説明

ポリチオエステルのビルディングブロックとしてのチオ酸

本発明は、ポリチオエステルのビルディングブロックとして好適な、式(II)




(式中、Xは、O、N、またはSであり、R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、R2は、好ましくは、ポリ(乳酸)(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、PLAおよびPGAのコオリゴマーもしくはコポリマー(PLGA)、ポリ(無水物)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、またはポリエステルアミドから選択される生分解性オリゴマーまたはポリマーから選択され、n>1である)に従うチオ酸に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ポリチオエステルのビルディングブロックとしての新規なチオ酸に関する。さらに本発明は、チオ酸の調製方法に関する。本発明はまた、このチオ酸から調製されるポリチオエステルにも関する。さらに本発明は、このポリチオエステルを含む医療用具にも関する。
【0002】
その中でも特に本発明は、医療用途に好適なブロックコポリマー等のポリマーや架橋ネットワークを生成させるための新規なチオ酸に関する。本発明は、人体または動物の体内で使用すると完全に分解し、それによって毒性を有するかまたはそれ以外で望ましくない可能性がある残留成分を最小限に抑えることができるポリマーを提供する。
【0003】
チオ酸は従来技術より周知である。例えば、国際公開第2007028612A号パンフレットから、チオ酸をポリチオエステルのビルディングブロックとして使用できることが周知である。しかしながら、これまでに記載されたチオ酸含有化合物は疎水性部分を含むチオ酸化合物である。
【0004】
疎水性部分を含むチオ酸化合物からポリチオエステルを作製すると、その分解物の水溶性が不十分なものになる。出発チオ酸は、ポリチオエステルの分解または生分解だけでなく、物理的性質、薬物溶解度、およびポリチオエステルからの放出等の特性にも大きく影響するであろう。in vivo設定の系(in vivo setting system)では、現時点では入手できない水溶性のチオ酸を用いることが必要とされている。最後に、これらは疎水性の性質を有するため、生体医学用途に用いられるハイドロゲル素材の調製に使用するには限界がある。
【0005】
本発明の目的は、一連の新規なチオ酸を提供することによって上述の欠点を克服することにある。
【0006】
本発明のさらなる目的は、新規なチオ酸からのポリチオエステルの製造を提供することにある。
【0007】
本発明のさらなる目的は、親水性/疎水性の性質をより容易に調整することができるポリチオエステルを提供することにある。こうした性質を調整できる能力は、特定の薬物を放出させるポリチオエステルを選択する際に極めて有利であろう。こうすることにより、最適な薬物/ポリマー親和性を達成すると共に所望の放出時間が得られるようにポリチオエステルを調整することが可能である。
【0008】
本発明の目的は、ポリチオエステルのビルディングブロックとして好適な式II
【化1】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、n>1であり、
R1は、(−CH2−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、
R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択される)に従う新規なチオ酸の提供において達成される。
【0009】
R2がMw<1000Daの低分子量化合物から選択される場合、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、またはトリエチレングリコールからなる群から選択してもよい。
【0010】
オリゴマーまたはポリマーとしてのR2は、例えば、それぞれ、オリゴまたはポリ(ビニルアルコール)(PVA)、オリゴまたはポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコオリゴマーまたはコポリマー、ポロキサマー、メロキサポール(meroxapol)、ポロキサミン、オリゴまたはポリ(ウレタン)、オリゴまたはポリエステルアミド、オリゴまたはポリチオエステルアミド、オリゴまたはポリ((ポリエチレンオキシド)−コ−ポリ(ブチレンテレフタレート))、オリゴまたはポリ(ビニルピロリドン)、オリゴまたはポリ(エチルオキサゾリン)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースやメチルヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキル化セルロース、オリゴまたはポリ(L−乳酸)(PLLA)、オリゴまたはポリ(DL−乳酸)(PDLLA)、オリゴまたはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸のコオリゴマーまたはコポリマー(PLGA)、オリゴまたはポリ(無水物)、オリゴまたはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴまたはポリ(オルトエステル)、オリゴまたはポリ(ジオキサノン)、オリゴまたはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴまたはポリ無水物、ならびにそのコポリマーまたはコオリゴマーまたはブレンド物である。
【0011】
好ましくは、R2は、分解性オリゴマーまたはポリマーから選択される。分解性または生分解性オリゴマーまたはポリマーとしてのR2は、オリゴまたはポリ(L−乳酸)(PLLA)、オリゴまたはポリ(DL−乳酸)(PDLLA)、オリゴまたはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸(PLGA)のコオリゴマーまたはコポリマー、オリゴまたはポリ(無水物)、オリゴまたはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴまたはポリ(オルトエステル)、オリゴまたはポリ(ジオキサノン)、オリゴまたはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴまたはポリ無水物、ならびに上述の任意のポリマーのコポリマーまたはコオリゴマーまたはブレンド物である。特に好ましい分解性オリゴマーまたはポリマーは、オリゴもしくはPLLA、オリゴもしくはPLGA、オリゴもしくはPCL、ならびにPCLおよび乳酸もしくはグリコール酸のコポリマー、オリゴもしくはポリ(ウレタン)、オリゴもしくはポリ(ヒドロキシ酸)、オリゴもしくはポリカーボネート、オリゴもしくはポリアミノカーボネート、オリゴもしくはポリホスファゼン、オリゴもしくはポリ(プロピレン)フマレート、オリゴもしくはポリエステルアミド、オリゴもしくはポリチオエステルアミド、オリゴもしくはポリオキサエステル、オリゴもしくはポリ(マレイン酸)、オリゴもしくはポリアセタール、オリゴもしくはポリケタール、もしくは天然高分子(デンプン、ポリペプチド、ポリヒドロキシアルカノエート、フィブリン、キチン、キトサン、多糖または炭水化物(ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、およびその類似の誘導体等)、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、またはアルギン酸塩、および蛋白質(ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、オボアルブミン等))、またはそのコオリゴマーもしくはコポリマーもしくはブレンド物である。
【0012】
より好ましくは、R2は、オリゴもしくはポリ(乳酸)(PLLA)、オリゴもしくはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸のコオリゴマーもしくはコポリマー、オリゴもしくはポリ(無水物)、オリゴもしくはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴもしくはポリ(オルトエステル)、オリゴもしくはポリ(ジオキサノン)、オリゴもしくはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴもしくはポリエステルアミド、またはオリゴもしくはポリチオエステルアミドから選択される。
【0013】
しかしながら、R2は、オリゴまたはポリ(ビニルアルコール)(PVA)、オリゴまたはポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコオリゴマーまたはコポリマー、ポロキサマー、メロキサポール、ポロキサミン、オリゴまたはポリ(ウレタン)、オリゴまたはポリ((ポリエチレンオキシド)−コ−ポリ(ブチレンテレフタレート))、オリゴまたはポリ(ビニルピロリドン)、オリゴまたはポリ(エチルオキサゾリン)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースやメチルヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキル化セルロース等の非分解性オリゴマーまたはポリマーから選択してもよい。
【0014】
式II中のR1、R2、およびnの選択が、結果として得られるポリチオエステルの特性に影響することになるのは明らかである。nは、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6から選択される。n=2の場合は線状ポリマーが形成されるであろう。n>2の場合は分岐ポリマーが形成されるであろう。
【0015】
驚くべきことに、この新規なチオ酸が利用できることによって、結果として得られるポリチオエステルの親水性/疎水性のバランスをより適切に調整することができ、それにより、ポリチオエステルの薬剤に対する相溶性を調整するための選択肢が広がることが見出された。こうすることにより、放出特性、物理的性質、および分解挙動に影響を与えることができる。さらなる利点は、この新規なチオ酸がより親水性が高い構造を有することから、水系製剤の調製が可能になることである。
【0016】
最後に、この新規なチオ酸によってハイドロゲルの調製が可能になる。
【0017】
本明細書において用いられる「分解性」という用語は、より小さい分子に崩壊することが可能な分子構造を有する物質を指す。このような分解(degradation)すなわち崩壊(decomposition)は、様々な化学機構によるものであってもよい。例えば、分解性ポリマーは、加水分解により分解可能なものであってもよく、その場合、水がポリマーと反応し、加水分解された分子の化学結合によってこのポリマーから2個以上の分子が形成され、したがってより小さな分子が生成する。いわゆる分解性ポリマーの多くは完全に分解できるわけではなく、排出されなければならないので、腎臓および腎系に負担がかかる。
【0018】
本明細書において用いられる「生分解性」という用語は、生体によって生成する生物学的作用物質(biological agent)の作用によって(加速された)分解が起こる物質であるオリゴマーまたはポリマーを指す。有機物質は、酸素によって好気的にまたは無酸素で嫌気的に分解することができる。
【0019】
本明細書において用いられるオリゴマーという用語は、その構造が、分子量が相対的により小さい分子から実際上または概念上誘導された単位を少数かつ複数個から基本的になる、分子量が相対的に中程度の分子を意味する。この単位を1個または数個除去すると特性が確実に大幅に変化する場合、分子が相対的に中程度の分子量を有すると見なされることに留意されたい。分子の一部または全部が相対的に中程度の分子量を有し、相対的な分子量がより小さい分子から実際上または概念上誘導された単位を少数かつ複数個から基本的になる場合、これをオリゴマーと表し、また、オリゴマーの(oligomeric)を形容詞的に用いることができることにも留意されたい。一般に、オリゴマーの分子量は200Daを超え、例えば、400、800、1000、1200、1500、2000、3000、4000を超えるかまたは8000Daを超える。
【0020】
本明細書において用いられるポリマーという用語は、その構造が、分子量が相対的により小さい分子から実際上または概念上誘導された単位の多数の繰り返しから基本的になる、分子量が相対的に高い分子を意味する。この種のポリマーには、架橋ネットワーク、分岐ポリマー、および線状ポリマーが含まれ得る。多くの場合、特に合成ポリマーの場合は、分子に1個または数個の単位を付加または除去してもその特性に及ぼされる影響がごくわずかである場合、この分子が相対的に高い分子量を有すると見なすことができることに留意されたい。この記述は、その特性が詳細な分子構造に決定的に依存し得る巨大分子には当てはまらない。分子の一部または全部が相対的に分子量が高く、かつ分子量が相対的に小さい分子から実際上または概念上誘導された単位の多数の繰り返しから基本的になる場合、これをポリマーと表してもよく、また、巨大分子の(macromolecular)または分子の(molecular)をいずれも形容詞的に使用してもよいことにも留意されたい。通常、ポリマーの分子量は8000Daを超え、10000、12000、15000、25000、40000、100000超であるかまたは1000000Da超である。
【0021】
本発明の他の目的は、式IIに従うチオ酸を調製するための簡便な方法を提供することにある。
【0022】
本発明による方法は、副生成物が生成しない単一のステップが含まれる点で簡素化されており、したがって、精製を全くまたはほとんど必要としない。さらにこの方法は、様々な官能基に容易に適用することができる。これは、幅広い範囲の新規なチオ酸が利用できるようになり、それによって新規なポリチオエステルが設計できることを意味する。
【0023】
式IIに従う新規なチオ酸を調製するための本発明による方法は、
a.式III
【化2】



