説明

ポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法、及び、ポリスチレン系樹脂発泡成形品

【課題】深い垂直壁を有する収納凹部を形成した青果用トレー等の成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂(a)、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂(b)及びスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)を含む樹脂組成物(i)を押出し発泡させ、そのポリスチレン系樹脂発泡シートを成形加工するポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法であって、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)としてデュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下で、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となるポリスチレン系樹脂発泡シートを成形加工によって、シート平面方向に対する垂直壁の高さが25mm以上となる収納凹部10を形成したポリスチレン系樹脂発泡成形品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡シートをシート成形法によって成形加工してポリスチレン系樹脂発泡成形品を作製するポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法、及び、ポリスチレン系樹脂発泡シートがシート成形法によって成形加工されてなるポリスチレン系樹脂発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂発泡シート、架橋ポリエチレン樹脂発泡シート、ポリプロピレン系樹脂発泡シートなどの熱可塑性樹脂発泡シートを、プレス成形、真空成形、圧空成形といったシート成形法によって成形加工する方法は、インジェクション成形などの成形方法などに比べて簡便であり、容器などの樹脂成形品を作製する方法として広く行われている。
例えば、りんご、梨、桃、トマト、柿など青果物の緩衝包装用に複数の収納凹部を有するトレーなどの容器が熱可塑性樹脂発泡シートによって作製されている。
これらのトレーには、それぞれ収納する青果の種類や収納形態などによって長所、短所があるため、適宜に使い分けられている。
例えば、ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡トレーは、ある程度重量があって表面の硬い梨の収納に多く使用され、また、架橋ポリエチレン樹脂発泡シートからなる発泡トレーは、表面が柔らかく傷付きやすい桃の収納に使用される。
このように、種々の樹脂発泡シートが樹脂発泡成形品の形成材料として採用されている。
【0003】
なかでも、ポリスチレン系樹脂発泡シートは、リサイクル性やコストの面で優れているため、この種の発泡トレー素材として好ましく、発泡トレーの開発はポリスチレン系樹脂発泡シートの持つ問題を改善することに向けられており、例えば、通常のポリスチレンの衝撃性を改善するために、ゴム変性した耐衝撃性ポリスチレンの使用が試みられている。
【0004】
そして、より高性能なポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう)及びポリスチレン系樹脂発泡成形品(以下、単に「成形品」、或いは、「発泡成形品」ともいう)を提供するため、これまでに種々の技術が提案されている。
例えば、耐衝撃性ポリスチレンにスチレン・ブタジエンブロック共重合体を混合した押出発泡用の樹脂組成物とそれを用いた押出発泡シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ポリスチレン系樹脂にスチレン・ブタジエンブロック共重合体を混合した押出発泡用の樹脂組成物とそれを用いた押出発泡シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、耐衝撃性ポリスチレンと、ポリスチレン樹脂と、スチレン・ブタジエンブロック共重合体とを混合した押出発泡用の樹脂組成物とそれを用いた押出発泡シートが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、ポリスチレン系樹脂と、エチレン−スチレン共重合体との混合樹脂の発泡シートから成形された青果用トレーが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
さらに、ポリスチレン系樹脂と、エチレン−スチレン共重合体と、ポリエチレン系樹脂との混合樹脂の発泡シートから成形された青果用トレーが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
ところで、これらの特許文献においては、青果用トレーの収納凹部が断面半球状となるように形成されることが図等において示されている。
これは、全体に丸みを帯びた形状をしている果実が多く存在することに起因しているが、そもそもポリスチレン系樹脂発泡シートをシート平面に対して垂直となる方向には大きく変形させることが難しいことも要因として挙げられる。
【0006】
このことについて説明すると、シート成形法においては、例えば、成形品に付与する凹凸形状が形成された成形型と、該成形型の凹凸形状に対応する表面形状を備えたプラグと呼ばれる相手型とを用いて、該プラグと前記成形型との間に加熱されて軟化された発泡シートを挟んで、互いの突出部を相手の凹入部に進入させて発泡シートに凹凸形状を付与して成形品とする方法が広く行われている。
しかし、このときに成形品にシート平面に対して略直角方向に垂直壁を形成させようとすると、例えば、プラグの突出部の外周面に垂直面を形成させるとともに、該垂直面と対向する垂直面を成形型の凹入部の内周面に形成させることになるが、その場合には、突出部を凹入部に侵入させる際に、この垂直面どうしが上下にすれ違う状態となるためシートに局所的な応力集中が発生しやすく、ポリスチレン系樹脂発泡シートに破断を生じやすくなる。
また、真空成形や圧空成形などにおいて、プラグを用いずに、成形品に付与する凹凸形状が形成された成形型にポリスチレン系樹脂発泡シートを空気圧や真空引きによって密着させる場合においては、型どうしがすれ違う状態にはならないものの、この場合も同様にシートの一部に応力が集中し易く成形品に破断を発生させやすいものである。
【0007】
そして、このポリスチレン系樹脂発泡シートを凹入させて凹部を形成させる場合に、その凹部に設ける垂直壁の高さが、例えば、20mm以上ともなると、従来のポリスチレン系樹脂発泡シートでは、多くの場合、破断が生じてしまい、例えば、25mm以上の垂直壁を成形品に形成させることは困難な状態であった。
例えば、特許文献1〜3に示されている金型断面では、収納凹部の深さが約40mmとなっているが、この収納凹部は、半球状であることから形成可能なものであり、このような深さにまで垂直壁を形成させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−231748号公報
【特許文献2】特開平8−231749号公報
【特許文献3】特開平8−291227号公報
【特許文献4】特開2000−226020号公報
