説明

ポリスチレン系樹脂フィルム及び積層発泡シート

【課題】ポリスチレン系樹脂フィルムや、ポリスチレン系樹脂フィルムからなる表面層と発泡層とを備えている積層発泡シートなどにおける高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図る。
【解決手段】リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤が含有されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂フィルムなどを提供する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子型帯電防止剤を含有するポリスチレン系樹脂フィルム、及び、ポリスチレン系樹脂フィルムからなる表面層と、発泡層とを有する積層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂フィルムは、そのベース樹脂となるポリスチレン系樹脂が比較的安価であるばかりでなく、ポリスチレン系樹脂が成形性や加工性においても優れていることから製造に要するコストも低く、安価な商品として市販されている。
また、ポリスチレン系樹脂フィルムは、耐熱性や機械的強度に優れていることから、食品容器などを初めとして各種の用途に採用されている。
しかし、ポリスチレン系樹脂フィルムは、静電気によって帯電されやすく、保管中に挨等が付着して汚れを生じやすいという問題や、電気・電子部品に関連する用途に利用された場合にこれらに対して静電気が悪影響を及ぼすおそれを有する。
【0003】
このようなポリスチレン系樹脂フィルムの帯電による諸問題は、フィルム表面の表面抵抗率の値を低下させることで防止されることが知られており、例えば、一般的なポリスチレン系樹脂では、樹脂単体のフィルムの表面抵抗率の値が、通常、1015(Ω/□)オーダーを超えるレベルであるのに対してこれを1013(Ω/□)オーダー以下に低下させることで上述のような問題の発生が防止され得ることが知られている。
【0004】
この表面抵抗率を低下させる手法として、ポリスチレン系樹脂フィルムの形成に用いる樹脂組成物中に帯電防止剤と呼ばれる成分を含有させる方法が採用されており、従来、界面活性剤などのような成分を原材料中に含有させることが行われている。
この界面活性剤などの、分子量が1000程度、あるいは、それ以下のものは“低分子型帯電防止剤”とも呼ばれており、これらの低分子型帯電防止剤は、帯電防止に有効ではあるもののポリマー中における拡散速度が大きいため時間経過とともにポリスチレン系樹脂フィルム表面に滲出して、いわゆる“ブリードアウト”するという問題を発生させるおそれを有する。
【0005】
近年、このようなことから、低分子型帯電防止剤に代えて分子量が1000を超え、数万に及ぶような高分子量の物質で帯電防止に有効な、いわゆる“高分子型帯電防止剤”の利用が検討されている(下記特許文献1参照)。
この高分子型帯電防止剤としては、エーテル結合やエステル結合を含んだ極性ブロックと、アルキルなどからなる非極性ブロックとを有する共重合体などが知られており、この種の高分子型帯電防止剤は、ポリマー中における移行性が低いことからブリードアウトなどの問題を抑制させることができる。
一方で、高分子型帯電防止剤は、比較的、大量に配合しないと効果が発揮されず、しかも、ポリスチレン系樹脂に比べてはるかに高価であるためポリスチレン系樹脂フィルムの材料コストを増大させてしまいポリスチレン系樹脂フィルムの汎用性を低下させてしまうおそれを有する。
【0006】
このようなことを防止すべく高分子型帯電防止剤を少ない量で有効に作用させるための検討が広く行われているが、その手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−274031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高分子型帯電防止剤を含有するポリスチレン系樹脂フィルムや、このようなポリスチレン系樹脂フィルムを表面層として備えている積層発泡シートなどにおいて、高分子型帯電防止剤の使用量の低減を図りつつ帯電防止を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討を行なったところ、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤が、リチウムイオンを実質上含有していない高分子型帯電防止剤に比べてポリスチレン系樹脂フィルムに対する帯電防止効果が特に優れており、ポリスチレン系樹脂フィルムなどに少量含有させるだけで十分な帯電防止効果が発揮されることを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
上記課題を解決するためのポリスチレン系樹脂フィルムに係る本発明は、リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤が含有されていることを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決するための積層発泡シートに係る本発明は、ポリスチレン系樹脂フィルムからなる表面層と、発泡層とを有する積層発泡シートであって、前記ポリスチレン系樹脂フィルムには、リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤が含有されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
高分子型帯電防止剤の中でもリチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤は、ポリスチレン系樹脂フィルムに対する帯電防止効果に優れている。
従って、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤を用いることで、高分子型帯電防止剤の使用量を低減させつつも求められる帯電防止効果をポリスチレン系樹脂フィルムに発揮させうる。
【0013】
なお、本発明においては、ポリスチレン系樹脂フィルムが、ポリスチレン系樹脂と、リチウムイオンを含有する前記高分子型帯電防止剤とを含有し、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも1種であり、且つ前記ポリスチレン系樹脂に対して非相溶性を示す非相溶性樹脂をさらに含有していることが好ましい。
