説明

ポリスチレン系樹脂発泡シート、容器、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法、及び容器の製造方法

【課題】 高い耐熱性を有しつつ、臭気が抑制され且つ成形性に優れたポリスチレン系樹脂発泡シートを提供することにある。
【解決手段】 ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10〜50質量部含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなるポリスチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリスチレン系樹脂組成物には、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シート、該ポリスチレン系樹脂発泡シートが熱成形されて得られる容器、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法、及び容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリスチレン系樹脂発泡シートは、食品用容器(食品用トレー、カップ等)等の材料として広く用いられている。しかし、ポリスチレン系樹脂からなるポリスチレン系樹脂発泡シートで形成された食品用容器は、耐熱性が十分に高いものではないため、電子レンジ等によって加熱されると変形してしまう等の問題を有する。これに対して、耐熱性を高めるべく、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を発泡剤により発泡させて形成されたポリスチレン系樹脂発泡シートが提案されている。
【0003】
しかるに、斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されることによって特有の臭気が生じるため、そのままでは食品用容器等の材料として利用し難いという問題がある。
【0004】
斯かる観点から、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び臭気抑制剤としての疎水性ゼオライトが所定量含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されたポリスチレン系樹脂発泡シートが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−94919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のポリスチレン系樹脂発泡シートであっても、十分には臭気が抑制されていないという問題がある。これに対して、さらに多くの疎水性ゼオライトを含有させることも考えられるが、無機物がポリスチレン系樹脂組成物に多く含まれると、得られるポリスチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率が低くなり、その結果、成形性が不十分なものとなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、高い耐熱性を有しつつ、臭気が抑制され且つ成形性に優れたポリスチレン系樹脂発泡シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10〜50質量部含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなるポリスチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリスチレン系樹脂組成物には、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シートにある。
【0009】
斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートは、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが0.2質量部以上含有されてなることにより、ポリフェニレンエーテル樹脂由来の特有の臭気が抑制される。また、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが5.0質量部以下含有されてなることにより、独立気泡率が高まり成形性が優れたものとなる。リン酸ジルコニウム含有量は、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して、好ましくは0.3〜3.0質量部の範囲であり、より好ましくは0.4〜2.0質量部の範囲である。
【0010】
また、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートは、好ましくは、前記ポリスチレン系樹脂組成物で構成された発泡層の少なくとも片面側に積層された樹脂フィルム層を備えている。
【0011】
斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートは、発泡層表面の少なくとも片面側に積層された樹脂フィルム層を備えているため、発泡層表面からのポリフェニレンエーテル系樹脂由来の特有の臭気の逸散を抑制することができる。
【0012】
また、本発明は、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが成形されて得られることを特徴とする容器にある。
【0013】
さらに、本発明は、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10〜50質量部含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いてポリスチレン系樹脂発泡シートを形成するポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法であって、
前記ポリスチレン系樹脂組成物として、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されてなるものを用いることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法にある。
【0014】
また、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法においては、好ましくは、ポリスチレン系樹脂及びリン酸ジルコニウムが含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂組成物よりもリン酸ジルコニウムの濃度が高いマスターバッチを、ポリスチレン系樹脂、及びポリフェニレンエーテル系樹脂とともに押出発泡することにより、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを形成させる。
【0015】
斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、ポリスチレン系樹脂組成物内にリン酸ジルコニウムがより一層分散されて存在しやすくなるため、臭気がより一層抑制されるという利点がある。また、直接粉末状のリン酸ジルコニウムを押出機に供給する場合と違って、押出機の熱気によりリン酸ジルコニウムが作業現場の環境に飛散してしまうのを抑制できるという利点もある。
【0016】