【特許文献5】特開2001−151220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このことに対して、青果の中でもその形状によっては、半球状の収納凹部では安定性を欠く場合があり、種々の形状の収容物に適用させるためには開口部からある程度の深さまでは真っ直ぐに掘り下げられた形状(例えば、円柱状)の収納凹部を形成させることが好ましい場合があるものの上記のような制約からこのような要望を満足させることが難しい状況となっている。
また、青果用トレーなどの容器に限らず、シート面方向に対して略垂直となるようにポリスチレン系樹脂発泡シートを成形加工させることは、求められる使用方法に適した成形品を作製する上で重要な事柄である。
すなわち、本発明は、種々の形状の収容物の収納に利用される容器などの成形品において、その用途が制約されることを防止させることを目的としており、この青果用トレーのような成形品を製造するのに適した製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の構成材料によって形成されたポリスチレン系樹脂発泡シートを用いることで、シート成形法によって垂直壁を、例えば、25mm以上となるように形成させても、シートに破断が生じることなく成形品を作製することができ、青果用トレーなどとして利用し得る成形品を簡便に作製しうるとともに得られる成形品の用途が制約されることを抑制し得ることを見出し本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、ポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法に係る本発明は、ポリスチレン系樹脂(a)、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂(b)及びスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)を含む樹脂組成物(i)が押出し発泡されて形成されたポリスチレン系樹脂発泡シートをシート成形法によって成形加工してポリスチレン系樹脂発泡成形品を作製するポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法であって、前記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)としてデュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下のものが用いられており、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となる前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを用い、前記成形加工によって、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面方向に対する垂直高さが25mm以上となる垂直壁をポリスチレン系樹脂発泡成形品に形成させることを特徴としている。
【0012】
また、ポリスチレン系樹脂発泡成形品に係る本発明は、ポリスチレン系樹脂(a)、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂(b)及びスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)を含む樹脂組成物(i)を押出し発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡シートがシート成形法によって成形加工されて形成されたポリスチレン系樹脂発泡成形品であって、前記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)として、デュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下のものが用いられており、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となる前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが用いられて形成されており、該ポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面方向に対する垂直高さが25mm以上の垂直壁が前記成形加工によって形成されていることを特徴としている。
【0013】
なお、本明細書における“垂直壁”とは、ポリスチレン系樹脂発泡成形品に用いられているポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面に正確に90度の角度をなしているもののみを意味するものではなく、従来、25mm以上の高さとすることが困難であった実質的に垂直なものを意味している。
具体的には、成形品に力を加えない自然状態とした場合に、前記シート平面に対して成す角度が80度以上、100度以下のものも本発明における“垂直壁”として意図する範囲のものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法によれば、特定の材料が用いられてなるポリスチレン系樹脂発泡シートがその形成材料として使用されることから25mm以上の高さの垂直壁を形成させても成形加工中にポリスチレン系樹脂発泡成形品に破断が生じることを抑制させ得る。
したがって、このようなポリスチレン系樹脂発泡成形品を歩留まり良く製造することができる。
また、このようにして得られるポリスチレン系樹脂発泡成形品は、従来、その形状が制約されることによって利用することが困難であった用途への利用が図られうる。
すなわち、本発明によれば、種々の形状の収容物の収納に利用される容器などの成形品において、その用途が制約されることを防止し得るとともに、青果用トレーのような成形品を製造するのに適した製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るスチレン系樹脂発泡成形品(青果用トレー)の構造を示す斜視図。
【図2】図1のX−X’線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
まず、スチレン系樹脂発泡シートについて説明する。
【0017】
本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡成形品やその製造方法においては、ポリスチレン系樹脂発泡シートとして、
(a)ポリスチレン系樹脂;
(b)密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂;
(c)スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物;
を含む樹脂組成物(i)が押出し発泡されてなるものが用いられている。
なお、この「(c)スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物」としては、デュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下となるものが用いられている。
【0018】
また、本実施形態のポリスチレン系樹脂発泡成形品やその製造方法においては、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートとして、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となるポリスチレン系樹脂発泡シートが用いられている。
