他の妥協型ポリシ11が存在する場合も含む。
【0063】
上記到達可能なすべての妥協型ポリシ11の抽出には、例えば最短路問題を解くDijkstraのアルゴリズムを利用することができる。Dijkstraのアルゴリズムは、最短経路の探索に利用されるが、目的とするノードの到達可能性の判定にも利用できる。即ち、1次起点として選択した妥協型ポリシ11を除く他の妥協型ポリシ11をそれぞれ目的ノードとして、最短路問題を解くDijkstraのアルゴリズムにより、1次起点から上記目的ノードに到達可能であるか否か、先に計算した重み付け行列を用いて判定する。
【0064】
到達可能であると判定されたすべての妥協型ポリシ11を2次選択群とする(S106)。次に、2次選択群の中から1つの妥協型ポリシ11を選択する(S107)。選択した妥協型ポリシ11を起点として、上記と同じDijkstraのアルゴリズムを用いた手順で、起点とは異なる到達可能なすべての妥協型ポリシ11を抽出する(S108)。このときの起点を2次起点と呼ぶ。また、このときの妥協型ポリシ11を抽出する演算を2次演算と呼ぶ。そして、上記2次演算により抽出された妥協型ポリシ11の中に、1次起点として選択した妥協型ポリシ11が含まれるか、判定する(S109)。
【0065】
含まれるのであれば(S109;Yes)、人工免疫ネットワークの中に抑制関係の閉路が存在すると判断でき、含まれていなければ(S109;No)、閉路は存在しないと判断できる。閉路が存在すると判断される場合(S109;Yes)、1次演算で探索された1次起点から2次起点までの経路と、2次演算で探索された2次起点から1次起点までの経路とを結合したものが、閉路として認識される。なお、上述したように本実施形態の閉路探索では探索方向を考慮しているため、1次起点から2次起点までの経路(往路)と、2次起点から1次起点までの経路(復路)とが重なってしまうことはない。
【0066】
閉路が存在する場合には(S109;Yes)、閉路対策処理(S110)に移行する。閉路が存在しない場合には(S109;No)、閉路対策処理(S110)は実行しない。上述した1次演算は1次選択群に含まれるすべての妥協型ポリシ11について行い(S112)、2次演算は2次選択群に含まれるすべての妥協型ポリシ11について行う(S111)。ただし、閉路対策処理(S110)により、システム利用者からの回答を反映した計算要素が追加されている妥協型ポリシ11については、1次演算を省略する(S104)。上述した図15に示す処理を行うことにより、図14のように2つの妥協型ポリシ11が存在する閉路のみならず、3つ以上の妥協型ポリシ11が存在する閉路であっても、検出可能となる。
【0067】
閉路対策処理では、まず図16に示すように、1次起点となった妥協型ポリシ11についての採否をシステム利用者に問い合わせる(S201)。例えば上記採否を問い合わせるダイアログボックスをGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を利用して出力装置9としてのディスプレイに表示する。システム利用者は、上記システム1からの問い合わせに対して、入力装置8を用いて回答することができる。
【0068】
システム利用者から採用する旨の回答があった場合には(S202;Yes)、採用予定となった妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を追加する(S203)。採用予定の妥協型ポリシ11に対する当該計算要素の刺激親和度は、他の状況に影響されずともシステムが当該妥協型ポリシ11を選択するものに設定される。例えば本実施形態では、当該刺激親和度を1.0に設定する。図17は、システム利用者から妥協型ポリシ11Aを採用する旨の回答があった場合の計算要素が追加された例を示し、符号14が追加された計算要素を示す。
【0069】
一方、システム利用者から不採用の旨の回答があった場合には(S202;No)、不採用予定となった妥協型ポリシ11を抑制する計算要素を追加する(S206)。不採用予定の妥協型ポリシ11に対する当該計算要素の抑制親和度は、他の状況に影響されずともシステムが当該妥協型ポリシ11を選択しないものに設定される。例えば本実施形態では、当該抑制親和度を1.0に設定する。
【0070】
また、本実施形態では、2次起点となった妥協型ポリシ11についても、上記と同様に、採否をシステム利用者に問い合わせ(S208,S209)、回答に応じて計算要素を追加するようにしている(S210またはS213)。ただし、システム利用者からの回答を反映した計算要素が追加されている妥協型ポリシ11については、上記処理を行わない(S207)。
【0071】
以上により、抑制関係の閉路が形成されることにより妥協型ポリシ11が存在しないのと等価な状態となってしまう状態が回避され、システム利用者の意図に沿ったポリシが選択される。例えば図14において3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合において、システム利用者が妥協型ポリシ11A,11Bの採用を望むのであれば、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,10Bとともに採用されることとなる。
【0072】
さらに例えば本実施形態では、採用する対象となった妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合には(図16のS204およびS211;Yes)、当該主張型ポリシ10の抑制親和度を再計算するようにしている(S205,S212)。具体的には、主張型ポリシ10の妥協型ポリシ11に対する抑制親和度に、上記妥協型ポリシ11に対して追加した計算要素の刺激親和度の値を加算する。
【0073】
例えば図18は、図14の一部を取り出して、さらに妥協型ポリシ11Aを抑制する主張型ポリシ10Dが存在した場合を示す。主張型ポリシ10Dの妥協型ポリシ11Aに対する抑制親和度は1.0に設定されている。その後、図19に示すように、図17の場合と同様に妥協型ポリシ11Aについて採用する旨の回答がシステム利用者からあり、妥協型ポリシ11Aを刺激親和度1.0で刺激する計算要素14が追加されると、主張型ポリシ10Dの妥協型ポリシ11Aに対する抑制親和度は2.0に再設定される。これにより、妥協型ポリシ11Aを抑制する主張型ポリシ10Dが採用される場合には、妥協型ポリシ11Aが適切に抑制される関係を維持することができる。
【0074】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のポリシ検索システムの実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】人工免疫ネットワークの一例を示す概念図である。
【図3】ポリシ間の関係を表現する矢印を説明する図である。
【図4】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した一例を示す図である。
【図5】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図6】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図7】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図8】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、2つの主張型ポリシを両立させる妥協型ポリシの例を示す。
【図9】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協型ポリシの例を示す。
【図10】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、複数のポリシが1のポリシを刺激する場合を示す。
【図11】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、複数のポリシが1のポリシを抑制する場合を示す。
【図12】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、妥協型ポリシを発動してはならない状況を示すポリシが存在する場合を示す。