(式中、R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーであり、Yは、OH、NH2、R3NH、SHであり、w>1であり、
Wは、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6から選択され、
R3は、R2と同一群から選択してもよく、
R2およびR3は、同一であっても異なっていてもよく、R2およびR3は上に開示した通りである)に従うアルコール、アミン、またはチオール化合物を、チオ無水グルタル酸、チオ無水コハク酸、またはチオ無水ジグリコール酸と反応させるステップと、
b.式IIの化合物を形成するステップと
を含む。
【0024】
本発明による方法の利点は、アルコール、アミン、またはチオール官能性分子が1回のステップでチオ酸官能性化合物に変換され、それによって非常に容易な経路でチオ酸に変換することができる出発分子の幅が広がることにある。さらに本経路は、官能基のチオ酸基への変換に硫化水素を必要としない。硫化水素は、使用の際に特別な安全対策を必要とする有毒ガスである。
【0025】
しかしながら、式IIに従うチオ酸を、
a.式III
【化3】



(式中、R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーであり、Yは、OH、NH2、R3NH、SHであり、w>1であり、
wは、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6から選択され、
R3は、R2と同一群から選択してもよく、
R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい)に従うアルコール、アミン、またはチオール化合物を、無水グルタル酸、無水コハク酸、または無水ジグリコール酸と反応させることにより、式IV
【化4】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、n>1であり、
R1は、(−CH2−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択される)の化合物を形成するステップと、
b.式IVの化合物をHSを用いることにより式IIに従うチオ酸に変換するステップと
を含む、HSに基づく方法によって調製することも可能である。
【0026】
さらに本発明は、式IIに従うチオ酸および/または式I
【化5】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、
R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、R2は、上により詳細に開示されたMw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択される)に従うチオ酸を含むポリチオエステルに関する。
【0027】
式Iのチオ酸は、w=1かつn=1という条件下で上述の2種類の方法に従い調製することができる。
【0028】
チオ酸の種類、より具体的には芳香族対脂肪族チオ酸の比率によって、水溶性、したがって分解または生分解、機械的性質、ならびに親水性および薬物溶解度および放出性等のポリチオエステルの特性が左右されるであろう。芳香族対脂肪族チオ酸の比率が上昇すると、結果として得られるポリチオエステルはより疎水性が高くなるとともに機械強度がより高くなる傾向にある。これとは逆に、芳香族対脂肪族チオ酸の比率が低下すると、結果として得られるポリチオエステルは親水性がより高くなるとともに機械強度がより低くなる傾向にある。
【0029】
本発明によるポリチオエステルは、加水分解性を有していることが判明した。これらの一部が生分解性を有することも判った。式IまたはII中のオリゴマーまたはポリマーであるR2の選択に応じて、結果として得られるポリチオエステルの生分解性が左右され得る。例えば、R2が非分解性トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)である場合、R2がポリ(乳酸−コ−グリコール酸)1200ジ(4−ペンテノエート)(PLGDP)またはポリ(乳酸−コ−グリコール酸)2600トリ(4−ペンテノエート)(PLGTP)等の分解性ポリマーである場合と比較すると、分解速度がより遅くなる。R2がポリ(ε−カプロラクトン)2100ジ(4−ペンテノエート)(PCLDP)等の疎水性成分となるように選択した場合、何年にも亘って分解するような設計となる。
【0030】
生体内原位置(in situ)における適用等、人体または動物の体に適用するのに特に好適なものは、R2が残留成分を一切残すことなく分解物に分解することができるポリマーであるものである。そしてこのような分解物は、好ましくは無毒である。この分解物は人間または動物の代謝によって消化されるかまたは排泄されることができる。
【0031】
本発明によるポリチオエステルを、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を有する化合物Zを上述の式Iおよび/またはIIのチオ酸と混合することによって調製してもよい。
【0032】
化合物Zは炭素−炭素二重結合を有する任意の好適な分子であってもよい。例えば、エチレン性不飽和基は、ビニル、アルキン、アルケン、ビニルエーテル、ビニルスルホン、ビニルホスフェート、アリル、アリルエーテル、アリルアミン、アクリレート、フマレート、マレート、イタコネート、クロトネート、シトラコネート、メサコネート、メタクリレート、マレイミド、イソプレン、およびノルボルネン、ならびにその誘導体(エステルやアミド等)からなる群から選択してもよい。環状構造も用いてもよい。好ましくは、化合物Zは、アルケン、ビニルエーテル、アリル、アクリレート、フマレート、メタクリレート、ノルボルネン、およびその誘導体(エステルやアミド等)からなる群から選択される、エチレン性不飽和基を有する分子である。
【0033】
化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸は重合により反応する。チオエステル結合の形成に幅広い機構を採用することができる。光および熱またはラジカル開始剤が好適な場合もあるが、反応は自発的に起こるものであってもよい。当業者は、反応の速度および程度に影響を与えるために幅広い触媒、熱開始剤、光開始剤、および安定剤を使用してもよいことを周知しているであろう。人体または動物の体内の生体内原位置で適用する場合は、青色光または可視光源が特に有利な可能性がある。別法として、自発的反応が有利な場合もある。
【0034】
反応温度は反応の速度および選択性を操作する強力な手段である。また、反応体の濃度によっても反応速度および得られるポリチオエステルの特性が定まるであろう。
【0035】
MarvelおよびKotch(J.Amer.Chem.Soc.73、1100〜1102(1951)ならびにKobayashiら、Polymer Journal、26、49〜59(1994)およびPolymer Journal、25、507−520(1993)は、エチレン性不飽和基を含む成分をチオ酸基を含む成分と反応させる技術を記載している。
【0036】
MarvelおよびKotchは、様々な二塩基酸塩化物および脂肪族ジチオールからまたは二塩基性チオ酸(ジチオアジピン酸、ジチオピメリン酸、ジチオスベリン酸、ジチオアゼリック酸(azelic acid)、ジチオセバシン酸、ジチオテレフタル酸、ジチオイソフタル酸)を非共役ジオレフィンビアリル(1,5−ヘキサジエン)にUV光を用いて付加することにより[SCORCOS−R’]型のポリチオエステルを調製することについて記載している。
【0037】
Kobayashiらは、Polymer Journal、25、507〜520(1993)においては、UV光またはラジカル開始剤(AIBN)を用いたチオ安息香酸のスチレンまたはエチルベンゼンへの付加反応の反応機構について、またPolymer Journal、26、49〜59(1994)においては、1,4−ベンゼンジカルボチオ酸の1,4−ジビニルベンゼンまたは1,4−ジイソプロペニルベンゼンへの重付加の反応機構について記載している。MarvelおよびKotchが用いた出発成分もKobayashiらが用いたものもオリゴマーまたはポリマーとしては認められないことに注目されたい。上の2つの引用文献で開示した出発チオ酸は疎水性チオ酸である。
【0038】
本発明によるポリチオエステルの特性はさらに架橋度によっても影響を受ける場合がある。架橋は、化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸の適切な鎖長を選択することによって達成することができる。別法として、架橋度に影響を与えるために、化合物Z中のエチレン性不飽和基の適切な数を選択してもよい。他の別法として、重合が完結するのを阻止する、すなわち最も高度な反応が起こるのを阻止することによって架橋度に影響を与えてもよい。しかしながら、好ましくは、この反応は、反応の最も高い度合いまで進行する。部分的に反応させることは、例えば、組織または他の生物学的材料に官能基を付加するかまたは共有結合させるなど、架橋後に変性を行うために反応基が架橋基質中にある程度残留することが求められる場合に特に望ましいであろう。
【0039】
特に有用な線状ポリチオエステルを製造するためには、化合物Zが最大2個のエチレン性不飽和基を有し、かつ式Iおよび/またはIIのチオ酸が最大2個のチオ酸基を有していると有利であろう。
【0040】
特に有用な架橋ポリマーまたはネットワークを生成させるためには、化合物Zが少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有し、かつ式Iおよび/またはIIのチオ酸が少なくとも2個のチオ酸基を有し、かつエチレン性不飽和基とチオ酸基の数の合計が4を超えることが必要である。
【0041】
特に強力な架橋ポリマーまたはネットワークを生成させるためには、化合物Zが少なくとも3個のエチレン性不飽和基を有し、かつ/または式Iおよび/またはIIのチオ酸が少なくとも3個のチオ酸基を有し、かつエチレン性不飽和基およびチオ酸基の数の合計が5を超えることが必要である。
【0042】
特に有用な架橋ポリマーまたはネットワークを生成させるためには、化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸を含む組成物が、DurandおよびBruneau(D.Durand、C−M.Bruneau、Makromol.Chem、1982、183、1007〜1020およびD.Durand、C−M.Bruneau、The British Polymer Journal、1979、11、194〜198;D.Durand、C−M.Bruneau、The British Polymer Journal、1981、13、33〜40;D.Durand、C−M.Bruneau、Polymer、1982、23、69〜72;D.Durand,C−M.Bruneau、Makromol.Chem.、1982、183、1021〜1035;D.Durand、C−M.Bruneau、Polymer、1983、24、587〜591)により報告されている架橋ポリマーまたはネットワーク用組成物の境界条件を満たすことが必要である。
【0043】
化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2は同一のオリゴマーまたはポリマーをベースとするものであってもよいが、これらが異なるオリゴマーまたはポリマーをベースとする場合、結果として得られるポリチオエステルの特性および薬物等の活性成分の分布をより効果的に制御することができ、反応をより高度に制御しながら操作することができる。化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸は両方共分解性であってもよいが、この成分の一方が部分分解性または非分解性であってもよい。これは、分解性以外にさらなる特性が要求される際に利用される場合がある。
【0044】
分解性ポリチオエステルが重要である場合、化合物Zならびに/または式Iおよび/もしくはII中のチオ酸中のR2はいずれも、オリゴまたはポリ(乳酸)(PLA)、オリゴまたはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸のコオリゴマーまたはコポリマー、オリゴまたはポリ(無水物)、オリゴまたはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴまたはポリ(オルトエステル)、オリゴまたはポリ(ジオキサノン)、オリゴまたはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴまたはポリ(ウレタン)、オリゴまたはポリエステルアミド、オリゴまたはポリチオエステルアミド、オリゴまたはポリ無水物、オリゴまたはポリ(ヒドロキシ酸)、オリゴまたはポリカーボネート、オリゴまたはポリアミノカーボネート、オリゴまたはポリホスファゼン、オリゴまたはポリ(プロピレン)フマレート、オリゴまたはポリオキソエステル、オリゴまたはポリ(マレイン酸)、オリゴまたはポリアセタール、オリゴまたはポリケタールから選択してもよい。一方、化合物Zならびに/または式Iおよび/もしくはIIのチオ酸中のR2はまた、いずれも天然高分子(デンプン、ポリペプチド、オリゴもしくはポリヒドロキシアルカノエート、フィブリン、キチン、キトサン、多糖もしくは炭水化物(ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、およびその類似の誘導体等)、硫酸ヘパラン、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、またはアルギン酸塩、および蛋白質(ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、オボアルブミン等))またはそのコオリゴマーもしくはコポリマーもしくはそのブレンド物から選択してもよい。特に好ましい実施形態において、化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2は、オリゴもしくはポリ(乳酸)(PLA)、オリゴもしくはポリ(無水物)、オリゴもしくはポリエステルアミド、オリゴもしくはポリ(トリメチレンカーボネート、オリゴもしくはポリ(ジオキサノン)、オリゴもしくはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴもしくはポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、またはそのコオリゴマーもしくはコポリマーもしくはブレンド物から選択される。
【0045】
機械強度および/または防汚性等のさらなる特性のために非分解性ポリチオエステルが必要とされる場合、化合物Zならびに/または式Iおよび/もしくはIIのチオ酸中のR2は、オリゴまたはポリ(ビニルアルコール)(PVA)、オリゴまたはポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコオリゴマーまたはコポリマー、オリゴまたはポロキサマー、メロキサポール、オリゴまたはポリエステルアミド、オリゴまたはポロキサミン、オリゴまたはポリ(ウレタン)、オリゴまたはポリ((ポリエチレンオキシド)−コ−ポリ(ブチレンテレフタレート))、オリゴまたはポリ(ビニルピロリドン)、オリゴまたはポリ(エチルオキサゾリン)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースやメチルヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキル化セルロースからなる群から選択してもよい。