【0019】
このポリスチレン系樹脂発泡シートに用いられるポリスチレン系樹脂(a)は、ポリスチレン樹脂またはポリスチレン樹脂を主成分とするポリスチレン系樹脂混合物が用いられる。
特にポリスチレンホモポリマー単体であるか、又は、ポリスチレンホモポリマー50質量%以上、90質量%以下、及び、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、若しくは、スチレン−アクリル酸エステル共重合体10質量%以上、50質量%以下からなる樹脂であることが好ましい。
ポリスチレンホモポリマーに耐衝撃性ポリスチレンを加えると、柔軟性向上に効果があるが、耐衝撃性ポリスチレンの配合量が高くなると、発泡剤ガスの保持性が低下して成形性が悪くなったり、樹脂中に含まれるゴム成分のために耐候性が低下したりすることがあり、成形品を長期保管しておいた場合などに、柔軟性の低下、成形品の割れ欠けなどの問題が発生しやすくなる。
このため、耐衝撃性ポリスチレンの配合量はポリスチレン系樹脂(a)全体の50質量%以下とするのが好ましく、40質量%以下とするのがより好ましく、30質量%以下とするのがさらに好ましい。
【0020】
スチレン−アクリル酸エステル共重合体としては、スチレンモノマーとアクリル酸エステルとの共重合体が挙げられ、このアクリル酸エステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸と炭素数が1〜10のアルコールとのエステルが好ましい。
このような共重合体は、スチレン−アクリル酸ブチルが柔軟性向上効果の上で好ましい。
本実施形態で使用するスチレン−アクリル酸エステル共重合体中の、アクリル酸エステル含有量は、通常、1質量%以上、40質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、30質量%以下である。
スチレン−アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸エステルの含有量に応じて、樹脂の耐熱性が低下するため、原料としてスチレン−アクリル酸エステル共重合体を多量に配合すると、発泡シートの耐熱性が低下しすぎる場合があり、その場合、発泡シートどうしの融着性の問題や、成形品の熱変形等の問題が生じやすくなる。
そのため、総じてスチレン−アクリル酸エステル共重合体を配合する場合、その配合量は、ポリスチレン系樹脂(a)全体の50質量%以下とするのが好ましく、40質量%以下とするのがより好ましく、30質量%以下とするのがさらに好ましい。
【0021】
本実施形態で使用するポリエチレン系樹脂(b)は、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂である。
ポリエチレン系樹脂(b)の密度が0.87g/cm3より低いと発泡シートに付与される柔軟性を向上させる効果に比べ、融着性の問題が大きくなるために好ましくない。
密度が0.92g/cm3を超えるようなポリエチレン系樹脂では、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを除き、柔軟性向上効果が小さく、多量に配合しなくてはならなくなり、好ましくない。
本実施形態で使用するポリエチレン系樹脂(b)の密度は、0.88g/cm3以上、0.92g/cm3以下の範囲が好ましく、0.88g/cm3以上、0.89g/cm3以下の範囲がより好ましい。
本実施形態において好ましいポリエチレン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等、またはその他エチレンと共重合可能なビニル系モノマーと、エチレンとの共重合体が挙げられる。
これらの内、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が増えると柔軟性向上効果が高くなり、樹脂密度も上昇する。
酢酸ビニル含有量が15質量%を超えるような樹脂は、柔軟性向上効果は高いが、臭気の問題や融着性の問題が生じやすくなり好ましくない。
そのためエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が15質量%以下のものが好ましい。
【0022】
本実施形態で発泡シートの形成材料として使用する、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)は、デュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下である。
共重合体の種類としては、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
共役ジエンとしては、例えばブタジエン、イソプレン、2−エチルブタジエンなどの炭素数4〜10の共役ジエンが挙げられる。
好ましいスチレン−共役ジエン共重合体またはその水素添加共重合体としては、スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物である。
これら共重合体の完全飽和型構造は、例えばスチレン−エチレン・ブチレン共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体などである。
【0023】
また、発泡シート及びその成形品の耐候性の悪化を防ぐためには、上記共重合体のうちでも特に水素添加され、分子鎖内にある二重結合の数がより少ない共重合体が好ましい。
本実施形態の発泡シートにあっては、上記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物の1種単独でも、2種以上を混合しても良い。
【0024】
さらに本実施形態においては、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)はデュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下、好ましくは20以上、80以下、より好ましくは20以上、70以下の範囲のものを使用する。
HDAの値が90より高いものは、柔軟性向上効果が小さく、発泡シートの柔軟性を満足させるためには多量に配合しなければならず、発泡性や融着性の問題が生じたり、コストが上昇したりするので好ましくない。
HDAが20未満のものは、樹脂粘度が下がりすぎて発泡性が低下したり、発泡体の耐熱性が低下したりする可能性がある。
【0025】
このようなスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)としては、とりわけ、スチレンブロックと、スチレン/ブタジエンランダム共重合体ブロックとの共重合構造を有するスチレン−スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(水素添加率:95%以上)が好ましい。
そして、密度が、0.97g/cm3以上、1.01/cm3以下のものが好ましい。
また、メルトフローレート(JIS K 7210:230℃、2.16kgf)が、2.4g/10min以上、2.8g/10min以下のものが好ましい。
さらに、100%、200%、300%の引張りモジュラス(JIS K 6251:3号ダンベル試験片、試験速度500mm/min)がそれぞれ、4.8〜5.4MPa、6.6〜7.2MPa、7.5〜8.5MPaとなり、引張り強さが11.0〜13.0MPaで、切断時伸びが430%以上、530%以下となるものが好ましい。
【0026】
なかでも、デュロメータタイプA硬度の値HDAが75以上、85以下で、BS903に準拠した「ダンロップ反撥弾性率」が常温(23℃)において、10%以上、14%以下となるものが好適である。