【図13】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、ポリシを選択する処理を示すフローチャートである。
【図14】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、抑制関係の閉路が形成される事例を示す。
【図15】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、閉路を探索する処理を示すフローチャートである。
【図16】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、システム利用者への問い合わせに対する回答により計算要素を追加する処理を示すフローチャートである。
【図17】図14に対して、妥協型ポリシを採用する旨の回答がシステム利用者より得られた後のポリシ間の関係を示す。
【図18】図14の一部を取り出して、さらに妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在した場合を示す。
【図19】図18に対して、妥協型ポリシを採用する旨の回答がシステム利用者より得られた場合に、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシの抑制親和度が修正される様子を示す。
【図20】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、ポリシ間の到達可能性を表す重み付け行列を計算する処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 ポリシ検索システム
2 ポリシデータベース
3 ポリシ選択手段
4 閉路探索手段
5 採否確認手段
6 計算要素追加手段
7 親和度調整手段
8 入力装置
9 出力装置
10 主張型ポリシ
11 妥協型ポリシ
【技術分野】
【0001】
本発明は、知識ベースの中からデータを検索するシステムおよび方法およびプログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、妥協策を含むポリシをデータとして保存するポリシデータベースの中から、発生している状況に適合した1ないしは複数のポリシを選択するシステムおよび方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
膨大なデータの中から、ある条件に適合したデータのみを抽出する際に、すべてのデータにアクセスする方法では、有為な時間内に結果を出力することが困難である。このため、データのある一部にアクセスしながら、条件に適合したデータを抽出する方法としてメタヒューリスティクスが用いられている。メタヒューリスティクスとしては、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムが有名である。
【0003】
一方、通信網の運用管理システムに代表されるように、大規模システムであり、かつシステム利用者(運用者)の要求が色濃く反映された機能を提供する必要があるシステムの設計開発において、システムの機能を要求どおりに実現するための1つのアプローチとして、ポリシベース管理という手法が検討されている。これは、あらかじめ運用方針であるポリシを設定し、状況に応じて動的にポリシを選択し、それに基づいてシステムがその振る舞いを決める方式である。
【0004】
ポリシの選択は、制約充足問題として記述することが可能である。制約充足問題の解法は、厳密解法と近似解法に大別できる。厳密解法は、最適値を必ず見つけられるという利点を持っている一方で、その処理時間に問題がある。通信網の運用管理におけるポリシの数は数千にもなることがしばしば存在し、かつ業務に支障をきたさない時間内で結果を出力する必要があることから、ポリシ選択の手法として厳密解法を用いることは適切でない。近似解法では、主にニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムが、様々な問題を解くために利用されている。
【0005】
ところが、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムは、対象となるデータの構成が変更になると、データ抽出に用いる演算式も変更しなければならない。即ち、ニューラルネットワークにおいては、どのようなタイプにおいても、ユニットまたはその関係に変化が起きるたびに再学習を行わなければならない。また、遺伝的アルゴリズムにおいては、問題領域が変更される度に適合度計算・交叉・突然変異を再度設定し直さなければならない。ニューラルネットワークにおける再学習や遺伝的アルゴリズムにおける柔軟な適合度計算など、これまでの限界を打破する研究成果も報告されているが、運用管理におけるポリシ選択に関する要求を満たすことは、依然として難しい。これは、運用管理において、システム設計時にすべてのポリシを想定できないためである。このような問題領域の変化は、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムにおける要素の増減につながる。そのため、ニューラルネットワークにおける再学習や遺伝的アルゴリズムにおける適合度計算などの再設定が依然として必要となる。
【0006】
そこで、上記問題の解決、すなわちデータの構成が変更された場合でも演算式の変更を必要とせず、有為な時間内で結果を出力するために、本願発明者はこれまでに人工免疫ネットワークモデルに基づくポリシ選択手法を開発した(非特許文献1参考)。このポリシ選択手法では、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを含むポリシをポリシデータベースに格納し、上記ポリシを抗体と見なし、ポリシの実行条件を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、抗原に対応する状況が発生した場合に、該当するポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとにポリシの濃度を計算し更新していき、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するようにしている。このポリシ選択手法では、妥協型ポリシという概念を導入することにより、本来は同時に成立し得ない複数の主張型ポリシを妥協型ポリシと共に採用する、あるいは本来優先的に採用されるべき主張型ポリシを採用せずに、逆に優先度が低い主張型ポリシを妥協型ポリシと共に採用する、といったことを可能にしている。
【0007】
【非特許文献1】大谷、山本:「免疫的手法を用いた通信網管理用ポリシの選択手法」、情報処理学会論文誌、Vol. 44、No. 1、pp. 68-81、2003年1月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の技術では、例えば図14に示すようなポリシ間の結合が存在しかつ図に示されたすべての主張型ポリシの実行条件が成立している場合に対して、考慮されるべき妥協型ポリシが選択候補に挙がって来ないという問題が生じてしまう。図14に示す関係は、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合に、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表現するものである。すなわち、主張型ポリシ10Aを抑制する主張型ポリシ10B,10Cが存在するため、妥協型ポリシが存在せず3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合には、主張型ポリシ10B,10Cが優先的に採用され、主張型ポリシ10Aは採用されない。これに対して、主張型ポリシ10Bを抑制する妥協型ポリシ11Aと、主張型ポリシ10Cを抑制する妥協型ポリシ11Bが存在するため、妥協型ポリシ11A,11Bが採用される場合には、主張型ポリシ10Aがこれら2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表している。
【0009】