【0046】
化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2としてポリ(エチレンオキシド)を用いた場合に特に良好な防汚性が達成された。化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2がポリ(エチレンオキシド)−コ−ポリ(プロピレンオキシド)、ポロキサマー、ポロキサミン、およびメロキサポールからなる群から選択された場合に特に良好な両親媒性挙動が達成された。
【0047】
化合物Z中のポリマーならびに式Iおよび/またはIIチオ酸中のR2としてポリウレタンを用いた場合に特に良好な機械強度が達成された。
【0048】
化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2が、オリゴまたはポリエチレンオキシド、オリゴまたはポリ(ビニルピロリドン)、およびオリゴまたはポリ(エチルオキサゾリン)からなる群から選択された場合に特に良好な親水性が達成された。
【0049】
複数種の化合物Zならびに/または式Iおよび/もしくはIIのチオ酸も使用してもよい。化合物Zだけでなく、式IおよびまたはIIのチオ酸中のR2も異なるオリゴマーまたはポリマーから構成されていてもよい。化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸の分子量は、結果として得られるポリチオエステルに所望される特性に応じて変化させてもよい。より詳細には、化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸の分子量は約28Da〜約50000Da超の範囲であってもよい。本発明のポリチオエステルを形成する前に、化合物Zおよび式IIIの化合物は、これらがチオ酸−エン重合に関与することができるように、チオ酸基またはエチレン性不飽和基が含まれるように誘導体化される。生体内原位置における用途に使用される場合は、より高い分子量の化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸を用いることが好ましい。
【0050】
本発明のポリチオエステルは加水分解的または酵素的に分解することができるという有利な特性を有する。化合物Zならびに式Iおよび/またはIIのチオ酸中のR2が分解性または生分解性である場合、残留物を一切残さずより完全に分解することができるようにポリチオエステルを合成することができる。
【0051】
さらに本発明は、式IもしくはIIのチオ酸および/またはそれから作製されたポリチオエステルを含む医療用具に関する。医療用具の例は、薬剤溶出バルーン、ステント、ロッド、スクリュー、縫合糸、プレート、ピン、パッチ、人工血管、再生医療用足場、または縫合糸用材料である。しかしながら、式IもしくはIIに従うチオ酸および/またはそれより作製されるポリチオエステルは、接着剤、抗接着剤、シーラント、メッシュ、スポンジ、ハイドロゲル、ワックス、フィルム、細胞送達媒体(cell delivery vehicle)、コーティング、ポリマーベースの医薬品、または薬物の徐放送達(controlled delivery)用マトリックスとしても用いてもよい。本ポリチオエステルは、徐放システムまたは薬物送達システム(薬剤溶出バルーンや他の薬剤溶出器具等)のマトリックスポリマーとして特に有用である。
【0052】
さらに本発明は、本発明によるポリチオエステルを含む微小粒子にも関する。
【0053】
本明細書において用いられる微小粒子は、典型的には固体または半固体材料から構成されるマイクロおよびナノスケール粒子またはミセルを含み、活性剤を運搬することができる。典型的には、フラウンホーファー理論により得られる微小粒子の平均径の体積百分率は10nm〜1000μmの範囲にある。好ましい平均径は目的の用途に応じて異なる。例えば、微小粒子が注射剤送達システム、特に、血管内薬剤送達システム(intravascular drug delivery system)に使用することが意図されている場合、平均径は10μmまで、特に、1〜10μmが望ましいであろう。
【0054】
ナノ粒子の平均径は、典型的には1μm未満、好ましくは800nm未満、特に500nm未満であることが想定されている。このようなナノ粒子は細胞内用途(intracellular purpose)に非常に有用である。他の用途には、平均径がより小さいかまたはより大きい、例えば、10〜500nm、100〜300nm、または500〜800nmの範囲のものが求められる場合があり、以後これをミセルと称する。特に、本明細書において用いられる粒子経とは、UHMW−PE(0.02〜0.04μm)を基準として用いてLST 230シリーズレーザー回折法粒度分析測定装置(ベックマン・コールター(Beckman Coulter))により測定することができる直径である。粒度分布はフラウンホーファー回折データから推測され、体積(%)で与えられる。粒子が小さ過ぎるかまたはその光学的性質により光散乱では分析できない場合は走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を使用することができる。
【0055】
数種の構造の微小粒子、ナノ粒子、またはミセルを調製することができる。これらは実質的に均質な構造を含んでいる。1種を超える活性剤を放出しなければならない場合または1種もしくはそれ以上の機能が必要とされる場合は、微小粒子、ナノ粒子、またはミセルに内側コアおよび外側シェルを有する構造を付与することが好ましい。コア/シェル構造によって、例えば非相溶性化合物の薬物送達または画像処理においてより多様な作用方式を用いることが可能になる。コア形成後に噴霧乾燥装置を用いてシェルを適用することができる。コアおよびシェルは、同一または異なるポリマー、例えば本発明によるポリチオエステル等を、異なる活性剤と一緒に含んでいてもよい。この場合、活性剤を異なる速度で放出することが可能である。活性剤をコア中にのみ存在させ、シェルを本発明によるポリチオエステルから構成することも可能である。
【0056】
さらなる実施形態においては、微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、本発明によるポリチオエステルを含むコアならびに磁性または磁化可能な材料等の他の材料を含むシェルを含んでいてもよい。
【0057】
さらなる実施形態においては、微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、磁性または磁化可能なコアおよび本発明によるポリチオエステルを含むシェルを含んでいてもよい。好適な磁性または磁化可能な材料は当該技術分野において周知である。このような微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、金属、特にスチールを含む物体、例えばグラフトやステント等の移植された物体を引き寄せる能力があるため有用な可能性がある。このような微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、精製または分析目的でさらに有用な可能性がある。
【0058】
さらなる実施形態においては、微小、ナノ粒子、またはミセルは特定の技法によって造影可能な場合がある。好適な造影法は、MRI、CT、X線である。造影剤は粒子の内部に組み込んでもよいし、あるいはその表面に結合させてもよい。この種の粒子は、例えば、血管または細胞中で粒子がどのように移行するかを可視化するのに有用であろう。好適な造影剤は、例えばガドリニウムである。
【0059】
本発明による微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、1種またはそれ以上の活性剤を運搬してもよい。活性剤は、微小粒子/ナノ粒子コア内にある程度均質に分散していてもよい。活性剤はまた、微小粒子、ナノ粒子、またはミセルシェル内に位置していてもよい。
【0060】
特に、活性剤は、栄養素、医薬品、蛋白質およびペプチド、ワクチン、遺伝物質(ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、プラスミド、DNA、RNA等)、診断薬、ならびに造影剤の群から選択してもよい。医薬品有効成分(active pharmacologic ingredient)(API)等の活性剤は目的の用途に応じて任意の種類の活性を示すものであってもよい。
【0061】
活性剤は生物学的応答を刺激または抑制できるものであってもよい。活性剤は、例えば、成長因子(VEGF、FGF、MCP−1、PIGF、抗生物質(例えば、B−ラクタムやクロラムフェニコール等のペニシリン系)、抗炎症化合物、抗血栓化合物、跛行治療薬(anti−claudication drug)、抗不整脈薬、抗アテローム動脈硬化薬、抗ヒスタミン薬、抗癌剤、血管薬(vascular drug)、眼科用薬、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、神経伝達物質、神経ホルモン、酵素、シグナル伝達分子および精神活性薬から選択してもよい。
【0062】
特定の活性剤の例は、神経用薬(neurological drug)(アンフェタミン、メチルフェニデート)、アルファ1アドレナリン受容体遮断薬(プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、ケテンセリン(ketenserin)、ウラピジル)、アルファ2遮断薬(アルギニン、ニトログリセリン)、降圧薬(クロニジン、メチルドーパ、モキソニジン、ヒドララジンミノキシジル)、ブラジキニン、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ベナゼプリル、カプトリル、シラゼプリル(cilazepril)、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル、ゾフェノプリル)、アンジオテンシン−1拮抗薬(カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン)、エンドペプチダーゼ(オマパトリレート(omapatrilate))、ベータ2アゴニスト(アセブトロール、アテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモドール(esmodol)、メトプロロール、ネビボロール、ベタキソロール)、ベータ2拮抗薬(カルベジロール、ラベタロール、オクスプレノロール、ピンドロール、プロパノロール(propanolol))、利尿作用薬(diuretic active)(クロルタリドン、クロロチアジド、エピチジド、ヒドロクロルチアジド(hydrochlorthiazide)、インダパミド、アミロライド、トリアムテレン)、カルシウムチャネル遮断薬(アムロジピン、バルニジピン(barnidipin)、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン(lacidipin)、レルカニジピン(lercanidipin)、ニカルジピン(nicardipin)、ニフェジピン(nifedipin)、ニモジピン(nimodipin)、ニトレンジピン(nitrendipin)、ベラパミル)、抗アリジミック(anti arthymic)薬(アミオダロン、ソラトール(solatol)、ジクロフェナク、エナラプリル、フレカイニド)、またはシプロフロキサシン、ラタノプロスト、フルクロキサシリン、ラパマイシン、ならびに類縁体およびリムス(limus)誘導体、パクリタキセル、タキソール、シクロスポリン、ヘパリン、コルチコステロイド(トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド)、抗血管形成剤(anti−angiogenic)(iRNA、VEGFアンタゴニスト:ベバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ)、成長因子、ジンクフィンガー転写因子、トリクロサン、インスリン、サルブタモール、エストロゲン、ノルカンタリジン(norcantharidin)、ミクロリジル(microlidil)類縁体、プロスタグランジン、スタチン、コンドロイチン分解酵素、ジケトピペラジン、大環状化合物、ニューレグリン、オステオポンチン、アルカロイド、免疫抑制剤、抗体、アビジン、ビオチン、クロナゼパムである。
【0063】
活性剤は、痛み、骨髄炎、骨肉腫、関節感染、黄斑変性、糖尿病性眼疾患、糖尿病、乾癬、潰瘍、アテローム性動脈硬化症、跛行、血栓症ウイルス感染、悪性腫瘍の管理またはヘルニア治療における局所送達または術前もしくは術後療法として送達することができる。
【0064】
本発明による微小粒子、ナノ粒子、またはミセルが使用可能な分野としては、皮膚科学、血管、整形外科、眼科、脊髄、腸、肺、鼻、または耳分野が挙げられる。医薬品用途以外に、本発明による微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、特に、農業用途または食品用途に使用してもよい。特にこの種の微小粒子、ナノ粒子、またはミセルは、殺虫剤、植物栄養素、または食品添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
ここで以下の実施例により本発明を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0066】
[一般]
NMR実験はバリアン(Varian)Inova 300分光器を用いて実施した。SEC分析はWaters 515 HPLCポンプ、Waters 410示差屈折計、ならびにWaters styragel HR2、3、および4カラムを備えたSevern Analyticalのプログラム可能な吸光度検出器SA6503を用いて、THFを溶離液として流速を1ml/分として実施した。このシステムを分子量分布の狭いポリスチレン標準を用いて較正した。UV照射はPhotometries Macam UVランプ(350mW/cm)を用いて行った。
【0067】
[用語]
PLGA−(50/50)−ジチオ酸のように表記されるポリマーは、乳酸/グリコール酸比が50:50である乳酸およびグリコール酸のコポリマーであり、ジエチレングリコールで開始され、チオ酸末端基で官能化されているものを表す。
【0068】
PCL−ドデカノール−モノエンのように表記されるポリマーは、ε−カプロラクトンをベースとするポリマーであり、1−ドデカノールで開始され、アルケン末端基で官能化されているものを表す。
【0069】
PCL−PLGA−PCLのように表記されるブロックコポリマーは、PCLおよびPLGAオリゴマーがチオエステル結合を介して結合したトリブロックコポリマーを表す。
【0070】
[実施例1:アルコールから出発する無水コハク酸を用いたチオ酸の合成]
【化6】