前記マスターバッチを用いて前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを形成させるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法においては、好ましくは、前記マスターバッチとして、更にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されてなるものを用いる。
【0017】
斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、マスターバッチを作製する段階において臭気の元になる成分が高濃度のリン酸ジルコニウムに捕捉され、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する段階において押出機内でリン酸ジルコニウムがすばやく分散されるため、臭気がより一層抑制されるという利点がある。
【0018】
また、本発明に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法においては、好ましくは、前記ポリスチレン系樹脂組成物で構成された発泡層の少なくとも片面に、樹脂フィルム層を積層する。
【0019】
斯かるポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、発泡層表面の少なくとも片面側に積層された樹脂フィルム層を備えているため、発泡層表面からのポリフェニレンエーテル系樹脂由来の特有の臭気の逸散を抑制することができる。
【0020】
また、本発明は、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法で得られたポリスチレン系樹脂発泡シートを成形することにより、容器を形成することを特徴とする容器の製造方法にある。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、高い耐熱性を有しつつ、臭気が抑制され且つ成形性に優れたポリスチレン系樹脂発泡シートを提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0023】
本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる。
【0024】
前記ポリスチレン系樹脂組成物に用いる原料としては、特に限定されるものではなく、一般的に使用されるものを用いることができる。
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性の観点からは、スチレン単独重合体などのポリスチレン樹脂が好適である。
一方、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の付与に有効なものであり、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有される。
なお、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、通常、次の一般式で表される。
【0025】
【化1】

【0026】
ここでR1及びR2は、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を示し、nは、重合度を表す正の整数である。
例示すれば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等が本実施形態において用いられ得る。
また、重合度nは、通常10〜5000の範囲内である。
【0027】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性の向上に有効なものではあるが、ポリフェニレンエーテル系樹脂を、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との合計100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下となる割合で含有させるのは、上記範囲未満では、ポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が十分に発揮されないおそれを有し、逆に上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させても、それ以上にポリフェニレンエーテル系樹脂の添加効果が発揮されないおそれを有するためである。
また、一般的にはポリスチレン系樹脂に比べて高価であるために上記範囲を超えてポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させると材料コストの観点においても問題を生じさせるおそれを有する。
【0028】
通常、ポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度(JIS K7206−1991、B法、50℃/h)は、102℃程度であるが、上記のようなポリフェニレンエーテル系樹脂を含有させることにより、ビカット軟化温度を110〜155℃の範囲に向上させることができ、該ポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリスチレン系樹脂組成物を使用することで、得られるポリスチレン系樹脂発泡シートや該ポリスチレン系樹脂発泡シートを2次加工した製品などの耐熱性向上を図り得る。
【0029】
一般にポリスチレン系樹脂組成物が用いられてなる製品に耐熱性が求められる場合には、スチレンホモポリマーよりもビカット軟化温度の高いスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ポリパラメチルスチレン樹脂などのコポリマーをその形成材料に採用することが行われている。
一方で、上記のようにポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドする方法は、単に製品に耐熱性を付与することができるばかりでなく、優れた靱性を付与することができる点においても優れている。
【0030】
したがって、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリスチレン系樹脂組成物を使用して発泡トレーなどを形成させることにより、急激な変形が加えられても割れたりすることのない発泡トレーを形成させ得る。
【0031】
前記ポリスチレン系樹脂組成物は、更にリン酸ジルコニウムが含有されてなる。前記ポリスチレン系樹脂組成物は、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されてなる。前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが0.2質量部以上でポリスチレン系樹脂組成物に含有されてなることにより、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリフェニレンエーテル樹脂由来の特有の臭気が抑制される。また、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが5.0質量部以下でポリスチレン系樹脂組成物に含有されてなることにより、独立気泡率が高まり成形性が優れたものとなる。
【0032】
前記リン酸ジルコニウムの平均粒径は、好ましくは0.3〜2.0μm、より好ましくは0.5〜1.5μmである。
尚、平均粒径は、レーザー回折法によって測定したものを意味する。
【0033】
前記リン酸ジルコニウムの嵩比重は、好ましくは0.1〜1.5g/cm3 、より好ましくは0.2〜1.0g /cm3 である。
尚、嵩比重は、JIS K5101に準拠した方法によって測定したものを意味する。
【0034】