そして、該ポリスチレン系樹脂フィルムは、前記高分子型帯電防止剤として、前記ポリスチレン系樹脂と前記非相溶性樹脂との両方に非相溶性を示すものが採用されており、該高分子型帯電防止剤と前記非相容性樹脂とが、該非相容性樹脂を含むコアと前記高分子型帯電防止剤を含むシェルとを有するコアシェル状粒子となって前記ポリスチレン系樹脂中に分散されていることが好ましい。
【0014】
これは、一般に高分子型帯電防止剤は、ポリスチレン系樹脂フィルム及び積層発泡シートの表面層の形成に用いられるのに際してポリスチレン系樹脂を主たる成分とするマトリックス相中に粒子状に分散して分散相を形成し、その粒子表面の電気伝導性を利用してポリスチレン系樹脂フィルム等の表面に帯電防止効果を発揮させるためである。
即ち、この粒子状に分散された高分子型帯電防止剤は、主として粒子表面において帯電防止効果を発揮するために、粒子内部を構成している高分子型帯電防止剤は、表面を構成している高分子型帯電防止剤に比べて帯電防止効果に対する寄与率が低いことになる。
このような帯電防止効果の発現機構に対して、本発明の好ましい態様によれば、ポリスチレン系樹脂フィルムの形成に用いられるポリスチレン系樹脂組成物に、ポリスチレン系樹脂とともにポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも一種で前記ポリスチレン系樹脂に非相溶性を示す非相溶性樹脂が含有されている。
【0015】
そして、本発明の好ましい態様によれば、前記高分子型帯電防止剤が、前記ポリスチレン系樹脂と前記非相溶性樹脂との両方に非相溶性を示し、該高分子型帯電防止剤と前記非相容性樹脂とが、コアシェル状粒子となって前記ポリスチレン系樹脂中に分散される。
即ち、前記非相容性樹脂を用いて帯電防止にあまり効果の期待できないコア部を形成させ、且つ前記高分子型帯電防止剤を用いて帯電防止に対する効果の高いシェル部を形成させ得ることから、本発明の好ましい態様によれば、高分子型帯電防止剤の使用量の低減をさらに図りつつ帯電防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第二実施形態に係る積層発泡シートの構造を示す断面図。
【図2】他態様の積層発泡シートの構造を示す断面図。
【図3】エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂と高分子型帯電防止剤の分散状態を観察したTEM像。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
本発明に係る第一の実施形態としてポリスチレン系樹脂フィルムについて、以下に説明する。
まず、前記ポリスチレン系樹脂フィルムを形成するためのポリスチレン系樹脂組成物について説明する。
【0018】
本実施形態において用いられる前記ポリスチレン系樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂(A)と、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤(B)とを含有し、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも1種であり、且つ前記ポリスチレン系樹脂(A)に対して非相溶性を示す非相溶性樹脂(C)をさらに含有している。
なお、本実施形態においては、前記高分子型帯電防止剤(B)として、前記ポリスチレン系樹脂(A)と前記非相溶性樹脂(C)との両方に非相溶性を示すものが採用されており、該高分子型帯電防止剤(B)と前記非相容性樹脂(C)とが、該非相容性樹脂(C)を含むコアと前記高分子型帯電防止剤(B)を含むシェルとを有するコアシェル状粒子となって前記ポリスチレン系樹脂(A)中に分散されている。
即ち、本実施形態に係るポリスチレン系樹脂フィルムには、前記ポリスチレン系樹脂を主成分とするマトリックス相と、前記高分子型帯電防止剤(B)及び前記非相容性樹脂(C)を主成分とする分散相とが形成されている。
【0019】
前記ポリスチレン系樹脂(A)は、特に限定されるものではなく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられる。
【0020】
また、上記ポリスチレン系樹脂(A)としては、上記スチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体と、上記スチレン系単量体との共重合体であってもよく、このようなビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体などが挙げられる。
【0021】
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをポリスチレン系樹脂として用い得る。
これらのホモポリマーやコポリマーは、単独で、または複数を混合してポリスチレン系樹脂組成物に含有させることができる。
【0022】
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂としては、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(以下「HIPS」ともいう)か、又は、汎用ポリスチレン樹脂(以下、「GPPS」ともいう)のいずれかが好適である。
なお、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)とは、前記スチレン系単量体など以外にブタジエンなどのゴム成分を含有するものであり、例えば、該ゴム成分がスチレン系単量体と共重合しているコポリマーや、該コポリマーと他のホモポリマーあるいはコポリマーとのブレンド樹脂などが挙げられる。
また、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)とは、添加剤等を除いた成分が実質上スチレンホモポリマーのみで構成されたものである。
これらのポリスチレン系樹脂は、いずれも、多くの種類が市販されており、求める特性のものが入手容易であるばかりでなく比較的安価である点においても好適である。
【0023】