1−ヘキサノール(1.00g;9.8mmol)、ピリジン(0.93g;11.7mmol)、およびDMAP(0.24g;1.96mmol)をクロロホルム(20mL)に溶解した。無水コハク酸(1.18g;11.7mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中70℃で撹拌した。18時間後、反応混合物を20℃に冷却し、クロロホルム(20mL)を加え、これを1M塩酸(20mL)および水(10mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することによりカルボン酸を無色油として得た(1.64g;83%)。CDI(0.441g;2.72mmol)をクロロホルム(4mL)に溶解し、この溶液にカルボン酸(0.50g;2.47mmol)のクロロホルム(2mL)溶液を滴下した。次いで、反応混合物を室温で1時間撹拌した。次いで、反応混合物中に硫化水素を10分間穏やかにバブリングし、さらに反応混合物を90分間撹拌した。ジエチルエーテル(15mL)を加え、混合物を0.5M硫酸(10mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥して蒸発乾固することにより黄色油を得た(0.392g;73%)。
【0071】
H−NMRおよびFT−IRによる生成物の特性評価に成功した。
H−NMR(CDCl):δ=0.88(3H),1.25(6H),1.62(2H),2.62(2H),2.97(2H),4.08(2H)ppm。
FT−IR:η=1713,1731,2556cm−1
【0072】
[実施例2:アルコールから出発する無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化7】



