説明

ポリスルホン膜、および複合膜

【課題】
製膜後の改質処理工程を用いることなく高い水透過性と高い溶質除去性を併せ持つ複合逆浸透膜を提供することを目的とするものである。
【解決手段】
表面から深さ1μmの層(A層)の平均細孔径が200nm以下であって、平均空隙率が40〜75%であり、かつメタフェニレンジアミン拡散量が1×10−3 mol/m以上2×10−3 mol/m以下であることを特徴とするポリスルホン膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体混合物の選択的な分離に有用なポリスルホン膜、およびポリスルホン膜からなる複合膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合半透膜として、微多孔性支持膜上に実質的に選択分離性を有する分離機能膜を形成してなる複合逆浸透膜や複合ナノろ過膜が知られている。複合膜では分離機能膜と微多孔性支持膜の各々に最適な素材を選択することが可能であり、製膜技術も種々の方法を選択できる。微多孔性支持膜の素材としてポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン等が挙げられるが、これらの素材の中で化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易なポリスルホンが一般的に使用されている。
【0003】
複合半透膜を用いて分離を行う際は、供給液の浸透圧と透過液の浸透圧の差以上の圧力を供給液側にかけることが必要であり、特に供給液の濃度が高く、浸透圧が高い場合には高い圧力を操作圧力として必要とする。一般的に、海水淡水化では60から65atm程度の圧力をかけて運転されるが、この場合膜表面に強い圧力がかかるため、運転中に膜が圧密化し、微多孔性支持膜のボイドがつぶれたり、分離機能膜がさらに緻密化したりして膜形態、膜性能が変化してしまう。
【0004】
このような中、複合半透膜の微多孔性支持膜に用いるポリスルホン膜として、高圧運転時においても水透過性能、脱塩性能の変化が小さい耐圧性ポリスルホン支持膜が提案されている(特許文献1)。この耐圧性ポリスルホン支持膜は、膜中の空隙率と空孔径を制御することで得られるが、該支持膜から作製された複合半透膜の水透過性能、脱塩性能は従来と同等であり、従来以上に膜性能を向上させる耐圧性ポリスルホン膜は現在までのところ知られていない。
【0005】
複合半透膜としては、微多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能膜を微多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。上記複合半透膜は、高い脱塩性能及び水透過性能を有するが、高い脱塩性能を維持したまま更に水透過性を向上させることが、運転コストや設備コストの低減や効率面などの点から望まれている。
【0006】
これらの要求に対し、各種添加剤(特許文献2)が提案され、性能は改善されているものの、未だ不十分である。また、分離機能膜として架橋ポリアミド重合体を設けた複合半透膜について(i)塩素を含む水溶液に接触処理させる方法(特許文献3)、(ii)亜硝酸を含む水溶液に接触処理させる方法(特許文献4)が知られている。上記(i)(ii)のような処理方法を用いることで透水性能の向上を図れるが、経済面・地球環境等の観点から考えると未だ不十分で、高い脱塩性能を維持したまま更なる水透過性の向上が望まれている。さらに、これらの方法では、製膜に必要な薬剤の量が増大し、経済的な負担や廃液処理への負荷が増加するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−168658号公報
【特許文献2】特開昭63−12310号公報
【特許文献3】特開2005−246207号公報
【特許文献4】特開2005−186059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、経済的な負担や廃液処理への負荷を軽減しつつ、高い塩阻止率を維持し、高い水透過性能を併せ有する複合半透膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、次の(1)〜(2)の構成を特徴とするものである。
(1)表面から深さ1μmの層(A層)の平均細孔径が200nm以下であって、平均空隙率が40〜75%であり、かつメタフェニレンジアミン拡散量が1×10−3 mol/m以上2×10−3 mol/m以下であることを特徴とするポリスルホン膜。
(2)(1)に記載のポリスルホン膜上に分離機能膜が設けられていることを特徴とする複合膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製膜後の改質処理工程を用いることなく高い水透過性と高い溶質除去性を併せ持つ複合半透膜を得ることができる。また、新たな薬剤の添加を必要としないため、経済的な負担や廃液処理の負荷を少なくし、より簡便に安全な方法によって達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】複合逆浸透膜の一例を示す部分断面図である。