前記高分子型帯電防止剤(B)としては、リチウムイオンを含有するものを用いることが重要であり、なかでも、ポリオレフィン系ブロックとポリエーテル系ブロックとのブロック共重合体で、該ポリエーテル系ブロックによるイオン伝導性をリチウムイオンによって向上させたものが好ましい。
なお、リチウムイオンはアルカリ金属の中でもイオン半径が最も小さく、イオン移動の自由度が最も高いために、イオン伝導によって速やかに静電気を逸散し帯電圧を減衰させることができるものと考えられる。
前記高分子型帯電防止剤によってリチウムイオンがポリスチレン系樹脂中に存在することにより、優れた帯電防止性能が持続的に安定して発揮される。
リチウムイオンは、具体的にはリチウム塩のような形で高分子型帯電防止剤に含有させることができ、リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム、メタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸リチウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸リチウムが挙げられ、中でも好ましいのは塩化リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムが挙げられる。
【0024】
なお、高分子型帯電防止剤にリチウムイオンが含有されているかどうかは、金属元素量測定により判断することができる。
より具体的には、以下のような測定を行って溶出金属元素を測定した際に、50μg/g以上のリチウムの存在が確認されることで判断することができる。

(測定試料の前処理)
まず、50mlのポリ容器を蒸留水で満たした後、70℃、2時間の条件にて加熱洗浄する。
加熱洗浄した空の50mlポリ容器中に試料を1g精秤し、蒸留水50mlを加えて容器に蓋をし、密閉する。
その密閉容器を、温度が60℃に設定された乾燥機中に入れて20分間加熱し、手で良く振とうした後にさらに20分間加熱する。
そして、合計で40分間加熱した後に再度手で良く振とうし、液体の上澄み液を採取し、測定試料とする。

(測定)
金属元素量の測定は、マルチタイプICP発光分光分析装置(島津製作所社製:ICPE−9000)を用い行うことができる。
定量に用いる検量線作成用の標準液は、SPEX社製XSTC−13(31元素汎用混合標準液各10ppm)、およびSPEX社製XSTC−8(13元素汎用混合標準液各10ppm)より得られる。
これら混合標準液を蒸留水で段階的に希釈調製して0ppm(BK)、0.2ppm、1ppm、2.5ppm、5ppm標準液を作製する。
各濃度の標準液を下記条件にて測定し、各元素の波長のピーク強度を得る。
濃度とピーク強度をプロットして最小二乗法により近似曲線(直線あるいは二次曲線)を求め、これを定量用の検量線とし、金属元素量の定量を下記の測定条件により行う。

(測定条件)
観測方向:軸方向、露光時間:30秒
高周波出力:1.20kW
キャリアープラズマ補助流量:0.7−10.0−0.6L/分
【0025】
該高分子型帯電防止剤(B)とともにコアシェル状粒子を形成させるための前記非相溶性樹脂(C)の内、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などが挙げられ、なかでもポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好適である。
前記ポリエチレン(PE)系樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、直鎖低密度ポリエチレン樹脂、高圧法によって得られる長鎖分岐を有する低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
前記ポリプロピレン(PP)系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、前記ポリプロピレン(PP)系樹脂として共重合体を採用する場合には、プロピレン以外のオレフィンを共重合体中に0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜10質量%の割合で含有させたものを用いることが望ましい。この場合のオレフィン成分としては、エチレン、あるいは、炭素数4〜10のα−オレフィンを挙げることができる。
【0026】
また、前記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物を用いることができる。
なお、本明細書中における“(メタ)アクリル”との用語は、“メタクリル”と“アクリル”との両方を含む意味で用いている。
【0027】
より、具体的には、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸、メタクリル酸:アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル:例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチルまたはアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0028】
さらに、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基または加水分解性アルコキシシリル基などを有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0029】
加えて、前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、アクリルアミド類またはメタクリルアミド類:例えばアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−ブトキシメチルアクリルアミドやN−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0030】
また、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アク
リル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
【0031】