1−ヘキサノール(1.00g;9.8mmol)、ピリジン(0.93g;11.7mmol)、およびDMAP(0.24g;1.96mmol)をクロロホルム(20mL)に溶解した。無水グルタル酸(1.14g;11.7mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中70℃で撹拌した。18時間後、反応混合物を20℃に冷却し、クロロホルム(20mL)を加え、これを1M塩酸(20mL)および水(10mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することによりカルボン酸を無色油として得た(1.52g;72%)。
【0073】
CDI(0.412g;2.54mmol)をクロロホルム(4mL)に溶解し、この溶液にカルボン酸(0.50g;2.31mmol)のクロロホルム(2mL)溶液を滴下した。次いで、反応混合物を室温で1時間撹拌した。次いで、反応混合物中に硫化水素を10分間穏やかにバブリングし、さらに反応混合物を90分間撹拌した。ジエチルエーテル(15mL)を加え、混合物を0.5M硫酸(10mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより黄色油を得た(0.345g;64%)。
【0074】
H−NMRおよびFT−IRによる生成物の特性評価に成功した。
H−NMR(CDCl):δ=0.88(3H),1.25(6H),1.62(2H),1.97(2H),2.38(2H),2.71(2H),4.08(2H),4.45(1H)ppm。FT−IR:η=1713,1731,2555cm−1
【0075】
[実施例3:アルコールから出発する(チオ)無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化8】