ここで、図14中の補助ポリシ12A,12Bは、妥協型ポリシ11A,11Bの存在に対応して、優先度が低い主張型ポリシAの条件成立時に妥協型ポリシ11A,11Bを刺激するように、システムが自動的に生成するものである。補助ポリシ12A,12Bについては、濃度が閾値を超えても選択されることはない。妥協型ポリシ11Aが選択候補になるためには、補助ポリシ12Aの濃度が高くなる必要があり、同様に、妥協型ポリシ11Bが選択候補になるためには、補助ポリシ12Bの濃度が高くなる状態になる必要がある。ところが、補助ポリシ12Aは主張型ポリシ10Cから抑制される関係を持ち、補助ポリシ12Bは主張型ポリシ10Bから抑制される関係を持つ。このため、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合、補助ポリシ12A,12Bは主張型ポリシ10B,10Cから抑制されて選択される状態に至らず、結果、妥協型ポリシ11A,11Bが選択候補になることがない。すなわち、妥協型ポリシ11A,11Bが存在しないのと等価な状態となってしまう。この結果、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合であっても、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性がなくなり、想定されていたポリシが出力されず、妥当な運用が行われない虞がある。さらに、上記に例示した図14のケース以外にも、折角用意した妥協型ポリシ(妥協策)が無意味になってしまうケースが予想される。
【0010】
そこで本発明は、妥協型ポリシが選択され得るべき状況であるにもかかわらず当該妥協型ポリシが選択候補となることがない状態を解消することができるポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段とを有するポリシ検索システムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段を有し、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するようにしている。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段としてコンピュータを機能させるポリシ検索用プログラムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段としてコンピュータを機能させて、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するようにしている。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシをポリシデータベースに格納し、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、前記ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索方法において、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加するようにしている。
【0014】
図14に例示される妥協型ポリシが選択候補とならない問題は、ポリシ間の関係を有向グラフとしてみなしたとき、「抑制関係に関する閉路」が形成されていることに起因する。ここで、妥協型ポリシと、当該妥協型ポリシと関連して自動生成される補助ポリシとを一体と見なす。当該一体と見なした妥協型ポリシと補助ポリシを広義妥協型ポリシと呼ぶ。上記「抑制関係に関する閉路」を図14の例で説明すると、主張型ポリシ10Bは広義妥協型ポリシ13Aから抑制され、その広義妥協型ポリシ13Aは主張型ポリシ10Cから抑制され、その主張型ポリシ10Cは広義妥協型ポリシ13Bから抑制され、その広義妥協型ポリシ13Bは主張型ポリシ10Bから抑制される関係にあり、「抑制関係に関する閉路」が形成されていることが分かる。
【0015】
上記「抑制関係に関する閉路」が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシ(図14の例では主張型ポリシ10B,10C)および当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシ(図14の例では主張型ポリシ10A)の実行条件がすべて成立している場合に、上記閉路に含まれる妥協型ポリシ(図14の例では妥協型ポリシ11A,11B)が選択候補とならない問題が発生する。
【0016】
したがって、上記「抑制関係に関する閉路」を検出し、当該閉路に関連する主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合には、当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加することで、システム利用者の意図に沿って妥協型ポリシが選択されるようになる。これにより、折角用意した妥協型ポリシ(妥協策)が無意味になってしまう状況を回避できる。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のポリシ検索システムにおいて、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段をさらに有するようにしている。
【0018】
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載のポリシ検索用プログラムにおいて、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段としてコンピュータをさらに機能させるようにしている。
【0019】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のポリシ検索方法において、システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算するようにしている。
【0020】
この場合、妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが採用される場合には、妥協型ポリシが適切に抑制される関係を維持することができる。
【発明の効果】
【0021】
しかして請求項1記載のポリシ検索システムおよび請求項3記載のポリシ検索用プログラムおよび請求項5記載のポリシ検索方法によれば、妥協型ポリシが選択され得るべき状況であるにもかかわらず当該妥協型ポリシが選択候補となることがない状態を解消し、システム利用者の意図に沿った形で適切に妥協型ポリシを選択するようにできる。
【0022】
本発明によれば、通信網の運用管理など、専門的知識を必要とし、しかも、考慮すべき条件が数多く存在する業務を、効率的に支援することが可能となる
【0023】
さらに請求項2記載のポリシ検索システムおよび請求項4記載のポリシ検索用プログラムおよび請求項6記載のポリシ検索方法によれば、妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが採用される場合には、妥協型ポリシが適切に抑制される関係を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1から図19に本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの実施の一形態を示す。このポリシ検索方法は、積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシ10と、対立する2以上の主張型ポリシ10を両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシ10のうち非優先側の主張型ポリシ10を採用する妥協策が記述された妥協型ポリシ11とを少なくとも含むポリシをポリシデータベース2に格納し、ポリシを抗体と見なし、ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、抗原が表す状況が発生した場合に、該当するポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとにポリシの濃度を計算し更新していき、複数のポリシの中から濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、ポリシデータベース2に格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するものであり、ポリシをノードとし、ポリシ間の連結関係をリンクとして、人工免疫ネットワークの中からノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシ10および当該主張型ポリシ10に抑制された主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加するようにしている。