前記リン酸ジルコニウムの比表面積は、好ましくは300〜1500m2 /g、より好ましくは500〜1000m2 /gである。
尚、比表面積は、BET法によって測定したものを意味する。
【0035】
前記リン酸ジルコニウムは、表面処理が施されていても良く、未処理品でも良い。
【0036】
本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法では、前記ポリスチレン系樹脂組成物を用いてポリスチレン系樹脂発泡シートを形成する。
【0037】
具体的には、まず、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法では、ポリスチレン系樹脂、及びリン酸ジルコニウムを押出機で溶融混練して、前記ポリスチレン系樹脂組成物よりもリン酸ジルコニウムの濃度が高いマスターバッチを作製する。このとき、ポリフェニレンエーテル系樹脂から臭気の元になる成分を除去することが出来る点において、ポリスチレン系樹脂組成物に含有させるポリフェニレンエーテル系樹脂の一部を、予め、前記マスターバッチに含有させておくことが好ましい。
そして、マスターバッチ、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び必要に応じて各種添加剤(造核剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等)を押出機に供給し、さらに発泡剤を含有させて当該押出機内で各成分を所定の割合で含有するポリスチレン系樹脂組成物が含有される溶融混練物を作製し、次いで環状ダイスから押出して筒状の発泡体を形成させるとともに、冷却マンドレル等で発泡体の内側から径を拡張させ、次いで筒状の発泡体を押出方向に沿って一端から切り開いてシート状に展開することにより、ポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する。
本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、ポリスチレン系樹脂及びリン酸ジルコニウムが含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂組成物よりもリン酸ジルコニウムの濃度が高いマスターバッチを生成し、該マスターバッチと、ポリスチレン系樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂とを混合することによって前記ポリスチレン系樹脂組成物を生成することにより、以下の利点がある。即ち、ポリスチレン系樹脂組成物内にリン酸ジルコニウムがより一層分散されて存在しやすくなるため、臭気がより一層抑制されるという利点がある。また、直接粉末状のリン酸ジルコニウムを押出機に供給する場合と違って、押出機の熱気によりリン酸ジルコニウムが作業現場の環境に飛散してしまうのを抑制できるという利点もある。
【0038】
また、前記マスターバッチは、更にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されることにより、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、マスターバッチの段階においてマスターバッチに含まれるポリフェニレンエーテル系樹脂の臭気が抑制され、更に、ポリスチレン系樹脂組成物内にリン酸ジルコニウムが更により一層分散されて存在しやすくなるため、臭気が更により一層抑制されるという利点がある。
また、前記マスターバッチには、リン酸ジルコニウムが5〜50質量%で含有されるようにすることが好ましい。
【0039】
前記ポリスチレン系樹脂組成物で構成された発泡層の少なくとも片面側に積層された樹脂フィルム層を構成する樹脂フィルムとしては、ポリスチレン系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルム、ポリエチレン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム等を、それぞれ単独で又は2以上貼りあわせたものが用いられる。発泡層に樹脂フィルム層を積層させる方法としては、例えば、(1)ポリスチレン系樹脂及び発泡剤を第一押出機に供給する一方、ポリスチレン系樹脂を第二押出機に供給し、第一押出機及び第二押出機を共に接続させている共押出金型に供給し共押出することによって、発泡層の少なくとも片面にポリスチレン系樹脂フィルムを積層一体化させる方法、(2)押出機から押出されたポリスチレン系樹脂フィルムを冷却する前に、別途製造した発泡層のみからなるポリスチレン系樹脂発泡シート上に直接、積層一体化させる方法、(3)発泡層のみからなるポリスチレン系樹脂発泡シートと、樹脂フィルムをそれぞれ予め作製しておき、これとは別に押出機から押出された溶融状態の熱可塑性樹脂を該ポリスチレン系樹脂発泡シート上に供給し、この熱可塑性樹脂をバインダーとして樹脂フィルムを該ポリスチレン系樹脂発泡シート上に積層一体化させる方法、(4)発泡層のみからなるポリスチレン系樹脂発泡シートと、樹脂フィルムをそれぞれ予め作製しておき、樹脂フィルムを加熱しながら該ポリスチレン系樹脂発泡シート上に圧着して、該ポリスチレン系樹脂発泡シート上に樹脂フィルムを積層一体化させる方法などが挙げられる。樹脂フィルム層の厚みとしては5〜200μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
【0040】
前記発泡剤としては、揮発性発泡剤、無機ガス系発泡剤、分解型発泡剤等を、それぞれ単独で又は2以上組み合わせて用いられる。揮発性発泡剤としては、例えばプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素類等が挙げられる。無機ガス系発泡剤としては、二酸化炭素、窒素、空気等の不活性ガスが用いられる。また、分解型発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。しかしながら、ポリスチレン系樹脂発泡シートの熱成形に先立つ加熱時の二次発泡性向上の観点からは、揮発性発泡剤を主たる発泡剤として使用することが望ましい。発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、基材樹脂、目的とする発泡倍率等によって異なるため、発泡剤の種類、基材樹脂の種類に応じて目的とする発泡倍率が得られるように添加量を選択する。
前記発泡剤とともに併用される気泡調整剤としては、タルク、シリカ等の無機粉末や、多価カルボン酸の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム或いは重炭酸ナトリウムとの反応混合物等が挙げられる。気泡調整剤の添加量は、前記ポリスチレン系樹脂組成物100質量部に対して0.5〜5質量部であることが好ましい。
【0041】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートは、厚みが1.5〜3.0mmであることが好ましく、また、密度が0.75〜0.18g/cm3 であることが好ましい。
【0042】
本発明の容器は、例えば、上記のような成分を含んだポリスチレン系樹脂発泡シートが熱成形されて得られる。本発明の容器は、このように構成されてなることにより、高い耐熱性を有しつつ、臭気が抑制され且つ製造容易なものとなる。
【0043】
本発明の容器の製造方法としては、例えば、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シートを熱成形して容器を形成する方法が挙げられる。
【0044】
熱成形する方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の方法が挙げられる。