さらには、旧JIS K 6301に準拠した圧縮永久歪み(70℃、22時間)の値が、90%以上、110%以下、JIS K 6723に準拠した加熱変形率(1kgf、120℃×1h)が89%以上、95%以下となるものが上記(c)成分として好ましい。
【0027】
加えて、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)としては、荷重500gfでカナキン3号綿布を摩耗材とし、摩耗面をR形状(幅19.5mm)とした学振摩耗試験(サンプル形状:皮シボ)を実施した場合に、摩耗回数1万回での減量(ml)が、0.0005〜0.005mlとなるものが好適である。
【0028】
本実施形態の発泡シートは、上記ポリスチレン系樹脂(a)と、ポリエチレン系樹脂(b)と、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)とを含む樹脂組成物(i)と、発泡剤(ii)とを混合した原料樹脂を押出発泡して得られ、上記樹脂組成物(i)は、ポリスチレン系樹脂(a)50質量%以上、90質量%以下、ポリエチレン系樹脂(b)3質量%以上、20質量%以下、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)3質量%以上、47質量%以下(ただし、ポリエチレン系樹脂(b)+スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)=10質量%以上、50質量%以下の範囲である)の組成を有することが好ましい。
【0029】
この樹脂組成物(i)中のポリエチレン系樹脂(b)の配合量は、3質量%以上、20質量%以下の範囲であり、5質量%以上、20質量%以下の範囲とするのが好ましく、5質量%以上、15質量%以下の範囲とするのがさらに好ましい。
ポリエチレン系樹脂(b)の配合量が3質量%以下である場合、ポリエチレン系樹脂(b)による柔軟性向上効果が不十分となり、青果用トレー等の成形品の柔軟性が不足する場合がある。
一方ポリエチレン系樹脂(b)の配合量が20質量%を超えると、発泡シート内に残っている発泡剤ガスの大気中への逸散が早くなり、そのために熱成形時の二次発泡性が悪くなり、結果として成形性が悪くなるので好ましくない。
【0030】
この樹脂組成物(i)中のスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)の配合量は、3質量%以上、47質量%以下の範囲であり、5質量%以上、35質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上、25質量%以下の範囲がより好ましい。
スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)の配合量が3質量%より少ないと、ポリスチレン系樹脂(a)とポリエチレン系樹脂(b)との相溶性が低下し、またスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)による柔軟性向上効果も小さくなり、好ましくない。
一方、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)の配合量が47質量%を超えると、樹脂粘度の低下による連続気泡率の上昇や、成形性の悪化、発泡シートの耐熱性低下などの問題が生じるため、好ましくない。
また、HDAが20以上、50以下のスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)の配合量は、3質量%以上、20質量%以下の範囲が好ましく、3質量%以上、15質量%以下の範囲がより好ましい。その配合量が20質量%を越えると、樹脂粘度の低下のために押出が不安定になるため好ましくない。
【0031】
好ましい実施形態において、上記ポリエチレン系樹脂(b)とスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)とは、(b)と(c)との合計量が10質量%以上、50質量%以下の範囲、好ましくは20質量%以上、40質量%以下、より好ましくは25質量%以上、35質量%以下の範囲となるように、樹脂生成物(i)中に配合される。
ポリエチレン系樹脂(b)とスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)との合計量が10質量%より少ないと、柔軟性向上効果が小さくなり好ましくない。
一方、合計量が50質量%を超えると、発泡性や熱成形性が悪くなったり、融着性が悪くなったりするため、好ましくない。
【0032】
本実施形態の発泡シートは、上記の樹脂組成物を押出発泡によって、密度0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下の押出発泡シートとし、その発泡シートの1kgf荷重時の部分圧縮変位量は0.60mm以上である。
発泡シートの密度は、より低密度にすることによって、発泡シートの柔軟性を向上させることはできる。
しかしながら、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂、さらにはスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物それぞれについて熱成形特性が異なるため、発泡シートが低密度になると熱成形時の成形性が悪くなることから、発泡シートの密度は0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下の範囲とすることが好ましい。
また、発泡シートの密度は、成形性と柔軟性、そして成形品の強度の点で、0.04g/cm3以上、0.1g/cm3以下の範囲とすることがより好ましい。
【0033】
発泡シートの1kgf荷重時の部分圧縮変位量は、シート成形法における成形加工の容易さの指標となるばかりでなく発泡シートを指で摘まんだ時の感触を良く表わしており、1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上、好ましくは0.65mm以上、3.00mm以下、特に好ましくは0.70mm以上、2.00mm以下であるような発泡シートを熱成形して青果物トレーとすることで、感触にも優れ、特に柔軟性を要求される桃等の青果物に対する優れた緩衝性を有するトレーを製造することができる。
この部分圧縮変位量が0.60mm未満の柔軟性に乏しい発泡シートを成形した青果トレーでは、輸送中に青果表面に傷が付きやすくなり、特に桃などの傷付きやすい青果用のトレーとして好ましくない。
また、圧縮変位量が3.00mmを超える非常に柔軟性のあるシートの場合、成形したトレーに剛性が無く、自動選果機を使用する場合に上手くトレーを運べないなどの不具合が発生する場合がある。
本実施形態の発泡シートは、1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上であるので、この発泡シートを熱成形して得られる青果用トレーは、上記の桃をはじめとして、ビワ、イチゴ、洋梨、トマト、柿など幅広い品種の青果物に適用させることができる。
【0034】
本実施形態の発泡シートの製造方法は、例えば、押出機内で上記樹脂組成物(i)と発泡剤(ii)とを溶融混練し、押出機の先端に取付けた金型から大気中へ押出すことにより発泡シートを得る方法が挙げられる。