【0026】
さらに例えば本実施形態では、システム利用者から採用する旨の回答があった妥協型ポリシ11について、当該妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合に、当該主張型ポリシ10の上記妥協型ポリシ11に対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、追加した計算要素の上記妥協型ポリシ11に対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算するようにしている。
【0027】
本実施形態のポリシは、例えば、通信網の運用管理システムの運用方針が、「if『条件』then『処理内容』」の形式で記述されるものとしている。上記記述の中の『処理内容』の部分には、例えば通信網の運用管理システムの属性値の設定や通信装置を制御するための操作内容が記述される。また、上記記述の中の『条件』の部分は、上記『処理内容』を実行するための前提条件となるサービスまたは通信網の状況が記述される。通信網の運用管理におけるポリシの数は一般に多数(例えば数千のオーダ)であり、各ポリシは、例えばそれぞれ独立したファイル(即ちコンピュータが取り扱い可能な記憶・演算の単位)として、データベースに格納される。
【0028】
人工免疫ネットワークとは、生体の免疫系を工学的にモデル化し、情報処理に応用したものである。免疫系は、変化する状況に対応する能力が優れているとともに、複数の処理を同時に行う能力があるため、通信網や通信サービスの状況や運用者の要求が変化し、しかも複数のサービスを同時に扱う必要がある通信網の運用管理におけるポリシ選択に適している。本実施形態では、抗体および抗原の間の刺激・抑制関係によって構成される人工免疫ネットワークであるイディオタイプネットワークを利用する。
【0029】
例えば図2に示すように、抗体20は、抗体本体21のほかに、抗原22を認識する部分であるパラトープ23と、自らが他の抗体20’に抗原と認識される部分のイディオトープ24から構成される。抗体20は、自ら有するパラトープ23に対応する抗原22あるいはイディオトープ24が存在すると、刺激を受け、その血中濃度(以下、濃度とする。)を増加させる。一方、イディオトープ24に対応するパラトープ23を持つ別の抗体20’が存在すると、そのイディオトープ24を有する抗体20は抑制され、その濃度は低下する。生体の中では、濃度の高い抗体だけが効力を発揮する。刺激・抑制関係には、親和度(刺激親和度、抑制親和度)という係数が考えられている。大きな親和度を持つ刺激・抑制関係の場合には、抗体の濃度が低くても、刺激・抑制効果は比較的大きなものとなる。一方、小さな親和度を持つ刺激・抑制関係の場合には、抗体の濃度が高くても、刺激・抑制効果は比較的小さなものとなる。
【0030】
本実施形態の人工免疫ネットワークでは、サービスまたは通信網の状況が抗原として表現され、ポリシは抗体として表現される。ポリシの記述の中のif『条件』の部分が抗原に対する抗体のパラトープを表し、then『処理内容』の部分が抗体本体を表す。ここで、先に説明した「if『条件』then『処理内容』」の形式で記述されるポリシを特に操作記述ポリシと呼ぶ。一方、複数の操作記述ポリシの間の関係を記述するポリシを特に関連記述ポリシと呼ぶ。ただし、単にポリシというときは操作記述ポリシを指すものとする。操作記述ポリシは、積極的に採用すべき処理を示す主張型ポリシ10と、やむを得ず採用する処理を示す妥協型ポリシ11とに分類される。ポリシ間の関係は、図3に示す矢印25,26,27のいずれかで表現される。矢印25は一方が他方を刺激する関係を示す。矢印26は一方が他方を抑制する関係を示す。矢印27は一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係を示す。
【0031】
関連記述ポリシは、「許容不可ポリシ」と「優先ポリシ」と「状況変化ポリシ」と「同時刺激・抑制ポリシ」とに分類される。「許容不可ポリシ」は、ある主張型ポリシ10を実行する際に許容できない条件を示す。「優先ポリシ」は、2つの主張型ポリシ10,10間の優先順を設定する。「状況変化ポリシ」は、主張型ポリシ10に記述されている操作によって常に発生する状況を示す。「同時刺激・抑制ポリシ」は、複数の主張型ポリシ10を同時に刺激または抑制する。「許容不可ポリシ」「優先ポリシ」「状況変化ポリシ」は、いずれの場合も主張型ポリシ10どうしの関係に適用する。「許容不可ポリシ」および「優先ポリシ」は、図4に示すように、一端が抑制を示し他端が刺激を示す矢印27で表現される。図4の関係では、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合、優先側の主張型ポリシ10Bのみが選択される。「状況変化ポリシ」は、図5に示すように、一端側に刺激のみを示す矢印25で表現される。「同時刺激・抑制ポリシ」は、T細胞として表され、図6に示す同時抑制ポリシ28はサプレッサT細胞に対応し、図7に示す同時刺激ポリシ29はヘルパーT細胞に対応する。
【0032】
妥協型ポリシ11は、「対立する2以上の主張型ポリシを両立させる機能」または「対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する機能」を有するもので、必ず主張型ポリシ10とともに採用され、妥協型ポリシ11のみで採用されることはない。
【0033】
図8に、2つの主張型ポリシ10A,10Bを両立させる妥協型ポリシ11の例を示す。この場合、主張型ポリシ10Bに抑制される主張型ポリシ10Aを妥協型ポリシ11が刺激し、この妥協型ポリシ11を主張型ポリシ10Bが刺激するように、刺激だけの効果を持つ関係で妥協型ポリシ11を2つの主張型ポリシ10A,10Bに結び付ける。さらに、別の主張型ポリシ10Cが上記の妥協型ポリシ11を抑制することによって、妥協しないことも表現できる。
【0034】
図8の関係が設定されるケースを具体例を挙げて説明する。例えば、作業員が1名しかいない部署において、主張型ポリシ10Aとして「通信装置の保守点検を行う場合に作業員1名を割り当てる」という定義をし、主張型ポリシ10Bとして「通信装置の故障対応を行う場合に作業員1名を割り当てる」という定義をしたとする。妥協型ポリシ11が存在しない場合、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合(即ち、保守点検と故障対応の要請が同時にあった場合)、主張型ポリシ10Bのみが選択され、故障対応のみが実施される。一方、妥協型ポリシ11として「応援要員を獲得する」という定義を設定することで、2つの主張型ポリシ10A,10Bの条件が同時に成立する場合であっても、妥協型ポリシ11と共に対立する主張型ポリシ10A,10Bの双方を採用することができる。なお、妥協型ポリシ11については、ポリシ検索を実行するシステムが選択可能であると判断した後に、当該システムがシステム利用者に対して当該妥協型ポリシ11を採用するか否かの確認をするようにし、最終的な判断をシステム利用者に求めるようにすることが望ましい。さらに、主張型ポリシ10Cとして、「予算が逼迫しているならば、応援要員を手配できない」というものを定義しておくことで、そのような状況が発生している場合、妥協型ポリシ11は選択候補とならない。例えば、主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合には、主張型ポリシ10B,10Cだけが選択されることとなる。
【0035】