これらのモノマー成分は、単独で、または複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明で用いられるアクリル系樹脂は、上記に例示の各種のモノマー成分の内のいずれかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であってもよい。
さらに、本実施形態においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系樹脂として用い得る。
【0032】
この、上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に制限されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニルなどのビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。
【0033】
本実施形態におけるアクリル系樹脂としては、上記アクリル系のモノマー成分を単独、または複数用いたものの中では、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が好適であり、PMMA樹脂は安価な市販品を入手することが容易である点などからも好適である。
また、上記アクリル系モノマー以外のモノマー成分と上記アクリル系モノマー成分とのコポリマーであれば、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)樹脂が好適である。
【0034】
前記ポリ乳酸系樹脂としては、ポリD−乳酸樹脂、ポリL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸樹脂、ポリD−乳酸樹脂とポリL−乳酸樹脂との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体をあげることができ、これらは、単独、または、複数混合した状態でポリオレフィン系樹脂組成物に含有させうる。
【0035】
なお、通常、Fedorsの式によって求められる溶解度パラメータ(SP値)の値の差が0.5〜1.0以下のポリマーどうしは極性等を近似させており相溶性を示すといわれている。
一方でこれ以上SP値が離れると非相溶性を示すようになるといわれている。
したがって、高分子型帯電防止剤がポリスチレン系樹脂に対して非相溶性を示すかどうか、或いは、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内、具体的にどのような樹脂が非相溶性樹脂として利用可能かどうかについてはそれぞれのSP値を指標とすることができる。
例えば、Fedorsの式によれば、一般的なポリスチレン系樹脂は、8.5〜10程度のSP値を示すとされているため、このポリスチレン系樹脂のSP値に対して0.5以上、好ましくは1.0以上乖離したSP値を有する高分子型帯電防止剤を採用すればポリスチレン系樹脂に対して非相溶性を示すと予測することができる。
また、このような指標は非相溶性樹脂の選択に際しても同じである。
【0036】
なお、ポリスチレン系樹脂や高分子型帯電防止剤(あるいは、非相溶性樹脂)の分子構造を十分特定できないために溶解度パラメータの値を正確に計算することが困難な場合であれば、選択した樹脂どうしを実際に溶融混合して非相溶性を示すかどうかを直接確認することができる。
例えば、ポリスチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤とを適度な割合でブレンドしたものや、非相溶性樹脂と高分子型帯電防止剤とを適度な割合でブレンドしたものをT−ダイが装着された押出機に供給して樹脂フィルムを作製し、該樹脂フィルムを走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察してこれらの樹脂の分離状況から相溶性を確認することができる。
即ち、一方の樹脂によってマトリックス相が形成され、他方の樹脂によって分散相が形成されているような場合であれば、これらの樹脂は相溶性を有していない(非相溶性を示す)ものとみなすことができる。
【0037】
本実施形態のポリスチレン系樹脂組成物における前記ポリスチレン系樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)、及び、非相溶性樹脂(C)の配合割合などは特に限定されるものではないが、ポリスチレン系樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×108〜1×1013Ω/□のいずれかであることが好ましいことから、このような表面抵抗率をポリスチレン系樹脂フィルムに付与させ得るものの中で、より高分子型帯電防止剤の含有量の低減が可能な配合割合を選択することが好ましい。
なお、ポリスチレン系樹脂フィルムの表面抵抗率は、1×109〜1×1012Ω/□のいずれかとなるように調整することがより好ましく、1×109〜1×1011Ω/□のいずれかとすることが最も好ましい。
このような表面抵抗率の値をポリスチレン系樹脂フィルムに付与させるためには、前記非相溶性樹脂をポリスチレン系樹脂組成物に1〜20質量%含有させることが好ましく、1〜15質量%含有させることがより好ましい。
【0038】
また、前記高分子型帯電防止剤は、ポリスチレン系樹脂組成物全体に占める割合が2〜30質量%の内のいずれかとされることが好ましい。
この、高分子型帯電防止剤の下限値が、2質量%とされているのは、これよりも少ない含有量の場合には、ポリスチレン系樹脂フィルムに十分な帯電防止効果が発揮されないおそれを有するためであり、上限値が30質量%とされているのは、これを超えて高分子型帯電防止剤を含有させても、その含有量に見合う帯電防止効果が得られにくいばかりでなくポリスチレン系樹脂フィルムの材料コストを増大させてしまうおそれがあるためである。
なお、このような観点からは、前記高分子型帯電防止剤は、ポリスチレン系樹脂組成物全体に占める割合が3〜20質量%の内のいずれかとなる割合で含有されることが好ましく、ポリスチレン系樹脂組成物全体に占める割合が5〜10質量%の内のいずれかとなる割合で含有されることが特に好ましい。
【0039】