【図2】メタフェニレンジアミン拡散量測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいうポリスルホン膜の平均空隙率は次のようにして測定された値のことをいう。図1で示した複合膜において、例えばピンセットを用いて基材から機械的に分離したポリスルホン膜に対して、水銀圧入法により細孔径を測定する。水銀圧入法では、前記ポリスルホン膜の連通孔に水銀が圧入されるように水銀に圧力pをかけ、圧力の増分dpに対するセル内の水銀の体積変化dVを測定することによって、次式から、細孔分布関数F(r)を求める。
【0013】
【数1】

【0014】
(ここで、rは細孔半径,σは水銀の表面張力(0.480N/m),θは接触角(140°)を表す。)平均孔径は、次式によって求めることができる。
【0015】
【数2】

【0016】
一方、平均空隙率は、水銀圧入法によりポリスルホン膜について、連通孔に水銀が圧入される前の嵩密度Daを求め、次式によって求める。
Da=(m0−m1)/ρ …(3)
(ここで、m0は空の測定セル内に水銀を満たしたときの水銀の重量,m1は試料をセル内に入れ、水銀をセル内に導入したときの水銀の重量,ρは水銀の密度を表す。)
更に水銀が圧入されて連通孔が完全に水銀で置換される前と後の体積変化V1から、真密度Dtを次式によって求め、
Dt=W/(W/Da−V1) …(4)
(ここで、Wは試料重量を表す。)
平均空隙率は
平均空隙率=(Dt−Da)×100/Dt …(5)
をもって算出された値とする。
【0017】
上記したパラメータ特性で特徴づけられる本発明のポリスルホン膜において、平均細孔径が同じ程度であると仮定した場合、平均空隙率が小さい場合ほど膜の骨格部分の占有割合は大きく膜自体の強度も大きいので、ポリスルホン膜を支持膜とする複合膜を海水淡水化に用いる際、運転圧力が高くなっても支持膜の圧密化は起こりにくい。しかし他方では、透過水の透過抵抗は高くなり、透水性能の低下が引き起こされる。このようなことから、平均空隙率の下限値は40%に設定される。一方、平均空隙率が大きくなるほど透過水に対する透過抵抗は小さくなって透水性能は向上する。しかしながら、膜の骨格部分の占有割合は少なく、その強度は低くなるので、運転圧力が高くなると圧密化を起こしやすい。このようなことから、平均空隙率の上限値は75%に設定される。
【0018】
本発明において、細孔とは中に存在する空孔(ボイド)およびポリマーの粒子状物あるいは円柱状物の隙間のことであり、細孔径および平均細孔径は以下に述べる方法により求めることができる。まず、凍結割断法で切断して走査型電子顕微鏡(SEM)用の断面観察サンプルとし、次に得られたサンプルの断面写真をSEMを用いて撮影する。観察倍率は、1,000〜50,000倍程度が好ましい。特に、細孔径と層の厚みを測定する場合には5,000〜20,000倍が好ましい。最後に、撮影した断面写真を画像解析ソフトに読み込み、解析を行うことで、細孔径および平均細孔径を求める。上記の方法で求めた本発明ポリスルホン膜のA層の平均細孔径は200nm以下であり、より好ましくは150nm以下である。
【0019】
本発明のポリスルホン膜は非対称膜であることが好ましい。非対称構造とは片面に緻密な細孔を持ち、もう一方の面まで細孔が徐々に大きくなっていく構造であり、細孔径が片面からもう一方の面まで連続的に変化していることが好ましい。非対称なポリスルホン膜の場合、A層は緻密な細孔を有する側の層を表す。
【0020】
本発明におけるポリスルホン膜の粒子状物あるいは円柱状物の平均径は5〜80nm、好ましくは10〜70nm、さらに好ましくは15〜50nmである。平均径が小さすぎると分離膜の透過性が小さくなり好ましくない。また、平均径が大きすぎると膜表面に凹凸ができやすくなり好ましくない。
【0021】
本発明におけるポリスルホン膜は通常ポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛(基材)により強化され、ポリスルホン支持膜として用いられる。
【0022】
本発明におけるポリスルホン層の厚みは10μm〜5mmであり、膜強度の面から10μm以上、扱い易さやモジュール加工のし易さの面で400μm以下が好ましい。
【0023】
本発明におけるポリスルホン膜は、各パラメータを上記範囲に設定することにより、当該膜を支持膜とする複合逆浸透膜は、例えば海水淡水化のような高圧運転下においても圧密化を起こしにくく、かつ高い水透過性と高い溶質除去性を実現する支持膜として機能する。
【0024】
本発明でいう「メタフェニレンジアミン拡散量」は以下のように測定された値のことをいう。すなわち、まずポリスルホン膜を5重量%メタフェニレンジアミン水溶液に10秒間浸漬し、表面から余分な該水溶液を取り除いた後、図2に示した装置にA層側を上にしてポリスルホン膜をセットする(図2の8)。次に該ポリスルホン膜のA層表面に25L/mの割合でイソオクタンを接触させ、イソオクタンを撹拌羽根で撹拌(回転数:100rpm)させた時の初期10秒間にA層からイソオクタンへ拡散する単位面積当たりのメタフェニレンジアミン量を拡散量(mol/m)として表す。なお、拡散実験を行う際のイソオクタン温度は25℃とし、イソオクタン中のメタフェニレンジアミン量の測定は紫外吸収可視スペクトル、クロマトグラフィー、質量分析などで求められる。
【0025】