また図9に、対立する2以上の主張型ポリシ10のうち非優先側の主張型ポリシ10を採用する妥協型ポリシ11の例を示す。この場合、妥協しなければ優先される主張型ポリシ10Bを抑制し、非優先側の主張型ポリシ10Aを採用するような妥協が行われる。このような妥協を行う場合には、妥協型ポリシ11に加え補助ポリシ12を用意する。補助ポリシ12とは、非優先側の主張型ポリシ10Aのパラトープ(ポリシの記述の中のif『条件』の部分)と、妥協型ポリシ11の本体(then『処理内容』の部分)を併せ持つものであり、ポリシ検索を実行するシステムにより自動的に生成され、選択対象とはならない。妥協型ポリシ11は、優先側の主張型ポリシ10Bを抑制し、かつ主張型ポリシ10Bから刺激を受ける関係で結び付けられる。補助ポリシ12は、妥協型ポリシ11を刺激する関係で結び付けられる。
【0036】
図9の関係が設定されるケースを具体例を挙げて説明する。例えば、主張型ポリシ10Aとして「通信装置を点検する場合には通信装置を停止する」と定義し、主張型ポリシ10Bとして「迂回ルートが存在しない場合には作業日程を変更する」というものを定義する。仮に、ある通信装置を停止した場合に、迂回ルートが存在しなくなったならば、主張型ポリシ10A,10Bの条件に合致する状況がそれぞれ発生する。妥協型ポリシ11が存在せずこれら2つの主張型ポリシ10A,10Bだけの場合は、主張型ポリシ10Bだけが選択され、通信装置の点検作業は日程を変更しなければならない。これに対して、妥協型ポリシ11として、「その通信装置を利用している応用プログラムそのものが停止しているのであれば迂回ルートが存在しなくても良い」という定義を設けておくと、上記のように主張型ポリシ10A,10Bの条件に合致する状況がそれぞれ発生した場合でも、主張型ポリシ10Aと妥協型ポリシ11だけが選択される(主張型ポリシ10Bは選択されない)結果となる。
【0037】
なお、図4〜図9では、抗原(抗体であるポリシを刺激するサービスまたは通信網の状況)は省略している。抗原は、該当する状況が発生した段階で生成され、恒常的には存在しない。抗原に対応する状況が発生していることは、例えば、通信監視システムなどの別のシステムや管理者等のシステム利用者から入力される。
【0038】
ポリシ(抗体)の濃度は、以下の数式1および数式2に基づいて計算される。
【数1】
ただし、
ai(t):時間tにおける抗体iの濃度
b:抗体iを刺激する抗原の濃度
mji:抗体iに対する抗体jの刺激親和度
pji:抗体iに対する抗体jの抑制親和度
mi:抗体iに対する抗原の刺激親和度
nji:抗体iに対するT細胞jの刺激親和度または抑制親和度
Ci:T細胞iの濃度
Ki:抗体iの自然消滅率
N1:抗体iを刺激する抗体の種類数
N2:抗体iを抑制する抗体の種類数
N3:抗体iを刺激または抑制するT細胞の種類数
Ai(t):濃度ai(t+1)を計算するための値(免疫系に関する意味はない)
【数2】
【0039】
具体的には、数式1に基づいて算出されたAi(t)に関する勾配を基に、数式2を用いて、各ポリシ(抗体)の時刻(t+1)における濃度を計算する。なお、従来の濃度計算式の中には、抗体からの刺激・抑制効果を、抗体の種類で平均化する微分方程式を用いる場合があるが、これでは、抗原からの影響に比べ、特定の抗体から受ける影響が非常に小さくなるため、複数のポリシを同時に選択するには適さない。これに対して、数式1の微分方程式では、抗体からの刺激・抑制効果として各抗体からの影響の和を用いている。これによって、抗体からの影響が、ときに抗原からの刺激を上回る効果をもたらすことになる。また、従来のイディオトープでは、通常、抗体(ポリシ)間の影響力を示す親和度について、刺激と抑制に同じ値を用いるが、本実施形態では、刺激に関する親和度と抑制に関する親和度を別々に設定するようにしている。
【0040】
刺激親和度、抑制親和度、自然消滅率などのパラメータは、例えば抗原に刺激されていない抗体(ポリシ)が選択されないようにする等、実際の運用方針と整合性がとれるように適宜設定される。例えば、本実施形態では次のようにパラメータを設定している。主張型ポリシ10および補助ポリシ12の自然消滅率は0.1とし、妥協型ポリシ11の自然消滅率は1.5とする。抗体濃度ai(t)は0〜1の値をとるものとする。抗体濃度の初期値は演算結果に影響を与えないが、通常は0.0から始める。抗原濃度bの初期値は例えば1.0で固定とし、変化しないものとする。抗体に対する抗原の刺激親和度はデフォルト値で1とする。また、状況の変化に追従できるように数式2におけるA(t)の最大値を5、最小値を−5に制限する。
【0041】
図4,図5,図8,図9におけるような主張型ポリシ10Aの主張型ポリシ10Bに対する刺激親和度は、0.1以下とする。また、図7におけるようなT細胞(同時刺激ポリシ29)の主張型ポリシ10に対する刺激親和度も、0.1以下とする。但し、図10に示すように、複数のポリシB,Cが1のポリシAを刺激する場合には次の規則に従うものとする。即ち、ポリシAに対する抗原からの刺激がなくても、他のポリシ(図10の場合はポリシB,C)からの刺激でポリシAの濃度を増加させるためには、刺激親和度の総和を0.1以上に設定する。また、他のポリシ(図10の場合はポリシB,C)からの個々の刺激だけでは、ポリシAの濃度を増加させない場合には、上記他のポリシB,Cの個別の刺激親和度は0.1未満に設定する。
【0042】
また、図8におけるような主張型ポリシ10Bの妥協型ポリシ11に対する刺激親和度、妥協型ポリシ11の主張型ポリシ10Aに対する刺激親和度、図9における補助ポリシ12の妥協型ポリシ11に対する刺激親和度は、デフォルト値で1.0とする。
【0043】
また、図4,図8,図9におけるような主張型ポリシ10Bの主張型ポリシ10Aに対する抑制親和度は、1.0以下とする。また、図6におけるようなT細胞(同時抑制ポリシ28)の主張型ポリシ10に対する抑制親和度も、1.0以下とする。但し、図11に示すように、複数のポリシが1のポリシを抑制する場合には次の規則に従うものとする。即ち、複数のポリシ(図11の場合はポリシB,C)が揃って初めてポリシAを抑制する効果を持つ場合、上記複数のポリシ(ポリシB,C)からの抑制親和度の総和が1以上となるように設定する。また、複数のポリシ(ポリシB,C)からの個々の抑制効果だけではポリシAが抑制されない場合には、上記複数のポリシ(ポリシB,C)の個別の抑制親和度は1未満に設定する。複数のポリシ(ポリシB,C)からの個々の抑制効果だけでポリシAが抑制される場合には、上記複数のポリシ(ポリシB,C)の個別の抑制親和度を1に設定する。
【0044】
また、図12に示すように、妥協型ポリシ11(図12の場合はポリシA)を発動してはならない状況を示すポリシ(図12の場合はポリシB)からの抑制親和度は、妥協型ポリシ11(ポリシA)を刺激する親和度の総和よりも大きく(例えば2.0以上に)設定する。例えば図8の主張型ポリシ10Cの妥協型ポリシ11に対する抑制親和度は、2.0以上とする。
【0045】
以上のように、適切なパラメータが設定された人工免疫ネットワークについて、数式1および数式2に基づいて、時々刻々と抗体(ポリシ)の濃度が計算される(図13のS1〜S5参照)。そして、濃度が閾値(例えば0.7)を超えたポリシが選択され、採用される(S6)。
【0046】
上記に説明したポリシ検索方法を実行するポリシ検索システム1の構成例を図1に示す。このポリシ検索システム1は、複数のポリシがそれぞれ独立したファイルとして格納されたポリシデータベース2と、ポリシデータベース2に格納されている複数のポリシを用いて人工免疫ネットワークを構築し、一定の計算時間刻みごとにポリシ(抗体)の濃度計算を行い、濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段3と、人工免疫ネットワークの中から抑制関係の閉路を探索する閉路探索手段4と、閉路が存在し、かつ当該閉路に関連する主張型ポリシ10の実行条件がすべて成立している場合に、閉路に含まれる妥協型ポリシ11の採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段5と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段6と、システム利用者から採用する旨の回答があった妥協型ポリシ11について、当該妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合に、当該主張型ポリシ10の上記妥協型ポリシ11に対する抑制親和度に、追加した計算要素の上記妥協型ポリシ11に対する刺激親和度の値を加算する親和度調整手段7とを有している。