なお、高分子型帯電防止剤とポリスチレン系樹脂とは、その溶融特性を相違させていることが好ましく、特に、同じ温度におけるメルトフローレート(MFR)に代表される流れ特性を相違させていることが好ましい。
例えば、高分子型帯電防止剤をJIS K 7210の条件M(試験温度:230℃、公称荷重2.16kg)に基づいて測定したメルトフローレートが30g/10min以上となるような高フローのものである場合には、この高分子型帯電防止剤を含有させるポリスチレン系樹脂のメルトフローレートは、JIS K 7210の条件H(試験温度:200℃、公称荷重5.00kg)に基づいて測定した場合に2.0g/10min以下であることが好ましい。
【0040】
このように高分子型帯電防止剤とポリスチレン系樹脂との流れ特性を設定することにより、後述する押出し成形時においてこれらの分散状態を帯電防止に好適な態様とさせることができる。
【0041】
なお、ここでは詳述しないが、本実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムの形成に用いられるポリスチレン系樹脂組成物には、一般的なポリマーフィルムの形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、顔料、充填剤などを添加剤として適宜含有させることができる。
【0042】
なお、帯電防止効果を高めるために、アルキルベンゼンスルホン酸塩、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を併用してもよい。
ただし、これらの添加によって、溶出イオン量が増加することがあるので使用量は、ポリスチレン系樹脂組成物に含有される帯電防止剤(高分子型帯電防止剤+低分子型帯電防止剤)の合計量に占める割合が0.5質量%未満となるように含有させることが好ましい。
【0043】
次いで、このようなポリスチレン系樹脂組成物を用いてポリスチレン系樹脂フィルムを製造する製造方法について説明する。
本実施形態においては、一般的なフィルム製造方法に用いられる方法を採用することができ、例えば、ポリスチレン系樹脂フィルムの主成分である前記ポリスチレン系樹脂と、前記非相溶性樹脂と、前記高分子型帯電防止剤とを含有するポリスチレン系樹脂組成物を作製する樹脂混練工程を実施した後に、得られたポリスチレン系樹脂組成物をフィルム状に押出し加工する押出し工程を実施する方法などを採用しうる。
以下に、それぞれの工程に関して、より具体的に説明する。
【0044】
(樹脂混練工程)
まず、ポリスチレン系樹脂と、非相溶性樹脂及び、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤と、必要に応じてスリップ剤、防曇剤等の添加剤とを計量してタンブラーブレンダー、へンシェルミキサーなどでドライブレンドした後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで各配合材料が略均一に混合された状態となるように溶融混練する。
その後、混練物をストランド状に押出してペレタイズするか、ホットカットしてペレット化するなどしてポリスチレン系樹脂組成物からなるペレットを作製する。
【0045】
(押出し工程)
上記樹脂混練工程で得られたペレットを熱溶融状態でフィルム状に押出し加工する方法としては、例えば、サーキュラーダイなどから押出してインフレーション法によってフィルム化したり、T−ダイなどから押出してキャスト法によってフィルム化したりする方法があげられる。
この内、T−ダイなどのフラットダイでは、押出し方向への延伸が容易である一方で幅方向への延伸のためにはテンターなどの設備を要することから、幅方向への延伸も容易なサーキュラーダイを用いた押出し工程を実施することが好ましい。
【0046】
この混練工程、及び、押出し工程における加熱溶融状態での混合に際して、例えば、ポリエチレン系樹脂を配合したポリスチレン系樹脂組成物を作製させたとするとポリスチレン系樹脂に対してポリエチレン系樹脂が非相溶性を示し、該ポリエチレン系樹脂による分散相が前記ポリスチレン系樹脂を含むマトリックス相に分散された状態となる。
すなわち、ポリエチレン系樹脂による分散相の形成された海島構造が溶融状態の樹脂組成物中に形成される。
このとき、ポリエチレン系樹脂に対して親和性の高いポリオレフィンブロックと、ポリスチレン系樹脂に対して親和性の高いポリエーテルブロックとを有する共重合体(高分子型帯電防止剤)がこの分散相とマトリックス相との界面に集合して、コアシェル状粒子を形成させることになる。
また、コアシェル状粒子のシェル部は、リチウムイオンを含有する帯電防止性能に優れた高分子型帯電防止剤を主体として形成されるため、当該コアシェル状粒子を取り巻くマトリックス相(ポリスチレン系樹脂)との界面に沿って電気抵抗の低い領域を形成させることになる。
【0047】
しかも、このポリエチレン系樹脂粒子をコアにし、シェルが高分子型帯電防止剤によって形成されたコアシェル状の粒子は、押出し工程において溶融状態の樹脂組成物に作用するせん断力によって樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、比較的アスペクト比の高い状態となって分散相を形成する。
そして、溶融状態の樹脂組成物が流動しつつ冷却されることによって、このコアシェル状粒子が長く延びた状態が、得られるポリスチレン系樹脂フィルムにおいても維持されることになる。
そして、例えば、1μm長さを超える細長いコアシェル状粒子を主体とした分散相を形成させることで表面抵抗率を顕著に低下させることができる。
【0048】
このことについてさらに説明すると、高分子型帯電防止剤は、通常、主たる成分が導電性に優れたポリマーであり樹脂フィルムに分散して電気抵抗の低い微細領域を樹脂フィルムの表面に数多く形成させて表面抵抗率を低下させて帯電防止を行うものであるが、単独で高分子型帯電防止剤をポリスチレン系樹脂に分散させた場合には、フィルム中に微小な点状粒子となって分散されてしまい、その粒子間の距離をある程度接近させ得るような量で含有させなければ帯電防止効果が発揮されない。
ここで、本実施形態においては、コアがポリエチレン系樹脂粒子で形成され、シェルが高分子型帯電防止剤で形成された粒子が形成される。
このことから、このコア部の分だけ高分子型帯電防止剤の使用量を抑制しつつ、この分散相の粒子間距離を縮めることができる。
【0049】