この製造方法では、押出機先端にTダイを取り付け、そこから押出発泡した発泡シートを冷却ロールで成形する発泡シートの製造方法と、サーキュラー金型を取り付け、円筒状の発泡体をマンドレルで成形した後、切開してシート状とする押出発泡シートの製造方法のどちらも適用することができるが、サーキュラー金型を取付けて行う押出発泡シートの製造方法は広幅の発泡シートを作りやすく、また発泡シートの厚みを制御しやすいため、より好適である。
また、得られた発泡シートをロール状に巻き取る場合は、巻き締まり防止のため、できるだけテンションをかけずに巻き取ることが望ましい。
【0035】
本実施形態の発泡シートを製造する製造方法で使用する発泡剤(ii)としては、公知の化学発泡剤、物理発泡剤のいずれも使用できる。化学発泡剤としては、例えばアゾジカルボンアミドなどの分解型のもの、重曹−クエン酸などの分解型のものが挙げられる。物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタンなどの炭化水素、窒素、二酸化炭素などの不活性ガス、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、テトラフルオロエタン、クロオジフルオロエタン、ジフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0036】
本実施形態の発泡シートを製造する製造方法では、樹脂組成物(i)に気泡調整剤、着色剤、収縮防止剤、難燃剤、滑剤、劣化防止剤など公知の添加剤を適宜加えることができる。気泡調整剤としては、タルク、雲母、マイカ、モンモリロナイトなどの無機フィラー、フッ素樹脂などの有機微粒子、またはアゾジカルボンアミドなどの分解型化学発泡剤、重曹−クエン酸などの反応型化学発泡剤、窒素や二酸化炭素などの不活性ガスなどが使用できる。
収縮防止剤としては、ステアリン酸モノグリセライドなどの脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物などが、本実施形態におけるポリエチレン系樹脂成分や、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物成分に対する発泡剤ガス逸散速度抑制効果が期待できるので好ましい。
【0037】
この製造方法によって得られる発泡シートの連続気泡率は、20容量%以下とするのが好ましく、15容量%以下とするのがより好ましい。
20容量%を超えたものは、発泡シートの熱成形時における二次発泡性が悪くなり、成形性に劣るため好ましくない。
また得られる発泡シートの厚みは、1mm以上、10mm以下の範囲が好ましく、1.5mm以上、5mm以下の範囲がより好ましく、1.5mm以上、3mm以下の範囲がさらに好ましい。
発泡シートの厚みが1mm未満の場合は、成形性が悪く好ましくない。10mmを超えるものは、成形性が悪くなるので好ましくない。
【0038】
なお、押出し発泡されたもの、及び押出し発泡されたものどうしを複数枚積層させた発泡シートは、押出し発泡されたものに非発泡なフィルムがラミネートされたものや、共押出しによって非発泡な層が発泡層に積層されているような発泡シートに比べて、後段において示す、いわゆる“深絞り”と呼ばれる成形加工が従来特に困難であることから、本発明の効果がより顕著に発揮される点において好適であるといえる。
ただし、要すれば、その片面もしくは両面に公知の技術により熱可塑性樹脂フィルム、あるいは熱可塑性樹脂繊維からなる不織布を積層させた発泡シートも採用可能である。
【0039】
熱可塑性フィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなどのオレフィン系樹脂フィルム、不織布としては、例えば、PET樹脂などのエステル系樹脂繊維不織布や、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂繊維不織布などが挙げられる。
好ましくはこれらフィルムや不織布は、本実施形態で得られる発泡シート及び成形品の片面に積層するのが望ましい。特に成形品の外側に積層するのが、本実施形態における柔軟性の確保と、成形品の強度向上の点で好ましい。
【0040】
前記発泡シートは、公知の技術でそれどうし、もしくは他の発泡シートと積層することができる。特に他の発泡シートに積層する場合、本実施形態で得られる発泡シートを成形品の内側(被包装物接触面)に来るように積層するのが、内容物への緩衝性の面で好ましい。また、本実施形態で得られる発泡シートどうしを積層させ厚みを増やすこともできる。この場合、発泡シートを作製後、複数のシートを重ねて熱融着させてもよいし、円筒状に押出発泡させたシートを上下から潰して熱融着させてもよい。
【0041】
上記の方法で得られる発泡シートの気泡径は、0.05mm以上、1.0mm以下の範囲が好ましい。気泡径が0.05mm未満の場合、発泡シートの連続気泡率が上昇しやすく、また成形性も悪くなるため、好ましくない。気泡径が1.0mmを超える場合、発泡シートの柔軟性が悪くなるために好ましくない。
【0042】
本実施形態の発泡シートは、従来公知の、プレス成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成型といったシート成形法によって容器などの成形品に加工されうる。
【0043】
次いで、このような発泡シートによって形成される成形品について、「富士柿」、「蜂屋柿」、「甲州百目」などと呼ばれる柿果実(以下、前記呼称を代表して「富士柿」ともいう)を陳列展示すべく用いられる青果用トレーを図に例示しつつ説明する。
図1は、この青果用トレーの斜視図であり、図2は、この図1におけるX−X’線矢視断面図である。
【0044】
この図にも示されているように、本実施形態の青果用トレー1は、上面視における輪郭線を為す外周縁1aが略長方形となっており、該長方形の4つの角部1bが丸みを帯びた状態となって形成されている。
この青果用トレー1は、収容する柿果実の大きさや数などによって適宜大きさが調整されうるものであるが、図においては、上面視における輪郭線を為す長方形の短辺方向D1の寸法が30〜40cmで、長辺方向D2の寸法が40〜50cmのものを例示している。
また、図においては、高さ方向D3の寸法が4〜8cmのものを例示している。
【0045】
この青果用トレー1は、略円柱状に凹入した収納凹部10が、短辺方向D1に3個、長辺方向D2に4個並んで配列されており、合計12個の柿果実を収容し得るように形成されている。
なお、図1における符号Cは、この円柱状を成している収納凹部10の中心軸を表す仮想線を示しており、図2は、収納凹部10について、その中心軸Cから外側半分の断面の様子を示したものである。
【0046】
これらの図にも示されているように、収納凹部10は、上部に円形の開口を有し、該開口の縁部11(以下、「開口縁11」ともいう)から垂下する周側壁12と、前記開口縁11よりも径小な円形の底面部13とを有し、前記周側壁12の下端部と前記底面部13の外縁部との間に曲面部14が形成されて略円柱状とされている。
前記開口縁11の直径は、通常、8〜12cmとされ、前記底面部13は、この開口縁11の直径よりも、通常、2〜10mm程度径小となる円形とされている。
【0047】
本実施形態の青果用トレー1においては、長辺方向D2に並んだ4個の収納凹部10が隣接する収納凹部10の開口縁11の一部を重なり合わせた状態で1列に並んで配置されている。
また、長辺方向D2に並んだ4個の収納凹部10を1列とした場合に、前記12個の収納凹部は3列となって青果用トレー1に配列されており、短辺方向D1両端の列の収納凹部10は、その長辺方向D2の位置が互いに揃えられて配置されている一方で中央の列は、この両端の列に対して開口縁11の半径分オフセットされた位置に配置されている。