【0047】
このポリシ検索システム1は、例えば既存または新規のコンピュータ(計算機)を利用して実現される。このコンピュータは、例えば中央処理演算装置(CPU)、RAMやROMおよびハードディスクなどの記憶装置、キーボードやマウスなどの入力装置8、ディスプレイなどの出力装置9、他のシステムと通信を行うためのネットワークインターフェースなどのハードウェア資源がバスにより接続されて構成されている。このコンピュータ上で本発明に係るポリシ検索用プログラムが実行されることにより、コンピュータがポリシ検索システム1として機能する。コンピュータの記憶装置(例えばハードディスク)は、ポリシが格納されるポリシデータベース2として機能する。そして、CPUの演算機能および他のハードウェア資源に対する制御機能により、ポリシ選択手段3、閉路探索手段4、採否確認手段5、計算要素追加手段6、親和度調整手段7が実現される。
【0048】
抗原が表す状況が発生している場合、管理者等のシステム利用者により入力装置8を介してその旨がポリシ検索システム1に入力される。または、抗原が表す状況が監視システム30により自動的に検出され、当該状況が発生している旨がポリシ検索システム1に自動的に入力される。ポリシ選択手段3は図13のフローチャートに示す処理を実行し、発生状況に適合したポリシを選択する。
【0049】
また、ポリシ選択手段3により選択された発生状況に適合したポリシは、出力装置9としてのディスプレイに表示され、表示されたポリシに対応する処理が管理者等のシステム利用者により実行される。または、ポリシ選択手段3により選択されたポリシは、管理機能実行システム31に出力され、当該ポリシに対応する処理が管理機能実行システム31により自動的に実行される。なお、選択されたポリシを出力装置9としてのディスプレイに表示する際には、主たるポリシと、それに関連する従属的なポリシ(妥協型ポリシ11を含む)とを区別して、システム利用者に提示することが好ましい。
【0050】
なお、コンピュータをポリシ検索システム1として機能させるポリシ検索用プログラムは、オペレーティングシステムに依存しないオブジェクト指向型プログラミング言語であるJava(登録商標)を用いて構築することが好ましい。また、ポリシ検索用プログラムに読み込まれるポリシの定義(組み合わせ)は、複雑かつ可変であることから、XML(Extensible Markup Language)にて表現することが望ましい。
【0051】
ここで図14に示す関係は、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合に、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性があることを表現するものである。しかし、妥協型ポリシ11Aに関連する補助ポリシ12Aが主張型ポリシ10Cに抑制され、妥協型ポリシ11Bに関連する補助ポリシ12Bが主張型ポリシ10Bに抑制されているため、妥協型ポリシ11A,Bが選択候補に挙がって来ない。即ち、妥協型ポリシ11とそれに関連する補助ポリシ12とを一体と見なすと、抑制関係の閉路が形成され、妥協型ポリシ11A,11Bが存在しないのと等価な状態となってしまう。この結果、3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合であっても、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,11Bとともに採用される可能性がなくなり、想定されていたポリシが出力されず、妥当な運用が行われない虞がある。
【0052】
なお、図14の例では、一端が刺激を示し他端が抑制を示す矢印の刺激親和度はデフォルト値で0.03とし、抑制親和度はデフォルト値で1.0とする。また、一端側に抑制のみを示す矢印の抑制親和度はデフォルト値で1.0とする。ただし、さらにポリシが追加され、図10および図11に示すように複数のポリシが1のポリシを刺激または抑制する場合であって、刺激や抑制の関係についてAND条件(論理積)やOR条件(論理和)を考慮する場合には、図10および図11を用いて説明した規則に従って、これらの値は変化する。
【0053】
本実施形態の閉路探索手段4、採否確認手段5、計算要素追加手段6、親和度調整手段7では、例えば図15、図16および図20に示すフローチャートの処理を実行することにより、上記抑制関係の閉路に起因する問題を解決する。なお、図15、図16および図20の処理は、ポリシ選択のための濃度計算(図13のS3)以前に実行するようにする。また、人工免疫ネットワークにおけるすべてのポリシ(主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11、補助ポリシ12)をそれぞれノードと見なし、これらポリシ間の連結関係をリンクと見なす。
【0054】
まず、人工免疫ネットワークにおける2つのポリシ間の到達可能性を表す重み付け行列を計算する(図15のS101)。到達可能性には方向性を考慮する。例えば、妥協型ポリシ11および主張型ポリシ10からの探索方向は、他のポリシを抑制する方向のみに限定する。即ち、妥協型ポリシ11または主張型ポリシ10から他のポリシに移動するためには、移動後のノードである他のポリシを抑制する関係のリンクを介する必要があるものとする。一方、補助ポリシ12からの探索方向は、妥協型ポリシ11を刺激する方向のみに限定する。なお、ポリシ(ノード)間の関係は、ポリシ検索システム1において既に設定されているため、上述した方向性に関するデータを改めて用意する必要はない。
【0055】
重み付け行列の計算では、まず重み付け行列を初期化するためすべての重みを10000とした上で(図20のS301)、すべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12を1次選択群とする(S302)。この1次選択群の中から未選択のポリシを1つ選択し、選択したポリシを起点とする(S303)。次にすべてのポリシを2次選択群とする(S304)。この2次選択群の中から未選択のポリシを1つ選択し終点とする(S305)。始点と終点が同じポリシであれば(S306;Yes)、その間の重みを0とする(S307)。
【0056】
始点と終点が異なるポリシの場合で(S306;No)、始点が主張型ポリシかつ終点が補助ポリシであって、終点が始点に抑制されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S308;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0057】
前記の条件が満たされない場合で(S308;No)、始点が妥協型ポリシかつ終点が主張型ポリシであって、終点が始点に抑制されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S309;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0058】
前記の条件が満たされない場合で(S309;No)、始点が補助ポリシかつ終点が妥協型ポリシであって、終点が始点に刺激されかつ終点が抗原に刺激されている場合には(S310;Yes)、始点終点間の重みを1とする(S311)。
【0059】
上述した1次演算は1次選択群に含まれるすべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12について行い(S313)、2次演算は2次選択群に含まれるすべての主張型ポリシ10、妥協型ポリシ11および補助ポリシ12について行う(S312)。
【0060】
なお、始点終点間の重みを1とする条件成立の有無の判断は(S308、S309、S310)、前記の順序に限られるものではなく、3つのうちのいずれの条件から判断しても良い。
【0061】
次に、人工免疫ネットワークの中のすべての妥協型ポリシ11を1次選択群とする(S102)。この1次選択群の中から1つの妥協型ポリシ11を選択する(S103)。選択した妥協型ポリシ11を起点として、起点とは異なる到達可能なすべての妥協型ポリシ11を抽出する(S105)。このときの起点を1次起点と呼ぶ。また、このときの妥協型ポリシ11を抽出する演算を1次演算と呼ぶ。