また、容器の製造方法としては、熱成形に限らず、ポリスチレン系樹脂発泡シートにV溝加工を施し、折り曲げて折箱容器としてもよい。
【0045】
尚、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡シート、容器、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法、及び容器の製造方法は、上記構成により、上記利点を有するものであったが、本発明のポリスチレン系樹脂発泡シート、容器、ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法、及び容器の製造方法は、上記構成に限定されず、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0046】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0047】
(実施例1)
まず、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)及び消臭剤としてのリン酸ジルコニウム(商品名「ケスモンNS−10」 東亞合成社製 平均粒径1μm)を、シリンダ温度が200〜220℃に保持された二軸押出機(口径:30mm、L/D=35)に供給して溶融混練し、二軸押出機の先端に取り付けられたダイ(直径3mm、孔数:4個)から押出量10kg/hにてストランド状に押し出して、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを得た。
次に、ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が21質量部、リン酸ジルコニウムの含有量が0.5質量部となるように、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)70質量部、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)とポリスチレン樹脂(PS)との混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」 SABIC社製 PPE/PS=70/30)30質量部、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部、造核剤としてのタルクマスターバッチ(商品名「DSM1401A」 東洋スチレン社製 PS/タルク=60/40)1質量部をブレンドして、φ115mmの押出機に投入し加熱(約270℃)して溶融させた後、イソブタンとノルマルブタンとを含有する発泡剤(ブタンガス)をポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して3.5質量部の割合で押出機に圧入してこれらを充分に混合した。
次に、接続されたφ150mmの押出機にて発泡温度(約175℃)まで発泡剤含有ポリスチレン系樹脂組成物を冷却した後、サーキュラーダイを通して押出発泡し、坪量150g/m2 、厚さ1.8mmのポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0048】
(基準例)
基準例用として、リン酸ジルコニウムのマスターバッチを投入しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0049】
(実施例2)
リン酸ジルコニウムの含有量を0.5質量部に代えて0.3質量部となるように、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0050】
(実施例3)
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を21質量部に代えて20質量部、リン酸ジルコニウムの含有量を0.5質量部に代えて3.0質量部となるように、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて10.8質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0051】
(実施例4)
リン酸ジルコニウムの含有量を0.5質量部に代えて5.0質量部となるように、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)を70質量部に代えて60質量部、及び、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて17質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0052】
(実施例5)
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を21質量部に代えて10質量部となるように、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)を70質量部に代えて85質量部、及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」 SABIC社製 PPE/PS=70/30)を30質量部に代えて15質量部にした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0053】
(実施例6)
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を21質量部に代えて50質量部となるように、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)を70質量部に代えて28質量部、及び、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)とポリスチレン系樹脂(PS)との混合樹脂(商品名「ノリルEFN4230」 SABIC社製 PPE/PS=70/30)を30質量部に代えて72質量部にした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0054】
(実施例7)
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が21質量部、リン酸ジルコニウムの含有量が0.5質量部になるように、リン酸ジルコニウムとして東亞合成社の「ケスモン NS−10」をマスターバッチにせずに粉体のまま0.5質量部投入した以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0055】
(実施例8)
実施例2で得られたポリスチレン系樹脂発泡シートの片面に、無延伸ポリプロピレンフィルム〔CPPフィルム〕(大阪樹脂化工社製 商品名「ALT」 厚み20μm)と無延伸ポリスチレンフィルム〔CPSフィルム〕(大石産業社製 商品名「TO」 厚み20μm)とをドライラミしたフィルムを、加熱しながら、ポリスチレンフィルム側をポリスチレン系樹脂発泡シートに圧着して積層一体化させて、ポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0056】
(実施例9)
実施例8で得られたポリスチレン系樹脂発泡シートのフィルムが積層されていない面に、延伸ポリスチレンフィルム〔OPS〕(旭化成社製 厚み30μm)を、加熱しながら圧着して積層一体化させて、ポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0057】
(比較例1)