しかも、分散相を形成している粒子が樹脂の流れ方向(押出し方向)に沿って長く延び、フィルム平面方向の長さが1μmを超えるような細長い形状となることで高分子型帯電防止剤による導電路がこの粒子の長さ分だけ形成されることとなる。
すなわち、本実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って上記のような長細い粒状に分散相が形成されることから、この粒子の長手方向に沿った電気抵抗値の低減が図られることとなる。
【0050】
また、通常、分散相を形成しているコアシェル状の粒子と、この粒子に隣接する別のコアシェル状の粒子との間の電気抵抗値は、主として、粒子間の距離によって決定されることになる。
つまり、樹脂の流れ方向と直交する方向に電圧を印加した場合においては、コアシェル状粒子どうしが隣り合せとなる区間における最も電気抵抗値の低い箇所(通常、粒子どうしが最も接近している箇所)を通って流れる電荷の量によって電気抵抗値が左右されることになる。
【0051】
そして、本実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムにおいては、樹脂の流れ方向に沿って長細い粒状に分散相が形成されることから、粒子どうしが隣り合わせとなる区間が長く形成され、その間に電気抵抗値の低い箇所、即ち、粒子どうしが接近する箇所が形成される可能性が高くなる。
したがって、樹脂の流れ方向以外の方向においても電気抵抗値の低減が図られることとなり、高分子型帯電防止剤の配合量を30質量%以下、例えば、5〜10質量%にまで低減したとしてもポリスチレン系樹脂フィルムの表面抵抗率の値を、一般的に求められる1013(Ω/□)オーダー以下(1×1014未満)の値となるように低下させうる。
【0052】
また、このような高分子型帯電防止剤によって外殻を形成させたコアシェル状粒子を前述のような1μmよりも細長く形成させる具体的な手法としては、押出し時のせん断の加わり方を調整する方法が挙げられる。
このコアシェル状粒子の大きさについても、SEMやTEMで直接確認することができ、例えば、ポリスチレン系樹脂フィルムの表面部から採取した試料に対して数千倍から数万倍の倍率で無作為に10視野程度の観察を行い、その半数以上の視野において1μm以上の長さの粒子が確認できれば、ポリスチレン系樹脂フィルムに1μm以上のコアシェル状粒子が形成されていると判断することができる。
なお、フィルム内部におけるコアシェル状の形状や大きさについては、帯電防止性能に大きな影響は与えないためこのようなコアシェル状粒子は、少なくともポリスチレン系樹脂フィルムの表面に形成されていれば良い。
【0053】
以上のようにコアシェル状粒子の形状と、そのシェルを構成させる高分子型帯電防止剤の選択によって、ポリスチレン系樹脂フィルムにおける高分子型帯電防止剤の使用量をより一層抑制させつつ表面抵抗率の低減を図ることができる。
【0054】
上記に示したように、特に、ポリオレフィン系樹脂粒子の長手方向(押出し方向)となる方向に対して電気抵抗値の低減を図ることができるため、ポリスチレン系樹脂フィルムを連続的な押出し成形によって長尺状とし、ロール状に巻き取った場合においてより顕著な効果が発揮されることとなる。
すなわち、通常、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムは、外側のフィルムが引き出されて使用され、引き出されるフィルムがその内側で接しているフィルムの背面から離れる際に静電気を発生させやすいが、本実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムは、ロール巻取り方向にコアシェル状粒子が長く延びる状態となっており、この方向に向けての電気抵抗値が低減されていることから、フィルムの引き出しによって静電気が発生されたとしてもその電荷を引き出される方向とは逆の、フィルムどうしが接触している箇所に向けて移動させることが容易で、電気的な中和を図ることが容易である。
このように本実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムは、容器などの製品に加工された際においても優れた帯電防止性が発揮されるのみならず、フィルムロールなどの中間製品の状態においてもその優れた効果が発揮されるものである。
【0055】
なお、この第一の実施形態においては、求める帯電防止効果をポリスチレン系樹脂フィルムに対して発揮させるのに際して高分子型帯電防止剤の使用量をより低減させ得る点において非相溶性樹脂を含有させる事例を主体に本発明の実施の形態を説明しているが、本発明のポリスチレン系樹脂フィルムは、このような非相溶性樹脂を含有させることなく形成させることができ、単にリチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤のみが含有されているポリスチレン系樹脂フィルムも本発明が意図する範囲のものである。
【0056】
(第二実施形態)
次いで、本発明の第二の実施形態として、積層発泡シートについて説明する。
図1は、本実施形態に係る積層発泡シートの断面図であり、この図1にも示されているように、本実施形態に係る積層発泡シート1は、該積層発泡シート1の表面層を構成するポリスチレン系樹脂フィルム層10と該ポリスチレン系樹脂フィルム層10に接する状態で積層された発泡層20とを有している。
【0057】
このポリスチレン系樹脂フィルム層10の形成には、第一実施形態において述べたポリスチレン系樹脂組成物が用いられており、好ましくは、ポリスチレン系樹脂(A)と、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤(B)と、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂または、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも1種以上の樹脂からなる非相溶性樹脂(C)とを含有するポリスチレン系樹脂組成物が用いられている。
すなわち、積層発泡シート1は、シート表面が、表面抵抗率の低いポリスチレン系樹脂フィルム層10によって形成されることで帯電防止が図られている。
【0058】