【0062】
ここで、「到達可能なすべての妥協型ポリシ」には、起点から到達点までの経路の途中に他の妥協型ポリシ11が存在する場合も含む。
【0063】
上記到達可能なすべての妥協型ポリシ11の抽出には、例えば最短路問題を解くDijkstraのアルゴリズムを利用することができる。Dijkstraのアルゴリズムは、最短経路の探索に利用されるが、目的とするノードの到達可能性の判定にも利用できる。即ち、1次起点として選択した妥協型ポリシ11を除く他の妥協型ポリシ11をそれぞれ目的ノードとして、最短路問題を解くDijkstraのアルゴリズムにより、1次起点から上記目的ノードに到達可能であるか否か、先に計算した重み付け行列を用いて判定する。
【0064】
到達可能であると判定されたすべての妥協型ポリシ11を2次選択群とする(S106)。次に、2次選択群の中から1つの妥協型ポリシ11を選択する(S107)。選択した妥協型ポリシ11を起点として、上記と同じDijkstraのアルゴリズムを用いた手順で、起点とは異なる到達可能なすべての妥協型ポリシ11を抽出する(S108)。このときの起点を2次起点と呼ぶ。また、このときの妥協型ポリシ11を抽出する演算を2次演算と呼ぶ。そして、上記2次演算により抽出された妥協型ポリシ11の中に、1次起点として選択した妥協型ポリシ11が含まれるか、判定する(S109)。
【0065】
含まれるのであれば(S109;Yes)、人工免疫ネットワークの中に抑制関係の閉路が存在すると判断でき、含まれていなければ(S109;No)、閉路は存在しないと判断できる。閉路が存在すると判断される場合(S109;Yes)、1次演算で探索された1次起点から2次起点までの経路と、2次演算で探索された2次起点から1次起点までの経路とを結合したものが、閉路として認識される。なお、上述したように本実施形態の閉路探索では探索方向を考慮しているため、1次起点から2次起点までの経路(往路)と、2次起点から1次起点までの経路(復路)とが重なってしまうことはない。
【0066】
閉路が存在する場合には(S109;Yes)、閉路対策処理(S110)に移行する。閉路が存在しない場合には(S109;No)、閉路対策処理(S110)は実行しない。上述した1次演算は1次選択群に含まれるすべての妥協型ポリシ11について行い(S112)、2次演算は2次選択群に含まれるすべての妥協型ポリシ11について行う(S111)。ただし、閉路対策処理(S110)により、システム利用者からの回答を反映した計算要素が追加されている妥協型ポリシ11については、1次演算を省略する(S104)。上述した図15に示す処理を行うことにより、図14のように2つの妥協型ポリシ11が存在する閉路のみならず、3つ以上の妥協型ポリシ11が存在する閉路であっても、検出可能となる。
【0067】
閉路対策処理では、まず図16に示すように、1次起点となった妥協型ポリシ11についての採否をシステム利用者に問い合わせる(S201)。例えば上記採否を問い合わせるダイアログボックスをGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を利用して出力装置9としてのディスプレイに表示する。システム利用者は、上記システム1からの問い合わせに対して、入力装置8を用いて回答することができる。
【0068】
システム利用者から採用する旨の回答があった場合には(S202;Yes)、採用予定となった妥協型ポリシ11を刺激する計算要素を追加する(S203)。採用予定の妥協型ポリシ11に対する当該計算要素の刺激親和度は、他の状況に影響されずともシステムが当該妥協型ポリシ11を選択するものに設定される。例えば本実施形態では、当該刺激親和度を1.0に設定する。図17は、システム利用者から妥協型ポリシ11Aを採用する旨の回答があった場合の計算要素が追加された例を示し、符号14が追加された計算要素を示す。
【0069】
一方、システム利用者から不採用の旨の回答があった場合には(S202;No)、不採用予定となった妥協型ポリシ11を抑制する計算要素を追加する(S206)。不採用予定の妥協型ポリシ11に対する当該計算要素の抑制親和度は、他の状況に影響されずともシステムが当該妥協型ポリシ11を選択しないものに設定される。例えば本実施形態では、当該抑制親和度を1.0に設定する。
【0070】
また、本実施形態では、2次起点となった妥協型ポリシ11についても、上記と同様に、採否をシステム利用者に問い合わせ(S208,S209)、回答に応じて計算要素を追加するようにしている(S210またはS213)。ただし、システム利用者からの回答を反映した計算要素が追加されている妥協型ポリシ11については、上記処理を行わない(S207)。
【0071】
以上により、抑制関係の閉路が形成されることにより妥協型ポリシ11が存在しないのと等価な状態となってしまう状態が回避され、システム利用者の意図に沿ったポリシが選択される。例えば図14において3つの主張型ポリシ10A,10B,10Cの条件がすべて成立している場合において、システム利用者が妥協型ポリシ11A,11Bの採用を望むのであれば、主張型ポリシ10Aが2つの妥協型ポリシ11A,10Bとともに採用されることとなる。
【0072】
さらに例えば本実施形態では、採用する対象となった妥協型ポリシ11を抑制する主張型ポリシ10が存在する場合には(図16のS204およびS211;Yes)、当該主張型ポリシ10の抑制親和度を再計算するようにしている(S205,S212)。具体的には、主張型ポリシ10の妥協型ポリシ11に対する抑制親和度に、上記妥協型ポリシ11に対して追加した計算要素の刺激親和度の値を加算する。
【0073】
例えば図18は、図14の一部を取り出して、さらに妥協型ポリシ11Aを抑制する主張型ポリシ10Dが存在した場合を示す。主張型ポリシ10Dの妥協型ポリシ11Aに対する抑制親和度は1.0に設定されている。その後、図19に示すように、図17の場合と同様に妥協型ポリシ11Aについて採用する旨の回答がシステム利用者からあり、妥協型ポリシ11Aを刺激親和度1.0で刺激する計算要素14が追加されると、主張型ポリシ10Dの妥協型ポリシ11Aに対する抑制親和度は2.0に再設定される。これにより、妥協型ポリシ11Aを抑制する主張型ポリシ10Dが採用される場合には、妥協型ポリシ11Aが適切に抑制される関係を維持することができる。
【0074】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のポリシ検索システムの実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】人工免疫ネットワークの一例を示す概念図である。
【図3】ポリシ間の関係を表現する矢印を説明する図である。
【図4】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した一例を示す図である。
【図5】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図6】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図7】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した他の例を示す図である。
【図8】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、2つの主張型ポリシを両立させる妥協型ポリシの例を示す。
【図9】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協型ポリシの例を示す。
【図10】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、複数のポリシが1のポリシを刺激する場合を示す。
【図11】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、複数のポリシが1のポリシを抑制する場合を示す。
【図12】パラメータを設定する規則を説明するための図であり、妥協型ポリシを発動してはならない状況を示すポリシが存在する場合を示す。