【0048】
より具体的に説明すると、図1奥側の角部1bに基準点Oを取って、短辺方向D1にx座標、長辺方向D2にy座標を設定した場合に、12個の収納凹部は、x座標を共通させる3列の収納凹部10に区分することができ、この内、両端の列の収納凹部は、それぞれ基準点Oから長辺方向D2に向けて1番目となる収納凹部のy座標の値を互いに共通させており、同様に2番目から4番目の収納凹部もy座標の値を共通させている。
一方で、中央の列においては、これらの両端の収納凹部のy座標に対して、概ね開口縁の半径の長さ分だけマイナス方向に位置をオフセットさせた状態で配置されている。
【0049】
そして、両端の列の収納凹部と中央の列の収納凹部との間においても隣接する収納凹部10の開口縁11の一部を重なり合わせた状態となっており、12個の収納凹部は、隣接する収納凹部の中心位置を結んだ線分(仮想線TR)が、正三角形に近い鈍角三角形となるように配置されている。
【0050】
このように本実施形態の青果用トレー1は、その中心位置を結んだ線分が略正三角形となるように収納凹部10が配置されており、しかも、開口縁11の一部を重なり合わせた状態となって収納凹部10が配置されている
そのため、青果用トレー1の基準面を為して収納凹部10の開口縁11を画定させている基準平面部15が、前記三角形の中心に位置する部分に平坦な状態で形成されている。
そして、開口縁11の重なり部分においては、発泡シートの位置が前記基準平面部15よりも下方に下がった状態となっている。
すなわち、図に示すように、先の仮想線TRによって形成される三角形の中心部に位置する基準平面部15と、該三角形と隣接する三角形の中心部に位置する基準平面部15との間には、カテナリ曲線状に発泡シートの位置(高さ)を変化させた稜線部16が形成されている。
【0051】
また、本実施形態の青果用トレー1には、その外縁部において、この基準平面部15よりも一段高く隆起された隆起部17が形成されており、該隆起部17が青果用トレー1の外周を周回する状態で備えられて、隆起部17の先端によって前記外周縁1aが画定されている。
さらに、本実施形態の青果用トレー1には、前記収納凹部10が形成されていない箇所において、前記基準平面部15より僅かに凹入された凹入部18が備えられている。
この隆起部17の基準平面部15からの高さや、凹入部18の基準平面部15からの深さについては、通常、5〜10mm程度とされる。
【0052】
前記周側壁12は、前記開口縁11から前記曲面部14に至るまでの基準平面部15からの深さ(図2“h1”)が25mm以上、35mm以下となるように形成されており、シート平面方向に略垂直となるように形成された垂直壁である。
すなわち、この青果用トレー1には、ポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面方向に対する垂直方向への高さが25mm以上となる垂直壁が形成されている。
「富士柿」は、蔕を下にして置いた場合の形状が富士山に似ていることから名付けられたものであり、扁平な「富有柿」と、紡錘形に近い「筆柿」との中間的な形状を有している。
そのため、従来のような半球状の収納凹部を有する青果用トレーに収容させようとすると、その先端部が真っ先に収納凹部の底面に当接されてしまい、安定した収納をさせることが困難となる。
また、逆に、蔕側を下向きにして収容させようとしても、半球状の収納凹部は、その内径を、底面側に向けて急峻に縮径させていることから、「富士柿」に対して点接触な状態となってしまい、やはり、安定した収納をさせることが困難となる。
【0053】
一方で、本実施形態に係る青果用トレー1は、上記のような周側壁12が形成されていることで柿果実の周囲をこの周側壁12が包囲することになり、安定した収納状態とさせ得る。
なお、この周側壁12には、シート成形法による生産性、柿果実を収容させた際の安定性、傷つき防止等を勘案してシート平面方向に対して僅かな傾斜角(θ1)が設けられている。この傾斜角(θ1)としては、2度以上、5度以下とされることが好ましい。
【0054】
すなわち、周側壁12に底面部13に向けた僅かな傾斜が設けられていることでシート成形法において、この収納凹部を形成させるための突出部に抜き勾配を形成させたプラグを用いることができるとともに成形後の型から成形品を脱型させる作業もスムーズに行うことができる。
しかも、収納凹部10がその内径を底面部13に向けて緩やかに縮径させることから柿果実と周側壁12との接触面積を広く確保することができ、例えば、熟した柿果実のような柔らかな果実を収容させるのに際して、柿果実の自重によって周側壁12との間に作用する接触圧力を広い面積にわたって分散させることができ、安定した柿果実の収容が可能となるばかりでなく柿果実に局所的な圧迫を加えて傷を形成させてしまうことを防止しうる。
【0055】
したがって、本発明における垂直壁である前記周側壁12は、通常、シート平面方向に対して略90度となるように形成させるものの90度そのものとはせずに、シート平面との成す角(θ2)が85度以上、88度以下となるように形成させることが好ましい。
なお、このような僅かな傾斜を設ける場合でも、この周側壁12の高さが低い場合には、柿果実の安定性等に対する効果が低減してしまうこととなるが、本実施形態においては、シート平面方向に対する垂直方向への高さ(基準平面部15から曲面部14上端までの深さ)が25mm以上となる周側壁12が形成されているために、上記効果を十分に発揮させ得る。
その意味では、垂直壁を30mm以上とすることがより好ましいものの過度に垂直壁を高く形成させることは、それだけ発泡シートの破断を招くおそれが高くなることを意味するため、この垂直壁の高さは40mm以下とすることが好ましい。
【0056】
なお、前記底面部13は、通常、シート平面方向と平行な平坦面となるように形成され、当該底面部13と前記周側壁12との間の曲面部14は、緩やかに底面部13と周側壁12とを結ぶべく形成されていれば、特にその形状に限定が加えられるものではなく、通常、曲率半径Rが、5〜10mmとなるように形成され得る。
【0057】
ここで本実施形態においては、開口縁11から垂下される周側壁12が垂直壁として形成されているために、この垂直壁の高さを、開口縁11を画定する基準平面部15から曲面部14の上端までの深さとして規定しているが、例えば、周側壁が深さ方向にその立設されている角度を変更しており、収納凹部の深さ方向中間部分に垂直壁が形成されているような場合においても、その垂直壁部分が所定の高さ(25mm)以上であれば本発明に包含されるものである。
【0058】
また、本実施形態においては、12個の収納凹部を有する柿果実用のトレーを例示しているが、13個以上の収納凹部を有するトレーや、11個以下の収納凹部を有するトレーも上記と同様に所定の高さ(25mm)以上の垂直壁が収納凹部に形成されていれば、上記のような機能及び効果を期待することができる。
また、本実施形態においては、柿果実用のトレーを例示しているが、青果用トレーに収容させる青果が柿果実である場合以外にも上記のような機能及び効果を期待することができる。
【0059】
また、上記のような機能及び効果は、青果用トレーなどの容器の他にも種々のポリスチレン系樹脂発泡成形品において発揮され得るものである。
すなわち、本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法、及び、ポリスチレン系樹脂発泡成形品を上記例示に限定するものではない。
【実施例】
【0060】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[製造例1]