当該拡散量を向上させることによってポリスルホン膜上に分離機能膜を設けた複合半透膜の透水性向上を図ることができる。通常、透水性と除去率はトレードオフの関係にあり、透水性が向上すると除去率の低下が懸念されるが、拡散量を向上させることで分離機能膜形成時の重縮合反応に関与するメタフェニレンジアミン量も向上し、除去率を決定する重要因子の1つである膜の緻密度を維持、または向上させることができる。それに伴い、除去率の低下を引き起こさない。しかしながら、該拡散量が大きすぎても分離機能膜の形成が上手くいかず、除去率の低下を招いたり、耐圧性に劣ったりする膜となってしまう。これらのことから、本発明におけるポリスルホン膜のメタフェニレンジアミン拡散量は1×10−3mol/m以上2×10−3mol/m以下に設定される。
【0026】
本発明におけるポリスルホン膜は、その上に分離機能膜を有する複合膜を製造する支持膜として用いることもできる。このような支持膜は、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法を参考にして製造することができる。すなわち、所定量のポリスルホンをジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)に溶解し、所定濃度のポリスルホン樹脂溶液を調製する。次いで、このポリスルホン樹脂溶液をポリエステル布あるいは不織布からなる基材上に略一定の厚さに塗布した後、一定時間空気中で表面の溶媒を除去した後、凝固液中でポリスルホンを凝固させることによって得ることが出来る。この時、凝固液と接触する表面部分などは溶媒のDMFが迅速に揮散するとともにポリスルホンの凝固が急速に進行し、DMFの存在した部分を核とする微細な連通孔が生成される。
【0027】
また、上記の表面部分から基材側へ向かう内部においては、DMFの揮散とポリスルホンの凝固は表面に比べて緩慢に進行するので、DMFが凝集して大きな核を形成しやすく、したがって、生成する連通孔が大径化する。勿論、上記の核生成の条件は、膜表面からの距離によって徐々に変化するので、明確な境界のない、滑らかな孔径分布を有する支持膜が形成されることになる。本発明は、この形成工程において用いるポリスルホン樹脂溶液ポリスルホン樹脂溶液の温度やポリスルホンの濃度、塗布を行う雰囲気の相対湿度、塗布してから凝固液に浸漬するまでの時間、凝固液の温度や組成等を調節することにより平均空隙率と平均孔径を制御したポリスルホン膜を得ることができる。
【0028】
具体的には、まずポリスルホン樹脂溶液の塗布において、ポリスルホン樹脂溶液の温度と高分子材料の濃度、塗布を行う雰囲気の相対湿度および凝固液に浸漬するまでの時間の制御が重要である。温度は、20〜30℃の範囲内にあるポリスルホン樹脂溶液を塗布するとよい。この温度が20℃を下回ると、樹脂と溶媒との相分離が充分に進行しないうちに凝固が始まるため、生成する連通孔の孔径が小さくなりやすい。また、30℃を超えると、相分離が進行して連通孔となる溶媒相が大きく成長し、連通孔が大きくなる傾向にあり、平均孔径の変化が所定の範囲内にある支持膜が得にくくなる。
【0029】
樹脂濃度については、12〜20重量%の範囲内にあるポリスルホン樹脂溶液を用いることが好ましい。12重量%を下回ると連通孔の孔径が大きくなる傾向があり、また、20重量%を超えると連通孔の孔径が小さくなる傾向があり、いずれにしても、平均孔径の変化が所定の範囲内にある支持膜を得にくくなる。
【0030】
さらに、上記のポリスルホン樹脂溶液を塗布する際の雰囲気の相対湿度を40〜70%の範囲内に制御しておくとよい。これは、相対湿度が70%を超えると、雰囲気に接する表面側のポリスルホン樹脂溶液の凝固が急速に進行し平均孔径が小さくなる傾向があり、また40%を下回ると、表面側のポリスルホン樹脂溶液の凝固の進行が遅れ、膜厚方向における凝固の進行が一様となりやすく、いずれにしても、平均孔径分布が所定の範囲内にある支持膜を得にくくなる。
【0031】
ポリスルホン樹脂溶液を基材に塗布後、凝固液に浸漬するまでの時間は、1〜10秒間となるように制御することが好ましい。これも支持膜の平均空隙率や平均孔径に影響を与えるため、この時間が1秒間を下回ると、ポリスルホンと有機溶媒との相分離が充分に進まないうちに凝固が始まるため、平均孔径が小さくなりやすく、また、10秒間を超えると相分離が進んで、後に連通孔となる溶媒相が大きく成長し、平均孔径が大きくなりすぎるため、いずれにしても、平均孔径の変化率が所定の範囲内にある支持膜を得にくくなる。
【0032】
また、凝固液としては純水、もしくは純水と有機溶媒からなる混合溶液を凝固液を用いることで達成できる。有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、DMF、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が例示されるように、水に対して10重量%以上溶解し、かつポリスルホンを10重量%以上溶解する良溶媒が好ましい。有機溶媒の含有量としては15〜45重量%が好ましく、より好ましくは20〜35重量%である。
【0033】
ポリスルホンとしては、化学的、機械的、熱的に安定性の高く、さらに孔径が制御しやすく、寸法安定性の高い、次の化学式に示す繰返し単位からなるポリスルホンを用いるのが好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