1−ヘキサノール(100mg;0.98mmol)およびDBU(179mg;1.17mmol)をクロロホルム(1.5mL)に溶解した。クロロホルム(1.5mL)中に溶解させたチオ無水グルタル酸(127mg;0.98mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中室温で2時間撹拌した。クロロホルム(10mL)を加え、次いで混合物を0.1M硫酸(10mL)および水(10mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより橙色油を得た(170mg;75%)。H−NMR(CDCl3)による生成物の特性評価に成功した:δ=0.88(t,3H),1.30(m,6H),1.60(m,2H),1.95(m,2H),2.35(t,2H),2.68(t,2H),4.05(t,2H)ppm。
【0076】
生成物は20℃で5日間の間にほとんど分解しなかった。
【0077】
[実施例4:第1級アミンから出発する(チオ)無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化9】



チオ無水グルタル酸(250mg;1.92mmol)、ヘキシルアミン(233mg;2.30mmol)、およびトリエチルアミン(233mg;2.30mmol)をクロロホルム(5mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中室温で1時間撹拌した。クロロホルム(5mL)を加え、次いで混合物を0.5Mクエン酸(10mL)および水(10mL)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、蒸発乾固することによりオフホワイトのろう状固体を得た(340mg;77%)。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ=0.88(t,3H),1.30(m,6H),1.47(m,2H),1.98(m,2H),2.22(t,2H),2.72(t,2H),3.22(q,2H)ppm。
【0078】
ワークアップ工程中に生成物がわずかに分解した。
【0079】
生成物は20℃で5日間の間にさらに分解し、主として環状イミドとなった。
【0080】
[実施例5:アルコールから出発する(チオ)無水コハク酸を用いたチオ酸の合成]
【化10】



1−ヘキサノール(200mg;1.96mmol)およびチオ無水コハク酸(227mg;1.96mmol)をクロロホルム(4mL)に溶解した。クロロホルム(2mL)に溶解させたDBU(358mg;2.35mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中室温下で1時間撹拌した。クロロホルム(20mL)を加え、次いで混合物を0.1M硫酸(20mL)および水(20mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより黄色油を得た(390mg;91%)。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ=0.88(t,3H),1.32(m,6H),1.61(m,2H),2.62(t,2H),2.98(t,2H),4.05(t,2H)ppm。
【0081】
生成物はワークアップ工程中にほとんど分解しなかった。20℃または−20℃で7日間の間に生成物がさらに分解することはなかった。
【0082】
[実施例6:第1級アミンから出発する(チオ)無水コハク酸を用いたチオ酸の合成]
【化11】



チオ無水コハク酸(250mg;2.15mmol)、ヘキシルアミン(261mg;2.58mmol)、およびトリエチルアミン(261mg;2.58mmol)をクロロホルム(6mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中室温下で30分間撹拌した。クロロホルム(5mL)を加え、次いで混合物を0.5Mクエン酸(10mL)および水(10mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより白色固体を得た(370mg;79%)。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ=0.88(t,3H),1.32(m,6H),1.48(m,2H),2.46(t,2H),3.02(t,2H),3.22(q,2H)ppm。
【0083】
生成物はワークアップ工程の際にわずかに分解した。−20℃で7日間の間に生成物のさらなる分解は起こらなかった。生成物は20℃で7日間の間に50%超が分解して主として環状イミドになった。
【0084】
[実施例7:2級アミンから出発する(チオ)無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化12】



チオ無水グルタル酸(250mg;1.92mmol)、N,N−ジオクチルアミン(464mg;1.92mmol)、およびトリエチルアミン(194mg;1.92mmol)をクロロホルム(4mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中20℃で撹拌した。45分後、クロロホルム(6mL)を加え、これを0.1M塩酸(8mL)で4回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することによりろう状固体を得た(470mg;66%)。
【0085】
H−NMRによる生成物の特性評価に成功した。
【0086】
20℃で6日間の間に生成物はほとんど分解しなかった。
【0087】
H−NMR(CDCl):δ=0.88(6H),1.25(20H),1.50(4H),1.98(2H),2.38(2H),2.75(2H),3.18(2H),3.25(2H)ppm。
【0088】
[実施例8:チオールから出発する(チオ)無水コハク酸を用いたチオ酸の合成]
【化13】



チオ無水コハク酸(58mg;0.50mmol)、1−オクタンチオール(73mg;0.50mmol)、およびトリエチルアミン(51mg;0.50mmol)をクロロホルム(1mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中20℃で撹拌した。1時間後、クロロホルム(3mL)を加え、これを0.1M塩酸(2.5mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより黄色油を得た(84mg;64%)。
【0089】
H−NMRによる生成物の特性評価に成功した。
【0090】
20℃で4日間の間に生成物が著しく分解した。
【0091】
H−NMR(CDCl):δ=0.88(3H),1.25(10H),1.58(2H),2.88(4H),2.99(2H)ppm。
【0092】
[実施例9:チオールから出発する(チオ)無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化14】



チオ無水グルタル酸(250mg;1.92mmol)、1−オクタンチオール(280mg;1.92mmol)、およびトリエチルアミン(194mg;1.92mmol)をクロロホルム(4mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中20℃で撹拌した。1時間後、クロロホルム(6mL)を加え、これを0.1M塩酸(10mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより黄色油を得た(458mg;86%)。
【0093】
H−NMRによる生成物の特性評価に成功した。
【0094】
生成物は20℃で4日間の間にほとんど分解しなかった。
【0095】
H−NMR(CDCl):δ=0.88(3H),1.25(10H),1.57(2H),2.00(2H),2.61(2H),2.70(2H),2.87(2H),4.66(1H)ppm。
【0096】
[実施例10:ポリエチレングリコール(PEG)から出発する(チオ)無水グルタル酸を用いたチオ酸の合成]
【化15】



ポリエチレングリコール(Mw=1000;22.93g;22.93mmol)およびチオ無水グルタル酸(5.97g;45.86mmol)をクロロホルム(200mL)に溶解した。クロロホルム(50mL)に溶解したDBU(8.38g;55.04mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中室温下で3時間撹拌した。クロロホルム(250mL)を加え、次いで混合物を0.1M硫酸(400mL)および水(400mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより褐色油を得た。この油をジエチルエーテルと一緒に2回共蒸発させることにより黄色のろう状固体を得た(27.2g;94%)。H−NMRによる生成物の特性評価に成功した:□1.95(m,4H),2.41(1,4H),2.73(t,4H),3.61(m,88H),3.68(t,4H),4.22(t,4H)ppm。13C−NMR(CDCI3):δ20.28,32.71,44.62,63.63,69.07,70.37,70.58,70.62,172.61,197.02ppm。FT−IR:ν=2867,1732(C=O伸縮),1699(C=O伸縮)1453,1349,1297,1249,1094(C−O伸縮),1037,948,846cm−1
【0097】
[実施例11:PEG−1000ジチオ酸およびPLGAをベースとする線状ポリマー]
ジメチルエタノールアミン(DMEA)5.75μLおよびアセトン1.27gを乳酸対グリコール酸比が75:25であるポリ(D,L−乳酸−コ−グリコール酸)(Mn=5282Da)ジペンテノエート0.9998g(0.189mmol)に加えた。混合物を室温の暗所で一夜振盪(140回/分)することによって混合した。次いで、PEG−1000ジチオ酸(Mn=855Da)0.1615g(0.0189mmol)を加えた。混合物を上述したものと同一の条件下で2時間振盪した。最後に、光開始剤(ダロキュア(Darocur)1173、1重量%w/w)0.015mLを加えて混合物をさらに30分間振盪した。組成物をドクターブレード(高さ=200μm)を用いてガラス板上に塗布した。UV光(フュージョン(Fusion)F600 Dバルブ、λ=320〜380nm、照射量15.2J/cm)を用いて重合を行った。得られた材料を35℃の温度のオーブンに入れて、残留している任意の揮発性成分を真空下で一夜除去することによりオフホワイトの固体を得た。これは水に溶解しなかった。
【0098】
[実施例12:PCL−ドデカノール−モノエンの合成]
【化16】