ポリスチレン系樹脂(a)を70質量%、ポリエチレン系樹脂(b)10質量%、及び、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)20質量%の割合で含有する樹脂組成物を用いてポリスチレン系樹脂発泡シートを作製した。
用いた材料の詳細は以下の通りである。
1)ポリスチレン系樹脂(a):東洋スチレン社製汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)、グレード名「 HRM26」を50質量%と、同じく東洋スチレン社製ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)、グレード名「HIE4」を20質量%との混合物
2)ポリエチレン系樹脂(b):三井住友ポリオレフィン社製超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)、グレード名「エクセレンVL100」
3)スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c):旭化成社製スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物、グレード名「S.O.E.−SS9000」
また、前記樹脂組成物(i)には、上記(a)〜(c)の樹脂原料の合計100質量部に対して、0.6質量部となる割合でタルク(気泡核剤)を含有させた。
そして、この樹脂組成物材料をφ50mm〜φ65mmの2段シングル押出機のNo.1押出機へホッパーから供給し210℃において溶融混練させた。
No.1押出機の中間部より発泡剤(ii)としてブタンガスを、樹脂組成物(i)100質量部に対し4.5質量部の割合で圧入し、押出機内で樹脂組成物(i)と混練させた。
その後、No.2押出機へ移送させた後、No.2押出機内において均一に冷却させた。
次いで、No.2押出機先端に取付けたスリット径φ60mm、スリット間隔0.45mmのサーキュラーダイから押出し発泡させ、得られた円筒状の発泡体を冷却されているφ170mmのマンドレル上に沿わせ冷却成形し、マンドレル上の1点でカッターにより切開して、発泡シートを得た。
この時の金型内での樹脂温度は147℃で、押出吐出量は20kg/hrであった。
次にこの発泡シートを加熱炉で加熱した後、雄型と雌型の間に挟みプレスすることによって、図1に示す形状の青果用トレーに熱成形した。
【0062】
なお、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)である「S.O.E.−SS9000」に関し、その物性を調べたところ、下記の通り(公表値)であった。
・密度(JIS K7112):0.99g/cm3
・メルトフローレート(JIS K 7210:230℃、2.16kgf):
2.6g/10min
・引張りモジュラス(JIS K 6251:3号ダンベル試験片、試験速度500mm/min)
100%モジュラス:5.1MPa
200%モジュラス:6.9MPa
300%モジュラス:8.0MPa
・引張り強さ、切断時伸び(JIS K 6251:3号ダンベル試験片、試験速度500mm/min):12.0MPa、480%
・硬さ(JIS K6253、デュロメータタイプA硬度、瞬時値):80(10秒値:67)
・ダンロップ反撥弾性率(BS903、23℃):12%
・圧縮永久歪み(旧JIS K6301、70℃、22時間):100%
・加熱変形率(JIS K6723、1kgf、120℃×1h):92%
・学振摩耗試験(サンプル形状:皮シボ、荷重:500gf、摩耗面:R形状(幅19.5mm)、摩耗材:カナキン3号綿布):
10000回摩耗時減量:0.002ml
【0063】
[製造例2]
ポリスチレン系樹脂(a)として東洋スチレン社製GPPS、「HRM30」を72質量%、ポリエチレン系樹脂(b)として三井住友ポリオレフィン社製VLDPE、「エクセレンVL100」を10質量%、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)として旭化成社製スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物 「S.O.E.−SS9000」を18質量%配合した樹脂原料100質量部に対して、気泡核剤としてタルクを0.6質量部添加した樹脂組成物材料を使用した以外は、製造例1と同様にして発泡シートを得た。
この時の金型内での樹脂温度は143℃で、押出吐出量は18kg/hrであった。
次にこの発泡シートを加熱炉で加熱した後、雄型と雌型の間に挟みプレスすることによって、図1に示す形状の青果用トレーに熱成形した。
【0064】
<測定方法>
上記製造例1、2の発泡シートについての諸特性は下記のようにして求めた。
【0065】
[発泡シート密度]
各発泡シートサンプルの体積V(cm3)をノギスで測定し、そのサンプルの重量W(g)から下記式を用いて求めた。

発泡シート密度(単位:g/cm3)=W/V
【0066】
[連続気泡率]
東京サイエンス(株)社製の空気比較式比重計を用いて測定した発泡シートサンプルの体積Vと、ノギスで測定した同じサンプルの体積V0から下記式より求めた。

連続気泡率(単位:容量%)=(V0−V)/V0×100
【0067】
[気泡径]
ASTM D−2842−69に準拠して測定した。
発泡シートのMD、TD、VD方向の各平均気泡径を測定した後、その各方向の平均気泡径の平均をもって、その発泡シートの気泡径とした(単位:mm)。
【0068】
[シート厚み]
発泡シートの厚みをシート幅方向に5点厚みゲージで測定し、その平均値をその発泡シートの厚み(単位:mm)とした。
【0069】
[1kgf荷重時の部分圧縮変位量]
オリエンテック社製 テンシロンUCT−10を使用し、以下のようにして測定した。
まず、試料発泡シートを10cm×10cmに切り抜き、測定試料サンプルとする。
部分圧縮変位量測定には最大荷重25kgfのロードセルを用い、ロードセルに先端がR=10mmの半球形状をしたφ20mm、長さ25mmの直棒形状の押し治具を装着して常温(例えば、23℃)における圧縮試験を行う。
試料サンプルは積層せずに、1枚だけを測定装置荷台に隙間ができないように、サンプルシートを測定装置荷台に密着させてセットし、試料サンプルの厚み方向上端部に押し治具下端部が接触した状態を基点とし、押し治具を速度20mm/minにて降下させ、試料サンプルを圧縮する。
その際、試料サンプルへの荷重が1kgf時の治具の基点からの変位(mm)を試料発泡シートの1kgf荷重時の部分圧縮変位量とし、サンプル数5の測定値平均をそのサンプルの1kgf荷重時の部分圧縮変位量(単位:mm)とした。
【0070】
[破断点伸び低下率、及び耐候性]
まず、発泡シートの流れ方向にダンベル状1号形(JIS K6251)試験片を10枚打ち抜き、促進暴露試験用サンプルとする。
このうち、5枚を暴露0時間での引張り試験に使用し、残りの5枚を25時間の促進暴露試験後の引張り試験に使用する。
暴露0時間の引張り破断点伸びA(mm)と、暴露25時間後の引張り破断点伸びB(mm)を求め、次式より引っ張り破断点伸び低下率(%)を求めた。
そしてその値がポリスチレン樹脂(東洋スチレン社製汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)、グレード名「 HRM26」)100%の発泡シートを基準として、40%未満のものを「○」、40%以上低下するものを「×」とした。
引張り試験は、(株)オリエンテック社製 テンシロンUCT−10を使用し、チャック間隔70mm、試験速度50mm/minにて行い、試験回数5回の平均値としてサンプルの引張り破断点伸び求めた。