上記のようにしてこのポリスルホン支持膜を形成した後、分離機能膜を被覆して複合膜を製造する。本発明において、分離機能膜とは分離膜において実質的に分離機能を有するごく薄い層のことで、分離機能層、活性層、超薄膜、超薄膜層と呼ぶこともある。分離機能膜の素材としては架橋あるいは線状の有機物のポリマーを使用することができる。分離膜が高い分離性能を発現するためには、ポリマーはポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、セルロースエステル、ポリイミド、ポリアミック酸、ビニルポリマーが好ましく、さらに好ましくはポリアミド、特に芳香族ポリアミドが好ましい。また、さらに分離膜全体の耐圧性を高くし、70atm以上の圧力でも高い排除率をさらに維持するためには、これらのポリマーが架橋ポリマーであることが好ましい。特に、架橋芳香族ポリアミドおよびその共重合体が好ましい。
【0036】
「分離膜」とは限外濾過膜や逆浸透膜等の分離機能を有する膜のことであり、微細孔層を有する膜、あるいはそれを微多孔性支持膜として用いた複合膜のことを示すものとする。特に、海水淡水化用途などで逆浸透法に用いる分離膜は、微多孔性支持膜表面に異なる素材で実質的に分離性能を司る分離機能膜を被覆した複合膜とすることが好ましい。この時、分離機能膜は緻密層表面に形成されることが好ましく、緻密層表面の平均細孔径は100nm以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の複合膜における分離機能膜の厚みは1〜1,000nmであり、好ましくは5〜800nm、さらに好ましくは10〜500nmである。分離機能膜の厚みが小さすぎると製膜時の欠点の発生が多くなったり取り扱い時に傷つきやすくなったりし、圧力をかけた際にも欠点が発生したりして排除率の低下を招く。また分離機能膜の厚みが大きすぎると透過速度係数が極端に低下して充分な透過量が得られない。
【0038】
本発明における分離機能膜の被覆はポリマーをコーティングする方法、コーティングしたポリマーをさらに架橋する方法、モノマーを微多孔性支持膜の膜面で重合する方法、あるいは微多孔性支持膜の膜面で界面重縮合する方法で行なうことができる。特に界面反応
法は薄く均一な分離機能膜が得られ、好ましい。
【0039】
分離膜の形態は平膜でも、中空糸でも構わない。平膜の場合、分離膜は、布、不織布、紙などで裏打ちされていても良い。また、得られた分離膜が平膜の場合は、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレームのモジュールに組み込み、また中空糸の場合は束ねた上でモジュールに組み込んで使用することができるが、本発明はこれらの膜の使用形態に左右されるものではない。
【実施例】
【0040】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものはない。
【0041】
実施例、比較例におけるメタフェニレンジアミン拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径は以下のように測定した。
【0042】
(メタフェニレンジアミン拡散量)
基材とポリスルホン層からなる支持膜を5重量%メタフェニレンジアミン水溶液に10秒間浸漬し、表面から余分な該水溶液を取り除いた後、図2に示した装置にポリスルホン層側を上にして膜をセットした。次に該ポリスルホン膜の表面に25L/mの割合でイソオクタンを接触させ、撹拌羽根でイソオクタンを10秒間撹拌(回転数:100rpm)した後のイソオクタン溶液をあらかじめ検量線を得た紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV−2450)で測定し、294.8nmにおける吸光度からメタフェニレンジアミン拡散量を算出した。なお、拡散実験は25℃で行った。
【0043】
(平均空隙率)
基材からはがしたポリスルホン膜から約12mm×20mm角の試料片3枚を切り出し、精秤の後、重ならないように測定用セルに入れ、減圧下に水銀を注入した。次に本試料をマイクロメリテック社製ポアサイザー9320で細孔径分布を測定した。測定回数は1回とした。
【0044】
(A層の平均細孔径)
ポリスルホン膜を凍結割断法で切断して断面観察サンプルを作成し、このサンプルに白金を薄くコーティング後、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(日立製S−900型電子顕微鏡)を用いて3〜6kVの加速電圧で断面写真を撮影した。SEMにより撮影した断面写真を画像解析ソフトImage Proに取り込み、解析を行い、A層の平均細孔径を求めた。
【0045】
実施例、比較例における複合半透膜の各種特性は、複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した海水(TDS(otal issolved olids)濃度約3.5%)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を24時間行ない、その後の透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