【図13】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、ポリシを選択する処理を示すフローチャートである。
【図14】人工免疫ネットワークをポリシ間の関係に適用した例を示し、抑制関係の閉路が形成される事例を示す。
【図15】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、閉路を探索する処理を示すフローチャートである。
【図16】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、システム利用者への問い合わせに対する回答により計算要素を追加する処理を示すフローチャートである。
【図17】図14に対して、妥協型ポリシを採用する旨の回答がシステム利用者より得られた後のポリシ間の関係を示す。
【図18】図14の一部を取り出して、さらに妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在した場合を示す。
【図19】図18に対して、妥協型ポリシを採用する旨の回答がシステム利用者より得られた場合に、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシの抑制親和度が修正される様子を示す。
【図20】本発明のポリシ検索システムおよび方法およびポリシ検索用プログラムの処理の一例を示し、ポリシ間の到達可能性を表す重み付け行列を計算する処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 ポリシ検索システム
2 ポリシデータベース
3 ポリシ選択手段
4 閉路探索手段
5 採否確認手段
6 計算要素追加手段
7 親和度調整手段
8 入力装置
9 出力装置
10 主張型ポリシ
11 妥協型ポリシ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段とを有するシステムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段を有することを特徴とするポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索システム。
【請求項2】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載のポリシ検索システム。
【請求項3】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段としてコンピュータを機能させるプログラムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段としてコンピュータを機能させ、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索用プログラム。
【請求項4】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段としてコンピュータをさらに機能させることを特徴とする請求項3記載のポリシ検索用プログラム。
【請求項5】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシをポリシデータベースに格納し、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、前記ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択する方法において、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加することを特徴とするポリシ検索方法。
【請求項6】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算することを特徴とする請求項5記載のポリシ検索方法。
【請求項1】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段とを有するシステムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段を有することを特徴とするポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索システム。
【請求項2】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載のポリシ検索システム。
【請求項3】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシが格納されたポリシデータベースと、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択するポリシ選択手段としてコンピュータを機能させるプログラムにおいて、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索する閉路探索手段と、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせる採否確認手段と、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加する計算要素追加手段としてコンピュータを機能させ、ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択するポリシ検索用プログラム。
【請求項4】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算する親和度調整手段としてコンピュータをさらに機能させることを特徴とする請求項3記載のポリシ検索用プログラム。
【請求項5】
積極的に採用すべき処理が記述された主張型ポリシと、対立する2以上の主張型ポリシを両立させる妥協策または対立する2以上の主張型ポリシのうち非優先側の主張型ポリシを採用する妥協策が記述された妥協型ポリシとを少なくとも含むポリシをポリシデータベースに格納し、前記ポリシを抗体と見なし、前記ポリシの実行条件を成立させる状況を抗原と見なした人工免疫ネットワークを構築し、前記ポリシ間を、一方が他方を刺激する関係または一方が他方を抑制する関係または一方が他方を刺激すると共に当該他方が当該一方を抑制する関係で連結し、予め設定されたパラメータに基づいて、前記抗原が表す状況が発生した場合に、該当する前記ポリシを刺激すると共に、一定計算時間刻みごとに前記ポリシの濃度を計算し更新していき、複数の前記ポリシの中から前記濃度が予め定めた閾値を超えたポリシを選択することで、前記ポリシデータベースに格納された複数のポリシの中から発生状況に適合したポリシを選択する方法において、前記ポリシをノードとし、前記ポリシ間の連結関係をリンクとして、前記人工免疫ネットワークの中から前記ノードが抑制関係のリンクで順次連結された閉路を探索し、前記閉路が存在し、かつ当該閉路内に存在するすべての主張型ポリシおよび当該主張型ポリシに抑制された主張型ポリシの実行条件がすべて成立している場合に、前記閉路に含まれる妥協型ポリシの採否をシステム利用者に問い合わせ、システム利用者から採用する旨の回答があった場合に当該妥協型ポリシを刺激する計算要素を新たに追加することを特徴とするポリシ検索方法。
【請求項6】
システム利用者から採用する旨の回答があった前記妥協型ポリシについて、当該妥協型ポリシを抑制する主張型ポリシが存在する場合に、当該主張型ポリシの上記妥協型ポリシに対する抑制効果の度合を示す抑制親和度に、前記追加した計算要素の上記妥協型ポリシに対する刺激効果の度合を示す刺激親和度の値を加算することを特徴とする請求項5記載のポリシ検索方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−134267(P2006−134267A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325655(P2004−325655)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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