一方で、発泡層20の形成に用いる樹脂組成物としては、特に限定されるものではなく、ポリスチレン系樹脂フィルム層10と同じように帯電防止の処方がなされた樹脂組成物であっても、このような処方がなされていない樹脂組成物であってもよい。
例えば、ポリスチレン系樹脂からなるベース樹脂に対して、加熱分解型の発泡剤を含有させるか、ガス発泡のための核剤を含有させるかしたものなどが挙げられる。
【0059】
前記加熱分解型の発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などが挙げられる。
また、前記核剤としては、例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などが挙げられる。
これらは、単独、または、複数組み合わせて発泡層20の形成に用いることができる。
【0060】
また、その他の成分として、シート状の発泡体を形成させるための樹脂組成物に関して従来公知の成分をこの発泡層20の形成に用いる樹脂組成物にも含有させうる。
【0061】
なお、“ポリスチレン系樹脂フィルム層”との用語は、上記のように発泡層20が発泡状態であるのに対してフィルム状に非発泡な状態に形成されていることをもってこのような用語を用いているもので、一旦、発泡層を形成させるためのシートとは別に作製されたポリスチレン系樹脂フィルムによって形成される場合に限定しているものではない。
したがって、本実施形態の積層発泡シートとしては、ポリスチレン系樹脂フィルム層10を形成させるためのポリスチレン系樹脂フィルムと、発泡層20を形成させるための発泡シートとを、一旦、別々に作製した後に、これらをヒートラミネートして一体化される場合が例示されるものの共押出し成形法によってポリスチレン系樹脂フィルム層10と発泡層20とが一度に形成される場合も本発明の積層発泡シートとして意図する範囲である。
【0062】
しかも、共押出し成形法では、帯電防止性を有するポリスチレン系樹脂フィルム層10を均一、且つ、薄肉に形成させることが容易である点においてヒートラミネートなどの方法に比べて優れている。
特には、本実施形態に係る積層発泡シート1を作製する方法として、フィードブロック法による共押出し成形法を採用することが好ましい。
【0063】
このような共押出し成形法としては、例えば、特開平6−238788号公報に記載の方法を採用することができる。
すなわち、帯電防止性能を有するポリスチレン系樹脂フィルム層10の押出しと発泡層20の押出しに異なる押出し機を用いて、これらから押出される溶融状態の樹脂組成物を一つのダイに合流させた後、これを、例えば、サーキュラーダイの内側に沿って発泡層形成用の樹脂組成物を押出させるとともに外側に沿ってポリスチレン系樹脂フィルム層形成用の樹脂組成物を押出させ、内外二層となる状態での押出しを実施することで外側にポリスチレン系樹脂フィルム層10が形成され内側に発泡層20の形成された筒状の積層発泡シート1を形成させることができる。
【0064】
この積層発泡シート1においても、第一実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムと同様に非相溶性樹脂を主成分とするコアと、高分子型帯電防止剤を主成分とするシェルとを有するコアシェル状粒子によってポリスチレン系樹脂フィルム層10(表面層)に分散相が形成されることから少ない高分子型帯電防止剤の使用量でありながらも帯電防止性が発揮されることとなる。
【0065】
なお、この第二実施形態においては、ポリスチレン系樹脂フィルム層10と発泡層20との2層構造の積層発泡シートを例示しているが、例えば、図2に示すような複数のフィルム層を有する場合や、複数の発泡層を有する場合も本発明の意図する範囲である。
例えば、発泡層20の両面にポリスチレン系樹脂フィルム層10,10’を設けたり(図2(a))、両表面を構成する2層のポリスチレン系樹脂フィルム層10,10’の間に、複数の発泡層20,20’を設けたり(図2(b))する場合も本発明の積層発泡シートとして意図する範囲のものである。
さらには、発泡層20の片面に2層のポリスチレン系樹脂フィルム層10,10”を設ける(図2(c))場合も本発明の意図する範囲である。
また、2層又はそれ以上のポリスチレン系樹脂フィルム層は、発泡層の片面側のみならず両面に形成させることもでき、これらに限らず種々の積層構造を積層発泡シートに形成させ得る。
なお、この図2(a)、図2(b)に示すように両面にポリスチレン系樹脂フィルム層を設けている場合には、必要な側の表面層にのみ帯電防止性能を付与させればよく、いずれか一方、又は両方の表面を構成するポリスチレン系樹脂フィルム層に帯電防止性を付与させることができる。
また、図2(c)に示すように発泡層20の片面に2層のポリスチレン系樹脂フィルム層を設ける場合は、外側のポリスチレン系樹脂フィルム層10のみ、又は、外側のポリスチレン系樹脂フィルム層10と内側のポリスチレン系樹脂フィルム層10”の両方を高分子型帯電防止剤とポリオレフィン系樹脂等の非相溶性樹脂とを含有するポリスチレン樹脂組成物によって形成させることができる。
【0066】
第一実施形態のポリスチレン系樹脂フィルムや、この第二実施形態の積層発泡シートは、高分子型帯電防止剤の使用量が抑制されており、材料コストの低減が図られることから、一般消費材用途において好適となり、特に、ホコリの付着など、保管時の汚損が抑制されることから食品用途などに好適なものとなる。
例えば、第二実施形態の積層発泡シートは、食品トレーなどの原材料シートとして好適に用いられ得る。
【実施例】
【0067】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(配合剤)
以下に、ポリスチレン系樹脂フィルムの作製に用いる配合剤の略称と、その詳細とを記載する。

1)HRM26:
東洋スチレン社製、GPPS、商品名「HRM26」、MFR(H)=1.4g/10min
2)E641N:
東洋スチレン社製、HIPS(ゴム分約6%含有)、商品名「E641N」、MFR(H)=2.7g/10min
3)ペレスタット300:(リチウムイオンを実質上含有していない高分子型帯電防止剤)
三洋化成工業社製、高分子型帯電防止剤(主成分:分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体)、商品名「ペレスタット300」、MFR(D)=30g/10min
4)ペレクトロンHS:(リチウムイオンを含有している高分子型帯電防止剤)