促進暴露試験はJIS A1415に準拠して行い、スガ試験機(株)製、サンシャイン スーパーロングライフウェザーメーター、型名「WEL−SUN−HC・B型」を用いて、照射条件をブラックパネル温度63℃、スプレー噴霧タイプ18分/120分、試験槽温度43℃、湿度30%に設定して行った。

引張り破断点伸び低下率(単位:%)=(A−B)/A×100
【0071】
[発泡シート表面状態]
発泡シートの表面状態を観察し、表面にシャークスキンのような“ささくれ”が現れていたり、“熱やけ”のような表面光沢が現れていたりするものは「×」、“ささくれ”や“熱やけ”が認められなかったものは「○」とした。
【0072】
[発泡シート剥離性]
まず、試料発泡シートを10cm×10cmに切り抜き5枚程度重ね、さらに厚さ1mm程度の同じ大きさのアルミ板で挟んだ状態で、70℃に設定したオーブン中に水平に静置させる。
その上から5kgの分銅をのせ、その状態で24時間加熱させる。その後オーブンより取り出し、発泡シートどうしの剥離性を調べた。
重ねあわせた発泡シートを1枚ずつ剥がしていき、その際の剥がれ具合で「◎」、「○」、「×」の3段階の評価基準を設定した。
◎:ほとんど音がせず力もかからない
○:パリパリ程度の音がするが、力はそれほどかからない
×:バリバリ音がし、力をかけなければ剥がれない
【0073】
[成形性]
単発熱成形機において、加熱炉内温度130℃に設定して、開口部100mm、深さ40mmのホールを16個持つ金型を用いて、得られた発泡シートを成形し、成形品表面の状態や成形品厚みを観察した。
表面が“熱やけ”状態になったり、“裂け”が発生したり、成形品の厚みが充分出ないものしか得られないものは「×」、これらの不具合が認められなかったものを「○」とした。
これらの評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
また、上記製造例1、2では、開口縁の直径約10.5cm、図1における“h1”、が、30mm強、“h2”が、約40mmとなり、傾斜角“θ1”が約3度(“θ2”≒87度)となる収納凹部を12個配列させた青果用トレーを作製したが、シートの破断等の不具合が生じることなく良好なる成形加工を行うことができた。
【0076】
このことからも、本発明によれば、種々の形状の収容物の収納に利用される容器などの成形品において、その用途が制約されることを防止させることができるとともに、この青果用トレーのような成形品を製造するのに適した製造方法が提供され得ることがわかる。
【符号の説明】
【0077】
1 青果用トレー
1a 外周縁
1b 角部
10 収納凹部
11 開口縁
12 周側壁
13 底面部
14 曲面部
15 基準平面部
16 稜線部
17 隆起部
18 凹入部
C 中心軸
D1 短辺方向
D2 長辺方向
D3 高さ方向
O 基準点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂(a)、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂(b)及びスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)を含む樹脂組成物(i)が押出し発泡されて形成されたポリスチレン系樹脂発泡シートをシート成形法によって成形加工してポリスチレン系樹脂発泡成形品を作製するポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法であって、
前記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)としてデュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下のものが用いられており、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となる前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを用い、前記成形加工によって、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面方向に対する垂直高さが25mm以上となる垂直壁をポリスチレン系樹脂発泡成形品に形成させることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法。
【請求項2】
製造する前記ポリスチレン系樹脂発泡成形品が青果用トレーである請求項1記載のポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートを形成している前記樹脂組成物(i)には、ポリスチレン系樹脂(a)が50質量%以上、90質量%以下含有され、ポリエチレン系樹脂(b)が3質量%以上、20質量%以下含有され、スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)が3質量%以上、47質量%以下含有されており、しかも、前記ポリエチレン系樹脂(b)、及び、前記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)の合計量が10質量%以上、50質量%以下となるように含有されている請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂(a)が、ポリスチレンホモポリマー単体であるか、又は、ポリスチレンホモポリマー50質量%以上、90質量%以下、及び、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、若しくは、スチレン−アクリル酸エステル共重合体10質量%以上、50質量%以下からなる樹脂であるかのいずれかである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂発泡成形品の製造方法。
【請求項5】
ポリスチレン系樹脂(a)、密度0.87g/cm3以上、0.92g/cm3以下のポリエチレン系樹脂(b)及びスチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)を含む樹脂組成物(i)を押出し発泡させてなるポリスチレン系樹脂発泡シートがシート成形法によって成形加工されて形成されたポリスチレン系樹脂発泡成形品であって、
前記スチレンと共役ジエンとの共重合体またはその水素添加物(c)として、デュロメータタイプA硬度の値HDAが90以下のものが用いられており、密度が0.03g/cm3以上、0.2g/cm3以下で、且つ1kgf荷重時の部分圧縮変位量が0.60mm以上となる前記ポリスチレン系樹脂発泡シートが用いられて形成されており、該ポリスチレン系樹脂発泡シートのシート平面方向に対する垂直高さが25mm以上の垂直壁が前記成形加工によって形成されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡成形品。
【請求項6】
青果用トレーである請求項5記載のポリスチレン系樹脂発泡成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73188(P2011−73188A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224956(P2009−224956)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】