リン酸ジルコニウムの含有量を0.5質量部に代えて0.1質量部となるように、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて0.3質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0058】
(比較例2)
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を21質量部に代えて20質量部、リン酸ジルコニウムの含有量を0.5質量部に代えて5.5質量部になるように、ポリスチレン樹脂(商品名「XC−515」 DIC社製)を70質量部に代えて60質量部、及び、リン酸ジルコニウムが30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて19質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0059】
(比較例3)
消臭剤としてリン酸ジルコニウムに換えて、疎水性ゼオライトを用いた。
リン酸ジルコニウムの代わりの疎水性ゼオライトの含有量が0.5質量部になるように、リン酸ジルコニウムの代わりの疎水性ゼオライト(商品名「アブセンツ」 ユニオン昭和社製)が30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0060】
(比較例4)
消臭剤としてリン酸ジルコニウムに換えて、疎水性ゼオライトを用いた。
ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を21質量部に代えて20質量部、リン酸ジルコニウムの代わりの疎水性ゼオライトの含有量を0.5質量部に代えて3.0質量部になるように、リン酸ジルコニウムの代わりの疎水性ゼオライト(商品名「アブセンツ」 ユニオン昭和社製)が30質量%含有されたマスターバッチを1.7質量部に代えて10.8質量部とした以外は、実施例1と同様にポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0061】
得られたポリスチレン系樹脂発泡シートを、それぞれ長辺200mm、短辺100mm、深さ30mmの成形品たるトレー容器に熱成形した後、それぞれの成形品10個ずつをチャック袋に入れて密封し24hr放置した。その後、袋を開封して臭気を評価した。また、成形品の形態を確認し、ポリスチレン系樹脂発泡シートの成形性を評価した。
実施例及び比較例の臭気低減効果及び成形性を以下の基準で評価した結果を表1に示す。なお、実施例8、9で得られた樹脂フィルム層が積層されたポリスチレン系樹脂発泡シートについては、無延伸ポリプロピレンフィルム〔CPPフィルム〕がトレー容器の内面になるように成形した。
臭気低減効果
◎:基準例より臭気が著しく低減された。
○:基準例より臭気が低減された。
△:基準例より臭気が少し低減された。
×:基準例とほとんど臭気は変わらなかった。
成形性
○:きれいな成形品が得られた。
△:成形品にシワが確認された。
×:成形品が得られなかった。
【0062】
【表1】

【0063】
本発明の範囲内にある実施例1〜7のポリスチレン系樹脂発泡シートは、消臭剤としてリン酸ジルコニウムの代わりに疎水性ゼオライトが用いられている比較例3,4、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが0.1質量部含有されてなる比較例1に比して、臭気が抑制されていることが確認された。
また、実施例1〜7のポリスチレン系樹脂発泡シートは、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記リン酸ジルコニウムが5.5質量部含有されてなる比較例2に比して、成形性が優れていることが確認された。実施例1〜7のもののほうが、ポリスチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率が高かったことによるものと考えられる。比較例2については、得られたポリスチレン系樹脂発泡シートの気泡が細かくなり、独立気泡率が低くなり、成形性が悪くなって成形品が得られなかった。
また、実施例8、9の樹脂フィルム層が積層されたポリスチレン系樹脂発泡シートは、フィルムが積層されていない実施例2に比して、臭気が抑制されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10〜50質量部含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなるポリスチレン系樹脂発泡シートであって、
前記ポリスチレン系樹脂組成物には、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂組成物で構成された発泡層の少なくとも片面側に積層された樹脂フィルム層を備えている請求項1記載のポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートが成形されて得られることを特徴とする容器。
【請求項4】
ポリスチレン系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂が含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対して前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が10〜50質量部含有されてなるポリスチレン系樹脂組成物を用いてポリスチレン系樹脂発泡シートを形成するポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法であって、
前記ポリスチレン系樹脂組成物として、前記ポリスチレン系樹脂及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の合計量100質量部に対してリン酸ジルコニウムが0.2〜5.0質量部含有されてなるものを用いることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項5】
ポリスチレン系樹脂及びリン酸ジルコニウムが含有され且つ前記ポリスチレン系樹脂組成物よりもリン酸ジルコニウムの濃度が高いマスターバッチを、ポリスチレン系樹脂、及びポリフェニレンエーテル系樹脂とともに押出発泡することにより、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを形成させる請求項4記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項6】
前記マスターバッチとして、更にポリフェニレンエーテル系樹脂が含有されてなるものを用いる請求項5記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項7】
前記ポリスチレン系樹脂組成物で構成された発泡層の少なくとも片面に、樹脂フィルム層を積層する請求項4〜6の何れか1項に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7の何れか1項に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法で得られたポリスチレン系樹脂発泡シートを成形することにより、容器を形成することを特徴とする容器の製造方法。

【公開番号】特開2012−77168(P2012−77168A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222694(P2010−222694)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】