三洋化成工業社製、高分子型帯電防止剤(主成分:分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体)、商品名「ペレクトロンHS」、MFR(D)=6g/10min
5)ペレスタットNC6321:(リチウムイオンを実質上含有していない高分子型帯電防止剤)
三洋化成工業社製、高分子型帯電防止剤(主成分:分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体)、商品名「ペレスタットNC6321」MFR(M)=30g/10min
6)ペレクトロンPVH:(リチウムイオンを含有している高分子型帯電防止剤)
三洋化成工業社製、高分子型帯電防止剤(主成分:分子内にポリエーテルブロックとポリオレフィンブロックとを有するブロック共重合体)、商品名「ペレクトロンPVH」、MFR(D)=6g/10min
7)LV115:
日本ポリエチレン社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、商品名「ノバテック EVA LV115」、VAコンテント4.0質量%、MFR(D)=0.3g/10min

なお、上記における「MFR(H)」とは、JIS K 7210の条件H(温度200℃、公称荷重5.00kg)で測定した値であることを意味し、「MFR(D)」とは、JIS K 7210の条件D(温度190℃、公称荷重2.16kg)で測定した値であることを意味し、「MFR(M)」とは、JIS K 7210の条件H(温度230℃、公称荷重2.16kg)で測定した値であることを意味する。
【0069】
<評価1>
(配合1〜31)
下記表に示す配合内容のものを、約225℃の樹脂温度でTダイから押出し、厚み250〜300μmのポリスチレン系樹脂フィルムを作製した。
また、得られたポリスチレン系樹脂フィルムに対して、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により表面抵抗率の値を測定した。
具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)
【0070】
また、測定は3回実施し、それぞれの算術平均値を求めた。
結果を、下記表に併せて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
この表に示されている結果からも、リチウムイオンを含有する高分子型帯電防止剤が用いられることで、少量で優れた帯電防止効果が発揮されることがわかる。
【0073】
【表2】

【0074】
上記表1と表2とを比較すれば、非相溶性樹脂を含有させることで高分子型帯電防止剤の使用量の削減により有効であることがわかる。
なお、LV115を2質量%、ペレクトロンPVHを3質量%させたポリスチレン系樹脂フィルムをスライスして作製した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を図3に示す。
この図3では、非相容性樹脂であるEVAを主成分としたコア(粒子中央の淡色部)と高分子型帯電防止剤を主成分としたシェル(粒子外縁部の濃色部)とを有するコアシェル状粒子がポリスチレン系樹脂を主成分とするマトリックス中に分散されていることがわかる。
以上のようなことからも、非相溶性樹脂を含有させることで、高分子型帯電防止剤の使用量をより一層抑制しつつ帯電防止を図り得ることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
1:積層発泡シート、10:ポリスチレン系樹脂フィルム層、20:発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤が含有されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
ポリスチレン系樹脂(A)と、リチウムイオンを含む前記高分子型帯電防止剤(B)とを含有し、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも1種であり、且つ前記ポリスチレン系樹脂(A)に対して非相溶性を示す非相溶性樹脂(C)をさらに含有し、前記高分子型帯電防止剤(B)が前記ポリスチレン系樹脂(A)と前記非相溶性樹脂(C)との両方に非相溶性を示し、該高分子型帯電防止剤(B)と前記非相容性樹脂(C)とが、該非相容性樹脂(C)を含むコアと前記高分子型帯電防止剤(B)を含むシェルとを有するコアシェル状粒子となって前記ポリスチレン系樹脂(A)中に分散されている請求項1記載のポリスチレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
ポリスチレン系樹脂フィルムからなる表面層と、発泡層とを有する積層発泡シートであって、
前記ポリスチレン系樹脂フィルムには、リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤が含有されていることを特徴とする積層発泡シート。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂フィルムは、ポリスチレン系樹脂(A)と、リチウムイオンを含む高分子型帯電防止剤(B)と、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及び、ポリ乳酸系樹脂の内の少なくとも1種で前記ポリスチレン系樹脂(A)に対して非相溶性を示す非相溶性樹脂(C)とを含有し、前記高分子型帯電防止剤(B)が前記ポリスチレン系樹脂(A)と前記非相溶性樹脂(C)との両方に非相溶性を示し、該高分子型帯電防止剤(B)と前記非相容性樹脂(C)とが、該非相容性樹脂(C)を含むコアと前記高分子型帯電防止剤(B)を含むシェルとを有するコアシェル状粒子となって前記ポリスチレン系樹脂(A)中に分散されている請求項3記載の積層発泡シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76010(P2013−76010A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217302(P2011−217302)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】