PCL−ドデカノール−モノオール(Mw=1300;196.97g;0.151mol)を2Lの丸底フラスコ内で無水THF(750mL)に溶解した。混合物を氷浴で冷却した。トリエチルアミン(15.56g;0.154mol)を加えた後、ペンテノイルクロリド(17.98g;0.153mol)を滴下した。混合物を一夜かけてゆっくりと室温まで加温した。トリエチルアミンHClの結晶化を促すために氷浴で冷却した後、この冷溶液をブフナー漏斗で濾過することにより析出したトリエチルアミンHClを除去した。rotavaporで溶媒を完全に蒸発させた。粗精製物をアセトン500mLに溶解した。蒸留水4000mLを撹拌しながらアセトン溶液を滴下することによって生成物を析出させた。溶液をブフナー漏斗で濾過し、蒸留水500mLで洗浄した。この物質を30℃の真空下で一夜乾燥した。オフホワイトのろう状固体を定量的収率で得た(210.67g;100%)。
【0099】
H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ(ppm)=6.0〜5.7(0.9H,m),5.2〜5.0(1.8H,m),4.08〜4.04(21.5H,m),2.45〜2.28(23.2H,m),1.8〜1.2(80.5H,m),0.88(3.0H,t)ppm。SEC(ポリスチレン標準を基準とする):Mn=2205、Mw=2702、MP=2345、PDI:1.225。
【0100】
[実施例13:PLGA−(50/50)−ジチオ酸の合成]
【化17】



PLGA−(50/50)−ジオール(1)(Mw=1500;12.18g;8.12mmol)およびチオ無水グルタル酸(2.22g;17.05mmol)をクロロホルム(120mL)に溶解した。クロロホルム(20mL)に溶解したDBU(2.97g;19.5mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中室温で撹拌した。1時間後、クロロホルム(140mL)を加え、次いで混合物を0.1M硫酸(140mL)および0.05M硫酸(140mL)で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発乾固することにより橙色油を得た(14.2g;99%)。ワークアップ工程の操作はすべてアルゴン中で行った。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ5.21(11H,m),4.60〜4.95(m,22H),4.29(4H,s),3.68(4H,s),2.75(4H,m),2.48(4H,m),2.00(4H,m),1.95(33H,m)ppm。13C−NMR(CDCl):δ16.80,20.26,32.39,32.37,32.52,37.93,44.51,60.39,60.50,60.91,64.48,68.78,69.11,69.27,166.48,169.44,172.05,197.0ppm。FT−IR:ν=1996,2951,2561,1747(C=O伸縮),1708(C=O伸縮)1451,1422,1385,1291,1168,1130,1086,962,866,946,752cm−1
【0101】
[実施例14:ポリカプロラクトン−モノチオ酸の合成]
【化18】



PCL−ドデカノール−モノオール(Mw=1200;15.0g;12.5mmol)およびチオ無水グルタル酸(1.73g;13.28mmol)をクロロホルム(140mL)に溶解した。クロロホルム(20mL)に溶解したDBU(2.67g;17.54mmol)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気中室温で撹拌した。2時間後、クロロホルム(160mL)を加え、混合物を0.1M硫酸(160mL)および0.05M硫酸(160mL)で洗浄し、次いで有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、約40mLまで濃縮し、冷ヘプタン(400mL)中で析出させた。析出物を乾燥することにより淡橙色粉末を得た(12.57g;76%)。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ4.02(24H,t),2.67(2H,t),2.35〜2.26(25H,m),1.94(2H,m),1.23〜1.62(88H,m),0.84(3H,t)ppm。13C−NMR(CDCl):δ14.21,20.38,22.77,24.66,25.62,26.01,28.39,28.44,28.72,29.34,29.43,29.61,29.66,29.71,31.99,32.86,34,21,34.26,44.70,64.23,64.46,64.60,172.78,173.63,197.03ppm。FT−IR:ν=3442,2942,2875,1722,1471,1419,1397,1365,1293,1238,1171,1108,1080,1045,960,933,840,769,732cm−1。ワークアップ工程の操作はすべてアルゴン雰囲気中で行った。
【0102】
[実施例15:ポリエチレングリコール−モノチオ酸の合成]
【化19】



チオ無水グルタル酸(0.60g;4.60mmol)、PEGモノアミン(Mw=2050;9.51g;4.60mmol)、およびトリエチルアミン(0.56g;5.56mmol)をクロロホルム(100mL)に溶解した。反応混合物をアルゴン雰囲気中室温で撹拌した。1.5時間後、クロロホルム(100mL)を加え、混合物を0.5Mクエン酸(100mL)で洗浄した。水層をさらに2回クロロホルム(50mL)で抽出した。合一した有機層を水(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、約35mLまで濃縮し、冷ジエチルエーテル(350mL)中で析出させた。析出物を乾燥することにより白色粉末を得た(8.6g;85%)。ワークアップ工程の操作はすべてアルゴン雰囲気中でを行った。H−NMR(CDCl)による生成物の特性評価に成功した:δ6.27(1H,s),3.82(1H,t),3.64(180H,m),3.55(5H,m),3.46(3H,m),3.39(3H,s),2.73(2H,t),2.25(2H,t),1.99(2H,m)ppm。13C−NMR(CDCI3):δ21.06,34.68,39.20,44.89,59.05,39.79,70.23,70.56,71.93ppm。FT−IR:ν=2883,1653,1544,1466,1360,1341,1280,1241,1147,1101,1060,958,947,841cm−1
【0103】
[実施例16:トリブロックPCL−PLGA−PCL]
【化20】



PLGA−ジチオ酸(502.6mg;0.283mmol)をPCL−ドデカノール−モノエン(776.0mg;0.565mmol)に加え、混合物を無水THF2mlに溶解した。ダロキュア1173(20mg、光開始剤)を加えた。混合物にUVを30分間照射した。CDCl中でNMRを測定し、二重結合が完全に転化したことを確認した。少量の反応混合物を窒素気流中で乾燥し、淡黄色の生成物を得た。全体の収率は測定しなかった。この物質のH−NMR(CDCl)による特性評価に成功した:δ(ppm)=5.30〜5.07(10.4H,m);4.79〜4.66(20.8H,m);4.23(4.0H,b),4.10〜3.90(44.9H,m);3.62(10.7H,m);2.85(3,4H,t);2.61(3,5H,m);2,45(3,7H,t);2.30〜2.15(43.8H,m);2.1〜1.9(4.0H,m);1.8(7.3H,m);1.64〜1.15(202.7H,m),0.82,(6.3H,t)ppm。試料は溶媒であるTHFを少量含んでいた。SEC(ポリスチレン標準を基準とする):Mn=6590、Mw=7543、MP=7102、PDI:1.145。
【0104】
この物質の接触角を測定するためにスライドガラス上に塗膜を作製した。この物質の接触角は63度であった。
【0105】
水の接触角はTanTec cam−plus接触角計で測定した。
【0106】
塗膜を作製するために、THF中でポリマー5重量%の配合物を作製した。ポリマー配合物をスライドガラス上に厚さ300マイクロメートル(Simexコーティングナイフ)で塗布した。
【0107】
[実施例17:PEG−PCLジブロックの調製]
【化21】