【0046】
(TDS除去率(脱塩率))
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)を表した。
(実施例1)
室温(25℃)下において、ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みでキャストし、ただちに20重量%のDMFを含有する水溶液中に浸漬して5分間放置することによってポリスルホン支持膜(厚さ210〜215μm)を作製した。次に、該支持膜をm−PDAの5重量%水溶液中に2分間浸漬し、垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.175重量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。このようにして得られたポリスルホン支持膜のメタフェニレンジアミンの拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径、そして複合半透膜の膜透過流束、TDS除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
(実施例2)
凝固浴のDMF濃度を26%に変更した以外は実施例1と同様にしてポリスルホン支持膜を作製し、さらに実施例1と同様の方法で該支持膜から複合半透膜を作製した。このようにして得られたポリスルホン支持膜のメタフェニレンジアミンの拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径、そして複合半透膜の膜透過流束、TDS除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
(実施例3)
凝固浴のDMF濃度を35%に変更した以外は実施例1と同様にしてポリスルホン支持膜を作製し、さらに実施例1と同様の方法で該支持膜から複合半透膜を作製した。このようにして得られたポリスルホン支持膜のメタフェニレンジアミンの拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径、そして複合半透膜の膜透過流束、TDS除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
(実施例4)
ポリスルホン濃度を17%に変更した以外は実施例2と同様にしてポリスルホン支持膜を作製し、さらに実施例1と同様の方法で該支持膜から複合半透膜を作製した。このようにして得られたポリスルホン支持膜のメタフェニレンジアミンの拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径、そして複合半透膜の膜透過流束、TDS除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
(比較例1)
凝固浴を純水に変更した以外は実施例1と同様にしてポリスルホン支持膜を作製し、さらに実施例1と同様の方法で該支持膜から複合半透膜を作製した。このようにして得られたポリスルホン支持膜のメタフェニレンジアミンの拡散量、平均空隙率、A層の平均細孔径、そして複合半透膜の膜透過流束、TDS除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかなように、イソオクタンへのメタフェニレンジアミン拡散量が1×10−3 mol/m以上2×10−3 mol/m以下であるポリスルホン膜を支持膜に用いることで、高い塩阻止性能を維持しつつ、従来のものより透過流束が向上した複合半透膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリスルホン膜、およびポリスルホン膜からなる複合膜は海水の淡水化、かん水の脱塩、排水の処理および有価物の濃縮、回収の際に好適に用いることができる。特に高塩阻止率と高透過流束を併せ有する複合半透膜を製造する際に本発明のポリスルホン膜を分離機能膜の支持膜として用いることは有効である。
【符号の説明】
【0050】
1 分離機能膜
2 微多孔性支持膜(ポリスルホン膜)
3 微細孔
4 A層
5 200nm以上のボイド
6 撹拌棒
7 イソオクタン
8 メタフェニレンジアミン含浸ポリスルホン膜
9 スターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から深さ1μmの層(A層)の平均細孔径が200nm以下であって、平均空隙率が40〜75%であり、かつメタフェニレンジアミン拡散量が1×10−3 mol/m以上2×10−3 mol/m以下であることを特徴とするポリスルホン膜。
【請求項2】
請求項1に記載のポリスルホン膜上に分離機能膜が設けられていることを特徴とする複合膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−194272(P2011−194272A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60297(P2010−60297)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】