10mLバイアル中でPCL−ドデカノール−モノエン(608.8mg;0.47mmol)と一緒にPEG−モノチオ酸(1.0034g;0.46mmol)を秤量した。光開始剤としてダロキュア1173(9.8mg)を加えた。混合物を溶解するために無水THF2mLを加えた。混合物にUVを30分間照射した。CDCl中でNMRを測定することにより二重結合が完全に転化したことを確認した。少量の反応混合物を窒素気流中で乾燥することにより淡黄色の生成物を得た。全体の収率は測定しなかった。この物質のH−NMR(CDCl)による特性評価に成功した:δ(ppm)=6.20(0.6H,b),5.83〜5.71(0.2H,m),5.10〜4.97(0.3H,m),4.13〜4.02(43.4H,t),3.90〜3.50(201H,m),3.44〜3.33(1.9H,m),3.32(2.7H,s),2.90〜2.80(1.4H,t),2.63〜2.55(1.6H,t),2.40〜2.15(24.1H,m),2.00〜1.90(1.6H,m),1.87〜1.79(5.8H,m),1.70〜1.50(45.1H,m),1.40〜1.20(76.6H,m),0.84(6.0H,t)ppm。SEC(ポリスチレン標準を基準とする):Mn=5117Mw=5426、MP=5207、PDI:1.060。
【0108】
接触角を測定するためにスライドガラス上に塗膜を作製した。この物質は接触角の測定中に溶解し、親水性が高すぎて接触角が測定できなかった。
【0109】
[実施例18:トリ−ブロックPCL−PEG−PCL]
【化22】



DMEA(123.1mg;1.38mmol)およびイルガノックス(Irganox)1035(12.1mg、安定剤)の原液をアセトン(12mL)中で調製した。PCL−モノチオ酸(800.7mg;0.56mmol)を褐色のサンプルバイアルに加えた後、PEG−DA(171.7mg;0.25mmol)を加えた。アセトンDMEA原液(1mL)を加えることによって混合物を溶解し、室温で一夜放置することによって反応させた。翌日、少量の反応混合物を窒素気流中で乾燥して淡黄色の生成物を得た。全体の収率は測定しなかった。この物質のH−NMR(CDCl)による特性評価に成功した:δ(ppm)=4.33〜4.22(3.7H,m),4.00〜4.12(46.6H,t),3.72〜3.61(44.8H,m),3.09(3.2H,t),3.00〜2.84(1.7H,m),2.66〜2.57(6.7H,m),2.40〜2.25(46.3H,m),2.16(0.4H,s),2.01〜1.90(3.2H,m),1.70〜1.55(89.5H,m),1.44〜1.22(79.4H,m),0.86(6.0H,t)ppm。SEC(ポリスチレン標準を基準とする):Mn=6082、Mw=6502、MP=6009、PDI:1.069。
【0110】
この物質の接触角を測定するためにスライドガラス上に塗膜を作製した。この物質は水を吸収し、親水性が高過ぎて接触角を測定できなかった。この物質は溶解しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II
【化1】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、n>1であり、
R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、
R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択される)に従うチオ酸。
【請求項2】
R2が、分解性オリゴマーまたはポリマーから選択される、請求項1に記載のチオ酸。
【請求項3】
R2が、オリゴまたはポリ(乳酸)(PLLA)、オリゴまたはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸のコオリゴマーまたはコポリマー、オリゴまたはポリ(無水物)、オリゴまたはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴまたはポリ(オルトエステル)、オリゴまたはポリ(ジオキサノン)、オリゴまたはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴまたはポリエステルアミドの群から選択される分解性オリゴマーまたはポリマーから選択される、請求項2に記載のチオ酸。
【請求項4】
n=2である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチオ酸。
【請求項5】
n>2である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチオ酸。
【請求項6】
a.式III
【化2】



(式中、R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択され、Yは、OH、NH2、R3NH、SHであり、w>1であり、
R3は、R2と同一群から選択してもよく、
R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい)に従うアルコール、アミン、またはチオール化合物を、チオ無水グルタル酸、チオ無水コハク酸、またはチオ無水ジグリコール酸と反応させるステップと、
b.式IIの化合物を形成するステップと
を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸の調製方法。
【請求項7】
前記方法が、
a.式III
【化3】



に従うアルコール、アミン、またはチオール化合物を、グルタル酸、無水コハク酸、無水ジグリコール酸と反応させることにより、式IV
【化4】



(式中、Xは、O、N、またはSから選択され、w>1であり、
R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、
R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択され、Yは、OH、NH2、R3NH、またはSHであり、R3は、R2と同一群から選択してもよく、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい)の化合物を形成するステップと、
b.HSを使用して式IVの化合物を式IIに従うチオ酸に変換するステップと
を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸の調製方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸を含むポリチオエステル。
【請求項9】
式I
【化5】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、
R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択される)に従うチオ酸を含むポリチオエステル。
【請求項10】
R2が、ポリエチレングリコール(PEG)または分解性ポリマーもしくはオリゴマーから選択される、請求項9に記載のポリチオエステル。
【請求項11】
R2が、オリゴまたはポリ(乳酸)(PLLA)、オリゴまたはポリグリコール酸(PGA)、乳酸およびグリコール酸のコオリゴマーまたはコポリマー、オリゴまたはポリ(無水物)、オリゴまたはポリ(トリメチレンカーボネート)、オリゴまたはポリ(オルトエステル)、オリゴまたはポリ(ジオキサノン)、オリゴまたはポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、オリゴまたはポリエステルアミドの群から選択される分解性オリゴマーまたはポリマーである請求項9〜10のいずれか一項に記載のポリチオエステル。
【請求項12】
少なくとも1個のエチレン性不飽和基を有する化合物Zを、請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸または式I
【化6】



(式中、Xは、O、N、またはSであり、
R1は、(−CH−)、−CH−O−CH−、または(−CH−)から選択され、R2は、Mw<1000Daの低分子量化合物、オリゴマー、またはポリマーから選択される)に従うチオ酸と混合することにより得ることができる、請求項8〜11のいずれか一項に記載のポリチオエステル。
【請求項13】
前記化合物Zのエチレン性不飽和基が、アルケン、ビニルエーテル、アリル、アクリレート、フマレート、メタクリレート、またはノルボルネンからなる群から選択される、請求項12に記載のポリチオエステル。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか一項に記載のポリチオエステルを含む医療用具。
【請求項15】
請求項8〜13のいずれか一項に記載のポリチオエステルまたは請求項14に記載の医療用具の、薬物送達用途における使用。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸または請求項8〜13のいずれか一項に記載のポリチオエステルを含む微小、ナノ粒子、またはミセル。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸または請求項8〜13のいずれか一項に記載のポリチオエステルを含むコーティング。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のチオ酸または請求項8〜13のいずれか一項に記載のポリチオエステルを含むハイドロゲル。

【公表番号】特表2012−512845(P2012−512845A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541492(P2011−541492)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067594
【国際公開番号】WO2010/070132
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】